第六章 君が好き
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君が好き~土井半助 其の弐~
冬休みに入り、今日は大晦日。
部屋から廊下に出ればキンとした空気で鼻が痛くなる。
事務の仕事はなく、あるのは見回りだけ。その見回りも半助さんを含めた当直の先生もいらっしゃるから仕事という仕事はない。
私は厨に向かっていた。学園長先生から年越しそばが食べたいと言われているからだ。きりちゃんと一緒に昼ご飯を作ることになっている。
「ユキさん、おはよう」
厨に入ればきりちゃんが待っていてくれた。
『何人分だっけ』
「学園長先生、ヘムヘム、僕たち三人、野村先生、松千代先生の七 人分」
『よし。蕎麦は茹で方が命ね』
私は腕を捲った。
「汁も大事だよ」
『まずは水を井戸から汲みに行こうか』
「うん!」
鉛色の空を見上げているとチラチラと白い羽のようなものが降ってくる。
「雪だ!」
『ふわふわしていて大きいね。これなら積もるかも』
「積もったら遊ぼうよ」
『いいね!雪合戦にかまくら作りとかは?』
「かまくらの中でお餅を食べながら甘酒を飲むのはどう?」
弾んだ声できりちゃん。
『磯部餅、砂糖醤油、鰹節にまぶすのも美味しそう』
「楽しみ!」
私たちは雪が積もることを祈りながら井戸と厨の間を往復する。話していればあっという間。水瓶に水がいっぱいに溜まる頃には私たちの体は熱くなっていた。
鰹節と昆布を鍋の中に入れ、弱火で煮出していく。
『良い香りだね』
鍋に醤油とみりんを足して完成だ。
厨にはほんわかと出汁の良い香りが漂っている。それにつられてくるように先生方が食堂に集まってきた。
別に沸騰させていたお湯に蕎麦を投入して、きりちゃんと数を数えながら並行して茹でていたキノコとほうれん草を引き上げ、切っていく。
「ユキさん、蕎麦を引き上げよう!」
『任せてっ』
親子の見事な連係プレー。私が蕎麦を鍋から引き揚げどんぶりに入れ、きりちゃんが次々と新しいどんぶりを私に差し出す。
「手伝うよ」
半助さんが来てくれた。
『では、お茶をお願いします』
「うん」
頷きながら半助さんはまな板を見た。振り向いた顔はしょぼんとした犬のようで笑いが込み上げてくる。
「ユキ・・・」
そこにあるのは紅白の蒲鉾。
『半助さんのお蕎麦には入れませんよ』
「それじゃあ僕が土井先生の分食べたい!」
「うん。きり丸、頼む」
「うわああん。頼まれるなんて嫌だよっ」
「食べさせてあげる?」
「アハアハ。喜んで頂きまっす」
キランと目を輝かせるきりちゃんをクスクス笑いながら具をトッピングしてカウンターに乗せていく。
「おぉ!良い香りじゃの」
「ヘムヘムっ」
ウキウキした様子の学園長先生とヘムヘム。
「美味しそうですね、って松千代先生!私の背中に隠れないで下さいっ。熱い物持っているんですから危ないでしょう」
「は、恥ずかし~」
松千代先生が器用に野村先生の背中に隠れながらテーブルへと向かう。私たち3人もお蕎麦を持ってテーブルへ。
『「「「「「「いただきます!」」」」」」』
熱々の美味しいお蕎麦をみんなで啜る幸せ。今年あった話を思い出して会話に花を咲かせる。
「今の六年生も卒業近くなりましたねぇ」
野村先生が眼鏡を湯気で曇らせながら言った。
『寂しくなります』
「今の六年生はみんな優秀です。みんな進路も決まりましたしね。っこっち見ないで下さい、恥ずかし~」
「忍者はガッツ!あの子たちにはガッツがある。きっとそれぞれの場所で活躍してくれることじゃろう」
「へむへーむ」
「きり丸ももうすぐ二年生だ。教科も実技も難しくなるからちゃーんと勉強するんだぞ」
「僕、最近勉強していますよぉ」
「そうだね。最近は六十点代の点数を取る時もある」
「おや、そうなのですか?」
実技は優秀だが教科は半助さんが胃を痛くするくらい出来が悪い一年は組は有名なので、野村先生が目を丸くした。
「だってユキさん厳しーいんですもん」
バイトがあって宿題をしないなんてことは当然許さない。以前までは自分で全ての学費を稼がなくてはならなかったが、今は違うのだから。お金に対して強迫観念を持っていたきりちゃんの性格を改善していくのには苦労した・・・。それだけ切羽詰まった思いで生きてきたのだろう。
『母さんはいつか百点花丸を見て見たいです』
「私もきり丸に花丸をつけてみたい!」
泣きそうになりながら半助さんが言った。
『そうだ。もし百点を取れたら私が持っている多機能ナイフをあげましょう』
「あれくれるの!?」
きりちゃんの顔がピカッと輝いた。
「僕、頑張る!」
「ふぉっ、ふぉっ。やる気に満ちた生徒を見るのは気持ちがいいのう」
私たちは食後のお茶を飲みながら朗らか歓談したのだった。
半助さんに手伝ってもらいながら食器を洗った私ときりちゃんは中庭を覗いた。まだ雪は降っていたが、地面に薄く積もっているだけでこれでは雪遊びは出来ない。
「明日まで降り続けるといいなぁ」
『そうだね。さあ、寒いから部屋に戻って火鉢に火をつけよう。中で遊べる遊びもあるよ』
「何して遊ぶ?土井先生も一緒に遊べますか?」
きりちゃんがルンルンと言った。
「うん。お邪魔させてもらうよ」
『用具倉庫に行こう。そこにツイスターがあるんだ』
「なにそれ」
『面白いよ』
ツイスターを取ってきて私の部屋に行き、私は半助さんときりちゃんにルールを教えた。ござには赤、青、黄、緑の円が並べて書いてあり、ルーレットで止まった場所に手足を動かさなければならない。バランスを崩して倒れてしまった方が負けだ。
以前用具委員さんと作って遊んだツイスターを倉庫から出してきて私の部屋へと持ち帰る。火鉢に火を入れて早速ツイスターの開始だ。
「まずは僕とユキさんとでやろう!」
『うん!半助さん、盤の矢印を回して下さい』
「よし。行くぞ!」
くるくると矢印が回って緩やかに止まったのは右手緑。きりちゃんがござに右手をついた。
「次、ユキは左足を赤」
半助さんの指示通りに左足を赤に置く。
次々と指示を出されて私ときりちゃんの手足がこんがらがる。
「きり丸、右足を青」
「無理だよ~」
『これは私の勝ちかな?』
「むぅ」
『ねえ、きりちゃん。負けた方が勝った方の言うこと一つ聞くっていうのはどう?』
「今更!?」
『ダメ?』
「そういうのは初めに言うもんでしょっ。勝ちを確信して言うなんて大人げないっ」
そう言いながらきりちゃんは右足を青に狙いを定める。
「えいっ」
きりちゃんの右足が私のお腹の下に飛んできたのだが、それと同時にがくがくしていたきりちゃんの体はべしゃりとござの上に潰れてしまった。
『私の勝ち!』
「悔しい~」
『ツイスターの神とでも呼んでちょうだい』
「それじゃあ神様」
『何かな人間の子供よ』
「次は土井先生に勝ってみて」
『え』
「えっ」
私と半助さんは同時に声を上げ、顔を見合わせ、パッと顔を赤くした。
『そのう、ええと』
「さあさあ」
きりちゃんが半助さんが持っていた盤を取り上げ、腕を引っ張って立ち上がらせた。
「頑張ってね、神様」
可愛いウインクされたって困るよ!
「ユキ」
あわあわしていると半助さんに名前が呼ばれた。
「負けた方が勝った方の言うことを聞く、でいいかな?」
私は眉を上げて腕を組んだ。
なるほど。半助さんには私の負けが確定していると。いいだろう、いいだろう。このツイスターの神、雪野ユキがお相手しようじゃないの!ゴゴゴと闘争心が沸き起こる。
『その余裕を打ち砕かせて頂きます』
試合開始のゴングは鳴らされた。カーン!
「次、土井先生、左手赤です」
「赤!?」
『頑張れっ、頑張れっ』
強運女の私は楽な体勢な場所ばかりに矢印が止まり、逆に半助さんは足と手が交差する状態になっている。
「うっ、えいっ」
半助さんが声と共に左手を赤に動かした。
私はちょうど目の前にきた半助さんの腰に顎を乗せる。
『沈め~』
「やめてくれっ。潰れる!」
「アハハ!土井先生頑張って!」
「早く矢印を回して、お、う、早くっ」
「はーい。ユキさん、右足を黄色」
『なんですと!?』
ここにきて難しい場所を指定されてしまった。
「運が尽きたようだね」
にやっと半助さんが言った。
『このくらい問題ありませんよっと』
ぐいっと足を伸ばして黄色の丸を踏む。私の体が四つん這いになっている半助さんの体の下に入り込んだ。
「先ほどのお礼をさせてもらってもいいかな?」
『ダ、ダメですダメですダメですっ』
ぐいっと体全体に重みがかかる。潰れるー!
「きりちゃん、早く!」
笑いながら見ていたきりちゃんが矢印を回すが半助さんは無難な位置に移動しただけだった。続いて私の番。
「左足青」
『ああ、そんな』
「負けを認めるかい?」
『いいえ』
狙うのは半助さんが今置いている足の一つ後ろの位置だ。両手と右足を踏ん張り思い切って左足を伸ばすのだが狙いが外れた。
「おわっ」
『わあ!』
私は半助さんの左足を蹴ってしまった。蹴った場所が悪かったようで忍者にも耐えきれず、半助さんはバランスを崩してしまう。
ボスン
私は半助さんの下敷きに。
「すまない!大丈夫か!?」
肩越しに振り返れば焦った半助さんの顔があって・・・
『フフフ』
私は思わず笑いだしてしまう。
「ぷっ」
「はは」
きりちゃんも噴き出し、半助さんも私の上で笑い声をあげる。私たちはひとしきり声をあげて笑ったのだった。
『半助さんが潰れたから半助さんの負けですよ』
「ユキに蹴られたのにかい!?」
「ユキさんったら相変わらずの理不尽を振り回すなぁ」
『ダメですか?』
「そんなに目をパチパチさせてこっちを見られても・・・」
パチパチパチパチ
「・・・はあ。まったく。惚れた弱みとはこのことだ」
『やった!』
「お手柔らかに頼むよ?」
『とびっきりのを考えておきます』
私は片目をパチンと閉じた。
夕食は松千代先生が親子丼を作ってくれた。滅茶苦茶美味しかった。
食事の後に皆でお節料理の仕込みをしてそれぞれの部屋へと帰って行く。
私、きりちゃん、半助さんは再び私の部屋に集まってのんびりとしていた。
「ふわあ」
『お布団敷こうか』
きりちゃんが大きなあくびをしたので言うが、頬を膨らませている。
「今日は大晦日だよ?年越しを眠って過ごすなんて嫌だ」
『ゆったりトランプでもする?』
「うん!」
自作のトランプをシャッフルする。
やるのは七並べ。
三人とも真面目にやっていない。暖かい部屋、ぼんやりとした頭でカードを置いていく。遊びを変えてババ抜き、神経衰弱。
ボーン
「始まった!」
遠くの方から微かに聞こえる除夜の鐘。大晦日から元旦を挟んで突かれる鐘の音は煩悩を払う。
『今年も欲にまみれた一年だった』
「感慨深く言う台詞?」
きりちゃんが呆れた顔をした。
『きりちゃんはどんな一年だった?』
「忍術学園に入学して沢山の友達が出来て、いっぱい遊んで楽しかった!」
「後半はお勉強の方も頑張ってくれたしね」
半助さんがまた泣きそうになっている。
『新年の抱負は除夜の鐘の最後の一つが突かれた後にしよう。次は半助さん。どんな一年でしたか?』
「良い子の一年は組の担任になれて良かったな」
ポンと半助さんはきりちゃんの頭に手を乗せた。
「そしてユキに出会えた特別な年だった」
熱い視線に胸が高鳴り、頬が染まる。
『私もです。自分の人生にとって特別な人と二人も出会えました。可愛い息子と、えーと・・・』
改めて言うのは恥ずかしいな。
「えーと、なんだい?」
ニヤニヤっと私を甚振っている半助さんと、こちらも楽しそうなきりちゃん。私は除夜の鐘に押されるように『素敵な恋人です』と言った。
「ユキさんったら顔が真っ赤」
『揶揄うのは止めてちょうだい』
ボーン
数えていないが、随分の鐘が随分突かれた。
私たちは最後の鐘の音を聞き漏らすまいと自然とお喋りを終わりにする。
ボーン
去年の年越しを思い出してみる。
電気ストーブに明るい照明の下、炬燵に入りうつ伏せになって私はスマホをいじっていた。傍らには柴犬のモンがいて気持ちよさそうに寝ていた。
去年の年越しは一人だった。いつの間にか日付が変わり、村の爺様と婆様からもらったお節を頂く。
文明の利器に囲まれて、心地よい年越し。
物が豊かな元の世界からトリップして初めは戸惑い、不便さに苦しんだ。だが、今はすっかり慣れて、こうして心地よい年越しを迎えようとしている。
心地よさを感じるのは便利な道具があるからだけではない。近くにいる人から安心と安らぎをもらい、私の生活は満たされる。
規則的になっていた除夜の鐘が止まった。
私たち三人は顔を見合わせてにっこりした。
静けさの中、ひときわ大きな音で鐘が鳴らされる。
ゴーン
『「「明けましておめでとうございます」」』
私たちは声を揃えて顔に笑みを浮かべながら顔を見合わせた。
『今年も宜しくお願い致します』
「ユキさん、土井先生、宜しくお願い致します」
「今年も宜しくお願い致します」
『さて、新年の抱負を言っていきましょうか。まずはきりちゃん』
「もっちろん沢山稼ぐのが僕の抱負!」
「忍術に関しては?」
「実技は味方に手裏剣を当てないように、教科は・・・ユキさんがこれ以上厳しくならないような点数を取れるように頑張る」
「期待しているぞ」
『頑張って!』
次は半助さん。
「健康第一かな」
『特に胃ですね』
「私の胃痛は一年は組次第だからな?」
「どーんと任せて下さい。僕たち良い子の一年は組です!」
きりちゃんがドンと胸を叩いて言った。
「次はユキさん」
私は顎に手を当てた。
「全く考えてなかったって顔をしているね」
「うん」
半助さんときりちゃんが苦笑を漏らす。
今年も煩悩のままに生きることになりそうだ。
「何か捻り出しなよ」
きりちゃんに言われてうーんと考える。料理、文字の勉強、体力づくり。どれもピンとこないな・・・と思ったが、二人の顔を見てやりたいことが思いついた。
『私は三人で沢山思い出を作るにする』
「うん!」
「そうだね」
私たち三人は一緒にしたいことを話し合った。どれも実現させたいな。
元旦。
私はきりちゃんに起こされた。
「朝ご飯の時間だよ。昨日仕込んだお節を食べに行こう!」
『お節楽しみっ』
凍り付くような寒さだが、美味しいお節料理が待っていると思うと冷たい水での洗顔も苦ではなかった。
きりちゃんと二人で食堂へ駆けていくと、野村先生と半助さんが朝食の準備をしてくれていた。お正月の豪華な料理がテーブルに並んでいる。海老、黒豆、昆布巻き、煮しめ、お雑煮。
『すごーい』
松千代先生、学園長先生とヘムヘムもやってきて、盃にお酒を満たす。
「皆、明けましておめでとう」
『「「「「明けましておめでとうございます」」」」」』
「へむへむへーむ」
学園長先生に促されて私たちは新年の抱負を言う。因みに野村先生は打倒、雅之助さん。松千代先生は恥ずかしがり屋を直すこと。学園長先生は自伝を書き終える。ヘムヘムは忍術学園の平和を守る事だった。
お
小休止を挟んだ私ときりちゃんは庭へ出て雪遊びをすることにした。昨日から降っていた雪は十分遊べるくらいに降り積もっている。
「かまくらを作ろう」
『大きいのを作ろう』
私ときりちゃんはかまくら作りを開始した。雪をどんどん積み上げていき山を作る。
だが、なかなかに大変。
「終わりが見えないね」
『先生たちも呼んでみようか』
私は走り出した。
食堂に行くと野村先生と松千代先生はお茶をしていた(松千代先生は一瞬にしてテーブルの下に隠れた)
『かまくら作り手伝って頂けませんか?』
キョトンとした野村先生はハハハと笑う。
「童心に帰ってですか。良いですね」
『松千代先生もお願い出来ますか』
「分かりました・・・隠れながらで宜しければ」
『では、中庭にお願いします!』
学園長先生とヘムヘムは昼寝していたので私は半助さんのお部屋に行く。半助さんは寛いだ様子で本を読んでいた。
『新年早々勤勉ですね』
「いや、これはガイドブックなんだ」
この世界の不思議、横文字言葉が半助さんの口から飛び出した。
「昨夜、ユキが私ときり丸と三人でどこかに行きたいと言っていただろう?それで近場で遊べる場所はないかと思ってね」
『梅夢三脚烏大社ってありますか?』
「八咫烏で有名だね。ユキの世界にもあったのかい?」
『はい。でも私、行ったことがなくて』
「三人で行こうか」
『はい!』
「ところで、今まで外にいたのかい?体に雪がついている」
『きりちゃんとかまくらを作っていたんです。一緒に作ってくれませんか?野村先生と松千代先生にもご協力をお願いしました』
「加勢するよ。でも、その前に」
手招きされて近づくと手を引っ張られ、私は促されるがままに床に膝をついた。
『早く戻らなくちゃいけないので少しだけですよ?』
「分かった」
体を寄せて、唇を重ねる。半助さんを感じたくて体に手を回すと、同じように私の背中にも手が回る。
半助さんの舌が私の舌を舐め上げた。腔内全部を自分で満たそうというように軟口蓋のざらつきを時間をかけて舐め上げ、舌裏の筋を押し潰す。
『んっ』
私の鼻からくぐもった声が漏れる。
じゅ、じゅる、ずっ
舌を根元から強い力で吸われて、子宮がきゅっと締まるほどに気持ち良い。気持ちが高ぶってきて、お互いを掻き抱いた。頭に手が回ったと思ったら、ぐんと体が後ろへと倒れていく。
私は半助さんの背中をトントンと叩いた。
『ダメですよ』
キスの合間から言う。
「どうしても?」
『あっ』
半助さんが首筋に吸い付いた。
『私はかまくらを作りたいんです。半助さんも一緒にです』
ハアァと首にかかる諦めの溜息は温かくてゾクゾクしてしまう。それでも私は半助さんの胸に手を置いて押した。
「また今度」
『ふふ。また今度です』
欲求不満だと顔に書いてある半助さんが可愛くてクスクス笑ったら拗ねた顔をされた。かわゆい。
私と半助さんはかまくら作りに向かう。
大人の男、しかも忍者の大人が三人。体力も計画性もある。順調に雪を積んでいって、私の背の高さよりも大きな雪山が出来上がった。それを掘っていき出来たかまくら。
「ふぅ。完成ですね」
野村先生が額の汗を拭いながらかまくらを見上げる。
「うさぎちゃん」
『わぁ。松千代先生が作ったうさぎ可愛い!』
玄関を守るシーサーのようにかまくらの入り口両端に置かれたウサギ。可愛くて歓声をあげると松千代先生は一瞬で目の前から消えた。
「汗をかいたから着替えたらいいね」
半助さんの言う通り、服がじっとり濡れている。
「だし汁が残っているから中でお雑煮を食べましょう!」
『甘酒も温めて、お餅も鰹節、砂糖醤油・・・何種類か用意しよう』
「僕、お腹減っちゃった」
急に空腹を感じてお腹を摩る。
「私は部屋で休みます」
「私は見回りに」
『お二人ともありがとうございます』
野村先生と松千代先生に手を振って、私ときりちゃんは走り出す。
「地面が滑るから歩いて行きなさーい」
ずどーん
半助さんの忠告もむなしく足を滑らせてひっくり返った私はお尻を地面にぶつけた。
『痛たた』
「ユキさん大丈夫?」
『大丈夫。わっ』
急な浮遊感に身を固くするが、直ぐに半助さんの腕の中だと分かり、私は顔を上げて大好きな顔に微笑みかけた。
「そんな顔をされたら小言も消えてしまう」
「ユキさんくノ一になれるかもね。なんとかの術!」
「何とかの術ってきり丸・・・」
『忍術学園事務員改め、凄腕くノ一とは私のきゃあっ』
急に体が落ちる感覚がして叫び声を上げ、私は半助さんの首に抱きついた。半助さんが一瞬私を抱いている腕を離したのだ。
『な、な、何するんですか!』
「ちょっとした出来心だよ」
『意地悪ですねっ』
半助さんの胸をぽかりと殴る。
「ユキさんすっごい焦った顔してた」
アハハときりちゃんが笑う。
『二人して私を揶揄って!』
私は半助さんの腕の中でプンスカと怒ったのだった。
着替えを済ませ、かまくらの中でお餅を食べて甘酒を飲んだ。その後の夕食はお節の残りを食べて簡単に。日が暮れるころには昼間に遊んだ疲れが出てきたのか眠たくなってくる。きりちゃんも同じなようで、早々に部屋へと戻って行こうとする。
『今日は一緒に寝ないの?』
「たまには土井先生と過ごしなさい」
駄々をこねるように体をぐるんぐるん回して手をぶらぶら振っていると、凄く大人っぽく言われ、僕はゆっくり寝ます、と大あくびしながらきりちゃんは部屋へと入って行った。
私はくるりと反転する。
作ってもらったこの機会。活かさせて頂こう!
私はスキップで半助さんの部屋へと向かう。
『トトントトントトン』
口でノックを言って、更に戸を叩くと戸が開いた。
「ご機嫌だね」
『私の部屋に来ませんか?』
「きり丸は?」
『自分のお部屋で寝るそうです』
「・・・ユキの部屋で寝ても?」
『はい!』
「着替えていくよ」
寝巻に着替えて待っていると、半助さんが布団を持って来てくれた。並べて横になる。忍術学園ではしないというのは暗黙の了解。こうやって布団を並べて寝るのも忍術学園では今日が初めて。お正月だから、特別。
私は半助さんの方に寝返りを打った。半助さんもこちらを向いた。
『そっちにいってもいいですか?』
「私に負けられない欲との戦いをしろと?」
眉を寄せる半助さんに手を伸ばす。
『お願い。少しだけ』
少しだけ迷いを見せたが、半助さんは私の手を取って自分の方に引き寄せてくれる。自分の布団を出て、半助さんの布団の中に入った。
『えいっ』
「ぎゃああ」
半助さんの叫び声にケタケタ笑い声をあげる。
「ユキっ。冷たい足の裏をいきなりふくらはぎにつけるのは止めてくれっ」
『温かーい』
「聞いているのかい?」
『事前通告したら許してくれる半助さん優しい』
「普段湯たんぽを使っているのを知っているんだぞ?」
『人間湯たんぽです』
「恋人を湯たんぽ呼びするとは。悪い口はこれかな?変な顔にしてやろう」
『ちょっと!ふふ。やめてくださいよ』
半助さんは私の頬を掴んでぐにぐにと引っ張る。口は横へ、目は下へ。私は止めさせようと半助さんの体をくすぐった。狙うは乳首!
「や、やめなさいっ」
私の顔から半助さんが手を放した。効果覿面だ。フフンと勝ち誇っているとバサッと音がしてふわりと風が来る。半助さんが私を跨ぎ、両手を私の顔の横についた。
「悪いけど、やられっぱなしなのは性に合わないんだ」
『ダメですよ。慎むべきです』
最後の言葉は喉の奥に消えていく。
ねっとりとした甘いキスが始まり自然と目を瞑る。温かい舌が絡み合って気持ちがいい。激しくはなく、優しい愛情を込めているのが分かった。半助さんの体に手を回す。ふと触れたゴワゴワの髪の毛を私はワシワシと握った。
「何をやっているんだい?」
『傷み具合を確かめていました』
「今やる事じゃあないだろう」
『私にとってはこのゴワゴワも愛おしいんですよ』
「ユキ」
ぐっと硬いモノが私の柔らかい腹部を押した。
「どこで止めるかが問題だな」
『既に火がついてしまっています』
「そんな目をして煽るのは止めてくれ」
半助さんは私の首元に顔を埋めた。
顎関節からゆっくりと首筋を舌全体を使って舐めていく。
「綺麗だ」
熱い吐息には性的な興奮が滲んでいて、それが伝染して私の体も熱くなっていき、呼吸も早くなる。半助さんの長い指が私の鎖骨をなぞっていく。
「どこまでやっていいんだろう」
『難しい問題です、先生』
「ユキがちょこちょこふざけるから理性を保てているよ」
溜息をつく半助さんの息がハッと止まる。私の手は半助さんの中心にあった。
「ユキ?ユキ・・・ダメだ。待ってくれ、本当に?え、ユキ」
私は掠めるようなキスを半助さんにして、慌てた声を聞きながら体をずりずりと下へ下へと動かしていく。頭を上げて上にある胸にキス、お腹にキス、そして、私はそのまま股の間から出てきた。
『すぽーんっ』
「ユキーーーーーーーー!!!!!」
期待を裏切られて絶叫する半助さんを見てケタケタ笑う。
『ここではダメだって分かっているでしょう?』
「いいか!今度共寝する時に覚えていなさい!」
『おおぉ、怖い』
「まったく!時々君が妖女に見える時があるよ。十も年下の子に揶揄われるとは」
『・・・。』
「え?どうしてそんなに勢いよく目を・・・何か隠しているのか?」
『ナニモ』
言えない。実年齢ゲフンゲフンだとは言えない。
「ふうん。これは面白そうなことになりそうだな」
半助さんが黒い種類の楽しそうな笑みを浮かべ、私へと迫ってくる。体の上にのしかかられて耳元へ口が寄せられる。
「ユキ」
『ひゃい』
艶やかな声。
「賢い君なら房中術って知っているよな?」
低く囁かれた声に私は身を凍らせ・・・正直に言おう。次の夜に期待してしまったのだった。しかし実年齢だけは絶対に言いません。はい、就寝!