第四章 雨降って地固まる
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27.潮騒は遠くへ
留三郎と浜辺で酔いを覚ました私はすっかり酒が抜けた。
私はぐいっと身を起こして立ち上がる。
『よっしゃ!飲み直す』
夜空に向かって拳を突き上げる。
「なにいいい!?これ以上はダメだって言っただろ!?」
『私の消化酵素がアルコールを分解したのですよ。まだまだ私はいけーる!』
フハハハと高笑いしながら私は小屋へと戻っていった。
「どこいっていたんですか~ユキさ~~ん」
網問さんがやって来て、私の手を引いてくれて水軍さんの輪の中に引っ張っていってくれる。
それから私はどんどん飲んで
どんどんどんどん飲んで
どんどこどんどこ飲んで
『ありゃ?』
気づいたら、周りが静か。
小屋を見渡せば忍たまが全員酔い潰れていた。
『危ないからお皿とか片付けましょうか』
水軍さん、先生方と一緒に食器類を片付ける。
あぐらのまま寝ていたり、壁に寄りかかって寝ている忍たまがいるので、肩を叩いて横たわるように促す。
「ふふっ。ユキちゃんも一緒に」
『ひいぃっ』
伊作くんを床に寝かせている時に腕を引っ張られて彼に抱きしめられた。
しかし、即効で半助さんの拳骨が飛んできた。
ゴチンッ
「い、痛たいですよ土井先生~。そんな本気で叩かなくても」
頭を両手で押さえる伊作くんは涙目。
「酔ったフリして抱き込もうとするからだ!反省しなさいっ」
『そうだそうだ。反省しなさい。そして大人しく寝なさい』
「ユキちゃん隣にいてくれないの?」
「善法寺いいぃ?」
「ひっ。な、なんでもありませんっ。お休みなさい!」
半助さんが二度目の拳骨を落とそうとしているのを見て、慌てて伊作くんは横になって目を閉じた。
『ふふっ。おやすみ、伊作くん』
食器類が全て綺麗に片付けられ、忍たま全員が床にごろ寝した。
先生たちは順番を決めて寝ることにしたようだ。
ふと見ると、さすがの水軍さんも眠そうに目を擦っていた。
『重さんも鬼蜘蛛丸さんも横になってください』
「ん~~~はぃ」
「眠い・・・うーん・・・」
促すと、二人共ごろんと横になった。
「ユキさんはどうするんですか?」
こそっと義丸さんが聞いてくれる。
『私は外で一人晩酌でもしようかと』
「それなら付き合いますよ。一晩中ね」
『無理しないで下さい。義丸さんも眠そうですよ?』
「この表情はユキさんの美しさにうっとりしているんです」
『ハハッ。もう、ホント義丸さんはお上手なんだから』
草履を履き、厨房でお酒とおつまみを調達して外へ出る。
小屋の隣に救護所に使っていたござがまだ敷いてあった。
私と義丸さんは草履を脱いでござに上がり、足を伸ばす。
「ユキ?」
『半助さん』
さて飲もうかというところで半助さんが小屋から出てきた。
『どうされました?』
「ユキがいないのが気になって」
『お気遣いありがとうございます。義丸さんが夜通しお酒に付き合って下さるって言って下さっているんです』
「私も混ぜてもらっていいですか?」
『勿論ですよ。ね?義丸さん』
「うーん。俺としてはユキさんと二人が良かったんだけどなぁ」
ぐいっと私の肩が義丸さんに抱き寄せられた。
『もうっ。義丸さんったら』
ポンポンと彼の伸ばしていた足を軽く叩いて肩の手を離してもらう。
私たちは、半助さん、私、義丸さんの順でござに足を伸ばして座っていた。
『星空の下で一杯ってのも良いですよね~』
「ハハハ。ユキはお酒が強すぎるよ」
半助さんが苦笑する。
「俺たち水軍もついていけませんでした。相当なものですよ、ユキさんの酒豪っぷりは」
義丸さんの言葉には苦笑するしかない。
私は苦笑いを浮かべながら、くいっとお酒を飲んだ。
ちなみに、宴会中盤からはお酒をより多く楽しむためにお猪口ではなく升で飲んでいる。
『半助さん、まだ飲めます?』
「いや、よしておこうかな・・・」
『そうですか。義丸さんは?』
「俺は頂きます」
トクトクトクとお酒を義丸さんに注ぐ。
すると、体の前に升が現れた。
『半助さん?』
「やはり私も貰おう」
『無理しちゃダメですよ?』
「無理などしてないさ」
なんだかちょっと意地になったように言いながら升を突き出す半助さん。
大丈夫かな~と思いながら半助さんの升にお酒を注いだ。
ぐいぐいぐいっ
半助さんが一気にお酒を飲み干す。
『ちょ!?無理し過ぎですって!』
「ユキは私がこのくらいれ酔っ払うなんふぇ思っているのふぁい?」
そう言う半助さんは・・・うん。ガッツリ酔ってる!
目が完全に据わっているし、呂律も回っていない。
多分だけど、義丸さんに対抗してお酒を飲むって無理して言ったんだろうな。
男の人って変なところで対抗意識を燃やすから。
やれやれと思っているとトンと左肩に重みが来た。
左を見ると肩に義丸さんの頭が乗っていた。
『義丸さん?』
「すーすー・・・」
おおいっ寝てるんかいっ!
『義丸さんっ。わわっ』
義丸さんの体が私に倒れ込んでくる。
『は、半助さん、手伝ってーーーってコッチも寝てるうううぅ!?』
半助さんがガクリと頭を垂れてスヤスヤと眠っていた。
私もガクリと頭を垂れる。
もう~~半助さんも義丸さんも夜、外で寝る私の安全を考えてついてきてくれたんじゃないんですか!?
女だから忍たま下級生が寝ている船には乗れない。
小屋は水軍さんと忍たま上級生、先生方がいる男の園。
未婚の女として小屋の中で男の人達に混ざってごろ寝は如何なものかというわけで。
義丸さんも半助さんも優しいから、外にいる選択をした私の安全を考えて眠いのに一緒にいると言ってくれたのだと思う。
だけど・・・だけど・・・耐えられなかったのですね・・・。
いいんですよ。そのお気持ちだけで十分です。
酒馬鹿な私についてこようとして下さっただけで嬉しいです。
『よし!ふぐぐっと』
私は義丸さんの体に手を回し、全身の筋肉を使いながらゆっくりと地面に倒れていった。
無事にどこも打たずにござに仰向けに寝た義丸さん。
こちらはこれでオーケー。
続いては半助さんだ。
手に持っている升を取り去り、義丸さんと同じように抱きつくようにして半助さんの体に手を回し、ゆっくりと地面へ倒していく。
ぐぐ。腹筋が痛い。
男の人の、意識のない男性の体重を支えるのは予想以上に大変なものだ。
それでもどうにか半助さんを横たえることに成功した。
ほっと息を吐きながら背中に回していた手を引き抜いた時だった。
パチリ。半助さんが目を開けた。
『ヒッ!あの、えっと。これは襲っているわけではなく!』
ダラダラと冷や汗を流す私。
今の状態を説明すると、私が半助さんに馬乗りになっている状態だ。
半助さんの顔の両側に手をついて。
『すぐどきます!』
「いや」
『え?』
トスン
私は半助さんに背中に手を回され、半助さんの方へ引き寄せられた。
そのままぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
『は、半助さん!?』
「やっとだよ」
『へ?』
「ずっと、ユキと触れ合う時間が欲しいと思っていた。今日だけの事じゃない。普段の日々も含めてだ。
君はいつも忙しそうに走り回っているか、子供たちに囲まれていて・・・ようやく今、こうして触れ合える。やっと願いが叶った」
『く、くすぐったいです、半助さんっ』
半助さんが耳元に囁くから、こそばゆくって身を縮める。
そんな私の様子が面白かったのか、半助さんは「ふふっ」と悪戯っぽく笑う。それから急に真剣な声になって、
「今日も嫉妬したよ。ユキの口づけが褒賞になるなんてね。水軍さんまでその権利を獲得してしまうし。我々教員にも!と何度叫ぼうかと思ったよ」
と言った。
『んっ』
ぺろりと耳が舐められた。
反射的にピクっと反応してしまう。
『こら。いい加減、っ!?』
ぐるんと視界が反転した。
下にあったはずの半助さんの顔は私の上にある。
半助さんの顔の後ろには満点の星空が輝いている。
ようやく私は半助さんに組み伏せられているのだと理解した。
「無理強いはしないって約束した。でも・・・額くらいにはいいかい?」
私は答える暇を与えられなかった。
少しかさっとした唇が、でも優しく、私の額に口づけられる。
『半助さん・・・』
「好きだよ、ユキ。大好きだ。狂おしいほどに・・・」
『は、半助さん、そう言って頂けるのは光栄って・・・え――――』
私の顔がサッと青くなる。
半助さんの顔が近づいてきたのだ。
白目を剥いて。
引き攣る私の顔に半助さんの顔が降ってくる。
私は思い切り顔を捩った。
ドスっと半助さんの顔がござに突っ込む。
おおおいいっ寝るんかああああいいっっっ!!!
私は額に手をやってハアァと溜息を漏らす。
『良い雰囲気だったんだけどねぇ』
よいしょっと半助さんのからだを横に転がす。
スヤスヤと眠る半助さんと義丸さん。
『お二人共、良い夢を』
ぷにっと半助さんの頬を啄いてクスっと笑って。
私は升にお酒を注いで、ぐぐっと飲んだのだった―――――
松前漬けを食べながらお酒を楽しんでいた時だった。
「雪野ちゃん」
兵庫第三協栄丸さんが小屋から出てきた。
「気づくのが遅くなってごめんね。中に衝立を立てたから中で寝るといいよ」
『お気遣いありがとうございます!』
わざわざ衝立を用意して下さったんだ。
せっかく用意して下さったのだから中で眠らせて頂こう。
私のスペースは衝立で部屋の角に作られていた。
衝立の傍に人はいない。気を使って皆さん衝立から距離を置いて下さったようだ。
『ありがとうございます。おやすみなさい、皆さん。今日は凄く楽しかったです』
「おやすみ、雪野ちゃん」
まだ起きていらっしゃる数人の水軍さんに頭を下げて、私は衝立の後ろに下がらせてもらったのだった。
ん・・・ご飯の匂い?
目を開けてむくりと体を起こす。
衝立から顔を出すと、兵庫第三協栄丸さんや数人の水軍さんが朝ごはんを作って下さっていた。
『わわっ。お手伝いします!』
慌てて衝立から出て行く。
昨日からお世話になっていっぱなし。朝ごはんのお手伝いくらいしなくっちゃ。
「おや、雪野ちゃん、おはよう」
『直ぐに顔洗って身支度整えてきます!』
「ゆっくりでいいよ~」
私は急いで井戸で顔を洗い、新しい小袖に着替えて小屋へと戻る。
『お待たせしました』
「ユキさんは俺とおにぎりを作りましょう。ちょうどご飯が炊けたところなんです」
重さんが自分を指さしながら話しかけてくれる。
『はい!よろしくお願いします』
ご飯をよそったおひつを、外の腰の高さくらいまである長机の上に置く。
そして私たちはおにぎりを握っていった。
『熱っ熱っ』
「火傷しないように気をつけて下さいね」
シンプルな塩むすび。
昨日あんなに食べたはずなのに、熱々の塩むすびを見ているとお腹がキュルルと鳴ってしまう。
おにぎりを握っていると、賑やかな声が聞こえてきた。
水軍さんの船から忍たま下級生たちが降りてきたのだ。
「わー美味しそうなおむすびだ~」
一番にやってきたのはしんべヱくんだ。
「ユキさん、重さん、おはようございますございます」
『おはよう、乱太郎くん』
「おはよう」
「ユキさん昨日は飲み過ぎなかった?」
『うん、きりちゃん。楽しませてもらった。とだけ答えておくよ』
ニシシときりちゃんに笑いかける。
次第に小屋で寝ていた忍たまや先生たちも起き出してきて。
そしてこの二人も――――――
「ユキさんおはようございます」
『おはようございます、義丸さん』
「あなたの守り役のつもりだったのに先に落ちてしまって」
「私の方も寝てしまったよ」
半助さんも肩を竦める。
『二人共可愛い寝顔でしたよ』
ニヤーっとした笑顔で言う。
「ハハッ。恥ずかしいな」
頭を掻く義丸さん。
「義丸の兄貴ー。おはようございます。ちょっといいですか?」
「おうっ」
航さんに呼ばれて義丸さんは小屋へと入って行く。
「あ、塩の追加持ってきます」
重さんも小屋へと入っていった。
ぐーっと伸びをしていると、半助さんに名前を呼ばれる。
『何でしょう?』
「昨日のこと」
『え?』
「私は覚えているよ」
パッと顔が赤くなるのを感じる。
そんな私を見て半助さんは微笑みながら「お酒の力は借りたけど、嘘を言ったわけではないからね」と私に囁いた。
は、半助さんったらあの後眠ったからその前の記憶もないと思ったのに!
昨日の半助さんの情熱的な言葉を思い出すと赤面だ。
「ユキさん塩お待たせしましたって、どうしました?顔赤いですよ?」
『え、いや。何でもありません。さあ、握りましょう!』
私は不思議そうに首を傾げる重さんに見られながら昨日の甘くて恥ずかしい出来事を追い払うようにおにぎりを握ることに集中したのだった。
その後はみんなでおにぎりとお味噌汁の朝ごはんを食べた。
お味噌汁は昨日の海鮮の殻や魚の頭を出汁に使っていて凄く美味しかった。
海軍さんにくノたまちゃんや学園に残った皆へのお土産をもらい、
別れを惜しんでくれる水軍さんにまた来させて下さいとお願いして帰路へ。
下級生は船の上と慣れない場所での就寝だったが意外と大丈夫だったらしく元気いっぱいに歌など歌いながら歩いている。
上級生の大半は何かしら二日酔いの症状が出ていて、下級生と比べると静かに歩いていた。
朝早くに出発したのでお昼前には忍術学園に到着。
そこで各自解散となった。
お腹が減った下級生は賑やかに食堂へと駆けて行った。
「飯か。食べた方がいいんだろうが・・・」
留三郎が気持ち悪そうに胸を摩った。
『お粥作るよ。必要な人も多そうだし』
「お、いいのか!ありがとな」
私はおばちゃんからご飯を分けてもらってお粥を作ることにした。
ちょっと水っぽかったのはご愛嬌としておこう。
二日酔いの上級生は私のお粥を喜んでくれた。
元気に帰り道を歩いていた下級生も忍術学園に着いた安心感とプチ旅行の疲れが出たらしく、昼寝をしに自室へと引き上げていった。
二日酔いの上級生も体を休めるために部屋へ。
食事をした私はお風呂を沸かして入り、自分の部屋へと戻る。
『はふっ』
お布団を敷いて寝っ転がると自然と口から息が漏れる。
柔らかいお布団はホッとする。
ウトウトとまどろんでいた私の視界が歪んでいく。
歪んでいく視界の中に人・・・・人!?!?
私はカッと覚醒して飛び起きた。
「おはよーございまーす」
『き、喜八郎くんっ!?!?』
ドキドキする心臓を押さえながら目の前の人の名前を叫ぶ。
喜八郎くんは私が寝ていた隣に今も転がっている。
しかも寝巻きをしっかりと着て。
『何やっているの!?』
「添い寝に来たんです~」
『は?』
「だーかーらー添い寝ですよぉ」
聞こえてるよ。聞こえなかったって意味の『は?』じゃないよ。
君の突飛な行動に驚いて聞いているんですよ私は!!
『なんで添い寝だなんて・・・喜八郎くんは四年生だから一緒には寝られないよ?』
「今日は特例だからいいんです」
『特例!?』
「僕、旗取り競争で一番になったでしょ?」
『あ、うん。一回目の旗取りで一番になっていたね』
え・・・うんと・・・
で?
だから!?
「だから添い寝でユキさんとお昼寝するんでーす」
そう言って喜八郎くんは私に横になるようにペシペシと布団を叩いた。
「もう少し端につめて下さい。僕、布団からはみ出ちゃってます」
『あ、ごめんね。詰めるね、っじゃないわ!旗取りで一位になったから私と添い寝。そんな方程式は成り立ちません!』
「えー」
『えーじゃない。出て行きなさい』
「出ていけだなんて酷い」
うっと口を引き結んで泣きそうな顔をする喜八郎くん。
心が揺らぐ・・・けど、ダメだ。しっかり断らねば。
『そもそも喜八郎くんは旗取りの褒賞として有平糖をもらったでしょう?』
「僕は有平糖よりユキさんの口づけのほうが良かったの!」
プンスカ怒って喜八郎くんが言った。
「でも、口づけしてくれないでしょう?」
『うん。しない』
「だから、その代わり添い寝」
・・・ダメだ。理解できない。
宇宙脳だ。
私は喜八郎くんの思考回路についていけません!
『出てい行かないと怒ります!』
「怒っても出ていきませんっ」
喜八郎くんが私の枕をギュッと抱きしめて膨れっ面を作った。
私はどうすればいいんだ・・・
正直、昨日は遅かったし寝たいのですが。
「ユキさん、ちょっとでいいから」
ウルウルとした目で見上げられればそりゃあ心も揺れるもので。
しかし、添い寝はダメだと冷静な部分の頭は考えているので、どうしようかと考えていた私は昨晩のことを思い出した。
『添い寝じゃなくて膝枕だったらダメ?』
「う~ん」
瞳を上に向けて考えていた喜八郎くんは私に視線を戻して「分かった」と頷いた。
布団を壁際に寄せて、私は壁に寄りかかって足を伸ばす。
私の太ももの上に足と垂直に八郎くんが頭を乗せる。
「ユキさん良い匂い」
『お風呂に入ったからね』
「撫でて下さい」
『はいはい』
ゆっくりと、喜八郎くんの頭を撫でる。
髪の毛が艶々ですんなりと指が髪に通った。
普通は撫でられている方が心地よくなるはずなのに、私の方が心地よくなって。
だんだんと瞼が重くなっていった―――――
ストンとユキの手が喜八郎の顔の横に落ちる。
「おやまあ」
喜八郎は閉じていた目をパチリと開けて、ユキを見上げた。
頭を落とし、規則正しい寝息をたてている。
「守りの堅いユキさんが珍しい」
喜八郎はそう呟いて起き上がった。
ユキは下級生と寝たりお風呂に入っているがピシッと線を引いていた。
お風呂は二年生まで。一緒に寝るのは三年生まで。例外はない。
四年生以上の忍たまの事は一人の男性として扱っていて、隙を見せない。
くノたま上級生のように色を使って誘惑してくる事もないので、ユキが忍たま上級生に色気を見せてくることはなかった。
そういった事がないように気をつけていると見受けられた。
喜八郎は暫しユキの寝顔を観察する。
そして、そっとユキの顔に唇を寄せた。
一瞬の出来事。触れるだけの口づけ。
ユキは今回の旅で疲れが溜まっていたのだろう、起きる気配はない。
喜八郎はユキを抱き上げて、布団に横たえた。
掛布団をかけてやり、二度ほど頭を撫でる。
「一緒の布団には入らないから、いいでしょう?」
返事の返ってこない問いかけをして、喜八郎はユキの布団の横の床に寝転んだ。
それから布団の中に手を入れて、ユキの右手を布団の中から出す。
その手を両手で包み込み、甘えるように頬を寄せた。
ユキの寝顔を見ている喜八郎の瞼も次第に重くなっていく。
五分(ぶ)(十五分)後には喜八郎も夢の中。
青い海が見える
「ユキさん」
『なあに?』
「手出して?」
『ん?』
ユキの両手に乗せられたのは巻貝。
『わあ!真っ白で綺麗だね』
「あげます」
『ありがとう!』
巻貝に耳をつけるユキに喜八郎が不思議そうな顔をする。
「何しているんですか?」
『貝に耳をつけると海の音が聞こえてくるんだよ?』
「ホントに?」
訝しげな顔をする喜八郎にユキはニコリと笑って巻貝を差し出す。
「あ、ホントだ」
喜八郎の耳にも波の音のようなものが聞こえてくる。
『今日の思い出になるね。ありがとう、喜八郎くん』
喜八郎から返された貝を両手で優しく包み込むユキ。
潮干狩りの最中にあった出来事。
二人はこの時の事を偶然にも夢見ていた
同じ夢の中で砂浜に立ち
肩を並べて、遠い水平線を眺める
夢の中で、潮騒が響いていた―――――
第四章 雨降って地固まる 《おしまい》