Knight!
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6.ミッション
秋田くんと浦ちゃんを仲間に迎えた私たちは帰りに寄った
スーパーであれこれ買って自宅で歓迎パーティー。
秋田くんも浦ちゃんも明るくて良い子だから、この数時間で
すっかり打ち解けていた。
お腹いっぱい食べて皆でパーティーの片付けをしていると着信音。
ディスプレイにはルイ先輩の名前。
時計の針は11時30分。
美容のために早寝を心がけているルイ先輩が珍しい、と思いながら
電話に出る。
『もしも「見よおおぉぉ!拙僧の筋肉!!カッカッカッカッカッカッカ」・・・』
ブチッ
ツーツーツー
「ユキサマ?」
『間違い電話だったみたい』
ビックリして思わず電源をOFFにした私を責めないで欲しい。
電話を鞄に入れながら五虎退くんに微笑み、お皿を流しに運んでいると
また着信音が鳴った。今度は固定電話から。
ビクビクしながら受話器を取ると鼓膜にガンッと響く声で雷が落とされた。
「ユキったら電話切るんじゃないわよっ」
かけてきたのはルイ先輩。
とすると、さっきの筋肉自慢は先輩の近侍、山伏国広さんか。
『すみません。新手のスポーツジム勧誘かと思って』
「あぁ、山伏の声で私の声が「カカカカカ唸れ!拙僧の「ちょっと待ってて」
ピッと電子音が聞こえたが、保留中の音楽が聞こえてこないからルイ先輩は
間違ったボタンを押してしまったようだ。
受話器越しに聞こえてくるルイ先輩のドスの利いた声。
山伏さんの身が案じられる。
「お待たせ。今、家よね?」
ガタガタ震えていると鈴を転がすような可愛らしい声でルイ先輩が言った。
『はい。家におりますが・・・』
「私たち、Dブロック棟のロビーにいるから下まで降りてきてほしいの。
山姥切国広さんも一緒に来てもらって」
『分かりました。直ぐに降ります』
こんな夜中にどうしたのだろう?
呼び出される心当たりがなく、ルイ先輩からの話の内容に見当がつかない私は
難しい顔をしていたらしい。台所から顔を覗かせた山姥切国広さんが心配そうな
顔で近づいてきた。
「誰からだ?」
『ルイ先輩から。山姥切国広さんとロビーに来てって。
一緒に来てもらっていいかな?』
「わかった」
片付けを五虎退くん達にお願いして、私たちはエレベーターで1階へ。
1階はホテルのロビーのように椅子やテーブルが置いてある住人の憩いの場所。
日中はお茶をしながら話をする審神者で賑わうが、さすがに真夜中に近い
この時間は誰もいない。
私たちは直ぐにルイ先輩と椅子の上で体育座りをする山伏国広さんを見つけた。
『お待たせしました』
「夜遅くに悪かったわね」
『いいえ。新しく部隊に迎えた刀剣さんたちの歓迎パーティーをしていたので
起きていましたから』
「無事に刀剣を迎えられて良かったわ。落ち着いて話したいから二人とも座って」
『ありがとうございます、ルイ先輩。ですが、その・・・』
「あぁ、うちの近侍なら気にしないで」
気にしないでと言われましても・・・
山伏国広さんを見ながら口ごもっているとルイ先輩が微笑んだ。
「電話している人の近くでは静かにしましょうねって言い聞かせたら
しょげちゃったのよ」
困った子よね、と笑う先輩の目が怖い。
どんよりと暗い影を背負っている山伏国広さんに苦笑い。
刀剣男子を言葉だけで撃沈させるなんて・・・ルイ先輩ったら何言ったのかな・・・
「ところで、我が主に話とは?」
さすが山姥切国広さん。
自分のマントのフードを引っ張って隣でシクシク泣き出した山伏国広さんを
視界からシャットアウトしながら聞いた。
ルイ先輩の顔つきが真剣なものに変わる。
私も背筋を伸ばした。
「ユキにとっては悪い知らせよ。あなたと同じ江戸時代に瀬戸祐介が
行くことになったわ。しかも大江戸よ」
『そんな!本丸は彼の隣ですか!?』
「そうなるわね・・・」
苦い顔でルイ先輩が頷いた。
ゾクッと背中に悪寒が走る。
瀬戸くんは大学の同期。
五虎退くんは私の所に来るまで瀬戸くんのところにいたのだが、その時に
瀬戸くんからは暴言を言われたり、時には叩かれるなど辛い思いをしてきたのだ。
それに・・・。
私は以前、瀬戸くんに掴まれた手首をさする。
何が、とは具体的に彼から何かされたわけではないので言えないが、私は
瀬戸くんに剣呑なものを感じていた。
「ユキ、話は俺が聞いておくから部屋に戻るか?」
私を心配そうに見つめる山姥切国広さんに首を振る。
『ルイ先輩、詳しくお願いします』
テーブルの下で作っていた握り拳にギュッと力を入れ、
自分を奮い立たせながら話してくれるようにお願いする。
審神者は刀剣男子と共に上層部から指示された時代の地域にワープし
本丸を構え、任された時代の地域を守る。
基本的には自分が指示された時代、地域を守ればいいわけだが敵も強い。
自分たちの部隊だけでは守りきれない時もあるわけだ。
そんな時には応援を要請するのだが、私たちが今いる時代から安全にワープするには
複雑な計算が必要になり援軍を送り込むまでかなりの時間がかかってしまう。
ワープは時代や場所が近ければ近いほどリスクが少なくなる。
だから私たち審神者は派遣された時代、地域と近い審神者とペアを組み、
ピンチが訪れた時は助け合えるように同時代、同地域において本丸を並べて
建てることになっている。
気になっていたお隣さん。
それが瀬戸くんだなんて・・・最悪だ。
「あんたって子はいつも自分の気持ちに正直ね」
心が顔に現れてるわよ、と苦笑するルイ先輩。
『時代も場所も沢山あって、審神者も私たち新米を含めて沢山いるのに
瀬戸くんとペアを組むことになるなんて不運です』
酷い悪口を言っている自覚はあるが私は一ミリも罪悪感を感じていなかった。
与えられる本丸は大きな武家屋敷ほどの広さがある。
だから瀬戸くんが私たちの本丸に来ない限り(私から彼の本丸に
行くことはないから)彼と顔を合わせることはないだろう。
だが、それでも五虎退くんの事を思うと胸が苦しい。
瀬戸くんが近くに住む。
そう考えるだけでムカムカしてくる。
『あの、どうにか赴任地って変えられませんか?瀬戸くんを五虎退くんに
近寄らせたくないんですけど』
「残念だけど、私の力ではどうにも出来ないわ。それからね、
実は私が心配してるのは五虎退くんよりもユキの方なのよ」
『私ですか?』
キョトンとする。
瀬戸くんに強い力で掴まれた手首。
怖かったが誰かに訴えるようなことではない。
だからもちろんルイ先輩には話していない。
じゃあどうして・・・
私を心配そうにジッと見つめるルイ先輩。
『!?もしかして、先輩ったら私のことを好「あんた馬鹿なの?」
ルイ先輩が血も凍るような声で言った。
山伏国広さんの肩がビクリと跳ねた。
ご、ごめんね山伏さん・・・・
「ったく人が心配してるのに。瀬戸が赴任地決定権を持つ審神者の一人に
ユキとペアを組ませて欲しいって裏から手を回したらしいのよ」
はあぁと盛大なため息をつきながら先輩が言った。
『ペアを組ませて欲しいって、運動会の競技じゃないんだから・・・』
「分かりにくい例えね。っていうか全然話が進まないじゃない!!
山姥切国広!!あんた近侍なんだからぼさっとしてないでどうにかしなさいよッ」
「!?す、すみません(とばっちりだ・・・)」
山姥切国広さんの にらみつける 攻撃
私は深く反省するとともに、お喋りな自分の口を両手で封じた。
「しかし、ユキの言った通りです。誰と同じ赴任地に、などと言って
それが通ってしまうものなのか?」
「まともな審神者だったらそんな要求跳ね除けるでしょうね」
「っ!?それでは・・・」
ルイ先輩はテーブルに両肘をつき、組んだ両手に額をつけて
難しそうな顔で考え込んでしまった。
嫌な予感を感じながら私は山姥切国広さんを見る。
深い碧
穏やかな湖を連想させる瞳が荒立つ心を静めてくれる。
『ルイ先輩。先輩は上級審神者。だから私たちヒヨっ子には言えない事も
あると思います。その言えないことっていうのは危険なマズイ事だと思いますけど
私なら大丈夫です。私には山姥切国広さんや頼れる仲間がいますから』
『チキンハートだから逃げ足だけは早いですし』と笑ってみせると、驚いたように
目を見開いていた先輩は決心したように一つ頷いた。
「・・・言うわ。危険だから私は反対してたけど・・・あなたにならこの任務を
任せられるかもしれない」
ボソッと呟いた先輩の前で目を点にする。
んん??
ちょっと待って。任務って何?
もしかして、私は墓穴を掘ってしまったのではなかろうか。
ルイ先輩の話を聞きながら私は顔を青ざめさせていく。
先輩が話してくれたのはザッとこんなこと。
ここ最近、歴史修正主義者たちから待ち伏せや不意打ちの襲撃を受けたと
報告する審神者が急に増えたらしい。
そこで上層部が原因究明に動き出したわけだが、その調べた結果というのが
時空省、しかも審神者の中に敵との内通者がいるというものだった。
ルイ先輩の話を聞いていた私はハッと顔を上げる。
『もしかして、私たち新米審神者が合戦観戦ツアーに行った時も・・・』
思い出すのは山姥切国広さんが久しぶりに実体化してくれ、五虎退くんが
仲間に加わったあの日のこと。
私たち新米審神者に合戦の様子を見せるために出陣していったルイ先輩は
歴史修正主義者に挟み撃ちにされるところだったのだ。
あの時は他にも検非違使まで出現して大変だった。
「経験が浅いうちに潰そうと歴史修正主義者側に情報を流した奴が
いたらしいのよ。で、その内通者っていうのが・・・」
『赴任先の割り振りをした審神者ですか?』
「正解」
もちろん赴任地決めなどの大事なことは何人もの審神者が
選定に関わっている。
しかし、スッと目を細める先輩は既に内通者の目星がついているようだった。
「歴史修正主義者に私たちの情報を流している奴はスカウトマンの役割も
担っているらしいのよ。自分たちの方に寝返りそうな審神者を仲間に
引き入れようと勧誘している」
『じゃあ、瀬戸くんも・・・』
「歴史修正主義者側についたか、考えに共感し始めているのでしょうね。
そうじゃなかったらユキをペアにして欲しいなどという条件を
突きつけないでしょうから」
「そこまで分かっているのに内通者を捕まえられないのは何故だ?」
思ったよりも大きな話に呆けていると山姥切国広さんが言った。
「その内通者を捕まえて“はい、終わり”とはいかないのよ。そもそも証拠も
不十分だし、歴史修正主義者と内通者がどうやって連絡を取っているのかも
分からないし」
それに、と組んでいた手をぐっと握り締めながら先輩は「出来ることなら
歴史修正主義者の本拠地を探し出して、潰したい」と言った。
『聞くんじゃなかった』
「あら、ユキのくせに察しがいいじゃない」
がくんと肩を落とす私にニヤリと口の端を上げるルイ先輩。
「瀬戸から歴史修正主義者に関する情報を集めてちょうだい。内通者は
何人いるか分からない。一網打尽にしたいのよ」
そんな素敵なウインクされても困ります。
感情が顔に出やすい私がスパイ!?
やっていける気がしない。
でも、ここまで暴露されたら引き下がることなんて出来ないだろうし・・・
『ううぅ分かりました。引き受けます』
「ありがとう」
「ユキッ!」
ホッと息を吐き出すルイ先輩の前でダンッと床を蹴るようにして
山姥切国広さんが立ち上がった。
山姥切国広さんにキッと睨まれてたじろぐ。
え?私ったらまた何かした??
「まだ初陣にも出ていないお前がそんな危険な任務を果たせるはずがない」
『初陣なら偶然だけどしてるじゃん』
忘れちゃった?と聞けば鬼の形相で睨まれて、返事の代わりに舌打ちと
「考え直せ」という言葉が降ってくる。
『・・・。(ダメだ。にやけそう)』
だらしない表情になりそうで俯く。
怒っている山姥切国広さんの前で悪いが私は心を
ぽかぽかと温かくしていた。
彼はいつもこうやって私を心配してくれるのだ。
山姥切国広さんに心配してもらえる幸せ。
彼が私を想ってくれる気持ちは嬉しい。
でも・・・
私は顔を上げ、首を横に振る。
『山姥切国広さんから見たら頼りない審神者だろうけど、
でも、私だって一端の審神者。自分に出来ることはしたいんだ』
「しかし、あまりにも」
『臆病な人間は慎重だからスパイに向いてるんだよ。だから私は上手く
スパイ活動出来るはず。だから私に力をかして。お願い、山姥切国広さん」
立ち上がって山姥切国広さんに頭を下げていると
先輩が私の横に並んだ。
「この計画に携わっている審神者全員に代わって、私からもお願いします。
どうか私たちに協力してください」
『・・・ルイ先輩が頭を下げてる・・・』
「あんたは、黙って、頭を下げてなさいッ」
ルイ先輩に後頭部を押されて、床に額がつきそうなくらい
頭を下げさせられていると大きな溜息が聞こえてくる。
視線を上に向ければ眉間に縦線を刻む我が近侍の顔が目に映る。
「ハアァ分かった」
『一緒にやってくれるの!?』
「一度決めたら何を言っても聞かないだろ」
『あ、ありがとう!』
私の我が儘な思いを受け止めてくれた山姥切国広さんに感謝する。
心を熱くさせながら彼を見つめていると、
私の視線に気がついた山姥切国広さんと目があった。
「安心しろ。ユキのことは俺が守る」
「山姥切国広さん・・・」
胸がトクリと跳ねる。
頼もしい言葉。
山姥切国広さんがいれば大丈夫。
大きな安心感に包まれる。
「何だその目は。俺が写しだと言うことが」
「私のトキメキと感動を返して欲しいッ」
「っ!?(トキメキ!?)」
思わぬタイミングで自虐を放り込んできた山姥切国広さんに
クワッと叫ぶと、彼は何故かポッと顔を赤らめて照れたように俯いた。
頭の中に山姥切国広さんマゾ疑惑が浮上中
「夫婦漫才してるところ悪いけど、私たちはそろそろ帰らせてもらうわね」
呆れた声でルイ先輩が言った。
「あ、はーい(漫才!)」
「んなっ!?(くっ・・・何故鼓動が早くなるんだ・・・)」
ルイ先輩の言葉に明るくなる私の心。
山姥切国広さんが赤くなった理由
私に強く言い返されて喜んでいた → ×
自虐ネタに上手くツッコミが入って嬉しかった → 正解
ほっと安堵の息を吐いているとルイ先輩が私に
スッと手を差し出した。
「詳しくは追って連絡するわ。難しい任務になるけど、頼むわね」
「はい。ルイ先輩もお気をつけて下さいね」
差し出された手を握りながら言う。
赴任地に行ったらこうやってルイ先輩にも気軽に
会えなくなるんだよね。
そう考えると目にジワリと涙が浮かんできてしまって、
私は先輩にギュッと抱きついた。
「今生の別れじゃないんだから泣くんじゃないわよ」
そう言うルイ先輩の声も震えている。
先輩は私の背中をトントンとあやすように叩いた後、
悲しみを吹っ切るように私の両肩を持って自分からぐっと
引き離した。
目の前にあるルイ先輩の顔はいつものように凛とした顔。
「さあ、明日もあるんだから部屋に戻りなさい」
『はい。失礼します。おやすみなさいっ』
「おやすみ」
泣いたら心配させるだけだから泣きたくないのにどうしても
涙を堪えることができない。
泣き顔を見られたくない私は出来るだけ元気な声で挨拶をして
足早にエレベーターへと向かっていった。
「俺も失礼する」
軽く会釈をしてユキの後を追いかけようとした山姥切国広だが
バッと上級審神者のルイに腕を掴まれて足を止めた。
「山姥切国広さん。あの子を頼むわね」
何を今更、と思った山姥切国広だが、ルイの真剣な瞳を見て
無言で頷く。
「あの子は見ての通りお調子者だし、楽天家だし、カッカしやすいところもある。
でも、とても良い子でそれに・・凄く気の回る子。無茶もするから心配で・・」
眉を下げて言うルイの言葉を聞いて山姥切国広は体を回して
彼女と向き合った。
「ユキは俺が命に代えても守り抜く。だから心配しなくていい」
正面から真っ直ぐな目で話す山姥切国広にルイは硬かった表情を
ようやく柔らかくした。
大丈夫。
山姥切国広さんにならユキを任せられる。
ルイにとってユキは妹のような存在になりつつあった。
だから上層部の会議で歴史修正主義者と内通している者を探す
スパイ役にユキの名前が上がった時に強く反対していたのだ。
しかし、ルイ一人の力で会議の決定をひっくり返せるものではない。
それに本人もやる気。
危険な目に遭うであろうユキのことが心配で堪らなかったルイだったが
山姥切国広の言葉を聞いて少しだけ憂いを晴らした。
「ところで、なぜ瀬戸は我が主とペアを組みたがったんだ?
それに歴史修正主義者と内通している者も何故“ユキとペアにして欲しい”
などというくだらん要求を飲んだんだ?」
「たぶん、歴史修正主義者と内通している奴も瀬戸の要求に対して私たちと
同じ思いを持っていると思うわよ。私たちにとっては首を傾げたくなるような要求。
でも、瀬戸にとっては違う」
山姥切国広はルイがポケットから出した電子機器のディスプレイを見て
表情を強ばらせた。
ルイが画面をスライドさせて山姥切国広に見せるのはユキの隠撮写真の数々。
その中には大学時代のものもあった。
「これは・・・」
「瀬戸のコンピュータから見つけたの」
ユキを自分の物にしたい。
そんな瀬戸の気持ちが写真からうかがえる。
これはある意味、歴史修正主義者と内通している奴よりも
危険人物かもしれない。
「瀬戸はグレーなのよ。純粋に歴史修正主義者の思想に共感して
協力しているわけじゃない。だから、叩いても埃は出てこないかもしれない。
でも、危ない奴には変わりないから十分に気をつけて」
「わかりました」
「引き止めて悪かったわね。ユキの所に行ってあげて」
山姥切国広がクスッと笑うルイの視線を追うと、
エレベーターのボタンを押したまま困った顔をして
自分を待つユキの姿が目に入った。
山姥切国広はルイに一礼をして、今度こそユキの方へと
足早に歩いていった。
「気が回って無茶もする。そっくりそのままルイ殿に当てはまりますぞ」
二カッと笑う山伏国広の胸をルイがコツンと軽く拳で叩く。
「それから頼りになる近侍がついていることもね」
「いやはや!ルイ殿には参りますな!」
照れ隠しに自分の頭をワシワシ掻きながら豪快に笑う山伏国広。
そんな彼を見るルイの目は温かい。
「さあ、帰りましょう。私たちにも明日から
新しい任務が待っているわ」
「うむ。悪事を働く内通者を炙り出しましょうぞ!
ルイ殿のことは、拙僧がお守り致す。存分に“すぱい”されませいっ」
「ハイハイ。頼りにしてるわ」
ドンと胸を叩く山伏国広にルイは笑みを零す。
歴史修正主義者と内通している証拠を探すのが彼女たちの任務。
「カカカカカ唸れ!拙僧の筋肉!!」
「はいはい」
ユキ達よりもさらに危険な任務。
だが、多くの危機を乗り越えてきたルイと山伏国広の表情は明るかった。