第一章番外編
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歓迎パーティー
この日、学園中はソワソワした空気に包まれていた。
何故なら今日は異世界から来た事務員、雪野ユキのサプライズパティーが開かれる日なのだ。
サプライズにするには準備が必要。
それぞれに役割分担を決めてユキに気づかれないよう策を練っていた。
「よし、今日の授業はここまで」
「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」
元気な声で一年は組は授業終わりの挨拶をした後、一斉に立ち上がって戸口へと走っていった。
しかし――――
「「「「「「むぐぐぐぐぐ」」」」」」
一斉に走っていったせいで扉に詰まってしまう。
「コラコラお前たち。大丈夫か?」
半助は笑いながら扉に挟まったは組の良い子たちを一人一人と引き抜いていく。
「みんな、気持ちは分かるがユキのところに着くまでに怪我をしたらしょうがないだろう?ゆっくり、慌てず行きなさい」
「「「「「は~~~い」」」」」
そう元気に返事を返すも、気が急っている一年は組の良い子たち。
扉を出ると誰ともなく走り出す。
一年は組に課せられた役割はユキにサプライズパーティーの準備を気取られないようにする為に遊びに誘う事だった。
走って事務室まで行った一年は組のメンバーは、事務室の前でキキキッと足でブレーキをかけて事務室を覗き込む。
「「「「「「ユキさーん。あーそびーましょー」」」」」」
『へ?』
突然に元気な声が事務室内にこだまして、ユキは吃驚して顔を上げる。
「ユキさんお仕事終わった?」
喜三太がユキの元へとやって来て手を握る。
『終わったけど・・・』
「じゃあ行こう!」
三治郎が喜三太とは反対の手を持ってユキを立たせる。
「一年は組、しゅっぱーーーつ」
庄左ヱ門が拳を上へと突き上げると、他のメンバーも一緒になって拳を上へと突き上げる。
ワイワイとユキの背中を押しながら去って行く一年は組の後ろ姿を吉野と小松田は温かい目で見送ったのだった。
「ねえねえ、ユキさん。今日は何して遊ぶ?」
校庭に着き、うきうきした様子で団蔵が聞く。
『そうだな~ドッヂボールなんてどう?』
「ドッヂボールってなあに?」
不思議そうに首を傾げる金吾。
『あれ?知らないか。ドッヂボールっていうのはね―――
皆はユキから自分たちの知らない遊びを聞いて破顔する。
「すっごく面白そう」
「それにしよう!」
「早くチーム分けしようよ!」
と、乱太郎、きり丸、しんべヱ。
「じゃあいくよ!グーとパーで別れましょっ」
庄左ヱ門の掛け声で二つのチームに別れる。
「やった!ユキさんと同じ組だ」
『よろしくね、伊助くん』
内野と外野を決めてドッジボールの開始!
『ふふふ。みんな覚悟はいい?マトリックスユキと呼ばれた私の華麗なる玉の避け方を見せてあげるわ!』
「マトリックス?」
怪訝そうな顔で兵太夫が聞く。
『ええと、マトリックスっていうのはね・・・』
「ユキさん、兵太夫、危ない!」
虎若から声が飛ぶ。
『「わわっ」』
二人の間を通り抜けるボール。
『開始早々当たるところだったよ』
「あぶなかったー」
冷や汗を拭くユキと兵太夫の頭からはマトリックスの事など綺麗さっぱり消えていたのだった。
「そーれっ」
「うわっ。当たったー」
段々と影が長くなり
「こっちにボール回して」
「うん!行くよーー」
放課後の遊び時間が終わっていく
カーーン
ヘムヘムが鳴らす鐘の音が鳴った時だった。
「「「「ユキさん!」」」」
一年い組の良い子たちがやってきた。
『みんなどうしたの?』
「実は、ユキさんにして欲しい事があるんです」
と、黒門伝七。
『なあに?』
ユキが屈むと任暁左吉が背の後ろに隠していたハチマキを出した。
『これは何に使うの?』
目をパチパチさせるユキに、
「ユキさんに目隠ししてもらうためです」
と、今福彦四郎が言う。
「ユキさんもっと屈んで」
『?うん』
上ノ島一平が屈んだユキに目隠しをする。
『この目隠しは何の為?なんて聞いたら野暮だよね。
何処に行くか分からないけど連れて行ってくれるかな?』
どんな面白い事が始まるんだろう?
ユキはワクワクしながら一平と彦四郎に両手を引かれながら歩き出す。
目の前が真っ暗なユキは何処へ行くのか皆目検討がつかなかった。
自分を引っ張ってくれる小さな手を頼りに歩いている。
そんなユキの周りでは、この後ユキがどんな反応を示すだろうと楽しみにしている一年い組とは組がぴょんぴょん飛び跳ねるように歩く。
ユキが連れて来られたのは食堂だった。
鼻をくすぐる良い匂いを感じるユキの期待は膨らみに膨らんでくる。
「それでは目隠しを外してもらいます」
ゴホンと咳払いをして伝七。
「「「「せーーのっ」」」」
い組の掛け声と共に目隠しを外すユキ。
『うわーーーーー!凄いっ!これはなあに!?何があるの!?』
パンパンパーーーン
ユキの歓声と共に作法委員が少量の火薬を入れて手作りをしたクラッカーが引かれて音を鳴らす。
ユキは目の前の机いっぱいに置かれている豪華な食事から視線を外し、振り返る。
そこにはユキをグルリと取り囲むように忍たま、くノたま、教師たちが立っていた。
ユキが視線を忍たまから上に上げると、そこには
<祝☆ユキさんの歓迎会!忍術学園へようこそ!>
と書かれた大段幕が張ってあった。
『みんな・・・』
胸がいっぱいになるユキの目元に涙が浮かぶ。
『嬉しいっ。ありがとう!』
ユキはボロボロボロっと涙を零しながら目の前にいた一年ろ組の子達に抱きついた。
「ユキさんが喜んでくれて僕たちも嬉しい」
「ユキさん、忍術学園へようこそ」
ユキに抱き寄せられた伏木蔵と怪士丸がユキに手を回しながら言う。
「今日はユキさんの歓迎会だよ。みんなで準備したんだ」
「めい一杯楽しんでね」
『ありがとう、平太くん、孫次郎くんっ!それに皆さんも!』
感動しながらユキは立ち上がり、感謝を込めながら頭を下げた。
私ってなんて幸せ者なんだろう!
「ユキさん、お席にご案内します」
そう言ってくれたのは二年生の三郎次だ。
「こっちだよ」
「僕たちの隣の席なんだ」
久作と四郎兵衛がユキの両手を引く。
「今日は大食いのユキさんが食べきれないほどの料理を用意していますからね」
茶目っ気たっぷりに左近が言う。
ユキは久作と四郎兵衛の間に座った。
目の前には色とりどりの手毬寿司、ピリリとした辛さがありそうな明の料理、それから南蛮料理まで並んでいる。
「それではくノ一教室が乾杯の音頭を取らせてもらいまーす」
くノ一教室のユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃんが前に並ぶ。
「異世界から来た優しい事務員さん」
「大人びていると思ったら私たちと一緒にはしゃいだりもする楽しいユキさん」
「そんな皆が大好きなユキさんを歓迎して」
「「「乾杯!!」」」
「「「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」
カチンカチンとあちらこちらから湯呑が合わさる音が聞こえ、それから拍手が沸き起こる。
それからいつもの挨拶も忘れずに。
「お残しは許しまへんでーーー」
「「「「「「「頂きまーーす」」」」」」」
元気な声が食堂にこだました。
わあわあと賑やかに自分の皿にいつもより豪華な食事を取り分ける忍たま、くノ玉、先生たち、そしてユキ。
ユキは同じテーブルに座っている二年生はもちろん、話しかけに来てくれる生徒たちと楽しく会話しながら食事をする。
おばちゃんの料理は最高に美味しい。
みんなが自分を歓迎してくれる気持ちも合わさって更に料理は美味しく感じられた。
宴会が終盤に入った時、三年生が食堂の前へと進み出た。
「えー、みなさん。お食事の途中ですがこちらにご注目下さい」
左門が大きな声で呼びかける。
「皆でお金を出し合って、僕たち三年生が買いに行って」
「ユキさんに贈り物を選びました」
三之助と作兵衛がニコニコ笑顔で言う。
「ユキさん、前へどうぞ」
孫兵に促されてユキは前へ出る。
「はい、これどうぞ。受け取ってください」
藤内がユキの両手に収まるサイズの葛篭を渡した。
「開けてみて、ユキさん!」
数馬に言われ、ユキはドキドキしながら葛篭を開いた。
『わああ!』
嬉しさで歓声が出る。
葛篭の中に詰まっているのは三年生とみんなの優しい思い。
口紅、つげの櫛、簪、それから――――
『これはなあに?』
ユキは隣にいる藤内に聞く。
「開けてみて!きっと気にいると思うよ!」
ユキは何が入っているか分からない小さな袋を開けた。その瞬間、あっ、と小さく声を上げる。
『金平糖だ!』
「正解!ユキさん、甘いもの好きでしょ?」
孫兵はユキが驚いた様子を見て嬉しそうに笑いながら言う。
『うん。大好きだよ。それに貴重なものをありがとう!
皆さんも、私のためにありがとうございましたっ』
ユキがありったけの感謝を込めて頭を下げると皆から
「「「「「おめでとう」」」」」
と祝福の言葉が贈られたのだった。
楽しい宴会。
みんなでお喋りしながら食事が続く。
デザートの時には席から離れ、入り乱れて皆会話を楽しんでいた。
楽しい会話は時を忘れさせる。
あっという間に寝る時間。
そこかしこで下級生たちが船を漕ぐのが見られ始めた。
「みんな、ここで寝てはいけないよ。下級生は全員部屋に帰りなさい」
半助が声をかける。
「ううん。まだ一緒にいたいのに」
ユキの膝の上に乗っていた喜三太がダダを捏ねる。
『私も一緒にいたいけど、もう寝ないと。今日みたいに明日も明後日も一緒に遊んでね。でも、今日はおしまい。寝なくっちゃ』
「はあい。おやすみ、ユキさん」
『おやすみなさい』
一年は組他、下級生たちは眠い目をこすりながら食堂を出て部屋へと歩いていく。
ここからは大人の時間。
四年生たちが厨房からお酒を運んできた。
ユキの目はキラッキラ。
「アハハ。凄く嬉しそうな顔してる」
タカ丸が笑う。
『そりゃあ、お酒好きの雪野ユキですから』
ニヤリ、とユキ。
「お酌しますね」
トクトクトクと滝夜叉丸がユキにお酌をしてくれる。
『ありがとう。皆も飲むでしょう?注ぐよ。さあ、三木ヱ門くん』
「ありがとうございますっ」
みんな盃を満たして改めて乾杯。
そして一斉に盃を空ける。
『く~~美味しい』
幸せそうな顔をするユキの横では・・・
「ほわっ!?」
ポンっと音が聞こえるようにタカ丸が顔を赤くさせた。
どうやらタカ丸は酒が弱いらしい。
『お水持ってこようか?』
「ううん。いらにゃい。それより膝枕して~」
いつもの猫のようなΩの口元で擦り寄ってくるタカ丸にユキの胸はドキドキ。
『可愛い奴よのう~。ちこうよれ』
椅子を少し引き、ポンポンと自分の膝を叩く。
「わ~い」
喜んでユキの膝に頭を預けようとしたタカ丸だが、
「そうはさせませんよ~~」
喜八郎がユキに側面から抱きついて、ぷくーっと頬を膨らませながらタカ丸を睨んだ。
「ユキさんは僕のものです」
「邪魔しないでくれるかな?喜八郎」
喜八郎と同じように反対側からユキに抱きつくタカ丸。
バチバチと交わる視線。
「もうっ。二人ともやめて下さいよ。ユキさんが困っておられます」
三木ヱ門がタカ丸を引っ張り、
「喜八郎、ユキさんを離すんだ。ご迷惑だろう」
滝夜叉丸が喜八郎を引っ張る。
『ぐええ』
変な声を口から出すユキ。
どうしてこうなったか。
それはユキを引っ張っている二人がユキから手を離さないからだ。
ユキの体は捻られるように二人に引っ張られている。
「こらこら二人ともダメだよ?」
止めに入ってくれたのはちょうど通りかかった彼らの上級生の常識人であり、
「ユキさんさっきから潰れたカエルみたいな声出しちゃっているから」
そして天然に毒を吐く雷蔵だった。
「「ごめんなさい」」
先輩の言う事はちゃんと聞く後輩二人。
ユキは助かったはいいが、カエルに形容されて少々物悲しい気分になっていたのであった――――
ユキが四年生と楽しく話しながら飲んでいると、明るい声が聞こえてきた。
「ユキ、飲んでるか?」
がしっとユキの首に腕を回すのは八左ヱ門。
『うん。たくさん頂いているよ』
「俺たちもこっちのテーブルに混ぜてくれ」
三郎たち五年生が各々盃と徳利を持ち、ユキのいるテーブルへとやってくる。
「もしかしてここにある徳利全部ユキちゃん達が空けたの!?」
驚いた声を出すのは兵助だ。
ユキと四年生がいるテーブルには多くの徳利が散乱していた。
「四年生が全員潰れるわけだな・・・」
八左ヱ門が呆れたように言う。
あれれ?
ふと周りを見渡すユキ。
さっきまで一緒に喋っていた四年生は全員机に突っ伏して寝てしまっていた。
「ユキは酒豪だな」
『伊達に鬼ころしの渾名を取ってはいませんから』
三郎の言葉にニヤリと笑ってユキはくいっと酒を飲む。
「ハハハ!良い飲みっぷりだ」
勘右衛門が笑ってユキに追加の酒を注ぐ。
「なあなあ!猥談でもしないか??」
テンション高く言う三郎の頭をベシリとユキが叩く。
『致しません!』
「ちぇー」
『でも、その代わり』
「ん?」
『王様ゲームをしない?』
「王様ゲーム?」
『うん!そうだ。やるなら六年生も誘おう。人数は多い方がいいから』
ユキが呼ぶと六年生が何だ?何だ?とやってくる。
『王様ゲームっていうのはね・・・
ユキの説明にみんなの目はキラキラ。
「よし!文次郎を恥ずかしい目に合わせてやるぜ」
「なに~~~俺こそお前に赤っ恥をかかせてやるっ」
『ちょっと二人とも、始まる前から喧嘩しないの。あと、これ遊びだから楽しくやってよね』
そう言いながら紙に数字を書くユキ。
王様ゲームの始まり始まり。
それぞれが紙を引いて自分の手の中に隠す。
『王様だーれだっ?』
「私だ!」
初めに王様になったのは小平太だ。
「何でもいいのか!?」
『もちろん』
「では、四番と六番、今から私とバレーをしよう!」
「「は!?」」
「おっ。という事は勘右衛門と伊作が四番と六番だなッ」
ニヤーっと笑う小平太の手には何故か既にバレーボール。
「せ、先輩、落ち着いてください」
「ひっ。不運だ~~~~」
「バレーだドンドーーン!!」
バコンッ ドシーーーーン
仲良く床に並んだ二つの体。
『哀れ・・・』
その場にいる全員が両手を合わせて合掌したのだった。
「私はちょっと酔いを覚ましに走ってくる!」
小平太は伊作と勘右衛門の体を飛び越えて食堂を飛び出していく。七松小平太、自由人である。
『さ、さて、三人抜けちゃったけど次いきましょうか』
いなくなってしまった三人の分の紙を引き抜いてから王様ゲームを再開する。
『王様だーれだっ』
「私だっ」
喜々として叫んだのは三郎。
「一番が王様に接吻だっ」
カッと目を見開いて三郎が叫ぶ。
「おぉ。三郎、賭けに出たな」
どうやら一番くじを引いてないらしい仙蔵が口の端をニヤリと上げて言う。
『で、肝心の一番はというと・・・』
「ふは」
『え?今何か聞こえ・・・た・・・・・』
ダラダラとその場にいた全員が冷や汗を流す。
振り向けば長次の満面の笑顔。
「三郎、ご愁傷様」
「ひいぃ雷蔵、見捨てないでくれってわあああ」
投げられた縄ひょう。逃げる三郎。
三郎は長次に追いかけられて食堂から出ていった。
『さて、仕切りなおして王様だーれだっ』
「はい。僕です」
雷蔵の手が上がった。
『雷蔵くんの命令は?』
「うーん。何にしよう」
雷蔵の悩み癖発動。
彼がううむと考え込んでいると・・・
「ちょっと豆腐補給に行ってくるのだ!」
兵助が席を立ち。
「おいっ。今俺の番号見ようとしただろ」
文次郎がいちゃもんを付け、
「見てねーよ。てか、王様以外が番号見ても意味ないだろ。言いがかりだ」
留三郎が叫び返す。
「あ!今小突いたなっ。留三郎、俺とやる気か?」
言い合っていた二人はついには・・・というか予定通り喧嘩を始めてしまった。
その後、未だ悩んでいた雷蔵の頭に留三郎の鉄双節棍が当たり雷蔵はダウン。
『もはやカオスだね』
「収拾がつかないな」
ほうっと溜息を吐いて仙蔵がくじを投げ出す。
「残ったのは俺たちだけになってしまいましたね。どうします?」
八左ヱ門が困った顔で言う。
『珍しいメンバー出し、飲みながらお喋りでもしよう。少々周りが煩いけれども』
ユキ、仙蔵、八左ヱ門という珍しい組み合わせのメンバーは、ゆっくりと盃を傾けながら語り合ったのだった。
トロンとした瞳になった八左ヱ門が小さく欠伸をしてから机に突っ伏し
仙蔵が船を漕ぎ始める
私って本当に酒豪だよね
ユキは自分自身を自嘲しながら立ち上がる。
少し夜風にでもあたりに行こう。
外に出ると爽やかな夜風が吹いていた。
ユキのお酒で火照った体を気持ちの良い風が冷やす。
空には下弦の月。
ユキは暫くあてもなく歩いて行き、ちょうど良い大きさの岩を見つけ、ユキはそこに腰掛けた。
プラプラとユキが足を投げ出して振っていると、
「そこにいるのは誰だい?」
聴き慣れた声がユキを呼ぶ。
『半助さん、私です』
「ユキか」
『はい!』
「こんなところで何を?」
『酔い覚ましです』
「あぁ。けっこう飲んでいたからね」
『見ていたんですか?恥ずかしいなぁ。半助さんの方は見回りですか?』
「そうだ。隣に座っても?」
『もちろん』
ユキは半助が座れるように少しずれて場所をあける。
「今日は楽しめたかい?」
『はい。とっても』
ユキは弾けるような笑顔を半助に向けた。
その笑顔を見て自然と己も笑顔になる半助。
「それは良かった」
『私、改めて感じました。この世界に来て、みんなと知り合えて良かったって。
あっちの世界にも仲の良い友達はいるけれど、皆と生活しているうちに皆の事が家族のように思えていました。それが今日、はっきりと実感できました』
ニコリと笑いかけるユキに、半助は小さな勇気を添えて口を開く。
「私のことも、かい?」
『もちろん!』
「~~!あ、ありがとう」
パッと顔を赤らめる半助を見てユキは半助が質問した意味にようやく気づく。
そして自分も顔を赤らめさせた。
『あ、あの、その・・』
「ええと、少し、歩こうか」
『そうですね』
どこからか聞こえてくる虫の音。
「ユキ」
『はい』
「これからも、よろしくな?」
『はい!』
二人は星空の下、見回りという名の散歩を楽しんだのであった―――――
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
二周年記念作品です。