第二章番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
君が好き~Ver.久々知兵助
俺には気になっている子がいる。
その人の名前は雪野ユキちゃん。
異世界からやってきた不思議な人だ。
彼女が忍術学園に現れた時、六年生との会議で彼女には注意するようにという事になったのだけど・・・
「久々知先輩」
「どうした?伊助」
「あの、ユキさんから久々知先輩にお豆腐のプレゼントを預かったんです」
「豆腐のプレゼント!?」
俺は伊助からユキさんのプレゼントお豆腐を受け取った。
見たことのないような素材の袋、豆腐が入っている入れ物も知らない素材だった。
あぁ、本当にユキちゃんは異世界からやってきた人なんだ。
その時に、そう思ったっけ。
入れ物は密封されていて、毒が入れられた形跡がなかった。
豆腐自体に元々毒が仕込まれているという事も無きにしも非ずだけど・・・
でも、ちょうど食堂の入口で会った立花先輩から「雪野ユキは警戒するにあたらず。ただの阿呆だ」と報告を受けていた。
俺は立花先輩の言葉を信じることにした。だって、好奇心が抑えきれなかったんだ。
俺は豆腐を包んでいる枝豆と書かれたペロペロの透明の紙を引っ張って開けた。
緑色の豆腐を一口口に入れてみる。
うん。食べた感じ毒はなさそう。
なんて感想は一瞬で彼方へと消えた。だって、お豆腐が美味しすぎたから!
豆腐なのに、枝豆の味。
枝豆味だけど、豆腐の良さが残っていて、大豆の味もしっかり感じられた。
ほっぺが落ちそうとはこの事。両頬がぎゅーっと痛くなる。
枝豆味の他にもゆず、桜、胡麻豆腐。
どれも凄く美味しかった!
食堂にやってきたユキちゃんに御礼と感想を伝えた俺。
そういえば興奮しすぎてユキちゃんを持ち上げてグルグル回して目を回らせちゃったな。
落ち着いた俺たちは並んで朝食をとった。
俺たちは豆腐好きという共通点から直ぐに打ち解けた。
俺たちは豆腐同盟を作り
定期的に活動をした
お豆腐屋さんへお豆腐を食べに行ったり、豆腐を作ったり、豆腐談義に花を咲かせたり。
そして今日、火薬委員の皆とお豆腐屋さんへ豆腐を食べに行くことになった。
お豆腐遠足だ。
俺は土井先生、タカ丸さんと並んで道を歩いている。
前では一年生の伊助と二年生の三郎次に挟まれてユキちゃんが歩いている。
ユキちゃんたちはしりとりをして遊んでいるらしい。
ユキちゃんは自分の番が来る度にどうにか言葉を絞り出しているといった感じだ。
でも、聞こえてくる言葉はどれもちょっと普通とは離れた言葉の選び方で、後ろで聞いている俺たちは吹き出さないようにするので必死。
一, 二年生の二人よりも一生懸命になっている姿が可愛らしい。
「土井先生、久々知先輩、タカ丸さん。一緒にしりとりしましょう?」
三郎次が声をかけてくれて俺たちも参加していしりとりを行うことに。
ユキちゃんの言葉の選び方はやっぱり可笑しくって、何度も吹き出して笑ってしまう。
『兵助くんったら笑わないでよ~。私は必死なのに』
「ごめんごめん」
そんなこんなで賑やかに歩いていた俺たちの目に目指していた豆腐屋さんが見えてきた。
丘の上にある店で、店の横にはのぼりがはためいている。
『兵助くん、もしかしてあそこ?』
そう言った瞬間、ユキちゃんのお腹がぐるると鳴った。
俺たち全員吹き出してしまう。
「そうだよ。あそこが俺たちの目的地」
クスクス笑みを零しながら俺が答えると、
『わ、私、先に行って席とってるね』
恥ずかしくていたたまれなくなったのか、ユキちゃんが走り出した。
「僕も行く」
「僕も!」
伊助と三郎次も追いかけていく。
「三人とも元気だな」
と、土井先生。
「ユキさんも下級生みたいなはしゃぎっぷりだね。可愛いな」
タカ丸さんが言った。
土井先生の目もタカ丸さんの目も優しく細められていてる。
それはただ単に微笑ましいという思いで見ているのか―――――いや、違うな。
二人の瞳は確実に、愛おしげにユキちゃんを見ていた。
お互いがその事に気づいた僕たちの視線が交わる。
一瞬、バチバチっと火花が散ったように思えた。
薄々感じていたけど、土井先生も、タカ丸さんもユキちゃんに好意を抱いているんだ。
どこまで本気になっているかは計れないけれども。
ユキちゃんを渡したくない・・・
心の中でそう思いを固めて、俺はユキちゃんたちの後を追う。
『うわーいい眺めだね』
お豆腐屋に着くとちょうど上からユキちゃんの声が降ってきた。
二階の窓から顔を出しているユキちゃん。
その時、ザッと一陣の風が吹き抜けた。
気持ちよさそうに目を閉じて、思い切り空気を吸い込んでいるユキちゃん。
括られている長くて綺麗な髪が風に揺れる。
太陽の光を浴びたその顔は輝いていて、とても美しかった。
ユキちゃんが俺たちに気づき、目が合う。
彼女は吃驚した顔をした後、恥じらうように頬を染めて窓辺から部屋の中へと引っ込んでいってしまった。
「土井先生、久々知先輩、タカ丸さん。二階に上がってきてくださーーい」
三郎次に声をかけられ、ハッと我に返る。
ユキちゃんに見惚れていたのは俺だけじゃなかったみたいで土井先生とタカ丸さんも肩をピクリと跳ねさせていた。
部屋に入った俺たち。
『注文通してきマース。私の独断で!』
「「「「え?((((独断って!?))))」」」」
二つ空いていた席。土井先生は座っていない。
空いている席は窓を背にした席か床の間の前の席。
注文を通しに出て行ったのは、きっと二つ空いている席のうちの上座が分からず困った末の行動だと思う。
ユキちゃんって何もかもが顔、行動に出るから面白いんだよね。
小さくクスクス笑いながらユキちゃんが戻ってくるのを待つ。
でも・・・なかなか戻ってこない。
「ユキさんどうしたんでしょうね?」
「厠かな?」
伊助と三郎次が首を傾げている。
お腹でも壊してしまったのだろうか?大丈夫かな?
そう考えていた時「失礼します」と大きな声が聞こえてきた。
『お待たせいたしまし――――』
「ユキちゃん!?」
『へ?』
驚く俺の顔を見ながら不思議そうな顔をしたユキちゃんの顔はクルッと変わった。
「あ!」とユキちゃんから声があがる。
失念!と顔に書いてあるユキちゃんが手に持っているのはおぼんに乗ったお豆腐料理。
「えっと、これはどういう状況なんだい・・・?」
土井先生の質問に答えるユキさん。
お店のおばあさんが腰を痛めてしまっていたらしく、ユキちゃんは今までずっと配膳のお手伝いをしていたそうだ。
『そういうわけで、皆さんはごゆっくり!私は後で容器借りて持ち帰るから、私のことはお気になさらず!』
下は忙しいらしい。
ユキちゃんはそう言ってスチャッと手を上げて部屋を去っていく。
もちろん俺たちは追いかけた。
「おばあさん!指示を頂けますか?」
俺たちは指示を受けながら、お店のお手伝いをしたのだった――――――
***
美味しいお豆腐料理を堪能して俺たちは忍術学園へ戻ってきた。
解散してみんな散り散りに散っていく。
そんな中、ユキちゃんだけ丘のある方向へと足を進めていた。彼女の背中を追いかける。
「ユキちゃん」
『兵助くん』
のんびり庭をブラブラ歩いているユキちゃんに声をかけると彼女は振り向いた。
駆けて行ってユキちゃんの横に並ぶ。
「夕飯は?」
『まだお腹パンパン』
「あはは、俺も。良かったら一緒に散歩しない?」
『是非!』
嬉しくて頬が緩む。
今日一日、ユキちゃんと一緒にいたけれど、皆も一緒だったから、何となく物足りない気持ちになっていたからだ。
道中牽制しあっていた二人がいなくなり、ユキちゃんと二人きりになれて、俺の心はドキドキと高鳴る。
朱色に染まる空の下を二人で歩く。
昼間も気持ちよかったが、少し風が冷たくなった夕方も気持ちいい。
見晴らしの良い場所で自然と足を止めた俺たち。
『お豆腐、凄く美味しかったよ。ありがとう』
「うん」
ユキちゃんはお豆腐屋さんの二階を見上げた時と同じように目を閉じて風を感じていた。
茜色の光がユキちゃんの顔を照らしている。
自然体で、とても気持ちよさそうで、幸せそうな顔に見ているこちらまで幸せな気分。
風が運ぶ甘い花の香りと、ユキちゃんの綺麗な横顔を見て、頭がぽーっとなってくる。
『それからね、みんながお店手伝いに降りてきてくれたのが凄く嬉しかった』
「うん・・・」
俺は相槌をうつので精一杯。それくらいユキちゃんに見惚れていた。
俺はユキちゃんから目が離せなかった。
口元に微笑みを作った横顔がとても素敵で・・・
サアァと風が草を揺らす。
ユキちゃんの黒い艷やかな髪が風でたなびいた。
『あとねーいいなって思ったのがお店のお爺さんとお婆さん。
年を取ってもお互いを労り合う夫婦って素敵だよね』
「・・・うん・・・・」
『兵助くん・・?』
ユキちゃんがまともに答えない俺の事を不審に思って目を開けてこちらを見た。
太陽の光を遮ろうと目の上にかざそうとした手を引っ張る。
僕は吸い寄せられるようにユキちゃんの口に口づけを落とした。
『え・・・』
「ごめん!ユキちゃんっ」
ハッと我に返る。
ぼんやりとしていた頭がサッと冷水をかぶったようにハッキリする。
あぁ、なんて事をしてしまったんだ。嫌われる!
無意識に、欲望のままに動いてしまった自分を激しく自己嫌悪する。
『どうしちゃった?』
「ごめん、つい・・・」
眉を寄せるユキちゃんから視線を逸らす。
ごめんなさい。
つい、つい・・・
「ユキちゃんが綺麗だったから」
俺はぼそっと本心を吐露した。
恥ずかしくて顔に熱が集まっていくのを感じる。
『っおぉっ!?あ、ありがとう!?』
ユキちゃんが声をひっくり返しながら言った。
罪悪感で押しつぶされそうになる胸。
嫌われてしまったかもという恐怖。
胃に鉛が入ったような重さを感じていると、スッと俺の手がユキちゃんに取られた。
「ユキちゃん?」
困惑しながら彼女の名を呼ぶ。
『どうしてそんなに悲しい顔するの?』
ユキちゃんが俺の顔を覗き込んで、首を傾げた。
ユキちゃんに気を使わせるなんて!
俺はハッとして、気を使わせてしまった事を悔いる。
『あー・・・まさか私にキスしたことを後悔して泣いてる?』
気を使わせてしまった申し訳なさもあったが、それよりユキちゃんに嫌われたかもという事が心の大部分を占めていて、胸が痛くて、彼女から顔を逸らしていたらユキちゃんがこんな事を言った。
「っなわけないだろ!」
俺は弾かれたように顔を上げて叫ぶように言った。
ユキちゃんがフッと吹き出し、俺はキョトンとしてしまう。
「・・・俺のこと、怒ってないのか?」
“兵助くんなんて大嫌い”
そんな風に言われるのを想像して鼻が痛くなって、涙ぐみそうになりながら俺は恐る恐るこう尋ねる。
すると、ユキちゃんは胸に手を当て、数度深呼吸し、口を開いた。
『綺麗だって言ってもらえて、えーと、嬉しかった、よ?』
言葉を選びながらユキちゃんはこう言ってくれた。
優しい微笑みを添えて。
俺の中に安堵と嬉しさが込み上げてくる。
『でも同意なしにキスされるのは困るけどね』
目で『分かった?』と言ってくるユキちゃんに頭を下げる。
「ごめん」
『許す』
「早っ」
『アハハ』
テンポよく流れた会話が俺たちの笑いを誘う。
顔を見合わせて表情を崩す俺たち。
赤い夕日が沈んでいく。
君が好き
「今度さ、あのお爺さんとお婆さんの様子見に行かないか?」
『私もそうしたいと思ってた』
下級生に挟まれてはしゃぐユキちゃん
困っている人を放っておけなくて手伝いを申し出るユキちゃん
そしてうっかり屋さんのユキちゃん
美人で、優しくて、明るくて、さっぱりしていて・・・
魅力溢れる君に、俺はすっかり惚れ込んでいるのだ――――――