第3章番外編
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ナルシッサの憂鬱
――――ナルシッサ、ルイ・プリンスのこと、色々な意味でよく見ておいてくれ
――――わかったわ、ルシウス。
――――ありがとう、ナルシッサ。何かあったら直ぐに私に言うのだよ。
そう言って彼は私の頬に口づけをして去っていった。
去っていく彼の背中を見ながら思う。
何かあったらの何かってなによ。はああぁ。
「ナルシッサ?どうしたの?」
廊下を歩きながら昨日のことを思い出していたら、隣を歩いていた友人が心配そうに私の顔を覗き込んでくれた。
「ごめんなさい、ロザリー。少し寮監の仕事について考えていたの。私にこんな大役務まるかしらって……」
遠まわしに言ったのだが、私の横を歩くふたりの友人には通じたらしい。
「今年はルイ・プリンスがいるものね」
「同情するわ、ナルシッサ」
とロザリーとメアリーは気の毒そうな視線を私に向けた。
ルイ・プリンス
今年スリザリンに入ったばかりの新入生。
白い髪に黄色い目をした素性の知れぬ、記憶喪失の少女。
「あの子はいったい何の動物との混血なのかしらね」
「分からないけど、ヴィーラやマーメイドのような美しい魔法生物との混血ではないことは確かね。だってあの子の振る舞い、野蛮ですもの」
これから2年間も寮監としてあの子と関わらねばならないと思うと気が重い。
先日も悪戯をしたとしてルイ・プリンスはスラグホーン教授に呼び出されていた。
その後、スラグホーン先生は「頼むから寮監としてあの子を見ておいてくれ」と私に頼んできたのだ。
育ちの良い人間が多いスリザリン寮だから私も寮監をやっていけると思ったのに。2年間も務まるかしら……
「ねえ、そういえば知っている?」
憂鬱な気分になっていると、友人の1人が声を潜めて話し始めた。
「ロザムンド・マクミランにおきたこと」
これはさっきの話よりも深刻らしく私とメアリーはロザリーに促されて椅子に腰掛けた。
ロザリーは周囲に誰もいないことを確認してから話し出す。
「ロザムンド、つい最近風邪をひいてずっと医務室にいたでしょう?それで私ね、授業のノートを届けてあげようと思って医務室に行ったの。そしたら……」
医務室の奥には小さな小部屋がある。ロザリーは医務室のベッドに誰もいないので、きっとロザムンドはその小部屋にいるのだと思い、その小部屋の部屋の扉を開けたのだ(何度かノックしても返事がなかったからとロザリーは慌てて付け加えた)。
そこで見たものは……
「ベッドに寝ていたロザムンドの顔、酷いことになっていたの。あれはきっと鼻呪いだわ。顔の半分くらいの大きさの鼻が顔についてしまっていて……」
ロザリーはその姿を見て悲鳴を上げてしまったらしい。
目を覚ましたロザムンド。ロザリーはロザムンドからこうなってしまった理由を聞くことになる。
「背後から名前を呼ばれて振り返ったら呪いを受けてしまったらしいの。誰が呪いをかけたかは分からなかったみたい。でも、男の人の声だったらしいわ。しかもね……」
ロザムンドの話だと、こういう類の呪いを受けたのは自分だけではないと言う話だったのだ。
他にもフォーリー家のジェニファーやシャフィク家のアレクシアなども歯呪いや、蜂刺しの呪いといった外見に傷が付くような呪いをかけられているというのだ。
「どの子も聖28一族の子たちじゃない……」
不安そうに眉を寄せてメアリーが言った。
「しかも女の子ばかりね」
と私が付け加える。
「私たちも気をつけたほうがいいわ。もしかしたら完全なる純血の私たちに妬みか恨みを持つ者の仕業かもしれないわ」
この話はここで終わりになった。
グリフィンドールのおバカな生徒たちが騒ぎながらこちらへとやってきたからだ。
それにしても、嫌な話だったわね……
私は、もちろん生活を便利にする一般的な呪文は習得しているが、強力な呪いやそれを跳ね返すような魔法はあまり知らない。
ルシウスと結婚したら基本的には家にいることになるのだし、覚えても無駄だからだ。
早く犯人が捕まりますように。そして自分にその災難が降りかかってきませんように。
私はそう思いながら友人と共にスリザリン寮へと戻っていった。
***
「ナルシッサ、スラグホーン教授がお呼びよ。ルイ・プリンスがまた何かしたらしいわ」
お気の毒、と言った友人にため息混じりで返事をして私はスラグホーン教授の私室へと向かった。
扉の前に着くと、外にいる私のところまでスラグホーン教授の叱責が聞こえてきた。
「湖の大イカを捕まえたり、食べたりしてはいけないと何故わからんのだね」
『でもでも、校則にはそんなこと書いていませんでした!』
「これは常識の範囲内の話なんだよ!わかるかね?ルイ・プリンス」
『よくわからないです!』
「ハアアアァァ」
大仰なため息が聞こえて会話が途絶えたところで扉をノックする。扉は直ぐに開いた。
「Ms.ナルシッサ・ブラック。いつもすまないね」
「いいえ。お気になさらないで下さい、先生。私は寮監ですもの」
「プリンスくん!ナルシッサを見てみなさい。君も少しは彼女のようなレディーになるべきだよ」
スラグホーン教授に言われて私を上から下までじっくりと見たルイ・プリンスはコテンと首を傾げてスラグホーン教授の方に向き直った。
不快だわ……
不気味な黄色い目で見つめられて自分の腕に鳥肌が立つのを感じる。
「Ms.ブラック、すまんが後を頼むよ。私はこれから小テストの採点をしなければならないのでね。プリンスくんに“何故湖で大イカを獲ってはいけないか”をこの子に分かるように説明してやってくれ」
「分かりました。スラグホーン教授。それでは失礼いたします」
いつもこうだ。
スラグホーン教授はこの子の扱いに手を焼いている。手を焼いて、そして、寮監である私に引き取りに来るようにおっしゃられるのだ。
悪く言えばルイ・プリンスへの教育を丸投げされているということ。
何度、ルイ・プリンスを迎えにスラグホーン教授の私室に来たか数しれない。
「ルイ・プリンス、何度も言うけれど、どうしてあなたは常識的な行動が出来ないのかしら?私に迷惑をかけている事、少しでも悪いと思ったことおありになって?」
『すみません……でも……』
「でも、はいらないわ」
ピシャリと言うとしゅんとして俯いた。
でも結局、何が悪いか彼女は分かっていないのだ。
私は大きなため息を吐きながら、いつものように何故湖に入ってはいけないか、大イカを獲ってはいけないのかという説明をさせられる羽目になる。
「いいこと?湖には沢山の魔法生物が住んでいるの。普段は大人しい魔法生物も、あなたが湖に入る事によって縄張りを荒らされたと思い、何をしてくるか分かったものではないわ。あなただって、自分の寝室に他人が無断で入ってきたら嫌な気分になるでしょう?」
『……なります』
「それから大イカを獲ってはいけないのは単純に危険だからよ。あなたはまだ1年生だからまだちゃんと理解していないようだけど、大イカの力は凄まじいの。あなたなんか足に巻き付かれたら一瞬で湖へと引き込まれてしまうのよ」
ふんふんと首を縦に振っていたプリンスの動作が止まった。
『でもナルシッサ先輩、私、大イカより強い自信あるよ』
なんだろう、この脱力感は……。
急にこの子に説明しているのがバカらしくなってきた。
寮監とはいえ、そもそもどうして私がこんな役目をしなけばならないのだろう?
「もういいわ」
自分の口から自分でも驚くような冷たい声が出てきた。
「あなたに何を言っても無駄ね。それに、あなたに迷惑をかけられるのも、もうこりごり。もし、今度またあなたが何かしてスラグホーン教授に呼び出されることがあって、私が呼び出されても、私は行かないわ。どうしても行かないと行けないなら、その時は私、寮監をやめるつもりよ」
「あなたにはもう、うんざり」と言った時にとても悲しげな顔をされたが知ったことではない。
後ろから謝罪の言葉を言いながら追いかけてくるルイに「ついてこないで!」と怒鳴る。
私は苛立っていた。苛立って、優雅に歩くことも忘れて。
だから、廊下の角を勢いのまま曲がってしまった時に誰かにぶつかってしまった。
「っ痛」
「ご、ごめんなさい」
ぶつかって倒れた拍子に閉じていた目を開けると、目の前にいたのは同じように尻餅をつくスリザリンの同級生だった。
他の寮の生徒じゃなくて、正直、少しだけホッとする。
「ごめんなさい。よそ見をして歩いてしまっていたの。お怪我はありませんこと?」
「僕はね。君は?」
「少し打ったところが痛むけれど、このくらい大丈夫よ。ありがとう」
同級生はすっと立ち上がり、私を起き上がらせるために手を差し出してくれた。
その手を取って立ち上がりかけた時―――――――
ドンッ
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
手を借りて立ち上がりかけた私の体は、手を差し出してくれた同級生本人によって突き飛ばされたのだ。
不意打ちで突き飛ばされ、思い切り体を廊下に打ち付ける。
何が起こっているの?混乱と、唖然とした気持ちで彼を見上げると急にその同級生は私を見ながら高笑いを始めた。
その手には、杖を持っている。
その瞬間、私は理解した。
女の子たちを襲っていたのはこの人だ。
「ハハ、察しがいいね、ナルシッサ・ブラック」
ニヤリと口角を上げて男子生徒が言う。
「な、何をする気……?」
「何を、か。そうだな……君はブラック家の人間だもんな。他の聖28一族の中でも特別な存在だ。とびっきりキツイ呪文がいい」
「きゃああっ」
男子生徒に腕を掴まれ、無理やり立ち上がらされ、私は近くの空き教室に放り込まれた。
ガチャリと施錠の音が無情に耳に響く。
「な、何よっ。何故こんなことをしようとするの!?」
再び床に物を捨てるように投げ出されて体全体が痛む。
少しでも時間を稼ぎたくて、震える声で叫ぶように言う私。
すると、その男子生徒はこう答えた。
自分は半純血。それも家族、親戚見渡しても魔法使いは少ない。スリザリンではその事で自分の存在が軽視されている、と。
そしてそれに加え、彼の魔法省に勤めている父親が、長年純血である上司や同僚たちから冷遇され、そしてつい最近、他の純血の者がやってしまった仕事上のミスを
「純血がどれほど偉いんだ」
察するに、彼の敵は全ての純血一族なのだ。
「っ!?」
ピリッとした痛みが体に走る。体が動かない。
金縛りの術をかけられたのだ。
「ナルシッサ・ブラック。へえ、やっぱり良家のお嬢様は肌から何から綺麗だな」
ツカツカと私の方へと歩いてきた男は私の前にしゃがみ、私の体へ手を伸ばす。
頬を滑るように撫でた手が、首筋を通り、私の胸へと達する。
まさか……!
嫌な想像に体が震える。しかし、助けを呼びたくても声が出ない。
「確かマルフォイ家の長男と婚約していたよな。ハハハ、ちょうどいい。奴の悔しがる顔も、近々見られるというわけだ!」
狂ってる。
馬乗りに乗られ、私は抵抗出来ぬまま衣服を裂かれた。
怖い
嫌!!!
誰か、だれか、だれか!!!!
顔に近づく男の顔。私は、どうしようもない絶望感を感じながらぎゅっと目をつぶった。
その時――――――
バアアアアァァンン!!
激しい音とともに扉が吹き飛んだ。
ホコリの舞い立つ教室の入口。
そこに薄らと浮かんでいたシルエットは瞬く間に消えた。それと同時に、
「うわああっ」
私の体の上から男が消えた。
『フィニート・インカンターテム!』
え……嘘…………
その声には聞き覚えがあった。
ルイ・プリンス
体を起こした私の視界に白い髪をなびかせる少女の後ろ姿が移る。
「き、貴様……」
「っ危ないわ、ルイ!!!」
上体だけ体を起こした男がルイに杖を向けて振り下ろした。
『プロテゴ!ステューピファイ!!』
パアアン
ゆっくりと倒れていったのは、男の方だった…………
「ルイ」
『っナルシッサ先輩……あの、あの、失礼します』
「待って、ルイ!」
教室を走って出ていこうとするルイを呼び止める。
すると、ルイは振り返って申し訳なさそうな顔で私を見上げた。
『ごめん……なさい。ついてきちゃって……』
私は少し驚いた。
何を言われるのか身構えるようなルイが、酷くおびえているように見えたからだ。
何におびえているのか理由はわからなかったが、私はルイを怖がらせないようにゆっくりと近づいてき、彼女を胸の中に抱きしめた。
「ありがとう、ルイ」
ルイがはっと息を飲んだ音が聞こえた。
顔を見ると、すごくビックリして、衝撃を受けたような顔をしていた。
まるで、人生ではじめて「ありがとう」と礼を言われたかのように。
「まあ大変!腕を怪我してしまっているわ」
『レダクトで扉を吹き飛ばした時に破片で切ったみたいです』
「直ぐに医務室に行かなければね」
さあ、いらっしゃい。とルイの手を握れば、またビックリした顔で見上げられる。
そしてルイは耳まで真っ赤に染めて俯いてしまう。
ルイの手を引き、医務室へと向かう廊下を歩いていく。
この子の面倒、私が見よう。
寮監だからという事もあるけど、助けてもらったからというのもあるけど、私はなにより、この子の態度が気になったから。
私を襲った男に術を放った時の冷酷な目。
私に手を握られた時の蕩けそうなほどの嬉しそうな表情。
ルイ・プリンス……不思議な子―――――
私が助けられたはずなのに、私は何故か、ルイ・プリンスを助けてあげたいと思っている自分に気がついたのだ。