第2章番外編
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薬学教授と忍術学教授 part.5
ロンドンにあるジャパニーズマーケットは忍術学教師ユキ・雪野のお気に入りの店だ。
ここにはユキの故郷、木ノ葉の里で食べられていたものが沢山売っている。
この店の常連となりつつあるユキは今日も食料品を大量に買い込んでホグワーツに戻ってきていた。
『あ、スネイプ教授』
「雪野か。またジャパニーズマーケットとやらに行ってきたのか?」
『そうなんです。今日は私の里でよく食べられる団子というものを作ろうと思いまして。作ったら一緒に食べません?』
ユキ・雪野はスネイプの想い人である。断るはずがない。
控えめに「そうだな。では、頂こう」と答えたスネイプだが、内心は思わぬ幸運を喜んでいた。
『では、お団子は夜に食べましょう』
「は?夜?」
『私の里には中秋の名月といって1年で1番美しいと言われる月を見上げながらお団子を食べる風習がありました。今夜は中秋の名月ではありませんが、今夜も満月。綺麗な月が見えます』
「お前の里にはロマンチックな風習があるのだな」
『私は花より団子ならぬ月より団子になるかもしれませんけどね。それでは、夜に。楽しみにしていますね』
***
どこからか聞こえてくる虫の声。
山からは爽やかな風が降りてきて、残暑の残る昼間に溜まった熱気を吹き飛ばす。
スネイプはユキに指定された場所、なだらかな丘の上を目指して歩いていた。
ランタンの灯りを頼りに歩いていくと、丘の頂上にユキの姿が見える。
ユキの方も気づいたらしい。スネイプに向かって大きく両手を振る。
『えへへ。準備万端ですよ』
「随分作ったな」
見晴らしのよい丘の上に敷物が敷いてあり、ユキの作った何種類もあるお団子が皿の上に並んでいる。
『靴を脱いで足を伸ばして寛いでください』
「あぁ」
靴を脱いで自分の隣に座ったスネイプに、ユキはジャーンと効果音をつけながらあるものを取り出した。お酒だ。
「これも雪野の国の酒か?」
『はい。お米を原料としたお酒なんですよ。ささ、スネイプ教授。どうぞ』
シャンパングラスに日本酒を注ぐ。
徳利とお猪口が見つからなかったからだ。
透明なガラスに月の光が反射して、大層美しい。
トクトクトク
耳に良い音が響く。
透明な水面に月が反射するのを暫し楽しんだ後、スネイプは酒をぐっと飲み干す。
「旨いな」
『気に入ってもらって良かった』
表情を崩すユキの手からスネイプがボトルを取り上げる。
「君も飲むであろう?」
『はい!』
ユキが両手で持つ杯にトクトクと酒が注がれる。
『ん。ちょっと辛い』
「苦手かね?」
『少し』
酒独特の辛さに目を瞑って顔をしかめるユキを見てスネイプは喉を鳴らしてクツクツと笑いながら、皿にあった団子を一本ユキに差し出した。
『はむっ』
「っ!?」
『ん~おいひ~』
スネイプが絶句しているのをユキは知らない。
団子の串を受け取ってから食べると思っていたのだが、スネイプの予想に反してユキはそのままパクリとスネイプが差し出した団子を食べたのだ。
『スネイプ教授?』
「な、なにかね?」
『顔がほのかに赤いですよ?そんなにお酒弱かったでしたっけ?』
「お、お前の気のせいだ」
『えーそうですか?』
じっと自分を見つめる視線から逃れるようにスネイプは串を取ってパクリと団子を口に入れる。
「む!?」
スネイプの口から普段は聞けないような声が出てユキはぷっと吹き出す。
スネイプは食べたことのない不思議な感触に驚いてしまったのだ。
「……」
『ご、ごめんなさいっ。そんなに睨まないで下さいよぉ。あ、お団子は喉に詰まりやすいのでよく噛んでくださいね』
笑ったことでスネイプに睨まれたユキは早口で言い添える。
モグモグ、ゴクリ。
スネイプの感想は……
「変わった食感だったが旨いな」
『やったーー』
ユキが望んだ通り高評価だった。
ユキは顔をほころばせながら、自分も串を手に取り団子を頬張る。
『そうだ。私の国では月にはうさぎが住んでいると言われていたんです』
「うさぎ?」
酒を飲む手を止めて、スネイプは月を見上げる。
「どうやったらうさぎに見えるのかね?」
『あそこが耳、それからあっちが尻尾。うさぎがこういったまるい臼を使って餅という食べ物を作っているように見えると私の国では言われていました』
ユキが臼と杵と餅の説明をしながら伝えると、スネイプは「あぁ」と納得したように声を出した。
「たしかに見えるな」
『でしょ?』
自分の言いたかったことが伝わってユキはニコリと笑う。
『イギリスでも同じですか?』
「いや、違う。イギリスでは蟹だ」
『カニ?』
空を見上げてユキは顔を顰めた。
「そうだ。ハサミを大きく振り上げたカニに見えると言われている」
『どこをどうやったらそう見えるんですか?』
「白い部分に注目するのだ。あそこがハサミだな」
『ええと……』
「分からんか?あそこだ」
ふわりとユキの鼻を薬材の匂いがくすぐる。
ユキが分かりやすいように視線を合わせるようにして顔を寄せるスネイプにユキの胸は高鳴っていく。
あぁ、ダメ。全然集中できない―――――
低いベルベットボイスがユキの耳元で響き、ユキの頭はぽ~っと熱くなっていく。
「分かるか?」
『え!?わ、わかった。あ、うわ』
カシャンとユキは敷物の上に置いてあったグラスに手をぶつけ、ひっくり返してしまった。
その慌てぶりを驚きの顔で見ていたスネイプだが、ユキが暗い中でも分かる真っ赤な顔で自分を見ていることに気づき、小さく口角を上げる。
『あわわ。やっちゃった』
ハンカチを取り出し、酒を浴びてしまった手を拭こうとするユキの手をスネイプが止める。
「もったいないであろう」
『え?』
「酒だ」
月は人を惑わすという。
自分の手にそっと唇を押し付けるスネイプに、ユキは赤面しながらそんな言葉を思い出した。