第3章 小さな動物たち
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『セブ身長伸びたね』
「そうか?」
『うん。前はそんなに私と変わらなかったのに……セブから男を感じるよ』
「!?変な言い方するなよっ」
『??何が変なの?教え「煩いッ」……』
なぜ急に怒ってしまったのだろう?
プイッとしてズンズンと先を歩いていくセブの背中を見ながら首を傾げる。
心を無くせ、と教えられてきた私はコミュニケーション能力が他の人よりもかなり低い。
それは残念なことに、5年生になった今でもあまり変わっていないらしい。
18.黒狐の読心
木曜日……じゃなくて金曜日の午前3時。
私はベッドから身を起こしてピョンと床に足を着く。
ローブを羽織りながら向かうのは数歩先のシリウスのベッド。
相変わらず私の目はいい。
暗い中でもシリウスの顔がハッキリ見える。
寝顔でも整っている顔を崩したくて私はシリウスの鼻をキュッと摘んだ。
『仮眠終了ですよ~』
ふがふが鼻を鳴らすシリウスをクスクス笑っていると眉間に思いっきり皺を寄せながらシリウスが目を開けた。
「お前、もっとマシな起こし方しろよな」
顔は顰めているが怒ってはいないらしい。
だが、起きる気もないらしい。
シリウスは低く唸りながら寝返りを打って私に背中を向けてしまう。
『起きなさい、シリウス』
「まだフィルチは起きてこないんだろ?頼む。あと1時間寝かせてくれ」
『あと1時間寝たって眠いのはきっと変わらないよ。頑張って起きて寮で2度寝した方がいい。さあ、起きて』
強制的に起こしてやろうと布団を剥がそうとするが剥がれない。
シリウスが布団の中で頑張っているようだ。
毎度毎度シリウスを起こすのは一苦労。
私はハアァと溜息をついて次の作戦に移る。
今日はくすぐりでいこう。
「っぷはっ!や、やめろっ、アハハくすぐったい」
横から布団の中に手を突っ込んでシリウスの脇腹あたりをくすぐってやる。
ヒーヒー言いながら笑うシリウスに『起きないと止めないから』と脅しをかける。
「ユキ、ぷっふはは、腹筋痛いって。タイムだ。ハハ、待てって」
『タイムなんてなし!起きるって言いなさい』
「わ、わーったよ。起きる、起きるからやめてくれ!」
私はシリウスの言葉を聞いてパッと手を離す。
ゼェゼェ荒い息を繰り返しながら上体を起こしたシリウスの目はパッチリと開いている。笑って眠気は消し飛んだみたい。
朝のひと仕事完了だ。
来週のためにお菓子のストックを確認しておこうとベッドに背を向けた私の手が後ろから握られる。
何か用?と振り向きざまに言おうとした私の声は声にならなかった。
グイっと手を引っ張られたと思ったら気づいたときにはベッドの上。
温かいと思ったら、シリウスの腕の中。
私は今、シリウスに抱きしめられながらベッドに横たわっている。
『シリウ「黙ってろ」
耳元で響く低い声。
ビクッと体を跳ねさせる私の耳元に小さな笑い声が聞こえてくる。
『ユキの心臓の音、スゲー早ぇな』
でも、シリウスの方が早いよ。とは黙っていろと言われたので言えなかった。
その代わり何度か頷いておく。
するとシリウスはそれを合図にするかのように私の頭を撫で始めた。
心地いいな……
布団の温かさとシリウスの体温、優しく撫でられる頭。
ダメだと分かっているのにウトウトし始めてしまう。
本当は私だってシリウスに負けないくらい眠い。
特に髪と目の色が変わってからの私は疲れやすく、眠くなりやすくなっていた。
忍たるもの、いついかなる時も、たとえ寝ている時であっても気を抜いてはいけない。
特に気をつけなければならないのは意識を失う睡眠時。
私は長年の習慣から、寮の部屋にいる時も同室の子がギシリとベッドを鳴らすたびに目を覚ましていた。
誰かが近くにいると(そうでなくても眠りは浅いけど)安眠できない。
ホグワーツに来てからの私は万年寝不足だ。
「ユキ……は……俺、ずっと……」
シリウスの声が遠くから聞こえてくる。
誰かに抱きしめられている状態で寝るなんてとんでもない。と頭では分かっているのに私はズルズルと夢の中に引き込まれていく。
シリウスは情が厚く、友達を大事にする人だ。
だから少しだけ……
彼を信用して、少しだけこのまま寝てもいいだろうか……
「……ユキ……ユキ……」
私が人を信用する日がくるなんてね……
私は自分を小さく笑って、夢の中に落ちていった。
『……しまった』
鳥の声で目を覚ました私は固まっていた。
今、何時!?
『シリウス、起きて。起きて、起きて!』
顔がサーっと青くなるのを感じながら私を抱き抱えているシリウスの腕の中で暴れる。
うーん、と眠たそうな声を出しながらシリウスが目を開けた。
「あ?ユキ……うわっ!あの、その、俺……」
『時計はどこ??』
動きの鈍いシリウスの体の下に手を入れてポイッと横にどかす。
「っ!?馬鹿力!」
『うっさい』
起き上がり、ローブのポケットに入っている時計を取り出し時間を確認する。
『6時……』
寝過ごした。
「なんだよ。まだ6時かよ」
『もう6時よ!』
頭をくらっとさせているとシリウスがボソッと呟いた。
振り返り、能天気なシリウスを睨みつける。
『練習をするクィディッチの選手、早起きの先生や生徒が食堂で朝食を食べている時間よ』
時間が経つにつれて人がどんどん増えてきてしまう。
『さっさと起きて。帰るよ、シリウス』
「おう……(コイツ、一緒に寝たこと何とも思ってないのか!?)」
どこか心ここにあらずといったシリウスを急かしてテントを出る。
タペストリーを潜って、甲冑が並ぶ廊下を走り、フリットウィック教授の私室の前を足早に通り過ぎる。順調、順調……
今いる監督生とクィディッチキャプテンのためのバスルームがある廊下を抜けて階段を下りればグリフィンドール寮がある階段に出られる。
朝練を終えたクィディッチのキャプテンがバスルームを使うとしてももう少し後のはずだ。だからこの廊下にも人はいないはず。
このまま誰にも見つからずにみんなの中に紛れられたらいいが……
「なあ、ユキ……今日のことなんだけど」
『なあに?』
話しかけてきたシリウスを見上げていた私の目が大きく開かれる。
急に数メートル先のドアノブからガチャリと音がした。
私は左右を見渡し、シリウスの腕を引っ張って、大きな石像の後ろに身を隠す。
私たちが身を隠したのとほぼ同時に開く扉。
開いたのは男子監督生とキャプテン用のバスルーム。
「あいつ……」
横で呟くシリウスに目で黙るように忠告し、視線をバスルームの扉に戻す。
ちゃんと時間通りに寮に帰るべきだった。
私は前を見据えながらギリリと奥歯を噛み締める。
セブはいったい何をしていたの……?
バスルームからまず出てきたのはスリザリンの監督生。そしてホグワーツでもあの方の信奉者として有名な生徒たちが次々と姿を現したのだ。
チラと視線を横に動かす。
嫌悪の表情を浮かべるシリウス。
この状況、適当な嘘では誤魔化しきれない。
シリウスはこのことについて激しくセブを追求するだろう。
でも、お願いだから今はやめて。
「ぐっ……」
自分たちの姿をみたシリウスをヴォルデモート卿の信奉者の彼らが放っておくはずがなかったし、私も彼らに見つかりたくはなかった。
石像の裏から飛び出そうとするシリウスを壁に押し付け口を塞ぐ。
シリウスから小さな声が漏れてしまい心の中で舌打ちする。
ピタッと足を止め、振り返ったセブ。
背中に伝う冷や汗。息を殺して、ジッとこちらを見つめるセブが早く向こうに行くことを祈る。
「どうした、スネイプ」
「いえ。なんでもありません」
小さくなっていく足音。
私は安堵の息を吐き出してシリウスから手を離す。
よかった……気づかずに行ってくれた。
「なんで止めたんだよ!」
『声が大きいよ。それに止めるのは当然でしょ。シリウスこそ何を考えて飛び出そうとしたのよ』
「あの場で追求したほうが後でシラを切られずに済むだろッ」
立ち上がり、ローブから杖を出して廊下に出るシリウスに呆れて溜息しか出ない。
相手も杖を持っているとは思わないのだろうか?
5,6人の上級生相手にシリウス一人で勝てるわけがない。
頭を痛めながら廊下をズンズンと歩いていくシリウスを追いかけようとした私だが、直ぐに石像の裏に引っ込んだ。
廊下の端から現れた人影が一つ。
「よお、スニベリー」
「いつからここにいた、ブラック」
こんな冷たいセブの声は聞いたことがなかった。
私には見せない嫌悪と憎悪の顔でシリウスを睨むセブ。
彼らの間に漂う殺気に私の気が張り詰める。
出来ればセブの前に姿は現したくない。
それでも万が一の場合に備えて杖を握っておく。
セブは、シリウスは、どう動くつもりだろう……?
「尋問するのはお前じゃない。俺の方だ」
「煩い。黙れブラック。何を見たか答えろ」
「何を見た?決まってんだろ。お前たちがコソコソと悪巧みしてること全部だよッ」
さっそく始まってしまった。
シリウスが喋り終えたのとほぼ同時にセブが失神呪文を唱えた。
プロテゴで防いだシリウスも反撃に出る。
私は石像の後ろで杖を構えながらシリウスを止められなかったことを後悔していた。
初めは授業で使う程度の呪文だったが、次第に呪文は当たればただでは済まないような強力なものへと変わっていってしまう。
「ディフィンド」
「スティンギング ジンクス」
激しい呪文の打ち合い。
今出て行っても私の魔法の腕では2人の呪文を同時に止めることは出来ない。
むしろ私が出ていくことで打ち合いのタイミングがずれてどちらかが呪文を受けてしまうかもしれない。
互角に見える2人の魔法の腕。
教師か生徒、ゴーストでもいい。誰でもいいからこの廊下に来てくれれば二人は打ち合いをやめるのに……
何点減点されたっていい。どちらかが怪我をする前に誰か騒ぎに気づいて―――
「セクタムセンプラ!」
一際鋭い声で放たれた呪文。
私は飛び出そうとする自分の体を必死に抑えた。
スローモーションのように倒れていくシリウスの体。
床に倒れるシリウスはピクリとも動かない。
早く立ち去って頂戴。
ジリジリとセブが立ち去るのを待っていると、彼はシリウスを冷たく一瞥してから廊下の端へと消えていく。
『シリウス!』
石像の陰から出た私は、強く唇を噛みながらシリウスの横にしゃがみこむ。
白い大理石の床に広がっていく血。
『ごめんなさい。ごめんなさい、シリウス』
震える声で謝りながら俯けに倒れていたシリウスを仰向けにし、苦無を取り出してシリウスの衣服を裂いた。
体のあちこちに傷が走り、血が噴き出している。
こんな呪文知らない。セブは何の呪文を唱えたの??
ただの切り傷だろうか?
体が毒されている可能性は?
『とにかく止血をしなくては……』
シリウスの体の上に両手を置く。
体が切り裂き続けている!?
厄介な呪文。だが、私は木ノ葉の里で医術を学んできた。
『直ぐに治すからね』
慎重に体の中を探り、魔力を送って細胞を活性化させ、傷口を内側から塞いでいく。
『すまない、シリウス。直ぐにマダム・ポンフリーのところに連れて行くわ』
意識のない彼に話しかけ、背中に背負う。
私に出来ることは止血まで。増血の魔法はないから医務室に行ってマダム・ポンフリーに薬を処方してもらうしかない。
大理石を赤く染めた血を消し去り、私は廊下を急ぐ。
『ハァハァ、マダム、いますか??』
朝早い時間だったため幸運にも誰とも会うことなくやってこられた私は医務室の扉を勢いよく開ける。
まだ朝日は昇っておらず医務室は暗い。
取り敢えずシリウスをベッドに寝かせよう。
近くのベッドにシリウスを寝かせた私は物音に体をビクッと跳ねさせた。
「ユキなのかい?」
声をかけてきたのはよく知った人物。
「どうかしたの『手伝って!お願い!!』
縋るように叫ぶ私の方にリーマスがランタンに火を入れて急いでやってくる。
「シリウス!?」
ランタンの灯りがシリウスを照らした瞬間、リーマスが息を飲んだ。
当然だ。シリウスの顔には血の気がなく、裸の体にはいく筋もの傷が走っている。
『私はシリウスの治療を続けるからマダム・ポンフリーを呼んできて欲しいの』
「わかった。直ぐに呼んでくる」
頷いたリーマスが医務室から出ていこうと足を踏み出そうとした時、小さな呻き声がシリウスから漏れた。
シリウスの顔を覗き込む私とリーマス。
『シリウス、私の顔が見える?』
「ここは医務室だ。マダム・ポンフリーを呼んでくるから安心してくれ」
「ダメ……だ」
『何がダメなの?』
うわ言だろうか、それとも頭が錯乱しているのだろうか。
リーマスと顔を見合わせる。
何かを訴えるようなシリウスの目。
私たちはシリウスの言葉を聞き取ろうと耳を寄せる。
「行くな。マダム・ポンフリーに……知らせないで、くれ」
掠れた声で言うシリウス。
冗談じゃない。彼の言う通りにするわけにはいかない。
『……シリウス、よく聞いてね。傷口は塞げたけど、私はあなたが受けた呪文が分からなかったの。ちゃんと専門家に診てもらったほうがいい。後から呪文が効いてくる魔法だったら困る』
「そうだよ。ユキの言う通りだ。後遺症が残ったらどうするんだい?」
私の言葉にリーマスも同意してくれる。
リーマスに『マダム・ポンフリーのところへ行って』と促そうとしたらシリウスが私の手を握った。
「このことは誰にも知られたくない。マダム・ポンフリーには知らせないでくれ」
『何を言うの?馬鹿言わないで』
セクタムセンプラがどんな種類の呪文なのか分からない。
解術したつもりだが、念の為に魔法疾患に詳しい人に診てもらった方が安心だ。
しかし、どんなに言い聞かせてもシリウスは理解しようとしない。
治療は1分1秒が大事。
私はイライラしながら首を振った。
『もういいわ。苦情なら後で聞く。リーマス、マダム・ポンフリーを呼びに行って』
「っ待て、リーマス。お前なら、俺の気持ちが分かるだろ?」
縋るように言うシリウス。
私とシリウスに見つめられたリーマスは眉を潜める。
『リーマス?』
何を迷う必要があるの?
困惑しながらリーマスを見つめていると、彼は暫く押し黙った後、長い溜息を吐き出した。
リーマスが見つめるのは私。
「シリウスのしたいようにさせてあげてくれないかな?」
『リーマス!?あなたまで何を言っているの!?』
眉を顰め、シリウスとリーマスの顔を交互に見る。
「ユキ、頼む」
シリウスが握っている私の手を引き止めるようにギュッと握った。
どうして……?
私は弱々しく握られた手に視線を落とす。
怪我を治せなくなるリスクを冒してまで貫くべき思いなどあるのだろうか?
完全に私の理解を越えている。
大きく舌打ちして天を仰ぐ。
「ユキ、待ってくれっ」
握られた手を解き、歩き出した私をシリウスが呼び止める。
顔だけ振り向けば上体を起こしたシリウスの姿。
『貧血なんだから急に動かないで』
「ユキ……」
『……薬棚に増血薬がないか探してくる』
『大人しく寝ていて』と、私はシリウスを睨む。
「ありがとな」
ホッとしたように笑うシリウス。
私はそんな彼に背を向けて、薬棚へと歩いて行った。
***
話がある、と呼び出された私はリリーと一緒に湖の周りを歩いている。
ハラハラと落ちてくる赤い落ち葉を手で弄びながらリリーと取り留めもない会話。
私は陸と湖の間ギリギリを慎重に歩きながらチラッとリリーの様子をうかがう。
嫌な予感がするな……
言いたいことは割とハッキリ言ってくれるタイプのリリーが話すのに勇気がいる話題など少ない。
余程言い出しにくいことらしい。
そして、それは多分あの事だ。
こういう時って、何て言えばいいんだろう?
湖を半周ほど歩いたところで私は足を止めた。
『最近のリリーがセブを見る目、前と変わったね』
リリーがピタッと立ち止まった。
他の子のように気の効いた言い方が出来たら良かったのにな。
固い顔で振り返るリリーに申し訳ない気持ちになる。
そう考えているとリリーの顔がくしゃっと崩れた。
「私、心配で……私……」
『大丈夫。深呼吸して、リリー』
今にも泣き出しそうなリリーに微笑みかける。
随分思いつめてしまっていたみたい。
『私もセブのこと気になってたんだ。落ち着いて、そこの丸太に座って話そうよ』
「……そうね。ありがとう」
私はリリーを促し、重い空気を纏う彼女の横に腰掛ける。
「セブのことが心配なのよ……」
私は辛そうに顔を歪める彼女の背中を摩る。
リリーはセブが“例のあの人”の信奉者と親しくしているのが心配だという事、たまたま図書室で見かけた時に明らかに闇の魔術に関する書物を読んでいたこと、ポッター達とやり合っている時に人を傷つける呪文を使った事を話してくれた。
「いくら“ああいう人たち”と付き合うのは良くないって言ってもセブは聞いてくれないの。私、いつかセブが誰かを傷つけるような人になってしまわないか心配だわ」
辛そうに手で顔を覆うリリーは随分参ってしまっているようだ。
大事な幼馴染を良くない世界から守りたい。
そんな彼女の優しい心と正義感に私は胸を痛くする。
思い出すのはつい先日の事。
シリウスとの秘密のアニメーガス特訓の帰りに私たちは例のあの人の信奉者達とセブが監督生用バスルームから出てくるのを目撃したのだ。
一人私たちが隠れていた廊下へと戻ってきたセブ。
何をしていたのか問い詰めるためにセブの前に姿を現したシリウスとの間で呪いの掛け合いが始まってしまった。
私は2人を止めに入るべきだった。
しかし、私はそうはしなかった。
ごめんなさいシリウス。
謝っても謝りきれない。
あの時、頭の中で出て行かない言い訳を並べ立てていたが、本心はセブに嫌われたくなかったから出て行かなかったのではないか、と今では思う。
自分の感情を優先させたからシリウスをあんな目に合わせてしまった……
「この話はリリーには言うなよ」
『わかってるよ。十分に気をつける』
セブ、リリー、そして私。
1年生の時からいつも一緒にいた私たち。
勉強も遊びも三人一緒。
でも、闇の魔術だけは違う。
これについて話せるのはセブと私の間だけ。
私はそれが嬉しかった。
でも、私は“私とセブだけの共通の何か”を大事にし過ぎた。
あの場に飛び出していくことで、セブとの関係が崩れてしまうことを恐れた。
それにシリウスがセブの呪文で大怪我をするまで、闇の魔術を自分の基準で見てしまっていた事に気がついた。
この世界は平和な世界
戦う必要などない世界
闇の魔術に興味を持つということは、誰かを傷つけたいと言っているようなもの。
闇の魔術は忌むべきものなのだ。
私はセブの闇の魔術を止めることが出来なかったことを、そのせいでシリウスが大怪我してしまったことをとても悔やんでいた。
『セブに話をするよ。これ以上深入りする前に、私もセブを止めたい』
この世界は平和な世界
戦う必要などない世界
セブに私が見てきたような血みどろの世界を見せたくない。
ずっと温かく、優しい、この世界の住人でいて欲しい。
好きな人には幸せでいて欲しい。
強く思いながら膝の上で組んだ手をギュッと握り締めているとふわりと風がきた。
目の前で赤い髪が揺れる。
あ……リリーが眩しい……
「ありがとう。ありがとう、ユキ」
私を抱きしめるリリーの背中にそっと自分の手を回す。
好きな人を悲しませちゃダメだよ、セブ。
『頑張って説得するから安心して、リリー。セブは私にとって大事な人だもの』
闇の世界なんかに連れて行かない。
私から体を離したリリーを安心させるように微笑むとリリーは何故か目をパチパチして私をジーッと見つめた。
ん?なんだろう??
『リリー?』
「ねえ質問していい?大事ってどのくらい?」
突然のリリーの質問に私も目をパチパチ。
『どのくらいって?』
「うーん、タイム。ユキにこの聞き方はまずかったわね。言い方を変えるわ。セブの近くにいると心臓がドキドキすることってある?」
『ある』
どうしたのだろう?と思いながら即答。
「じゃあ、自然とセブを目で追っちゃう時は?無意識のうちにセブの事を考えていたってことある?」
変な質問。
いよいよ理由が分からなくなりながらもコクンと頷いてみせる。
すると、リリーから歓声が上がった。
「驚いたわ。ユキはセブが好きなのね!」
『なんで分かっ……っ!』
しまった!
顔をパアァと明るくさせたリリーの前で顔を紅潮させる。
口を滑らせてしまうなんて……私の馬鹿!
「フフ、これは今後が楽しみね。私も協力するわ」
『協力!?あ、待ってリリー!な、何を企んでるの!?』
「おっしえなーーい」
『リリー!?!?』
あああぁ最近の私はどうしてしまったの!?
前だったらこんなうっかり決してしなかったのに!
『リリー、誤解だからね!私は男女交際に興味なんてないからね!』
「それじゃあセブが好きだってことは否定しないのね!」
『リリー!!』
私はセブが好き。
だが、恋人関係になりたいとかそういったことは思っていない。
ただ彼のそばで、彼の幸せのお手伝いがしたいだけ。
セブに私が彼を好きだということを知られたくない。
それに付き合うもなにも、セブが好きなのはリリーなのだから。
あ、そうだ。リリーの記憶消しちゃえば……いや、リリーは口の堅い子だから言わないでって言ったら言わないでいてくれるよね。たぶん……
スキップするように走っていくリリーに不安になりながら、私は彼女の背中を追いかける。
セブが好き。
私とリリーだけの秘密。
私はきっちり白状させられた後で約束を取りつけることができた。