第6章番外編
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ファッションショー
アンブリッジが初代高等尋問官に就任して以来、次々と新しい校則が作られ、生徒たちを締め付けていた。自由でヘンテコな日常のホグワーツが暗い監獄のような雰囲気になっていくことにユキは胸を痛めながら毎日を過ごしている。
愉快なハロウィンは一時的に生徒たちの心を明るくしたのだが、アンブリッジはお気に召さなかったらしく、更に校則を厳しくしてしまった。
クリスマスまであと一ヶ月。段々と寒くなっていくこの時期は気が滅入りやすい。
私に出来ることはないだろうか?
良い案が浮かばなくてハァと息を吐いていると後ろから気配がやってくる。振り向けばローブのポケットに手を突っ込んで歩いてくるシリウスの姿があった。寒そうに背中を丸めていてもモデルのような男前っぷり。
「よお。寒いな」
『服に呪文をかけていないの?』
「防寒の呪文は便利だが体に悪いと思わないか?季節の移り変わり、気温の変化を肌で感じるべきだ。どっかの誰かのように服に呪文をかけて真夏でも詰襟真っ黒な服に身を包むのは健康的とは言えない」
『それには同感だわ。セブも夏には白シャツとか着ればいいのに』
「灰色の薄汚れたパンツ一丁で過ごすのもいいと思うぞ」
『今のセブのパンツはぜーんぶ黒よ』
「いらない情報をくれるな」
『それにしてもカッコいいわね』
「何がだ」
『シリウスよ』
「あぁ。それなら知っている」
シリウスは驚きも恥じらいもせず、当然にこの言葉を受け止め、寒さにブルルと震えた。
『楽しいもの、明るいもの、素敵なもの……目で楽しむのはいいことだわ』
「何のことを言っているんだ?」
『ごめん。今、ホグワーツのことを考えていたのよ。アンブリッジが校則をキツくして生徒たちは窮屈な思いをしているでしょう?制服の着方にまで口を出す始末』
「ネクタイをしっかり締めろ、シャツをしまえ。そのうち杖フォルダーの色まで指定してくるつもりだぞ」
『生徒たちはオシャレを楽しみたいと思うの』
「何か案が?」
『あるわ。ファッションショーよ』
「ファッションショー?」
私の突飛ともいえる考えに目を丸くして驚いているシリウスにニッコリする。
『いい案でしょ?大広間にランウェイを作ってするの』
「面白そうだ!」
『ファッションショーの目的はマグルの文化を理解するため、とする。チャリティ・バーベッジ教授に協力をお願いするの』
「なるほど。マグル大好きバーベッジ教授なら喜んで協力してくれそうだ。後はアンブリッジをどうやって黙らせるかだな。きっと邪魔してくる」
『それは忍の能力をフルに使わせてもらうわ』
「存在ごと消す……のか……?」
『あはは。真顔で言わな―――いい案ね』
「ぷっはは。真顔で考え込むな」
ケラケラと笑っていた私たちはいつの間にか大広間についていた。夕食の時間の大広間は込み合っていて、生徒たちはお喋りを楽しみながら食事をしている。
職員テーブルにはセブの姿があった。私とシリウスがセットになっていると、本人は気が付いていないようだがいつも嫌そうに眉間に皺を寄せるのだ。眉間の皺については、普段から刻まれているので、よりくっきりと、という意味だ。
そんな眉間の皺も私が微笑みかければ元の位置に戻っていく。惚気を言うが愛されていることが嬉しくて表情が蕩けていってしまう。
『セブ、バランスよく食べないと駄目よ』
私は席に着く前にトングを持ってささ身入りのサラダをセブのお皿に移した。
「よせ。自分でやる」
『だってあなたのお皿豆ばっかり』
「あまり腹を膨らせたくない」
『胃の調子が悪いの?』
「君の……夜食を楽しみにしている」
ポソポソ言われた言葉に笑顔にならずにはいられないだろう。表情を引き締めようにも笑みが溢れ出してしまう。思い切り頬に口付けたい気分だがそれはぐっと我慢。私は席に座りながら『何が食べたい?』と聞いた。
「ユキのデミグラスソースは絶品だ。今夜でなくてもいいから食べたい」
『まだ間に合うわよ。変化!』
ポンと現れた影分身は白いワンピースにピンクのフリル付きエプロンをした姿の私。
『デミグラスソースを作っておいてね。魔法なしよ。そのほうが美味しいから』
「了解」
「ユキ先生」
少女のような猫なで声にうげっと顔が引き攣る。作り笑いを作って振り向けばそこには全身ピンクのスーツを来たドローレス・アンブリッジ女史の姿があった。
『わあ。私とお揃いですね』
「この教師とは思えないいかがわしい服装はなんですか?あなたのこの――」
『影分身です』
「その影分身を今すぐ消しなさい。生徒の目に毒です」
『これのどこが毒ですか?私が雑誌で見たのは裸の上にエプロンだけでした。これにはちゃんと服を着せています!』
憤然とする私の横でシリウスが飲み物を噴いたのでアンブリッジが顔を顰めて汚いものを払うように顔の前で手を振った。
「一体なんの雑誌を読んでいるのです!」
『月刊アモルの魔法』
「あんなものを読んでいるだなんて!」
『読んだことがあるのですか?』
アンブリッジの顔が真っ赤に染まった。
『突然ですが、ファッションショーをする計画があります』
「ぶはっ。ここで言うのかよ。流石だな!」
顔を覆って笑いながらシリウスが呟く。あら?ダメだった?許可を取るタイミングを間違えたかしら。
「ファッションショー?」
はあ?となっている目の前のアンブリッジと後ろのセブがポカンとしているとどこからともなくダンブーがモデル歩きで現れた。
「このカリスマモデルを呼んだかの?」
『最近ホグワーツが暗いからファッションショーをしたいの。許可を下ろして』
「もちろんじゃ!」
「っダンブルドア校長先生。お言葉ですが申し上げますわ。そのような風紀を乱すイベントはホグワーツ高等尋問官として許可できません」
『生徒たちにはマグルの文化を知ってもらう機会にしたいと考えています』
「ほうほう。チャリティ・バーベッジ教授に協力をお願いするのじゃな」
『はい』
「認めませんよ。言語道断です」
『授業の延長です。あ!バーベッジ教授!少しお話が!』
職員テーブルのあるひな壇上がって来たバーベッジ教授に計画を話すととても喜んでくれて協力したいと言ってくれた。ということで、あとはアンブリッジをどうにかするだけ。というわけで房中術をしかけましょう!
『お願いします』
ポン
煙に包まれた私の姿が変化する。白煙が薄くなって見えてきたのはロックハートの姿。
「なっ、なっ、なっ」
『可愛い可愛い私のピンクの野薔薇ちゃん。許可を下ろしてくれませんか?』
「ギ、ギルデロイっ」
ふと思いついたロックハートに変身するという私の作戦は思いの他アンブリッジの心を動揺させたようだった。ポーっとなるアンブリッジの顔は恋する女の子のように紅色に染まっていて、目はウルウルと輝く。
しかし、そうは簡単にいかなかった。ハッと我に返ったアンブリッジは目を吊り上げて私を睨みつける。
「このようなことをしてタダですむと思いますか!?」
『怒らないで可愛い野薔薇ちゃん』
「雪野教授!」
『ん~。効いているのに……。人数が増えればいけるかしら?』
「はい?」
『どうせならたーくさん出しましょう。変化!』
ポン ポン ポン ポン ポン!
5体の影分身を出してそれぞれ年齢人種別々の男前に変化させる。
ロックハートな私がアンブリッジの手を引いて椅子に座らせ、その周りを影分身が取り囲む。
「なっ、なっ、なっ」
『「「「「「許可を下さい」」」」」』
ガクン
『アンブリッジ教授!?』
何かが頂点を突き破ったのだろう、アンブリッジ教授は白目を剥いて意識を失ってしまったのだった。
結局、アンブリッジはファッションショーの許可を下ろそうとはしない様子。だが、ホグワーツの最高権力者あるダンブーの許可は得ているし、私もバーベッジ教授もそして何より生徒がやる気になっている。
「「師匠ーー」」
フレッドとジョージが駆けてくる。彼らにはファッションショーの司会進行をお願いしてあるのだ。そう。私はアンブリッジの許可を得ずにファッションショーを強行しようとしている。
「アンブリッジをファッションショーの日にホグワーツから追い払う方法を考えて下さいましたか?」
『えぇ、ジョージ。私に任せてちょうだい。忍の技と魔法を使えばアンブリッジ1人を1日ホグワーツから追い出すくらいわけないわ』
「永遠に追い払ってくれたらいいのに」
フレッドが言うがさすがにそこまでの能力は私にはない。出来たらいいわね、と教師らしからぬことを言って私はフレッドとジョージと一緒にファッションショーの計画を立てていく。
魔法界の服は露出が少ないものが多い。伝統的な魔女の服は黒いシンプルな足首まで覆うワンピースにとんがり帽子。男性はダンブーが普段来ているようなゆったりとしたローブ姿。
もちろん今は伝統的な魔女の服を着る人は少なくなってきている。魔法界にもマグル出身者の魔法使い、魔女は多いから文化もごちゃ混ぜになってきた。それでもクィディッチ・ワールドカップがあった時などは男性が女性用下着を着ていたりと間違ったマグル知識を持った人も多い。
例えば魔法界の正装とマグルの正装とでは大きく違ってくる。パーティーでの女性の服装は最近ではあまり変わりがないが、男性は大きく違う。マグルが魔法使い用のローブを着ていたら会場で浮くこと間違いなしだ。
その辺りを話し合いながらプログラムを決め、出演者を決める。アンブリッジを偽の用事で魔法省に呼び出して鬼の居ぬ間にリハーサル。
そしてついにファッションショーの日がやってきた。
「ユキ、アンブリッジのことだが上手く追い出せたのか?」
会場の準備を私、バーベッジ教授、シリウスと一緒にしていると心配そうにシリウスが聞いたので私は得意そうに胸を反らせてフフンと鼻を鳴らす。
『ここにいないのが答えよ』
「どうやったの?」
面白そうな話を聞きたくてうずうずした様子のバーベッジ教授の様子に得意げに話し出すのはアンブリッジ追い払い作戦。
アンブリッジが私が作った偽の用事で魔法省に行った時にギルデロイ・ロックハートが復活したという噂を聞かせたのだ。見るからにロックハートファンであるアンブリッジはその噂を聞いてソワソワ。そして、彼女の元に届いた1通の手紙……
そこには“活動を再開したいから魔法省の有力者であるあなたに援助して欲しい”と書いてあった。アンブリッジは半信半疑であったろうが大ファンであるギルデロイ・ロックハートと1対1で会える機会を逃したくなかったのだろう。今夜こっそりとホグワーツを出て行った。
ちなみにファッションショーの日にちはアンブリッジが誰に聞こうと、フィルチさんが嗅ぎまわっても生徒たちは答えなかった。というか答えられなかった。ファッションショーの日にちは私たち教師陣と出演者だけのごく一部にしか知らされていなかったからだ。
舞台が整い、選ばれた口の堅い生徒たちが大広間へと入ってくる。我がスリザリン生がこの中にいないのが非常に残念。あとで誰か飛び入りで参加させたいところだが、アンブリッジ派であるスリザリン生の参加は今後を考えると難しいだろう。
職員テーブルの後ろにある部屋が出演者たちの控室。中は狭いが男性と女性に分けられていてそこで着替えが行われている。
<レディース アンド ジェントルメン ファッションショーは行われるのは!なななーんと今日!>
<宿題なんか放り出して、大広間までお越しください!>
フレッドとジョージのアナウンスを聞いた生徒たちが寮から出てきたようで玄関ロビーから声が大広間の中へと流れ込み始めた。
ウキウキした顔が大広間へと入ってくる。
大広間の真ん中に並べられた長テーブルの上には布がかけられていて即席のランウェイが作られている。その周りを期待に満ち溢れた顔の生徒たちが取り囲む。
ニコニコ顔の先生たちもやってきた。
「ユキ先生」
『はい、フリットウィック教授』
「バンドメンバーに演奏してもらいましょう」
『最高です!』
バンドが位置に着き、大広間の灯りが消える。
フレッドとジョージがランウェイ横の台に立って杖を喉に当ててソノーラスを唱える。
<<ショータイムの始まりです!!>>
わっとした歓声の中出てきたのは――――
<ハッフルパフの紳士なイケメン、セドリック・ディゴリー!>
フレッドの紹介に顔を赤く染めながら出てきたセドリックが着ているのはマグルの間で流行りの服でダボッとしたトレーナーにダメージジーンズ。普段のセドリックとは違うイメージの服装に「これもいい!」と女子生徒が黄色い悲鳴を上げている。
次に出てきたのは蓮ちゃんでミニ丈の水色のピッタリワンピースで登場。白髪とワンピースが合っていて、凛とし、とてもカッコいい。
1番端まで来た蓮ちゃんが一瞬驚いたように黄色い瞳を見開く。何かと思ったら大広間の入り口にセブが立っていた。腕を組み、気だるそうにショーを眺めている。一応見回りに来ました。という顔をしていた。
クスクス笑いながら壁際を通ってセブのもとへと移動する。
『盛り上がっているでしょ?』
「地下までバカ騒ぎが聞こえてきている」
『見に来てくれたスリザリン生が少なくて残念よ』
「フン。低俗だ」
『とっても勉強になる企画だと思うわ』
セブは返事の代わりに眉を上げた。
「君、ショーに出ない?」
あちこちでリー・ジョーダンが声をかけている。元から決めていた出演者だけでは数が足りない為、残りは観客の中から見つけ出すのだ。魔法界の便利なところは杖で服を叩けばその人ピッタリに服のサイズが変わるところ。
声をかけられた生徒が嬉しそうに楽屋へと消えていく。
次々とランウェイに出てくる生徒たち。ノリの良いバンド演奏、観客から飛ぶ声、口笛、大広間は熱気に包まれている。
『生徒たち、凄く良い顔している』
突然、胸に熱い思いが込み上げてきた。活気にあふれる学び舎は自由で、楽しくなくてはならない。何かの為に努力をし、自分の才能を試し、もちろんサボったり、喧嘩したり、嫌な目にあっても、それは自由の範囲で行われるべきだ。
自己を抑圧されるような環境で生活するのはよくない。それがどれだけ恐ろしい事か私は知っている。抑圧されるうちに、抗おうとする気持ちさえ持たなくなってしまうのだ。
目を閉じて涙を消し去っていると足音がやってきた。
「ユキ先生!」
『リー、何かトラブル?』
「いいえ、順調ですよ。そうじゃなくて、スペシャルゲストとしてショーに出ません?」
『ふふ。遠慮しておくわ』
「ユキ先生の為に用意した服があるんです」
『ありがとう。でも、教師が出て水を差したくない』
「んー。シリウス先生と同じ意見か」
『シリウスにも服を用意していたの?』
「はい。バーベッジ教授が用意してくれた衣装です」
『あら。わざわざ申し訳ない……』
「出ません?」
『出ないわ。でも、衣装はありがたく頂くから後で取りに行くわね』
「分かりました」
リーが忙しく走って行って私はランウェイに視線を戻す。
「あの目立ちたがり屋がショーに出ることを拒むとは意外だな」
『私と同じように生徒たちだけの空間を作りたいと思ったのよ』
最後の出演者が歩き終わり、大きな拍手で大広間は満たされた。フレッドとジョージがショーの終わりを告げたのだが、興奮は冷めやらず、みんな期待した顔でもっともっとと煽るように声を出し、揃った手拍子をしている。
フレッドとジョージが期待に応えないはずはないし、私は遠くにいるシリウスと笑いながら肩を竦め合った。バンドがランウェイに出てきてパーティーの始まりだ。
ジャーンとギターがかき鳴らされて生徒たちが踊り始める。
『ここに来ていないスリザリン生は何をしているかしら?来たいわよね……』
「誰もがこのバカ騒ぎを望むとは限らない」
『来年こそは4寮一緒にバカ騒ぎしたい』
弾ける笑顔を見ながらそう思う。
片づけが終わり、部屋に戻ってきた。
明日、アンブリッジの悔しそうな顔が見られると思ったら愉快で堪らない。
クスクス笑いながらシャワーを浴びていると部屋の扉が開く音がした。セブがやってきた嬉しさに顔を綻ばせながら急いでバスルームから出る。
『いらっしゃい』
「はぁ」
セブの目が上から下まで私を見た。
『お疲れ?それともどこか変?』
ただの寝間着姿なのだが……。
「クリスマスまで待つと決めるのではなかったな」
ボンっと顔が赤くなるのを感じて手を両頬に持っていく。目の前までやってきたセブは頬の上にある私の両手に自分の手を添えた。
「キスをしても?」
『うん。して欲しい』
親指で私の下唇をなぞったセブは優しく目を細めて私の唇に自分の唇を重ねた。何か温かな水がひたひたと胸に満ちるのを感じ、微笑まずにはいられなかった。あぁ、幸せだ。
ぬらりと入って来た生温かい舌はゆったりと私の舌に絡みつく。いつもは割と欲するようなキスなのに今日は心を確かめるような丁寧なキスだった。
舌先で舌の側面をなぞられるのは程よい緊張感と更なる動きへの期待に満ちて、自然と膣がドクリと動いた。自分の反応に恥じらって腰を引けば、逃がさないと腰に手を回されて引き寄せられる。
どちらのものか、どちらのものでもある混ざり合った唾液は飲むと甘くて、飲み下す度に子宮の辺りがキュンキュンとしてしまう。全てが甘い。セブから吐き出される息を吸い込むと、その甘さに脳がクラクラして何も考えられなくなるくらい頭が痺れていった。
キスを味わっていると腰に回っていた手が下に移動していってお尻へと届いた。ムニムニと揉まれた瞬間、私は噴き出してしまう。
『く、擽ったい、ふふ』
「これを擽ったいと感じるとはまだ子供だな」
『子供ですって?私は立派な大人よ』
「そうだな」
私は鼻で笑ったセブをじとっと見つめた。
「バーベッジ教授からもらった服があると言っていたがどれだ?」
『まだ開けていないの』
包みを開けると出てきたのはシャンパンゴールドのミニ丈ドレス。裾は左から右へ斜めになっていて、首元はベアトップ。入っていたメッセージカードには研究で集めていた服です。たくさん着てあげて。と書かれていた。
『綺麗な服』
「着て見てくれ」
『ファッションショーってこと?』
「観客が1人では不満かね?」
『いいえ。好きな人に見てもらえるのは嬉しい。着てくるわね』
早着替えせず、バスルームを楽屋代わりに着替えてベッドルームに出ると、ベッドに座っていたセブがスッと表情を消した。
『……どこか変?』
「いや。似合っている」
『そう思っている顔していないけど』
「こちらへ」
差し伸べられた手を取るとゆっくりと引き寄せられる。私はセブの首に腕を回した。
『またキスがしたいな』
「やめてくれ」
『え、酷い』
「違う。嫌で言っているわけではない」
『あっ』
左の太腿に大きな手が添えられ、スルスルと焦れるように上がってくる。思わず腰をくねらせる私にセブは意地の悪い笑みを浮かべた。
「物欲しそうだな」
『良く分からない感覚……ん……』
ジワリと熱いもので秘部が湿って私は赤面した。セブに気づかれてはいけない。スカートを両手で抑えて私は一歩後ろへと引いた。
「そうだな。我輩もここでやめないと我慢がきかなくなる。だが……」
「このままの姿で寝てくれ」とベルベッドのように滑らかで低い声が鼓膜を振動させる。心を溶かすその声に逆らえるはずはない。
『……うん』
パジャマになったセブとベッドに入る。抱きしめられて髪を撫でられていたのだが、腹部に当たった塊に肩を跳ねさせると「すまない」と言い、セブは私に背中を向けた。それが寂しくて、悲しくて。
『お願い、こっち向いて』
「紳士でいさせてくれ」
『セブの匂い好き』
ぎゅっと後ろから抱きつくとセブの体が強張るのが分かった。固くなった体に構わずに大きな背中に顔を擦りつける。色々な薬草の混ざった甘い香りはかぐわしく、近いうちにこの香りの海の中に沈むことを想像し、鼓動を早くさせる。心なしかセブの鼓動も早い気がしてそれが嬉しくなった。
心地よい香りは眠気を連れてきて、甘美な香りと共に夢の世界へ入っていく。
「はあ」
もしかしたら、このままする流れになるのではないか。そんな期待をしていたセブルスの淡い思いは打ち砕かれ、スヤスヤと気持ちよさそうな寝息に肩を落とす。
起こさないように慎重に体の向きを変えてユキと向き合えばあどけない顔で眠っていた。
気持ちが良さそうな
どうしろというのだ……。
『んん』
ドレス1枚で寒いのかユキはセブルスに自分の体を擦りつける。
「――っ」
ガサリ
『セブ?』
ユキは起き上がったセブルスに寝ぼけた眼を向ける。そんなユキにセブルスは精一杯紳士的な笑みを浮かべ頭を撫で、バスルームへと入って行った。
『……』
トイレ長い。お腹壊していないとけど……。
欲を吐き出してベッドルームに戻ってきたセブルスは待っていたユキに薬はいらないかとしつこく尋ねられ、何と答えれば良いのかと頭を抱えることになるのだった。