第一章番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
君が好き~Ver.尾浜勘右衛門
「ん~いい天気」
抜けるような青い空を仰いで思い切り伸びをする。
今日から新年度がスタート。
遠方から来ている生徒もいるため実家から長旅をして登校してくる生徒もいる忍術学園。
新学期スタート数日前に登校した者もいれば
今日登校してくる生徒もいる。
俺は昨日のうちに忍術学園に登校していたのだが他の五年生がまだ来ておらず朝から暇を持て余していた。
「なんか面白いことないかな」
ブラブラと中庭を歩いていた俺の耳に聞こえてきたいくつもの足音。
音のする方を見れば渡り廊下を走る一年は組の姿。
これは何かありそうだな。
自然と口角が上がる。
トラブルに巻き込まれることで有名な一年は組が向かう先は学園長先生の庵。
面白そうなことがありそうな予感がする。
だけど新学期早々トラブルに巻き込まれるのは御免。
俺は気づかれないようにそっと後をつける事にした。
予想通り学園長室に行った一年は組。
十一人が戸の前で一生懸命聞き耳を立てている姿が可愛くて
思わず笑ってしまう。
木の上にいる俺には中の会話は聞こえないのでヒソヒソと話している乱太郎の口の動きから会話の内容を予想する。
<きり丸、あの人が雪野さん?>
<うん。先生方ユキさんの事どうするのかな・・・?>
二人の会話に首をかしげる。
雪野さん?ユキ?
誰かいるのか??
聞いたことのない名前に首を傾げていると一年は組に動きがあった。
「ユキさんは悪い間者なんかじゃありません!」
そう言いながら学園長先生の庵の戸を勢いよく開けたきり丸と彼に続いて中に入っていく一年は組。
あーー!これからが面白くなりそうなのにここからじゃ見えないじゃないか!
俺は気をはやらせながら木から飛び降りて庭を走る。
雪野って誰だ?
は組と一緒に中に入りたい気持ちを抑えながら学園長先生の庵の戸の裏へ隠れると、突然聞いたこともないような不思議な音が中から聞こえてきた。
「この音はなんじゃ?」という学園長先生の声と先生たちやは組の戸惑う声。
それからバサバサという荷物をひっくり返すような乱暴な音。
うぅ、気になる・・・
ジリジリと待つ俺の耳に聞こえてきたのは
『村長!雪野ユキです!』
緊迫した女性の声と
「お~やっと繋がったわい」
対照的なのんびりとした声。
中にいったい何人いるんだ?
状況がさっぱりつかめない。
頭を混乱させながら聞き耳を立てていると聞こえてきたのは信じられないような話だった。
彼女は異世界から飛ばされてきて二度と帰れないという事らしい。
信じられないな。
そう思っているのは彼女も同じようで中から聞こえる声からは焦りが感じられる。
この人これからどうなるんだろう?と考えていると、また別の新しい人の声が聞こえてきた。
「ユキーお父さんだよー「お母さんもいるわよー元気?うふふ」
だから、いったい中には何人いるんだよ!雪野って人の他に村長がいて・・・あぁ分からん!
もう我慢できない!
場所を移動し障子に穴を開ける。
中をそっと覗き込んだ俺は吹き出しそうになってしまった。
俺の目に飛び込んできたのは黒髪の女性が床に置かれた小さい何かの前で四つん這いになり、一生懸命その何かに話しかけている姿。
その小さい何かからは人の声が聞こえてくる。
本当に奇妙な光景
「父さんは母さんがいないと生きていけないよ」
「やだ、あなたったら・・・」
『娘の前でやめてよおぉぉ。ことの重大さ分かってる!?』
加えて彼女の両親だという人たちのコントのような会話。
『うぅ、どうして私がこんな、ことに・・』
突然変わった彼女の声のトーン。
次はどんな面白いことが起こるだろうと考えていた俺の胸がズキリと痛み、同時に申し訳ない気持ちになる。
不安げに声を揺らす彼女の声に庵の中もシーンと静まり返った。
「・・・ユキ、父さんと母さんから最後に花向けの言葉を送ろう」
娘を励ましながらも俺たちのいるこの場所で
生きていくように告げる彼女の両親。
『そんな寂しいこと言わないでよ。私はまだ帰るの諦めてないよ!』
涙声で必死に訴える彼女。
真っ青な顔で震える彼女。
「強く生きなさい、ユキ。お父さんとお母さんの子だもの大丈夫よ」
彼女の傍に行って支えてあげたい。
大丈夫だからと励ましてあげたい。
「寂しくなったらこの言葉を唱えて。きっと元気になるわ。お父さん」
「あぁ、母さん。せーの」
せーの?
「「人あとは生な野となれんとか山となるれ」」
え・・・
ええぇっ!!??
四角い物体からプツリと音がしなくなった。
顔を見合わせてオロオロする一年は組
何と言って慰めたらいいのか分からず戸惑っている先生方
その中心で唇をキュッと結んで涙を堪えている彼女から目が離せない。
体の内から湧き上がる何かに戸惑う。
こんな時にこんな事を思うのは変だと思う。
でも理不尽さや恐ろしさに一人耐える横顔が美しくて見惚れてしまう。
この人、綺麗だ・・・
雪野さんに見惚れていると彼女はキッと顔をあげて立ち上がった。
げっ、まずい!
ダダっと戸口に向かって駆け出す雪野さんを見て慌てて廊下から飛び降りて近くの
茂みに身を隠す。
『最後くらい合わさんかああぁぁい父さん、母さんのばっきゃろおおぉぉぉぉ!!!!!!』
廊下に走り出てきた雪野さんは四角い物体を放り投げた。
彼女に投げられた物体は塀を越えて遥か彼方へと飛んでいく。
この人おもしろすぎ!!
さっきまでの儚げな表情はすっかり消えていた。
もっと彼女の事を知りたい。
大きく息を一つ吐いて天を仰ぐ雪野さんの顔は今日の空のように清々しい。
『私をここで働かせてください!お願いします!!』
「うむ、よかろう!」
学園長先生の言葉に頬を緩ませながら立ち上がる。
君が好き
初めて一目惚れをした
「今年度は楽しくなりそうだ」
踊るように鳴る鼓動。
俺は雪野さんが投げた不思議な物体を探しに行った。