第3章 小さな動物たち
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30.黒狐と蝙蝠
―――――ユキッ!戻ってこいっユキッ!!
スネイプ教授の呼び声で、私は目を開けた。
『っ!?』
痛い……なんで……
目が覚めると同時に体に激痛を感じて僅かに眉を寄せる。
普通の怪我じゃない。これは何かの術で出来た傷の痛み。
『ぅ……ぁ……教授……?スネイプ、きょう、授?』
「ユキ!」
まだはっきりとしない視界にスネイプ教授の姿が映り、私は彼の名を呼んだ。
大きな両手で包まれている私の頬。
心配そうに見下ろしているスネイプ教授には悪いが、体中の痛みに対して私の心はじんわりと温かくなっていた。
彼が私を心底心配してくれているのが分かる。彼が私をこうして気にかけてくれているのが堪らなく嬉しい。
でも、素直に喜んでいいのかな?
まだ彼とはちゃんと仲直り出来ていなかったはず。
私の最後の記憶、階段から落下した時にセブは私を助けようと手を伸ばしてくれたけど……あれは和解と受け取ってもいいのだろうか?
「ユキっ……」
『どう、されました?』
スネイプ教授が急に崩れるように私の肩に顔を伏せた。
こうしても彼は不快に思わないだろうか?
私はそう思いながら私の肩に額をつけて小さく震えるスネイプ教授の背中に手を回し、あやすようにそっと叩く。
『あと、体が痛いんですけど……私、どうなっているのでしょう……?』
これは、私を案じてくれての震えだろうか?
そうだったら嬉しい。
でも、私のためにそんなに胸を傷めないで欲しいな。
私は彼の気を逸らさせたくて、彼に問いかける。
すると、はっと息を呑む声が聞こえ、顔を上げたスネイプ教授がショックを受けた顔で私の顔を見た。
「もしや覚えて……いないのか……?」
『何を?』
ドクっと心臓が嫌な音を立てた。
胸がざわつくこの感じは何?
私の頭は、瞬時にこの嫌な予感の原因を探す。
彼の瞳を見つめる私の頭に、嫌な予想が浮かんできた。
この怪我の原因。そしてその先。おかしなリズムを刻む心音を聞きつつ、私は震える唇を開く。
『話して。私の怪我の原因をスネイプ教授は知っているのですか?私の記憶は6年生のあの日、階段を落ちた時に途絶えた。もしや、その先があると――――――?』
「ユキ……セブルスはお前さんの怪我の原因を知っておる。だが今は、怪我の治療が先じゃ」
『いえ!先に話です!!話が先ですッ』
ダンブルドア校長の言葉に被せるようにして叫ぶ。
私は上体をベッドに起こし、首を思い切り振ってスネイプ教授の目を見た。
怖い……この予想を肯定されるのが怖い……
私に見つめられたスネイプ教授の瞳が躊躇いに揺れるている。
「ユキ……雪野。校長の言う通り先に怪我の治療をしたほうがいい―――ッ!?」
ドクッ ドクッ ドクッ
鼓膜の中で鳴っている心臓の音が次第に早くなる。
この予想を現実として突きつけられるのが怖い。でも、確かめなければならない。
私は私から視線を外し、私から距離を置こうとするスネイプ教授の腕を取り、思い切り引き寄せ、彼をベッドに組み伏せた。
ベッドに仰向けに倒したスネイプ教授に跨り、瞳を覗き込む。
『開心』
「ッ!?」
閉じようとする心。
私はスネイプ教授の肩をぐっと掴んで痛みを与え、心が緩んだ隙に彼の心の扉をこじ開けた。
途端にどっと流れ込んできたスネイプ教授の記憶。
全身から血の気が引いていく――――――
『嘘だ。私が……私が失敗するなんて……』
呼吸が、止まりそう……
息が、苦しい…………
彼が持っていた過去に行った私の最後の姿は、私がヴォルデモートの屋敷に侵入し、ヴォルデモートに向かって苦無を投げつけている姿だった。
涙が溢れてくる目を閉じて頭を抱える。
ヴォルデモートの急所から狙いを外した自分の姿が瞼の裏に映る。
『そんな……リリーは?ジェームズは?私はヴォルデモートの暗殺に失敗したの?』
認めたくなかった。
信じたくなかった。
私の全てが、事実の受け入れを拒絶する。
暗殺失敗の結果を考えたくない。
震える私の体。
慰めるように、肩に手が置かれた。
「ユキ」
そっと呼ばれた名前に顔を上げる。
開いた目に映ったスネイプ教授の気遣わしげで苦しげな表情。
現実が、私の心に突き刺さる。
私の中で、感情を押し止めていた堰が切れる。
自分の犯してしまった失敗に、私の心が潰れる。
『いやあああああぁっ!!なんで!!!』
体が弾けたような感覚と同時に、私の中から何かが溢れ出た。
体が痛い
全身が焼けるように痛い。
でも、こんな痛みなんてどうでもいいことだった。
私が失敗したせいでリリーとジェームズが死んでしまった。
私のせいだ。私が失敗したからだ。
今は変えられるはずだったのに。
リリーとジェームズが生きている世界、ハリーの両親が生きている世界を私は作れていたはずなのに。
どうして?どうしてなの??
なぜ初めての任務失敗がこれなの?
止められない。
黒い感情が私の理性を押しつぶす。
「心を落ち着かせよッ。止めるのじゃ!!」
「落ち着いて!体がっ」
ダンブルドア校長とミネルバの声が聞こえたが、感情が高ぶりすぎた私の頭はその言葉を理解できなかった。
ヴォルデモートに対するものなのか、自分に対するものなのか、はたまた両方なのか分からないが、私の心が憎しみ一色に染まった。
私のせいで、リリーとジェームズが死んでしまった。
今まで任務に失敗したことがなかった私がどうして?
どうして今回に限って失敗してしまったの?
失敗したのにどうして、私は生きながらえているの?
悔しい……憎い……憎い、憎い…………
憎しみに叫ぶ私の声が医務室に響き渡る。
「止めろッ。ユキを止めるのじゃっ!」
「ペトリフィカス・トタルス」
「傷口が開いていってしまうわ!ユキ!静まりなさいッ」
ダンブルドア校長とマダム・ポンフリーが金縛りの呪文を獣になりつつあるユキに向かって叫び、マクゴナガルは必死に変わりつつあるユキへと呼びかける。
耳をつんざくような絶叫とともに変わっていくユキの姿。
セブルスの上に跨るユキは苦しむように上体を後ろに反らせ、白髪へと変わった自分の頭を掻きむしった。
耳が消え、代わりに頭の上に黒い獣の耳が生えてくる。
尖った歯に鋭く伸びた爪。黄色い目には不気味な光、ユキは異形の姿へと変わっていく。
金縛りの術の効果はなかった。ユキは受け入れられない現実に傷口が開くことも構わず自身を引っ掻きながら体を揺すった。
体を左右に振るたびに大きくなっていくユキの体。傷口は広がっていき、白いシーツに血が飛び散る。
「やめろっ!止まれッユキ!!」
「危ないセブルス!ユキから離れるのじゃっ」
しかし、セブルスはダンブルドアの言葉は聞かずに、身を起こし、自身とほぼ同じ背の高さになった半獣のユキに手を伸ばした。
セブルスはユキの足の間に自分の足を入れ、ユキのバランスを崩す。
ドシンッ
セブルスは全体重をかけてユキをベッドに押し倒す。
「落ち着けっ落ち着くんだ!っく……」
暴れるユキを押さえつけようにもユキの力は凄まじかった。
自分をベッドに押さえつけようとするセブルスの手を払ったユキの手がセブルスの肩に傷を付ける。
引き裂かれた黒服の間から赤い傷口が露出する。
我を忘れ、セブルスを傷つけたことにも気づけないユキ。
圧倒的な力に皆が一瞬怯む中、一人がユキの方へと進み出た。
躊躇いなく、振り下ろされた手。
「いい加減になさいッ!」
パアアンッ
乾いた音が医務室に響いた。
傷ついたセブルスを押しのけ、ユキの頬を張ったマクゴナガルの声がユキの耳に届く。
「何をしているのです!目を覚ましなさいッ。セブルスを傷つける事はあなたの望むことじゃないでしょう!!」
マクゴナガルの声を聞いたユキの黒い体がビクリと震えた。
その言葉で、ユキは正気を取り戻した。
黒い毛に覆われた動物の姿がゆっくりと縮んでいき、ユキの目に、自分が傷つけてしまったセブルスの姿が映る。
『わ、わたし……セブ……教授……』
「我輩は大丈夫だ。落ち着いたな?」
『あぁっ、ご、ごめん……っ』
「泣くな。傷に触る。大丈夫だ……」
自分のしてしまったことに衝撃を受けて顔を青くするユキ。
セブルスは尖った爪を持った手で顔を覆おうとするユキの手首をそっと掴み、優しく下に下ろさせた。
『わ、わたし何てことを』
「大事ではない。大丈夫だ。それより、心を落ち着けろ」
そう言って安心させるようにユキの額に優しい口づけを落とすセブルス。
ユキの泣き声も徐々に小さくなっていく。
「見せつけてくれるのぅ」
「んなっ!?」
「こんな状況で冷やかしはやめて下さい、アルバス。ですが、そっと医務室から出ようか迷いましたよ」
楽しそうに笑うダンブルドアに呆れたようにため息をつくマクゴナガル。
他に人がいたことを一瞬忘れていたセブルスは赤面して片手で自分の顔を覆った。
「セブルス、ユキの上に居るついでにこれを飲ませてくれるかしら?」
薬を手にニコリと笑うマダム・ポンフリー。
「っ!?わ、我輩は自分の治療に専念させて頂くっ」
大御所3人のからかいの目に耐え切れず、セブルスはユキの上から下りて薬棚へ向かうために医務室の奥へと足早に歩いて行った。
マダム・ポンフリーは珍しい同僚の姿に笑みを零してからユキの口元に安らぎの水薬を持っていく。
「飲んで。気分が落ち着くわ」
『ありがとうございます』
まだ小さくしゃくり上げていたユキだったが素直に安らぎの水薬を飲んだ。ダンブルドアもマクゴナガルも安堵からホッと息を吐き出す。
『うっ。凄い眠気』
「寝てしまいなさい。寝ている間に治療させてもらう事になるけど、いいでしょ?」
『お世話おかけします』
瞼が重い……。スネイプ教授にちゃんと謝りたい。怪我の状態も見たいのに……
医務室の奥の椅子に座り、自分で自分を治療するセブルスを見ながらユキは眠りへと落ちていった。
ユキが眠りにつき、ユキのベッドの周りに立つ三人。
怒りと絶望に支配されたユキの姿は、一時、背の高い男性ほどに身長が伸び、体中は獣のように黒い毛に覆われ、長い九本の尻尾まで生えていた。
その姿はマクゴナガルの叱責によって戻ったのだが完全とはいかなかった。
身長は元のユキと同じ身長。だが、耳には黒い三角形の獣の耳。
それに黄色い目に白い髪。爪は鋭く伸び、お尻には尻尾が生えてしまっている。
「これは、あれかの……以前ミネルバが言っておったMr.リーマス・ルーピンが見たというユキの半獣姿と同じかのう?」
「前にも似たようなことがあったのですか!?」
「そのようじゃ、ポピー。あの時は半獣となるきっかけになったアニメーガスの練習は止めたと聞いたから再び同じ状態になる可能性は低かろうと判断し、ミネルバとも様子見にしようと決めて問いただす事はしなかったのじゃが……」
「Mr.ルーピンからはユキ本人も半獣になった理由は分からないと言っていたと聞きました。彼女は誰かにこの事を知られる事をとても恐れていたらしいのです。体調も不安定な時期だったので、これ以上負担をかけたくなくて……」
「まあ……そうだったのね……」
驚くマダム・ポンフリーの横でセブルスは学生の頃の記憶を思い出していた。
あれはユキが5年生の時、ホグズミード村でユキに告白しようとした時に倒れた後。廊下でルーピンとマクゴナガル教授の会話を偶然聞いてしまった時だった。
―――前に1度、ユキがアニメーガスに失敗したことがあって……その時に以前のように白髪になり目も黄色く変わりました
―――黒い耳に九本の尾?知らない動物だわ
―――ユキの世界に九尾の妖狐を体に封印された少年がいると……
――― ……Mr.ルーピン、あなたはどこまで知っているのですか?
―――ユキが僕たちとは違うシノビの国から来たと……
―――驚いたわ。ユキが誰かに話すなんて――――――
これがそれか……。
セブルスが寝ているユキの耳にそっと触れると、黒い耳はくすぐったそうに震えた。
「ユキが起きたら話をしてみなければならんのう」
「そうですね……」
マクゴナガルがユキの髪をそっと梳く。
―――得体の知れない化物だと分かったら嫌われてしまう……
学生の頃にそう心配し、リーマスに半獣の姿を誰にも言わないようにと口止めしていたユキ。
しかし、その心配は杞憂だった。
マクゴナガル、ダンブルドア、マダム・ポンフリー、そしてもちろんセブルスの目にも嫌悪の色は浮かんでいない。
魔法界には狼人間、ヴァンパイアもいればヴィーラとの混血の人間もいる。
経験豊かな年長者や癒者のマダム・ポンフリーは驚きこそすれ、ユキを不要に恐れ、差別するような気持ちは一切なかった。
セブルスだってそうだ。ユキへの愛はこの程度で揺らぐものではない。
皆はただ、包帯を赤く染めて眠りにつくユキを心から心配していた。
***
湖の辺の大きなブナの木の下。
ユキは真夏の太陽が照りつけて湖面がキラキラと輝く様子を心静かに眺めていた。
湖面から視線を上げて空を見上げる。
抜けるような青い空は今のユキの決意を表しているように雲一つなく透き通っている。
リリー……ジェームズ……
心の中で二人の名を呼んでいたユキは足音に振り向いた。
馴染みのある足音はセブルスのもの。
「医務室にいないと思ったらやはりここにいたか」
『すみません。探しました?』
「いや。学生の頃もその前も、ここを気に入っていると知っていたからな」
『フフ。“その前”って私が魔法界にきて教員として過ごした2年を言っているんですよね。これから思い出話をする時はややこしいことになりそうです』
大きな木の根に腰掛けていたユキの隣に腰を下ろすセブルス。
熱気を払う山から下りてきた風が珍しく結い上げていないユキの白髪をサーッと揺らす。
『スネイプ教授』
「何だね?」
『リリーとジェームズのお墓参りに連れて行ってください』
「それは……できない」
『何故?』
ユキは湖の方に向いていた顔をセブルスの方に向け、首を傾げた。
ユキをリリーたちのお墓へと連れていけない理由。それは彼の過去と彼の中での約束事のためであった。
目を閉じて、このことを話すべきかセブルスは考える。
ユキはどう思うであろうか……?
好きな人に、親友リリーをヴォルデモートに殺害されるきっかけになった出来事を言うのは躊躇われた。
話せばユキは自分を責めるだろうか?
愚かな行いをしたと怒るだろうか?
自分とはもう縁を切りたいと思うかもしれない。
「雪野……。君に話しておかなければならないことがある」
だが、セブルスは話すことを選んだ。
セブルスはここ数日間のユキの様子を見て、ユキも自分と同じようにヴォルデモートを倒し、ハリーを守りたいと考えていると感じていた。
そうなれば、いつかは自分の過ちを耳にする日が来ることだろう。
話すことは辛いが、自分の過ちは他人からではなく自分から聞かせるべきだ、と覚悟を決めセブルスは口を開く。
「リリーの死は、我輩のせいでもある……」
『……どういう事、ですか?』
セブルスはユキが最後に倒れてからの自分の事と、その後自分が犯してしまった過ちについて話しだした。
ヴォルデモートの凶悪な思想に辟易して闇の世界から抜け出したいと思った時には既に遅く、どうせ抜け出せないならばと闇の魔術を極めてやろうと思っていた若き自分。
ホグワーツに教員として雇われたばかりの年に偶然に聞いてしまったトレローニー教授の予言。
セブルスは卿に気に入られ、より闇の魔術の知識を得たいという気持ちでヴォルデモートに予言の内容を告げてしまったことをユキに話した。
「闇の帝王がハリー・ポッターを、リリーとその家族を狙っていると分かり、我輩は直ぐにダンブルドアに助けを求めた。だが……」
セブルスは唇を噛み、両手をぐっと組んだ。
手の甲にくい込む指の爪。
『そんなに力を入れたら傷が出来てしまいますよ?』
固く組んだ両手の上に華奢な手がそっと重ねられ、セブルスはハッとして顔を上げた。
セブルスの視界が暗くなる。
ユキの両手が優しくセブルスの体に回される。
「優しくするな」
『セブ……』
「我輩はこのように慰められる資格などない」
軽くユキを自分から遠ざけようとしたセブルスだが、ユキの体は離れなかった。逆にさらにきつく、セブルスを抱きしめる。
ポタリ ポタリ……
セブルスの首筋に涙が落ちる。
「何故お前が泣く……」
『セブの心が伝わってきて痛いから』
「ユキっ……ユキ、すまないっ……」
『私こそ、ごめん……セブ……』
抱きしめあったまま、二人は声を押し殺して泣いた。
自分の過ちが親友の命を奪ってしまった事への後悔しても後悔しきれない思い。その胸の痛み。
変えられたはずの過去。自分がヴォルデモートを消すことが出来なかったせいで紡がれてしまった、変わらなかった未来。
お互いがお互いの後悔と胸の痛みを理解し、2人は涙を流した。
セブルスは悔い改め、ハリーを守ることを誓い、
ユキは自分の失敗を償うために、ハリーを守ることを誓う。
『セブ?』
セブルスはユキを後ろから抱きしめ、ユキは背中をセブルスに預けて座っている。
涙を拭い、落ち始めた夕日を眺めていたユキがセブルスの名を呼ぶ。
『お墓参りはやっぱりいい。リリーとジェームズに会うのはヴォルデモートを倒してハリーを守りきってからにしたい』
「我輩も同じだ。全てが終わったら、一緒に行こう」
『うん』
ユキは自分のお腹に回されていたセブルスの手を両手で握り、自分の意志を固めるようにゆっくりと何度か頷いてから閉じていた目を開いた。
『あ、それからさ』
「どうした?」
思い出した、と言うように振り向いたユキにセブルスは首をかしげる。
『私、セブのこと何て呼んだらいいのかな?セブ?それともスネイプ教授?』
「今更教授はないだろう」
『でもですね、初めて会ったセブはスネイプ教授だったんです。同学年の友人となったのはその後。だから、こっちに帰ってきて何て呼んだらいいか混乱してしまって』
困ったと言うように息を吐いて再び前を向いたユキ。
セブルスは再び後ろ向きに自分に体を預けてきたユキを自分の方にぐっと引き寄せて、ユキの髪を撫でる。
「セブにしろ。その方が落ち着く」
『――っ!』
ユキの耳にかかるセブルスの吐息。ユキの体がびくりと跳ねる。
「聞いているか?」
『き、聞いてる!わ、わかったよ!わかった、セブ』
耳元で甘い声で囁かれ、ユキは顔を赤く染めて俯いた。
その様子を見てクツクツと喉を鳴らして笑うセブルス。
『笑わないでよ。本当にもう、その色気はいつ身につけたんです?学生の頃にはなかったのに……』
「っ!?お前はまたそうやって……」
『何です??』
「聞くな!まったく……お前は学生時代と変わらんな」
『??』
空は透けるような水色から茜色へと変わっていく。
大人になったふたりは、並んで地平線に沈みつつある夕日を眺める。
ハリー・ポッターを守ってみせる
犯した罪への償いのために
ハリー・ポッターを守ってみせる
ユキのためにも
セブのためにも
穏やかながらも二人の瞳には、芯の強い輝きが宿っていた―――――
第3章 小さな動物たち《おしまい》