第3章番外編
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小さな動物たち 黒狐と蝙蝠 part.1
クリスマス・イブの夜。
1年生のセブルス・スネイプ少年はぐっすり眠り込んでいた。
同室たちは全員帰省していて部屋にいるのは彼一人、のはずなのだが――――――
『わあ。セブの寝顔初めて見た』
セブルスのベッド脇には一人の少女が立っていた。
女子立ち入り禁止の男子フロアにあるセブルスの部屋に入り込んでいたのは彼と同じ寮のユキ・プリンスだ。
暫くはもの珍しそうにセブルスの寝顔を見ていたユキだったが、悪戯を思いついて二マーとした笑みを浮かべた。
ユキの人差し指はセブルスの頬へ。
『やわらかい』
ツンと頬をつついて感嘆の声を上げるユキは、今度は引っ張ってみようとセブルスの頬をつまむ。
『むに~ぷっ、フフ』
びよーんと伸びたセブルスの頬。
真面目な彼が見せたことのない顔にユキは思わず吹き出してしまう。
ケタケタと笑うユキの声に反応して寝ていたセブルスの眉間に皺が寄る。
安眠を妨害されたセブルスの目がゆっくりと開かれる。
『あ、起きた』
「うわあっ」
叫び声とともに上体を起こすセブルス。
「だ、誰だ!!」
セブルスが驚くのも当然だ。起きたら明かりのついていない真っ暗な部屋の中、自分のベッド脇に人が立っていたのだ。
セブルスは怖いながらも暗闇にぼんやりと浮かぶ影を凝視する。
『誰でしょーか?』
「……ユキ……か?」
『正解!』
元気よく答えたユキは続けて呪文を唱える。
部屋中のランプに明かりが灯り、二人の姿もお互いにはっきり見えるようになった。
『急に明かりをつけると眩しいねぇギャウッ』
眩しさに目をパチパチさせていたユキにセブルスが怒りの投球。
セブルスが投げた枕は見事にユキの顔面にヒット。
『悪いけど今は枕投げなんか「するはずないだろうっ」そうなの??』
では何故投げたんだ?と枕を持って首を傾げるユキにセブルスは頭を抱えた。
「男子フロアに女子は入っちゃいけないんだぞ。規則を知らないのか?」
『知ってるよ。でも、同室の子は皆いないって言っていたから入ってもいいと思ったの』
「……」
この友人に何から伝えたらいいのだろう?
ユキには男子と女子のフロアが分かれている意味が分かっていないようだった。
何故入ってはいけないかの説明――――は誰か別の人、ルシウス先輩の婚約者であるナルシッサ先輩にでもやってもらおう。
どう説明したら良いのか分からないのが半分。
めんどくさいのが半分。
セブルスは早々にユキへの指導を放棄した。
「で、そんな奇妙なものを持って何しに来たんだ?」
奇妙なものというのはユキが持つ虫取り網だ。
こんな真冬に虫なんかいない。
いたとしてもこんな真夜中に遊びに行く気はない。
そもそもそんな子供っぽいことしたくない。
無理やり起こされたセブルスが不機嫌オーラを撒き散らしていると、
『一緒にサンタクロースを捕まえよう』
と満面の笑みでユキは言う。
「サンタクロースを捕まえる……」
生気のない声でセブルスはユキの言葉をオウム返しする。
僕はまだ夢の中にいるのかもしれない。
だからこんな意味の分からないことに巻き込まれているんだ。
そうブツブツと呟くセブルスに構うことなく、ユキは部屋の中で虫取り網を振り回す。
『セブはサンタクロースを捕まえたことがある?ルシウス先輩は1回あるんだって』
セブルスはブツブツ言うのをやめて上機嫌のユキを見る。
「ルシウス先輩がなんだって?」
『この前談話室でお話した時にね――――――
冬休み間近の談話室でユキがルシウスから聞いた話はこういうもの。
それはクリスマス・イブからクリスマスへと日付をまたぐ時、クリスマスツリーの下にサンタクロースという妖精がやってきて捕まえたら何でも1つ願いを叶えてくれる、というものだった。
「何を考えているんだあの人は……」
ルシウス先輩はクリスマスを知らないユキなら信じるだろうとユキを揶揄ったのだ。
そして自分にこうやって被害がいったのを後から聞いて楽しむつもりなのだろう。
休暇明けに根掘り葉掘りこの日のことを聞こうとする先輩の姿が想像できる。
セブルスは疲れを感じ、起こしていた上体をバタンと横に倒した。
『寝ている場合じゃないよ。一緒に捕まえに行こう』
ユサユサとセブルスの体を揺するユキ。
「行かない。帰れ。僕は寝る」
『えーーどうしても?』
「どうしても、だ」
『……わかった(それなら奥の手を使ってやる!)』
「灯りを消していってくれ(やけに素直だな)」
『起きないならこうしてやるっ』
「んっ!?」
ユキが簡単に諦めるはずがない。
セブルスのベッドにピョンと飛び乗って体を
くすぐりまくる。
「うわっプッハハ、や、やめろっ」
『行くって言うまでやめないから』
馬乗りになられたセブルスは逃げられない。
セブルスは降参することになってしまう。
「い、行くから!行くからプハハ、離してくれ」
パッと顔を輝かせて手を離すユキ。
セブルスは笑って乱れた呼吸をゼーゼーと整える。
『良かった。1人で捕まえられるか不安だったの。セブがいてくれたら心強いよ』
ニコッとセブルスに微笑みかけるユキ。
「重い。今すぐ僕の上からどいてくれ」
『忘れてたよ。ごめんね――――うわっ大変。もうこんな時間。罠も仕掛けるから先に談話室に降りているね』
ユキが部屋から出ていき一人残されるセブルス。
「あいつといると心臓に悪い」
ハアァと真っ赤な顔を手で覆うセブルスは乱れた鼓動が落ち着くまで動くことが出来なかった。
***
談話室に降りた二人はクリスマスツリーの見える位置のソファーの後ろに隠れている。
虫取り網を握り締めて息を殺しているユキとその横で膝に肘をつき頬杖をつくセブルス。
コチ コチ コチ コチ コチ
「よし。12時を回った。帰るぞ」
懐中時計を確認してスクッと立ち上がったセブルスだがユキに手を引っ張られて再び座らされる。
『静かに。物音が聞こえる』
「は?そんなまさか……」
『シッ。静かに』
怪訝そうな顔をしながらもセブルスもユキと同じように耳を澄ませた。
「っ!?」
ユキの言う通りセブルスの耳にも物音が聞こえてきて息を呑む。
その音は談話室の扉が動く音だ。
『セブ、準備はいい?』
「あぁ」
ユキはワクワクした顔で虫取り網を握り直す。
セブルスの方は真夜中に寮へと侵入してこようとする不審者を警戒してローブのポケットから杖を取り出す。
何者かが談話室へと入ってきた。
顔を見合わせて頷きあったユキとセブルスが同時にソファーの後ろから飛び出す。
『「ヒッ」』
「キャアアアアアアッ」
コト コト ボスン
ユキの手からは網が、セブルスの手からは杖が、侵入者の手からは大きな白い袋が落下する。
唖然とした顔で侵入者が飛び出して行った談話室の扉を見るユキとセブルス。
『校長先生……』
「見なかったことにしよう。忘れることも大切だ」
『おぞましかった』
「それは僕も同意見だ……」
しばし無言で顔を見合わせる二人。
ミニスカート丈ワンピースのサンタクロースコスチュームに身を包んだホグワーツ校長、アルバス・ダンブルドア。
『ダンブーが落としていったもの何かな?』
気を取り直した二人は大きな白い袋に近づく。
ユキとセブルスは校長先生が落としていったその袋を開けてみることにした。
「これは悪戯グッズ……?」
『お菓子もこんなに入ってるよ。ねえセブ、見て!このカードに“スリザリン生へ 一人3個ずつ”って書いてある』
袋の中にはたくさんのお菓子とおもちゃ。
『わあぁ!選ぼうよ、セブ!』
「そうだな」
ダンブルドア校長からのクリスマスプレゼントに喜ぶ二人。
『セブ、このうさ耳カチューシャつけてみて』
「やめろッ」
暖かな暖炉の火
プレゼントを選ぶ二人の目はキラキラと輝いている。
『カエルチョコが逃げたっ』
「この網使うか?」
『ナイスアイデア。待てーー』
1年目のクリスマス
ヤドリギの木がいつの間にか二人の頭上に浮かんでいた。