第二章番外編
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君が好き~Ver.善法寺伊作<=strong>
「乱太郎ったら遅いね~」
僕たち保健委員は今日の放課後、薬草を採りに山に行く予定でいた。
それなのに、なかなか乱太郎がやってこない。
「僕、呼んできましょうか?」
乱太郎と同じ学年の伏木蔵が言ってくれるが首を振る。
「ううん。きっともうすぐ来るよ」
そう答えていた僕の耳に「すみませーん」と乱太郎の声が聞こえてきた。
「あれ?ユキさんも一緒だ!」
左近が声を上げる。
ユキちゃんは乱太郎に手を引かれながらこちらへと走ってくる。
彼女の姿を見ればいつもの事務員服から袴姿の私服に着替えていた。
その背中には僕たちが背負っているのと同じ籠がある。
「ユキちゃん、その格好は一体・・・」
『乱太郎くんが一緒に薬草取りに行かない?って誘ってくれたんだ。一緒についていってもいいかな?』
「もちろん!」
僕は即諾した。
他の保健委員の子も笑顔だ。
ユキちゃんは実は異世界からやってきた不思議な境遇を持つ人だ。
彼女と初めて会った日の事を思い出す。
ユキちゃんは土井先生と利吉さんに連れられて忍術学園へやって来た。
新野先生は長旅をして疲れて熱を出した下級生が何人か出た為に、僕を呼びに来て、ユキちゃんの付き添いを頼んだ。
保健室にいた土井先生と利吉さんの空気といったら!
二人共静かに、でも確かにバチバチと火花を散らしていた。
僕は土井先生と利吉さんに彼女が異世界からやってきた事を聞かされて。
その時は半信半疑だったけど、彼女が身につけていたものは南蛮衣装とも違う不思議な衣装で。
『・・・。』
ピリピリとした気を発する土井先生と利吉さんにご退出頂いて改めてユキちゃんを見る。
濡れたような睫毛、陶器のように白い肌、綺麗な黒髪が床に流れる。
普通の顔立ちといえば普通の顔立ちなのに、それなのに、彼女の気質が現れているのか、
彼女はとても魅力的に見えて、僕はユキちゃんの寝顔に見惚れていた。
文次郎の名前を叫びなが目を覚ましたユキちゃん。
僕が「潮江文次郎のお知り合いの方ですか?」と聞いた時に君が「”私の”文次郎とは別」と言った事に僕は嫉妬したんだよ?君に誰か付き合っている人がいるんだと勘違いして。
結局、ユキちゃんの言った“文次郎”は犬だったってオチで笑ってしまったよね。
ユキちゃんは人懐っこく明るい性格で直ぐにこの忍術学園に溶け込んでいった。
みんな優しいユキちゃんが大好きだ。
でも、ユキちゃんは忙しく仕事をしているか、その他は誰か彼かと一緒にいて、
ユキちゃんと過ごす時間はいつも争奪戦で。なかなか一緒にいられなくって。
だから、こうして乱太郎がユキちゃんを連れてきてくれたのが嬉しかった。
「じゃあ早速裏山に出発しようか」
『「「「「はーい」」」」』
ユキちゃんと後輩たちが元気よく僕に返事をする。
出入門表に名前を書いて、いざ出発!
「裏山には罠が多いから注意しようね」
振り返ると青い顔の後輩たちが頷いた。
僕たち保健委員、別名不運委員。
僕たちは不運の宿命を背負う不運っ子たちなのだ。
印のある罠には引っかからないけれど、風や雨などで流されてしまった印もある。
そういった罠に僕たちは引っかかるのだ。
毎回薬草取りでは一人一回は必ず何かしらの罠にかかる。
のだけれど・・・
「目的地に到着だ」
誰も罠に引っかからずに目的地へ到着した。
何だか拍子抜けでみんなで顔を見合わせ合う。
『みんなどうしたの?』
「え、ううん。何でもないよ」
不思議そうな顔をするユキちゃんに首を振って薬草採りに取り掛かることに。
「ここにあるカキドオシを採取しようと思う。この薄紫色の花を咲かせている植物を葉から、
茎、ひげ根の先まで採取してね」
『うん。分かった』
カキドオシをプチリと採っては籠の中に入れていく。
『ねぇ、伊作くん。このカキドオシはどういった病気に効くの?』
「これは強壮、かぜ、泌尿器の病気に効くんだよ。柔らかい部分はかき揚げや天ぷらとして食べても美味しいね」
『じゃあ、いっぱい採っておばちゃんに天ぷらにしてもらおう!』
「そうだねーーーーあ」
『どうしたの?』
「これ!チョレイマイタケだ!わー嬉しいな」
ちょうど在庫切れしていたキノコが見つかり思わず声を上げる。
『良かったね』
「うん」
「あっこれは!!」
数馬の叫び声が聞こえて振り返る。
「見てください、伊作先輩!杏の実がたくさんなっています」
『わーホントだ。美味しそうだね』
「美味しいだけじゃないんだよ。杏の種は鎮咳、去痰、嘔吐に使われる生薬なんだ」
『美味しいだけじゃないんだね』
「今日はついていることだらけですぅ」
「もしかしたらユキさんがいてくれているからかも!」
伏木蔵と乱太郎が言った。
『そんな力私にはないよ。きっと皆の日頃の行いがいいからだよ』
「「いーえっ。絶対ユキさんのおかげです!」」
一年生二人が両拳を握り締め、フンと鼻息荒く言った。
『ふふ。じゃあ、もっと良いこと起こりますようにって願っておくね』
ユキちゃんは伏木蔵と乱太郎の頭を優しそうな顔をして撫でる。
その目が凄く慈しみに満ちた目をしていて、心臓がドキリと跳ねる。
柔らかな瞳の色。
綺麗だな、ユキちゃん・・・
『私、杏の木に登ってもいい?』
「え、ちょ、ダメダメ!って、もうっ!」
ユキちゃんは僕の制止を無視して杏の実を採取するために木へと登り始めた。
スルスルと、実のなっているあたりの枝まで登っていく。
「驚いた。木登り得意なんだね」
『えへへ。そうなんだ』
ニッとユキちゃんが笑った。
木には左近も登って、二人で杏の実を地面へ落としていく。
地面に置いた僕の籠はあっという間に杏で満たされた。
「二人共ー降りてきていいよー」
まず、左近がえいっと降りてくる。
そして次はユキちゃんの番なのだけどーーーー
『あっ!』
「危ない」
ユキちゃんが足を滑らせた。
後ろ向きにユキちゃんが落ちてくる。
籠を地面に置いておいて良かった。
身軽に動けたのでユキちゃんを受け止めることが出来た。
僕の腕の中に横抱きでスッポリ収まるユキちゃん。
「ふーっ。ビックリさせないでよ」
『ごめんなさぃ』
申し訳なさそうに首を竦めるユキちゃん。
ちょっとだけ、びっくりさせられた仕返しをしてもいいよね?
後輩たちには背中を向けているから僕が今から何をするか見えない。
僕は、ユキちゃんの額にチュッと口づけを落とした。
『んなっ』
「僕を吃驚させた罰だよ」
にこりと微笑んで見せれば真っ赤な顔をして僕が口づけした箇所を両手で押さえた。
『下りる、下りる、下ろして!』
「はいはい」
『薬草採りの続きをしよう!まだ他の種類の薬草も採らなくちゃいけないんだから』
「そうだね」
消えていく胸の中のぬくもりを寂しく思いながら、僕はユキちゃんの言葉に頷いたのだった。
日が傾きかけてきた。
僕は屈んでいた体を起こして伸びをする。
固まっていた筋肉が伸びてバキバキと骨が鳴った。
ピーーーー
指笛を鳴らして集合の合図をする。
ガサゴソと、あちらこちらから後輩たちが姿を現す。
皆が揃うのは希だ。
だって、いつも集合をかけても誰かしら罠にかかっていて集合場所に来られないからだ。
「今日は本当に幸運な日でしたね」
乱太郎がニコニコ言う。
「乱太郎の言う通りだ。みんな罠にかからず、不運にも見舞われず薬草採りを終えられるなんて奇跡だよ!」
数馬が感激したように目をキラキラさせている。
僕を含めた皆の服は薬草を採取する際の土や汗で汚れているものの、酷く汚れたり、破れたりはしていなかった。
皆、平穏無事に薬草採りを行えたのだ。
「ユキさんが来ません~」
伏木蔵が不安そうに周りをキョロキョロした。
「そうだね。もう一度合図してみよう」
僕が口に指を持っていこうとした時だった。
目の前の茂みが揺れてユキちゃんが出てきた。
『ごめんね!遅くなって』
「ううん。怪我とかしてない?」
『大丈夫だよ。ちょっとね、珍しいキノコがあったからそれを観察してたら遅くなっちゃって』
「どんなキノコ?珍しい色のキノコ?」
「それとも変な形のキノコ?」
乱太郎と伏木蔵が聞く。
『えっとね、物凄く大きいキノコなの。木にくっついてて半円形の形をしていて、
まるで椅子みたいに見え「「「「「それどこにあったの(んですか)!?!?」」」」」
僕たちの勢いにユキちゃんが仰け反っている。
『えっと、あっちだけど・・・』
「案内して、ユキちゃん!」
『う、うん』
興奮する僕に驚きながらユキちゃんは先ほど来た茂みの方へと歩いていく。
森の中をどんどん進んでいくとーーーーー
「「「「「わああああ!!」」」」」
僕たちは歓声を上げた。
目の前にあるのは立派な大きさのサルノコシカケ。
『みんな凄い興奮しているね。これ、珍しいの?』
「珍しいなんてものじゃないですよ!これは本当に貴重な薬材なんですっ」
乱太郎が力を込めて言う。
「サルノコシカケは幻の生薬、万病を治す仙人の薬とも言われているんだ」
『そうなんだ!見つけて良かった』
僕の説明にニコリとユキちゃんが微笑む。
ユキちゃんが目を細めて見ているのはサルノコシカケの周りに集まって、キラキラした目ではしゃいでいる後輩たちの姿だ。
小さい子を見るユキちゃんの目は優しい。
子供好きなんだよね、ユキちゃんは。
「ユキちゃんは幸運の女神だね」
『なっ。女神だなんて恥ずかしいよ。幸運の地蔵くらいにしておいて。いや、自分を地蔵に例えるのもおこがましいか・・・』
ぶつぶつ言っているユキちゃんをふっと笑って、彼女の手を握る。
ユキちゃんが驚いたように顔を上げて僕を見た。
「後輩たち、大喜びしてる。ユキちゃんのおかげだよ。ありがとう」
『ううん。どういたしまして』
小さく口角を上げるユキちゃん。
君が好きだよ。
子供好きな君。
今僕は、子供が出来たら、こうして二人並んで子供たちがはしゃいでいるのを見守っているのかなって想像している。
君が好き
ユキちゃんと夫婦になったら、幸せな家庭を築けると思う。
あの温かい眼差しを子供たちに向けて、そして、僕にも向けてねーーーーーー
君は僕の未来のお嫁さんだよ、ユキちゃん。