第3章 小さな動物たち
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17.碧燕の葛藤
まだ試合は開始されていないのに、興奮している観客の声がこの更衣室まで聞こえてきている。
僕は手の震えに気がついて、グローブをはめている手をギュッと膝の上で組んだ。
今年度初のクィディッチ戦であるスリザリン対グリフィンドールの一戦。
これが僕のデビュー戦となる。
緊張しちゃダメだ。
緊張したって良いことは何もないんだぞ……
深い深呼吸を繰り返しながらいつもより明らかに早く鼓動する心臓をしずめていた僕はビクッと肩を跳ねさせた。
至近距離から僕を見つめる漆黒の二つの瞳。
『キャプテーーン!』
僕の前にいつの間にかしゃがんでいたユキ先輩が首だけキャプテンの方に振り返る。
『レギュラスが見ていて可哀想なくらい緊張しているよ。和ませてあげてよ!』
「っ!?き、緊張なんかしていませんにょッ」
痛っ。舌噛んだ
ガタンッと椅子を蹴るように立ち上がった僕。
痛みで涙目になっている僕の視界に映るポカンとした先輩たちの顔。
『にょッって何?』
「「「「ブフゥッ」」」」
静寂の中に響くユキ先輩の声。
先輩たちが一斉に吹き出した。
「ぶふっ、は、初めては誰でも緊張するからさ」
「グラウンドに出れば落ち着、ぷはっ、落ち着くって」
「レギュラス、お前かわいーなー」
「ちょっ、先輩たちやめて下さい!少し噛んだだけじゃないですか。笑いすぎですよッ」
ケタケタ笑いながら僕の髪をグシャグシャと撫でてくる先輩たちを睨む。
ユキ先輩のせいでとんだ恥をかいちゃったじゃないか!
顔がカアァと赤くなるのを感じながら恥をかかせた張本人を探せば、更衣室の隅でマシュマロを頬張っているのが目に入る。
あなたって人は……
ようやく先輩たちのからかいの手から逃れた僕は怒りを通り越してガクンと肩を落として脱力してしまう。
「まぁ、そんな顔するなって。ユキはユキなりにお前の緊張を取ろうとして言ったんだよ」
「……僕にはそうは思えませんでしたが」
「でも、緊張は取れただろ?結果オーライだ」
眉を顰める僕の背中をポンと叩いてからキャプテンは部屋の前方へと歩いていく。
「いよいよ因縁のグリフィンドール戦だ」
キャプテンに集まる注目。
先輩たちの顔が引き締まる。
「今年は、ここ何年かぶりの最高のチームだ。今年こそスリザリンに優勝杯を持ち帰るぞ!」
キャプテンの言葉に同調するように先輩たちが声を上げる。
僕も立ち上がり、周りの先輩たちと拳を合わせる。
絶対にやってやる。
僕にとっても待ち望んできた試合だ。
スリザリン生の前で、きっと観戦に来ているであろう兄の前でスニッチを取ってやる。
「よーし。グラウンドへ移動するぞ」
それぞれの箒を手に持ち、更衣室から出て行く選手たち。
僕も続いて部屋を出るとキャプテンが横に並んだ。
「レギュ。グリフィンドールの奴に負けるなよ」
「任せてください」
「いいぞ!その調子だ。いいか、レギュ。試合中はスニッチの事だけを考えていろ。妨害してくる相手選手もブラッジャーも気にするな。そいつは……」
キョロキョロと周りを見渡したキャプテンは後方を歩くユキ先輩を呼んだ。
僕も後ろを振り向くと、マシュマロの袋に手を突っ込みながら走ってくるユキ先輩の姿。
隣でハアァと溜息をつくキャプテン。
「まだ食べていたのか?」
『試合前のエネルギー補給です』
キリッとした顔をしてみせるユキ先輩に僕もキャプテンも何も言う気がしない。
この人のマイペースぶりはいつものことだ。
「食べながらでいいから良く聞くんだぞ。ユキの今日の役目は徹底的にレギュラスを敵の妨害から守ることだ」
チェイサーや他の選手は気にしなくていい。と続けるキャプテンにユキ先輩はニコッと笑って頷く。
『わかった。何があっても必ず守る。レギュラスは安心してスニッチ探しに集中していいからね』
「キャプテン、僕は守ってもらわなくても……」
女の子の先輩に守られるなんて気恥ずかしい。
出来れば遠慮したかったがキャプテンは作戦を変える気はないらしい。
「レギュが初戦だということは相手も分かっている。グリフィンドールの奴らはお前を狙ってくるぞ」
シーカーは試合の勝敗と終了を決める大事なポジション。
キャプテンはグリフィンドール側が初出場の僕を威嚇して萎縮させる作戦で来るだろうと言うのだ。
「だが心配するな。ユキは普段はこんなだが、試合になると頼りになる奴だってレギュも知っているだろ?」
「……はい」
確かにキャプテンの言う通りだ。
1年生の時に観た試合。ユキ先輩はどの試合でも、誰よりもいい動きで空中を飛び回っていた。
「よろしくお願いしますね、ユキ先輩」
『うん。よろしくね、レギュラス』
手を差し出すと小さい手が僕の手をキュッと握り返してくる。
「2人ともよろしく頼むぞ。グリフィンドールの奴らを叩き潰してやれッ」
僕たちの様子を満足そうに見ていたキャプテンが、僕たちの背中をドンッと叩いてから先にグラウンドへ駆けて行った。
出口が近づくにつれて段々と大きくなっていく歓声。
ふと横を見ると首を傾げているユキ先輩。
「どうされました?」
『あー、さっきのキャプテンの言葉が気になってて。叩き落とすじゃなくて叩き潰しちゃっていいのかな?』
横でこん棒をブンッと振るユキ先輩。
色々な意味で恐ろしいな、この人は……
僕はユキ先輩の反則退場を防ぐため、キャプテンの言葉を説明する事にした。
<グリフィンドールがゴーール!これでスリザリンに並びました>
寒空に響く実況。
一進一退の攻防。
僕は同点に並んだことに若干の焦りを感じながら、スニッチを探して空中に目を凝らしていた。
今のところみんなから離れているので攻撃されていない。
下では空中で足をブラブラさせてユキ先輩が暇そうにしている。
『まだ見つからないの~?』
「スニッチは小さいんですよ!集中しているんですから邪魔しないで下さいッ」
『ひまーひまーひまー」
「お願いだから静かにしていて下さい!……まったく。まるで緊張感がない……」
ハアァと溜息をついていた僕の心臓がドクンと跳ねる。
遥か下。グリフィンドールの寮旗の前を金色の小さなボールが羽をパタパタさせて横切っていくのが見えた。
スニッチを見失わないようにしっかりと見据えながら箒の柄を下に向ける。
「ユキ先輩!いきますよっ」
『了解!』
急降下
楽しそうな弾んだ声が僕を追いかけてくる。
<スリザリンのシーカーがスニッチを見つけたようです!気づいたグリフィンドールシーカーも追いかけていく>
大きくなる観客の声。
僕に見つかったのが分かったかのように方向を変えて上へと飛んでいくスニッチ。
僕はスタジアムの柱を足で蹴りながら方向転換をして追いかける。
チラッとグリフィンドールシーカーを確認する。
大丈夫だ。これなら余裕でグリフィンドールシーカーより早くスニッチに追いつける。
しかし、そう思った時、視界の端に物体が見えた。
見えたのはグウゥンと嫌な音で近づいてくるブラッジャー。
『前だけ見てろッ、レギュラス!』
思わず減速しそうになる僕にユキ先輩の叱責が飛ぶ。
真横を通り過ぎる風。
ユキ先輩が横から来たブラッジャーを弾き飛ばした。
ボスン
ボスンッ
僕たちはグラウンドの中心を横切って飛んでいく。
下から飛んでくるブラッジャー、パスで飛んできたクアッフル。
僕の軌道に入ろうとするボールをユキ先輩が次々と排除していく。
僕も頑張らなくては……
急上昇したスニッチを追いかけ、再び方向を変え、今度は下へと向かうスニッチを追いかける。
スニッチはもう目の前。
僕はラストスパートをかけて箒を飛ばす。
「っ!?」
しまった!
突如、軌道を遮るように飛び出してきたグリフィンドール選手たちが僕の前に壁を作った。
迂回していたらグリフィンドールシーカーに取られてしまう!
……このまま強行突破するしかない。
ユキ先輩がブラッジャーを自分に引きつけているのを見ながら覚悟を決める。
ユキ先輩、信じていますからね。
心の中で呟いて、柄をギュッと握り締める。
『当たれッ』
ダンッと音がしたと同時にグリフィンドール選手がクルクルと空中に飛んでいく。
さすがユキ先輩。どうやら先輩が放ったブラッジャーがグリフィンドール選手の箒に当たったみたいだ。
他の選手も巻き込まれて前が開ける。
僕は左手だけで柄を握り、右手を伸ばす。
その時、僕の体がゾワリと震えた。
バランスを取り直したグリフィンドール選手が一人、僕の方へとやってくる。
まさか体当りしてくるのか!?
全身の毛が一気に粟立つ。
「いかせるか!」
『邪魔しないでよポッター!』
こちらに向かってこようとした眼鏡のグリフィンドール選手とユキ先輩が箒を激突させて視界から消えていく。
「ユキ先『行け、レギュラス!』
僕は下を向こうとして、やめた。
耳元で風を切る音
逃げようとするスニッチ
<スリザリンシーカー、初出場のレギュラス・ブラック選手がスニッチを取ったああァァァ!試合終了!!!>
爆発する歓声
手の中で大人しくなるスニッチ
「レギュラス、よくやった!」
「俺たちの勝利だ!!」
僕の関心は金色に輝く手の中のスニッチでも、僕の活躍を褒めながら近づいてきてくれる先輩達でもない。
荒い息をしながら、箒を回して、心配している人の姿を探す。
ユキ先輩はどこに―――
「地面に叩きつけられるとこだったんだぞッ」
『あんたが突っ込んで来るのがいけないんでしょ!』
「っなんだと!」
『やるんなら相手になってやるわよっ』
……心配なんかするんじゃなかった。
僕の視線の先には、地面に転がりながら眼鏡のグリフィンドール選手と元気に取っ組み合いをするユキ先輩の姿。
「Mr.ポッター!Ms.プリンス!今すぐ喧嘩をやめなさいッ」
フーチ先生の怒声。
僕たちスリザリン選手は勝利の余韻に浸る間も無く、ユキ先輩を止めるために地面へと降りていった。
***
『ええぇ酷い!私招待されてないよっ』
12月頭の談話室。
赤々と火が燃える暖炉前のソファーに座っていたユキ先輩はダンっと立ち上がり頬を膨らませた。
暖炉の前で談笑していた僕たちの話題はスラグ・クラブ。
スラグホーン教授主催のパーティーについて。
セブルス先輩はユキ先輩も招待されていると思っていたらしいのだが、実際はこの通り。
招待されていないと分かったユキ先輩は膨れてしまっている。
『パイナップルの砂糖漬け……』
ボスンとソファーに腰を下ろすユキ先輩がジトッとした目でセブルス先輩を見つめる。
「うっ。そんな目で見るなよ。ユキは去年も参加していたし今年も招待されているものだと思っていたんだ」
そう言って困惑顔で眉を下げるセブルス先輩。
「ご馳走食べたい」と呟いていたユキ先輩がパッと顔を輝かせ、手を打ち立ち上がる。
『そうだ!セブ、私をパートナーにしてよ』
あ……可愛い。
キラキラした瞳でセブルス先輩を見つめるユキ先輩を見て、そう思ってしまった僕は眉を寄せる。
あの大食いで馬鹿力のこの人を可愛いと思ってしまうなんて……不覚だ
風邪でも引くのだろうか、と考えながら目の前のやり取りを眺めていると、意外や意外、ユキ先輩の親友であるセブルス先輩は首を横に振った。
ユキ先輩は目に見えて落ち込んでいってしまう。
『私じゃイヤ?』
「(胸が痛い……)実はリリーにパートナーを申し込んであるんだ」
『そっか……リリーに……それは、仕方ないね。2人で楽しんできて』
「あぁ。ありがとう」
これも意外なことに、ユキ先輩は駄々を捏ねることなくあっさりと引き下がった。
セブルス先輩に『パイナップルの砂糖漬けは直接スラグホーン教授に貰いに行く』とニコニコしながら話すユキ先輩を見つめる。
ほんの一瞬、ユキ先輩が見せた顔。
笑った顔、怒った顔、真剣な顔……色々な顔を知っていたがあんなに寂しそうな顔は見たことがなかった。
ユキ先輩も寂しかったり、悲しかったりする時があるんだ……
当たり前のことなのに初めて気が付く。
辛い時まで笑う必要なんかないのに。
いつもみたいに、何も考えずに本能のまま動いていればいいのに……
「じゃあ、僕のパートナーになりますか?」
思わず口にしてしまった言葉にハッとする。
何で僕が野生児のユキ先輩なんかにパートナーを申し込んでいるんだ!?しかし、後悔しても今更遅い。
『レギュラスも招待されてたの?』
「えぇ。昨日招待状をもらったばかりです」
『で、そのパートナーは私でいいんだね?』
パアァと先輩の顔に咲く笑顔の花。
返事を返す前に、僕は本能のまま動いたユキ先輩によって3人がけソファーに押し倒されていた。
目を白黒させる僕の視界にはドアップのユキ先輩の顔。
「な、何するんですか!!」
『ご馳走、おやつ!レギュラス大好きだよ!』
体がカーっと熱くなっていく。
長い睫毛に縁どられた漆黒の瞳
陶器のように白い肌
サラサラと落ちてくる黒髪
この人、美人だ
そう思ってしまった自分を叱りつける。
僕は何を考えているんだ!?ユキ先輩を可愛いとか美人だとか今日の僕は本当にどうかしている。
こんな野生化した人を好きになるはずないじゃないか。
そう思っているはずなのに僕の心臓はドキドキと脈打つ。
『パイナップルの砂糖漬け楽しみ!』
食い気しかなくて、マイペースでいつも馬鹿みたいに笑っている。
そう思っていたはずなのに、僕の心はユキ先輩が「自然に笑ってくれた」と安堵している。
『嬉しいーー!レギュラス、ありがとう』
「わかりましたからさっさと上からどいて下さいッ」
『ごめん。嬉しくって興奮しちゃったんだ。アハハ』
ユキ先輩が離れていって残念だ、と思っている僕がいる。
『セブやリリーともパーティーで会えるね』
「……レギュラスに迷惑かけないように監視してやる」
『せっかく誘ってくれた後輩に迷惑なんかかけないよ。お淑やかにするから安心してね、レギュラス』
僕だけに向けられる笑み。
セブルス先輩に優越感を感じてしまっている僕。
僕の心は、体はどうしてしまったのだろう……
『レギュラス……?』
僕に手を握られたユキ先輩が不思議そうな顔で首を傾げる。
「パーティー、楽しみにしています」
『うん!私もだよ!』
二カッと太陽のような笑顔に込み上げてくる感情。
きっと僕は何かの呪いにかかってしまったんだ……
僕はそう思うことで、心のバランスを取ったのだった。
***
カチコチ カチコチ
「誰かに呼んできてもらったほうがいいんじゃないのか?」
前に座る同室の友人が苦笑する。
スラグホーン教授主催のパーティー当日。
僕は談話室にある暖炉の前でパートナーであるユキ先輩を待っていた。
「Mr.ブラック、お待たせしてごめんなさい。ユキを連れてきたわよ」
先に一人で行ってしまおうか、と酷いことを考え始めた時、女子フロアの階段からガーベラ・パーキンソン先輩がやってきた。
「ちょっと準備に時間がかかっちゃったけど、同室全員で完璧に仕上げたからあなたに恥はかかせないわ」
何かを企んでいるようなパーキンソン先輩の笑みに友人と顔を見合わせていると情けない声が聞こえてきた。
『ガーベラ、こんな靴履いてたら万が一の時に走れないよぉ』
「万が一ってなによ。さあ、降りてきなさい」
コツコツと慎重な足音が階段を降りてくる。
僕も前に座っていた友人も自然と立ち上がっていた。
「ユキ先輩……ですか?」
『??どうして疑問形なの?』
足元から僕に視線を移したユキ先輩に胸がドキッと鳴る。
白い肌に映える深緑色のミディ丈のドレス。
ハーフアップの髪はゆったりと巻かれていて優しい印象。
僕は一歩一歩足元を確かめるように歩いてくるユキ先輩を前に身を固くしていた。
鼓動が誰かに聞こえるのではないかというくらい煩く鳴っている。
『レギュラス?』
「あっ……お手をどうぞ」
『ありがとう。助かるよ』
我に返った僕が腕を差し出すと、ユキ先輩は僕の腕に自分の腕を絡めてホッとしたように笑った。
してやったりと言ったようなパーキンソン先輩の笑顔に見送られて僕たちは寮を後にする。
時々バランスを崩すのか腕にかかる重み。
いつもとは違う不安げな横顔に「守ってあげたい」と思ってしまう。
まさか“あの”ユキ先輩に対してこんな感情を持つ日が来るなんて……
スラグホーン教授の私室に入ると、中には既に人が集まっていた。
中に入ると同時に僕たちに集まる視線。
優越感を感じながらスラグホーン教授を探しているとセブルス先輩の姿が目に入った。
『レギュラス、どうしたの?』
「……いえ。何でもありません」
動こうとしない僕に不思議そうな視線を向けるユキ先輩に微笑む。
そうか……セブルス先輩はユキ先輩が好きなんだ。
ハッキリと顔に書いてあるのを見て僕の口角は上がってしまう。
それと同時にユキ先輩は渡さない。と僕は心に決めた。
大食いで、馬鹿力で、ぶっ飛んでるユキ先輩。
そんな先輩を好きだと認めたくない自分がいた。
でも、今隣にいるのは美しく、守りたくなるような可憐な存在。
絶対あんな先輩に惚れてなるものかと思っていた心の葛藤が解消されたみたいだ。もう想いをおさえるものはない。
強くて、弱くて、綺麗で、馬鹿で
ずっと見ていたくなる面白い人。
この人と一緒にいたら一生退屈することはないだろう。
そして、この人と一緒にいたら、僕はずっと素直でいられる。
嘘偽りのないままの自分でいられる。
これらが僕がユキ先輩を好きになった理由だ。
『あ、セブとリリー発見。行こう、レギュラス』
「ダメです」
『え?』
腕に絡められた手に手を添える。
「今日は僕だけを見ていて下さい。ユキ先輩は僕のパートナーなんですから」
『そういうもの?』
「はい。そういうものです」
首をかしげる先輩に微笑む。
馬鹿な人はこういう時、扱いやすい。
僕はユキ先輩の前だと意地悪で嫌な奴になれる。