第3章 小さな動物たち
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夏休みの医務室。
ダンブルドア校長、副校長のマクゴナガル、マダム・ポンフリー、魔法薬学担当のセブルス・スネイプ、そして1匹の猫が一つのベッドを囲んでいた。
「よし……3体目も上手く消えたようじゃの」
白煙が上がり空になったベッド。
4人と一匹は同時に安堵の息を吐き出す。
「ユキの顔色も心なしか良くなってきた気がするわ」
潤んだ目のマクゴナガルはそう言って、本体であるユキの頭をそっと撫でた。
石化されたユキの影分身の残りはあと一つ。
「セブルス、後を頼みますね」
医務室に1人になったスネイプはユキが眠るベッド横にある椅子に腰掛けて、ユキの手を自分の両手でそっと包みこんだ。
ユキが過去へと行くことによって新たに生じた記憶。
スネイプの頭の中には、ユキがいなかった時の初めから持っていた記憶と、新たに作られていく記憶の2つが存在している。
そして現在は、ユキが過去にいた現在へと作りかえられていた。
今、スネイプが持つユキがいた過去の記憶は5年生の春まで。
もうすぐ赤毛の幼馴染と自分の運命を分けたO.W.L.試験の最終日がやってくる。
苦悶の表情を浮かべるスネイプはユキの手を包み込む自分の手に額をつけ、目を閉じて祈る。
「無事に帰ってこい、ユキ。我輩の望みはそれだけだ……」
幼い自分と学生時代も無茶ばかりだったユキ。
スネイプの胸を嫌な予感が覆っていた。
21.決別の日 前編
聖マンゴ魔法疾患傷害病院の個室。
「世の中にはまだまだ不思議なことも多いようじゃ」
「ですが、これで何も憂うことはありませんね。良かったわ。あなたが元気になって本当に良かった」
『ありがとう、ミネルバ』
ベットで上体を起こしていたユキはマクゴナガルからギュッと抱きしめられ、胸を熱くしながら抱きしめ返した。
花が散り、若葉が芽生える時期。
ユキの後見人であるマクゴナガルと校長であるダンブルドアは病院から知らせを受け、約1ヶ月半ぶりに意識を取り戻したユキの病室へと駆けつけたのだった。
ユキは今までになく長い間眠り続けてしまったが、その分多くの記憶を取り戻すことができていた。
「そうじゃ、ユキ。久しぶりに忍の国の技を見せてくれんかのう?」
「アルバス、病み上がりのユキにそんな事頼まないで下さい。それに3日後にはO.W.L.も迫っているのです。あなたと遊んでいる暇はありませんよ」
「つまらんのぅ」
マクゴナガルとユキは子供のような校長の様子にクスクスと小さな笑みを零しながら顔を見合わせた。
ユキが思い出した記憶は任務中に妲己と出会い、1年間の準備期間を経て火影の部屋からホグワーツへ飛ぶ寸前までの記憶。
相変わらず暗部に所属していたことは伏せていたが、ユキはダンブルドアとマクゴナガルに自分のいた世界について詳しく話して聞かせた。
ダンブルドアは入学の時から警戒していたユキの言葉を初めは厳しい顔つきで聞いていたが、真実薬を飲んでもいいと言うユキの言葉に最後は表情を和らげたのだった。
ユキの方も自分がどうしてここにいるのかという1番の謎が解決され、心の憂いは全て消え去った。
病室の中の空気はとても明るい。
「分からない箇所があったらフクロウ便を頂戴。直ぐに返事を書きますから」
「儂に送ってくれても良いぞ!」
『ミネルバ、校長先生、ありがとうございます』
数時間後の2人が帰った病室。
3日後に控えたO.W.L.の勉強を影分身とともにしていたユキは教科書からふと顔をあげた。
まさか11歳まで若返らせられてホグワーツに飛ばされるとは……
それに記憶まで消されるなんてね……
ユキは自分の数奇な運命を思い、魔法で作られた偽物の景色が映った窓を見ながらフッと小さく笑った。
集中力が途切れたついでに休憩することにしたユキの病室を誰かがノックする。
「ユキちゃん、お届け物よ」
『ありがとうございます』
勉強頑張ってね、と微笑んで病室を出ていく看護師を見送ってユキは受け取った包を机の上に乗せる。
送り主は先程まで部屋に居たダンブルドア校長。
ユキは予想のつかない中身に目を瞬きながら包を開いていく。
『これは……』
嬉しさでユキの顔が綻んでいく。
包に入っていたのはユキがこの世界に身につけていた服と持ち物で、検査のためと言われ没収されたものだった。
没収される時に上手いこと隠すことの出来た苦無以外は今までずっとダンブルドアの手元にあったのだ。
『嬉しい……』
ユキは数年ぶりに手元に戻った元の世界のものを胸に抱きしめた。
忍装束や道具が手元に戻ったから嬉しいのではない。ダンブルドアが自分の事を信用してくれたと分かったから嬉しかったのだ。
この世界に来たきっかけも分かった今、ユキは魔法の世界に自分が受け入れられたと感じていた。
学校に戻ったらセブとリリーにも話をしたい。
二人の親友にもようやく秘密を打ち明けられる――――――
『あっ……』
ユキは突然目眩を感じ、表情を引き攣らせた。
『……病み上がりで体力が戻っていないのね』
また意識を失うのではと一瞬ヒヤッとしたユキだが目眩は徐々に収まっていく。
もう思い出す記憶はない。体が本調子に戻っていないだけだ。
ユキはそう考えて気を取り直し、影分身に顔を向ける。
『区切りのいい箇所の分身はいる?疲れたから1体消したいの』
ユキは手を上げた影分身を消し去り、勉強を再開するために羽ペンを握る。
そういえば、妲己に託された手紙はどこにいったのだろうか……
インク壺に羽ペンを突っ込んだままユキの手が止まる。
ユキの心の中に、気になることが一つあった。
妲己からサラザール・スリザリンに渡すように言われていた手紙。
この手紙はユキの持ち物にはなかった。
あれはどこにいったのだろう?
ユキにホグワーツは国だと言っていた妲己。
その上サラザール・スリザリンは何百年も前に死んでいる。
妖怪は気まぐれで適当なもの。スリザリンはこの世にいないのだから手紙を渡す必要もないし、手紙のことなんて気にすることないよね……
考えても分からないことは考えないでおこう。
今は癒者になるためにO.W.L.の勉強をしないといけない。
『よし!勉強しよう』
ユキは心のモヤモヤを無理矢理振り払って羊皮紙に羽ペンを走らせる。
手紙を託された時に妲己に強制的に見せられた映像。
大人になったスネイプ、ルーピン、ブラックたちの死に際。
その時までに力をつけて彼らを助ける術を身につけたい。
セブのことは私が守るんだ――――
赤い血の中に倒れるスネイプの姿
ユキは親友の悲惨な最後を脳裏に浮かべ、必ず自分がその運命を防いでみせると心に強く誓った。
***
2週間に渡る試験期間の1日目。
将来の仕事に影響する重要な試験だけあってO.W.L.を受ける5年生にはピリピリした空気が漂っている。
7年生にもN.E.W.T.の試験があるのだが、7年生は既に就職が決まっている者も多いので他の学年の者と雰囲気はそう変わらない。
大事な試験を控える5年生の大部分は早めに大広間に入っているのだが例外もいた。
『レギュラス』
「ユキ先輩!?」
思わぬ人物に声をかけられたレギュラスは驚きの声をあげる。
寮を出たレギュラスに声をかけたのは自寮クィディッチチームのキャプテンであり、彼が密かに好意を抱いているユキ。
レギュラスと同様に驚くスリザリン生。
ユキは自寮の生徒の驚く声や心配する声、退院おめでとうといった喜びの声に応えながらレギュラスのもとへ歩み寄っていく。
『アハハ。レギュラスったら驚き過ぎて変な顔になってる』
「いつ退院したんですか!?」
いつもなら嫌味の一つでも返しているところだが、今のレギュラスにそんな余裕はない。
ホグズミード村に行く前にユキと会話をしていたレギュラスはユキが倒れた事を知ってとてもショックを受けていた。
故に意識が戻らないユキを心配しながら日々過ごしてきたレギュラスの驚きは相当なものだった。
『ふえ。にゃにするの……』
突然レギュラスに両頬を引っ張られたユキが眉を寄せる。
「ユキ先輩も僕とお揃いで変な顔にしたんです」
ムスっとした声を出してはいるが表情からは嬉しさを隠しきれないレギュラス。
しかし鈍感なユキは気づかない。『酷いなぁ』と相変わらず自分に手厳しい後輩を前に頬を膨らませるだけだった。
『痛てて……」
「で、いつ退院されたんですか?」
体調は?病院に戻らずに学校にいられますか?など聞きたいことは沢山あるレギュラスだったが、その気持ちを押さえて先ほどと同じ質問をする。
『今朝最後の検診を終えてホグワーツに戻ったばかりなの。レギュラスは初めの試験場所は何?私は大広間に行かないといけないんだけど……』
「初めは変身術です。ロビーまで一緒に行きましょう」
レギュラスは階段を上りながら横を歩くユキの顔色をチラと見た。
倒れる前と変わらないように見えるけど、ユキ先輩はああ見えて秘密主義だからな……
ユキは周りから裏表のない子供っぽい人物だと思われている。
しかし、レギュラスはスポーツという人間の本性が出やすい状況でユキと接する中で他の生徒とは違った印象をユキに抱いていた。
試合中に怪我をしても試合終了までは決して痛みを顔に出さない。
(というかいつも医務室に向かうのを見て怪我していたことを知る)
闇の魔術について話している時に闇の魔術とは距離を置いている生徒が談話室にやってきたら話をサッと変える、など。
レギュラスはユキがいつも口元に微笑みを作りながらも黒い瞳で絶え間なく周囲を注視していることを知っていた。
無邪気に見えて本心は分からない。
普通の者なら腹の底の分からない相手など煙たがるものだが、レギュラスは逆にユキのそんなところに魅力を感じていて、ユキに益々惹かれていっていた。
『5月のレイブンクロー戦はどうだった?』
「勝ちましたよ」
『良かった。目が覚めてからこればっかり気にしていたのよ』
ほっと息を吐き出すユキの横でレギュラスは複雑だった。
レギュラスがセブルスから聞いた話ではユキは何の前触れもなく突然意識を失ったということだった。
ユキは今までにも2回意識を失って倒れており原因は分かっていない。
レギュラスは箒に乗っている時に気を失うことを想像してゾッと背筋を寒くさせた。
『今年のクィディッチ優勝カップは頂きね。もちろん私がキャプテンになるんだから来年度も再来年度も優勝は渡さないわ』
「ですがユキ先輩、体調はどうなんですか?気絶した原因は分かったんですか?」
不安そうな顔をするレギュラスを見たユキは彼にニッコリと笑いかける。
『はっきりとは言えないけどコレだっていう原因は分かっているの。それにね、気を失うのも今回ので最後。これからは何の憂いもなくクィディッチを楽しめるわ』
「……それって今までは空中で気を失って地面に叩きつけられるリスクがあったって事ですか?」
痛いところを突っ込まれたユキの笑顔がピシリと固まる。
『あー……見て、大変。大広間に5年生全員が入るから机がいっぱい。試験開始までに自分の席を見つけないと。じゃあね、レギュラス!』
「まだ話は終わって……ったくあの人は……」
レギュラスに睨まれたユキは話を打ち切って足早に大広間へと入っていってしまう。
「ハアァやっぱりユキ先輩は馬鹿だ」
ユキの背中を見送りながらレギュラスが溜息をつく。
試験期間が終わったら“はっきりとは言えないけどコレだっていう原因”というやつを聞かせてもらいますからね。
話を聞くまでは箒に触れさせないと心に決めて、レギュラスは変身術教室へと続く階段を上っていった。
そして一方のユキ。
彼女は大広間にいる5年生全員の注目を浴びることになる。
「わーお!見ろよ!俺たちのライバルの復活だ!」
静かな大広間に弾んだジェームズの声が響き、5年生が一斉に入口を振り返った。
「ユキ!良かった」
「よお!元気そうじゃねぇかっ」
忍という性質上、誰かから注目を浴びることに強い抵抗を感じるユキは予想だにせず自分に視線が集まってピシリと固まった。
そんな彼女のもとへと一番に走って行ったのはリーマスとシリウスだ。
「心配させやがって」
『うわあっシリウスやめて~~っ』
ユキが戻ってきて嬉しいシリウスが照れを隠すようにユキの頭をワシワシと撫で付ける。
「ユキは病み上がりなんだから乱暴しちゃダメだよ。それに、ほら。髪の毛がグシャグシャになってしまったじゃないか。動かないで。直してあげる」
『ありがとう、リーマス』
髪の毛をリーマスに手櫛で梳いてもらって顔を綻ばせるユキとその様子を面白くなさそうな顔で見るシリウス。
同じ女の子を好きになったに親友二人をニマニマと楽しそうに眺めていたジェームズだったが、目の端に赤い髪を捉えて勢いよく立ち上がった。
「リリー!僕に『用はないわよ、ポッター。ユキ!久しぶりね!!』
1ヶ月半ぶりに会う親友との再会を喜ぶリリーの目にはジェームズは映っていない。
走ってきてそのままユキに抱きついた。
「心配していたんだからね」
リリーの涙声にユキは胸を熱くする。
ユキは自分の事を心から心配してくれている親友に言葉が見つからず、只々ギュッと抱きしめ返した。
「マクゴナガル教授からユキの意識が戻ったって聞いて安心していたけど、こうやって今学期中に会えて嬉しいわ」
「僕たち、今年度中にユキが戻ってくるのは難しいかもって聞いていたんだよ」
友達ってなんて素敵なんだろう。
ユキは一人一人の顔を見ながら胸を熱くする。
『私もみんなに会えて嬉しい。夏休みになったらみんなで遊ぼう』
「そうだな。夏休みになったら俺の家出先に遊びに来いよ」
『は?家出先?』
シリウスの言葉にユキは目を瞬く。
「要するに、僕の家にリリーと一緒に遊びにおいでっていうことさ」
にやっと笑うジェームズにユキは白い目を向ける。
『ジェームズが私を餌にリリーを釣ろうとしている』
「僕はリリーとの仲を深めるためだったら何だって利用するよ」
「私の親友を“利用”だなんていい度胸ね、ポッター」
リリーに睨まれてオロオロと弁明するジェームズ。
ユキはふと暗部時代の記憶を思い出し、この平和な時間が長く続けばいいと願った――――――
『それじゃあ後でね』
「えぇ。試験頑張りましょうね」
ユキはリリー達から離れて等間隔に並べられた机と机の間の通路を歩いていく。
肩まで伸びた少しウェーブのがかった黒い髪。
ドキン ドキン ドキン
自然と早くなっていくユキの心臓。
ユキは息を軽く吐き出して心を落ち着けてから、静かに教科書のページをめくるその少年の机の前に立った。
『セブ、久しぶり』
「久しぶりだな、ユキ」
ユキが大広間に入ってきた時に周囲がざわついたのでセブルスもユキがやってきたのは知っていた。
彼もまた、リリーやリーマス、シリウスと同じようにユキの退院を喜んでいた。
しかし、彼の性格からしてグリフィンドール生に混じりに行くことは出来なかった。
速る気持ちを押さえてじっとユキが来るのを待っていたのだ。
「いつ退院したんだ?」
『今朝退院してきたとこ』
「O.W.L.試験初日に退院とは大変だな。体も心配だが、試験の方は大丈夫なのか?」
『元気一杯だよ。それに退院までに3日間あったから勉強できたし、癒者になるのに必要なだけの科目で優判定は取れるはず』
「……ユキ、今ので5年生全員を敵に回したぞ?」
『あれ?なんで?』
殺気立った周囲の視線をものともせずに自分に首をコテンと傾けて不思議そうな顔をするユキを見て、セブルスはユキのいる日常が戻ってきたと感じ表情を緩める。
「ほら、席に着け。試験官も来たみたいだ」
魔法省の魔法試験局から派遣された試験官たちが観音開きの扉から大広間に入ってきた。
『そうだセブ、試験が上手くいくようにこれをあげる』
ユキは早口で言って、ローブのポケットから人型の紙を取り出しセブルスに渡した。
「これは何だ?」
人型の紙にはうねうねとした見たことのない文字が書かれておりセブルスの眉根は自然と寄っていく。
『セブったら気味悪いって思っているでしょ。それはお守りなんだから捨てないでよね。私が作ったの。ポケットにでも入れておいて」
じゃあ試験後にね、と手を挙げてユキはセブルスの3つ前の席へと歩いて行く。
<羽ペンとインク壺以外のものはしまって下さい>
ソノーラスで試験官が生徒たちに呼びかける。
人型の札からじんわりと伝わる熱。
「相変わらず面白い奴」
これはどういった仕組みの魔法具なのだろう?
そういえば前にオリジナルの魔法具を作りたいと言っていたな。
試験が終わったらゆっくり話を聞いてみよう―――――――
セブルスは守りの護符を入れたポケットを上から優しく叩き、口元に笑みを浮かべた。
***
2週間続く試験期間も明日を残すのみになった。
「私は寮に戻るわ。セブはまだいる?」
「あぁ。あと少しやっていく。先に戻ってくれ」
「わかったわ。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
セブルスはリリーの後ろ姿から『四精霊とその住処』の本へと視線を戻した。
長い試験期間も明日の闇の魔術に対する防衛術と魔法薬学で終わりだ。
1時間が過ぎ、就寝時間が迫った図書館からは生徒が一人、また一人と荷物を片付けて寮へと戻っていく。
気になっていた箇所を調べ終えたセブルスも本を閉じて図書館から出て行った。
『セブ』
地下への階段を下り切ったセブルスは暗い廊下に目を凝らす。
「……ユキか?」
『うん』
ユキは薄暗い廊下で寮の入口に立っていた。
セブルスの顔はユキに近づくにつれて段々と険しくなっていく。
「こんなところで何をしているんだ!?顔が真っ青じゃないか!」
『うわあっビックリするじゃん』
唇を尖らせて抗議するユキの手首をセブルスが掴む。
「さっさと部屋に戻って布団に入れ。また倒れたらどうするつもりだ!」
『もう倒れないよ』
「顔に血の気がなくてこんなに手が冷たくなっているのにか??その自信がどこからくるか教えて欲しいものだ」
暖かい寮へとユキを引っ張って行こうとするセブルスだが、足を踏ん張っているユキの体は動かない。
『セブと話がしたくて待ってたんだ』
セブルスが振り返ると困ったように眉を下げるユキの顔があった。
「……談話室じゃダメなのか?」
『中はまだ人がいるから』
真剣な眼差しに、セブルスはユキを引っ張るのをやめてユキの手首から手を離した。
ユキが自分に大事なことを打ち明けようとしている。
何となく、セブルスはそう感づいた。
緊張と心の高揚を感じるセブルスの前で、ユキは意を決するように一つ息を吐き出し、口を開く。
『ちょっとおかしな話だから、この話でセブが余計な事考えて試験に集中できなかったら悪いと思って話せなかったんだけど、明日はセブの得意科目だけだから大丈夫かと思って……』
セブが話を信じてくれなかったらどうしよう……。
緊張で揺れていたユキの瞳がピタリと止まる。
鋭い光を帯びた漆黒の瞳が見つめるのは閉じられている石でできた寮の入口。
『やっぱり明日にしてもいい?その方がゆっくり時間も取れるし。それからリリーも一緒でいいかな?彼女にも話そうと思っていたから……』
「僕は構わない」
『良かった。それじゃあ試験が終わった後、湖の大きなブナの木の下に行こう。あそこなら誰にも邪魔されない』
『リリーには私から伝えておく』とユキが言い終わるのとほぼ同時に石の扉が開く。
「あっ!ユキったらこんなところにいたのね!」
『ガーベラまだ寝ていなかったの?』
「明日の魔法薬学の勉強で寝てる暇なんかないわ。分からない箇所が沢山あるのよ。助けてちょうだい!」
寮から出てきたのはユキの同室、ガーベラ・パーキンソンだった。
ガーベラと話している間に他の生徒もやってくる。
「キャプテンこんなところにいたんですね!勉強教えてくださいっ」
「ユキ先輩!試験の山張ってください」
「6年生の変身術、ユキなら分かるよな??」
ユキはガーベラに寮の中へと引っ張られながらセブルスを振り返り、大好きな彼に微笑みを向ける。
『(おやすみ、セブ)』
「(おやすみ、ユキ)」
声を出さない会話。
返事を返したセブルスを見て、血色の悪かったユキの顔がほのかに上気する。
そんなユキに、セブルスは優しく微笑む。
交わる二人の視線
この時のふたりの気持ちは 同じだった