第4章 攻める狼
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2.脱獄した囚人
九つの尻尾が宙に揺れ、鋭い爪が空を切る。
『おっ!やるわね』
ユキの振り下ろした爪に木片があたり、ユキは嬉しそうに小さく口の端を上げる。
人の気配に振り向いたユキの視線の先にいたのはクィリナス・クィレル。
「金縛りの術」
『術は成功してるけど……解!』
両手を組んで術を発したクィリナスはあっさりと自分の術を解除されて唇を噛んだ。
シュッ
悔しそうに歪んでいたクィリナスの顔が焦りに変わる。クィリナスの視界の中にユキはいない。
消えた!?いったいどこへ!?
苦無を構え、攻撃に備えて身構えるクィリナス。
右、左、後ろとクィリナスは慌ただしく視線を走らせ、どこから攻撃がくるか警戒する。しかし、ユキの方が何枚も上手だった。
クィリナスの警戒は虚しく、顔にきた突然の痛みと衝撃に彼はうめき声を上げた。
どんっと下から顎を蹴り飛ばされ、その衝撃で宙を飛ぶようにして後ろに飛び、地面に倒れるクィリナス。
そんなクィリナスにととっと駆け寄り、彼のそばにしゃがむユキ。
『今日はかなり良かったよ。私が眠っている間に随分忍術の練習したみたいだね』
「……」
ニコリと笑ってクィリナスに手を差し出すユキ。
目前にある想い人の笑顔。
普段のクィリナスだったならば幸せに浸っていただろうが、さすがに今は差し出された手のお礼を言うので精一杯といったところ。
「っ痛」
『ごめん。強く蹴りすぎたかな?口の中切っちゃった?』
「いえ、口の中は……ですが、脳がぐらぐら揺れてますよ」
ユキの手を借りて地面に座ったまま上体だけ起こしたクィリナスは気持ち悪さに膝に額を置いて頭を休める。
すると、
ふわっと華奢な手がクィリナスの頭に乗った。ユキの手がクィリナスの頭を上から下へと滑っていく。ドキドキと胸の鼓動を鳴らすクィリナス。
『これでどう?』
ユキがクィリナスの頭の上に手を置いたのはクィリナスを治癒するためだった。
医療忍者のユキのお陰で、脳震盪をおこしかけていた頭は、ユキに蹴り上げられる前の正常な状態に戻っていく。
「ありがとう。楽になりました」
『どういたしまして』
微笑みながら礼を言うクィリナスの隣にストンと腰を掛けるユキを見ながら、クィリナスは「私もまだまだですね」と肩を落とした。
ユキが過去に行っている間、クィリナスがやっていたことはアニメーガスになってユキの飼い猫として主人の様子を見守っていることと、忍術の鍛錬だった。
それなのに、ユキに指1本さえ触れることもできないとは……
確かにユキが褒めてくれたように変わり身の術もきまったし、金縛りの術もかけることに成功した。しかし素直に喜べない。
クィリナスはユキが手加減をしているとはっきりと分かっていたのだった。
「あなたに勝つことが出来る日はいつになることやら……」
ゴロンと芝生に寝転がる。
そもそも、勝つことが出来る日など来るのだろうか?とクィリナスが少々絶望的な気持ちになっていると、目の前にすっと小さな紙が差し出された。
『クィリナス。この紙、覚えてる?』
ユキがクィリナスに差し出したのは、その人自身が持つチャクラの性質を示すことができる特殊な紙だった。
「それは確か……ユキがこの魔法界に来たばかりの頃、模擬授業で使った紙ですね」
『そう。よく覚えてたね。その紙なの。ねえ、クィリナス。もう一度、この紙持ってみてくれない?』
確かあの時は紙が崩れたのでしたよね。
2年前のことを思い出しながらクィリナスが紙を手に取ると、やはり同じようにクィリナスのチャクラに反応した紙はボロボロと崩れていった。
『性質は土だね。よし、クィリナス。今日の鍛錬は終わりにして部屋に戻ろう。あなたに渡したいものがあるの!』
一瞬ぽかんとしたクィリナスだったが、立ち上がったユキの腕に、急いでアニメーガスに変身してぴょんと飛び乗る。
私に渡したいものとは何でしょうか?
クィリナスは先ほどユキにコテンパンにやられてしまったことをまだ若干引きずりつつも、大人しくユキの腕に抱かれて期待を込めた目で自分の主人を見上げていた。
『リビングでちょっと待っていてね』
ユキは猫クィリナスをソファーの上に下ろし、忍術で施錠の術を施されていた扉を開き中の実験室へと入っていった。
ユキが入っていった実験室には色々なものがある。
まずは実験に使う薬材とそれに関する魔法界と忍術界の術書。それから大鍋などの実験道具。
部屋の壁全体が棚になっているその小部屋には、一つだけユキしか開くことのできない大きめの戸棚があった。
ここにはユキが忍の世界から持ってきた禁書類、火の国以外から取り寄せたユキにとって大事な本、それから他の人の目に触れて欲しくないものなどが入っている。
古い本の匂いがする戸棚を開いて目当ての本を探すユキ。
『あった。これだわ』
私が取り出したのは、土の国、岩隠れの里から買ってきた本と草隠れの里で譲り受けた本。
戸棚を閉めて再び私しか知らない施錠術を施して実験室からリビングへと入る。
『ん!いい香り~~』
実験室から出た途端、薬材の香りから美味しそうなバターの香りに変わり私の顔は自然とほころぶ。
どうやらクィリナスは朝食を作ってくれているようだ。
タタッと走って壁から顔を覗かせて、台所を覗き込む。
『オムレツだっ』
「もう少しでできますから紅茶を淹れていてください」
『はーい!』
やだ、泣きそう。
実は私、過去から帰ってきてからミネルバに節約を強く言い渡されていた。
その理由はホグワーツの授業料。私が過去に行っていた時の授業料のせいである。
私は過去に行っていた時、ホグワーツ学生支援会に授業料を肩代わりしてもらっていたのだ。
その請求書が届いたのがつい先日。私が絶叫したのは言うまでもない。
暗部として働いてきて貯めてきたお金の3分の1は授業料で消えてしまった。
ちなみに以前、3分の1は家の購入に使っている。実は私、とても高給取りだったのだ。だから残り3分の1とはいえ結構金額は残っているが……
―――そんなガラクタばかり買っていたらあっという間にスッカラカンになりますよ!
ミネルバからお金の使い方を怒られた私は、金銭管理をミネルバから学んでいる。
貯金を頑張らねば……
私は食費を浮かさなければと、今までのように通販で食料を購入しなくなっていた。
食べ物がないなら厨房に行けばいいだけの話なのだが、私が厨房に行った日には必ず屋敷しもべ妖精からミネルバへと連絡がいき、「暴食は体に毒です!」と怒られてしまうのだ。
それに一昨年なんかは厨房通いが過ぎてダンブルドアに「食費が凄いことになっておる!ホグワーツを破産させる気か馬鹿娘ッ」と大目玉をくらっていたりもした。
ホグワーツが私のせいで破綻して学校潰れちゃったら困るしなぁ。
それにミネルバ怖いし……ハハ。
そんなこんなで私は過去から目覚めてから厨房通いを控えるようにしていたというわけだ。
「お待たせ致しました」
『わーい』
クィリナスに感謝!
本を渡すのは後にしよう。私は本を自分の背中と椅子の背もたれの間に置いて、美味しい朝食前の朝食を楽しんだのだった。
そして食後。
テーブルの上を綺麗に片付けて、私はさっそくクィリナスに先ほどの書物を渡すことにした。
「これは?」
『土の国、岩隠れの里の本なの』
私はこの本について軽く説明することにした。
チャクラには五大性質というものがある。種類は火・風・雷・土・水でこれは忍五大国の名前の由来でもあった。
ある程度以上の忍術はこの性質をチャクラに持たせた上で術を発動するのだ。
『もうクィリナスは忍者学校で学ぶ術の習得は出来ていると今日の鍛錬でわかった。だから、もう1歩進んでみたらいいんじゃないかと思ったの』
「もう1歩、先へ……」
『うん』
大事そうに本を手に取り、ページをめくるクィリナス。
『私の国の言葉で書いてあるから、魔法でこっちの言葉に直してね』
「えぇ……ユキ。どうもありがとうございます」
知識欲に瞳を輝かせるクィリナスを見て私も嬉しくなる。
『私は土遁の術が使えないからクィリナスが習得してくれると今後一緒に戦うときに心強いよ』
「ユキでも使えない術が?」
『もちろん。自身の性質と違う術は普通扱えないの。希に五種の術を使えちゃう凄い人もいるけど……』
「ユキの性質は何ですか?火でしょうか?」
『正解。根本的に持っているのが火の性質だから火遁忍術が得意だよ。風遁は大得意とはいかないまでも使える方かな。水遁は練習中なの』
「そうでしたか……。私もユキのように土遁忍術をマスターしたいものです」
『うん!頑張って。それからクィリナスは器用だから、チャクラを細かくコントロールして戦う方法があっていると思う』
そう言いながら戸棚から出してきたもう一冊の本を指し示す。
「傀儡の術」
クィリナスが本の表紙に杖を置き、文字を魔法界の言葉に変化させて本のタイトルを読んだ。
『これは渡そうかどうか迷ったんだけどね……』
傀儡の術。
それはチャクラを細い糸にして指先からだし、相手の体に貼り付け、相手の体の動きをマリオネットのようにコントロールしてしまうという恐ろしい術であった。
私たち忍の世界に生きてきたものは傀儡の術を知っているから、実力さえあればチャクラを体に貼り付けられてもチャクラを切って逃れることは出来るが、忍の術を知らない魔法界の者に対してはとても有効な術となるだろうと思ったのだ。
「相手の体をコントロール……いいですね」
『お願いだから日常生活で悪用しないでね』
瞳に怪しい輝きが宿ったクィリナスに即効で釘を刺しておく。
ううむ。クィリナスにあの本渡して良かったのかなぁ。今更ながら、軽く後悔である。
クィリナスは私が渡した本を読み始め、私はその対面でゆっくりと紅茶を啜る。
すると、窓から一羽のフクロウが部屋の中に飛び込んできた。
やってきたフクロウは日刊予言者新聞を足にくくりつけている。
金欠といっても新聞購読をやめる気はなかった。
戦は情報が命
この言葉は忍にとって常識である。だからお腹がぐーぐー鳴ろうとも、新聞購読はやめるわけにはいかなかった。
『さて、今日はどんなニュースが……え?』
面白いニュースはないかと新聞を開いた私の顔が凍りつく。一面に太い文字で大きく書かれている見出し。
“シリウス・ブラック アズカバンを脱獄”
『嘘……なんで……』
「ユキ?どうしました?」
衝撃が走る。
私は信じられない事実に片手で口を覆いながら記事を読んでいく。
――――魔法省が発表したところによれば、昨晩アズカバン要塞監獄の囚人中、最も凶悪と言われるシリウス・ブラックが――――
「ユキ!」
気がついたら走り出していた。
ようやく昇り始めた朝日が照らす庭に面した廊下を走り、玄関ロビーから地下へと続く階段を下りていく。
キキっと足でブレーキをかけて立ち止まった私がノックするのはセブの私室の扉。
『セブ!セブ!!起きてる?起きて!』
ドンドンドンドンドンッ
扉を蹴り開けてしまおうか、と思っていたところでようやくセブの部屋の扉が開いた。
眠そうで、鬱陶しそうな視線を向けられるが、今は謝る時間も惜しいくらいに気が急いていた。
「ユキか……どうした?」
くだらない用事だったら呪うぞという目で私を見るセブに持ってきた新聞を手渡す。
「暗くて読めん。灯りをつけろ」
『ルーモス』
ぼわっとした灯りがセブの手元を照らす。
瞬間、セブの瞳が大きく見開かれたのが分かった。
厳しい表情で新聞を読んでいくセブ。
「まさか……アズカバンから脱獄することが出来るとは……」
じりじりとした気持ちでセブが記事を読み終わるのを待っていた私は口を開く。
『教えて。どうして!どうしてブラックが牢獄にいたの!?何の罪で捕まったの?』
「落ち着け、ユキ」
『ごめん。でも!』
混乱して心を静めることが出来ない。
それでもセブに言われた通り落ち着こうと私は大きくひとつ深呼吸をする。
「とにかく、中に入れ。説明しよう」
息を吐き終わった私にセブは自分の部屋へと入るように勧めてくれた。
真っ暗なセブの私室に入っていく。
セブが杖を振り、暗かった室内に灯りが灯り、部屋の中がぼんやりと明るく照らされる。
「そこにかけていろ。支度をして直ぐに戻る」
『うん。朝早くにごめんね。ありがとう』
パジャマ姿にローブを羽織ったセブは着替えるために奥の寝室へと入っていた。
残された私はソファーに座って今日の新聞に改めて
目を通していた。
“12年前、一度の呪いで13人もの人を殺したシリウス・ブラックの脱獄に、魔法界は再びあの大虐殺が起こるのではないかと恐れている“
『ありえない……』
私は目を閉じてあることを思い出していた。
それは魔法界に来る前に妲己に見せられた記憶だ。
その記憶では、大人になったシリウスがハリーの横に立ち、ハリーとともに何者かと戦っている姿だった。そして彼は、その戦いの中で誰かに呪いを放たれ絶命し、魔法省神秘部にあったベールのようなものの中に消えていった。
あの記憶から判断すれば、ブラックはハリーの敵ではないと思われる。
それでは、私が過去に行ったことにより今の未来が変わってしまったのだろうか?いやでも、素行に問題はあるが、友人思いで秘めた熱さを持っていた彼がジェームズを裏切るなんてことないと思うんだけど……
「待たせたな」
そんな事を考えていると着替えを終えたセブが戻ってきた。
『……さっきの方が色香があったのに。そのボタンいっぱいのまっくろくろすけの服以外、持ってないの?』
さっきは喉のあたりが見えていてくらっとするような色香があったのに残念だ。と私の好みを伝えていると、まさかの呪文が飛んできた。
ジャンプして避ける。
私が座っていたソファーにシューシューと音を出す黒い穴があいていた。
『何「何故と言ったらもう一発呪いをくれてやる。さっさとそのソファーを直して大人しく座っていろ』
『セ、セブったらこわい』
「フン」
真面目な話をする前に余計な事を言った私が悪いのだけどね。
セブが紅茶の準備をしてくれている間にレパロでソファーを直す。
私の対面に座るセブ。
テーブルには紅茶セットと“シリウス・ブラック脱獄”の文字が踊る新聞。
『話してもらえる?セブ』
ふたり分の紅茶を淹れ、コトリとティーポットを置いてセブは話し出す。
シリウス・ブラックがアズカバンの囚人になることになった悲惨な事件についてを―――――――
「事件の後の噂で、ブラックは闇の帝王の忠実なる下僕だという噂が流れた」
『ヴォルヤローの?』
「ごほっ!?」
セブがむせて紅茶を吹き出しそうになった。
ごめん、セブ……
「ユキ」
『ご、ごめん。もう少し言葉遣いを気をつけるよ』
呪い殺されそうな視線を苦笑いで受け止めつつ、話をもとの軌道に戻す。
『でも、もしブラックがヴォル野……闇の帝王の手下だったならセブもブラックを見たことあったんじゃない?』
そう聞くと、セブは首を横に振る。
「いや。奴の姿を見た記憶は1度もない」
『そう……』
それならその噂は嘘の可能性が高い。
学生時代、ブラックはジェームズ同様にスリザリンと闇の魔術を嫌っていた。だから、何か彼の心を変える強烈な出来事がない限り、闇の帝王の配下に入るとは思えないのだけど……
私は事実と疑問点を頭の中で反芻しながら口を開く。
『ありがとう、セブ。聞かせてくれて』
「あぁ」
12年前の真昼間。シリウス・ブラックはたった1つの呪文でマグルを含めた13人を殺した。
昼間だから目撃者も大勢いたようだし、駆けつけた魔法省からの応援隊に現行犯で逮捕されたということだった。
しかもセブの話だと、その時のブラックは、抵抗もせずに、大笑いしていたと言う。
「フン。昔からこういった事をしそうな片鱗は見せていたが案の定だ」
鼻で笑って紅茶を飲むセブから視線を逸らし、私は思考の中に入っていく。
果たして、本当に犯人はブラックだったのだろうか?
「ユキ」
『ん?』
「何を考えている」
『うん。ちょっと、ね』
「……まさか、ブラックはこの事件の犯人ではないかもしれない。などと考えているのではなかろうな?」
驚いて目を見開く。
『良くわかったわね』
紅茶を1口飲む私の前でセブが呆れたと言ったようにハッと息を吐いた。
「貴様は我輩の話を聞いていたのか?お前の頭の中にある過去のブラックはどうであれ、こいつは殺人の現行犯で逮捕されたのだ。目撃者も多数いたのだぞ?何の疑いようがある」
セブへの反論を考えたが私の口からは何も出てこなかった。
一瞬、誰かがブラックにポリジュース薬で変身して犯行を行ったと考えたのだが、現行犯で捕まったとなると、追加のポリジュース薬を飲む時間はないわけで、犯人は元の姿に戻ってしまうのだ。
私は天井を仰いで大きくため息をついた。
この感じは覚えている。
暗部の時にスリーマンセルを組んで任務を共に行い、暗部訓練生時代は私の担任でもあったハヤブサ先生が裏切った時もこんな気持ちになった。
ハヤブサ先生は木ノ葉を裏切り、そして私に討伐命令が下った。
そして私は、ハヤブサ先生を追い、首を取った。
もし、ブラックが私の目の前に現れたら、私はハヤブサ先生と同じように彼を討つことになるのか。
『今から、気が重いな……』
私はテーブルの上にある新聞を取り上げた。
『生死問わず、か。出来れば、生け捕りにしたいものだね。もしも闇の組織と繋がりがあるのなら、闇の帝王に関する情報を聞き出せるかも知れない』
これが真実か、それとも否か―――――――
「ユキ」
セブが部屋を辞そうと立ち上がった私に声をかける。
黒い瞳が、私を見つめる。
「君は、もしブラックが目の前に現れたら、奴を倒す覚悟はあるのか?」
『それは愚問だよ。当然倒す』
「しかし……学生時代の君たちは仲が良かっただろう」
珍しい。セブが私と“ブラック”に関して心配をしてくれている。
セブは私が仲の良かったブラックに刃を向けられるのか、私の気持ちを思って心配してくれているのだ。
優しいな……
ふと、ハヤブサ先生を討ったとき、同じくスリーマンセルを組んでいたヤマブキに今と同じように心配されたことを思い出して私は頬を自然と緩ませる。
『ありがとう、セブ。でも、心配いらないよ。私はこういうのに慣れているからね。ブラックが目の前に現れたら、討つ自信はちゃんとあるんだ』
「……そうか」
『朝早く押しかけてごめんね。私はこれで。失礼します』
部屋を出て行った私は気付かなかった。
「ユキ……我輩は君の苦しみを共有し、共に苦しむことも出来ないのか……?」
心配するな 気にするな 慣れている
セブルスはユキからそう言われるたびに、彼女の心の闇の奥深さを感じ、そしてユキが決して過去を口にしないことに対して、悲しみと無力感を感じていたのであった……