第3章番外編
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小さな動物たち 黒狐と蝙蝠 part.2
ゴホッゴホッ
う……頭が痛い……
とある金曜日の朝。
セブルス少年はベッドの上で咳をしながら頭痛に顔をしかめていた。
なんとなく、風邪を引きそうな予感はあった。
そしてとうとう引いてしまったらしい。
症状は咳と頭痛。
セブルス少年は考える。
医務室に薬をもらってから授業に行こうか……でも、元気爆発薬は耳から煙が出るから恥ずかしい。極力飲みたくないんだよな……。
彼の頭の中に授業を休むという選択肢はなかった。というのも、今日は彼の好きな魔法薬学の授業があるから。
「ゴホッまあいい、咳と頭痛だけだ」
我慢できるだろう。とセブルス少年は考えてベッドから起き上がる。
ふらつきもないし、今のところ熱もない。
今日は金曜日だから今日さえ乗り切れば土日で治すことが出来るとセブルス少年は考えて、普段通りに準備をし、談話室へと降りて行くことにした。
『セブったらおそーい』
セブルスが談話室に降りて行くとユキの姿があった。
誰もいない談話室。セブルスが談話室内にある時計を見ると、多くの生徒が大広間で朝食を取る時間になっていた。
「ごめん、待たせた」
『いいよ。でも、セブが時間通りに降りて来ないなんて初めてだからちょっと心配していたよ』
『何かあった?』と尋ねるユキに「ただの寝坊だ」と答えるセブルス。
どうして嘘をつくかというと、それは自分に対して心配症なユキに原因があった。
もし自分が少しでも「頭が痛くて……」などと口にすれば、この友人は自分を背負ってでも、魔法をかけてでも医務室へと連行するはずだからだった。
せめて魔法薬学の授業を受けるまではユキに風邪引いたのバレないようにしないとな。
早足で大広間に向かいながらセブルスは思う。
朝食をとって、1限目の授業を受け、2限目、3限目と授業を受けていたのだが……
「ゴホッゲホッ」
セブルスの体調は時間が経つほどに悪くなってしまっていた。
昼休み。
食欲がないとユキに言い、寮へと帰ってきていたセブルスは喉の痛みに顔を顰めていた。
加えて咳に鼻水、頭痛にふらつき、額に手を当ててみると自分の手のひらがじんわりと熱を持った。
「あと2限か……」
午後からの授業は魔法薬学が連続でふたコマあって終わりだ。
どうしようかと迷ったセブルスだが、やっぱり魔法薬学の授業に出たいという欲求の方が強かった。
昼休みが終わるギリギリまでベッドで過ごし、無理を押してベッドから出て、魔法薬学の授業がある地下牢教室へと歩いていく。
『セブ?』
「ユキ?なんでそんなところにいるんだ?」
『セブを待っていたからだよ』
セブルスが地下牢教室へ向かっていると、教室の前の廊下にユキが佇んでいるのが見えた。
心配そうな目でじっと自分を見つめるユキ。
うっ……これはまずいな。
ユキに見破られたら大げさに騒がれて授業を受けることが出来ない。と思っていた時だった。
「あ、あれ……??」
『セブ!!』
セブルスは自分の意志とは関係なく、急に廊下に座り込んでしまった。
体に力が入らない……
ぐら~っと船酔いのようなめまいに廊下に手をつくセブルス。
セブルスの体は本人が知らないうちに限界に達してしまっていたのだ。
『どうしたの?セブ』
「ゴホッゴホッ」
心配そうにセブルスの顔を覗き込むユキは、咳をするセブルスの背中を摩ってびっくりした。
背中が熱い!
見ると普段は青白い顔が真っ赤に変わっており、額には汗が滲んでしまっていた。
今のホグワーツはちょうど風邪が流行っている時期だったので、ユキは直ぐにセブルスも風邪を引いてしまったのだと分かった。
「おやおや。どうしたのかね?」
医務室に連れて行こう。とユキが思っていた時、タイミングよくスラグホーン教授がユキたちのことを見つけてくれた。
『セブルスの具合が悪いみたいなんです』
「ううむ。本当だ。これは酷い熱じゃないか」
セブルスの額に手を当てたスラグホーン教授はビックリしたように言い、直ぐに医務室へ行くようにと指示を出した。
あぁ……せっかく朝から頑張ってきたのに……
しかし、セブルスがどんなに残念がろうとも、この体調で授業を受けるのはどう考えても不可能だった。
セブルスはユキに付き添われて医務室へと歩いていく。
しかし、
『あ……』
医務室に着いたふたりは、医務室のドアノブに引っかかる看板を見て、困った顔になる。
“薬材が足りなくなったので買い出しに行ってきます。
具合の悪い生徒は医務室内で休んでいるか、緊急の場合は職員室にいる先生に伝えてください”
こう書いてあったからだ。
『とにかく、中に入ろう』
医務室の中は誰もいなかった。
ユキはタタっと走って行き、一番奥の一番落ち着ける場所のベッドの布団をめくってセブルスに寝るように促した。
ベッドに横になるセブルス。
その顔はユキが見たことのないくらい赤い。
『呼吸も荒いね。辛いよね……』
「それほどじゃない」
『まーた強がり言って』
強がりな友人に眉をハの字にして言いながら、ユキは医務室の奥から洗面器とタオルを見つけてきてセブルスが寝ているベッド横にある小さなチェストの上に置いた。
水を洗面器に汲んできて、タオルを浸してから固く絞る。
『冷たいから、頭ギンギン痛くなるかも』
「うっ……」
セブルスは急に冷たいタオルが額に乗ったことで一瞬激しい頭痛を感じたが、その痛みは直ぐに引き、代わりに熱を冷やしていく心地よさにほうっと息を吐き出した。
その顔を見て、硬かった表情を少しだけ緩めてユキはセブルスのベッド横にあった椅子に腰掛けた。
「ユキ」
『何?』
「もういいから、お前は授業に戻っていいんだぞ。僕は一人でも大丈夫だから」
魔法薬学はユキも大好きな授業の一つだった。
セブルスもそれを知っていたのでそう言ったのだが、
『ううん。マダム・ポンフリーが帰ってくるまでここにいる』
とユキは首を振った。
『セブが心配だもの』
「ただの風邪だ。それに、僕のそばにいたら風邪がうつるぞ」
『この前、ジェームズが馬鹿は風邪ひかないって言ってた』
「あいつらの言うことなんて忘れろ。感染るものは感染る。でも、たしかにお前はある意味馬鹿だけどな……」
ふっと笑ったセブルスの口からゴホゴホと咳が出る。
体の奥から出てくるような咳で、セブルスは思わず体を横にして、体を丸めるようにして激しく咳き込んだ。
そんなセブルスの背中を摩るユキ。
『ある意味バカ……の意味は分からないけど、私って馬鹿なんでしょ?やっぱりここにいることにするよ』
咳き込み終わったセブルスにユキが言う。
セブルスの顔が赤くなる。
風邪で熱が上がったわけではない。
『私にうつして、治しちゃえばいい』
馬鹿に風邪の菌は耐えられないのだから。とユキはベッドに腰掛けて、セブルスの手を自分の手で包みながら微笑む。
昼下がりのホグワーツ医務室
セブルスは少しだけ、風邪を引いて良かったと思ったのだった。