第四章 雨降って地固まる
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
25.夏の海 中編
「今から旗取り競争をするぞ!」
小平太くんが小さな旗をブンブン振りながら皆に呼びかけた。
「同じ学年で四人から六人で組を作り、約二十メートル先の砂浜に刺した旗を取り合ってもらう」
砂浜に刺した旗に足を向けてうつぶせに寝る。笛の合図の後、旗に向けて走り、旗を掴む。と小平太くんが説明をした。
「旗を取ったものには優勝褒賞として有平糖が一粒贈られるぞ!」
「わ~有平糖だって!じゅるる。美味しそう~」
小平太くんの言葉を聞いて、しんべヱくんが瞳を煌めかせた。
「では、くじを引きに来てくれ」
わいわいがやがや。
早速くじ引きで組み分けがされる。
まずは一年生から。
乱太郎くん、兵太夫くん、喜三太くん、佐吉くん、怪士丸くんが最初の組だ。
金吾くんと三之助くんが長い紐の端と端を持ち、砂浜にくっつけてスタートラインを作っている。
選手が走るコースの横には忍たまたちが応援のために並んでいる。
『みんな頑張れー!』
ゴール近くから声を飛ばす。
「いくぞ!位置について。よーい」
ピー!
笛と同時に五人一斉に立ち上がった。
「わわっ」
不運な乱太郎くんが足元の紐に足を引っ掛ける。
「乱太郎!落ち着いて!まだ巻き返せるよっ」
伊作くんが声を張り上げる。
乱太郎くんは転ばずにすんだ。何とか体勢を立て直してみんなの後を追う。
わあ!早い!
出だしで躓いたのに見る間に皆との距離を詰めていき、ついには追い越してしまった。
「えいっ」
乱太郎くんが旗に向かって飛ぶ。
すぐ後ろに続いていた喜三太くんも飛んだ。
勝ったのはどっちだろう?
背伸びをして勝敗の行方を見ていると「取ったー!」と明るい声が上がった。
乱太郎くんが旗を頭上に掲げながら立ち上がり、満面の笑みで笑う。
「一組目の勝者は猪名寺乱太郎でした!」
滝夜叉丸くんのアナウンスの後、見ていた皆から惜しみのない拍手が送られる。
「はい、有平糖だよ、乱太郎」
「ありがとうございます、時友四郎兵衛先輩。ん。甘~い」
乱太郎くんは有平糖の甘さに頬に手を当てて表情を緩めた。
「さすが乱太郎だな」
「有平糖欲しいから僕も頑張ろうっと」
「二人のこと応援しているね」
乱きりしんの会話を微笑ましく見ていると「うぅっ」と辛そうな声が耳に届いた。
声の方へ目を向ければ喜三太くんが目をゴシゴシしながらフラフラとこちらへ歩いてきていた。
『喜三太くん?』
「あ、ユキさん」
『もしかして目に砂が入っちゃったの?』
喜三太くんが目からポロっと涙を零しながら頷いた。
『おいで。水をもらって目をすすぎに行こう。だから擦るのは我慢ね?』
「うん。分かった」
喜三太くんの手を引いて兵庫水軍さんの小屋へと入っていく。
『すみませーん』
「おや、ユキさんどうしました?」
網問さんが聞いてくれる。
『この子の目に砂が入ってしまって。桶に水を頂けると嬉しいのですが』
「桶はここにあります。井戸は小屋の裏手にあるのでご案内しますね」
網問さんは親切にも井戸の水を汲み上げて下さった。
喜三太くんは桶に顔を突っ込んで目をパチパチ。
『さっき小屋に入った時、凄く良い匂いが漂っていました』
「兵庫水軍総出で腕によりをかけて作っていますから楽しみにしていて下さい。
あ、そうそう。後で小舟で沖に出てサザエ、ホタテ、アワビなんかを捕ろうって話になったんです。
小舟で出かけるので、良かったらユキさんも一緒にどうですか?」
『是非一緒に行きたいです』
「良かった。先ほどは船に乗って頂くことが出来なかったから少しでも船遊びを楽しんでもらえたらと思っていたんです」
『ありがとうございます。楽しみにしていますね』
素潜りでサザエやホタテを捕るのか。
なかなか出来る体験じゃないよね。楽しみだな。
「ユキさん。もう痛くない」
喜三太くんが私の上衣を引っ張った。
『良かったね』
「うん!」
『網問さん、ありがとうございます』
「ありがとうございました」
目がすっきりした喜三太くんも頭を下げる。
「どういたしまして」
『他にも同じような子がでると思うのでこの桶借りていっていいですか?』
「もちろんです」
『ありがとうございます』
私は水を張った桶を借り、網問さんと分かれて喜三太くんと砂浜へと戻ってくる。
「喜三太どこいってたの?」
「あ、団蔵。目を洗いに行っていたんだ」
「そうだったんだ。今から上級生の競争が始まるよ。きっと迫力あるよ。一番前で見よう」
「うん!ユキさんも一緒に行こう?」
『私は背が大きいからここで見るよ。喜三太くんは前へ行っておいで』
「分かった!じゃあね」
喜三太くんが団蔵くんの隣へ移動していく。
私の前には一年ろ組の子たちが並んでいた。
『ろ組のみんな、体調はどう?強い日差しでくらくらしていない?』
「「「「大丈夫で~すぅ」」」」
振り向いた一年ろ組の皆はニコリと笑った。
『あら?孫次郎くん、もしかして有平糖食べてる?』
「はい!勝ったんです」
ふにゃりと表情を崩して孫次郎くん。
「ろ組で唯一の一番だったんですよ」
平太くんが自分の事のように誇らしそうに教えてくれる。
『凄いね』
孫次郎くんの頭を撫でると嬉しそうに表情を崩すのが可愛い。
「続いては四年生の番だ!」
小平太くんの声に視線を砂浜に戻す。
こちらに足を向けて砂浜に寝そべる五人の姿。
「よーい」
ピーーー
金吾くんの声と小平太くんの笛の合図で四年生五人は一斉に立ち上がった。
「突っ走れーーー」
「一番はこの滝夜叉丸の手に!」
「いーや。一番はこの学園のアイドル田村三木ヱ門にこそふさわしい」
「無駄口叩いていると置いていくよっと」
「おっ先―」
燃えている守一郎くん、こんな時でも自己主張な滝夜叉丸くんと三木ヱ門くん、そんな二人を追い抜かすタカ丸くんと喜八郎くん。
勝利は誰の手に?
四年生が一斉に旗目掛けて飛んでいった。
ズザザっと砂が舞い上がる。
「うえっ。砂が口に入った」
「この美しい滝夜叉丸が砂まみれとは!」
「うぅ。目が痛い」
口に砂が入って顔を顰める守一郎くん、髪の毛についた砂を払い落とす滝夜叉丸くん、目を擦る三木ヱ門くん。
「あれ?旗はどこ?」
「ここですよー」
タカ丸くんの声にのんびりとした声が返ってくる。
守一郎くん、滝夜叉丸くん、三木ヱ門くん、タカ丸くんが見上げると、旗をふりふりしている喜八郎くんの姿があった。
「四年生の勝者は綾部喜八郎先輩です!」
三之助くんの声に拍手が沸き起こる。
「ん。有平糖美味しい」
普段表情から感情の読めない喜八郎くんだが、有平糖は口に合ったらしい。
目尻を下げて微笑みを浮かべた。
「痛たた~」
『三木ヱ門くん、こっち。水があるから目を洗って』
「ありがとうございます、ユキさん」
三木ヱ門くんが目を洗っている間に五年生の準備が始まる。
「続いて五年生の皆さん準備してくださーい」
金吾くんが呼びかけている。
スタートラインで屈伸や足を伸ばして準備運動をする五年生はやる気十分。
全員が砂浜に腹ばいになった。
よーい。ピーーー
五年生のレースの始まりだ。
全速力の上級生の様子を見ることは滅多にない。
みんな早い、早い。
砂浜は走りにくいだろうに、それを意にも介さない。
「もらった!」
八左ヱ門くんが叫んだのが聞こえた。
舞い上がる砂。
折り重なって倒れている五年生は皆、全力を尽くしたようだ。
重なって倒れていた五年生が順々に降りて行き、最後に立ち上がった八左ヱ門くんの手に
旗があるのが見えた。
パチパチと見ていた忍たま、先生たちから拍手が沸く。
「続いては六年生です」
三之助くんが呼びかける。
スタートラインに立った六年生たち。
仙蔵くんが手を挙げた。
「立花仙蔵先輩どうされましたか?」
金吾くんが首を傾げる。
「勝った時の褒賞について意見がある」
「意見ですか?」
滝夜叉丸くんが聞く。
ニヤリと口角を上げる仙蔵くん。
「あぁ。私は正直、有平糖はいらない。代わりに、私が勝った時にはユキから勝者への祝福の口付けをもらいたい」
「「「「「「えええーーーー!!!」」」」」」
忍たま、先生方、もちろん私も絶叫した。
「私は賛成だ!いい案だな仙蔵!」
小平太くんが腕をぐるんぐるん回しながら二カッと笑い、
「俺は別にユキの口付けなんか欲しくなんかない。め、迷惑なだけだ」
「それなら留さんが勝った時は有平糖ね」
「うっ・・・いや、その、ルールなら仕方ないとも思うけど、な・・」
「ユキの意思を無視した取り決めは反対だ!」
『いいぞ文ちゃんもっと言ってやれ!』
「私に意見する気か?」
「ユキちゃんも文次郎もぐだぐだと男らしくないよ?」
ピシリ。
黒いオーラを背負う仙蔵くんと伊作くんの迫力に私と文ちゃんは声を詰まらせて仰け反る。
そしてもし、伊作くんに言わせて頂けるのなら私は女だ。
男らしくないという表現は間違っている!とは黒い気迫に押されて言えませんでした。
「ユキの口付け・・・競争を頑張れる気がする・・・」
長次くんが頬を染めてモソモソと言った。
『はいっノックアウトー!長次くんに雪野ユキはノックアウトです。口付けしましょう。むしろさせてくれ長次くんっ』
私は自分の体を抱いて身悶える。
そんな私から距離をおいていく私の周りで見ていた下級生たち。
「六年生だけズルいと思いますっ。僕だって有平糖よりユキさんのチューの方がいい」
喜八郎くんが頬を膨らませて抗議。
「ユキの口付けが褒賞になっていたらもっと頑張れていたのに!」
「そうだそうだ!」
三郎くんと勘右衛門くんが拳を上げて叫ぶ。
「それなら四、五年生は勝負を仕切り直ししたら良いであろう?」
仙蔵くんの提案に四、五年生の一部から歓声が上がる。
『金吾くん、有平糖ってまだある?』
「ありますよ」
『良かった。私の口付けなんて褒賞にならないどころかセクハラでしかないと感じる子もいるから、その子には有平糖をあげてね』
六年生の準備が整った。
滝夜叉丸くんが笛を口に咥え、三之助くんが息を吸い込む。
「よーい」
ピーーーー
六年生が一斉に走り出した。しかしーーー
ボンッ
焙録火矢が弾けて灰色の煙がレース上に広がった。
カキンッ カンッ ガンッ
一体何が起こっているのでしょう?
煙が薄くなって見えたのは、それぞれの得意武器で戦っている六年生の姿だった。
お前らレースのルールガン無視かいオオオイイィ。
「目潰しっ」
伊作くんが砂を握って仙蔵くんの顔に投げた。
「くっ!」
不意打ちだったらしく目を押さえて動きを止める仙蔵くん。
戦う長次くん、小平太くん、文ちゃん。のとばっちりを受けて後頭部を打った伊作くんがバタンきゅー。
六人の中から一人が抜け出して旗を目指す。
そしてーーーー
「勝者は食満留三郎先輩です!」
滝夜叉丸くんが高らかに叫んだ。
滝夜叉丸くんの声に動きを止める六年生は悔しそうな顔。
みんな負けず嫌いだもんね。
それにしてもカオスな戦いだったわー。
みんなと一緒に留三郎への祝福の拍手をしていると、やり直しの四年生の試合をすると三之助くんが呼びかけた。
再び砂浜に寝転がった四年生。
位置についてよーい、ドン!
勝ったのはーーー
「やったー!」
勝者はタカ丸くんだった。
「ユキちゃーん!後でちゅーしてね?」
両手を頭の上でブンブン振るタカ丸くんに恥ずかしくなりながらも手を振り返す。
私にキスなんてさせていいのか?
タカ丸くん、私を気遣ってキスを受けると無理して言ってくれているのではないだろうか?
少々心配になる。が、この後もイベント目白押しだし、なんやかんやのうちに有耶無耶になるかもしれないので今はこの事は考えないでおこう。
続いて五年生のやり直しレース。
激戦を制したのは再び八左ヱ門くんだった。
物凄く悔しがっている三郎くんが口と口のちゅーと同時に胸と胸のちゅーをする計画が!
とか変態丸出しな嘆き声を上げていたので三郎くんにはケツキックをお見舞いしておいた。
「旗取りゲームはこれで終いだ。次の遊びに移るぞ!」
続いての遊びはビーチバレーのようだ。
下級生混合、上級生混合でチームを作る。
私も上級生チームに混ぜてもらうことになった。
木の棒を砂浜に深く刺し、漁の網を借りてネットを作る。
一箇所だけでなく、コートは砂浜の何箇所かに出来上がっていた。
先ほどのようにくじを引いてチームを作る。
「赤組の奴は誰だー?」
『文ちゃん私!赤組だよ。よろしくね』
「おぉ、ユキか。よ、宜しくな」
文ちゃんが私の胸のあたりを見て、顔をカッと赤くさせ、顔をぷいっと背けながら言った。
萌える。かわゆす。
「俺も赤組です。よろしくお願いします」
『よろしくね、守一郎くん』
「赤組はここでいいですか?」
『そうだよ、三郎くん。よろしくね』
「あぁ。宜しくな」
『私の顔は乳についてないわこの変態が』
乳をガン見しながら握手を求めるような自然な動作で乳に手を伸ばしてきた三郎くんの手をベチリと叩く。
まったく、油断も隙もない!
「俺たちの組はこれで全員なようだな」
文ちゃんが辺りを見渡して言った。
体育委員さんも選手に加わっている。
先生方が審判をしてくれるようだ。
「上級生“い組”は第一試合場へ」
半助さんの指示で私たちは第一コートへと入った。
対戦相手はーーーーげっ!
「いけいけどんどーーん」
私たち赤組全員、顔を引き攣らせて仰け反った。
相手はなんとあの暴君率いる組だ。
「よろしくお願いします!」
同じく相手チームの滝夜叉丸くんが礼儀正しく頭を下げる。
「お手柔らかにね~」
タカ丸くんがふにゃりと笑いながら手を振っている。
「おほー。対戦相手はユキたちの組か」
手を組んでぐいーっと筋を伸ばしながら八左ヱ門くん。
「先手を決めるからジャンケンをして」
半助さんが言った。
「ユキ、やってくれ」
『オーケー文ちゃん。よっし。サーブ権もらうぞ』
じゃーんけーんぽんっ
『しゃー!』
ジャンケンの結果は私の勝ち。
「では、試合を始める」
審判の半助さんの声でそれぞれ位置につく私たち。
文ちゃんが高くボールを上げる。
バンッ
文ちゃんのサーブが相手コートへ飛んでいく。
「滝夜叉丸、レシーブだ!」
「はいっ。竹谷先輩っ。華麗にレシーブ!」
「トスは任せて」
タカ丸くんのトスでボールが高く上がる。
こちら側のコートにかかる影。
ありえない高さまで飛び上がっている小平太くんの手がボールを狙う。
来るぞ来るぞ来るぞ~~~。
「いけどんアターーーーークッ!!」
キターーー!
剛速球がこちらのコートめがけて飛んでくる。
しかも、落下位置私の範囲だし!
くそっ。負けないぞ!
『当たって砕けろユキちゃんレシーーブって痛っっっっっったいわッ!!』
前にもこんな事あったよね、とか思いながら砂浜の上を転がりながら悶絶する。
だが、前腕を痛めたかいがあったようだ。私のレシーブしたボールは高く上がっている。
「みんな!ユキの頑張りを無駄にするな!」
文ちゃんが声を張る。
「トス行きます!」
守一郎くんがトスを上げた。
「三郎アタックだ!」
「任せてくださいっ。アターーックと見せかけてフェイント」
「「「「ええっ!?!?」」」」
相手チームは三郎くんの動きが予想外だったようで対応に遅れた。
ボールは八左ヱ門くんとタカ丸くんの間にポトンと落ちる。
『やったね!』
悶絶し終わった私は立ち上がってガッツポーズ。
得点先取した私たちはハイタッチ。
「むむむ。みんな!次は取るぞ!」
「「「おーーー!」」」
小平太くんの言葉に気合を入れる相手チーム。
再び文ちゃんのサーブ。
「レシーブ」
「!?小平太がレシーブをした!?アタックしかできないと思っていたが・・・」
「文次郎は私を何だと思っていたのだ!?」
「アタック専門馬鹿」
「何を~~~」
文ちゃんが小平太くんをからかっている間に八左ヱ門くんがトスを上げる。
「滝夜叉丸、アタック行って!」
「はいっ」
タカ丸くんの言葉に頷いて滝夜叉丸くんがアタック!
「おっと!」
「よく取った守一郎!」
滝夜叉丸くんのアタックを守一郎くんが取って、ボールが高く上がった。
「私がトスするからユキ!アタックだ!」
『うんっーーーーーどりゃあっ!!』
三郎くんのナイストスを思い切り相手コートへ打ち込む。
「させないぞ!」
八左ヱ門くんにレシーブされてしまった。
タカ丸くんがトスを上げる。
そして再び小平太くんのアタック!
『に、二回目は無理~~~』
「俺が取ーーる!任せとけ」
男らしく文ちゃんが言った。
文ちゃんがズザザと砂の上を滑りながら小平太くんの馬鹿力アタックを取る。
『トス!』
「アターーーク!」
守一郎くん渾身のアタック。
しかし、
「「ブロック」」
タカ丸くんと滝夜叉丸くんが息を合わせて守一郎くんのアタックをブロックした。
こちらチームのコートに落ちるボール。
「すみませんっ」
『どんまいどんまい。良いアタックだったよ』
「気を落とすな、守一郎!」
文ちゃんが守一郎くんの背中をバンと叩く。
「次、気持ち切り替えていきましょう!」
三郎くんの言葉に頷いてレシーブの体勢を取る。
強烈なサーブ。
レシーブ、トス、アタック、そしてまたレシーブ。
得点は取りつ取られつ。
熱戦が続く。
そして最後の得点が入る。
ピーーーー
「試合終了!」
半助さんが笛を吹いて試合終了を告げた。
『負けちゃったね~』
「全力は尽くした。仕方ない」
文ちゃんが肩を竦めた。
「あの七松先輩のアタックを俺たちよく取った方ですよ」
三郎くんが自分の前腕を見ながら言った。
私たち4人の前腕にはお揃いの青痣が出来ている。
「そうですよね。俺たち頑張りました。痛たた」
守一郎くんが痛そうに痣を摩った。
『さっき井戸を教えてもらったから冷やしに行こう』
井戸へと向かう途中、小さな人だかりができているのに気がついた。
砂浜の上にござを敷いて上に座っているのは保健委員の三反田数馬くんと伊作くん。
急ごしらえの救護所を作ってくれたらしい。
『数馬くーん。私たちも治療してもらっていいかな?』
「もちろんですよって。うわっ。皆さん凄い色の痣だ」
数馬くんが目を丸くする。
「もしかして小平太の馬鹿力アタックの犠牲者かな?」
『あはは。伊作くん、当たり。けっこう健闘したんだけど負けちゃったよ』
「生地黄を塗りますね」
『ありがとう数馬くん・・・あ。でも私、この後兵庫水軍さんの小舟で素潜りに行くんだよね。薬塗ってもらっても無駄になっちゃうから冷やすだけでいいや』
「薬はいっぱい持ってきてありますから塗り直しますよ。座って下さい、ユキさん」
『甘えていいのかな?ありがとう、数馬くん』
痣に効く生地黄を塗ってもらい、その上から竹でできた竹簡を細かく割って覆い、包帯できつく縛ってもらう。
『数馬くん手馴れているよね。治療もテキパキしているし、包帯の巻加減もばっちり』
「えへへ。ありがとうございます」
『こちらこそありがとうね』
怪我の治療をしてもらった私たちは試合を観戦しに行った。
一生懸命ボールを追いかけている下級生が可愛い。
上級生の試合は迫力がある。
あちこちの試合を見て回っているうちに上級生、下級生ともに決勝戦を迎えた。
白熱する試合。
めいいっぱい声を出して応援する。
そして、下級生、上級生ともに優勝チームが決まった。
優勝チームには褒賞として有平糖が配られた。
「有平糖甘~い」
『良かったね、しんべヱくん。食べたがっていたものね』
「アハアハ。有平糖!誰か買ってくれる人いないかな?」
『きりちゃん、手の中で溶けちゃう前に食べちゃいなさい』
「んっ」
私はきりちゃんの手から有平糖を取り、口の中に放り込んだ。
「ユキふぁんの馬鹿ー。でも、甘ーい」
きりちゃんは蕩けそうな顔で頬を手で押さえた。
『ふふ。良かったね』
ワシワシときりちゃんの頭を撫でる。
そんな会話をしているうちに、ビーチの真ん中にゴザが並べられて敷かれた。
「これから真桑瓜割りをするぞ!」
小平太くんの言葉にみんなから歓声が上がる。
メロンのように甘い真桑瓜がみんな大好きなのだ。
一、二年の中から一人、三,四年の中から一人、五,六年の中から一人が代表して出てきて真桑瓜割りをする。
小平太くんがくじを引く。
「一, 二年生の代表は、皆本金吾!」
「はい!」
『頑張れ、金吾くん』
金吾くんが目隠しされてその場でくるくると回される。
「始め!」
小平太くんの開始の合図でみんなが一斉に金吾くんに声をかける。
「後ろだよ~」
「そうそう。そのまま進んで!」
「あと十歩くらい・・いや、一五歩かな?」
わいわいと声をかける忍たま達。
皆の声をヒントにヨタヨタと歩いていく金吾くんの姿が可愛い。
「「「「「「止まって!!」」」」」」
金吾くんがみんなの声に従ってピタリと止まった。
木刀をキュッと握り直す金吾くんは流石、剣術が得意なだけある。
その構えは様になっている。
金吾くんは大きく木刀を振り上げた。
「えいっ!」
スカッ
ズザザザザ
見ていた全員がズッコケた。
「えへへ。外しちゃったや」
「金吾、もう一回だ!」
「はい。七松先輩」
みんなの声に従って位置の微調整を行い、もう一度木刀を振り上げる。
そしてビュンっ。
バシャーン
真桑瓜は見事に砕けた。
「やった!」
目隠しを取った金吾くんが破顔する。
『上手だったよ、金吾くん!』
割られた真桑瓜は桶の中に入れられ、新しい真桑瓜がござの上に置かれる。
「三、四年生の代表はーーーー神崎左門!」
「はい!」
元気よく返事をする左門くんの周りで忍たまたちは固まっていた。
決断力のある方向音痴の左門くん。大丈夫か!?
「左門落ち着いていけよ~」
文ちゃんが委員会の後輩の左門くんに声を飛ばす。
「任せてくださーい」
明るい笑顔で笑った左門くんはぎゅっと目隠しを結んで木刀を構えた。
「それでは、始め!」
「こっちだーーーー!」
左門くんは小平太くんの合図と同時に駆け出した。
まるで目隠しなどしていないような速さにビックリする。
更にビックリする事に、左門くんは真っ直ぐ真桑瓜へと走り寄っていった。
「お!?」
左門くんの足に真桑瓜が当たって左門くんが止まった。
「やあっ!」
左門くんの大きな掛け声と共に彼の足元にある真桑瓜が割れた。
みんなが一斉に沸いて拍手する。
『凄い!上手!上手!』
目隠しを取り、真桑瓜を確認した左門くんはこちらを見て嬉しそうに顔を綻ばせた。
「五,六年生の代表は不破雷蔵!」
小平太くんに呼ばれて雷蔵くんが前に出てくる。
目隠しをして木刀を握る。
雷蔵くんの真桑瓜割りスタート!
「雷蔵右だぞー」
「いいや、左へ行くのだ!」
「いやいや、そのまま真っ直ぐ進めっ」
「騙されるな、雷蔵。太陽の方へ進むんだ」
「三郎!?太陽って!?」
五年生が雷蔵くんを混乱させようと適当な事を叫んでいる。
雷蔵くんはあっちへウロウロ、こっちへウロウロ。その様子がなんだか可愛くって、私は悪いと思いつつもプッと吹き出してしまう。
『雷蔵くん、右だよー』
雷蔵くんが私の声に反応して右へと進んでいった。
信じてくれている彼を責任を持って誘導しなくっちゃ。
『そう、そっちへそのまま真っ直ぐ!いいよーーーー止まって!』
雷蔵くんは真桑瓜の前でピタリと止まった。
ビュンと雷蔵くんが木刀を振り下ろす。
真桑瓜がパシャーンと割れた。
沸き起こる大きな拍手。
「皆で真桑瓜を食べるぞ!」
小平太くんの声で下級生たちが「わーい」と声を上げながら体育委員さんの元へと集まっていった。
体育委員さんは真桑瓜割りをしている間に人数分足りるように真桑瓜を切ってくれていた。
「はい、どうぞ」
『ありがとう、四郎兵衛くん』
四郎兵衛くんから真桑瓜の欠片をもらって、真桑瓜にかぶりつく。
ん~~~美味しい!
『よく冷えているね』
「水軍さんに海水温が冷たい場所を教えてもらってそこで瓜を冷やしていたんです」
滝夜叉丸くんがニコリと笑って教えてくれた。
バレーで疲れた体に甘い真桑瓜がよく染みる。
『あー美味しかった』
「?皮はどうした?」
『食べたけど?』
留三郎が吹き出した。
え?結構柔らかかったから美味しく食べられたけど・・・
「おい、みんな聞けよ!ユキが皮ごと真桑瓜食っ『お、おだまり留三郎!』
私は私の恥ずかしい失態を皆に暴露しようとする留三郎の口を後ろから塞いだ。
が、結局「なんだなんだ」と集まってきた六年生にバレた。
「食べ物を粗末にしない・・・偉い・・・」
『ありがとう長次くん。笑われて傷ついた心の傷が少し癒えたよ。さあ、もっと私を癒すために長次くんも皮も食そうぜ?』
皮を残している長次くんの手を口に持っていこうとしたら抵抗された。
意地になってぐぐぐっと手を口へ持っていこうとする私と抵抗する長次くん。
つるっ
『あうっ』
長次くんの手を持っていた私の手が滑って、私の体のバランスが崩れ、私は長次くんの胸の中に飛び込んだ。
『ご、ごめん・・・あ』
照れながら顔を上げて長次くんを見たら彼の手から真桑瓜の皮が消えていた。
どうやら今の一瞬で皮捨て袋に皮を放り投げたらしい。
『長次くん~~』
「モソモソ(怒らない、怒らない)」
じとっとした目で見る私の頭を撫でる長次くん。
彼に頭を撫でられているうちに、私は真桑瓜の皮の事など、どーでもよくなっていたのだった。
真桑瓜を食べ、体も休まったところで小屋から兵庫水軍の皆さんが出てきた。
「今から小舟を出して貝類を取りに行きます。希望者は言ってください」
『はい!行きたいです!』
義丸さんの呼びかけに思い切り手を挙げる。
「素潜りか。おい、留三郎。どちらがより多く貝を捕れるか勝負しないか?」
「いいだろう。望むところだ!」
勝負に燃える文ちゃんや留三郎
「素潜りは得意なんだ。僕も行きたいです」
「三郎次は実家が漁師だもんな」
「左近も一緒に行かないか?」
「あぁ、そうする!」
三郎次くんや左近くんなど下級生も名乗りを挙げる。
「僕たちは体が火照ってきたから日陰ぼっこしま~す」
「「「しま~すぅ」」」
体を休めることにした一年ろ組の子たちや
「前にユキさんに教えてもらったドッヂボールしよう」
「そうしよう!」
「うん」
乱きりしん並びに一年は組のメンバーなどは浜に残って思い思いに過ごすようだ。
浅瀬で泳ごうと話している声も聞こえる。
「ユキさん行きますよー!」
『はーい。義丸さん』
私たちは、海を思いっきり楽しんでいるのであった。