第四章 雨降って地固まる
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14.編入生来たる
『まだかなまだかな~』
私はソワソワしながら忍術学園の正門前に立っていた。
今日は編入生、浜守一郎くんがやってくる日なのだ。
塀に沿った道を見つめていると人影。
「ユキさん!」
『浜くんっ』
私の姿を見つけ浜くんが駆けてくる。
『待ってたよ~』
嬉しくって彼の手を握ってブンブン上下に振る。
「これから忍術学園で勉強できると思うと心躍ります」
『きっと浜くんなら立派な忍たまになれるよ。じゃあ早速行こうか』
「あ、あの、ユキさん」
『どうしたの?』
ついてこない浜くんを振り返り、小首を傾げて見せる。
「あの、俺のこと、守一郎って呼んでもらえませんか?ユキさんに会ったら、いの一番に言おうと思っていたんです」
ズキュン!
照れながら視線を地面に落とし、頭を掻く姿が可愛くて胸がドキドキ。
嬉しい提案にはもちろん直ぐにオーケーを出す。
『では、改めて守一郎くん。行こうか!』
歩き出した時だった。
「うわあっ」
一歩進んだ瞬間、横にいた守一郎くんが消えた。
『守一郎くん!?』
見れば守一郎くんは穴の中。
「痛たたたた」
『大丈夫!?』
「はい。しかし、何故こんなところに穴が・・・」
『うわあ。これは四年生の天才トラパーと言われる綾部喜八郎くんの罠だよ。
学園中に彼が作った落とし穴があるんだ。でも、正門近くに作っちゃダメだね。
ここはお客様も通るところだから。後で埋めるように言っておかなきゃ』
どこにでも穴を掘る彼を思いハアァと溜息をついていると、
「おや、雪野くん。穴を見つめて何をしているのですか?」
安藤先生がやってきた。
『今日編入していくる浜守一郎くんが穴に落ちてしまったんです』
「おやおや」
穴を覗いた安藤先生はニヤリとして口を開く。
「穴にはまった浜くん」
お得意のオヤジギャグを繰り出した。
穴の中を見ればキョトンとした顔の守一郎くん。
だよねーこの反応だよねー。と思ったら、
「はまった、浜・・ぷっ、ぷっ、ぶはははははは!!」
大きな笑い声があたりに響き渡る。
『え?えぇっ!?』
「おや!この子はギャグのセンスがあるようだね!」
嬉しそうに言う安藤先生。
「あ、あの!私は今日編入する浜守一郎と申します。先生のお名前をお聞きしても宜しいですか?」
守一郎くんは穴の中からキラキラした目で安藤先生を見上げた。
「私は一年い組の教科担当担任の安藤 夏之丞と言います」
「安藤先生ですね!その面白いギャグ、もっとお聞かせ願えませんか?」
「いいでしょう、いいでしょう。ダジャレを言うのは誰じゃ?隣の家に塀が立った。へー!布団が吹っ飛んだ!草刈ったら臭かった!」
この穴は深い。絶対に登ってこられない深さだ。
縄梯子を持ってこよう。
私は安藤先生がダジャレを連発し始めた瞬間に歩き出していたのだった。
戻ってみるとまだ安藤先生のダジャレは続いていた。
凄いレパートリーだな!いつも聞き流していた私だが、少し感心する。
「安藤先生、浜くんはこれから入学手続きです。このへんで」
「おぉ、そうですか」
縄梯子を垂らして安藤先生に一緒に持ってもらう。
穴から出てきた守一郎くんは笑って泣いたせいで目が腫れていた。
どんだけ笑ったんだ!?
「安藤先生、ありがとうございました」
穴から出て地面に正座した守一郎くんがペコリと頭を下げる。
「うむ。君は良いセンスを持っている。きっとそのセンスは忍術にも生かされるでしょう。頑張りなさい」
「はい!」
片手を上げて去っていく安藤先生を尊敬の眼差しで見送る守一郎くん。
私は彼のセンスを疑って冷ややかな目を向けていたのでしたーーーって待て!
私、守一郎くんに初めて会った時何言われたっけ!?
―――なんて美しい人なんだ!
うん。安藤先生のギャグは最高だ。
よって、彼のセンスも最高だ。
よって、私に下された守一郎くんの判断も間違っていない!
私は心の中で自分を納得させながら守一郎くんを学園長先生の庵へと連れて行ったのだった。
学園長先生に挨拶を済ませて、私たちは事務室へと向かった。
はじめ、守一郎くんは体験入学のつもりでいたが、保護者の方と話し合った結果、体験入学せずにそのまま入学してしまって良いという事になったらしい。
もちろん、事前に入学試験はしている。
なので、守一郎くんが忍術学園にやってくるのは二度目だ。
「うちの両親が忍術学園出身の忍者を何人か知っていて、あそこの教育はしっかりしていると聞いたそうで」
『そうだったんだね』
守一郎くんに入学手続きをしてもらう。
彼は十三歳。四年生だ。
「制服はこれだよ~」
『こっちの部屋で着替えよう』
小松田さんに渡された制服を持った守一郎くんを事務室近くの空き部屋に連れて行く。暫くして紫色の制服に身を包んだ守一郎くんが出てきた。
『うん。良く似合ってる』
「ありがとうございますっ」
頭に手をやって照れた笑みを浮かべる守一郎くん。
こうして見ると年相応に見えるな。
大人びて見える彼が年相応に見え、微笑んでいるとカーンとヘムヘムが鐘を鳴らす音が聞こえてきた。
『放課後になったね。このまま私が忍術学園を案内するね。それから、今日は委員会活動の日なの』
「委員会があるのですか?」
『忍たま達が所属する委員会は九つ。学級委員長委員会、会計委員、図書委員、保健委員、用具委員、作法委員、生物委員、体育委員、そして火薬委員「火薬委員があるのですか!?」
クワっと守一郎くんが食いついてきた。
「火薬か~」
目をキラキラさせて宙を見ている。
『守一郎くんは火薬の知識を増やしたいんだったよね』
「はい!」
『それじゃあ、初めに火薬委員から回ることにしようか。あ、でも、その前に、念のため保健室に寄ってから行こう』
「いえいえ。お尻が少し痛いだけですから大丈夫ですよ」
『念には念を入れて。それに保健委員も紹介したいしね。行こう!』
私は穴に落ちた守一郎くんを診てもらう為に保健室に彼をいざなう。
『失礼します』
保健室には校医の新野先生と保健委員のメンバーが揃っていた。
「おや、君は・・・?」
『伊作くん、四年生に編入してきた浜守一郎くんだよ。喜八郎くんの穴に落ちてしまったの。結構深い穴で・・・』
「大丈夫だったかい?」
「はい。お尻が少し痛いくらいで、後はどこも・・・」
「それじゃあ、ちょっと見てみよう」
「え゛」
守一郎くんは衝立の後ろへと引っ張られていった。
暫くして診察を終えた守一郎くんが衝立の後ろから出てくる。
「少し腫れていましたがこのくらいなら問題ありませんよ」
新野先生がニコリと笑う。
「あ、ありがとうございました」
顔を真っ赤にしている守一郎くん。
ふふふ、かわゆいのう。
私は心の中でニマニマ笑ってしまう。
『伊作くん、守一郎くんに保健委員会の仕事を教えてくれる?」
「うん。保健委員は見ての通り怪我人のお世話、それから薬になる薬草の採取、薬作りなどだよ」
「医学の知識が学べる委員会。良い委員会ですね」
「そう思うなら是非我が委員に来て下さいっ!」
パッと両手を上に広げて乱太郎くんが言った瞬間、彼の手に何かがあたった。
骨格標本のコウちゃんだ。
突然に骸骨が自分の方に落ちてきた乱太郎くんは反射的にピョンと後ずさる。
その後は雪崩のよう。
二年生の左近くんが乱太郎くんに押されて後ろへ倒れ、二人の体重を受け止めようとした数馬くんは偶然あった足元の包帯に足を取られて転倒。
その後ろにいた伏木蔵くんも巻き込まれて後ろへ倒れ、みんなの最後尾にいた伊作くんは偶然に床に置いてあった薬をすり潰す道具に
(薬研)に足をぶつけながら、ドドドドドっと倒れてきたみんなの下敷きになった。
あぁ、無情・・・
『さすが不運委員会・・・』
「え?」
『保健委員会は別名、不運委員会って呼ばれているの』
「自分たちで言うのもなんだけど、不運を背負う者の集まりでね」
痛てて。と上体を上げながら伊作くんが苦笑い。
『みんな怪我はない?』
「「「「「大丈夫で~~す」」」」」
私はホッと息を吐き出す。
それにしても、と辺りを見渡すと床に仕分けしてあった薬草がごちゃごちゃになっていた。
「うわーん。せっかく時間をかけて仕分けしたのに!」
数馬くんが叫ぶ。
『よしよし』
何と言っていいか分からず数馬くんの頭を撫でると彼はギュッと私に抱きついてきた。可愛い・・・!
羨ましい!と叫ぶ他の子達も順に抱きしめて慰める。
「最後は僕だね!」
手を広げる伊作くん。
『私たちは邪魔になるからそろそろ行くね」
私はそっぽを向いて暗に拒否。
「ユキちゃん酷い・・後で覚えてなよ・・・」
ゾクゥ
私は伊作くんの黒い笑みに見送られながら守一郎くんと共に保健室を後にした。
私は守一郎くんと共に歩き出す。
着いたのは煙硝倉。
煙硝倉の前には火薬委員さんが集まっていた。
『みなさーん』
「ユキ?それと・・・あぁ!君は転入生だね」
半助さんが私たちに気づきニコリと笑った。
『こちらは火薬委員の皆さんです』
「「「「はじめまして」」」」
「はじめまして。浜守一郎と言います」
「私は火薬委員顧問の土井半助だ」
「俺は火薬委員会委員長代理の久々知兵助」
「四年は組の斎藤タカ丸だよ~。もしかして、浜くん。その制服の色、僕と同じ学年だよね?」
「はい!四年生に編入しました」
「何組になったの?」
「四年ろ組です」
「そっかー。それは残念。僕は四年は組なんだ。組は別だね。でも、宜しくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「僕も自己紹介させて下さい。二年生の池田三郎次です」
「一年生の二郭伊助です!」
『守一郎くんは火薬に興味があるんですよ』
全員の自己紹介が終わり、私が言う。
「それは本当かい!?」
半助さんが駆け寄ってきて守一郎くんの手を取った。
「火薬に興味があるなら是非、火薬委員に入ってくれ!」
「人手不足で大変なのだ。守一郎くんが入ってくれたら嬉しいよ」
兵助くんも言う。
「え、えーと・・・」
『こらこら。お二人共、守一郎くんはまだ学園内の事を殆ど知らないんです。他の委員会の事も知らないし、他の委員も回ってからでなきゃ決められませんよ』
「そうか。そうだな。でも、考えておいてくれよ?」
「はい。ありがとうございます」
『簡単に、火薬委員さんのお仕事を説明してあげてくれますか?』
「それじゃあ守一郎くん、ついてきて」
兵助くんに促されて煙硝倉に足を踏み入れた守一郎くんは「わぁ~」と歓声を上げた。
「ここにある煙硝は火薬の原料でとても貴重なんだよ。他に硫黄、炭を混ぜて黒色火薬を作るのだ」
暗い煙硝倉の中、熱心にメモを取る守一郎くん。
「委員会活動としては煙硝倉の在庫確認が主だよ」
タカ丸くんが説明する。
「ありがとうございます」
『では、そろそろ行こうか、守一郎くん』
「はい」
『じゃあ皆、委員会活動頑張ってね』
「じゃあね、ユキさんっ」
伊助くんとハイタッチしてから私と守一郎くんは煙硝倉を後にする。
『近いところは・・・!?』
次はどこに行こうか考えていると音が聞こえてきた。
ドドドドドという音に顔をサーっと青くさせながら振り向く。
嫌な予感は的中した。
「委員会どんどーーん」
『ひいぃっ。逃げて守一郎くん!』
しかし、無残。
守一郎くんは小平太くんを先頭とした縄で出来たしゅっぽっぽ汽車に跳ね飛ばされてしまった。
「痛たたたた」
『小平太くん!』
「よお!ユキ!」
「よお!じゃないよ。守一郎くん吹っ飛んじゃったじゃない」
「守一郎?」
小平太くんが小首を傾げている間に守一郎くんを助け起こす。
『大丈夫?』
「な、何とか。ええと・・この方たちも何かの委員会活動中なのですか?」
『そうだよ。こちらは体育委員会のみんな。皆、こちらは今日編入してきた浜守一郎くんだよ』
「そうだったのか!編入生!よろしくな!私は七松小平太だ。体育委員の委員長をしている」
「よろしくお願いゴフっ」
バシバシと小平太くんに背中を叩かれて守一郎くんがむせた。可哀想に・・・
『そうだ。説明していなかったね。忍術学園では学年ごとに忍装束の色が決まっているの。一年生は水色、二年生は青。三年生は萌黄で四年生は紫。五年生は群青色、六年生は深緑色だよ』
「判別しやすくて良いですね」
『小平太くん、体育委員の仕事を教えてあげて』
「あぁ!体育委員ではいつもランニングや塹壕堀をしているぞ!」
明るい笑顔で言い切った。
違うだろう!私は溜息を吐いて、
『体育委員は実技授業で使う道具や休み時間にみんなが使うボールなどの管理をしているよ』
と説明する。
その後、体育委員さんに各々自己紹介をしてもらって私たちはその場から離れた。
「体育委員会はパワフルですね」
遠くから聞こえてくる下級生たちの悲鳴を聞きながら守一郎くんが言う。
『小平太くん曰く、体育委員会は委員会の花形だ、だって。小平太くんは化物並みの体力、力の持ち主でね、みんな委員長についていくだけで精一杯って感じ』
「でも、みんな楽しそうでした」
『ふふ。そうだね』
私たちが次に向かったのは用具委員さんの所。
『留三郎』
「ユキか?どうしたって・・・ん?」
『編入生の浜守一郎くんに委員会の見学をさせてあげて』
「おお!編入生か!」
留三郎の瞳が輝く。
「編入生ってことはまだ委員会は決まっていないんだよな」
「は、はい」
留三郎の勢いに気圧されながら守一郎くんが頷く。
「見ての通り、うちは三年の富松作兵衛以外一年生なんだ。用具は直ぐに壊れるし、授業で使う櫓もあげねばならんし、万年人手不足。是非、我が委員会に入ってもらいた――――っ!?」
カキン
「待ちやがれ留三郎ッ!」
目の前で武器が留三郎によって弾かれ、大声があたりに響き渡る。
「げっ。何でこんなところにいるんだよ!」
後ろを振り向けば、何故か会計委員会の面々が揃っていた。
「抜けがけとは許せんぞ留三郎!」
「なに~~~」
「その編入生は我が会計委員が貰い受けるっ」
ビシッと文ちゃんが守一郎くんを指さしながら言った。
『あそこにいるのは会計委員。各委員会の予算をまとめる仕事をしているの。で、余談だけど、彼らが持っているのは十キロそろばん』
「十キロ!?」
「精神力を鍛えるためなんだって。十キロそろばんで精神力が鍛えられるか疑問があるけどね。どっちかと言うと筋力の方が鍛えられそうだから。それから、会計委員は別名、地獄の会計委員会と言われているよ」
今にも一触即発しそうな二人を見ながらコソコソっと守一郎くんに説明する。
そんな事をしていると、留三郎と文ちゃんを除く用具委員、会計委員の面々が私たちのところへ集まってきた。
皆それぞれ自己紹介。
「守一郎、私たち同じ学年だろう?組はどこなんだ?」
「ろ組になりました」
「では、私と一緒じゃないか!」
パッと三木ヱ門くんの顔が明るくなる。
凄く嬉しそうで、こっちまで嬉しくなるような笑顔だ。
『守一郎くんは三木ヱ門くんと同室になるから宜しくね』
「はい!守一郎、これからよろしくな」
「よろしく!」
守一郎くんの手を握って、ブンブンと上下に振る三木ヱ門くん。
四年生にもなると実技が難しくなり、試験に合格できず、落第して学園を去らねばならない者も出てくる。
三木ヱ門くんは三年から四年に上がる時に同室が落第してしまって、それ以来一人部屋だったのだ。
カキン カキン
音がして横を見れば、口喧嘩から殴り合いに発展してしまったお馬鹿が二人。
『まったくこの二人ときたら・・・』
しかし、熱くなってしまったら私たちでは止められない。
『みんな、巻き込まれないように遠くに避難しておいてね』
私は用具委員さんと会計委員さんにそう言い渡し、守一郎くんを連れて次の委員会活動場所へと向かったのだった。
「次の委員会は何委員会ですか?」
『次は生物委員会さんだよ』
丘を登りながら守一郎くんと話していると、丘の上に人が見えた。
何やら叫んでいる。嫌な予感。
「おーーい。ジュンコー!出てこーい」
「ジュンコー僕が悪かったよ!もうトカゲの大山兄弟に浮気しないからさ!出てきておくれ~~~」
八左ヱ門くんと孫兵くんをはじめ、生物委員さんが叫んでいる。
『あそこにいるのが生物委員さんなんだけど・・・』
「誰かを探しているようですね。ジュンコさんとは?くノ一さんですわあっ!」
突然叫び声を上げた守一郎くんの方を見た私は顔を引きつらせる。
守一郎くんの首には・・・
『わーお。ジュンコ発見』
『ジュンコ!?蛇の名前だったんですね。もう、驚いたなー』
『ま、待って、守一郎くん。安易に触っちゃダメ。ジュンコはマムシなの!』
「マ、マムシ!?」
悲鳴に近い声を上げる守一郎くん。
そりゃそうだ。
「八左ヱ門くーーん、孫兵くーーん、みんなーージュンコここにいるよー!」
口に手を当てて生物委員さんに向かって叫ぶ。
生物委員さんは孫兵くんを先頭に猛スピードで駆けてきた。
「ジュンコ!」
守一郎くんの首に巻きつくジュンコを外して自分の腕に絡ませ愛おしそうに頬を寄せる孫兵くん。さ、流石だわ・・・
「凄いですね・・・アレ、マムシですよね?」
「むっ。僕の愛しいジュンコを“アレ”とは聞き捨てなりませんね」
ぷくーっと頬を膨らませて孫兵くん。
「す、すまない」
「分かってくれたならいいです。ジュンコも気にしていないようですし」
<シャー(気にしてないよ)>
「ところで、その子は誰なんだ?」
『編入生の浜守一郎くんだよ。委員会を紹介していたの』
「おほー!編入生か!」
人手不足の委員会が多い忍術学園。
生物委員会さんたちも御多分に漏れず目を輝かせる。
「是非とも生物委員に入ってくれ!」
『生物委員さんは生き物のお世話、菜園の管理を行っているよ』
「うちの委員は平均年齢が一番低いんだ。だから、是非、是非、うちの委員に!」
「「「「「是非ともお願いしますっ」」」」」
下級生たちも瞳をキラキラ。
「よく考えてみます」
守一郎くんは彼らに笑みを返す。
『そうだ。私の愛狼も紹介させて』
私はタタっと飼育小屋に走って行き、モンちゃんを連れてくる。
『私が名付け親になった狼のモンちゃんです』
<ウォン(よろしく)>
「お、狼?!」
『怖がらないで!狼といっても良く躾けられていて賢いんだよ』
「そうなんですか」
『見てて。モン、お座り』
ビシッとお座りをするモンに守一郎くんが拍手を送ってくれる。
『触ってみる?』
「うん」
そっと、守一郎くんがモンちゃんの頭を撫でる。
「ふわふわだ!」
『ふふ。そうでしょう?』
「生物委員は兎、アヒル、鶏から毒虫、狼でまで沢山の種類の動物を飼育している。しょっちゅう毒虫には逃げられて大変だが・・・楽しい委員会だ」
八左ヱ門くんの言葉にニコニコ笑みを零す他の生物委員の子達。
私たちはそんな彼らに見送られながら次の委員会へと向かう。
『次は作法委員へ行こう。今日は作法室で生首フィギアの制作をしているはず』
屋外かあら屋内へ入って私たちは廊下を渡り作法室へと向かう。
トントンっとノックすれば「はーい」と可愛い声。
「ユキさんだ」
兵太夫くんが私にぴょんと抱きついてきた。
『委員会活動頑張っている?』
トンと抱っこしていた兵太夫くんを床に下ろした時だった。
「ばああーーーー!」
目の前に生首。
『「うわあああああっ!!」』
私はドシンと床に尻餅をつく。
守一郎くんも尻餅はつかなかったものの驚愕と言った顔で驚いている。
「アハハハハ!大成功」
『もうっ!伝七くんったら!』
私たちを驚かせたことに成功した伝七くんがしてやったりと笑う。
『それにしても凄いね・・・・本物みたい』
生首フィギアは精巧に作られていた。
そういえば前回、生首フィギアが保管してある地下倉庫に行った時は結局見ることが出来なかったからな。
明るい場所で見ることができて良かったよ。
もし、暗闇でこんなもの見たら失神していてもおかしくない。
「君が編入生の浜守一郎くんか」
『お、さすが仙蔵くん。お耳が早い』
「当然だ」
『ここには四年生の綾部喜八郎くんがいるよ。喜八郎くんは隣の組のい組』
「宜しくお願いします」
「敬語じゃなくていいよ。宜しく~」
『そうそう。喜八郎くん、正門前に作った落とし穴、危ないから埋めに行くように!』
「は~い」
のんびりとした様子で喜八郎くんが手を上げた。
『仙蔵くん、作法委員の仕事の説明をお願いします』
「あぁ。作法委員は見ての通り首実検の生首フィギアの制作、管理を行っている」
そう言って仙蔵くんは近くにあった生首フィギアを手に取り、守一郎くんに投げた。
「ひっ」
受け取ったものの、気味悪そうに自分の体から出来るだけ離す守一郎くん。
「作法委員の仕事は度胸のある者しか出来ない。我が委員に入るなら覚悟するように」
ニヤリ。と仙蔵くんは人の悪い笑みで笑った。
それぞれの自己紹介を終えて私たちは作法室を辞す。
『次は図書室に行ってみよー』
「おー!」
トコトコ歩く私たちは図書室に到着。
スっと戸を開けば図書委員さんたちが図書整理をしているところだった。
『委員会中お邪魔します。編入生の浜守一郎くんに委員会の様子を見せてあげて』
図書委員の子達が寄ってきてくれる。
「・・・私が図書委員の委員長、中在家長次だ」
「宜しくお願いします。あの、図書室には火薬に関する本も置いてあるのですか?」
「モソ」
コクンと頷く長次くんを見て守一郎くんの顔が輝き出す。
「く~~嬉しいなっ!」
拳を握り締め、幸せに浸るような守一郎くんを見て私は顔を綻ばせる。
その後、各々の自己紹介と図書委員のお仕事紹介をしてもらった。
『それから余談なのだけど、この子、私の息子なの。宜しく』
「息子さん!?ユキさんこの歳で息子さんがいるのか!?」
『養子なの』
「浜守一郎さん、ユキさんのこと、よろしくお願いしまっす」
「!?」
守一郎くんが吃驚したように目を見開き固まり、カーっと顔を赤くした。
『どうしたの?』
「い、いえ、その、宜しくってとは、俺がユキさんを貰ってもいいって事、ですか?」
『「「「!?!?」」」』
守一郎くんの予想外の反応に私たちは慌て出す。
「ち、違うよっ。僕はそんな意味で言ったんじゃなくて~~」
きりちゃんが顔の前でブンブンと両手を振る。
「そうなのか・・・もしや息子さん公認で仲を認めてもらえたのかと思ったのに」
『「「「!?!?」」」』
再び頭の上に浮かぶ!?マーク。
「えっと、守一郎くん、それってどういう意味・・・?」
雷蔵くんがおずおずと聞くと、守一郎くんはニコリと笑って
「ユキさんには一目惚れだったんです」
と言った。
「「「「え~~~~~~っ!」」」」
「モソモソ(図書室ではお静かに)」
慌てて各々の口を塞ぐみんな。
「ユキさん!」
『は、はいっ』
守一郎くんがぎゅっと私の手を取って握った。
まっすぐな瞳。
え・・・?何を言うつもり?!
「お、俺は・・・・!」
ドキドキが最高潮に達し始めた時だった。
スパーン!図書室の戸が勢いよく開く。
「おい!編入生っ」
「俺のユキに勝手をしちゃあ困るっ」
「いや、勘右衛門のものではない!私のユキだ!」
「いーや!ユキは俺のものだっ」
絶妙なタイミングで学級委員長委員会を率いた三郎くんと勘右衛門くんが現れた。
ぎゃいぎゃいと言い合いを始める三郎くんと勘右衛門くん。
彼らの熱が上がるに従って下がっていく私の後ろの気温。
そーっと後ろを振り向けば――――――
「ふは、ふはははははは」
「「ひっ中在家先輩っ」」
『で、出よう、守一郎くん』
「は、はい!」
怒った長次くんは怖い。
急いで逃げ出しましょう。
私は守一郎くんの手を引いて、急いで図書室から逃げ出したのだった。
『ふーっ。逃げられた』
「あの、ユキさん」
『どうしたの?』
「手・・・」
『あ、ごめん』
「いいえ」
さっきのことが思い出されて私はパッと顔を赤くさせる。
「ユキさん、俺、ユキさんと出会ったばかりだけど、ユキさんに惹かれてるんだ」
『しゅ、守一郎くん!?』
こんな廊下の真ん中で!
『今こういった話は――――』
「聞いて!」
真剣な声が私の声を遮った。
「初めはさっきも言った通り見た目。でも、一緒に白目さんを助けた時、ユキさんの白目さんを助けようとする勇気ある行動に好感を持って、この人カッコイイな、優しい人だなって思って、だから俺・・・ユキさんの事、外見だけじゃなく、内面も好きになった」
『守一郎くん・・・』
「俺はまだまだ未熟者。だけど、この学園でいっぱい学んで、強い忍者になる。だからさ、俺が一人前の忍者になったらユキさんに告白させて」
決意に満ちた瞳。
私はその瞳に吸い込まれていく。
いっぱい学んで、強い忍者になる――――か。
私は彼の充実した学園生活を想像して笑みを零す。
『頑張って、守一郎くん。応援しているね』
「はい!」
真面目で一本気な守一郎くん。
そんな彼が加わった忍術学園はこれまで以上に
賑やかになると予想されたのだった。