第3章番外編
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カボチャの日
ん……カボチャ?
早朝も早朝。まだ日が昇る気配もない時刻。
1年生のルイ・プリンスは嗅ぎ慣れない匂いにパチリと目を開いてベッドの上に身を起こした。
スンスンと鼻を鳴らして空気を吸うルイ。
やっぱりカボチャだ。でも、何でこんな時間に?
どこからこの匂いは来ているのだろう?誰がカボチャ料理を作っているのだろう?そもそも、何故カボチャの匂いしかしないのだろう?
頭の中にいっぱい疑問が沸き上がってきたルイはカボチャの匂いの出処を探しに行くことにした。
同室に気づかれないようにこっそりパジャマから制服に着替えて部屋を出る。
明かりの消えた真っ暗な談話室を横切り、音を立てないように気をつけながら寮の扉を開けて廊下へ。
カボチャの香りに誘われるように地上へと続く階段を上っていく。
『やっぱり厨房で料理しているみたい』
ロビーに出た途端に強くなるカボチャの香り。
予想はしていたが、ハッキリと自分の進むべき道が分かって、ルイはその場で1人ニコリと笑った。
正面玄関を入って直ぐのロビーには地下へと続く2つの階段がある。1つはルイたちスリザリン生が住む寮と地下牢教室へと続く階段。そしてもう1つは今向かっているハッフルパフ寮と厨房へと続く階段だ。
美味しそうな匂いだなぁ。何を作ってるのか気になる!
地下牢教室からロビーへと続く階段を上りきり、見回りのフィルチやゴーストがいないか確認したルイはさっと隠れていた柱から出て厨房へと続く階段へと走った。
よし。成功!
チラリと後ろを振り返って誰にも見られていなかったことを確認したルイは口元に満足そうな笑みを浮かべて厨房へと続く階段をトコトコと下りていく。
『うーむ。取っ手が、ない』
しかし、ここで障害。
厨房入口まで降りてきたルイは唸る。
彼女の目の前にあるのは扉ではなく梨が書かれた大きな絵だった。
ドアノブらしきものはどこにも見当たらない。
たしかにこの場所が厨房だって聞いていたのに……
今までハッフルパフ寮に用などなかったルイは、自寮とは反対側であるこの階段を下りてきたのが、今回が初めてだった。
取り敢えず、梨の絵画に触れてみるルイ。
すると――――――
クスクス!
『ん!?』
ルイが梨に触れた瞬間、梨が小さな声でクスッと笑った。
ビックリして思わず絵画から手を離したルイだが、この摩訶不思議なホグワーツの生活に慣れ始めていた彼女は直ぐに気が付く。
そうだ。もしかしたらこの梨が扉を開ける鍵なのかも!
もう一度、ルイが梨へと触れる。
すると――――――
クスクスクス!!
やっぱり!!
ルイは黄色い目を細めて破顔した。
笑いを誘うように梨をくすぐると、ラ・フランスが身をよじって笑い、ついに厨房へと続く扉は開いてくれた。
扉が開いた瞬間に、ルイの体はカボチャの香りのする温かな空気に包まれた。
突然の明るい光に手を目元に掲げながら、ルイは厨房の中へと足を踏み入れる。
『わあっ凄い!』
厨房に入ったルイは思わず感嘆の声を上げた。
厨房で働く屋敷しもべ妖精たちがせっせせっせと作っているのはカボチャのグラタン、キッシュ、スフレにプリン。
キッチンにはサラダからデザートまでカボチャ料理がいっぱい。
どれも美味しそう~~!!
「こんばんは!生徒さん!」
ルイが目をキラキラさせて料理を見ていると、ルイに気づいた屋敷しもべ妖精が声をかけてきた。その屋敷しもべ妖精が手に持っているのはカボチャのスコーン。
「お腹が減って目が覚めてしまったのでございますね。どうぞ、このスコーンをお食べ下さいましっ」
『え!?いいの!?』
パッと顔を輝かせるルイの周りにはいつの間にか沢山の屋敷しもべ妖精が集まっていた。もちろん、その手には料理を持って。
夜中にお腹が減って目を覚ましてしまった可哀想な生徒さんのために!
と、こぞってカボチャ料理を持ってきてくれる屋敷しもべ妖精たち。
ぱくっ ぱくっ ぱくっ
ルイ・プリンスは幸せいっぱい。
遠慮することなく、ルイは次々と目の前に出されるカボチャ料理を食べていく。
そして、暫くして……
「焼きあがったカボチャクッキーをお食べになりますか?」
『ううん。もうお腹いっぱいです』
ようやく満足したルイは、ちょっと躊躇はしたが、クッキーを勧めてくれた屋敷しもべ妖精に首を振って遠慮した。
あぁ、やっぱり一枚だけ食べたかったかも……と、思っていたルイはここでハッと気が付く。どうしてカボチャ料理を作っているのかって聞くの忘れていた!
『あのね、屋敷しもべ妖精さん。聞きたいことがあるのだけど……』
ルイは近くにいた屋敷しもべ妖精にカボチャ料理を作っている理由を聞いてみることにした。
「今日はハロウィンでございますから!」
『はろうぃーん?』
コテンとルイは聞いたことのない言葉に首を傾げる。
『はろうぃーんってなあに?』
屋敷しもべ妖精の説明をコクコクと頷きながら聞くルイの顔はどんどんと輝きを増していく。
すっごく楽しそうなイベント!
話を聞き終えたルイの胸はワクワクでいっぱい。
自分でも何かしたい。このイベントをめいいっぱい楽しみたいという気持ちでいっぱいだ。
だけど……
私がトリックオアトリートだなんて言ってもみんな反応してくれないだろうなぁ。
ストンと近くにあった椅子に座り、ルイは小さく1人肩をすくめた。
この容姿だ。仕方ないよね。
真っ白な髪に黄色い目。ルイは自分が影でなんと言われているか十分に理解していたし、それを知っていてなお敢えて自分から話しかけていくような性格ではなかった。
でも、ハロウィン楽しみたいな……あ、そうだ!
ルイは俯いていた顔を上げ、自分の思いつきに顔を輝かせる。
トリック オア トリート
二人の友人にこの言葉を言ってもらってお菓子を渡そう。
それから、何かと面倒を見てくれるマクゴナガル教授にも!
さっそく屋敷しもべ妖精にお願いすることにしたルイ。
記憶がなく、家族もいないルイにはお菓子をふくろう便で届けてくれる人もいないし、まだホグズミードに行ける年齢ではないからハニーデュークスに買いに行くこともできない。
きっと私からお菓子をもらったら皆びっくりするはず。
ルイは楽しい悪戯をしかける準備をするような顔で瞳をキラキラさせながら腕まくり。
料理を作った記憶はないが、体がなんとなく覚えているような気がするのは気のせいか……
「何をお作りになりたいですか?生徒さん」
屋敷しもべ妖精に話しかけられた瞬間、ルイの頭からパチンと思い出せそうだった記憶が消える。
『カボチャのプリンにしたいな。作り方を教えて!』
いつだったか、私はこうしてこの厨房に立って、今と同じように誰かに食べさせたくて料理を作ったことがあったような……
ルイは、なんとなく懐かしい思いに浸りながらスプーンでカボチャをくり抜き始めたのだった。
***
あぁ……リリーとマクゴナガル教授には渡せたのに……
夕食後の談話室。
暖炉脇の椅子に座りながらルイはセブルスが宿題をする姿をじっと見つめていた。
「ルイ、何か用か?」
『これは用事、なのだろうか?』
「なんだそれは」
自分の方を見ながらコテンと首を傾げるルイを暫く見ていたセブルスだが、やがてやりかけの宿題へと戻る。
この友人の変な行動は常である。
いちいち気にしないことにしているセブルスだ。
一方、ルイの方はどうやって「トリック オア トリート」と言わせようか悩んでいた。
セブルスは今日一日、お返しができない自分を気遣ってかハロウィンの話題を持ち出してこなかった。
ちなみに、リリーとマクゴナガルの方は相手に気を使わせない明るい様子でもってルイを呼び寄せ、ルイに「はい」とお菓子を渡した時に、ルイも彼女たちにお菓子を渡すことが出来ていたのだが……
うーーん。ただ、お菓子を渡すだけじゃダメ。セブには何としてもトリック オア トリートを言ってもらわないと!
ぐるぐるぐると頭の中で作戦を練るルイ。すると、どうやら宿題が終わったらしい、セブルスが羽ペンを置いてぐーっと伸びをした。
あ、そうだ!
ニヤっと口の端を上げたルイは何か思いついたらしい。
椅子から立ち上がると、その人並み外れた運動神経と脚力を使って自分たちを挟んでいたローテーブルを飛越し、セブルスが腰掛けていた1人がけソファーの上にピョンと両膝をついて飛び乗った。
セブルスの膝の上に乗っているような形になっているルイ。
驚きで両手を上に上げたまま固まるセブルスの顔はカーっと赤くなっていく。
「な、な、なっ」
『アハハ。驚いてる。ねえ、更にトリックしてもいい?』
「はあ??」
『これで、セブの顔にいたずら書きしていいかって聞いたのよ』
「わわっやめろ。ふぁっく、くすぐったい。やめろ!」
状況が飲み込めていないセブルスの口からは上ずった声。
ルイは真面目な友人が見せる驚き顔にクスクス楽しそうに笑みを零しながら、いつの間にか机の上から取っていた羽ペンの羽でセブルスの顔をこちょこちょとくすぐった。
「やめろって!」
『そうはいかないもんね~』
鬱陶しそうにルイが突きつけてくる羽ペンを手で払いのけようとするセブルスだが、ルイは強い。そしてぶっ飛んでいる。
セブルスの両手首をぴたっとくっつけ、彼女の馬鹿力でもってソファーの背にセブルスの両手を拘束してしまった。
『さあ、どうする?』
「わ、訳がわからないっ。お前はいったい何がしたいんだ?!」
セブルスが叫ぶのももっともだ。
馬乗りになられ、両手をソファーの背に拘束されている状態で、さらに顔にいたずら描きまでされようとしている。
いったい何なんだ!と恥ずかしさと怒りで叫ぶセブルス。
そんな彼の耳に、小さな囁き。
『今日が何の日だが分かったら、逃れられるよ、セブ』
既に赤かったセブルスの顔はボンッと火がつくようにさらに赤くなり、ルイの口元は、作戦の成功に弧を描く。
「ト、トリック オア トリート……」
『うん。トリート!』
じゃーんとセブルスに差し出されたカボチャ。
『今日、早く目を覚ましてね。厨房に行ったら屋敷しもべ妖精たちがハロウィンについて教えてくれて、だから作ってみたんだ』
悪戯も作戦も両方成功だ!とご機嫌にセブルスの膝から飛び降りて机を挟んだ対面の自分のソファーに戻っていくルイは知らない。
え……っ。何で今残念、とか思ったんだ!?と、セブルスが慌てていたことを。
『セブ?眺めてばかりいないでそろそろ開けてみて?』
「あ!あぁ」
じっとカボチャを見つめ続けていた自分に訝しげな顔をするルイに気づき、急いでカボチャの上蓋を開けるセブルス。
くり抜かれた小さめのカボチャの中に入っていたのはプルプルと揺れるカボチャのプリン。
『美味しいかな?』
「うん……旨い、と思う」
『やった!』
満面の笑みを浮かべて拳を天井に突き上げるルイ。
「ぷっ。男らしい喜び方だな」
『そうかな?』
「あぁ、そうだ……なあ、ルイ」
『ん?』
「言ってみろ……その……トリック オア トリート……って」
少々恥ずかしげに言われた言葉に続いて、元気な声がスリザリンの談話室に響いた。