限界突破!
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1.不安定なオリジン
世界総人口の約8割が何らかの特異体質―――個性を持つ超人社会となった現在。
個性を持て余した悪者が悪行を働く混乱渦巻く社会。
悪者たちを倒すのは誰か?
それは、かつて誰もが空想し、憧れた者たち
“ヒーロー”
たちである。
超常に伴い爆発的に増加した犯罪件数。
法の抜本的改正に国がもたつく間、勇敢な人々がコミックヒーローさながらに活動を始めたのだ。
たちまち市民権を得たヒーローは世論に押される形で公的職務に定められる。
彼らは活躍に応じて国から収入を!
人々から名声を!
与えられるのである。
***
ーーー祓いたまえ、清めたまえ
静岡のとある山中にある神社で凛とした女性の声と幣(ヌサ)を振るシャッシャッという音がしていた。
時刻は朝の7:00。
頭を垂れ、お祓いを受けているのはヒョロヒョロな見るからにひ弱そうな男性。
若い巫女によって祝詞が唱えられ、お祓いが終わる。
「ありがとうございました」
『ありがとうございました』
私はオールマイトさんにお辞儀を返した。
私は巫女の装束からラベンダー色のカットソーと灰色の膝下丈のスカートに着替え、
オールマイトさんが待つ休憩室へと入っていった。
「お祓いありがとう、ユキちゃん」
『どういたしましてです、オールマイトさん。朝早くから静岡まで来て頂きありがとうございます』
「そんな。お祓いしてもらったのは私なんだ。お礼を言うのは私の方だよ。それに朝早い時刻の山の空気は
気持ちがいいね。清々しい空気とお祓い、気持ちがスッとしたよ」
『そう言って頂けると嬉しいです』
私はオールマイトさんと一緒に休憩室で緑茶を啜っていた。
ここは青森にある雪野山に総本宮を置く雪野大神宮の分社、雪野神社。
私は雪野大神宮、そして雪野大神宮の隣に建つ雪野寺を代々守っている雪野家の娘だ。
そんな私は久しぶりにお山を下りて関東へと出てきていた。
そして、折角関東まで来たのだから静岡まで足を伸ばし、両親と親しいオールマイトさんと会うことになり、
これまた折角だからと私がオールマイトさんのお祓いを行ったのだ。
『オールマイトさん』
「なんだい、ユキちゃん?」
『前回お会いした時よりも大分弱ったように感じます・・・』
「あらら。分かっちゃった?」
オールマイトさんが眉を下げてため息混じりに自嘲する。
「今や私のヒーローとしての活動限界は3時間しかないのだよ」
『3時間ですか・・・』
「これから益々活動限界時間は短くなっていくだろう」
風前の灯の平和の象徴。
絶対的なヒーローであるオールマイトさんの存在は、その存在だけで犯罪を抑止する力を持っている。
オールマイトさんがいなくなってしまう時の事を考えると・・・日本はどうなるのだろう?想像して身震いする。
「そうだ。君に報告があるんだ」
オールマイトさんの言葉でハッと我にかえる。
目の前にはニコニコしているオールマイトさんの顔。なんだろう?
『どういったお話ですか?』
「ユキちゃんにも関係のあること。来年度から私、雄英高校の先生になるんだよ」
『っ本当ですか!?』
「HAHA!良い反応だね」
『私もオールマイトさんの授業を受けられるでしょうか?』
「勿論さ!」
『嬉しいです!あ、でも、体は大丈夫なんでしょうか・・・もし、マッスルフォームがみんなの前で
解けたりしたら・・・』
「心配することないさ。根津校長には担任を持たず、教科科目は教えず、ヒーロー基礎学のみを
教えるよう言われている。そのくらいの時間のみならなんとかなる」
『復学への不安が少しだけ和らぎました』
「やはり怖いかい?」
私は正直に首を縦に振った。
私は約2年前から雄英高校を休学していた。
そして来年の4月から復学する予定でいる。
何故休学になったかというと、それは力の暴走。
私の個性は細胞の活性化、死滅。死んだ細胞も生きかえらせることが出来る。
治癒にも使える個性だが、他の使い道もある。
私が1年生の体育祭であったチャンバラ合戦。
私は哺乳類以外の細胞も活性化出来るので手に持った木の竹刀の細胞を活性化させた。
相手の生徒に襲いかかる竹。
私は力のコントロールが出来なかった。
鋭い竹の先端が相手の体を刺した。
重症だった。
暴走を抑えた時には既に相手の生徒は血祭りに上げられ、息も絶え絶えになっていたのだった。
相手の生徒が一命を取り留めてどれだけ安堵したことか。
私は体育祭後直ぐに休学届けを出して実家のあるお山へ帰り、力をコントロールする修行に励んだ。
2年間の修行は厳しいものだったが、そのかわり力をコントロール出来ると実感できるほどになった。
でも、不安はつきない。
私の瞼には竹の枝に絡まりイエスの磔刑のように空中に持ち上げられ、血を地面に滴り落とす
同級生の姿が目に焼き付いていた。
修業の末、両親や兄たちは私が力を支配下に置いていると言ってくれていた。自信を持ちなさい。
そう言葉をかけてくれていた。
私は家族に『はい』と笑顔で頷いてみせた。
でも、内心は不安だった。
しかし、2年間もの間、散々修行に付き合わせた家族に本当の気持ちを言うのが躊躇われた。
でも、不思議・・・
オールマイトさんには自分の気持ちを素直に吐露できた。
『また人を傷つけてしまったらと思うと怖いです。次は殺してしまうのではないかと考えてしまう・・・』
私は膝の上に置いていた手をぎゅっと組んだ。指先が赤く変色していく。
「そんなに強く握りしめたら傷が出来るよ?」
握っていた両手に大きな武骨な手が優しく乗せられた。
「ユキちゃんなら大丈夫だよ」
顔をあげるとオールマイトさんの笑顔があった。
『オールマイトさん・・・』
「私がついている。とは言っても、君のご家族が復学を許したということは、君は自分の力を支配下に
置けているということなのだろうから私など必要はないのだろうけどね。足りないのは自信だけ」
オールマイトさんは私の顔を覗きこみ、もう一度私に微笑みかけた。
「君の不安は他者への優しさだ。力のコントロールは引き続き学校で学んでいこう。
もし君が暴走してしまっても、その時は、私がいる」
『―――はいっ』
私がいる
学校でいつもオールマイトさんが傍にいてくれるわけではない。
でも、私がいる。という言葉はなんて頼もしい言葉だろう。
私はオールマイトさんのその言葉だけで心がスッと軽くなった。
ボーン
壁掛け時計の音がなる。
「1時間近く話し込んでいたね。そろそろ神社を出ようか。ユキちゃんはこのまま青森へ帰るのかい?」
『いいえ。4月から下宿させて頂くお宅へご挨拶へ行く予定です』
「一人暮らしじゃないんだね。前の時もそう?」
『はい。前は父のお弟子さんのプロヒーローさんの家に下宿させて頂いていました。
私は一人暮らしを経験したかったんですけど、父や兄たちが過保護で・・・』
この事についてのゴタゴタを思いだし、私は重い溜め息を吐き出した。
『4月からはエンデヴァーさんの家に下宿させて頂くことになっているんです。
No.2ヒーローの元に身を置かせて頂けるなんて光栄です。修行も見て頂けるそうで』
「そうか!それはいいね。しかし、修行は厳しいと思うよ?」
『頑張ります!』
「良い返事だ!」
オールマイトさんが私の頭をヨシヨシと撫でた。
『なっ。こ、子供じゃないんですから』
「HAHA!私から見たら君はまだまだ子供だよ。伸び代がたっぷりあるね」
そう言ってオールマイトさんはニッコリ笑う。
「新年度が楽しみだね!」
『私もです』
「では、帰るとするか」
『はい』
私たちは山を下り、バスに乗って田等院駅へ着いた。
「それじゃあね、ユキちゃん」
『失礼致します』
ヒラヒラと手を振ってくれるオールマイトさんが、人混みの中へ消えて行った。