第2章 純粋な猫
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12.決闘クラブ
憂鬱、とはっきり顔に書いてユキはロックハートと合同授業の打ち合わせをしていた。
交互に授業内容を考えているのだが、毎回ロックハートの考える授業計画はろくでもない。
魔法界のことに詳しくないユキでも分かるような出任せの知識を授業の間中喋りまくる、ロックハート英雄劇上演(ユキはいつも襲われそうになる所を助けられる役)、マーリン勲章を受賞された経緯の自慢話……
合同授業は試験もなく毎回出る必要もない。興味のある生徒だけ参加できる仕組みになっている。
ろくでもないロックハートの授業に生徒が集まらなくなるのではないかと心配したこともあるユキだったが、一部の熱狂的なファンによって授業は毎回盛り上がっていた。
ハアァ去年のクィリナスとの合同授業打ち合わせは有意義な時間だったな。
「……にしたいと思います。素晴らしいアイデアだと思いませんか?」
『えっ。あ、ごめんなさい。聞いていませんでした』
考え事をしている間になにか聞かれていたらしい。
全く聞いていなかった。
聞いていたとしても、きっとしょうもない話なのだろうが……
「いいですよ。言葉が聞こえないほど私に見惚れていたのでしょう」
『はあ』
適当な返事を返すとロックハートと部屋中の自画像がキザなポーズをしながらウインクしてくる。実に鬱陶しい。
『それで、次の合同授業というのが――』
「決闘クラブです!」
『決闘クラブ!?』
物騒な言葉をオウム返しで聞き返す。
「先程お話しましたように、私は諸国を歩き回りながら魔法戦士の決闘トーナメントに出場してきました。優勝回数は多すぎて数えられませんが、どの魔法戦士も私の名を聞くだけで杖を投げ出し棄権してしまう」
ロックハートは完璧なスマイルと白い歯を光らせて得意げに笑った。
『決闘なんて危険なのでは?』
「今の状況を考えてみてください、ユキ。ホグワーツは不穏な空気に包まれています。自分の身を護れるようになったほうが生徒も安心するでしょう」
たしかに……
コリンが石になってから生徒たちの間ではインチキ臭い魔除け、お守りが爆発的に流行っている。
生徒たち、特にマグル出身の生徒は、次は自分かも知れないと不安に思っているのだ。
『決闘クラブ。ぜひやりましょう、ロックハート教授』
少しでも生徒の中にある不安を取り除けるならと思い同意する。
『少し大掛かりになりそうですね』
「数々の危険な生物を実際に倒してきた私から直接レクチャーを受けられる機会ですからね。普段より受講者数は増えるのは当然でしょう」
否、むしろロックハートの名前を出すと人が集まらない気がする。
掲示板には講師の名前を出さないようにしようと思う。
『念のためダンブルドア校長に許可を頂いておきます。それから、もう一つ。教えるのは武装解除の術と防御呪文だけにしましょう。生徒同士ですから何があるか分かりません。怪我をさせないようにしっかり監督しなくてはいけないですよね』
「ユキは心配性ですね。私がいれば問題ありませんよ」
お前がいるから不安なのだ。とは言えず、
『生徒に万が一にでも危険が及んだら困りますから』
と言って微笑む。
「ユキは外面だけでなく、内面もガラスのように透き通った美しい心を持っている」
大げさな身振りで話すこの男はあてにならない。
私の影分身も出す数には限りがある。
どうしたものか……
「それでは、どなたかに協力をお願いしましょう」
珍しくロックハートがまともな事を言った。
『それなら安心です』
即同意する。
どの教授もロックハートより闇の魔術に対する防衛術に詳しいに決まっている。
『どなたにお願いいたしましょう?』
「助手の先生は私が探しておきます。どの先生も私の実践的で有意義なこの講義に好意的に協力してくださるでしょうから」
『よろしくお願いします』
宜しくと言ったものの、ユキは誰も協力してくれなかったらどうしようと心配になる。
その横では、ある企みを思いついたロックハートが悦に浸った笑みを浮かべていた。
***
決闘クラブ当日。
私は大広間の机を動かし合同授業の準備中。
長いテーブルを一つ大広間の中心に移動させて、上に布を被せる。
『これで、よし』
机の上からぐるりと大広間を見渡す。ここから見れば生徒たちの様子はよくわかる。
熱が入りすぎて危険な行為をしようとする生徒がいたら直ぐに止めに入ることができるはずだ。
「よかった!今日はユキ先生が進行役の合同授業だったのですね」
一番乗りで入ってきたのはドラコを先頭にしたスリザリン二年生。
「ロックハートが主な講師だったら帰ろうと思っていたんです」
「あら、ドラコ。ロックハート先生はとても勇敢で素晴らしい魔法使いなのよ」
「パンジー冗談なら面白くないぞ。あれのどこが素晴らしいか説明してほしいものだね」
「彼の著書を読んでないから、そんなこと言うのよ」
パンジーは不満そうに頬を膨らませた。彼女も熱烈なロックハートファンの一人なのだ。
数人の女子生徒はパンジーの言葉に頷いているが、それ以外の生徒は理解できないといったように肩をすくめるか、ため息をつきながら首を横に振っている。
話をしている間に他の生徒たちも続々と大広間へと入ってくる。
決闘という非日常的な言葉に生徒たちは興奮と期待で一杯のようだ。
『まずは説明があります。皆、テーブルに立っている私が見える位置にきてね』
もうすぐ7時
私は生徒たちがそれぞれの場所に落ち着いたのを見て教師控え室に行く。
扉を開けるとそこには―――
『スネイプ教授!』
壁際に不機嫌そうな顔をしたスネイプ教授が立っていた。
「私の可愛いスミレちゃん、準備は整いましたか?」
『ばっちりです。生徒も集まっていますよ』
「私の指導を直接受けられるチャンスですからね。全校生徒が集まっているでしょう」
『ところで、決闘クラブの助手って……』
キラキラ光る笑顔を無視して問いかける。
「勇敢にもスネイプ教授が助手を引き受けて下さいました」
ロックハートが“勇敢にも”と言った瞬間、スネイプ教授の顔に青筋ができた。
毛嫌いしているはずのロックハートの頼みを聞くなんてどういう風の吹き回しだろう。
「我輩が助手では不満かね」
腕を組みボソリとスネイプ教授が言った。
『とんでもない。正直、誰も助手を引き受けてくれなかったのではないかと冷や冷やしていました。スネイプ教授の姿を見て涙が出そうになるほど安心しましたよ。ありがとうございます!』
深く深く頭を下げる。
頭を下げているので表情は見えないが空気が柔らかくなった気がした。
「さぁ、ショータイムの時間になりました。お二人共準備はよろしいですか?」
ロックハートが大げさに手を広げた。
『ショータイムって?』
「いちいちあいつの言うことを気にするな。雪野、君はこの合同授業の担当教師だ。先を歩け」
熱気に包まれた大広間に入っていく。
派手な金色のマントを纏ったロックハートが長テーブルの簡易舞台に登場すると、大広間のあちらこちらから女子生徒達の黄色い悲鳴が上がった。
完璧なスマイルを振りまきながらウインクや投げキスをしている。
『教師よりも向いている仕事がありそう』
「真剣に転職を考えてもらいたいものだ」
失礼な会話をしながらロックハートが決闘クラブについて説明しているのを聞く私たち。
「私と雪野先生がみなさんをしっかりと鍛え上げてあげましょう」
『ったく。相変わらず大事な注意事項を言うのを忘れている』
階段を上って舞台に上がり満面の笑みのロックハートの横に立つ。
『今日の決闘クラブで使う呪文は二つ。相手の武器を取り上げる武装解除の術。呪文はエクスぺリアームス。それから、自分の身を守る防御呪文のプロテゴ。この二つ以外の呪文は使わないでください』
私が言うと生徒たちからは「えーー」と不満げな声。
呪文を打ち合う激しい決闘を思い描いていたのだろう。
「静粛に、皆さん!どんな偉大な魔法使いでも、そう私であっても初めは簡単な呪文から練習しました。早る気持ちは分かりますが、私の講義を聞いて練習すれば皆さんもいずれ私のような優秀な魔法使いに近づくことができるでしょう!」
キラリと白い歯を光らせながらロックハートは続ける。
「さて、本日は受講者数が多くなることを予想して助手の先生をお願いしています。ご紹介しましょう、助手の魔法薬学教授のセブルス・スネイプ教授です!」
助手、助手と強調されて紹介されたスネイプ教授は眉間に縦皺を刻み、舞台へと上がってきた。
背中に黒いオーラが見える気がする。
「スネイプ先生が仰るには、決闘についてごくわずかご存知らしい。模範演技をするにあたり勇敢にも手伝って下さるという了承を頂きました。ご心配せずとも、みなさんの魔法薬学教授を消したりはしませんよ。ご心配なさらぬように!」
横のスネイプ教授からの殺気が痛い。
これほどの殺気を受けながらロックハートはよく飄々と話していられるものだ。
彼は意外と大物なのかもしれない……
「みなさん、決闘は何かを賭して行われます」
私は急にロックハートに強く手を引かれ、肩を抱かれた。
女子生徒が悲鳴に近い声をあげた。
「この決闘はホグワーツの美しき華、ユキ・雪野先生を賭けて戦うことにしましょう。闘いの勝者に与えられるのは麗しき花の化身、ユキ先生からの祝福のキスです」
女子生徒から黄色い悲鳴と、男子生徒からの大ブーイング。ロックハートは跪いて私の手の甲に口づけを落としている。
全身に鳥肌が立つ。
「ふざけた真似を」
不機嫌そうに上唇をめくり上がらせてスネイプ教授が言った。
『突然そんな事言われても困ります』
「ハハハ。心配することはありませんよ。スネイプ教授には悪いですが杖ひと振りで勝ってご覧にいれましょう。彼にユキを渡したりはしません。安心して見ていて下さい」
ロックハートは脱いだローブを私に無理矢理押し付けて舞台の端へと歩いて行ってしまった。
『人をゲームの景品みたいに扱うなんて』
殴り飛ばしたくなる衝動を抑えるために深呼吸。背後から「羨ましい」と声が聞こえたので、その女子生徒の方にローブを投げる。
ローブは女子生徒たちの中に消えていった。
スネイプ教授を見ると呪い殺しそうな目でロックハートを見つめている。
『スネイプ教授、あ、あくまで模範演技ですから武装解除か防御呪文以外は使わないでくださいね』
「うっかり呪文を言い間違えなければな」
目が据わった状態で口元を歪めているスネイプ教授も位置に着く。
妙に癪に障るロックハートの笑顔を見ていると“うっかり”が起こってもいいような気がしてきた。
「ご覧のように私たちは作法に従って杖を構えています」
決闘の説明が始まる。
決闘の知識は本で読んだだけで実際に見るのは初めてだ。ロックハートはクネクネと変わった礼をしてスネイプ教授はグイっと頭をさげた。
「三つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、お互い相手を殺すつもりはありません」
余裕たっぷりの笑顔のロックハート(この自信はどこからきているのだろう)に対して鬼の形相のスネイプ教授。
どこからかハリーの「相打ちになればいいのに」という呟きが聞こえてくる。
『1――2――3――』
私のカウントで二人は杖を肩より高く振り上げた。
「エクスペリアームス」
バリトンの声が大広間に響く。
紅の閃光が直撃したロックハートは吹っ飛び、壁に激突して、無様な姿で床に大の字になった。
スリザリン生徒の歓声とロックハートファンの女子生徒の悲鳴が入り混じる。
『お見事』
「あんな相手だ。賛辞などいらん」
『ですが、かっこよかったです』
綺麗なフォームに無駄のない動き。
決闘なのに美しいとまで感じてしまった。
「そんなに見つめるな。鬱陶しい……」
先ほどの決闘を思い返そうとしてじっと見つめていたようだ。
『あ、すみません』
謝るとスネイプ教授は軽くゴホンと咳払いをしたあと、少々顔を紅潮させて袖口を直した。
『みなさん、今スネイプ教授が見せて下さったのが武装解除の術。エクスぺリアームスです』
生徒に説明しているとロックハートがボサボサになった髪を手で整えながら起き上がった。
「そうです。おかげで私は杖を失ったわけです―――スネイプ教授は素晴らしかったですが、遠慮なく言わせて頂きますと余りにも何をなさろうとしたか見え透いていました。止めようと思えば簡単に止められたわけですが、模範演技なので生徒に見せた方がよいと思いましてね―――」
どこまでもめげない精神力には敬意を表したい。
ちなみに隣のスネイプ教授は決闘前より殺気立った。
「さぁ、皆さん。武装解除の術の次は防御呪文です」
ロックハートがこちらを振り返った。
いつもの完璧なスマイルとはどこか違う、何かを企んでいるような笑み。
嫌な予感がするな……
「次は雪野先生とスネイプ教授に模範演技をしていただきましょう!」
ロックハートの言葉に生徒たちからどっと歓声が湧き上がった。
思いがけない提案に目を瞬く。
「スネイプ教授が手本を見せて下されば、ユキ先生は忍術を使っていただいても構いませんよ」
『……今日は忍術を使いません』
忍術を使っては講義の趣旨と違ってきてしまう。
「ロックハートの奴、作戦を変えてきたようだな」
『作戦?』
「気にするな。こちらの話だ。それで、どうする?我輩と決闘するのかね?ロックハートのように無様な姿を生徒に晒したくなければ棄権するという手もあるが」
ニヤリと挑発的な笑みを向けられ、闘争心が沸き起こる。
やってやろうじゃない!
『受けて立ちますよ。忍術を使わず魔法だけでもスネイプ教授に勝てるようになりたいですからね』
「ほう。その言い方だと忍術を使えば君の勝利が決まっているように聞こえるが?」
『そういう意味で間違いないですよ』
室温が下がるような舞台上での静かな口喧嘩を生徒たちはシンと静まり返って成り行きを見つめている。
日頃から何かと噂されている二人の直接対決。
大広間の空気は緊張と興奮で張り詰める。
「それでは模範演技を見せていただきましょう。スネイプ教授、生徒に見せる手本ですから雪野教授が女性だからといって手加減しないで下さいね」
いつもの完璧なスマイルではなく、意地の悪い笑みを浮かべたロックハート。
「「師匠!やっちゃえ!」」
拳を突き上げて叫ぶフレッドとジョージ。
「ユキ先生、怪我しないでね」と優しいハリー。
「応援しています。スネイプ教授」
熱っぽい声でデリラ・ミュレーの声。
「手加減してあげて下さい」
心配そうな声でドラコがスネイプ教授に声をかける。
スネイプ教授は「お望みならハンデをやってもいいが、どうかね?」と私の方を向き直った。
『不要です。それより負けた時のことを考えて、余計なことを喋らない方がいいと思いますけど』
「……いいだろう。覚悟するといい」
私の挑発の言葉でスネイプ教授の中の遠慮が消えたらしい。
これでいい。
自分の魔法の腕を試せる滅多にない機会なのだから本気で戦いたいのだ。
「それでは、お二人共構えて」
向かい合い、杖を構えて礼をする。
「1――2――3――!」
耳障りな、どこか楽しげなロックハートのカウント。
杖を肩の上まで大きく振り上げる。
速さでは負けない!
『エクスぺリアームス』
私の杖から出た赤い閃光は真っ直ぐとスネイプ教授へと飛んでいく。
「プロテゴ!エクスぺリアームス」
しかし、体に当たる直前に呪文は消され、すぐさま武装解除の呪文が飛んでくる。
反応が早い。
思った通りの実力者だ。
『プロテゴ』
「エクスぺリアームス」
『ップロテゴ。エクスペリアームス!』
「プロテゴ。エクスペリアームス」
『っく……』
「………………」
『…………』
「……」
目の前で繰り広げられる無唱呪文合戦を唖然とした顔で見ている生徒たち。
防御呪文で防ぎ、武装解除呪文を相手に放つ。お互いに一歩も譲らない。
二人の間で飛び交う赤い閃光。
終わりのない戦いに見えたが生徒たちは一斉に息を飲んだ。
『っ!?』
しまった!
防御呪文を唱えるタイミングが遅れた。
赤い閃光が体に突き刺さる。
私は腹部に重い痛みを感じながら後方に飛んでいく。
衝撃で手から離れてしまった杖は回転しながら生徒たちの中に落ちていく。
私は壁伝いにズルズルと落ちながら、こちらに走ってくるスネイプ教授を見つめた。
「雪野、大丈夫か?」
いつも以上にスネイプ教授の顔色が悪い。
『ちゃんと受身をとったから大丈夫ですよ』
周りを見る余裕があるくらいだったのだ。我ながら完璧に受身を取れたおかげで怪我一つしていない。スネイプ教授が駆け寄ってきた時には立ち上がっていた。
『私の負けです。参りました』
悔しいが私の負け。
二種類の呪文しか使っていなかったのにこの有様なのだ。本当の決闘だったら手酷くやられていただろう。
素直に負けを認めてスネイプ教授に頭を下げる。
大広間に来ていた全ての生徒がユキとスネイプの熱戦に対して拍手を送った。
「一瞬も気を抜けない良い試合だった」
差し伸べられた手を握り握手を交わす。
私の怪我を心配しているのか気遣わしげな瞳。
『ありがとうございます。また機会があったら相手をしてください。次は絶対に負けませんから』
「フッ。楽しみにしていよう」
魔法薬に関しても互いの実力を認め合う二人だが、決闘で互角の戦いをしたことで実戦面でもお互いの実力を認め合った。
互いに高めあえる人物を得られて二人の心の中は充実感で一杯だ。
「模範演技はこれで十分!これから皆さんを二人ずつの組にします。私が直接指導してあげますからね。ユキ先生、お手伝い願えますか?」
ロックハートの計画ではスネイプを決闘で打ち負かし、ユキに良いところを見せるつもりだった。
その作戦が失敗したので二人に決闘をさせたのだがこれもロックハートが思い描いていた結果とは違っていた。
ユキが忍術を使ってスネイプを負かすか、スネイプがユキを自分のように吹き飛ばして痛めつけるかすれば二人の関係は悪くなる。ロックハートはそれを期待していたのだ。しかし、結果は逆。
ロックハートはいつもの笑顔を壊しはしないが、内心のイライラは爆発しそうだ。
『誰か舞台上でモデルになってくれる組はいませんか?』
教師二組みの模範演技は極端に出来るか、出来ないかで参考にならない。
私は生徒同士の方が分かりやすいと思い声をかけて大広間を見渡した。
「マルフォイとポッターはどうかね?」
『えっ……』
スネイプ教授が最悪な組み合わせを提案した。
「名案です。おいで、ハリー。決闘の前にアドバイスをあげよう」
どこが名案なのよ!
日頃から仲の悪いグリフィンドールのハリーとスリザリンのドラコ。ひと波乱ありそう。
有無を言わせずロックハートはハリーを舞台上に引き上げる。
ドラコもやる気は十分らしい。スネイプ教授は小声で何かをドラコに吹き込んでいる。
手元を隠されているためスネイプ教授が何を話しているか分からない。
カチャリという音で視線を移せばロックハートが杖を取り落としていた。
「私の杖は張り切りすぎてしまったようですね……ハハハ」
笑いながら言い訳をしているロックハートを無視してハリーがこちらに駆けてきた。
「ユキ先生、さっきの防衛技、もう一度見せてくれませんか?」
「怖くなったのか、ポッター」
寮監とそっくりなニヤリとした笑みを浮かべてドラコが言った。
「そっちのことだろう。マルフォイ、棄権するなら今のうちだぞ」
両者の間に火花が見える。
始まる前から空気が悪くなってるわね……
「マルフォイ、ポッター、位置につけ」
「ユキ先生……」
『プロテゴかエクスぺリアームスよ。発音に気をつけて。自分の身を守るイメージを持って杖を振るのよ。落ち着いてやればハリーなら大丈夫。うまくできるわ』
「ありがとう」
私の言葉にハリーは笑顔で頷く。
「それでは皆さん、舞台に注目して!始めますよ、1――2――」
ロックハートが三を言う前にドラコが杖を振り上げた。
「サーペンソーティア!」
杖先から散った火花の中から黒い蛇が飛び出してきた。
首をもたげてシャーと威嚇の声を出す蛇に周りに居た生徒たちは悲鳴をあげて後ずさる。
『セブルス・スネイプ教授殿』
恐怖で固まってしまっているハリーを見た私の口からは思った以上に冷たい声が出た。
「ゴホン。ポッター、我輩が追い払ってやろう」
ハリーの様子を見て楽しんでいたスネイプ教授の顔が真顔に戻る。私の怒りは十分伝わったようだ。
スネイプ教授が杖を取り出している時に「私にお任せあれ!」と叫びながらロックハートが杖を振った。
『馬鹿』
蛇は巨大化しながら空中に飛び上がり、ベチャッと床に落ちた。
先程よりもシューシュー言って怒り狂っている。
当然だ。
蛇に同情する。
するすると動く蛇はハッフルパフ生のジャスティンの方に動き始めた。
捕獲のために術を唱えようと口を開く。
『ん?』
そのとき、ハリーが蛇に向かって蛇の出すような声で何かを叫んだ。
蛇はハリーをしばらく見つめたあと、不思議なことにとぐろを巻いて大人しくなった。
どうなっているの?
「わ、悪ふざけするなよ!」
ジャスティンは真っ青になって叫び、大広間から出て行ってしまった。
杖を振って蛇を消すスネイプ教授もハリーの行動に驚いているようだ。
「ポッターがパーセルマウスだったとは」
『それ、何です?』
「動物と話のできる者のことだ」
スネイプ教授と会話している間にハリー、ロン、ハーマイオニーの三人も大広間から出て行ったようだ。
大広間の生徒たちは不審な目でハリー達が出て行った扉を見ながらヒソヒソと囁き声で話している。
『静かに!合同授業を再開します。ペアの相手と向かい合って』
不穏な空気を打ち消すようにパンと手を打って指示を出す。
「このまま続ける気かね?」
『中止にする理由なんかありませんよ』
眉を寄せるスネイプ教授。
私はその横でニッコリ笑い、講義を再開する。
しかし講義の後に怪我人が続出したことで、ユキはマダム・ポンフリーからたっぷりお説教を受けることになり合同授業の再開を少々後悔したのだった。