第2章 純粋な猫
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11.秘め事
ロックハートの呪文が胸に直撃したユキは壁に叩きつけられ、気を失い冷たい床に伏した。
その様子を遠くから見た男が一人。
「ロックハート、貴様!」
「えっ、いや、これは……」
スネイプは鬼のような形相で近づき、ユキを抱き上げようとしていたロックハートを魔法で吹き飛ばした。
「何をするんです!」
「五月蝿い、この能無し!」
あまりの剣幕と率直な言葉にロックハートは肩をビクリと震わせて固まる。
ユキの隣にかがみ、手を口元に当てて息をしていることを確認したスネイプは規則的な呼吸にひとまず安堵の息を吐いた。
「雪野にかけた呪いは何だ?」
壊れ物を扱うように慎重にユキを抱き上げながら聞く。
「の、呪いだなんてそんな。私はただ、ボギー妖精の駆除呪文をユキ先生にお見せしていただけで」
「もういい、黙れ」
デタラメな呪文を唱えたのだろうと判断したスネイプはロックハートの言葉を遮った。
意識のないユキはぐったりとスネイプの胸に頭を預けている。
もともと白い顔はさらに血の気がなく白い。体重は軽すぎて抱きしめているか不安になるほど。
「ロックハート」
地の底から響くようなスネイプの声にロックハートは縮み上がる。
「これから先、雪野に指一本でも触れてみろ。我輩が思いつく最も強力な呪いをお前にくれてやる」
憎しみのこもった鋭く冷たい声で言い放ち、スネイプはロックハートに背を向けて、ユキに負担がかからないように慎重に歩き出す。
グリフィンドールの勝利とハリーの劇的なキャッチを見た生徒たちは興奮気味に庭を横切って城へと歩いていた。しかし、競技場に近い生徒からピタリと話すのをやめ道を開けていく。
その間を大股で歩いていくのは忍術学教師をお姫様抱っこした陰険贔屓魔法薬学教授殿だ。
生徒たちはこの様子を心配と好奇心の両方が入り混じった気持ちで口をあんぐりと開け見つめていた。
『うぅ……ん……』
城に入り、階段を上り始めた時にユキが小さな呻き声をあげた。
意識が戻ったらしく、薄らと目を開けてぼんやりスネイプを見つめる。
「雪野?」
『私は……?』
「ロックハートに吹き飛ばされて、気絶して倒れたのだ」
『……気絶。思い、出しました。すみません。また、迷惑うっ』
「喋るな。楽にしていろ」
上半身を起こしかけていたが、背中と後頭部を強打していたユキは強いめまいを感じ、スネイプの言葉に甘えて頭を胸に預けた。
ドクドクという鼓動が心地よく耳に響いてくる。
『助けてくれて、ありがとう』
温かい腕に抱かれてユキは目を瞑る。
スネイプは黒い瞳を一瞬揺らしたあと、腕の中のユキを温かな眼差しで優しく抱きしめ直した。
くらりと甘い感覚がスネイプを揺さぶる。
「……」
血がふつふつと湧くような感覚を意図的に無視しながら歩いていく。
医務室に近づくにつれて騒がしい声が聞こえてきた。理由は分からないがマダム・ポンフリーは大変お冠らしい。ユキは顔をあげてスネイプを見つめた。
『随分と騒がしいですね』
「あぁ。ポッターが骨抜きになったのでマダム・ポンフリーが怒っているのであろう」
『骨抜き!?骨折じゃなくて!?っ痛……』
「大人しくしていろ。ポッターの骨折を治そうとしたロックハートが骨ごと消し去ったのだ」
『またロックハート!なんてことしてくれたのよ。あぁ、ハリー可哀想に』
ユキの中でのロックハートの地位はどん底まで落ちた。
「骨は消えたが痛みはないようだ。ポッターに同情することもない」
フンと鼻を鳴らしながらスネイプは楽しそうに言った。
『うわー性悪陰険!』
「手を離して床に落としてもいいのですぞ?」
『そ、それはご勘弁を』
首をすくめて小さくなったユキを見てスネイプは口の端を上げて医務室の扉を開ける。
マダム・ポンフリーは負傷したクィディッチ選手の手当で忙しそうだ。
スネイプはユキを入口近くのベッドに寝かせ、白いカーテンを引いた。
「痛むか?」
『呪文が当たった胸はなんともないようです。吹き飛ばされて壁にぶつかったせいで背中と後頭部は痛みますが』
「背中は我輩が見るわけにはいかないが『どうして?』どうしても、だ」
スネイプはユキの質問に答えずに杖を振って枕を氷のように冷やした。ズキズキと傷んでいた後頭部が冷やされて痛みが和らいでいく気がする。
『気持ちいい』
「ここにいるのは誰?」
カーテンからマダム・ポンフリーが顔を出した。
思わぬ二人がいたことに目を丸くしている。
ユキが怪我をした経緯を説明するとマダム・ポンフリーは「また、あの能無しの先生」と怒りながら薬を持ってきてユキの背中の赤黒くなった痣に薬を塗っていく。
「終わりましたよ」
マダムの声を聞いてカーテンの外で待っていたスネイプが顔を出した。
『ありがとうございます。マダム・ポンフリー』
「どういたしまして。ですが、今晩はここに泊まらなければなりませんよ」
その言葉にスネイプの顔が曇る。
「雪野の状態はそれほど悪いのですか?」
「痣も広範囲で酷いし、頭も打っています。ベッドから動かず、安静にして、よく寝ることです。いいですね、ユキ」
『わかりました。大人しくするわ』
血の気のない顔で微笑む顔を見て、マダム・ポンフリーは優しくユキの前髪を整えた。
その時、カーテンの向こう側から弾けるような歓声。グリフィンドール生徒がハリーのベッドの周りでパーティーをしようとお菓子を持ち合って盛り上がりだしたのだ。
「あの子たちは医務室をなんだと思っているの!?」
プンプン怒りながらマダム・ポンフリーが出て行って再び二人きり。
スネイプはベッド横の椅子に座り骨張った指を膝の上で組んだ。
二対の黒い瞳は見つめ合う。
『また守ってくれましたね』
不意にユキが言った。
戸惑っているスネイプの様子を見て小さく微笑む。
『覚えていません?入学式の日に“君のそばで、君を守らせてほしい”って言ってくれたこと』
「あぁ……覚えている」
自分の回りくどい告白の言葉を口に出されスネイプは気恥ずかしさに少々頬を赤らめる。
「だが、我輩は……君を守れていない」
『そんなことありません』
「いつも気が付くのは雪野が危険に巻き込まれた後だ。事前に食い止められたことは一度もない」
ユキはベッドから少し身を起こし、青い顔をして指を組んでいたスネイプの手に自分の手を重ねた。
『私は、スネイプ教授が、私のことを思って下さるその気持ちが堪らなく嬉しい。私が危険なことをすると分かれば止めてくれて、怪我をすれば心配してくれる』
「何を当たり前な事を……」
『当たり前のこと。当たり前の幸せ』
ユキは重ねていた手を離し、少し寂しそうな顔をして微笑んだ。
『……少し寝ますね』
体を倒そうとしていたユキは痛みで眉間に小さく皺を寄せる。
スネイプは背中に手を回して体を支え、ベッドに横になるのを丁寧な動作で手伝った。
「雪野」
『はい』
「我輩は君のそばで、いつも君を守る」
スネイプはユキの左手を両手で握り、力強く言った。
『スネイプ教授……』
ユキは大きく目を見開いた。
手から伝わる体温。
胸が熱くなり、安心感が全身を包み込む。
『スネイプ教授が危ない目に会った時には、私にもあなたを守らせて下さい』
「頼もしいな」
フッと笑いながらスネイプは言う。
「そろそろ寝たまえ」
『えぇ』
指が絡められた二人の手。
『眠るまで居てくださいませんか?』
返事の代わりの柔らかい微笑み。
大きな手と優しい薬草の香りに包まれてユキは眠りに落ちていった。
***
眠りの浅いユキはハリーの小さな呻き声で目を覚ました。
ベッドに近づき顔を覗き込むと、額に汗をかいて苦痛の表情を浮かべている。
『ほんっと許せないわよ、あのへなちょこロックハート』
ベットサイドテーブルに置いてあった洗面器に水を張り、ハンカチを濡らしてハリーの汗を拭き取る。
少しだけ表情が和らいだ。
バチンッ
「やめろ!」
『金縛りの術』
何者かの姿現し、寝ぼけたハリーの叫び声、ユキが術をかけたのはほぼ同時。
医務室に現れたのは、みすぼらしい服に大きな目をした屋敷しもべ妖精で、何が起こったのか分かっていない顔だ。
動きを封じられてキョロキョロと目だけを動かしている。
「ドビーじゃないか!」
起きたハリーがメガネをかけながら叫んだ。
『この子と知り合いなの?』
「夏休み中に、ええと、知り合いになって。僕もよくわからないけど、そんなに悪い妖精じゃないんだ。離してあげてくれませんか?」
『……ハリーの知り合いだったの。ごめんなさいね、ドビー』
金縛りの術を解かれたドビーは急いでハリーの後ろに隠れた。
暗闇の中に大きな目だけが光って見える。
『見たところ、ホグワーツの屋敷しもべ妖精ではないようだけど?』
「そうなんだ。ドビーは、ええと」
「ハリー・ポッターはホグワーツに戻ってきてしまった」
ドビーは話を遮り、目を潤ませてハリーを見上げた。
「ドビーめが立てた作戦は二回とも破られてしまいました」
『!?それは、どういう意味かしら?』
今回の狂ったブラッジャーと関係があると見たユキはドビーを睨みつける。
「な、なんでもありません」
『今日の狂ったブラッジャーとあなたは関係があるの?』
「お聞きにならないで下さいまし!」
『そうはいかないわ。言いなさい!』
ユキはベッドを飛び越えてドビーを捕まえて苦無を喉に押し付けた。
哀れな屋敷しもべ妖精に戦慄が走る。
鈍い蝋燭の光りに照らされたユキの真っ白な顔。
口元には微笑、下がった目尻。
しかし、満月を黒く塗りつぶしたような漆黒の瞳を見れば、彼女が心から笑っていないことに気づかされる。
背筋の凍るような冷たい声と息が苦しくなるような威圧感でユキはドビーを恐怖で支配する。
ドビーは小さな体をさらに小さくさせて、震える声でハリーを汽車に乗せないようにしたこと、ブラッジャーの事を話したのだった。
『愚かなことを!』
「そうするしか、なかったのでございます」
『自分のしたことを分かっているの?ハリーはあなたのせいで死んでいたのかもしれないのよ』
静かな口調だが、頭を拳で押さえつけるような重さの声。ドビーは恐怖と後悔でわっと泣き出し、着ていた汚い枕カバーに顔をうずめた。
「せ、先生。ドビーを許してあげて。やり方は悪かったけど、僕のためにしてくれたみたいだから」
ハリーはいつもと様子の違うユキに戸惑いながら恐怖で震えるドビーを見かねて口を挟んだ。
『それなら、ドビー。なぜこんなことをしたか、しっかり説明してちょうだい』
「ド、ドビーめはハリー・ポッターをホグワーツに留まらせるわけにはいかなかったのです。ハリー・ポッターには危険が迫っています。秘密の部屋が開かれた今――『「なんですって(だって)!?」』
ユキとハリーの声にハッと固まったドビーはベッドの柵に自分の頭を強打し始めた。
『ちょ、ちょっと何してるの!?』
ユキは頭を打ち付け続けるドビーをベッドから引き離して抱き上げる。
頭を手で触るとドビーの体がビクリと跳ねた。相当怖がられてしまったようだ。
『動かないで』
ユキは恐怖で硬直しているドビーを膝の上に乗せてベッドに座り、術を唱える。
打ちつけ過ぎて血が滲み、たんこぶの出来ていた頭を治癒していく。
『終わったよ』
ドビーは両手で頭部をさすったあと、耳を数回パタパタして、ユキを見上げた。
テニスボールのような瞳がキラキラと輝いている。
「あなた様は癒者様だったのでございますね」
『そうね。癒者に近いことをやっていたわ』
ドビーが不思議そうな顔をした。
「ユキ先生は忍術学の先生だよ。ホグワーツに来るまでは忍の世界で癒者のような仕事もしていたんだって」
「忍者!?ユキ先生!あなたはもしかして、ユキ・雪野様でございますか?」
『え、えぇ』
金切り声に近い声を上げるドビーに驚きつつもユキは頷く。
『どうしてそんなに驚くの?』
「あぁ!闇の罠があなたにも迫っています。ハリー・ポッターとユキ・雪野はホグワーツから出ていかなければなりません。命が危ないのです。家に帰って、身を隠して――」
『闇の罠って?』
「僕は家になんか帰らない」
『先に私の質問に……待って。誰か来たわ!』
医務室へと近づいてくる足音。
ユキがハリーのベッドの周りのカーテンを閉めるのと同時にパチッと音をさせてドビーは姿くらましで消えてしまった。
「今度は誰だろう?」
『寝ていなさい、ハリー』
「うん」
タイミング悪いな。ドビーから聞きたいことがたくさんあったのに……
そう思いながらユキはベッド脇に置いてあったショールを肩にかけて、医務室の扉を開ける。
「おぉ、ユキ。起きておったのか」
扉を開けるとウールガウンを着たダンブルドアが振り返った。
重そうに何かを持ちながら後ろ向きに医務室の中に入ってくる。
『何が……』
ユキはダンブルドアが運んでいた物を見て息を飲んだ。
『コリン!そんな。まさか、この子はコリン・クリービーですかっ?』
「階段のところで石になっているのを見つけたの」
マクゴナガルはユキの心を静めるために落ち着いた声で言った。
コリンは一番奥のベッドに寝かされた。
その目はカッと見開き、手にはカメラを持っている。
『私の影分身と同じ状態……石に、石になっている』
「直ぐに見つけてくれて良かった。欠けている部分はないようです」
マダム・ポンフリーがコリンの体を隅々まで点検してから言った。
『どうしてこんな時間に寮から出たのでしょう?まさか、連れ出された……?』
「いいえ。こっそりお見舞いに来ようとしていた所を襲われたようです。“ハリー・ポッターへ”とメッセージのついた葡萄がひと房傍に落ちていました。それから、これも」
マクゴナガルはローブのポケットから封筒を取り出した。
宛名にはコリンの字で“ユキ・雪野先生”と書かれている。封を切って中身を出す。
―――ユキ先生 先日、中庭で撮った写真の現像が出来ました。動く写真って面白いですね!先生の怪我が早く治ることを祈っています。
コリン・クリービー
写真の中で手を振っているユキとコリン。
『っこんな、こんな、優しい子を、襲うなんて!』
怒りで声が震える。
その間にダンブルドアがコリンの持っていたカメラを慎重に取り、裏蓋をこじあけた。
蒸気の音と共に焦げ臭い匂いが医務室に漂い鼻を突く。
『許せない……誰がこんなことを……』
「秘密の部屋が開かれたのじゃ」
「そんな……アルバス、一体誰が……」
「問題は、どうやって開いたか、じゃよ。ミネルバ」
石になったコリンの頭を優しく撫でるマクゴナガル、信じられない様子で口を覆ったままのマダム・ポンフリー、髭を撫でながら深い思考の中に入るダンブルドア。
その様子をカーテンの隙間から伺うハリー。
暗い影の中、空いていたベッドの縁に腰掛けて石になってしまったコリンを見つめているユキの目は獰猛な獣のように鋭い。
怒りに燃えた漆黒の瞳が黄色く変色し、ぎらついていたことに、その場にいる誰も、本人でさえも気づいてはいなかった。
***
小雨混じりの風が唸るような音で吹いている。
コリンの事で寝付けなかったユキは医務室から抜け出し、夜通し禁じられた森を歩いていた。
東にある雪山が薄らと薄桃色に光り始めた頃、ようやく足を止め、湖畔に生える大きなブナの木の下に腰をおろす。
「探したのだぞ。勝手に医務室から出るな」
気配には気づいていたが聞き慣れた足音だったため、ユキは振り返らずぼんやりと波立つ湖面を見つめ続けている。
考えるのはコリンの事。
そして、コリンが石になったと知った生徒たちの不安や恐怖。
誰がこんな事を……許せない……
「聞いているのか?」
横を見るとストンと横に座ったスネイプ教授の黒い瞳と目があった。
ふわりと肩にかけられた大きなマント。
『あたたかい……』
急に目頭が熱くなり膝に額をつける。
ゴツゴツと骨張った手が伸びてきてぎこちなく、しかし優しく背中をさする。
昨夜から無意識のうちに入っていた肩の力が抜けていく。
『コリン・クリービーが石になってしまいました』
「聞いている。昨夜、校長から連絡があった」
『私のお見舞いに来る途中だったのよ』
ポケットから写真を取り出して見る。
手を振る私とコリン。
『ハロウィンの日に私が仕留めていればコリンはこんな目に遭わなかった』
「君のせいではない」
『だけど……』
「マンドレイクが成長すれば生徒はもとに戻る」
『分かっているわ。でも、入学したばかりでこんな恐ろしい目に遭って。きっと、すごく怖かったはずよ』
気の合う友人を作り、喜びも悲しみも分かち合い、切磋琢磨して学ぶことができるホグワーツ。
自分が手に入れることのできなかった正常な学生生活。
心にあるのは、生徒たちが恐怖に怯えることなく、安心して学校生活を楽しんでほしいという強い願い。
未だに何の手がかりも得られないことが悔しくて唇を噛む。鉄の味が口の中に広がっていく。
『次の犠牲者は絶対に出さない。必ずこの手で捕まえてやる』
「気持ちは分かるがこれは君だけの問題ではない。雪野、一人で背負い込もうとするな」
薬草の香りが体を包む。
冷たい服の生地。
寒い中、随分長い時間私を探し回らせてしまったようだ。
「まだこの事件を起こした者がどんな奴かは分からない。だが、だがダンブルドアをはじめ我々ホグワーツの教師が力を合わせればこの事件を解決出来るはずだ。だから去年のように一人で無茶をするな」
優しく響く声。
冷え切った体にスネイプ教授の体温が伝わってくる。
「昨日言ったことを覚えているな?我輩に昨日の誓を破らせないでくれ」
泣きそうになりスネイプ教授の肩に顔をうずめるとポンポンと慰めるように優しく頭を叩かれる。
心もじんわりと温もっていく。
『ありがとう』
顔をあげると今までに見たこともないような柔らかい眼差しと顔。
そっと腕を掴まれ立ち上がらされる。
「雨が強くなってきたようだ」
『マント返します』
「完治していないのに体を冷やしては悪化する。そのまま着ていろ」
脱ごうとするのを制して、スネイプ教授がマントの前フックを留めてくれる。
距離が近くお互いの白い息が交じり合う。
「城へ戻るぞ。どうせ、許可なく医務室を抜け出してきたのであろう」
『マダム・ポンフリーに気づかれないうちに戻らないと』
「もう遅い」
『えっ!?』
驚きの声をあげるとニヤリと意地の悪い笑みが目に入る。
「脱走の常習犯である君をマダムが見逃すはずあるまい」
『マダム寝ていると思ったのに!』
「医務室に戻ったら気を失うほど苦い薬が待っている。楽しみにしていろ」
『そ、そんなーー!』
颯爽と城へと歩き出すスネイプ教授。
私は大きな黒いマントを風に