第四章番外編
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彼を笑顔に
青い空、白い雲
今日は晴天。そして初夏のように暑い日だ。
それでも良い風が吹いて気持ちが良い。
ユキと半助は土曜日の午前中であるこの時間を縁側に座り、たわいも無いお喋りをしながらのんびりと過ごしていた。
そこへ、この良い気候にそぐわない空気を纏った少年が一人。
「おや。きり丸じゃないか」
半助が声をかけると、膨れっ面とも言える顔できり丸が顔を上げる。
『どうしたの?その顔。何かあった?』
ユキが手招きすると、きり丸はトコトコと二人のもとへとやってくる。
『不機嫌な理由はなあに?』
「僕、別に不機嫌なんかじゃないよ」
『嘘を言いなさい。膨れっ面で言われても“はい、そうですか”と納得できないよ。何があったか話してみなさい』
きり丸は少し口を尖らせて言おうか言わまいか迷った後、ユキと半助を見て「実は・・・」と話しだした。
「今日のアルバイト、なくなっちゃったんだ」
『それで悲しくなっちゃったのね』
きり丸の授業料はきり丸の養母であるユキときり丸が半分半分で出す事になっている。
だからきり丸はアルバイトで授業料を稼がなければならないのだが、彼自身、アルバイトをする事は嫌いじゃなかった。
銭稼ぎと銭数えが彼の趣味とも言える。
だがしかし、それにしても落ち込み過ぎている。
ユキは他にも理由があるだろうと、きり丸に問いただす。
「うん・・・実は、一年は組で忍術学園に残っているのは僕だけなんだ」
「みんな何処かへ出かけているのかい?」
「そうなんです」
乱太郎はしんべヱの実家へ遊びに行き、庄左ヱ門、伊助、団蔵、虎若は実家へ。
武家の兵太夫は金吾と一緒に兵太夫の家へ。喜三太と三治郎は白虎町に遊びに行ったそうだ。
「実家に行った子の家に押しかけるのは気が引けるし、だからと言って白虎町に行っても、あの町は城下町で広いから喜三太と三治郎に会えるか分からないし・・・」
しょんぼりと肩を落とすきり丸の前でユキと半助は顔を見合わせる。
そしてニコリ。二人は微笑みあった。
「それなら今日は私たちと過ごそう」
『一緒に何処かへ遊びにでも行こうか』
「え・・・いいんすか?」
『「もちろん」』
ユキと半助の言葉にきり丸の顔がパアァと輝いていく。
「やったー!」
両手を上げて嬉しさを表現するきり丸を前にユキと半助はニコニコと笑っていた。
「さて、では何処へ行こうか」
『今日は天気も良いし、川遊びなんてどうでしょう?』
「うん!川遊びがいい!」
「そうと決まれば早速出かける準備をしないとな」
『私は食堂でおにぎりを作ってきます。半助さんは外出届けを出しに行ってくれますか?』
「分かった」
『きりちゃんは川遊びで服が濡れた時の事を考えて予備の服を用意しておいてね』
「はーい」
『正門で待ち合わせしましょう』
三人はそれぞれ出かける準備をしにその場から去っていく。
一番時間のかかるユキが正門まで行くと、既にきり丸と半助が正門前で待っていた。
『お待たせしました』
「あれ?ユキさん男装だ」
きり丸がユキの服装を見て声を上げる。
ユキはきり丸たちと同じく袴を履いていた。
『山道を歩くからこの方がいいと思って』
「そっか」
『はい、おにぎり』
ユキがおにぎりの入った風呂敷を二人に渡す。
「ありがとう、ユキ」
「ユキさん、ありがとう」
『では、出発しましょう!』
小松田に見送られてユキたちは川を目指して歩いて行く。
「ユキ、大丈夫かい?」
目指す川は裏裏裏山にあった。
激しい上り下りの道を歩いていかなければならない。
ユキは息を荒くしながらも半助に微笑みを返した。
『最近体力がついてきたんですよ。まだまだ大丈夫です』
「そうか。でも、キツくなったら言うんだよ?休憩を取るから」
『はい。きりちゃんも大丈夫?』
「うん。僕も大丈夫」
ユキときり丸は角度のある上り坂を半助に手を引っ張ってもらって登りながら山を登っていく。
山登りは順調に見えたのだが、
『おわっと!?』
「ユキ!」
ユキが木の根に足を引っ掛ける。
しかし、ユキは地面に突っ込まなかった。
忍者である半助が俊敏に反応してユキを腕の中に受け止めたからだ。
『あ、ありがとうございます、半助さん』
「どういたしまして」
至近距離でニコリと優しく微笑まれ、ユキの心臓がドキリと跳ねる。
「気をつけるんだよ?」
『は、はいっ』
ニコニコと笑う半助を前に顔を赤くするユキは、彼の顔を見ていられずに下を向く。
『あの、えっと、半助さん・・・?』
おずおずとユキが言う。
「何だい?」
『そろそろ離して頂けると嬉しいのですが・・・もう、大丈夫なので・・』
「え!?あ、あぁ!す、すまないっ」
半助はユキを腕の中に閉じ込めたまま。
ユキに触れられた嬉しさで、ユキを離したくなく、無意識のうちに彼女を離さないでいたのだ。
その様子を見てやれやれと言った様子で首を振るきり丸。
「土井先生、ユキさん、イチャつくなら僕のいないところでして下さいよ~」
「っ!?きり丸!」
ユキに意識を集中しすぎて寸の間きり丸の存在を忘れていた半助は慌てる。
「二人の仲が深まるのは僕にとっては嬉しい事なんすけどね」
『「!?」』
ユキと半助はお互い気まずそうに顔を見合わせる。
「ユキ、すまなかった」
『い、いえ。助けて下さってありがとうございます、半助さん』
「ハハ。二人とも顔が真っ赤だ!」
『「きり丸!(きりちゃん!)」
指摘されたふたりの顔は、きり丸の言う通り、赤らんでいたのだった。
「二人とも、川までもう少しだ。行こう」
ゴホンと咳払いをしてから半助が言う。
『「はーい」』
再び歩き出す三人。
途中休憩を入れて川を目指す。
『あ!川の音が聞こえてきた』
「ホントだ」
一生懸命山道を歩いていた三人の耳にどこからか川の音が聞こえてきた。
少々バテてきていたユキときり丸の顔が明るくなる。
「二人とももう少しだ。頑張ろう」
『「はい!」』
半助に励まされてユキときり丸は山道を歩いていく。
そして薮を抜けたその先。
『わああ!』
「着いたーー!」
ユキときり丸は揃って歓声を上げた。
そこにはやや大きめの滝と涼しげな音を響かせる川が流れていた。
『喉からからっ』
ユキは走って行って川に竹筒を入れて水を掬い、水をゴクゴクと飲み干す。
『美味しー!』
きり丸と半助もユキに倣って竹筒で水を掬い、飲む。
二人とも水を飲んでぷはーと息を吐き出した。
『生き返ったって感じだよ』
「うん。ほんと」
十分に水を飲んだユキときり丸は満足気な顔で顔を見合わせる。
『さて、何をして遊ぶ?』
ユキが尋ねると、きり丸は背負っていた荷物から魚を掴まえる罠を取り出した。
「お昼ご飯に魚も食べたいなって思ったから罠を持ってきたんだ」
『きりちゃんありがとう!』
「じゃあ、三人で罠を仕掛けていこうか」
きり丸がユキと半助に竹で作られた罠を渡す。
『どの辺に仕掛けたらいいかな?』
「あの辺りに置いて」
『はーい』
罠をしかけた三人は、今度は石でダムを作って魚を取る罠を作ることにした。
「川の真ん中あたりにも罠を作ろうよ!」
きり丸が出来上がった罠の場所から離れて川の中央へと駆けていく。
『楽しんでくれているようですね』
「うん。きり丸が笑顔になって良かった」
ユキと半助は楽しそうに走っていくきり丸の背中に温かい眼差しを向ける。
「ユキさーん、土井せんせー!何してるんすか?早く、早くっ」
「今行くー!行こうか、ユキ」
『はい』
「転ばないように私の手を取って」
『ありがとうございます』
ユキは半助の手をはにかみ笑顔になりながら握って、川の中央へと歩を進めたのだった。
罠を仕掛け終わり、岸に戻ってきた三人。
「僕、少し泳ぎたいなぁ」
「滝壺のあたりなら泳げそうだぞ」
川の底は浅いが、滝壺のあたりは水深が深くなっており、更に滝が落ちる箇所以外の水面は穏やかだ。
『ねえ、きりちゃん。私と度胸試しでもしない?』
「度胸試し?」
『上から滝壺へジャンプするの』
「「えぇっ?!」」
二人から驚きの声が上がった。
「ユキさんには無理だよ、僕はやりたいけど・・・」
きり丸が眉を下げる。
「無理をするんじゃない。それにその格好で飛ぶ気かい?」
半助はユキの身の安全と、水中に入った後にユキがあられもない姿になるのを想像してこちらも眉を下げて言った。
『子供の頃、度胸試しで何度も滝壺に飛び込んだことがあるのよ。スリル満点で楽しかったのを覚えているわ。是非、あのスリルをもう一度味わいたい!』
そう言ってユキは腰紐に手をかけた。
「ななななななな何をしているんだ!?!?」
するっと衣服を脱ぎだしたユキに慌てて半助はユキから視線を逸らす。
するするとユキが服を脱いでいくのを見ていたきり丸は「あ!」と声を上げた。
「その格好はなあに?」
『水着って言うんだよ』
「水着?」
『水練をする時の服装。私の世界では一般的にこういう服を着て水の中で遊ぶんだ』
「ふーん。そうなんだ。土井先生、見ても問題ないっすよ。ユキさんの世界では
一般的な服装なんだって」
きり丸が半助の衣をちょいちょいっと引っ張る。
「み、見ても大丈夫なのかい?」
『はい、どうぞ』
ゆっくりとユキへと視線を向けた半助は・・・
「○!※□◇#△!?!?」
声にならない声を上げた。
その顔は真っ赤で鼻血を噴かないだけ奇跡だ。
ユキは半助の想い人。
好きな人のセパレートの水着姿を見て興奮しない男性はいない。
しかもここは室町時代。女性がそんな格好をするなんて考えられないのだ。
「ハハッ。土井先生には刺激的過ぎたようっすね」
「う、煩いぞ、きり丸!」
『半助さん、変ですか?』
「い、いや。そんな事ないよ。とても、似合っているよ、うん・・・でも、あああ!本当にその格好で泳ぐのかい!?」
頭を混乱させながら半助が言う。
ユキは半助の言葉にホッと息を吐き出して(似合っていないかもと不安だったのだ)
ぐーっと伸びをした。
『よし、きりちゃん。準備運動をしてから滝壺に飛び込むよ』
「うん!」
ユキは未だに混乱している半助を横目に準備運動を開始する。
きり丸も褌一枚になって準備運動をする。
『半助さんはどうします?』
「私は下から見ているよ。二人とも、くれぐれも気をつけるように。楽しんでおいで」
まだ顔を赤くしながら半助はユキときり丸を送り出す。
まったく、心臓に悪いよ・・・
半助は遠ざかって行くユキの後ろ姿を惜しい気持ちで見つめながらこう思ったのだった。
「うわー高―い」
きり丸が滝壺を覗き込みながら言う。
『怖くなった?』
「む。そんな事ないよ」
『じゃあ先に飛ぶ?』
「えっと、それは、ユキさんが先で」
うっと言葉を詰まらせた後言うきり丸にユキはクスッと笑った後、頷いた。
『それでは、雪野ユキ、飛びマース!えいっ』
ユキは鼻を摘んでポンと地面を蹴った。
ひゅんと風を切る音がユキの耳に聞こえてくる。
そしてザバーン
水しぶきを上げながらユキは滝壺へと落下した。
泳ぎの得意なユキは暫し水面下の水の泡が踊る様子を楽しんだ後、水面へと顔を出す。
「ユキ!大丈夫かい?」
『全然大丈夫ですよー!楽しかったですっ』
と言いながら手を振ったユキの顔が一瞬にして真っ青になる。
ない
ない!
上の水着がないっ!!
『ぎゃーーーー』
「ど、どうしたんだいっ!?」
どうやら水しぶきで半助のいる場所からはユキが上の水着を着ていないことが分からないらしい。
ユキは辺りを見渡した。
そして水色花柄プリントの水着がプカプカ浮いているのを発見する。
「あ・・・・」
半助が声を上げた。
ピシリと固まるユキの顔。
き、気づかれてしまった・・・・
しかも水着は半助が立っている岸へと漂着した。
拾うべきか拾わざるべきか
半助は足元の水着を見ながら固まる。
両手で胸を隠しながらユキがどうしたものか、と迷っていると、バシャーーンと水音が響いた。
「ぷはっ」
きり丸が滝壺へジャンプしたのだ。
「ユキさん、水着脱げちゃったの?」
『そうなんだよぉ』
ユキは泣きそうな顔でスイスイとこちらへ泳いでくるきり丸に言う。
「僕が取ってくるから待っていてね。土井先生は後ろ向いてなきゃダメですよ!」
「あ、そ、そうだなっ。きり丸、ユキの水着を頼む」
半助が慌ててクルリと後ろを向き、きり丸が水着を取りに行き、一件落着したのだった。
その後何度か滝壺ジャンプをして遊んだ二人は、今度は半助を混ぜて滝壺で泳いで遊んだ。
「おいで、きり丸。投げてやろう」
「わーい」
半助がきり丸の体を抱き上げてポーーンと放る。
バシャーンと水しぶきを上げて水面に落下したきり丸は顔を出して楽しそうに笑った。
「土井先生!もう一回!もう一回!」
せがむきり丸の言葉を快諾して半助は何度もきり丸の体を放り投げる。
ユキと半助は朝のしょんぼりしていたきり丸と、今の楽しそうに笑い声を上げるきり丸の様子を比較して、ここへ来て良かったと頬を緩ませる。
ぐーきゅるるる
きり丸のお腹の音が鳴った。
「えへへ。お腹減っちゃったや」
「お昼にしようか」
『そうですね』
「私は焚き火をする為に枝を集めてくるからユキときり丸は魚を頼めるかい?」
『「はい」』
ユキときり丸は半助が岸に上がっていくのを見送って、竹でできた罠を仕掛けている場所へと向かった。
「入っているよ」
弾んだ声できり丸。
『見せて、見せて!』
ユキがきり丸が持っていた罠を覗き込むと魚が数匹入っていた。
『なんの魚だろう?』
「アユとワカサギだよ」
『きりちゃんは物知りだね』
「魚を捕まえて町で売ったりしているからね」
胸を張ってきり丸が言う。
二人が竹でできた罠を全て取って岸に上がると半助が火を起こしたところだった。
「石で作った仕掛けにかかった魚は土井先生も一緒に取りましょう。三人いた方が追い込みやすいですし」
「そうだな」
三人は石で作ったダムへと向かっていく。
そこには数匹の魚が泳いでいた。
「僕はこっちから追い込みますね」
「じゃあ私はここに立とう」
『私はここに立つね』
三人はじりっ、じりっと魚を追い込んでいく。
パッと手を水の中に入れるきり丸。
しかし、
「あっ逃げられた」
魚はきり丸の手をすり抜ける。
「土井先生!」
「任せろっ。それ!」
『捕まった!』
わーっときり丸とユキが拍手する。
三人は歓声を上げながら魚を追い込み、掴まえる。
叫んで、笑って、三人は夢中になって魚を追いかけた。
「ふう。これで全部かな」
半助が手の甲で額の汗を拭きながら言う。
「お昼だー」
『お昼ご飯だーー!』
ユキときり丸が思い切り拳を宙に突き上げる。
パチパチパチ
木が爆ぜる音。
三人は焚き火を囲んで焼けた魚をぱくりと食べる。
「おいふぃいっ」
きり丸が口いっぱいに魚をほおばって破顔する。
「旨いな」
『そうですね』
半助も笑顔。
ユキも頬に手を当てて顔を緩ませる。
「おにぎりはユキさんが作ったの?」
『そうだよ。おにぎりだけは失敗せずに作れるからね』
きり丸にパチリとウインクするユキ。
おにぎりは梅こんぶ、鮭、おかか。
「良い握り加減だ」
半助がユキに微笑む。
『おにぎり一つで褒められるなんて。なんか、照れます』
「でも、美味しいよ」
パクリとおにぎりにかぶりついてきり丸も言う。
ユキは二人の言葉に嬉しくなりながら自分もおにぎりにかぶりついたのだった。
「そろそろ帰らないとな」
服に着替え、荷物をまとめる。
「なんだか寂しいなぁ。もっといたかった」
きり丸が名残惜しそうに川を見つめる。
『また何時でも来られるよ』
ユキがきり丸に笑いかける。
「本当?」
『うん。ホントにホント』
「土井先生も?」
「うん。約束するよ」
ようやく笑顔になるきり丸。
「えへへ。嬉しいな」
『おわっと』
「おっと」
きり丸はふたりの間に走ってきて、ふたりの手を取った。
勢いよく手を取られた二人は若干体勢を崩す。
やや驚いた顔できり丸を見た二人は、彼の顔に笑顔の花が咲いているのを見て
自然と自分たちも笑顔になった。
きり丸を挟んで顔を見合わせる二人。
きり丸が笑顔になる休日を送れて良かった。
二人は同じ事を思いながら手を繋ぎ、帰路へと着いたのだった―――――
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
相互記念で時計うさぎの逆ハー中毒の時計うさぎ様へ捧げます。
時計うさぎ様のみお持ち帰り&掲載OKです♪