第一章番外編
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月夜の読書 *一章八話以降
自分はもとよりよく笑う方ではなかった。
幼い時から喜怒哀楽が顔に出にくい子供であった。
忍術学園に入り、同室の小平太やその他何人かは友人が出来たが、無愛想に見える顔のせいと、私のこの決して積極的とは言えない
性格のせいで友達は少なかった。
四年生になり、私は縄ひょうを得意武器にしようと猛練習を始めた。
だが、ある時縄ひょうが顔に当たった。
笑うと傷口が開いてしまい顔に痛みが走る。
私は傷口をかばうために笑わないようになった。
そのうちに笑わない癖は私の体に染み付いてしまい、私は心の中で楽しんでいても、滅多なことでは笑みを表面に出さないようになってしまっていた。
仏頂面に拍車がかかり、私のことを知らない新入生・後輩たちは私を避けるようになってしまっていた。
初めは悲しかった。でも、その寂しさも慣れてしまう。
多くの友人はいらない。理解してくれる友人さえいればいい。
だから、自分から積極的な友達作りはしなかった。
もちろん、話しかけられたら答えたし、気が合えば友人になることもあった。
だが、自分から敢えて誰かと友人になろうと働きかけたことはなかった。今までは・・・そう、彼女がこの学園にやってくるまでは・・・
雪野 ユキ
彼女は異世界からきた不思議な人で、忍術学園で事務員をしている人だ。
彼女は自分とは全然違う。
いつも誰かと一緒にいて、みんなに好かれていて、眩しいくらいの笑顔で笑っている。自分とは対極にいるような人だった。
『長次くん、おはよう!』
「モソ」
私の小さな声も耳を澄ませて聞き取ってくれて、聞こえなかったときは諦めずに聞き返して話を聞いてくれる。
まっすぐな性格で誠実な人。
彼女を褒め出すと、止まらない。何故なら自分は彼女に惹かれ始めているから。
彼女のことをもっとよく知りたい。誰かに対してそう思ったのはユキが初めてだった。
それは、そう自覚し始めた時の事―――――――
夜の自主鍛錬を終え、長屋へと向かうために庭を突っ切っていると池を囲む岩の上に人影があった。
・・・誰だ?一体何をしているのだろう?
興味本位で、そちらの方へと歩いて行った私は、その姿がユキだと気づき、驚くと同時に嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
偶然に好きな人に会えるほど嬉しことはない。
しかし、ユキはこんなところで何をしているのだろう?
「ユキ」
『!?・・あっ・・・長次くん!』
突然声をかけられて驚いた顔で私の方を見たユキの顔が私を認識した途端ふにゃりと崩れる。
「そこで何を・・・?」
『本を読んでいたの』
「本?」
『うん。今日は満月でしょ?でも、さすがに部屋の中までは月光が入ってこなかったからこうやってここで読書をしていたってわけ』
この池のほとりには木が生えておらず、月の明りを遮るものはなにもない。だからユキはこんな場所で本を読んでいたのかと納得する。
「何の本を読んでいたんだ?」
『これ。良い子の昔話』
少々きまずそうに私に本を見せるユキの隣に腰掛ける。
「文字の勉強・・・頑張っているのだな・・・・」
『きり丸先生のおかげで結構読めるようになってきたんだよ。
それでも、まだまだ読めない字は多いけどね』
肩をすくめてパラパラと本をめくるユキの横顔を見る。
綺麗だ・・・・
満月の光に照らされる陶器のように白い肌。濡れたようなまつ毛。流れるような黒髪。
その姿は一つの絵のようで、どこか神聖ささえ感じられて、私は急にユキが自分から遠い存在に感じられてしまい、胸にきゅっと痛みが走った。
気が付けば、私はユキの手を取っていた。
丸く見開かれた瞳と視線がぶつかり、私はハッと我に返る。
『長次くん?』
「い、いや・・・すまないっ。忘れてくれ・・・」
口下手な私は言い訳も出来ぬまま手を離し、俯くことしか出来なかった。
手を伸ばして彼女に触れたことで、ユキはちゃんと自分の前に存在すると確認できた。
でも、でも・・・・
その代わり、不審がられてしまった。
言い訳も思いつかず、ただ俯くことしか出来ない私。
ほかの男だったらもっとマシな対応が出来るだろうにと考える。
例えば仙蔵だったらそのまま愛の言葉を囁いていたかもしれないし、
小平太だったらそのまま自分の思っていたことをストレートにユキに言っていたのではないかと思う。
でも、私には・・私にはそれが、できな・・・・っ!?
視界に映っていた膝の上に乗せていた自分の手。その上に、細い小さな手が重ねられた。
その手は私の手を優しく握る。
戸惑いと、信じられない気持ちになりながらユキを見ると、ユキは私に微笑んで、微笑んだまま、顔を池の方へと向けた。
『~~♪~~~~~♪~~』
トン、トン、と私の手の上に乗せた手で拍子をとりながらユキは私の知らない歌を小さな声で口ずさむ。
歌詞もわからない、異国の言葉の曲。
だけどその歌は、私の心の中にじんわりと染み入っていく。
私を怖がらずに触れてくれる 優しい人
君のことがもっと知りたい。
私のことをもっと知ってほしい。
私は初めて、そういう人に出会った