限界突破!
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2.ヒーローオタクな彼
『さて、移動しますか』
田等院駅に着き、オールマイトさんと別れた私。
東京へ移動するため駅の改札へと続く階段を登ろうとした時だった。
「キャー!引ったくり!」
誰かが叫んだ。
女性物の鞄を持った男性がこちらへと走ってくる。
悪、許すまじ
私は私の横を走りすぎようとした男に足を出した。見事にスッ転ぶ男。
私はうつ伏せに倒れた男の背中に足の脛をのせて体重をかけ、手を思いきり後ろに捻りあげた。
「ねーちゃん強いな!」
「良くやった!」
歓声と拍手が沸く。
周りにいた人がそんな言葉を私にかけたときだった。
『!?』
組伏せた男の体が変化していった。
首をねじり、私を睨む男の目がギラリと光る。
『皆さん逃げてくださいっ』
男はもはや私の体では抑え切れないほどの大きさになっていた。
男は私の手から逃れて、体を巨大化させながら線路へと飛び出した。
体の形、顔つきも変わっている。
「ガハハハハ俺の個性は怪物化だ!誰にも捕まえられまい!最強の個性だ!小娘、さっきの礼だッ」
『っ!!』
私は摘ままれ、空中に持ち上げられた。
そしてブンッ。
投げられる。
胃がひっくり返る感覚と地面への落下を肌で感じる。
まずい。このままでは地面に叩きつけられる。
私はスカートのポケットに手を突っ込んだ。
出したのは木でできた短剣。
個性を発動させようとした時だった。
『!?』
何かが私の体に巻き付いた。
落下が止まる。私は空中で木の枝に巻かれ、止まっていた。
「大丈夫かい?」
『は、はいっ』
声の方を見ると、木目調の顔をした男性がいた。
「それは良かった。君は安全なところにいるといい」
私はゆっくりと地面へ下ろされた。
プロヒーローに助けられたのだ。
『ありがとうございます!』
樹木の姿をした彼は私に頷き、怪物化した引ったくり犯を捕まえるべく足場にしていた信号機を蹴り、
ビル2階の位置にある駅の屋根へと飛び移った。
「やっぱり若手実力派だけあるなぁ。格好いい!出るかなぁ必殺技!」
振り向くと、モジャモジャの緑がかった黒髪、顔にそばかすのある少年がさっき私を助けてくれたプロヒーローを
キラキラした目で見上げていた。
『あの、あの方のお名前を知っていますか?』
「え、あ、君はさっきヴィランにやられそうになっていた」
『はい。助けて頂いたあの方のお名前を知りたくて』
そう言うと学生服の少年は少し緊張したように目を瞬いてから、
「最近大活躍中の若手実力派、シンリンカムイだよ。助けてもらって良かったね!」
と、教えてくれた。
『ヒーロー・シンリンカムイね。教えてくれてありがとう』
「どういたしまして!」
少年はキラキラした瞳を私からシンリンカムイに移した。
「もうすぐ必殺技が出るぞー!く~楽しみっ。先制必縛!ウルシ鎖「キャニオンカノン!!」
少年の声に被せて大きな声が響き渡った。
ズドン
怪物化ヴィランは頭を蹴られ、地面にズシーンと倒れた。
ヴィランに強烈な一撃をくらわせたのはビル7階ほどはありそうな巨大な女性だった。
「キタコレ、キタコレ」
どこから沸いてきたのやら、カメラを持った男性達がシャッターを切る。
「本日デビューと相成りました。Mt.レディと申します!以後お見シリおきを!」
駅のホームの屋根の上でシンリンカムイがずーんと落ち込んでいるのが見える。
『きょ、強烈。何もかも』
鮮烈なデビューと際どいコスチューム。
Mt.レディを唖然と見つめていると、
「巨大化か・・・人気も出そうだし凄い個性ではあるけど、それに伴う街への被害も考えると
割りと限定的なブツブツ」
先程の少年がブツブツ呟きながら熱心にメモを取っていた。
『ヒーロー志望なんですか?熱心ですね』
「え?は、はいっ」
『頑張って』
「っはい。頑張ります!ありがとうございますっ」
少年は顔を紅潮させて頷いた。
ふふっ。ああいう一生懸命な子って好きだな。
ポケットに木刀の短剣をしまいながら思う。
『それにしても、うーん・・・電車止まっちゃったよね?』
東京まで移動しなきゃいけないのに。
兎に角、轟さんのご自宅へお電話を。
私は時間通りに着けない旨を伝えるために、下宿でお世話になる轟さん宅へ電話をしたのだった。
「こちらは気にしないからゆっくり来なさい」
東京へのバスもない、地下鉄は通っていない、電車は相変わらず止まっている。
私は電車が復旧するまでカフェで時間を潰すことにした。お昼ごはんもそこで済ませてしまう。
丁度12時を過ぎた頃、席がこみ出してきた。
カフェとはいえ何時間も居座り続けるのが申し訳なくて私は店を出ていった。
『復旧は13時予定か』
スマホで調べると、電車の復旧予定時刻がホームページに載せられていた。
それまで散歩でもしよう。
知らない町をあるくのは楽しいものだ。
帰りはスマホのマップアプリを使えばいい。私はめちゃくちゃに好きな方向に歩いていく。
「や、やめてよ、かっちゃん」
弱々しい声に顔を向けると、公園で三人の学生に一人の学生が囲まれていた。
どうやらリンチにあっているようだ。
「うるせぇ。今ここで個性がないってのはどういう事かしっかり実感してもらうよ。
自分が底辺の人間だって理解しろ。体で覚えたら雄英受けるなんて馬鹿言わなくなるだろうからな」
「や、やめて!そのノートだけは!」
リンチを受けている少年から取り上げられたノートがボムッとリンチを行っているリーダー格と
思われる少年の手の中で爆発した。
「お前もこんな風になりたいか?」
「くっ・・・うっ・・・」
「ハハハ!ビビって何も言い返せねぇかよ。俺とお前との位置関係が分かったか?
これからは雄英を受験するなんて言って笑わせんなよ、ナードくん」
『おやめなさい!』
リーダー格の少年がリンチされている少年に爆破したノートを投げつけたところで声をかける。
「あ゛?」
振り返り、ギロリと私を睨む金髪の少年。
でも、私は私を睨む少年よりも、リンチを受けていた少年の方に目がいった。
『あ、君は今朝の』
「あ・・・」
「なんだ?デクの知り合いか?」
「か、彼女は知り合いじゃないよ!ただの顔見知りでっ。だから、僕には関係ない!
かっちゃん、彼女に手出しはしないで」
自分がピンチなのに私の心配をしてくれる彼に胸が温かくなる。
『ありがとう。でも、関係ないなんて言わないで。袖触れ合うも多生の縁って言うじゃない』
そう言ってから私は金髪の少年たちを見据えた。
『この子に暴力をふるった事、この子の持ち物を爆破した謝罪をしてからここから立ち去りなさい』
「んだと、このアマ」
ズンズンとポケットに手を入れてメンチを切りながらこちらへと進んでくる少年に口角を上げてみせる。
『いいのかしら?』
私は持っていたスマホを彼に向けた。
そこには金髪の少年たちがそばかすの少年を囲んでいる姿。
金髪の少年たちの顔がハッキリと写っている。
『コレ、警察に出すわよ。あなたたち学生よね?停学は免れないでしょうね』
「っ!」
金髪少年の顔色が一気に変わった。
『バックアップもとってあるわ』
「くそっ」
顔色を青くしながら私を苦々しく睨みつける金髪少年。
『謝罪は?』
「くっ・・・」
『謝罪しなさいっ!』
悔しさを顔に滲ませて金髪少年はそばかす少年の方を向き、ぼそっと「悪かった」と言った。
「謝ったんだ。消せよ!その写真!バックアップも!」
『そうね。消すわ。私のスマホからは。でも、あなたたちが今後悪さが出来ないようにそっちの少年に
写真データは送っておく』
「貴様っ」
金髪少年が拳を振り上げたその瞬間、私たちの目の端に赤いランプが映る。
偶然にもパトカーが巡回しに来たのだ。
ゆっくりと速度を落とすパトカーの中の警察官は私たちに視線を向けている。
「くそっ。お節介ババアがッ」
そう言って金髪少年は拳を下げ、私の横を通り抜けた。
「行くぞ!」
金髪少年お付の二人の学生も去っていく。
パトカーも速度を上げて公園の脇を通り過ぎていった。
金髪少年たち達が立ち去り、パトカーの姿も見えなくなった。
私はそばかす少年に向き直る。
『怪我はない?』
「は、はい。大丈夫です。痛っ」
『あら。大丈夫じゃないじゃない。血が出ているわ』
見ればそばかす少年の手のひらの皮が切れて血が滲んでいた。
「このくらい・・・」
『このくらいだなんて言わないで。傷口に砂利が入って痛そう』
怪我は地面の摩擦で手の皮が剥けたのだろう。線が入ったような傷跡。
『そこに水道があるから怪我を洗いましょう』
私は彼の背中を押して、水道へと誘導する。
『・・・残念だったわね、ノート』
そばかす少年が手のひらの傷口を水で洗い流すのを見ながら話しかける。
拾い上げたノートは焼け焦げていて、今もボロボロと灰が零れ落ちる。
「どうにか見えるよ。ノートの中身は頭に入っているし、書き写せばいい」
そばかす少年は先ほどの怖さを引きずっているのか顔を痙攣させながらも笑みを浮かべてくれた。
「あなたが助けてくれなかったら酷い目にあっていました。あの・・・お名前、お聞きしてもいいですか?」
『もちろん。雪野ユキよ。ユキって呼んで』
「ユキさんですね。僕は、緑谷出久と言います。ぼ、僕も、良かったら出久って・・・」
『出久・・・響きが綺麗な名前ね』
「そ、そうかな!?ぼ、僕、あんまり自分の名前、好きじゃないから、ま、まさか、
褒められるなんて・・・その・・・」
『そこのベンチに移動しない?』
私はハンカチで出久くんの手についた水滴を拭き取りながら顔を振ってベンチを示した。
『怖かったよね。声が震えてしまっている。落ち着くまで休んだほうがいい』
「え、えっと、いや、声が震えているのは・・・その・・・」
『何?』
「い、いえ!何でもないですっ(本当は女の人と話すのが緊張するんですとは言わないでおこうカッコ悪いし)」
『そう?それならそこのベンチに座っていてね』
私は自販機で飲み物を買って出久くんが座るベンチへと行く。
『はい』
「あ、ありがとうございます。えっと、お金」
『いいよ。私が勝手に買ってきたものだし。それより治療しよう。手を貸して』
「あ、いえ、自分で」
『手の怪我は自分で治療しにくいよ?さあ、遠慮しないで』
「あ、あの、では、あ、ありがとうございますっ」
照れたように顔を真っ赤にさせながら出久くんが両手を出す。
「???あの??」
『少し待っていてね』
不思議そうな顔をする出久くんの手を握って、意識を傷口に集中させる。
傷が浅いから治りが早い。あっという間に傷口は塞がって、傷跡も消えた。
「凄い!治癒の個性なんですね!治癒の個性ってとっても珍しい!いいなぁ!」
『痛みは引いた?』
「はいっ。ありがとうございます!」
出久くんは赤い顔をしながらブンと勢いよく頭を下げてくれた。
『そうだ。あの写真送るよ。メールかSNSのどれか教えてくれる?』
先ほど金髪少年に脅されていたところを撮った写真を出久くんに送ろうと、スマホを鞄から取り出す。
しかし、
「あの・・・いいです、写真は・・・」
そう言って、出久くんは申し訳なさそうな顔で、でもしっかりと首を横に振った。
『万が一のために持っていたほうがいいんじゃない?』
「でも、かっちゃんは・・・かっちゃんはそこまで悪い人じゃないから」
『あ、呆れた。あれだけされておいて悪い人じゃない?』
私は唖然としてしまう。
『お人好しが過ぎるわよ?』
「でも、幼稚園の頃からの友達なんだ。だから、かっちゃんはそんなに悪い人じゃない・・です・・・」
『本当にいいの?』
俯く出久くんの顔を覗き込む。
「はい」
出久くんは無理やり笑顔を作って頷いた。
私がなんと言おうと写真を受け取る気はなさそうだ。
『・・・分かったわ』
意思を変える気のなさそうな彼に私も、もう何も言えない。
私は自分のスマホから先ほどの写真を消した。
「情けないなぁ」
『出久くん?』
唐突に出久くんが呟いた。
「僕、ヒーローになるのが夢なんだ」
出久くんは寂しそうに笑った。
「それなのに、苛められてばっかしで」
彼の瞳に大きな涙の粒が浮かぶ。
私はそっと新しいハンカチを彼に差し出した。
『使って』
「え、でも・・(女の子の私物!しかも2枚目!)」
戸惑う出久くんの目元にハンカチを持っていくと、彼は世話されるのが恥ずかしいのか私のハンカチを
受け取って、涙を拭った。
『なれるよ、ヒーロー』
「え?」
目を大きく見開いてこちらを見る彼に微笑む。
『だってこんなに勉強しているんだもの』
彼の膝にあるノートをヒョイと取り開けば、プロヒーローたちの技、長所、短所が細かく書かれていた。
『私は応援してる』
「ユキ、さん・・・でも、僕、僕っ・・・」
何が彼を泣かせてしまったのだろう?
出久くんが急にうわーんと激しく泣き始めてしまった。
『ど、どうしたの!?私、何か傷つけること言っちゃったかしら?』
「ち、違うんだ、僕は、僕はっ、嬉しいんだ。でも、悲しくって・・・!」
『え、どっち!?』
目を瞬いていると、
「僕は無個性なんだ!」
叫ぶような声でそう言い、出久くんはダンっと両拳で自分の膝を叩いた。
『無個性・・・個性が何もないっていうこと?』
俯き、涙を拭いながらコクンと一つ頷く出久くん。
私は彼の背中にそっと手を回す。
ゆっくりと彼が落ち着くように背中をさする。
『ねぇ、出久くん。私はあなたが無個性だと聞いても意見は変えないわ』
「ひっく・・・ぐっ、え・・・?」
泣きはらした赤い目が不思議そうに私を見る。
私は彼に微笑みかける。
『プロヒーローのマンダレイって知っている?』
首を傾げて問いかけると、出久くんは不思議そうな顔で頷いた。
「も、もちろん。4人ひと組のヒーローチーム。ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの司令塔でしょう?
でも、なんで急に・・・」
『出久くんに問題。マンダレイの個性は?』
「テレパス」
直ぐに答えが返ってくる。
「対象者の脳に言葉を直接伝達することができる個性」
『そう。彼女の主な役割は戦術指揮。でも、対人戦も行うわ』
「そうですね。両手に着けている刃仕込みの猫の手型グローブを用いた肉弾戦も得意としている・・・」
『肉弾戦向きの個性じゃなくてもこうして戦うことが出来るんだよ?』
「あっ・・・」
『工夫次第で出久くんもそうなれる。今はヒーローコスチュームの発展も著しいし、
そういった物で弱点を補いながら、出久くんは頭脳を使った戦い方をすればいい』
「ユキ、さんっ・・・」
ぶわっと出久くんの目から再び涙が溢れ出した。
「僕、なるんだ、なるんだ、ヒーローに!」
『うん!一緒に頑張りましょう』
私は出久くんが落ち着くまで、彼の背中をさすり続けたのだった。