第3章番外編
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スケート
『セブーーーー!!』
ホグワーツ、スリザリン男子寮、朝5:00。
3年生のセブルスたちが寝ている部屋で大音量の声が響いていた。
それぞれのベッドでは、ある者は飛び起きて呆れたように天井を見上げ、ある者はうつ伏せになって枕を頭の上に被り、またある者は何時もの事だとそのまま眠り続けている。
セブルス以外がそんな反応を示す4人部屋。当の名前を呼ばれたセブルスはいつもの厄介事が来たと頭を抱えて布団を頭からスッポリ被り、無駄な抵抗をしていた。
そう、無駄な抵抗である。
セブルス・スネイプを起こしに来たこの人物。ユキ・ルイ・雪野・プリンスは、強引も強引。力も強く、人の話も聞かない暴君であった。
そして今日もその暴君ぶりを発揮して、セブルスの布団をえいっと引き離す。
『えいっ』
「寒い!!」
『うん!だから湖が凍ったよ!』
セブルスはげんなりした。自分の苦情に来た答えは「湖が凍った」という意味のわからないもの。
セブルスは自分の腕で自分を抱き、ガチガチ歯を鳴らして寒がりながらユキを睨みつける。
「今何時だ。ここは男子寮だ。何故寝ている僕の布団を無理やり引き離すんだということを聞いても無駄だろうから今は省く。要件だけ聞かせろ。湖が凍ったから何なんだ?」
セブルスは既にイヤーな予感がしていたが、敢えて聞いた。
セブルスの問いに綻ぶユキの顔。
『湖が凍ったからスケートをしよう!ぎゃうっ』
セブルスはユキがそう言った瞬間、自分の枕をユキの顔に投げつけた。
何がスケートをしよう、だ!!
「断る!僕はスケートなんかしないが、例えしたとしても、なんでこの時間なんだ。まだ朝日さえ昇っていないじゃないか」
セブルスはビシっと魔法で景色が映し出される窓を指さした。真っ暗である。
しかし、ユキは譲らない。理由がある、と指をチッチッチ、甘いな、とセブルスを苛立たせるような動作で振った。
『セブルスくん甘いですね。今日の天気は晴れ。日中になったら氷の質が悪くなってしまう可能性があるのですよ。それに、日中は同じ考えを持っている生徒が大勢スケートしに湖にやってきちゃう』
広々と、邪魔されずに思い切り遊びたいとユキは主張する。
セブルスはそれを聞きながら剥ぎ取られた布団を自分の方へ引き寄せて被り、ベッドに横になった。
「ひとりでやってくれ」
『……』
「…………」
『…………仕方ない』
セブルスは自分の横で何かがごそごそ動く音が聞こえた。
目を向ける。セブルスは飛び上がった。
「勝手に僕の箪笥を開けるなっ!」
自分の着替えを勝手に箪笥から出そうとしていたユキにセブルスは目を大きくして叫ぶ。
『セブが乗り気じゃないから着替えさせてあげようかな~と思ったんだもん。着替えちゃえば仕方なしに行くかなって』
セブルスが大きく溜息を吐いて頭を抱えた時だった。
「セブルス、行ってやれよ」
「ユキに敵うなんて思わないほうがいいぞー」
寝ている同室以外の2人から言葉が飛ぶ。
寝かせろ、静かにしてくれ、という同室の圧力がヒシヒシとセブルスに伝わる。
セブルスは天井を仰いだ。
「……着替えるから部屋の前で待ってろ」
『っやったー!!』
「「「五月蝿いっ」」」
同室2人、セブルスからのお叱りを受けたユキはルンルン鼻歌を歌いそうな様子でセブルスの部屋から出ていったのだった。
この時間はクィディッチの練習をしても良い時刻なので外に出ても規則違反ではない。
だから2人は堂々と地下から玄関ロビーへと上がって来たのだが、
「寒い」
とにかくどこもかしこも寒かった。
城の中でさえこうである。外に出たらどれだけ寒いだろうと想像するだけで震えてしまう。
『セブは寒がりさんだな~』
「お前の体温調節機能が狂っているんだよッ」
そう言い返すセブルスにユキは杖を向けた。
「何するんだ?」
訝しげに杖先を見るセブルスにユキはニッコリと微笑んで呪文を唱えながら杖を振る。
『これでどうだ!』
セブルスは目を瞬いた。先程までの寒さが嘘のように消えていたからだ。
「これは……?」
『冷却呪文の反対だよ。加熱呪文。暑すぎない?』
「あぁ。ちょうどいい」
『良かった』
ユキは嬉しそうに笑って樫の正門を両手で押す。
そんなユキの背中をセブルスは感心した面持ちで見ていた。
普段は馬鹿な行動と斜め上の発言をするユキだったが、呪文を学年の誰よりも知っており、魔法の腕も確かであった。
僕も負けないようにしないとな……
セブルスは小さなライバル心を芽生えさせながらユキの後を追いかけていく。
外は一面の銀世界であった。
『そおぉおれっ』
ユキは杖を積もった雪に向けながらくるりと一回転する。
すると、ユキの周りの雪からはたくさんの雪兎が生まれて辺りを飛び回る。
「よし。ユキがウサギなら」
セブルスも負けじと杖を振る。
『うわーーーー』
雪がぐんぐん集まってしろくまが1頭、ユキたちの前に立った。
『カッコイイ!』
ユキの言葉に照れたように頭を掻くしろくま。
いつの間にかしろくまの周りには雪兎が集まってきていた。
しろくまを「遊ぼう。遊ぼう」とでも誘うようにしてしろくまの周りを飛び回る。
『ここでの遊びに飽きたら湖にいるからおいでね』
ユキはしろくまと雪兎たちに声をかけてセブルスの元へと走り寄った。
『行こう、セブ』
ユキはセブルスの手袋をした手を握って湖へと走り出す。
『「はあはあはあ」』
雪原を走ったふたりは荒い息を整えながら湖の畔に立った。
「で、靴はどうするんだ?」
『考えてきてあるよ。氷で作るの。座って』
ユキは座ったセブルスの足の裏に杖を向けて呪文を唱える。
すると、氷の刃がセブルスの靴の裏に出来た。
ユキも自分の靴に刃をつけて準備万端……いや、まだだ。
目の前は真っ暗。このまま進むのは危ない。
『この前一緒に見た古い本で見つけた星の光の呪文を使おうよ』
ユキは杖を宙にかざしながらニッコリした。
「確か呪文はステルラ・ステッラだったよな」
『うん!たくさんの星を出そう。足元が明るく照らされるくらいたくさんの星を出そう!』
「これは大仕事だな」
スネイプは肩を竦めて笑いながらも呪文を唱える。
「ステルラ・ステッラ」
『ステルラ・ステッラ』
蛍のような小さな光の光源が空中に現れる。ふたりは何十回もその呪文を唱えた。そして、その光源が遠くに飛んでいかないように呪文をかけて、いざ、ふたりは湖へと足を踏み出す。
『わわわわわわ』
どすん
サーっと滑るのを脳裏に浮かべながら踏み出したユキは自分の予想に反して思い切りおしりを氷の上に打ち付けた。
「いきなり思いっきり滑り出そうとする馬鹿がいるか」
ユキに対して慎重に氷の上に踏み出していたセブルスは湖の上に上手に立っていた。
「手を貸せ」
『ありがと、セブ』
セブルスの手を借りて起き上がるユキ。
その心臓が跳ね上がる。
両手と両手を繋いで起き上がらせてもらったその距離は予想以上に近く、セブルスの顔はユキの目の前にあった。
『あ、ありがと』
「さっきも聞いた」
ぷいっとそっぽを向くセブルスもユキの顔が近くて照れたのだろう。
素っ気なくそう言って、湖に足を踏み出した。
スイー スイー
セブルスは危なっかしさはあるものの、ゆっくりと氷の上を滑っていく。
『よし。私も』
ユキも足を踏み出す。
しかし、
バタン。また倒れてしまった。
もう一度。
ユキは今度はひとりで立ち上がって、再び足を前へと進める。しかし、ツルツルと滑る氷はユキを前へと進ませてはくれない。
ユキはバランスを取るので精一杯。両手を前へ後ろへグルグル振り回しながらその場で立つのでいっぱいいっぱいだ。
そんなユキのもとへ、だいぶ滑ることに慣れたセブルスがやってくる。
「滑れないのか?」
『前へ、おわっと、進もうとしたら、うわっ、滑って!きゃあっ』
バランスを崩して前へ倒れかけたユキをセブルスが受け止める。
ユキの頬が赤いのは、寒さのせいからではないだろう。
セブルスに抱きしめられる格好になって照れるユキ。
セブルスの方もユキのはにかんだ笑みを見て心臓の音を早くしていた。
「手を貸してやるから、ほら」
ややぶっきらぼうに言われた言葉に従って、ユキはセブルスの手に自分の手を乗せる。
「緊張して固くなるな。片足は踏ん張って、反対の足は蹴るようにして進むんだ」
ユキはセブルスの言う通りに足を進める。すると、スイーと今まで転んでいたのが嘘のように前へと進みだした。
『セブ!滑れた!』
「あぁ。良かったな」
『うん!』
ゆっくりと離れていくふたりの手。
1人でも滑れるようになったユキは湖上でのスケートをセブルスと楽しむ。
『「あ」』
2人同時に声があがった。
自分たちの足元に現れた薄く綺麗な茜色。
和やかな朝の光に包まれる湖上。
ユキとセブルスは立ち止まり、遠い山々から昇りゆく朝日をみやったのであった。