第一章番外編
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君が好き~Ver.鉢屋三郎
※1章14話の数日後
変装の名人。
忍術学園で私はこう呼ばれている。
変装は自他ともに認める私の特技だ。
普段から同級生の不破雷蔵に変装している私。
本物の雷蔵と私を見分けられる人はこの学園にいないだろう。
『あ!雷蔵くん!聞きたい事があって「私は鉢屋三郎だ」あ、ごめん』
食堂に入った私に微笑みながら話しかけてきた人物は異世界から来たという事務員、雪野ユキ。
彼女も御多分に漏れず私と雷蔵の見分けがつかない。
『毎度ややこしい』と肩をすくめる彼女の対面に腰を下ろす。
「雷蔵に用事って?」
『図書委員のことでちょっとね』
「ふうん」
お茶をのんびり啜るユキをジッと見る。
悔しい そして おかしい
誰かが私を雷蔵と間違えると嬉しくなる。それは私の変装が完璧だという証拠だから喜んで当然のこと。
それなのに、ユキに間違われるとどうも胸がムカムカするのだ。
『お茶なら自分で淹れておいで』
「違うッ」
じっとしている私がお茶を羨ましがっていると勘違いしてユキが言った。
正直になろう。理由は分かっている。
私はまるで見当違いな事を言うこの事務員に
恋心を抱きかけているのだ。
だからユキに誰かと私を間違われたくないのだ。
奇妙な衣服を来て自己紹介したあの日に彼女に興味が沸いて、
食堂で六年生と笑い合う様子を見て話しかけたいと思った。
そして思い切って話しかけたあの日。
私を悪霊だと勘違いするユキに襲われて、一緒に腹を抱えて笑った時から私の心にはいつもユキがいる。
もっと彼女を知りたい。
もっと私を知ってほしい。
だからユキの前で雷蔵と違う雰囲気を纏うのを止めた。
無意識に雰囲気を変えてしまっていたから
直すのに苦労したというのに・・・
『三郎くんって変装の達人だよね。永遠に見分けられる気しないよ!』
アハハと陽気に言うコイツは私の心情など露ほどにも察することなく私と雷蔵を見分けることを放棄している。
「はああぁユキのバカ」
『???』
不思議そうに両眉を上げるユキから顔を背け、机に突っ伏す。
気持ちが一方通行過ぎて虚しくなる。
私の百分の一でもユキが私に興味を持ってくれたらいいのに。
そんな子供っぽい事を考えているとトンという音。
視線を動かすと湯飲み茶碗。
『元気ないね。もし悩んでるなら話聞くよ』
「ユキ・・・」
『良いアドバイスは出来るか分からないけどさ』
まずはお茶でも飲みなさいな。と温かい眼差しでユキが微笑む。
なんだ・・・私のこと、見ていてくれたんじゃないか。
お茶を啜る。
体も、心も、じんわりと温かい。
焦ることなんてないのかもしれないな・・・
まだユキとは出会ったばかり。
私にもユキの知らない部分はまだ沢山あるのだから。
「最近眠れないんだ。今晩一緒に寝てくれないか?」
『今すぐ保健室に行くといいっ』
心配して損した、と膨れる彼女を見て笑う。
私がユキを知りたいと思うのと同じように、彼女にも私を知りたいと思って欲しい。そんな気持ちはもう消えた。
「ハアァ欲求不満で苦しいんだ」
『誰かああぁここにいるセクハラ男を捕まえて下さーーいっ』
こうやってふざけあう時間。
他愛もない時間を共に過ごす中でお互いを知っていけばいいのだから。
君が好き
ユキを知り、私の恋心が育ったら
ユキが私を知り、私と雷蔵を見分けられるようになったら
私はこの言葉を伝えようと思う。