第2章 純粋な猫
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14.見回り
マグル出身のジャスティンが襲われ、ゴーストであるニックとユキが石化されたことで生徒たちはパニック状態に陥った。手がかりが掴めない中、せめてもと教師たちは夜の見回りをしている。
ユキは作成した見回りシフト表を持って校長室を訪れていた。
『フォークスの成長は早いですね』
いつの間にか生まれ変わった不死鳥は灰の塊のようでお世辞にも可愛いとは言い難かったが徐々に羽が生え変わり美しい姿へと成長してきている。
ユキは愛らしい雛鳥を優しく撫でた。
『翼に赤や金の羽が混ざってきていますよ!』
「ほう、そうか」
机にかじりついているダンブルドアの答えは素っ気ない。
『君のご主人は随分冷たいね。こんな狸爺に見切りをつけて私のペットにならない?』
フォークスは美しい声で鳴いて甘えるように手を甘噛みした。満更でもなさそうだ。
「儂の目の前でフォークスを口説くとはいい度胸じゃのぅ」
執筆を中断してダンブルドアが顔をあげた。
「しかし、不死鳥は主人に忠実なペットなのじゃ。のう、フォークス」
フォークスはグエッというゲップをしてそっぽを向いた。
『ぷっ。いいぞ、フォークス』
「きぃぃぃぃぃくらえ!!!」
奇声を発しながら呪文を放ってきた。
頭を傾けて避ける。
レダクトだったらしい。後ろにあったトロフィーが粉々に砕け散った。
「あぁぁぁぁぁ儂のソロモン書房文学新人賞のトロフィーがぁぁ」
ダンブルドアが絶叫してフォークスが不快そうに鳴く。
『自業自得だ。ばーか。ばーか』
髭をグシャグシャしながら嘆くダンブルドアを見るのは愉快だ。
「ユキが避けるから悪いんじゃ」
『レダクト受けてたまるかっ。そもそも、色んな呪文があるのに何で粉々呪文なのよ』
「人に使えそうな呪文じゃ効果なさそうじゃろ」
ダンブルドアは唇をアヒルのように突き出し、指で髭を弄びながら言った。
『じじぃ』
「儂はまだじじぃではないわっ。見よ、この割れた腹筋を!」
『ひぃっ。パンツまで見せないでよ!変態っ』
「父親に対して暴言は許さんぞ。この、ひよっ子大食怪力バカ娘がっ」
『……言ったわね!許すまじ、スコージファイ』
「きゃあっ」
ダンブルドアが甲高い悲鳴をあげた。
粉々のトロフィーは跡形もなく消えた。
『これでレパロもできない。ザマー見やがれ』
「儂のトロ、トロ……」
泣き崩れたダンブルドアは悔しそうに拳で床を叩いている。
『ふふ。またねー。これ、サインしてミネルバによろしく』
ユキはシフト表を魔法で机に飛ばし、籠にあったレモンキャンディーを一掴みし鼻歌交じりで校長室を出て行った。
静かになった校長室。
嘆く主人を無視して毛づくろいするフォークス。
「この恨み……必ず晴らしてくれる!」
ダンブルドアは机に戻り、呪いの言葉を呟きながら鼻息荒く原稿の続きを書き始めた。
***
見回りは夜10時からペアで行われていた。
各寮監は寮生が欠けていないか就寝時間前にチェックすることになっている。
ユキは今晩の見回りペアであるスネイプと待ち合わせるためにスリザリン寮の入口まできていた。
『10時15分か』
時間に正確なスネイプ教授が遅れるなんて珍しい。
何かあったのかもしれない。
『合言葉……んー純血?』
当てずっぽうに言ったがあっていたらしい。壁に隠された石の扉がスルスルと開いた。
天井が低く、荒削りの石造りの壁。湖の真下にあるのでどこか湿っぽく陰気臭い。
緑色のランプの下、スネイプ教授と話をしているのはデリラ・ミュレー。
『こんばんは』
声をかけると二人同時に振り向いた。
その表情からは驚きが読み取れる。
驚かさないように気をつけているのだが、いつもこうなってしまう。
「雪野か……もう時間か?」
『10時15分です。何かあったのかと思い勝手に入ってきてしまいました。すみません』
「こちらこそ、すまない」
ふとデリラを見ると目を真っ赤にして泣いていた。
見られたのが気まずかったのかサッと顔をそらされる。
『影分身もありますから今夜の見回りは私一人で行きますよ』
「いや。彼女との話はもう終わった。雪野、行くぞ」
「待ってください!」
歩き出そうとするスネイプ教授のマントをデリラが掴む。
「Ms.ミュレー、まだ何か用かね?」
「行かないでください」
「話すことはもうない」
「わ、私はあります」
「それ以上言うと減点しますぞ」
必死にすがりつくデリラと素っ気ないスネイプ教授。
石化事件で精神不安定になってしまっている生徒は多い。犯人の目的が本当にホグワーツからマグル出身者を追い出すことなのか分からない。現にゴーストのニックが襲われているのだ。
ユキの前ではツンとした印象のある彼女だが、内心は心細く、寮監の先生には甘えたいのだろう……
『Ms.ミュレーの側にいてあげてください』
「君まで何を言っているのだ」
『不安な気持ちになっている生徒を慰めるのも寮監の仕事ですよ。ね、Ms.ミュレー』
「えっ……う、うん」
視線を合わせるように屈んで問うとデリラは驚いた顔をしながらも首を縦に振った。
上から呆れたため息が降ってくる。
「見当違いだ、雪野。Ms.ミュレーは不安で泣いているのではない」
『そうですか……ですが、まだ話は終わっていないようですし』
「見回りは二人ひと組の決まりだ」
『影分身をだしたら二人になりますから大丈夫ですよ』
「なにが大丈夫だ。それ以上、影分身が石化したらどうする?石化が増えるたびに弱っている事に我輩が気づかないとでも思っているのか?」
『弱ってなんかいません。私は体力魔力ともに健康ですよ』
「では、我輩が渡したこの指輪の色、君はどう説明するのだね?どうしてこんなに濁った色をしている?」
手首を掴まれて目線まで持ち上げられる。
貰った直後、ほぼ透明に近かったアメジストの紫は今では濃い紫に変わってしまっている。
外しておくべきだったと後悔。
「そ、その指輪って、スネイプ教授が贈ったものなんですか?」
「さよう」
デリラは声を震わせ、大きく目を見開き指輪を見ている。
「そんな、なんでよ。私からはプレゼントさえ受け取ってくださらないのに。こんな、どこの馬の骨とも分からない、穢たち血の女なんかと―――」
「いい加減にしろ、ミュレー!」
ヒステリックに叫ぶデリラの声をスネイプ教授が遮った。
石の談話室に怒声が反響する。
生徒なら誰でも震え上がるような形相で怒りを露にしているスネイプ教授にデリラは固まってしまっている。
『そ、そこまで怒らなくても』
場を収めようと口を挟む。
「何であんたが私を庇うのよっ!!」
逆効果だったようだ。
「待て、Ms.ミュレー!」
デリラは私を突き飛ばして談話室から外へ出て行ってしまった。
『私、また空気を読まずにやっちゃったみたいですね……』
「この件は気にするな。頭を冷やさせるために
『私たちもともと見回りの予定ですから謝る必要ないですよ。行きましょう』
談話室から出るとデリラの姿はすでになかった。
『手分けして探しましょう。スネイプ教授は地下をお願いします。影分身の術!城の最上階から順に探して』
ポンと現れた影分身は階段を駆け上っていく。
「影分身は体に負荷がかかるのであろう。無理をするなよ」
『大丈夫ですよ』
「お前の“大丈夫”は信用ならん」
『失礼な』
「君が心配でたまらないのだ……」
スネイプ教授の細くゴツゴツした指がすっと頬を撫でた。
私の顔がカァっと赤くなる。
「できることなら首輪でもつけて目の届く範囲に置いておきたいものだ」
危ない発言が聞こえて一気に体温が下がった。
今の私は青ざめているだろう。
「冗談だ」
嘘だ。
目が本気だと言っている。
『それでは、上、探してきます』
身の危険を感じて影分身を追い階段を駆け上がる。
走りながら脳内でスネイプ教授のあだ名を決めた。“俺様サディスト陰険贔屓魔法薬学教授”だ。
少々長いがスネイプ教授の人柄をよく表したあだ名だと思う。
誤解を招かないように言っておくが、私は決してスネイプ教授が嫌いなわけではない。
それにしても……
『見つからない』
くだらないことを考えながらも真剣に探していたがデリラが見つからない。
時計を見ると10時45分。
かれこれ30分も探し続けていることになる。
ホグワーツの城は広く、隠れられたら探しだすのは難しいとわかっているが焦りが出てくる。
『っ!』
廊下を抜けたところで全身を針で刺されたような痛みが走り、座り込む。
嫌な予感……
「見つかったか?」
脂汗を拭いながら下を見ると揺れるランタンの光り。
どうにか立ち上がってスネイプ教授が階段を上がってくるのを見る。
手摺に捕まり呼吸を整える。
「地下にはいないようだ。念のため寮にも戻ったが帰ってきていない」
『城の外に出たとか?』
「雪も降っている。外にいる可能性は低いだろう」
『三階まで見ました。手分けして上のひゃうぅ』
氷のシャワーを潜ったような感覚。
スリザリンのゴースト、血みどろ男爵が私の体をすり抜けたようだ。
「いい声で啼くな。もっと聞かせてほしいものだ」
体が冷たすぎて麻痺したようになった。
振り返って口角を上げているこのゴーストもサディスト決定だ。
「男爵、悪いが我々は仕事中だ。戯れはやめて頂きたい」
ややイライラした顔、硬い声のスネイプ教授を見て血みどろ男爵は何がおかしいのか喉の奥でクツクツと笑っている。
「学生の頃から変わっていないな。分かりやすい」
「なっ!?」
『おぉっ!スネイプ教授の学生時代、興味あります』
スネイプ教授もスリザリン生、血みどろ男爵なら学生時代の様子をよく知っているだろう。どんな学生生活を送っていたのか興味がある。
「今はそんな話をしている場合ではない」
焦った声のスネイプ教授、これは楽しそうな話が聞けそうだ。しかし、彼の言う通り今はゆっくり話を聞いている時ではない。
『男爵、スリザリン生のMs.デリラ・ミュレーを見ませんでしたか?』
「そのことを伝えに来た。彼女は上にいる」
血みどろ男爵が上階を指さした。
「君の彫刻と一緒に」
私が唇を噛む横でスネイプ教授が悔しそうに小さく呻いた。
『Ms.ミュレーは無事ですよね?』
「あぁ」
『行きましょう、スネイプ教授』
ちょうど階段が動いて男爵が指さした廊下につながった。
スネイプ教授と廊下を駆け上る。
後ろから「我々はいつでも歓迎する」という不吉な男爵の呟きが聞こえた。
薄暗い廊下。
湿っぽい匂いと廊下を吹き抜ける冷たい風。
遠くから少女のすすり泣く声が聞こえてきた。
「Ms.ミュレー!」
スネイプ教授が掲げたランタンの光りの中にぼんやりと人影が浮かび上がった。
目に入ってきたのは石像になった私の後ろ姿。
『もう大丈夫よ』
周囲に警戒しながら石になった私に近づく。
「……スネイプきょ、じゅ……ひっく……雪野きょじゅ……うぅ」
デリラは石化した私に抱かれたまま、鳩尾のあたりに埋めていた顔をあげた。
私たちの顔を見て安心したのか肩を震わせしゃくり上げながらわぁっと泣き始めた。
石化した私の腕の中、いつ襲われるか分からない恐怖に耐えていたのだろう。
スネイプ教授と協力して壊さないように注意しながら石化した私とデリラを引き離す。
「怪我はないかね?」
デリラはローブの袖で涙を拭いながらコクンと頷いた。自然と私たち二人の口から安堵の息が漏れる。
『怖い思いをさせてごめんなさいね』
「せ、先生が謝ることじゃ、な、ない。私のせいで、先生が、い、石に……」
『影分身だから気にしないで。私がいたのに怖い思いをさせてしまったわね。でも、スネイプ教授も来たしあなたはもう安全よ』
「あ、安全なんかじゃないの!」
恐怖で目を見開き声をあげるデリラは震える手で自分を抱きながら続ける。
「きっと気づかれたのよ……また、襲われるかも、私……」
『気づかれたって?』
「私、私―――本当は純血じゃないのっ!」
デリラはそう言って両手で顔を覆って先程よりさらに激しく泣き始めた。
彼女は泣きじゃくりながら、自分はミュレー家を家出した母親とマグルの父親の間に生まれたこと。
その両親が他界して母の兄であるミュレー家に養子として引き取られたことを話した。
半純血であることは誰にも言わないようにと幼い頃から厳しく言われてきたらしい。
「私はスリザリンなのにマグルの血が混じっている。継承者はそれを見抜いて私を襲ったんだわ。きっと継承者は純血のフリをしている私を許さない。また襲ってくる」
ガタガタと震えながらしゃがみこむデリラを優しく抱きしめる。
魔法使いの名家ミュレー家の名を持つ彼女は誰にも辛い気持ちを打ち明けることができず一人で苦しんできたのだろう。
『もう二度と、あなたに怖い思いはさせないわ』
顔をあげたデリラの目を見て気持ちが伝わるように手をぎゅっと握って言う。
『どんな相手だって私は負けたりしない。あなたに指一本触れさせたりしない。ホグワーツに来るまでに忍として働いた私の任務成功率は100パーセントなのよ。だから、デリラ、あなたは何も怖がる必要ないわ」
「ユキ先生、うわぁぁん」
デリラが胸に飛び込んできた。
この騒ぎがおさまったらデリラに純血や混血、流れる血なんか関係ない。血筋よりも大切なことがあると伝えたい。
名家の重圧に臆することなく自分らしく生きて欲しいと伝えたい。
そんな思いを込めて腕の中の少女を強く抱きしめる。
「あっ、ユキ先生、体は?」
弾かれたように体を離したデリラは私の手を取って指輪を見た。
ランタンの灯りに光る指輪。
「透明に近い紫?あの、スネイプ教授これはどういう意味ですか?」
「……雪野の体調が悪くなるほど石の色は濁る仕掛けになっている」
『そう。だから、私はいつも通り元気いっぱいなわけ。強いて言うならちょっと小腹が減っているくらいかな』
おどけたように言うと微かだがデリラの口元に笑みが浮かんだ。
どこからか11時を告げる鐘の音が聞こえる。
「立ちたまえ、Ms.ミュレー。寮まで送っていこう」
「ご迷惑おかけしました、スネイプ教授。あの、ユキ先生、私が純血じゃないってこと誰にも言わないでくれませんか?」
そう言いながら不安げな瞳でこちらを見た。
『言わないよ。でも、打ち明けられる友達ができるといいね。デリラも今日起こったこと誰にも言わないで。分身とはいえ教師が3体もやられたんじゃ職を失いかねないから」
「もちろんです。言いません。ありがとうございます。おやすみなさい」
『おやすみ』
ペコリと頭を下げるデリラにヒラヒラと手を振る。
「雪野は我輩が戻ってくるまでここにいろ」
『えー待ってるの寒いです。影分身だして医務室にコレ運んでおきます。今日はここで解散にしましょうよ』
「事件が起きた以上、現場検証の必要がある」
『めんどくさー』
「五月蝿い!勝手に医務室へ行っていたら、その時はクリスマスの七面鳥は一切口に入らないと思え!」
『うげっ。絶対ここから動きません!』
ミネルバに告げ口されればいくら屋敷しもべ妖精に頼んでも七面鳥は食べられなくなってしまう。
七面鳥を人質に取られてはここを動くわけにはいかない。
『キツイな……』
体の痛みと痺れが続いている。
一人になった廊下、デリラのために平気なフリをしていたが限界だ。
仰向けに寝そべると疲労感もどっと押し寄せてくる。
石化した自分の口元と手に目を移すと火遁・火炎砲を放ったらしい。
焦げた天井が広範囲で剥がれている。
『また壊しちゃったのね……ルーモス』
杖に光をつけて天井の剥がれた箇所を見る。
錆び付いた太いパイプが通っていた。そのパイプには人ひとりが通れるほどの大きな裂け目。
湿っぽい匂いと冷たい風はここから流れてきているようだ。このパイプも私が壊したのだろうか?
焦げているようには見えない。
自然に劣化して壊れたようにも見えない。
あ……眠ってしまいそう……
急に強い眠気が襲ってくる。目を開けていられない。
遠くの方からスネイプ教授の足音が聞こえてくる。
眠っちゃダメだ。
お腹も減ってるし……この後起きて厨房に行きたい……
頭の中に美味しい料理を思い浮かべながらユキは夢の中に入ってしまった。
***
焦って駆け寄ったスネイプだがユキの顔を見てため息をついた。
「確かに動いてはいないが……」
大の字になって気持ちよさそうに寝ている忍術学教授を見下ろす。
にやけた顔で口をむにゃむにゃと動かしている。
「起きろ。風邪をひくぞ」
肩を揺すってみても起きる気配がない。
抱き上げると寄り添うように胸に頭を寄せてきた。白く細い手が我輩の服を握り締める。
「お、おい。雪野」
心臓の鼓動が早くなる。
少し開いた唇に理性が掻き乱される。
『あ』
「何だね?」
『んー豚の丸焼きじゃなくて、私は……牛の丸焼きを注文……』
雪野の馬鹿な寝言を聞いて体の力が一気に抜ける。それと同時に掻き乱されていた理性も戻った。
豚や牛の丸焼きを売っている店が実際にないことを祈る。
『――いららきまふ』
「あっ馬鹿者!」
寝ぼけた雪野が我輩の服のボタンに噛み付いて引きちぎった。
胸元のボタンの一つは弾け飛んで廊下に転がっていきもう一つは……。
『……おいひーんー……』
雪野がゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
「なんて奴だ……」
満足したのか幸せそうな微笑みを顔に浮かべ、雪野はそれきり何も言わなくなった。
先ほどの奇行が嘘のよう。
母親に抱かれた幼子のように安心しきった顔ですやすやと眠っている。
「まったく、変な女だ」
月明かりに照らされる雪野の顔を見る。
雪野の影分身がハロウィンパーティー中に石化した時はナイフを取り落とし、僅かに手が震えていただけで直ぐにいつもの顔色に戻った。
二体目が石化された時は、床に倒れ、しばらく歩くことが出来なかった。
そして今回の三体目。
「やはりミュレーには術をかけていたようだな」
雪野の指にあるアメジストは黒に近いほど紫の色が濃くなっている。
影分身の石化が増えるほど雪野は弱ってきている。魔力体力の消耗が激しいのか食事の量も増えてきている。
ユキを医務室のベッドに運んだあと、スネイプは三体目になるユキの影分身も医務室へと運んだ。
規則正しい呼吸を繰り返し深い眠りの中にいるユキの手を握っていたスネイプの胸が驚きで激しく波打つ。
初めは光の加減か目の錯覚かと思ったが、違う。
ユキの黒髪が頭頂部から徐々に色を変え、毛先まで灰色へと変わっていった。
「一体何が……雪野、雪野!」
思わずスネイプはユキの肩を揺する。
小さなうめき声とともに開いた瞳を見て、スネイプは言葉を失った。
『スネイプ教授……?ここは、医務室ですか?』
琥珀色へと変わっていた黒い瞳。
ベッドの中、己の変化に気づいていないユキは呑気に腹の虫を鳴らしながら、衝撃で凍りつくスネイプを見て首をかしげていた。