限界突破!
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3.ヴィランとの遭遇
『そろそろ電車動いたかしら?ちょっと失礼』
私は鼻水をかんでいる出久くんの横でスマホを出して時間を確認する。
13時15分前。
『私、これから東京へ向かうの。電車も復旧するから駅に向かうわね』
「あ!ぼ、僕、駅までお送りしますっ」
『ありがとう。滅茶苦茶に歩いてきたからここがどこか分からないんだ。
お言葉に甘えちゃおうかな』
私と出久くんは公園を出て駅へと歩き出した。
「え、ユキさん、雪野さん、僕より3学年年上なんですね。
ごめんなさい。僕の話し方馴れ馴れしくなかったですか・・・?」
『そんな事気にしないで。今まで通りに話して。急に苗字呼びに変えないでよ。逆に傷つくわ』
「あ、す、すみません、えっと・・・ユキ、さん」
『ふふ。宜しい』
顔を赤くして私の名前を呼ぶ出久くんを可愛いなと思いながら道路の高架下を歩いている時だった。
ぞぞぞ
急に悪寒を感じて私はパッと振り向いた。
いない
いや、いる
下だ!
私はポケットから木の短剣を取り出した。
目の前には泥のようなヴィラン。
「M・・・Mサイズの・・・隠れ蓑・・・」
『樹枝の牢っ!』
細胞を活性化させて木の短剣から枝を生えさせてヴィランに向かわせる。
枝で拘束しようとしたのだが、ヴィランが枝をすり抜けた。
「ハハハ!効かないな!俺は捕まらねぇ。なにせヘドロだからな!」
『くっ』
ギャハハと耳障りな笑い声を上げるヴォラン。
何度拘束しようとしても木の枝はヴィランを通り抜けてしまう。
「大きさ的にとり憑くなら女より男でしょう!」
『出久くん逃げて!』
「うわあああああっ」
『出久くんっ!!』
ヴィランが出久くんの体にまとわりつき、体に入ろうとしている。
「だいじょーぶ。体を乗っ取るだけさ。落ち着いて。苦しいのは約45秒」
「ん゛ーーーーーーー」
『出久くんを離せッ』
枝で少しでもこのヘドロを払い落とせば・・・!
でも・・・くっ・・・ダメだ。怖い・・・!
ヴィラン相手には躊躇なく枝を向けられたのに出久くんがいるとなると力の
コントロールが出来るか不安で枝を伸ばすことが躊躇われる。
しかも、さっきの攻撃は全く効かなかったじゃない。
だからといってこのまま見ているだけでは出久くんの体が乗っ取られてしまう。
やっぱり枝をヴィランに伸ばして少しでも払い落とそう。
でも、もし出久くんをあの日のように串刺しにしてしまったら・・・!
考えろ
考えて。冷静に・・・
そうよ。そうだわ。
枝の先端は葉っぱで丸く覆う。それなら安全・・・なのか?
いや、そんなの気休め程度だ。
例えば出す枝を太くするとしよう。そして先端は丸く、更に葉で覆って柔らかくする。
でも、スピードと方向の微妙な調整を間違ったら結局同じ。出久くんを傷つけてしまうことには変わらない。
木の枝で突いてしまうか殴って、私は出久くんを傷つけてしまう。
どうすればいい。
どうすれば・・・
苦しむ出久くんの前で私が焦っていた時だった。
バーーーーン
『っ!?』
突如マンホールが飛び上がった。
そこから出てきたのは―――――
「私が来た!」
『オールマイトさん!』
「TEXAS――――SMASH!!」
オールマイトさんが拳をブンっと振った瞬間、ヘドロが出久くんから剥がれた。
『凄い・・・風圧で・・・!出久くんっ』
私は後ろへと倒れこむ出久くんを支える。
気を失っている。
私のせいでここまで苦しませて・・・!
『ごめんなさい、出久くんっ』
ぎゅっと彼の体を抱きしめる。生きていて良かった。
「おや、ユキちゃんじゃないか」
『オールマイトさん、さっきぶりです』
マッスルファームになっているオールマイトさんに頭を下げる。
「まだ静岡にいたんだね。そして、ええと、この少年は大丈夫かな?ヘイ!ヘイ!」
ペチペチとオールマイトさんが出久くんの頬を叩くと、出久くんがゆっくりと目を開けた。
「トああああ!?!?」
「少年!元気そうで何よりだ!」
「オ、オールマイトオオオオォ!?!?」
「HAHA!いやぁ悪かった。ヴィラン退治に巻き込んでしまった。いつもはこんなミスしないのだが、
慣れない土地で浮かれちゃったのかな!?」
「あ、あのオールマイトが、め、目の前に!!」
『出久くん?落ち着いて?』
大興奮で目を大きく見開き口をぽっかり開けている出久くんはかなり興奮している様子。
どうやらオールマイトさんの大ファンらしい。
「君のおかげで無事にヴォランを詰められたよ。ありがとう!」
オールマイトさんはヴィランが詰まったペットボトルを掲げて見せてくれた。
「それでは私はこいつを警察に届けるので!液晶越しにまた会おう!」
「え!そんな・・・もう?僕、質問したいことが――――」
「それでは、今後とも」
「ちょっと待って!」
『え!?待って!』
「応援よろしくねーーーーー!」
バビューーーーンッ
一瞬にして星のように小さくなったオールマイトさん。
そしてオールマイトさんの足にしがみついていった出久くん。
『あらら・・・』
ややこしい事にならなければいいのだけれど・・・
私はオールマイトさんを心配しながらもどうすることも出来ず、スマホを取り出し、
駅の方角を確認しながら歩いて行ったのであった。
商店街の中を歩いていく。
この商店街を抜ければもうすぐ駅だ。
『25分の電車に乗ろう』
少し急ぎ足で歩いていた時だった。
商店街の奥の方で何かが大きく揺れているのが見えた。
近づくにつれてハッキリと見えてくるそれは今さっき対峙していたもの。
オールマイトさんが捕まえたはずのヘドロのヴィラン。
『なんで・・・オールマイトさんが捕まえたはずじゃ!』
「こんのぉおおおおおお!」
ヴィランに抗う声に目を向ければ、見たことのある少年。
出久くんを苛めていた金髪の少年がヴィランに憑依されそうになっていた。
ヴィランに抗っているようで、ヘドロの合間合間から爆発音と炎が見える。
プロヒーローは・・・!?
「私2車線以上なきゃムリ~~~」
「爆炎系は我の苦手とするところ・・・!今回は他に譲ろう」
「ベトベトで掴めねぇし子供がいて下手に手出しできねぇっ」
「誰か有利な個性が来るのを待つんだ」
そんな・・・!
さっきあのヘドロは憑依するまでに45秒と言っていた。
あの金髪少年・・・かっちゃんさんが力尽きて抵抗をやめればあっという間に取り込まれる。
ヘドロに有利な風系の個性を持つプロヒーローが何時やってくるか分からない。
慎重に、細心の注意を払って、私が・・・!
さっき苦しむ出久くんを前に何も出来なかった悔しさ、後悔を忘れるな。
でも・・・
でも・・・・・
手が、震える・・・!
だって私の攻撃はさっき全く効かなかったじゃない。
何か別の方法は・・・?
頭をフル回転させていた時だった。
「ゼェ、ゼェッ。ホーリーシットだ!ドちくしょう!」
聞き覚えのある声に横を向く。
『え!?オール・・・いえ、八木さん』
「ユキちゃん・・・!」
私の横にいたのはトゥルーフォームのオールマイトさんだった。
『もしや活動限界が・・・?』
「そうだ。来てしまったんだよ。シット」
『そ、それならば』
「ユキちゃん?」
『や、やっぱり私が行かなければ』
「待ちなさいっ」
『私、私がやります・・・!』
無策で飛び出すなんて馬鹿だ。自殺行為だ。
でも、飛び出さずにはいられなかった。
枝を伸ばしコントロールする自信はない。しかもこれは効かなかったし。
私は走りながら他に方法がないか考える。
私は人を押しのけ、警察官を振り切り、ヴォランへと走り出した。
「君!止まりなさいっ!危ないぞ!!」
警察官、見物人の制止の声が背中から聞こえるが、止まる気はない。
「や、やめなさいっ!止まるんだ、ユキちゃん・・・!」
オールマイトさんの制止の声――――そうだ!オールマイトさんだ!
私はある事を閃いた。
思い出したのは先ほどオールマイトさんがヘドロヴィランを倒した光景。
突き刺すんじゃなくて払うんだ。
『短剣、幣(ヌサ)化』
木刀の短剣からニョッキと枝が伸び、葉が出て、お祓いの時に使う道具、幣のような形になった。
桃の木からできたこの木刀。
古来より桃の木は邪気を祓うといわれている。
そして、私は巫女。
個性とは違う“霊力”をいくらか持っている。
その霊力はヴィランを退ける力を持つ。
加えて先ほど見たオールマイトさんのヘドロヴィラン退治方法。
風圧でヴィランを出久くんから引き離していた。
私も同じようにすればいい。
相手がヴィランなら霊力で引き剥がせるはず。
加えて幣を勢いよく振った風圧でも。
初めての実戦での接近戦。
怖い。でも、怖いけれど、やらなくては!
『高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を!』
幣化した短剣が黄色い光に包まれた。
『神集へに集へ給ひ』
ビュン
「ぬっ!?」
ヘドロがかっちゃんさんから離れて地面に飛び散った。
効いてる!この調子!
『神議りに議り給ひて』
ヘドロの塊がべちゃっ、べちゃっと地面に落ちていく。
「いいぞ姉ちゃん!」
「頑張れーーー!」
背中から聞こえる声が声援に変わった。
私は祝詞を唱えながら幣に変わった短剣を振り続ける。
『我が皇御孫命は』
よし。このまま全部引き剥がす!
『豊葦原瑞穂国を安国と平けく――――っぐうっ!』
どんっ
『く・・・ふぅ・・・っ』
下に視線を落とせば鳩尾にヘドロで出来た拳がめり込んでいた。
後ろへと吹き飛ばされる。
ズザザと私は地面をバウンドしながら転がった。
う、動けない・・・
遠のきそうな意識。
ダメ。気を失ってはダメ!助けなきゃ。
出来るのに。私ならあのヘドロをかっちゃんさんから剥がすことが出来るのに。
だから、行かなきゃいけないのに。
でも、体が・・・動かな・・・
「バカヤロー!!止まれ!止まれ!!」
急に大声が聞こえてきた。
私の横を風がビュンと通り過ぎる。
あの頭はーーーーー出久くん!?
出久くんは鞄をヘドロヴィランに放り投げた。
「かっちゃん!」
「何で!てめぇがッ」
「何でって・・・足が勝手に、それに、君がーーー君が助けを求める顔してた!」
出久くん!
彼の思いに胸が震えた。
無個性の彼が生身の体でヴィランに戦いを挑んでいった。
しかも、ついさっきやられそうになっていた奴に。
奴の怖さを身を持って知っている彼が飛び込んでいった。
意識飛ばしてる場合じゃないよ。
霊力を高めろ。
気で意識を留めておくんだ。
『高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等をーーー』
「NO!必要ないよ。君は良くやった」
祝詞を唱えながら立ち上がろうとしていた私の肩にトンと大きな手が置かれた。
斜め上を見上げた私は驚きで目を見開く。
『オールマイトさん!?』
そこにはマッスルフォームのオールマイトさんがいた。
「ユキちゃんの頑張りを見せられて、あの少年を諭しておいて己が実践しないなんて!!!」
一瞬でオールマイトさんの体はヘドロヴィランのところまで移動した。
出久くんがかっちゃんさんの腕を掴んでいる箇所をオールマイトさんが掴む。
「プロはいつだって命懸け」
圧倒されるーーーーー
「DETROIT SMASH!!!」
ブオオオオオオ
空へと伸びていく上昇気流。
ポツリ
頬に一粒の雨粒。
『凄いわ。さすがオールマイト・・・さ・・・ん・・・・』
徐々に暗くなっていく視界。
遠くなっていく喧騒。
私は意識を失って、地面へと倒れたのであった。