第4章 攻める狼
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4.対決
「イッチ年生はこっちだー!」
「ハハ、ハグリッドは変わりないようだね」
『ううん。変わりありよ。実はね、今年からハグリッドが魔法生物飼育学の先生になるの』
「それは嬉しいニュースだ」
私とリーマスは汽車を降り、話しながらハリーたちの後をついて歩いていた。リーマスの腕の中にはルーナ・ラブグッドがいる。まだ眠ったままなのだ。
そしてディメンターはハリーの生気も奪い取ったらしい。だが、前を歩くハリーの体調はかなり良さそうに見えた。
それはきっと、気絶から戻った直後にリーマスからチョコをもらったおかげだろう。
私もまだまだ勉強不足だな。とリーマスと話しながら思う。
『なんだか貧相な馬ね。私たちを乗せて大丈夫なのかしら?』
「「「馬?」」」
馬車乗り場に着いて言うと、前を歩いていたハリーたち3人が一斉に振り返って首をかしげた。
みんな何を言っているの?と言った顔だ。あら?みんなにはあの馬が見えていないのかしら?
そうこうしているうちに前の3人が馬車に乗り込み、私とルーナを抱いたリーマスも場車に乗り込む。
「この動物はセストラルというんだよ」
馬車が出発して、前の馬車の3人が自分たちのおしゃべりに集中しているのを確認してリーマスが言った。
『セストラル……』
隣に座ったリーマスから振り向いてドラゴンのような翼を生やした馬のような動物を見る。
『どうしてみんなには見えないのかしら?あなたは見えてる?リーマス』
「僕も見えない。セストラルはね、死を見たことのある人間にしか見えない生き物なんだよ」
『あら、そう……』
言いにくそうに言うリーマスに上手く返す言葉が見つからなかった。
死を見たことのある人間……そりゃあ私には見えるはずだわ。と心の中で小さく自嘲する。
『そういえば、合同授業のこと聞いている?』
話題を変えたくて私は言った。
「ごめん。実は何も聞いていないんだ。この職につくことに決まったのも何日か前でね」
『え?そうだったの!?』
「闇の魔術に対する防衛術は毎年毎年何らかの理由で先生がやめているだろう?だから、誰も引き受けたがらなしかったんだ。ダンブルドア校長も相当切羽詰っていたんだろうな、僕のところに来なくちゃいけなかったくらいなんだから」
ハハッと力なく笑うリーマスに私は思い切り首を振り、彼の手を取った。
私がリーマスが防衛術の先生になってくれたと分かってどんなに嬉しかったことか!
『私はリーマスと一緒にお仕事出来ることになって嬉しいよ。リーマスなら信用できるし、あなたは優秀な人だもの』
「ユキ……」
私から視線を離し、するっと手を外すリーマス。
『リーマス?』
「困ったな。こんなことが日常的に起こったら僕は耐えられそうにないよ」
『リーマス?何の話?』
「いいや、気にしないで。ゴホンッ。それより、さっき話しかけていた合同授業ってやつを教えてくれるかい?」
何かを誤魔化すように咳払いしたリーマスに話題を変えられてしまう。
ううむ。私は本当にまだまだなようね。
人の心を読むのは難しいわ……
私は心の中でそう思いながら、合同授業についての説明をリーマスにしたのだった。
ルーナを医務室へと運び、階段を下りて職員室へと向かう私とリーマス。職員室の扉を開けると、
「ルーピン!?」
「久しぶりだね!」
旧友のご対面だ。いや、旧友と言ったら語弊がある。とセブの釣り上がっていく目を見ながら思う。
リーマスはジェームズ&シリウスのセブに対する悪戯を止める側だったけど、悪戯仕掛け人にはかわりないものね。セブの気持ちはわかるけど……
『セブったら睨みすぎよ』
鋭い眼光が今度は私に向けられた。怖いいいぃ。
「何故貴様がここにいる」
「闇の魔術に対する防衛術の教師になったんだ。ダンブルドアから頼まれてね」
ビリ ビリ ビリ
2人から発せられる空気に凍りつく職員室の空気。
空気を読めない私でさえ歓迎の握手を提案できる雰囲気ではない。
不快さを顕にするセブとニコニコ口元で笑いながらも目が全然笑っていないリーマスの間でオロオロするだけの私に助け舟がやってきた。ミネルバだ。
「みなさん、お待たせしました。入学式を始めますので大広間への移動をお願いします」
『2人共行こう!』
「こいつと一緒にはお断りだ」
「じゃあ、僕がユキと一緒に行くから君は後ろからついてきたらいい」
「なっ!?」
『おっ!?』
ぐいっとリーマスに腕を取られる私。
ひいいぃ怖すぎる!!
リーマスと腕を組みながら歩いて行く私は背中に殺気がガンガン突き刺さるのを感じて、ブルブル震えながらリーマスのエスコートで教員テーブルへと向かったのだった。
「新学期おめでとう。皆にいくつかお知らせがある」
セブとリーマス、ふたりの旧友に挟まれて私はダンブーの話を聞いていた。
まず初めに話されたことはディメンターのことだ。
ダンブルドア校長は生徒たちに「あやつらに危害を加えさせる口実を与えるではないぞ」とアドバイスしていたけれど……ハリーたちは何もしていないのに襲われたのだ。
私の心の中は魔法省への不信感とディメンターへの憎しみでいっぱい。
ディメンターは鍛錬ついでに狩りに行ってやろう、と密かに思っている。
「楽しい話に移ろうかの」
そんな事を考えているとダンブーの口調が変わった。
「今学期から嬉しいことに新任の先生を2人、お迎えすることになった。まずは闇の魔術に対する防衛術を担当して頂くリーマス・ルーピン先生じゃ」
パラパラとあまり気のない拍手が起こったが、リーマスに助けてもらったハリーや同じコンパートメントにいたのであろう生徒たちはめいいっぱい拍手をしているのが見えた。
私もリーマスを歓迎する気持ちを込めて一生懸命拍手する。
「ありがとね、ユキ。これからよろしく」
『うん。よろしくね、ルーピン先生』
私がリーマスにニコニコ顔を向けている左では……見ないでおこう。
きっと振り返ったらバジリスクよろしくセブの眼光で石になってしまいそうな殺気が放たれていた。
「そしてもうひとりは……」
期待を煽るようにして生徒を見渡し、ダンブーが口を開く。
「先学年で退任された魔法生物飼育学のケトルバーン先生に代わって、ルビウス・ハグリッドが現職の森番役に加えて教鞭を取って下さることになった」
わああっと歓声と拍手が生徒たちから巻き起こった。特にグリフィンドールからの拍手は割れんばかり。
私とリーマスも顔を見合わせて顔を綻ばせながら拍手を送る。
夕日のように顔を赤くして嬉しそうな顔でみんなに手を振るハグリッドを見て、私も嬉しくなってくる。
「さて、これで大切な話はみな終わった。宴の開催じゃ!」
ダンブーがそう言ったと同時に金色のお皿、杯に食べ物や飲み物が現れる。待っていました!!
目の前に出現した七面鳥を一羽まるまる自分のお皿に乗っけ(これじゃあお皿に移動した意味なかったわね)ナイフをグサリと入れて、口にお肉を運ぶ。ん~おいしい。
「ハハハ、ユキは相変わらずだな。喉に詰まらせないように気をつけなくちゃダメだよ?」
リーマスがワインをゴブレッドについでくれた。
『ありがとう』
一気に飲み干す。
「驚いた。一気飲みとはすごいね。お酒は弱くはないようだね」
『うん。弱くはないかな。強いかは分からないけど』
「弱くないなら今度ホグズミードに「生憎だが」
リーマスの声に被せてバリトンボイスが聞こえた。
「ユキは行けん」
セブは、リーマスが新たに私のゴブレッドに注いだワインを自分の方に引き寄せ、飲み干してしまった。
『あ……私のワイン……』
「お前は忘れたのか?」
『なにを?』
「去年のことだ」
セブは私がロックハートを部屋に上げた時に一緒にワインを飲み、その後、彼に組み伏せられてしまったことがあったと言った。
「同じ過ちを繰り返す気かね?ユキ?」
「セブルス、それは僕が去年の防衛術教授と同じようにユキを酔わせて襲うとでも言いたいのかな?」
「そういう意味に取れないこともないな。なにせ貴様は……その素質が十分にあるであろう?」
「言ってくれるね……」
ブリザード
私の周辺にブリザードが吹き荒れています。
こ、このふたりってこんなに仲悪かったっけ?
あと、私がロックハートに組み伏せられたのはワインが原因じゃないのだけど……とは言える雰囲気ではなく、私はバチバチと火花を散らし合う二人の間でもぐもぐ口を動かすことに専念する。
しばらくして、ふと消えた会話。
「「お前(ユキ)は相変わらずだな(だね)」」
揃った二人の声。
左右を見た私は「最悪だ」と顔に書いてあるふたりの顔を見て、ぷっと吹き出したのだった。
***
3年目からどの学年も選択科目になる忍術学。
どのくらいの生徒が忍術学を希望してくれるか心配があったがその心配は杞憂だったらしい。
「ユキ先生、忍術学とったよー!」
「今年もよろしくお願いします」
入学式の日からたくさんの生徒に声をかけてもらっていた。
「忍術学は人気だね」
入学式の翌日、朝食を食べ終わり、授業教室へと向かいながらリーマスと話している私。
『珍しさとそれから、忍術学は座学と実技の半々だからね。ホグワーツは体を動かす授業が少ないから、みんな取りたがるのよ』
「体を動かす機会が少ないか……これは授業の参考になる」
隣を歩いているリーマスがふむふむといったように頷いた。すっかり先生の顔だ。
『リーマスの授業見てみたいなぁ』
「ユキなら歓迎するよ」
『本当に?』
「あぁ、ほんとさ。でも一つ条件がある。僕にも君の授業見せて欲しいな」
『もちろん』
「随分仲が良いようですな」
それじゃあ、とそれぞれの教室へと向かおうとした私たちは同時に振り向いた。私たちに声をかけたのはセブだ。
何を苛立っているのかは知らないが、今日も素敵なベルベットボイスである。
「やあ」
「ユキ」
セブがリーマスの挨拶を無視して言った。
「今日の放課後、空いているか?」
『今日の放課後、ええと……うん。空いているよ』
「では、調合を手伝ってくれ」
『了解。お礼はチョコレートね』
「ふっ。いいだろう。では放課後、我輩の研究室に来てくれ」
長く黒いローブを靡かせて颯爽と地下牢へと降りていくセブを見送っていると、後ろから「ずるいな」と小さな声がぽそっと聞こえてきた。
目をぱちくりしながら振り返る。
『ずるいって?リーマス?』
まさか私に聞かれていたとは思っていなかったらしい。リーマスのしまった!という顔と視線がぶつかった。
「ユキ、耳良すぎだよ」
『そうかな?で、ずるいってどういう意味?』
「うっ……笑わないかい?」
再び目をパチパチしてから『笑わないよ』と約束すると、リーマスははーっと諦めたように息を吐いてから口を開いた。
「ずるいなって言ったのは、その……ユキと2人きりで過ごせる時間が羨ましいなって意味だったんだ」
熱い視線を注がれて、顔がボンッと赤く火照る。
こ、こういう時ってどういう反応をしたらいいのだろう?
ええと、ええと……
『じゃ、じゃあ、リーマスも一緒にセブのお手伝いする?』
そう言うが、困ったように笑われながら「そうじゃなくて」と首を横に振られてしまう。
『ええと、じゃあ……』
「セブルスの手伝い、どの位かかるかな?」
『内容にもよるけど、緊急じゃなさそうだし、影分身もフルで出すから2時間はあれば終わると思うけど……』
「じゃあどうだろう?その手伝いが終わってから、ホグズミードに飲みに行かないかい?」
ニコリと笑ってリーマスが言った。
断る理由はない。私は2つ返事でオーケーする。
『何時になるか定かじゃないから、私がリーマスの部屋に行くね』
「ありがとう。待っているよ」
予鈴の鐘。
私たちは急いで挨拶を交わしてそれぞれの教室に急いだのだった。
そして夜。
「(なんで君まで一緒なのかな?)」
「(ふん。狼に世間知らずの黒狐が食われないか監視しにきた、といったところだ)」
「(失礼だね。僕は紳士だよ)」
「(お前の腹が黒いことは学生の頃から分かっている)」
「……」
『ねえ。2人共、さっきから何2人でこそこそ話してるの?』
歩みの遅い2人を置いて先に歩いていたユキがくるりと振り返ると、ふたりからは同時に「別になんでもない」と同じセリフが返ってくる。
『2人共、意外と仲いいわよね』
「「それは断じてない(よ)」」
シンクロ率高し。またしても同時に叫ぶ2人を見て私はケラケラと笑いながら三本の箒へと入っていったのだった。
そして一時間半後。
いい具合に酔った私たちは城へと帰ることにした。
まだ夏の暑さの抜けきらない気温も夜だと大分ましで、風が吹けば心地よさを感じることができた。
『えへへー雲の上を歩いているみたいー』
「ユキっ降りて来い!貴様が歩いている場所は雲の上ではなく人の家の屋根だ。この馬鹿者がッ」
「セブルス……君に一緒に来てもらって良かったよ……」
セブルスとリーマスは揃ってユキに杖を向けて彼女が落下しないかヒヤヒヤした心持ちで見上げていた。
どうやら酔ったら楽しくなるタイプのユキ。
ぴょんぴょんと人様の家の上で無駄に宙返りをしたり側転しながら進んでいくため、地上で走りながらユキを追いかけている2人は気が気がじゃない。
「ルーピン!あいつが下に降りてくる方法を思いつかないか?」
「チョコで釣るとか?」
「やれ!」
セブルスはユキに杖を向けたまま、その横ではリーマスがポケットの中を探ってチョコレートを取り出す。
「ユキ、ほら見てごらん。チョコレートだよ。降りておいで」
まるで何かの動物を捕まえるような具合である。
しかし、この作戦は上手くいった。リーマスの言葉にぴくりと反応してユキは屋根の上からジャンプの体制に入る。
そして、
ぴょーーん
ユキはリーマスとセブルスの前に無事に飛び降りた。
『着地100点!リーマス!チョコ!』
「はいはい」
「はああこの馬鹿が」
リーマスからもらったチョコレートを幸せそうな顔で頬張るユキの前で安堵と呆れのため息をつくセブルスとリーマス。
しかし、
『っ!?!?』
急にユキの顔つきが変わり、2人は驚く。
食べかけのチョコレートを地面に投げてユキはセブルスとリーマスの間を通り抜け、彼らを庇うように苦無を持ち、構える。
「ユキ!?」
『シっ』
リーマスに静かにと合図して、ユキは苦無を持っていない左手を広げ、後ろの2人に動かないようにと指示を出す。
ユキが見つめるその先……
『っシリウス・ブラック!!』
「な、なに!?」
「まさか!!」
ユキはヒュンと持っていた苦無を茂みへと投げつけた。
『私は追う。2人は通報を!』
2人の静止の声を無視してユキはダンっと地面を蹴る。
捕まえなければ。捕まえて、聞きたいことがある!
走るユキ。
ホグズミード村のすぐ横にある雑木林の中にシリウス・ブラックは逃げ込んでいった。
まさか……あいつは、あの女はユキなのか……!?
アニメーガスで犬になったシリウスはユキの追跡をかわすためにわざと足場の悪い場所や犬しか通れない細い場所を通ってひたすら走る。
今捕まるわけにはいかねぇっ
捕まえて、全てを表に出してやる!
2人はそれぞれの思いを胸に禁じられた森に入って行った。
追いつ追われつ……ユキは犬の脚力に負けてはいない。
ユキとシリウスの距離は確実に詰められてきていた。
そして、シリウスの姿はついにユキの術中に入る。
『火遁・業火砲!!』
暗闇に響くユキの声。
だが、その術は、シリウスではなく別の方向に向けられることになったのだった……
『セブ……りま……す……』
「ユキ!」
「どうしたんだその怪我は!」
ホグワーツの城門前で待っていたセブルスとリーマスは同時にユキの方へと駆け出した。
2人がユキの元に着いた途端、ユキは安心したように意識を手放し、2人の腕の中に体を預けた。
「まさかシリウスが……」
「いや、これは違う。ここに噛み傷がある。これは多分蜘蛛であろう。しかもこの噛み傷の色……アクロマンチュラの可能性が高い」
「アクロマンチュラ!?猛毒を持つ毒蜘蛛じゃないかッ」
「直ぐに解毒薬を飲ませねばならん。我輩は先に行き薬を準備しておく。お前はユキを医務室に運んでくれ」
「わかった」
ホグワーツではブラック出没の報をセブルスたちから聞いていた教師たちが全員起きてユキの帰りを待っていた。
セブルスとユキを抱いたリーマスの帰城でホグワーツの教員たちは一斉に慌ただしく動き始める。
各寮監は監督生を起こしに行き、その他の教授はホグワーツの見回りに出かけて行った。
そしてユキはリーマスに見守られながらベッドに寝かされてマダム・ポンフリーとセブルスに治療を施されている。
「毒のほうは?」
「噛まれてから動いたみたいだから回りが早いわ。薬が効くのが間に合うかどうか……」
マダム・ポンフリーの言葉にセブルスとリーマスが唇を噛んだ。何故あの時ユキの後を追っていかなかったのだろう、と。
「薬は飲ませたわ。やれる治療はここまでよ。後はユキの生命力にかけるしかないわ」
「ユキ、頑張ってくれ」
ユキの手をぎゅっと両手で握り締めるリーマス。苦しそうに呼吸をするユキの額に浮かぶ汗を拭いながら彼女と同じように辛そうに顔を歪ませるセブルス。
リーマス、セブルス、マダム・ポンフリーは懸命にユキの看病を夜通し続けたのだった。
***
ん?朝日??
閉じていた瞼の外に光を感じ、そっと目を開ける。目に飛び込んできたのは眩いばかりの太陽の光と
「ユキ!!良かった」
「助かったか……良かった……ユキ……」
私の手を握るリーマスと、私の枕あたりの横に椅子を置いて座るセブの姿だった。二人共、とてもほっとした顔をしてくれている。
あぁ、そうか……昨日はブラックを追いかけていって蜘蛛の群れに襲われたんだった……
らしくない。ブラックを追うのに集中していたあまり、蜘蛛たちに周りをじりじりと固められていたことに気付かなかったなんて。
「マダム・ポンフリーを呼んでくるよ」
『ううん、リーマス。安定しているからまだ呼ばなくて大丈夫。もう一眠りしたいしね。いいでしょ、セブ?』
「あぁ」
「わかった。だが、すまない」
何を?と首をかしげていると、自分たちもユキを追いかけていくべきだったとリーマスは言った。セブも同じ気持ちらしい。ぐっと眉間にシワを寄せて悔いたような顔をしている。
……これを言ったら、彼らのプライドを傷つけてしまうだろうか。
だが・・・・
『二人はブラックが目の前に現れたら冷静に討つ自信はある?』
私の声がやけに大きく医務室に響いて聞こえた。
空気がピンと張った後、
「あたりまえであろう。あいつは犯罪者だ」
「出来れば僕はシリウスから事情を聞きたい。だから、いきなり殺傷力の強い魔法を放つことはないだろう。だけど……」
だけど、シリウスと相対する覚悟は出来ている、とリーマスも言った。
では、試させてもらおう。
私はセブとリーマスの瞳をじっと、じっと、見つめた。
私の中の瞳孔の形が変わる。
幻影の術
――――よう、スニベルス
――――っ!?貴様!どこから入ってきた
――――ハッ。どっからだっていいだろう?お前には死んでもらう。昔っから気に食わなかったんだ
――――スピューティファイ!
――――プロテゴ!アバダ・ケダブラ
――――リーマス
――――シリウス!?いったいどこから入って……
――――助けてくれ、リーマス。追われているんだ。匿ってくれ。
――――ダメだ。まずは真実を明らかに――――ッ!?
――――アバダ・ケダブラ
『二人共、負けだよ。遅い』
悪いと思いながらも、ユキは床に膝をつくセブルスとリーマスにこう冷たく言った。
「これは……」
「幻覚……?」
『2人には幻影の術で幻を見てもらったの』
恐怖を抱く、敵を侮る、あれこれ思い悩む。これは忍の三病と言われるもの。
相手の挑発に乗っても手元が狂っていけないし、相手に同情してもいけない。
戦では一瞬の隙が勝負を決めるのだ。
『2人共、お願い。死にかけた私が言うのもあれだけど、ブラックと戦う気があるのなら、もっと戦うことを真剣に考えて。そうじゃないと、あっという間に命を落としてしまう』
私の暗部時代のように、感情を持つなとは言わないけれど……
どこかぼんやりと遠くを見つめるユキ。
セブルスとリーマスは何も言えないまま、暗い瞳を持つユキの横顔を見ていたのだった。