第1章 優しき蝙蝠
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3.賞金稼ぎ or
ダンブルドア校長が用意してくれた部屋はホグワーツ城と東棟の間。
一階の空き教室の横にある吹きさらしの階段を登ると部屋の扉につく。
扉の前に着くと右手に吹きさらしの廊下(廊下の奥は中庭)、左からは庭が見渡せるようになっていて明るい場所にあり開放的な雰囲気だ。
別の言い方をすれば監視しやすく侵入しやすい場所にある。
中は思っていた以上に広かった。
扉を開けるとカントリー風のダイニングセットの置かれたリビング。暖炉まである。
素朴で温かみのある雰囲気にまとめられていた。
次の扉を開けるとベッドやクローゼットのある寝室。その奥にバスルーム。
昨日の夕食は魔法界やホグワーツについての話を聞いているうちにあっという間に過ぎた。
住んでいた世界とは何かと勝手が違うようだ。
部屋に帰ったユキは考え込んでいた。
魔法は学んでみたいが学校では無理だ。
それに、いつまでもホグワーツにお世話になっているわけにはいかない。
言葉は通じるものの職を見つけるのには苦労しそうだった。
***
午前7:30
朝食をとるために玄関ホールまで行くと大きな背中が目に入る。
『おはようございます、ハグリッドさん』
「おぉ。おはようMs.雪野。それにしても、ハグリッドさんってのはこそばゆいな。俺のことはハグリッドでいい」
『それでは私もユキと呼んでください』
大広間に入ると既に何人かの先生が食卓についていた。
「おはよう、Ms.雪野。昨日は良く眠れたかの?さぁさぁ、座りなさい。場所はセブルスの隣がいい」
「今日は東洋風の服装なのね。良く似合っているわ」
『ありがとうございます』
今日の服は紫色の柄の少ないシンプルな着物姿。
褒められ慣れないユキは、目をパチパチさせ、軽くスネイプに会釈してから席に座った。
「ジャパンの服装に似ておるようじゃ。昨日の服もジャパニーズ・ニンジャみたいじゃった。Ms.雪野、ジャパンという国をしっておるかの?」
『ジャパン?残念ながら聞いたことがないです』
「そうか。残念じゃ。実は火の国について昨日調べてみたんじゃが何の手がかりもなくての。もしかしたらと思ったのじゃが……ふむ、もう少し調べてみよう。まずは食べなさい」
『いただきます』
ペコリと頭を下げて料理を取る。
目の前の料理はポンと目の前に現れお皿が空になるとポンと消える。
仕組みが知りたくて目を凝らして料理を凝視する。
視線を感じて横を見るとスネイプ教授が何か言いたげにこちらを見ていた。
多分変な奴だとでも思われているのだろう。
『スネイプ教授?』
「怪我の具合は?」
『大丈夫です。私、体強いですから』
「そうか」
無言で昨日と同じ薬を手渡される。
「傷跡が消えるまで毎日飲む必要がある」
『ありがとうございます。あの、お代は……』
「気にするな」
話しかけるなという雰囲気のスネイプにユキも頭を下げて食事を再開する。
「ところで、昨日の今日でこんな事を聞くのもどうかと思うのじゃが……Ms.雪野はこれからどうするか決めておるかな?帰るあてがないのじゃろ?」
『はい。昨日少し考えてみたのですが、魔法界の方が火の国の事を知らないとなると職を探す時、私の経歴を伝えても信じて頂けないと思うのです。私も魔法界のことは良く分かっていませんし』
「ふむ」
『すぐに安定した就職先を見つけるのは難しいと思います。ですからひとまず特技を活かして単発の仕事をしようと思います。
例えば、懸賞金のかかったお尋ね者を捕まえるような仕事を。魔法界をあちこち見て歩くことも出来ますから』
頷きながら聞いていたダンブルドア校長が固まった。
横で目を大きく見開くマクゴナガル教授。
スネイプ教授に至っては何言ってんだこいつ。とでも言いたげな視線を送っていた。
『えっと、魔法界には無い職業だったでしょうか?』
おずおずと言うと大きなため息をついていたマクゴナガル教授にキッとした顔見つめられた。
なんとなくこの人に逆らってはいけないような気がするな……。
思わずユキの姿勢がピンと伸びる。
「Ms.雪野、ハッキリ言わせていただきます。私は反対ですよ。確かに魔法界にもあなたが言ったような仕事はありますが、危険すぎます。健全な職を選ぶべきです!それに何も知らないのにあちこち歩き回るつもりですか?危険な生き物が住む地域もあるのですよ」
『あー、えっと。でも私、ずっと任務をこなす毎日だったので他に取り柄がなくて……』
曖昧に言葉を濁すと更に強い視線で見つめられる。
「いいですか。私たちの使えない魔法を使える事こそ取り柄なのですよ。それに昨日アルバスとあなたの就職先について話していたのです」
「そうじゃよ。君の魔法は儂らにとって珍しい。昨日、杖を使わずに呪文を弾き飛ばした事に皆驚いたはずじゃ。Ms.雪野が魔法に興味を持っているのと同じくらい儂らも君に興味を持っているのじゃよ」
「このホグワーツには魔法を学ぶために必要なものが全て揃っています。あなたもホグワーツで学べばいいのです」
『私の歳ではどの学年にも編入できないと思いますが』
目を瞬きながら意見を言うとニ人は顔を見合わせてからユキに微笑んだ。
「確かに上級生になら混じっても大丈夫かもしれませんね」
「ホッホッ。それも面白そうじゃの。だが、儂らが言いたいのはMs.雪野にはホグワーツで忍術を教えながら徐々に魔法界に慣れれば良いということなのじゃよ」
そう言ってウインクしてから楽しそうに笑った。
校長と副校長の息のあった連携プレー。
思ってもいなかったことに固まっていたが慌てて口を開いた。
『人に教えるなんて!向いてないと思います。口下手ですし。人に教えたことなんて友人の鍛錬に付き合う時くらいです。先程も言いましたが魔法界について知らなすぎます。ご好意はありがたいのですが……』
せっかくの話だが教師なんてガラじゃない。
ハッキリ思いを伝えたつもりだが、目の前のニ人は不敵に微笑んでいる。
「教師に向いておるか確かめる為に模擬授業をしてもらおうと考えておる。採用試験を兼ねての。他の仕事に就くかどうかは試験の結果が出てからでも遅くはないじゃろ」
「心配しなくて大丈夫ですよ。初めは緊張するかもしれませんが慣れていきます。私たちも出来るだけサポートしますからね」
「まずはニ週間後、45分間の授業が出来るように準備をしておいてくれんかの?」
疑問形だが反対意見は受け付けられそうにない。
笑顔で微笑むニ人を前に開きかけた口を閉じて言葉を飲み込んだ。
食卓にいた先生方は面白そうですねと楽しそうに会話をしている。
やるしかなさそうね……。
「さて、次に魔法界について。新学期が始まるまでに色々見て回ると良いの」
「それに教師になるとしたら、ある程度の魔法は使えるようにならないといけませんね」
教師になる前提で話が進んでいるのは置いておいて、魔法界について教えてもらえるのは嬉しい。
素直にお礼を言う。
「うむうむ。知らないという事ほど怖いものはないからの。そういう訳じゃから、頼むぞ、セブルス」
「……なぜ我輩が面倒を見ねばならんのです」
興味なさそうにしていたスネイプ教授は話を振られ、オートミールをのせていたスプーンを苛立たしげに皿に戻した。
抗議の声を上げるスネイプ教授にマクゴナガル教授が向き直る。
「セブルス、同僚と関係がギクシャクするのはあなたも嫌でしょう」
厳しい顔だが諭すような口調。
スネイプが横を見ると訳のわからないと言った表情のユキの顔があった。
そして、その横顔には大きな傷跡。
陶器のように白い肌に走る痕が痛々しい。
薬を飲み続ければ一週間程で消える傷とはいえ自分がつけた傷跡だ。
「分かりました」
『えっ。いいのですか!?嬉しいです!』
ユキは頭を下げてお礼を言った。
近くにいれば監視もしやすいとスネイプは自分を無理やり納得させた。
「朝食が終わったら準備をして門の前で待っていたまえ」
さっさと朝食を終わらせて立ち上がる。
スネイプがふと見ると策士ニ人の笑顔が目に入った。
***
スネイプ教授が大広間を出て行ってから程なくして大広間を出た。
部屋に戻り貰ったハナハッカエキス入りの魔法薬を飲んでからトランクを一つ掴み部屋を出る。
暴れ柳やクィディッチ競技場の間にある道を急ぎ足で歩くと門の前には既にスネイプ教授が立っていた。
「そのトランクは何かね」
『こちらの世界で火の国の通貨は使えないと思い来る前に貯金を金に替えてきたんです。換金する場所はあるでしょうか?』
「グリンゴッツ銀行で換金できる」
門を開けて外に出るスネイプ教授に続く。
『あ、あの動物はなんですか!?』
木の上に羽のついた小さな人が見えて驚き声を上げるがスネイプはそこにいて当然のような顔をこちらに向けるのみ。
「あれは妖精という」
『妖精?』
「魔法生物については専門家に聞きたまえ。姿現わしで行く。掴まれ」
腕を差し出されて困惑する。
スネイプ教授は舌打ちして空いている私の腕を掴み自分の腕に絡ませた。
ローブに隠れて今まで見えなかったがしっかりとバランスの良い筋肉がついた腕。
思い返すと初めて会った時、ダンブルドア校長と同じ反応速度で私に攻撃してきた。
人は見かけによらずね。
そんなことを考えているとバシンッと音がして不意に体が回転するのを感じた。
身の危険を感じて思わず身をよじるとスネイプ教授に反対の手で体をきつく抱きしめられた。
体のあらゆる部分が圧縮され、窒息の危険を感じた瞬間足の裏に地面を感じた。
景色がさっきとは変わっていた。
「姿現しの途中で体を離そうとするな!バラバラになりたいのか馬鹿者!」
顔を上げると怒った顔のスネイプ教授と目があった。
どうやら自分は危険なことをしたらしい。
だが……
『事前に言って下さっていたら動きませんでした』
次の言葉を言えないスネイプ教授。
苦々しげにこちらを見ている顔から目線をそらす。
目の前に広がるのは見たことのない服装をした人々が行き交う賑やかな通り。
『でも、助けて下さりありがとうございます』
呟くように言う。
鼓動はいつもより少し早い。
きっと初めて見る世界に胸が高鳴っているのだ。
少し乱れた服装を直し、トランクの取手を掴み直す。
「気分は悪くないかね?」
『大丈夫です』
「では、まずはグリンゴッツ魔法銀行だ。はぐれるな」
黒い背中を追いかける。
喧騒の中を歩くうちに体に残るスネイプ教授の体温は消えていった。