Knight!
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7.本丸
―――ユキサマや皆もいるから僕たちは大丈夫です!
瀬戸くんの事を皆に話した後、五虎退くんは私たちに
笑みを向けてくれた。
二度と五虎退くんや小虎ちゃんたちに怖い思いをさせない。
こわばった五虎退くんの笑みを見て、そう私たちは
心に誓う。
そして私たちは今、赴任地への引越しを終えたところ。
『嫌な挨拶を先に済ませに行こうか』
という訳で電話で連絡をして、私たちは瀬戸くん達の
本丸へ挨拶をしに行ったのだが・・・
「み、皆さん、お茶でも飲みませんか?」
『うん。ありがとう、五虎退くん』
本丸に帰りズドーンと沈んでいる私たちの横で、何故か一番
気を使われるはずの五虎退くんがオロオロしながら私たちに
気を使っていた。
原因は瀬戸本丸への挨拶。
彼の刀剣男子は私と同じ4振。
打刀の蜂須賀虎徹さん、骨喰藤四郎さん、へし切長谷部さん、
大倶利伽羅さん。
打刀と脇差。その迫力に押され気味だった私たちだが、
お隣さんに一生懸命ご挨拶した。のだが・・・
「俺は蜂須賀虎徹。銘入りの虎徹はほぼ全て贋作だが俺は本物。
間違っても偽物なんかと一緒にしないでくれ」
自分に向けられた言葉ではないのにズドンと
落ち込んでしまう山姥切国広さん。
「くっ・・・」
「浦島、まだまだのようだね」
久しぶりの兄弟再会を喜んで蜂須賀さんと手合わせしたのだが、
負けてしまって落ち込む浦ちゃん。
「あの、こんにちは。骨喰藤四郎さん、兄弟の秋田藤四郎です!
お会いできて嬉しいです」
「??・・・誰?(記憶が消えてしまっている・・・)」
兄弟に会えてウキウキした秋田くんに小首を傾げて
何故か無言を貫く骨喰さん。
何とも言えない雰囲気にオロオロし通しだった秋田くん。
『大倶利伽羅さんが大将なんですね。お互い援軍が必要な時が来ると
思うので、日頃から親睦を深めておきましょう!よろしくお願いします』
「断る・・・俺は、群れるつもりはない」
『えっ・・・あ、そ、そうですか・・』
眼光鋭く睨まれて、握手する手を差し出したまま固まる私。
こうして私たち一人と3振はズドーンと落ち込んでしまったのだ。
ちなみに、へし切長谷部さんはというと、彼の目には瀬戸くんしか
映っていないらしく、ずーっと瀬戸くんをキラキラした目で見つめていた。
(彼はちょっと変な子のようだ・・・)
『あぁ、お茶が心に染みていく・・・』
「ユキサマ、良かったらお菓子もどうぞ」
『うん。ありがと』
五虎退くんからお饅頭を受け取ってパクリと食べる。
甘くて美味しい・・・・あ、ちょっと元気になったかも。
モグモグ食べながら部屋のあちこちに散らばって各々落ち込む
みんなを見る。
落ち込みながらも五虎退くんに勧められたお饅頭を受け取って
口に運ぶみんな。
元気になったかは別にして、我が本丸は甘党の集まりだと判明した。
『うん。甘いもの食べたら元気出てきた』
「よかったです!」
立ち上がった私を見て五虎退くんがニコリと笑った。
いつまでも落ち込んでいられない。
引越しの片付けもまだ残っているし、今日から慣れない釜戸で
調理をしなければならないのだ。
よっし、行動開始だ!
両手を天井にぐーっと伸ばした私だが、突然聞こえてきた
電子音に顔を凍りつかせた。
<出陣要請、出陣要請。歴史修正主義者の出現を確認>
本丸に鳴り響く本部からの出陣要請指令。
まさか引越しの直後に出陣要請がくるなんて・・・。
急なことで心が酷く動揺してしまう。
「ユキ、しっかりしろ」
いつの間にか目の前に来ていた山姥切国広さんに
声をかけられてハッと顔を上げる。
「訓練通りにやれば大丈夫だ」
ポンと肩に置かれた手。
体の強張りがゆっくりと解れていくのを感じる。
そうだ・・・大丈夫。
私には山姥切国広さんやみんながいる。
『出陣の準備を整えて、時空間移動装置前に来て下さい』
馬小屋内の一画にある時空間移動装置。
私たちはここから敵の近くまで瞬間移動する。
私が出陣の準備を整えて馬小屋まで移動すると
装置の前には既にみんなの姿があった。
「位置は特定出来たか?」
『うん。敵がいる近くの丘に移動しようと思う』
本部から転送されたデータから敵の正確な位置を確認し、
ワープに適した場所を決めるのも審神者の仕事。
『装置内に入って。ワープします』
装置にワープ場所の座標を入力して振り返ると
みんなが力強く頷いてくれた。
きっと、大丈夫。
覚悟を決めてワープボタンを押す。
『うっ!』
ワープは何回やっても慣れない。
パアァと目の前が白い光でいっぱいになる。続いて宙に浮く感覚。
そして気分が悪くなりかけた時に足の裏に地面を感じた。
ワープしたのは敵から3Km程離れた丘の上。
丘には所々茂みが点在している。
こちらの方が敵よりも高い位置にいるので敵の様子を覗える。
「見えるか?」
『大丈夫。よく見える』
双眼鏡に目を当てながら山姥切国広さんに答える。
『敵は3振。馬には乗っていないみたい』
騎乗していないし数も多くないがまだ油断は出来ない。
敵の刀剣種類を確認する必要がある。
「あの茂みまで行けば確認できるか?」
敵の位置から30m程離れたところにある茂み。
あそこまで近づけば敵の装備も見えるだろう。
山姥切国広さんに大丈夫だ、と頷く。
「敵に気づかれないように慎重に動け」
私たちは息を殺して前進していく。
足が小石を踏みつけて音を鳴らすたびに
心臓が跳ね上がる。
無事、茂みの後ろに隠れることに成功した私たち。
地面に膝をつき、索敵用の器具を出す。
『・・・敵は脇差二振り、短剣一振り。
霊力も私たちの方が断然上。出撃許可します』
双眼鏡で敵の刀剣種類を、ステータスを計る特殊な器械
で強さ確認してみんなに告げる。
「よし。秋田、戦闘が始まったらユキを頼むぞ」
「お任せ下さい」
『よろしくね、秋田くん』
「ご安心ください、ユキ様。何があっても僕が必ず
お守りいたします!」
トンと拳で自分の胸を叩く秋田くん。
私よりも小さな体をしているのに、自信を持って意志の強い瞳を
向けてくれる秋田くんは凄く頼もしく見える。
「全員、装備兵を召喚しろ」
山姥切国広さんの呼びかけでそれぞれが水晶から
兵士たちを呼び出す。
ぼわぁと淡い光と共に出てくる半透明の兵士。
うえぇ何度見てもやっぱり怖い。
『3人とも気をつけてね』
「行って参ります!」
「よっしゃ。腕がなるぜッ」
微笑む五虎退くんの足元で小虎ちゃんたちが咆哮し、その横では
浦ちゃんが気合を入れるように拳を掌にパンッと打ち付ける。
『山姥切国広さん・・・』
「すぐ戻る」
ポンと頭の上に乗る大きな掌。
大きな白い背中に私は祈る。
「行くぞ。出陣する」
「おー!」
「行くぜッ」
みんな、怪我しないでね・・・
「突撃!」
山姥切国広さんを先頭に進撃が始まった。
私は右手で双眼鏡を目に押し当て、左手で耳のイヤホンを
押し付ける。
「敵がこちらに気づいたようですね」
『うん・・・』
相手はどういう動きをしてくるのか・・・
秋田くんに相槌を打ちながら敵の姿を凝視する。
見えたのは私たちの方へと真っ直ぐに突っ込んでくる敵の姿。
私はすぐさまトランシーバーで山姥切国広さんに話しかける。
『敵を挟み撃ちに!鶴翼の陣を敷いて下さいッ』
「了解した。鶴翼の陣だ。五虎退と浦島は左翼へ!」
直ぐに山姥切国広さんから反応が返ってきて、五虎退くんと
浦ちゃんに指示を出す声が聞こえた。
遠くから二人が了解する声も聞こえてくる。
私に出来ることはここまで。
後はみんなの事を信じてここで待つのみ。
双眼鏡のレンズに映るのは激しい戦い。
山姥切国広さんが剣を振って敵の装備兵が一気に3振
消失したのが見える。
「ユキさま、お顔が真っ青です。大丈夫ですか?」
『ごめん。戦の雰囲気に飲まれてしまって』
私ったら情けない。
心配そうな顔で私を見つめる秋田くんに眉を下げると
彼は私を安心させるように笑んで、背中に手を添えてくれた。
「山姥切国広さんも五虎退くんも浦島さんも、皆さん強いです。
大丈夫、大丈夫・・・」
あやすように背中を撫でてもらって心が落ち着いてくる。
そうだよね。みんなは強い。
みんなを信じて、彼らの初陣を見届けよう。
私は土埃の舞う戦場に視線を戻す。
「敵の殲滅に成功した」
静かになった合戦上。
私と秋田くんは山姥切国広さんの報告に喜び合う。
『みんな無事!?』
トランシーバーに叫ぶ。
「装備兵も一体もやられていない。俺たちの完勝だ。
それから、そんなに叫ばなくても聞こえている」
「鼓膜が破れる」と言う山姥切国広さんの文句を無視して
私と秋田くんは茂みから飛び出し、走り出す。
徐々に大きくなってくる彼らの姿。
『みんな初勝利おめでとう!』
「おめでとうございます!」
勝どきを上げる装備兵たちに囲まれる三人。
私と秋田くんとハイタッチをする五虎退くん。
駆け寄ってくる小虎ちゃんたち。
得意そうに鼻をさする浦ちゃん。
『お疲れ様、大将』
「良い布陣だった。秋田もご苦労だったな」
山姥切国広さんの優しい微笑みを見て、ようやく
勝利の実感が沸いてくる。
それと同時に緊張の糸が切れたのか体がガタガタ震えだしてしまう。
『アハハ、今さら震えだして・・・情けなくてごめんね』
恥ずかしさを誤魔化す様に笑っていると目の前が暗くなる。
温かく私を抱きしめる腕。
「よく頑張った。偉かったな」
耳元で響く甘く低い声。
堪らず私も山姥切国広の背中に腕を回し、ギュッと抱きしめると
彼は私の背中を優しく撫でてくれた。
広い胸と落ち着く匂い。
体の震えはだんだんと収まってくる。
「落ち着いたか?」
『うん。ありがとう』
見上げて笑いかければ微笑みを返してくれるのが嬉しい。
『みんなごめんね。お待たせしました。帰還しよう』
私は胸を温かくしながら振り返る。
私たちは初陣を最高の結果で飾り、無事に本丸へと
帰っていった。
そして、その日の夜。
『それでは盃を持って!せーの、カンパーイ!』
「「「かんぱーーい」」」
「・・乾杯」
『・・・。(ニヤニヤ)(言ってくれた)』
「!?ユキ、何だその目は。俺が写し『違うからッ』・・・。」
山姥切国広さんのお約束自虐ギャグで始まった
引越しと初勝利を兼ねた宴会。
前の部屋は洋風だったが、ここは日本庭園もついている
完全な和の造りの家。
広々とした居間に座卓を置き食事をしている。
お祝いということでお酒もある。
『くぅ、いっぱい働いたからお酒が美味しい』
「飲み過ぎるなよ」
『まあまあ、今日くらい堅い事はおっしゃらずに!
山姥切国広さんも飲んでください』
自分が思い切り飲みたい私は山姥切国広さんの盃に
お酒を注いでしまう。
「もういい」と言いながらも注げば飲んでしまう山姥切国広さん。
もしかしてお酒が強いのかも。
「ところでユキ様、本丸に帰ってこられてから
本部と連絡を取っていらっしゃったようですが・・・?」
『今回の合戦のデータを分析してもらっていたの』
料理をどかしてスペースを造り、電子パッドを
座卓の上に置く。
興味津々に覗き込むみんなに説明する。
『こっちが怪我の具合。この数字は敵へ与えたダメージを
数値化したものだよ。大将は指揮の経験値もプラスされているの』
「へぇ。おもしれぇな」
「この“誉”というのは?」
五虎退くんが山姥切国広さんの名前の横にある文字を指す。
『これは合戦で一番活躍した人を表す印』
「わー!凄いですね」
五虎退くんにキラキラした目を向けられた山姥切国広さんは
恥ずかしそうにグッとフードを目が隠れるまで引き下げた。
もう!あなたって人は本当に可愛いんだから!
「誉かぁ。俺も取りてぇな~」
「僕もです」
浦ちゃんの言葉に五虎退くんが頷く。
『そうだ。みんなに相談。秋田くんなんだけど、私は彼にも
合戦に加わって欲しいと思っているの』
「えっ。でも、それでは、ユキ様をお守りする者が・・」
『今日くらい敵との距離があったら流れ弾も飛んでこないし
一人でいても大丈夫なはずだよ』
それに今日の敵は3振りと少なかったから無傷で完勝できたが
いつかは強い敵と出くわすこともあるだろう。
交代できる刀剣がいない今、私を守るためだけに戦力を割くのは
良くない。4振で戦えばそれぞれの負担も少なくなる。
怪我をしても軽傷で止めておきたい。
『山姥切国広さん、どうかな?』
「俺は反対だ」
山姥切国広さんが即答した。
うっ・・・反対なんだ。
目に“絶対”と書いてあるのを見て肩を落とす。
審神者命令と言ってしまえばそれまでなのだがそうはしたくない。
時間をかけて話し合いたいところだが、今はとりあえず―――
『・・・難しい話は置いておいて、今は楽しもうか』
眉をハの字にしていた皆に笑いかける。
「よっしゃ。今夜は飲むぞー!」
暗くなりかけていた雰囲気を破るように浦ちゃんが
声を上げて、宴会は再開された。
『星の数が違う』
宴会が終わり、お風呂から上がった私は部屋に戻る途中の
廊下で立ち止まった。
夜空一面に瞬く星。
大気汚染の進んでいないこの時代の星空は澄んでいて美しい。
「何をしている」
どのくらい経ったのだろうか。
星空に見惚れていると廊下の端から声をかけられた。
こちらへやってくる山姥切国広さんに微笑む。
『天体観測だよ。星が綺麗だなぁって』
「そうだな。前の場所よりも良く星が見える」
隣に並んで山姥切国広さんも空を見上げる。
キラキラ瞬く星。
静かで穏やかな時間。
昼間、歴史修正主義者と戦ったのが嘘のようだ。
「秋田と話した」
『ん・・・?』
「宴会の時に言っていた事だ。合戦の時にユキの護衛が
必要かどうかという話の・・」
『あぁ。そっちで話してくれたんだ。聞かせてくれる?』
早いうちにこのことを話しておきたいと思っていたので
山姥切国広さんから話題を持ち出してくれて良かった。
私たちは縁側に並んで座る。
「まず、秋田だが、ずっと護衛だけ任せるのは
良くないという事になった」
『秋田くんは戦えるって言ってた?』
「機会を与えられるなら俺たちと戦いたいと言っていた」
『そっか』
ずっと守刀であまり戦に出たことがないと言っていたから
合戦には行きたくないのではと心配していたのだ。
本人が戦ってくれるというのなら是非一緒に戦って欲しい。
『じゃあ、次の合戦からは4振で「それはダメだ」・・むぅ』
山姥切国広さんの碧い瞳に見据えられて身が縮こまる。
「あいつらとも話し合ったが、ユキの護衛はひと振り
つけておくということでまとまった」
『うぅん。気持ちは嬉しいんだけどねぇ。やっぱり反対だな。
余計なところに戦力を割いている余裕はないよ』
「余計なところではない。俺たちの力を引き出せるのは
お前だけだ」
て、照れるな。
照れている場合ではないのに山姥切国広さんの
言葉に顔を赤くしてしまう。
必要だと思われるのって嬉しいな・・・
『ありがとね。でもさ、私は大丈夫だよ。今日も合戦場とは
しっかり距離を取っていたから危険なことなんてなかった』
「なにが大丈夫だ。あんなに震えていたくせに」
『それは初めてで怖かったからだよ』
次は平気だよ。と言うが山姥切国広さんからは疑いの目。
山姥切国広さんって結構過保護だよね。
私はふっと小さく笑ってしまいながら彼の手に
自分の手を重ねる。
そして、想いが伝わるようにアイスブルーの瞳を見つめる。
『ねぇ、山姥切国広さん。私はあなたからしたら頼りないかもしれない。
剣を持って戦うことは出来ない。でも、私は審神者。私は審神者として
出来ることをしたい。やれることはやらせて欲しいの』
思いを込めて山姥切国広さんの手をギュッと握る。
迷うように揺れる彼の瞳。
長い沈黙の後、山姥切国広さんは長い溜息をついた。
『え・・・』
突然抱き寄せられて目を見開く。
キツくキツく私を抱きしめる山姥切国広さんの腕。
「わがままな主だ」
山姥切国広さんの声が苦しく、切なく胸に響く。
「約束しろ」
私を腕から解放した山姥切国広さんの手がそっと
頬に添えられる。
どうして彼はこんなにも、優しい目で私を見てくれるのだろうか・・・
胸が、高鳴っていく。
ダメだ。 このままだと勘違いしてしまいそう・・・
「万が一の時は俺たちを置いて逃げろ。そう約束するなら
お前の言うことを聞く」
彼の声でハッと我に返った私は山姥切国広さんから
視線を逸らす。
『・・・山姥切国広さん達が、その万が一が来ないように
してくれるなら約束するよ』
ニコッと笑って立ち上がり、彼に背を向ける。
『そろそろお風呂から上がった頃だと思うから、
みんなにも伝えてくるね』
「っおい。ちゃんと約束してから行け」
山姥切国広さんの声には答えない。
だって、そんな約束出来るわけないじゃない。
あと、今口を開いたらダメ。
あなたが好きだと言ってしまいそうだから・・・
『ハアァ。向こうはこんなこと一つも思っていないんだろうなぁ』
人間と付喪神
審神者と刀剣
厄介な人を好きになってしまったものだ。
笑っていいのか、泣いていいのか分からかったので、取り敢えず私は
空に向かって無理矢理ニーっと笑ってみたのだった。