第1章番外編
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薬学教授と忍術学教授 part.3
休日の昼食時。
久しぶりにホグワーツへ戻ってきたユキは休むことなく口に運んでいたフォークを持つ手を止め、横に座る薬学教授を見た。
『禁じられた森ですか?』
「あぁ、この後予定がないのであったら手伝って欲しいのだが……」
スネイプがユキに頼んだのは薬草採取の手伝いだった。
禁じられた森は貴重な薬草の宝庫。
ダイアゴン横丁で買えば高価なもの、手に入りにくい薬草も採取することができるのだ。
『もしかして、一人で行くのが怖いんですっ痛い、痛いですッ』
ニヤニヤっと笑っていたユキはスネイプに頬をつねられ悲鳴を上げる。
危険な魔法動物も住む禁じられた森。
しかし、もちろんスネイプは森が怖くてユキに手伝いを頼んだわけではない。
「君が一緒だと何かと便利なのでな」
『便利ってモノ扱い!?そんな事言うならついて行きませんよ!』
「そうか。ささやかな礼にケーキを用意していたのだが」
『協力します。木にも登るし穴だって掘りましょう』
一瞬にして態度を変えたユキを見てスネイプは小さく笑った。
ユキは引越しの片付けで忙しかったのか夏休みに入ってから一ヶ月余り、ホグワーツに戻ってくることはなかった。
ただの同僚だから当然と言えば当然だが手紙一通寄越さない。
久しぶりに会えたと思ったら魔法省神秘部で預言者がユキへの予言を語り、一緒にいたルシウスに目をつけられてしまう。
おまけに二人でホグワーツに戻ってからは予言の話で険悪な雰囲気に。
夜には険悪な雰囲気から脱し、“虫除け”と称して指輪を贈って良い雰囲気になり屋上で抱きしめあったのだが……翌日の朝にはホグワーツにユキの姿はなし。
昨日のあれは何だったのだ。と思いながらスネイプは残りの夏休みを悶々とした思いで過ごしていたのだった。
「食べ終わったら温室前に来てくれ」
『では、一時間後くらいですね』
「15分後に来いッ」
悲壮な顔をするユキを置いてスネイプは大広間から出て行く。
その顔には柔らかな笑み。
久しぶりに雪野とゆっくり話すことが出来るな……
新学期が始まり、忙しくなる前に二人で過ごす時間が欲しいとスネイプは思ってユキを禁じられた森に誘ったのだ。
自室に荷物を取りに帰り、外へ出て空を見上げれば抜けるような青い空。
涼しくはなっているが風には夏の緑の匂いが混じっている。
真っ直ぐに降り注ぐ太陽の光から逃れようと体を反転させたスネイプの肩がビクリと跳ね上がる。
『きっかり15分』
「っ!?雪野ッ」
『んんっ!?』
いつの間にかすぐ傍まで着ていたユキに驚き声を上げるスネイプ。
一方のユキも突然怒られたことで驚きの声を上げる。
そんなユキを見るスネイプの眉間にはくっきりと皺が入ってしまう。
「気配を消して近づくなと言っているだろうが」
『あ……なるほど。すみません。いつもの癖で』
だから怒られたのか、と納得した顔をしたユキにスネイプは小さく息を吐き出した。
しかし、内心は少し嬉しくもあった。
いつもの日常が戻ってきた。そう感じていたからだ。
「行くぞ」
『はい!』
空中で一回転したユキは着物姿から一瞬で黒い忍装束へと早着替え。
「忍術とは便利なものだな」
『便利さで言ったら魔法の方が便利ですよ』
「そうか?」
『そうですよ。例えば……』
昼間でも暗い禁じられた森。
ホグワーツの生徒は勿論、大人の魔法使いでも恐れを成す危険動物の潜むこの森だが教授二人の様子に変わりはない。
二人は魔法と忍術の利便性について楽しく意見を交わしながら禁じられた森を進んで行く。
「ここだ」
スネイプが立ち止まったのは小さな赤い実のなる木の下。
「この実を籠いっぱいになるまで摘み取ってくれ」
そう言ってスネイプはローブからミニチュアサイズの籠を二つ取り出し、杖で大きくしてユキに手渡した。
『この実知ってます』
プチっと枝から実を摘み取ったユキの顔がほころぶ。
『ガマズミですね。よくお世話になった』
「君の世界にもあったのか。しかし、世話になったとは?」
『任務で山越えをする事が多かったのです。食料は荷物になるから沢山持てなくて、こういう栄養のある実は貴重な栄養源でした……』
「ガナズミの花言葉を知っているか?」
『え?花言葉??』
昔のことを思い出したのか憂いのある表情をするユキを見て咄嗟に話題を変えたスネイプだったが、ポカンとした顔で自分を見るユキを見て少々顔を赤らめさせる。
「ガナズミの花を見たことはあるかね?」
ゴホンッと恥ずかしさを誤魔化す様に咳払いして言ったスネイプはユキが首を左右に振るのを見て杖を振った。
『わぁ!綺麗です。雪みたい』
スネイプの杖先から飛び出した小さな白い花が風に舞いながらゆっくりとユキの頭上に降り注ぐ。
両手を差し出し、花を手のひらに受け止めたユキは美しい魔法を見せてくれたスネイプに感謝を込めて微笑んだ。
すっかり憂いの消えたユキを見つめるスネイプの目は優しい。
『きっと良い意味の花言葉なんでしょうね。喜び、とか幸せ、とか』
「無視したら私は死ぬ」
『はい?』
「ガナズミの花言葉だ」
ニヤッと口角を上げるスネイプの横でユキは顔を引き攣らせる。
『それは、何とも情熱的なことで……あ、全部摘み終わりました』
「ご苦労」
突き放すようにガナズミが入った籠をスネイプに押し付けるユキの脳裏に浮かんだのは同居人、クィリナス・クィレルの顔。
ユキは何故か寒気を感じ、ブルリと体を震わせた。
「体が冷えたか?」
『えぇ、少し』
寒気の原因を考えていたユキはあたたかいものに体が包まれ、驚き顔を上げる。
『あの、その』
「手伝わせて風邪を引かれては困るのでな」
ユキは体が熱くなるのを感じ、視線を地面に落とした。
見えるのはスネイプの黒い靴。
ローブを脱いでユキに着せたスネイプ。
二人は向かい合って立っているので、ユキはスネイプの腕に閉じ込められているように感じたのだ。
「今度は暑くなったのか?」
『え?』
「顔が赤い」
『んなっ!?』
頬を紅潮させるユキを喉の奥でクツクツ笑うスネイプは意地が悪い。
ユキはからかわれた事が分かりぷくっと頬を膨らませた。
『そんなに笑わないで下さい。この国のパーソナルスペースは狭い。慣れてないからこんなに人との距離が近いと緊張するんです』
スネイプから距離を取ろうとしたユキだが意地悪な彼がそうさせてくれない。パッと腕を掴まれてしまう。
『ス、スネイプ教授!?』
「この国にきてもう一年になる。そろそろ慣れたらどうだね?」
『こういうのはそう簡単に慣れるものじゃありませんっ』
「では、今練習したまえ」
背中にまわるスネイプの両腕。
「ハグされる度に震えるつもりかね?」
『胸がドキドキするんですから仕方ないじゃないですかっ。あぁ、体が熱いしフワフワする』
「っ!?……馬鹿者」
『え、なんで?』
「五月蝿い」
『!?!?』
ドキドキさせるつもりがドキドキさせられてしまった。
スネイプは赤くなる顔を見られないように己の胸にユキの顔をギュッと押し付けたのだった。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
ガマズミの花言葉は他に「結合」「愛は死より強し」「私を見て」などもあるそうです。