第一章番外編
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君が好き~Ver.きりちゃん
※1章5話の少し後のお話
ユキさんとお話したいな。
図書委員の仕事を終えた僕はそんなことを思いながら廊下を歩いていた。
ユキさんは長期休みの最終日、桜の木の下で出会った不思議な人。
僕たちとは違う世界から来たというユキさんは土井先生を人攫いだと勘違いして僕の為に先生と戦ってくれた優しい人。
まだ事務室でお仕事中かな?自然と走り出す足で廊下の角を曲がると顔にガンっと衝撃。
「痛たたーー」
『ごっめーーん』
鼻を摩っていた手を離して前を見るとそこにいたのは僕と同じように廊下に尻餅をついているユキさんの姿。
「ユキさん!」
『おっ!?』
嬉しくて思わず抱きついた僕に驚いた声を出したユキさんだけど、直ぐに僕の背中をトントンと優しく叩いてくれた。
『怪我しなかった?』
「大丈夫。ユキさんは?」
『私は頑丈だからね』
顔を上げるとニシシとユキさんが笑った。
『急いでどこに行くところだったの?』
「ユキさんに会いにいくところだったんだ!」
『私に?』
小首を傾げるユキさんの両手を引っ張って立たせる。
「お散歩に行こうよ」
『お散歩?き、きりちゃん!?』
戸惑うユキさんの手を取って廊下から中庭に降りる。
『もうきりちゃんったら強引なんだから』
仕方ないな、と言うように笑いながら僕の隣に並んだユキさん。
僕はユキさんと繋いでいた手にギュッと力を込めた。
だって、ユキさんと二人で話せるのは久しぶり。ユキさんを独り占め出来た僕の心は嬉しくって飛び跳ねる。
「あのね、ずっとユキさんと二人でおしゃべりしたかったんだ」
どうしてだろう?
ユキさんの前だと自分の気持ちを素直に言える気がする。
優しい笑顔に安心するからかな?
そう思いながらユキさんを見上げていると
『私もきりちゃんと話したかったの。お散歩に誘ってくれて嬉しいよ』
ユキさんが凄く嬉しいことを言ってくれた。
手を繋ぎ、気の向くままにテクテクと歩いていた僕たちが足を止めたのは夕陽が綺麗に見える小さな丘の上。
『きりちゃん』
呼びかけられてユキさんの方を向くと、僕の視線に合わせるようにユキさんが地面に膝をついた。
太陽の光が目に入ってキラキラ輝いて見える瞳。
『きりちゃん、ありがとう』
真っ直ぐに見つめられてドギマギしていると柔らかい声でユキさんが言った。
『どうしてもちゃんとお礼が言いたくてね』
ユキさんは僕を真っ直ぐ見つめたまま話し出す。
こちらの世界に来た2日目の夜。パジャマ・パーティーの後。
急に何もかもが違う世界
知り合いのいない世界
自分の世界とは異なる星空を見ているうちに強い不安に襲われた。
私はこの世界で生きていけるのだろうか?
恐怖に飲み込まれて足元が崩れそうになっていた時、部屋に戻ってきりちゃんがいて凄く嬉しかったの・・・と言って目の前のユキさんは微笑んだ。
『あの夜、きりちゃんと話していて思ったの。この世界に来て起こったのは辛いことだけじゃない。とても素敵な出会いもあったんだって』
「ユキさん・・・」
『ありがとう、きりちゃん。あなたみたいに優しい人が、私を思ってくれる人がいるから私はこの世界で生きていく覚悟を決められた』
コツンと合わせられた額。
胸が熱くなっていく。
僕はハッと気がついた。
僕はユキさんが好きになっちゃたんだ。
優しいユキさん、強いユキさん、弱いユキさん・・・
自分の子供を守るように捨て身で僕を助けようとしてくれたユキさんが・・・
「ねえ、ユキさん」
『ん?』
「大好き」
首に腕を回してギュッと抱きつけば、ユキさんも僕を優しく抱きしめながら『私も大好き』と言葉を返してくれた。
ユキさんの前だと僕は素直になれる。
『そろそろ食堂に行こうか』
今日の夕食はなんだろうね、と立ち上がったユキさんの髪をザアアと吹いてきた風が揺らした。
『おいで、きりちゃん』
僕を見るユキさんの温かな目。
差し出された手を取れば、温かい掌が僕の手を包んでくれる。
僕はユキさんが好きになっちゃったんだ
「ユキさん」
『なあに?』
日だまりみたいにあったかい笑顔。
「エヘヘ、内緒!」
『ふふ、変なきりちゃん』
何処にもいかないで傍にいてほしいな。
だってユキさんが好きになっちゃったんだから―――
僕はユキさんの手をキュッと握りながら心の中でおまじないをかけた。