第3章 小さな動物たち
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25.青猫の狂愛
ようやく週末が明けた。
今は月曜日の放課後。
私は最後の授業が終わった教室で一人残り、自分の手に杖を突きつけていた。
やってくる痛みを想像し、私の眉間には自然と皺が寄ってしまう。
乱れつつある呼吸を止め、呪文を小声で唱える。
「ッ痛……」
今日の出来具合は完璧だ。
私は手に出来た傷を見て満足げに表情を緩める。
今日は魔法生物飼育学から帰る途中、藪の傍を通った時に木の枝で手を引っ掻いたことにしよう。
良い理由も思いついたので杖をローブにしまって私は教室から出て行った。
向かうのは医務室。ユキ先輩のもとだ。
癒者を目指しているユキ先輩は新年度に入ってから空き時間に医務室でマダム・ポンフリーを手伝っている。
ユキ先輩に治療してもらえる。
そのためなら少しくらい痛い思いをするのは何の苦にもならなかった。
もういらっしゃっているだろうか?
私は高鳴る胸の鼓動を抑えながら医務室の扉をノックする。
「失礼します」
キイィと扉を開けた私の顔が綻びかけて引き攣る。
ユキ先輩は医務室にいらっしゃった。
では何故顔を引き攣らせたかというと、医務室の奥にいたユキ先輩はどっかの寮の上級生が座る椅子の前に跪き、そいつの足を自分の立て膝の上に乗せながら治療をしていたからだ。
どう考えてもやりすぎだろう。
しかも治療されている男子生徒はユキ先輩に好意を抱いているらしく、熱に浮かされたような顔をしていた。
気に食わない。
私以外の男があんなに至近距離でユキ先輩に接するなどあってはならないことだ。
『クィリナス』
「は、はいっ」
突然ユキ先輩に声をかけられて驚く。
『もう少し治療に時間がかかるから座っていて』
「……分かりました」
渋々ながらベッド脇に置いてあった椅子に座った私はそれにしても、と先ほどのことを考える。
1度もこちらを見なかったのによく来たのが私だと分かったものだ。やっぱりユキ先輩は凄い。
それとも私とユキ先輩は見えない何かで繋がっているのだろうか?
……きっとそうに違いない。
私がそんなことをぼんやりと考えていると、
『痛みは取れたかしら?』
治療が終わったらしい。
ユキ先輩が男子生徒のズボンの裾を下ろし、立ち上がった。
ユキ先輩にここまでやらせるなんて……
自分の中でゴゴゴォと嫉妬と怒りの炎が燃え上がるのを感じる。
「ありがとう。全く痛くなくなったよ。凄いね。君の治療はなんていうか、その……完璧だ」
『フフ、ありがとう。照れるな』
「あぁ。うん……あの、さ」
『ではお大事に』と言うユキ先輩の前から男子生徒は動かない。
片付けをしながらユキ先輩は男子生徒(あ、自寮の先輩だった)に小首を傾げてみせる。
男子生徒の次の行動が分かった私はすっと椅子から立ち上がった。
『どうしたの?』
「次のホグズ「す、すみませんっ」
自寮の先輩の声に自分の声を重ねる。
同時に振り向く二人。
「お、お話中申し訳ありません。傷口が痛くなってきてしまって……」
出来るだけ痛そうな顔をして言う。
『それは大変。直ぐそっちに行くわ。ええとMr.スミス、さっきの話は……』
「いや、いいんだ。またにするよ」
フン、またなどない。
自寮の先輩はガチャガチャと忙しそうに治療に使う道具を準備するユキ先輩を見て、諦めたように言った。
お前などがユキ先輩をホグズミードに誘うなど百万年早い。
『そう?それじゃあね』
「うん。ホントにありがとう。また来るよ」
『コラ。出来れば来ないように。お大事にね』
「あっ、そうだね。それじゃあ僕はこれで」
自寮の先輩は言いたいことが言えずにガッカリした顔で医務室から出て行った。
ひと仕事終えた満足感。
今日もまた変な虫を1匹追い払うことに成功した。
私の憧れの君、ユキ・雪野先輩。
彼女は人に言えない複雑な事情を抱えている。
複雑な事情を抱える彼女を何も知らないそこら辺の男が幸せに出来るはずがない。
例えばセブルス・スネイプが良い例だ。
前学年度の試験最終日。いつものようにユキ先輩を影から見守っていたあの日、セブルス・スネイプは(どこで聞いたのかは知らないが)ユキ先輩に彼女の秘密について問い詰めていたようだった。
ユキ先輩に人には言えない事情があることは私と校長先生、マクゴナガル教授しか知らない。
―――金輪際、僕に話しかけないでくれ
あいつは自分の秘密を話すことを躊躇うユキ先輩に冷たい言葉で絶縁を言い渡した。
美しい顔に苦悶の表情を浮かべていたユキ先輩。
あの日から終業式の日まで、廊下に1人佇み、涙を堪えている姿を何度も見た。
その姿は見ていられないほど(もちろん何かあると大変なので見守っていたが)だった。
ユキ先輩はあんな男と親しくすべきではなかった。
『……リナス――――これは何の呪も……怪我を―――だ……』
美しく凛としたユキ先輩。
彼女は強く、賢いが同時に子供のように純粋な心も持ち合わせている。
少し世間知らずで傷つきやすい純粋な心を持つユキ先輩。
そんなユキ先輩を守るのは学生の中で唯一彼女の複雑な事情を知っている私の役目だ。
ユキ先輩に近づこうとするおかしな虫は私が駆除する。
2度とユキ先輩が同じ過ちを繰り返さないよう、私が彼女の友人関係をコントロールしてあげねばならない。
ところで、スネイプがあの時発していた“シノビ”とは何だったのだろう?
ユキ先輩に関してあいつが知っていて私が知らないことがあるのは面白くない。
『―――はどこでやった……呪文――――クィリ……』
ユキ先輩が抱える事情、“シノビ”とは何かを聞いてみたい。
だが聞けばきっとユキ先輩を困らせることになるだろうから――――――
『クィリナス・クィレル!』
「っうわ!!」
驚いて声を上げる私の前にはいつの間にかユキ先輩がいた。
どうやら思考に耽りすぎてユキ先輩がこちらに来たことに気付かなかったらしい。
「あ、あの。すみません――――っ!?」
話を聞いていなかった事を詫びようとした私の額にユキ先輩の手が伸びてきて触れた。
ガシャンッ ドターン
憧れの人に触れられた私の体は異常に反応してしまい、真後ろにあった椅子に足を引っ掛けて転倒してしまった。
思い切り捻ってしまった足が痛い。
が、ユキ先輩に治療していただける箇所が増えたのだ。
私は嬉しさで緩みそうな顔を無理やり引き締めた。
『驚かせてごめんなさい。ぼんやりしていたから熱でもあるのかと思ったのよ』
申し訳なさそうなユキ先輩に首を振る。
「い、いえ。ぼんやりしていた私が悪かったのです―――痛っ」
立ち上がろうとした途端、左足首に痛みが走る。
『動かないで。捻挫したのかもしれないわ。治療しましょう』
ユキ先輩が手を差し出してくれる。
私は胸を高鳴らせながらユキ先輩の手を取ったのだが……
「え゛っ」
おかしな声が私の口から漏れた。
それはそうだろう。ユキ先輩に差し出した私の手は掴まれてそのままユキ先輩の首後ろまで誘導された。
私の背中と膝の裏にユキ先輩が手を入れる。
そして彼女はそのまま立ち上がった。
コレハ チョット ナニカガ チガウ
私はユキ先輩が好きだ。
だがこれは望んでいない。
私も一応男だ。好きな人をお姫様抱っこはしたいとは思ってもされたいと思ったことはない。
ユキ先輩、あなたって人は―――――――――
呆然とする私の体がベッドへと下ろされる。
『左足首が捻挫している。後で冷やそう』
ユキ先輩は私の気持ちを察することなく、キビキビとした様子で怪我の状態を見始める。
『それから手の怪我は?』
「えっと、右手です」
『見せて』
想い人の女性から横抱きされたショックから立ち直れないまま右手をユキ先輩に差し出す。
まじまじと私の怪我をみるユキ先輩。
『既にかさぶたになっているけど……これは何の呪文の怪我なの?』
「え、いえ。こ、これは授業の帰りに枝で手を引っ掛けて出来た傷で」
私は言葉を切って体をビクッと跳ねさせた。
ユキ先輩に強い眼光で睨まれたからだ。
『あのねぇクィリナス。私やマダム・ポンフリーを誤魔化せると思っているの?』
背中に嫌な汗が流れる。
目の前で腕を組むユキ先輩は私を睨みながら、私が自分で自分の怪我を作っているのを知っていると言った。
「うっ。何故……」
医務室に来る曜日や時間はランダムに変えていたし、怪我を作る方法も呪文や実際に壁を蹴ってみたりとバレないように注意していた。
まさかバレていたと思わなかった。
『何が何故、よ。新年度が始まってからこれだけちょこちょこ医務室に通われたら誰だって分かるわよ』
大きくため息をつくユキ先輩の前で縮こまる。
「す、すみません。あ、あの」
『謝罪も言い訳も後から聞きます。先に治療よ。何の呪文でこの切り傷を作ったのか言いなさい』
ピシャリと言うユキ先輩。
正直に言うしかない。
私が使った呪文を言うとユキ先輩が軽く杖を振った。
飛んできたのは分厚い魔法治癒学書。
『1年生で使うような呪文でもあなたのように間違った使い方をすれば大怪我をすることだってあるのよ。本来物に対して使う呪文を人体に使うのは危険であるとあなたなら分かっているでしょう?』
ページをめくるユキ先輩の前で私はひたすら謝るしかない。
呆れられてしまった。自業自得だから何を思っても今更遅いのだが、後悔の念がどっと押し寄せてきた。
『あったわ……良かった。これなら私でも治せる。今回はただの傷として治療出来るけど、呪文によっては呪いを解いてから治療しなければいけないものもあるの』
ユキ先輩が棚から薬を持ってきて患部に塗ってくれる。
手の甲に赤く走っていた傷は何もなかったように綺麗になった。
気まずい沈黙の中、足の捻挫の治療も続けられる。
徐々に引いていく足首の痛み。
『これでいいわ』
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら靴下を履いているとベッドにユキ先輩が座った。
『さて、それじゃあ自分で怪我を作っては医務室に通う理由を聞かせてもらおうかしら?』
顔を上げてユキ先輩の顔を見る。
その顔はもう怒ってはいなかった。どちらかというと私を心配している様子だった。
心の中でほっと息を吐く私にユキ先輩は話し出す。
『実はね、私もマダム・ポンフリーもここ最近あなたをとても心配していたのよ』
ユキ先輩の話を聞いて深く反省する。
ユキ先輩とマダム・ポンフリーは、私が悩み事があって自傷行為に走っているのではないかと心配していたそうなのだ。
二人は私の様子を見守りつつ、どうすべきか話し合っていたらしい。
『悩みがあるなら聞くよ。どうしたらいいか一緒に考える。もし私に話せない内容ならマダム・ポンフリーに言ってくれたら』
「い、いえ。違うんです」
ユキ先輩の言葉を遮って声を上げる。
心配して下さっている人に本当のことを言わないのは申し訳ない。
私は呆れられるのを覚悟で口を開いた。
ユキ先輩に軽蔑の眼差しを向けられるのが怖くて俯きながら話す。
悩みなんかない。ただ、ユキ先輩に会いたくて、治療してもらいたくて自傷行為を繰り返してきた―――――と。
『こ、これは予想外な答えだわ……』
嫌われるのではないか、軽蔑されるのではないかと心配していたが、ユキ先輩の反応はどちらでもなかった。
何故か寒そうに腕を摩っているだけ。
不思議な反応に首を傾げる。
『ちょっと寒くない?お茶淹れるから座って話そう』
ユキ先輩はそう言って、自分の腕を摩りながら私にクルリと背を向ける。
12月のホグワーツは寒い。
風邪などお召しにならなければいいのですが……
保健室の片隅に小さな丸いテーブルと椅子が2つ。
『マダム・ポンフリーは夜まで帰ってこないのよ。だから夕食までゆっくりしていって』
夜まで帰ってこない
その言葉に何となく胸がドキドキするのを感じながらテーブルへと移動する。
ユキ先輩が紅茶を淹れたティーカップを2つテーブルに着地させる。
ふわりと薔薇の香りが湯気から香る。
『クィリナス、あなたってホント変わってるわよね』
ユキ先輩が私のために淹れて下さったとても―――興味深い味の紅茶を味わっていると不意にそんな言葉をかけられた。
スっと冷えていく頭。
変わっている
これは個性的という意味の褒め言葉で使ったのだろうか?
いや……たぶん違う。
これは遠まわしに変な奴だと言っているのだ。
私は細かなことが気になってしまう性格と吃り癖のせいでしばしば同寮の生徒に変な奴だと陰口を叩かれていた。
「……すみません」
『クィリナス?』
私はこの性格が嫌いだ。
私は自分に自信がなく、自分を好きになることが出来ない。
こんな仕様も無い人間とは皆、恋人はおろか友人にさえなりたいと思わないだろう。
それはきっと、ユキ先輩も同じ。
急にユキ先輩の前に私のような者がいるのが申し訳なくなる。
今すぐここから消えてしまいたい。
「も、もう、こんな馬鹿な真似はしません。医務室にも来ません」
震えて吃った声が恥ずかしくて俯く。
1年生の時、ユキ先輩に憧れた私は自分なんかがユキ先輩に話しかけるのは恐れ多いと思い、遠くから見つめるだけにしていた。
憧れはやがて恋へと変わった
恋が私を変えていった
少しでもユキ先輩に近づきたい。彼女のようにいつも堂々としていたいと思い、自分なりに自分を変える努力をしてきた。
だが今の私はどうだ?ユキ先輩に会う前の自分から何か成長したところがあるだろうか?
私は何も変わっていない。
私は何の取り柄もなく、皆からは馬鹿にされる何の価値もない人間だ。
私は1年生の時にユキ先輩の意思を無視して強引に友達になった。
ユキ先輩はお優しいから何も言わないが、私なんかに友達呼ばわりされるなど、さぞや今まで迷惑だったことだろう。
きっとこの3ヶ月余り、医務室に来ていた私を鬱陶しく思われていたと思う。
「い、今まで大変ご迷惑をおかけしました。お手をわ、煩われてしまい申し訳ありません」
最後までユキ先輩の前で吃らずに喋ることが出来なかった。
情けないな
目頭が熱くなっていく
「もう、お邪魔になるようなことはしません。もう、話しかけたりもしません。これからは、以前のように遠くで見ているだけ『んん??ストップ、ストップ!!』
「えっ……」
両手を振ってユキ先輩が私の話を遮った。
驚きながらユキ先輩の顔を見つめる。
『いったい何を言っているの?話しかけてくれなきゃ困るよ』
困ったような笑顔でユキ先輩は私に笑いかけ、『前にも1度言ったはず。私はただ見られているより話しかけられた方が数倍嬉しいよ』と言葉を続けた。
『何を勘違いしているかは知らないけど、私は一度もクィリナスを邪魔だと思ったことはない』
「そ、それは……本当ですか?」
『もちろん自分で傷を作ってくる行為は感心できないよ。でもそれが私に会いに来てくれる口実作りだと聞いて正直嬉しかった、かな……』
照れを隠すようにカップに口をつけるユキ先輩。
顔が緩んでしまうのが止められない。
私の思いは一方通行ではなかった。
ユキ先輩も私のことを思ってくれている。
私に会うのを楽しみにしてくれている。
「で、では、これからも医務室に会いに来ていいですか?」
熱くなる胸。
私は勇気を出してユキ先輩に問いかける。
『自傷行為をやめると約束するならね。あ、でもそれじゃあマダム・ポンフリーに怒られてしまうね。医務室は遊び場じゃないんですよって』
別の場所で話しかけてよ。と苦笑いするユキ先輩。
私はその声を聞きながらここに来る理由を必死に考える。
上手い言い訳を考えられれば医務室にいるユキ先輩とずっと一緒にいられる。
医務室以外で話しかけるといってもユキ先輩はクィディッチのキャプテンで忙しく、寮を越えた友人も多いので常に周りに人がいて満足に話すことが出来ないのだ。
医務室に来れば遠くから見つめるだけのもどかしい思いはせずに済む。
『クィリナス?』
「私を練習台に使って下さい」
『は??』
良い案が思いつき、バンッと机に手をついて立ち上がる。
これはいけない。
驚かせてしまいましたね。
ユキ先輩の可愛らしい驚いた顔を脳裏に焼き付けながら思いついたことを言う。
「ユキ先輩は将来癒者を目指しておられるのでしょう?」
『うん。だからこうやってマダム・ポンフリーのお手伝いを……』
「それだけではあなたの能力を十分に伸ばすことが出来ません!」
『はい???』
ユキ先輩を説得するためにユキ先輩の手を取り、熱を込めて言う。
医務室に来る人の病気や怪我はたかがしれている。
癒者になるならもっと複雑なこと、呪いの解術などもしたいはずだ。
「私で良ければユキ先輩が治癒方法を勉強してみたいと思われる呪いにかかって『ちょっと落ち着こうか、クィリナス』
ユキ先輩が私に握られていない方の手を私の肩に置き、座るようにと促した。
トスンと椅子に腰掛ければ目の前には真剣な顔。
『クィリナス、私は君が傷つくのを望んでいない。私は……私は自分の為に誰かが傷つくのが一番嫌なんだ』
「ユキ先輩……」
真剣な声
『クィリナス約束して。もっと自分を大切にして欲しい。私はあなたが傷つくのを見たくない。お願い。約束して』
「や、約束、します」
『誓える?』
「誓います」
真剣な言葉
『その言葉、信じてる」
ユキ先輩の目の色に私の胸がキリリと痛む。
私を見つめる彼女の瞳は、私を通して何を見ているのだろう?
彼女の瞳に映るのは
深い悲しみと心の傷
誰にも知られたくない、知られてはいけない過去だろうか……?
『でも、練習台っていうのはいいね。包帯の巻き方を練習したかったのよ。マダム・ポンフリーには私から伝えておくから時々医務室に来てくれない?』
「は、はい、喜んで」
『もちろん、その時は怪我をしていない健康な状態で来てね。怪我していなくたって包帯は巻けるんだから』
明るい声と明るい笑顔
表の顔と裏の顔
知られたくないことは誰にだってある
秘密にしておきたいことは誰にだってある
『そうだ。私が医務室にいる日と時間帯を教えておくね』
「いえ、調べてあります。あ、念のため確認して頂けますか?」
『い、言ってみて、くれるかな?』
「月曜の放課後、火曜日は1,2時間目。水曜日はお昼休みから6時間目まで。木曜日はなし。金曜日は午前中にマダム・ポンフリーと魔法薬や治療に使う道具の在庫点検。放課後に手伝い、であっているでしょうか?」
『あっているデス……』
誰にだって隠したいことはある
私だって同寮の生徒に陰口を言われ、物を隠されることをユキ先輩に知られなくない。
嫌がる人の心を無理に開いてはいけない。
無理に開けば、その人の心の傷が広がっていくだけなのだから。
「今度行われる決闘トーナメントでユキ先輩は救護のお手伝いをされるそうですね」
『昨日話をもらったばかりなのによく知ってたね』
「好きな人のことは何でも知っていたいですからね」
『――っ!?……わ、私なんかの何が良いんだか。ホントに変な子だよ。私なんかを好きだと言うなんて……変な子。本当に、変な子ね』
照れた顔をぷいっと私から逸らすユキ先輩。
薄らと紅のさす頬が彼女の気持ちを表している。
本当はあなたの全てを知りたい。
だけど私は心無い誰かのように、無理強いをして貴方を傷つけるようなことはしません。
私はいつまででも待っています
貴女が私を信頼し、全てを打ち明けてくれる日を
『そろそろ……行こう――リナス?夕食に……ハアァまた聞いてないし』
貴女が私に全てを打ち明けてくれたその時
貴女の全ては私のものになるでしょう