第2章 純粋な猫
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16.星降る夜
キスされたのは、寝る前の挨拶?友情の証?宿り木がたまたまあったから?
それとも……
とにかくファーストキスに混乱していた私はその場にいるのが耐えられず奥の寝室にあるベッドに飛んで行き、自家製眠り薬を使って即刻、寝た。
起きていると、キスの意味を考えてしまって頭が爆発しそうだったからだ。
そして、いつも通りの時間に目覚めた朝。
私は目を点にしていた。
『これは……何だ?』
仰向けに寝ている私の視線の先に木の板が見える。上体を起こして右に顔を向けると木で出来た階段が目に入った。急いでベッドから降りた私は脱力して床に両手をつく。
何考えてんのよぉぉぉぉ!!
ベッドは改造されて2段ベッドになっていた。眠り薬で深く眠りすぎて侵入者にも作る音にも気付かなかったらしい。
恐る恐る階段を登り2段目のベッドを覗き込む。
『ねぇ、どういうことよ?』
「ん……さっき、寝たばかり……もう少し……寝ます」
声に反応して薄らと目を開けたクィリナスは眠たそうな声でモゴモゴ言ってから自分で布団を肩までかけ直し、再び夢の中に入っていった。
すぐに気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
思考停止
『クリスマスプレゼントもう届いてるかな?』
ベッドが改造されていた衝撃と罪悪感の欠片もないクィリナスの反応。
私は寝起きに起こったこの面倒くさい問題から現実逃避した。
2段ベッドに背を向けて、クローゼットから服を適当に引っ張り出してリビングに入る。
『片付けてくれたんだ』
術で滅茶苦茶になっていた部屋は元通りに片付いていた。
もちろんクリスマスツリーもある。
『飾りつけが豪華になってる!』
クィリナスが手を加えたクリスマスの装飾を見て目を輝かせる。
緑色のモミの木が霜に覆われたようにキラキラ光る水色に変わっていた。
オーナメントのジンジャークッキーと雪だるまが楽しそうに会話をしている。
暖炉に火を入れて着替え、帯を締めながらツリーの下に置かれたプレゼントの山にワクワクしながら小走りに近づく。
生徒たちからのプレゼントは例年通りお菓子が多い。カエルチョコの山ができている。
おまけカードを確認し、チョコを頬張りながら次々と開けていく。
私は全校生徒に護身用の赤と緑の煙玉を送っていた。1年生でも敵の目を眩ませて逃げる時間を稼げるかも知れないと思ったからだ。
『むぅお!』
メッセージカードを開けた私の口から奇妙な声が出る。
まさかプレゼントをくれるとは思っていなかった生徒、デリラ・ミュレーの名前が書いてあったから。
ーーーーーーーーーーーー
助けてくれてありがとうございます。先生もいい大人なので、メイクくらいしたらどうですか?
年が明けたら、忍術学頑張ります。
メリークリスマス
デリラ・ミュレー
ーーーーーーーーーーーーーーー
『フフ、かわいい』
授業中は不機嫌な顔、時には可愛い目を吊り上げて睨んでくることもある生徒。
好意と反抗心の入り混じったメッセージ。
これがツンデレと言われるものか、と考えて顔が緩む。
プレゼントは口紅。
匂いで敵に居所がバレてしまうので今まで化粧はしてこなかった。これを機にメイクしてみようかな。
次々とプレゼントの山を崩していく。
モリーさんから今年もセーターが届いていた。
私はモリーさんがロックハートファンだと聞いたので大量の盗撮写真を贈ってある。
ロックハートからは自身の写真。丸めて暖炉に放り込む。
ミネルバからは“基礎から学べる一般常識”の本。示し合わせたのであろう、他の教授達からこのシリーズ本が贈られてきていた。
『大丈夫か、ホグワーツ……』
次に手にとったのはダンブルドアからのプレゼント。
キャンディ・ブルートパーズ著“白馬の騎士~強引な求婚者~”
嫌な予感しかしない。ところで、ダンブルドアは校長の仕事をしているのだろうか?甚だ疑問である。
本は目次さえ読まれることなく本棚におさまった。
『クィリナスのプレゼント大きいな』
大きな、大きな箱。
中身を見た私は目を丸くした。入っていたのは服一式。
夏用は水色ワンピース、靴、帽子、ネックレス。
冬用は紺のAラインワンピース、ショートブーツ、手袋、ラビットファーのマフラー。
『ワーイ。ピッタリダヨ』
冬用の服を着て鏡の前で固まる。服の着丈、靴のサイズともにピッタリ。
普段は草履で靴はほとんど持っていないのに、よくサイズがわかったね。
可愛い服だが、少し背筋が寒くなる。
そして最後に残った封筒。
差出人はセブルス・スネイプとある。中のメッセージカードを開けるとキラキラ光る雪の結晶と一緒にペガサスが飛び出して部屋中を飛び回った。
ツリーの装飾で遊ぶペガサスからカードに目を落とす。
 ̄ ̄ ̄
Merry Christmas
クィディッチのヨーロッパカップを知っているか?
27日にイギリス・アイルランド代表とブルガリア代表の試合がある。
場所はブルガリアで1泊になるが君さえよければ一緒に行かないか?
返事はパーティーの時に聞かせてくれ。
S.S.
 ̄ ̄ ̄
『きゃー行く、行く、行く!!代表戦が見られるなんて最高だわ!!』
思いがけない嬉しい誘い。
私はウキウキしながら台所で朝食の準備を始めた。
****
もうすぐ11時。
朝食と昼食を兼ねたクリスマス・パーティーが大広間で始まる。
『メリー・クリスマス!クィリナス、私行ってくるね』
階段を登って声をかけると、眠たそうに目を開いた。
「あー……メリー・クリスマス。クリスマス・パーティーですか」
『うん。プレゼントありがとう。さっそく着ていくね』
「似合っています。黒髪じゃないのが残念ですが……」
目をこすりながら呟いた。
『髪と目が元に戻ったらまた見て』
「楽しみにしています」
『ありがとう。これは私から』
プレゼントの包みを枕元に置く。
「ありがとうございます」
クィリナスはプレゼントを引き寄せ、抱き抱えてうつらうつらし始めた。
『朝食は机にあるから。見つからないように帰ってね』
「…………」
彼はちゃんと家に帰ってくれるだろうか。
返事がないのは寝てしまったからだと思いたい。
ローブを羽織って自室から出る。
『メリー・クリスマス!スネイプ教授、メリー・クリスマス!』
玄関ロビーに入ってすぐ今日一番会いたかった人物を見つける。
「何度も言わずとも聞こえている」
『アハハ。すみません。テンションが上がっちゃって』
落ち着くために深呼吸して、ローブのポケットに入れていたスネイプ教授からのメッセージカードを取り出し、満面の笑みで掲げた。
『私、イギリス代表選手の試合を見てみたかったんです。本当に、本当にありがとうございます!』
「そうか。君が気に入ってくれたなら、よかった……」
スネイプは自分の顔が赤くなるのを感じ視線を逸らした。
普段は着物姿のユキ。魔女の服装もロングスカートなので露出が少ない。
そのユキが今は膝上のスカートを履いてピョンピョン飛び跳ねていたからだ。
「……っ」
まただ
クラリと甘い感覚―――
『ゴーゴーイングランド!イングランド!!』
「落ち着け。それから、そのカードはポケットにしまいたまえ」
揺れるスカートの裾から見える白い太腿、揺れる理性。
思春期の男子学生か、と自分に呆れながらスネイプはユキを落ち着かせる。
『ああぁぁぁ楽しみだー!』
「一緒に出かけることを誰かに言うなよ」
『なぜです?』
この喜びを大声で叫びたい衝動に駆られていたユキは不思議そうに首を傾げる。
「例えば……校長がこのことを聞きつけたらどうする。何故自分も誘わなかったのだと駄々をこねられるぞ」
『それは嫌ですね』
へそを曲げたダンブルドアは手に負えない。
普段でさえ寝付けないからと夜中に突撃してくる迷惑な校長なのだ。
仲間はずれにされたと機嫌を損ねたら連れて行くと言うまで暴れ続けるだろう。
『それでは、二人だけの秘密です』
人差し指を口に当ててニシシと悪戯っぽく笑い、私は大広間へと走り出す。
「雪野」
『ぐえっ』
襟首を掴まれて首の締まった私の口から変な声が漏れる。
「すまん」
『い、いつものことですから。お気になさらず』
首をさすりながら振り返り、スネイプ教授の顔を見上げる。
『スネイプ教授?』
なかなか話を切り出さないスネイプ教授。
顔を見るとほんのりと赤い。
『風邪引きました?具合悪いですか?』
「いや……違う。その、だな……このローブ気に入っている」
言われて見るとスネイプ教授が着ていたローブは私がクリスマスプレゼントに贈ったもの。早速着てくれたようだ。
『丈も大丈夫そうですね。よかった!とってもお似合いです』
「……ありがとう、雪野」
目測で買ったので着丈が合うか心配していたが、ちょうど良い長さ。
黒いローブに襟元にグリーンのライン、袖には銀のボタン。
スリザリンカラーで選んだローブ。
気に入ってもらえたことが分かり嬉しい。
「君の服装も「ユキ先生!とっても可愛い!!」……」
ハリーは駆けてきて私に抱きついた。
話を遮られたスネイプ教授がハリーを睨みつける。
「離れろ、ポッター。クリスマスの朝から減点されたいか?」
「これ、僕からのプレゼントです」
ハリーは鉄の心臓でスネイプ教授を無視して私に包を渡してくれた。
入っていたのはうさぎのキーホルダー。
『ありがとう。可愛い!』
「僕のとペアなんだよ」
キーホルダーを合わせると2匹のウサギがキスをしている姿になる。
『大事にするね』
「雪野、ポッター!君たちは自分が不謹慎だとは思わんのかね?」
『「何故です??」』
スネイプ教授は私たちの顔を交互に見たあと、深くため息をついた。
なにか不謹慎な事したかしら?
考えている間に階段から続々とグリフィンドール生が降りてくる。
「わぁーお。ユキ先生ってスタイル良かったんだね」
「ロンったら失礼よ。ユキ先生、クリスマスプレゼントありがとうございます」
『どういたしまして』
「去年のように問題を起こすような代物を贈っていないだろうな?」
去年のクリスマスに私が生徒に贈ったのは短い時間使役できる式神。
悪戯に使用されてフィルチさんにコッテリ怒られた。
『今年は護身用の煙玉だから大丈』「ユキ先生!まったく今回も生徒にこんなもの贈って!!」あれれ?』
怒鳴り声の方を見るとフィルチさんが地下から上がってくる姿が見えた。
頭から靴の先まで赤と緑の煤で汚れている。
目の端に楽しそうにハイタッチをして大広間に消えていくウィズリーの双子の姿が映った。
カードに護身用と書いたのに、とがっくり肩を落とす。
「これはマクゴナガル教授に報告しなければいけませんよ。あんな悪戯グッズを生徒に配るなんて!」
『ダメ。お願い、フィルチさん。ミネルバには言わないで。クリスマスのご馳走食べられなくなっちゃう』
鼻息荒く大広間に向かおうとするフィルチさんの腕にすがりつく。
『あれは護身用に配ったんです。決して悪戯グッズではありません。スネイプ教授、助けてくださいー』
「自分で蒔いた種だ」
『そんなぁ。同僚の大ピンチなのに冷たすぎますっ』
「フン。今日はゆっくり食事が出来そうだな」
『私の七面鳥が!クリスマスケーキが!グラタンが!牛の丸焼きがぁぁ』
私たちはフィルチさんに張り付く私を先頭にワイワイ言いながら大広間の中に入っていった。
大広間はクリスマスの装飾と豪華な料理で華やかな雰囲気。
ミネルバには休暇が終わったら生徒に改めて注意事項を言うようにキツく言われたが、クリスマスのご馳走没収にはならなかった。
先に来ていた教授たちや生徒とメリークリスマスの挨拶を交わして席につく。
私の席はスネイプ教授とロックハートの間。
「メリークリスマス。可愛いスミレちゃん」
光沢のあるグリーンの派手なローブを着たロックハートが席に着いた。
大広間の光がいつもより明るいせいか歯が普段の2割増で光っているように見える。
「私のプレゼントは気に入ってもらえましたか?」
『燃やしました』
「愛が燃えるようだ、ということですね。今夜、二人きりでクリスマスを祝いましょう」
『写真と同じ末路を辿りたいなら喜んで』
「あぁ。2人の愛の炎は燃える。ドラゴンが吐く炎のように!」
『私の部屋に来たらドラゴンより高温の炎をお見舞いしますよ』
「パーティーの後にユキの部屋に行くので待っていてください」
『もうイヤァァ。誰か席替えして!!』
「私の隣だと緊張するのですね。世の女性は皆そう言いますよ、ハハハハハ」
スネイプはロックハートに一言言ってやろうと思ったが、ユキの手に炎が出現したので口を閉じる。
そしてクリスマス・パーティー前に惨劇が起こるのを防ぐため馬鹿力の忍術学教師の腕を全力で押さえつけた。
「レディース・エンド・ジェントルメーーーーン!ダンブルサンタじゃよぉぉぉぉぉ」
突然、大広間の扉が観音開きにバーンと開いて箒に乗ったダンブルドアが入ってきた。
赤い衣装、赤い帽子、白い袋。
髭もあるので見た目は完璧なサンタクロース。
「きゃー大変。校長先生っ」
ハーマイオニーが悲鳴をあげた。
箒の速度はぐんぐん速くなりパーティーテーブルを通り過ぎる。
「と、止まらん。誰か、助けてくぎゃああぁぁあ」
久しぶりに箒に乗ったダンブルサンタは一番大きなモミの木に突っ込んでいった。
オーナメントがガチャガチャ床に落ち、飾ってあった人形たちが一斉に悲鳴をあげる。
「さぁ、校長先生もいらっしゃいましたからクリスマス・パーティーを始めましょう」
静寂を破り、聖母のように穏やかな笑みを浮かべるミネルバ。
「メリー・クリスマス!」
「「「「「「「メリー・クリスマス」」」」」」」
「こ、校長を待たずに始めるとはキイィィこうしてくれる。レダクト!」
『呪術分解。食べ物に当たったらどうするつもりなのよ、バカンドアッ』
「言うたな怪力バカ娘。決闘じゃあぁぁ」
『望むところだ。今日こそ決着つけてやる!』
こうして賑やかに今年のクリスマス・パーティーは始まった。
***
生徒たちが夢の中にいる頃、ユキは石化したコリンの頭を撫でていた。
『メリー・クリスマス、コリン』
紫色の袖が悲しげに揺れる。
お菓子が詰め込まれた大きな赤い靴下を枕元に置き、コリンが横たわっているベッドのカーテンを閉める。
このような事件がなければコリンも他の生徒と同じようにホグワーツに入学してから初めてのクリスマスを皆と一緒に祝えたはずだ。
マグルの両親を持つコリンは魔法界のクリスマスに目を輝かせていただろう。
気が滅入った私の足は自然と屋上へと向かう。
夜の天文台。
体に突き刺さるような冷たい風だが今はその風にあたっていたい気分。
新月の今夜はいつもより夜空が暗い。その暗い夜空にキラキラとまたたく冬の星。赤、青、白と宝石のように輝く。
『クリスマスの夜に見回りが当たるなんて残念ですね』
振り返らなくても分かる聞き慣れた足音。
「我輩には他の日と大差ない」
『ペアの先生は?』
振り向き、一人で出入り口に立つスネイプ教授に尋ねる。
「今日のペアはロックハートだ。今頃、君の部屋の前だろう」
『一人で見回りお疲れ様です』
「君こそ部屋に戻れずに大変だろう」
スネイプ教授はそう言いながら私の横に並んで立ち、夜空を見上げた。
南の空に砂時計型のオリオン座が輝く。
「一晩中ここにいるつもりかね?いくら雪野でも風邪をひくぞ」
『風邪はひきたくないけど、もう少しこうしていたいんです。夜空を見上げていると無心になれるから』
「では、もっと近くに行ってみるかね?」
『どうやって?』
スネイプ教授は杖を取り出し振った。
暫くして風を切るような音が近づいてきたので天文台から身を乗り出す。
『箒だ!』
「馬鹿、危ないぞ」
帯を引っ張られる。
スネイプ教授は反対の手で飛んできた箒を掴んだ。
『二人乗り?』
「横で立ち乗りされては落ち着いて夜空を見られないからな」
手渡された箒を受け取る。
『信用ないなぁ』
「当たり前だ。君が前に乗りたまえ。まともな乗り方もできるか監視してやる」
スネイプ教授が地面を蹴り、箒が浮かび上がる。
徐々に小さくなる天文台は暗闇の中に溶けてしまった。地上には点々と村の灯り。見上げれば無数の星の光。
「寒くはないか?」
『少し』
さすがに上空の空気は冷たい。
かじかんだ手に息を吹きかけ温める。
『おぉっ!?』
急に強い風が吹いてバランスが崩れる。
手が箒の柄を掴む前に体が強く後ろに引っ張られた。
「両手を離すな。落ちたらどうする?」
『あ、ありがとう』
「まったく。世話が焼ける」
背中に感じるスネイプ教授の体温。
吐息を感じるほど耳の近くで話されて体がビクリと跳ねる。バリトンの声が心地よく響き、全身を柔らかいビロードで包まれているよう。
『暖かい』
甘い痺れを感じていると、スネイプ教授が着ているマントの中に包まれる。
私は隙間から風が入らないようにマントを体の前で合わせた。
「何度も同じ注意をさせるな」
再び両手を箒から放した私に呆れた声。
『押さえていないと風でマントが翻ってしまいます』
体重を完全にスネイプ教授の胸に預けて見上げる。
「困った奴だ」
そう言いながらも優しい笑み。
私の腰に腕を回して落ちないように支えてくれた。
凛とした静けさ。触れ合った体からお互いの鼓動が聞こえてきそう。
果てしなく続いて見える夜空を見上げれば時のない世界に二人だけで閉じ込められたよう。
『……綺麗』
胸が熱くなり、頬に暖かい涙が伝った。
***
『押さえていないと風でマントが翻ってしまいます』
そう言いながら雪野は体を我輩の胸に預けてきた。
マントに包まれてあたたかいらしく、とろけるような満足気な笑顔でこちらを見る。
体に感じる雪野の体温、そしてこの笑顔。
胸が痛むほどの愛おしさが込み上げてくる。そして甘い熱に酔う感覚。
「困った奴だ」
雪野の腰に手を回す。
我輩に無防備なほどの信頼を寄せて体を預け、星空を楽しむ彼女。
今、君の瞳に我輩は映っているのだろうか。
今、君の心に我輩はいるのだろうか。
星空にすら嫉妬する。
『……綺麗』
吐息混じりの甘い声。
星空に心を奪われた彼女の目から一筋の涙が伝う。
その姿は美しい絵画のよう。
抱きしめているのに手が届かない所にいるような感覚に陥る。
『スネイプ教授?』
存在を確かめるように強く抱きしめる。
嫌われてもいい。
男として見て欲しい。
彼女の心に自分の存在を刻み込みたい。
『ん……』
琥珀色の瞳が揺れる。
柔らかい唇の感触。
雪野の閉じ合わされた睫毛が細かく震え、冷たかった唇が熱を帯びていく。
「メリー・クリスマス」
『め、メリー……クリス……マス』
震える声で言い、雪野は前を向いて俯いた。真っ赤な耳が星明りの中に見える。
いつの間にか彼女の頭上に現れていた宿り木から実を摘んだ。