第1章 優しき蝙蝠
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7.入学式
「おっやおやー君は噂の新米教師だね~」
楽しそうな声が聞こえ顔を上げると派手な格好をした透明な男性が宙に浮かんでいた。
『なにこれ。凄い』
「人のことをコレって失礼な奴だな!って体に手を突っ込むなよー!」
『ごめんなさい。凄いなーと思ってつい。半透明なのね、綺麗』
「綺麗?俺が!?お前へんなやつー」
彼は満更でもなさそうに空中でクルリクルリと宙返り。
『私はユキ・雪野です。よろしくお願いします』
「ふ~ん。一応覚えておいてやるよ。俺はピーブス。ポルターガイストのピーブス様だっ」
『ピーブス様は綺麗ね。あの、もう一回触っても?』
「ばかばかばーか!お前変な奴だな~でも、また会ったら触らせてやるよ」
『やった。ありがとうピーブス様!』
ピーブスは廊下のアチコチの物をがらがら音を立てて倒しながら愉快そうに消えていった。
もう一回触りたい!!
***
9月1日
『はあぁぁ。うぐっ』
職員室のドアから玄関ホールを覗いていると、後ろから襟をぐいっと掴まれた。
苦しい。
「さっきから何をやっている。生徒に見られたらどうするつもりだね」
『新入生が着かないか見ているだけです。バレませんよ』
未だに自分が教師になった実感がもてない。
ドアの隙間から大広間に入っていく在校生を眺める。
「緊張しているのか?」
『とても』
「君はホグワーツの教師だ。それらしく振る舞いたまえ。大広間へ行くぞ」
スネイプはユキを見たが全く緊張しているようには見えない。
いつもの笑みを浮かべている。
『あ、待って!』
スネイプ教授の後に続いて私は大広間へと入る。
大広間の様子はいつもと違っていた。
普段は長テーブルが広間に一つ置かれていただけだったが、今日は四つの長テーブルが広間に並び上級生がすでに席についている。
教授達のテーブルは一番奥の雛壇の上。
指定された席、スネイプ教授とクィレル教授の間に座った。
「Ms.雪野、今日は一段とお綺麗ですね」
クィレル教授が目を瞬いて言った。
『入学式だから少し気合を入れてみました』
鮮やかな青にバラのモチーフの柄の入った着物の袖をつまんで見せると美しいです、と微笑んでくれた。
彼は時々吃らなくなるのに気づいているだろうか。
左横の殺気に気づかないふりをして考える。
星が瞬く天井には幾千ものロウソク。
生徒席を見ると好奇心に満ちた目の生徒と視線が合うので、微笑んでおいた。
読んだ教育の本に学級崩壊の事が書いてあり自分の授業がそうならないか少し不安。
観音開きの扉が開かれマクゴナガル教授を先頭に新入生が入ってきた。
緊張気味に入ってくる様子が微笑ましく頬を緩ませかけたが、両脇の二人の雰囲気が変わりスっと頭が冷静になる。
二人とも同じ生徒を見つめていた。
くしゃくしゃの黒髪にエメラルドグリーンの瞳の少年、ハリー・ポッター。
右からは微かな殺気を左のスネイプ教授は何を考えているか分からなかった。
そっとスネイプ教授の横顔を見る。
……あの時の目だ。
正確には彼が最後を迎える時の眼差し。
どうして胸が痛くなるのかな……。
組み分け帽子が陽気に歌い終わり、組み分けが始まる。
両隣の二人も少しは落ち着いたようだ。
「ハーマイオニー・グレンジャー!」
彼女はダイアゴン横丁の買物に付き合った1人だ。
目が合い、パッと顔を輝かせる様子が可愛い。
ふわりと微笑みを返す。
「グリフィンドール」
グリフィンドールのテーブルから歓声があがる。
時間はかかったが、ハリー・ポッターもグリフィンドールへと組み分けされた。
全員の組み分けが終わりダンブルドアが立ち上がる。
「おめでとう!新入生の諸君。そーれ、わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」
拍手と歓声が上がった。
とたんに目の前の大皿が料理でいっぱいになる。
『今の、どういう意味ですか?』
「我輩に聞くな」
顔は憂いを帯びた顔からいつものスネイプ教授に戻っていた。
何故か安心した気持ちになって自分のお皿に大きなチキンをのせると、スネイプ教授からは鼻で笑われ、クィレル教授からは小さな驚きの声が漏れた。
「おい、自分が何個チェリーパイを食べたか分かっているのか?」
『……さんこめデスかね……』
「ワンホール半だ!さばを読むにも程がある」
『し、仕方ないじゃないですか。スネイプ教授がマクゴナガル教授に告げ口したから、私しばらく厨房出入り禁止になったんですよっ』
「フン、当然だ。あのままではホグワーツの食料庫がカラになるところでしたからな」
『それは大げさです』
「今の様子を見ていると大げさとは思えんが?」
スネイプ教授もクィレル教授も甘いものを好まないらしく目の前のデザート皿を空にしたのは私。
屋敷しもべ妖精も追いつけない勢いで食べてしまった。
言い返せずにむくれているとスネイプ教授が満足げに口の端を上げているのが見えた。
いつか泣かせてやろうと心の中で誓う。
生徒たちがデザートを食べ終わったあたりでダンブルドア校長が立ち上がった。
「このあたりで新しい先生を紹介しようと思う。教科書リストにあったから気づいた上級生も多いと思うが、今年からホグワーツで新しい科目が開講される。自己紹介して頂こう。忍術学担当のユキ・雪野先生じゃ!」
自己紹介なんて聞いてないよ!
困ったようにダンブルドア校長を見ると素敵なウインクを返された。
手招きされて仕方なく前に出る。
「はじめまして。忍術学担当のユキ・雪野です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて席に戻ろうとしたが、ダンブルドア校長にがっしり腕を掴まれた。
なぜかキラキラ輝いている目が怖い。
「生徒たちは忍術に馴染みがない。雪野先生、何か見せてはくれんかの?」
茶目っ気たっぷりのウインクをしてダンブルドア校長が言う。
それを聞いた生徒たちから大きな歓声が上がった。
『そんな。いきなりなんて無理ですよ』
助けを求めるように振り向くと、クィレル教授が心配そうにしている。
だが、助け舟は出してくれそうにない。
スネイプ教授を見る。
彼は腕を組み「非常に愉快だ」という顔をしてこちらを見ていた。
よし、決めた。
私を助けなかったことを、私を厨房出入り禁止に追い込んだことを後悔するといい!
くるっと前を向く。
やる気になった様子を見てダンブルドア校長も喜んでいる。
大広間の全ての視線が集中した。
寸の間考えて印を結ぶ。
「変化」
ポンッ
体が白い煙に包まれる。
徐々に薄くなる煙の中から現れた人物に大広間中の全員が息を呑んだ。
黒髪に真っ黒い服のセブルス・スネイプ。
後ろの本人と違うのは光沢のあるサーモンピンクのマントを纏っていることだ。
あちこちのテーブルでフォークがガシャガシャ落下する音が聞こえる。
後ろを振り返ると、非常に凶悪な顔をした本人と目があった。
その様子にしてやったりと口の端を上げてみせる。
眉間のしわが数本増えた。
大満足!
「「「「わぁああぁ凄い!!!」」」」
再び生徒たちから大きな歓声が上がった。
ユキが大きくマントを翻すと、ユキ扮するスネイプの全身はサーモンピンクの布に覆われる。
布はふわっと膨らみ一瞬で桜の花びらへと変わった。
大量の花びらは教壇から生徒たちの間を風に運ばれるように流れていき、大広間の一番後ろまで移動。
壁にぶつかった花びらは舞い上がり、赤、黄色、青、緑の蝶に変わり、各寮のテーブルの上をひらひらと教壇の方へ飛んでいく。
四色の蝶はユキの椅子の上で柱のように集まり、一瞬で拡散した。
ユキの姿が蝶の中から現れる。
『皆さんと授業でお会いできるのを楽しみにしています』
私はふわりと笑って頭を下げた。
爆発するような大歓声と拍手の嵐。自分でやった事とはいえピューっと口笛まで聞こえ、あまりの反応の大きさ照れくさくなる。
やりすぎたかもと思ってダンブルドア校長を見たが涙を拭きながら笑っていた。
隣のマクゴナガル教授は目を輝かせて拍手している。
二人の反応の違いが気になるが怒っていなくてホッとした。
隣で怖い顔をしているスネイプ教授以外は喜んでくれたらしい。
ダンブルドア校長が注意事項を言って、新学期の宴は締めくくられる。
名残惜しそうに、こちらを見ながらぞろぞろと大広間を出て行く生徒たちに微笑むと生徒たちが嬉しそうに手を振ってくる。
ふと見ると赤毛の双子が飛び跳ねながらこちらに大きく手を振っていた。
小さく手を振ると弾けたような笑顔を見せて出て行った。
さて、怒られないうちに退散しよう。
そっと椅子から立ちあがって逃げようとしたがそうは問屋が卸さない。足が宙に浮く。
後ろからスネイプ教授に羽交い締めにされていた。
『ちょっ。スネイプ教授、生徒たち、まだ大広間から出てませんよ』
「自分が何をしたか分かっていないようですな」
低音の声が耳元で聞こえ、顔が赤くなっていく。
背中に感じる体温が恥ずかしさを倍増させる。
怒られるか殴られる方が対処しやすいのに。
足をつけようとジタバタもがく。
『れ、レディにこんなことするなんて』
「屋敷しもべ妖精が追いつかぬ程の大食いの君をレディと呼ぶ気はない」
『それは言わないで下さいよ。元はといえば、スネイプきょうわぁぁ何してるんですか!?』
さっきまで黙って傍観していたクィレル教授が私の膝を持ってぐっと引っ張った。
おかげで私の体は空中に浮いたようになっている。
上半身はスネイプ教授の方に、下半身はクィレル教授の方に引っ張られ体がちぎれそうだ。
「クィレル教授なんの真似かね」
「ミ、Ms.雪野が、い、痛がっていますよ。離してあげて下さい」
『二人共どうしちゃったんですか!?』
2人は私が悲鳴に近い抗議の声をあげるのも構わず、ムキになったのか睨み合いながら綱引き。
大人3人が何やっているんだと呆れられていると思ったら周りの先生方はお腹を抱えて笑っていた。
『笑ってないで助けてください!校長先生!』
「フォッフォッ。仲が良くて羨ましい!」
『この顔見てください。全然楽しんでません。マクゴナガルせんせいっ』
頼みの綱のマクゴナガル教授を見ると仕方ないわねと肩を竦めて二人を諌めてくれた。
大急ぎで彼女の背後に隠れて乱れた着物を直す。
新学期初日に体がちぎれるところだった。
スネイプ教授とクィレル教授の方は言葉の交戦に移ったようだ。
「ユキはモテるのう」
『え、誰にですか?』
乱れた息を整えながらダンブルドア校長を見ると楽しそうに笑っていた。
「恋の悩み相談なら何時でものるから言いなさい」
「その時は私にも声をかけてね、ユキ」
『はい……ありがとうございます?あ、そうだ。マクゴナガル教授。私最近大人しくていましたし……』
「ダメです!夜中に抜け出して厨房に行くのは禁止です」
『そんなぁ。せめて週二回、いや、四回だけでもお願いします』
「増えているじゃないですか!」
ユキはどうにか譲歩してもらうべくマクゴナガルを追いかける。
必死に頼み込む姿を見て教師たちから楽しげな笑いが起きた。