第7章番外編
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美しいその顔は
「ユキ?」
ここはダイアゴン横丁、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店。魔法薬学の書棚に手を伸ばしていたユキは声に反応して顔を向け、目を瞬き、記憶を脳みそから引っ張り出した。
『ミゲル・パーカー!レイブンクローの!』
そう言うと、ミゲルは嬉しそうに顔を綻ばせてユキがいる通路に入ってくる。この人物、ミゲル・パーカーはユキがリドルの日記の力で過去に飛ばされホグワーツに通っていた時の同級生だ。
「覚えていてくれたんだ!」
『勿論よ。それに、覚えているって言い方はちょっと変。私今、あなたの本を買おうとしているのよ、パーカー博士』
ユキは本棚から分厚い緑色の革の装丁の本を手に取ってにっこりと笑った。本のタイトルには“魔法生物の血とその25の活用”とある。
「嬉しいな。僕の本を手に取ってくれるなんて」と顔を上気させてミゲル。
『知りたいことがあってこの本にいきいついたの。しかし―――うーん。理解出来るだろうか』
パラパラとページをめくったユキは一目見ただけでも難しそうな内容に眩暈を覚えた。
「ユキなら理解できるさ。学生時代は誰もが認める秀才だった。それに今はホグワーツで先生をしている。忍術学だったよね?」
『えぇ』
「僕たちの学生時代にもあったら良かったのに。学生時代か……懐かしいな」
『懐かしいわね。卒業してからもう何年にもなるわ』
「ユキさえよかったらこの後お茶でもどうかな?」
緊張した物言いになり、ミゲルは内心自分自身に舌打ちをした。まるで初心な学生じゃないか、と。でも、そんな内心はユキには伝わらず、ただ偶然に出会う事の出来た友人にニッコリと微笑み、『是非』と頷いたのだった。
ユキたちはニ階のテラス席でお茶を楽しんでいた。天気の良い日で、柔らかな日差しが頭上から降りそそいでいる。店自慢のチーズケーキに舌鼓。
「相変わらず幸せそうな顔で食べるね」
『相変わらず?』
「学生時代も今みたいな蕩けそうな顔でごはんを食べていた」
『私のこと見ていたの?』
「つい目で追ってしまう存在だったんだよ」
『忍として気配を消し去れていなかったのは反省だわ』
「うーん。学生時代と同じく遠回しに言っても無理か」
『なあに?』
「なんでもないよ。ところで、僕の本に興味をそそる内容があるの?」
『えぇ。ライカンスローピーの遺伝に関して調べていたの。最近、ハナハッカエキス入りの魔法薬を飲めば遺伝確立を下げられると論文が発表されたでしょう?』
「うん。僕も読んだよ」
『あなたが書いたこの本の中には狼人間の血の活用法について書かれている。私が元々知りたいこととは違うけど、読んでおいたら何か役に立つかもしれないと思って』
「血の性質を知るという意味では役に立てると思う。ユキが知りたい情報はライカンスローピーの遺伝を防ぐにはどうしたら良いか、かな?」
『そうなの。出来るだけ確立を下げたい』
「リーマス・ルーピン」
『え?』
「もしかして彼と付き合っているの?」
『どうして急にリーマスの名前が?』
「僕たちの界隈でMr.ルーピンが人狼であることは有名な話だったんだよ。それに、ユキは彼と仲が良かっただろう?だから、もしかして……ごめん、立ち入ったことを聞いたね」
『そうだったの……。ううん。私はリーマスと付き合っていないわ。ライカンスローピーについて調べているのは、友人の助けになりたくてよ』
誤魔化しながらユキが言うと、ミゲルの顔色が明るくなる。
「僕が協力するよ」
『え?』
「その論文を書いた人には会った?」
『まだなの。噂では少し気難しい人だそうね』
「確かに。でも、猫好きの良い人だよ、僕の先生は」
『あたなの先生なの?』
「あぁ!良かったら彼女に会う時に一緒について行こう」
コミュニケーション能力が低いユキは喜んだ。
『助かるわ!』
「あの薬はまだ出回っていない。先生は慎重なお方だから実際の使用を躊躇――――
熱心に、ミゲルは話し出した。学生時代に好きだったユキとの再会はそれはそれは嬉しいものだった。それに、今自分にはパートナーがいない。ユキの方はどうだろうか?分からないが、指輪もしていない。もしかしたら、ここから恋が生まれるかもしれない。
はじめ、話は真面目な話だったが、話題は変わり、学生時代の話、お互いの仕事の話、プライベートな話題へと移っていく。楽しく笑い、話す二人。そんな姿を目撃した人物がいた。ユキの恋人であるセブルス・スネイプだ。
ダイアゴン横丁の薬種問屋で買い物を済ませた彼はユキ行きつけの店のキルケー・クーヒェンでタルトを買い、ホグワーツへ戻ろうかというところだった。楽しそうに笑う恋人のもとへ行くべきか、行かざるべきか。行けるわけがない。どんな顔をしてどんな言葉をかけろというのだ。
腹の中でメラメラと燃える嫉妬の炎。一緒にいるのは誰だ?セブルスが視力の良くない目を細めて確認すると、見えたのはラテンの血が入ったような男前。その男はセブルスも良く知る人物だった。
ミゲル・パーカー!セブルスは彼のことを知っていた。学生時代に同級生だったというのも勿論だが、それより何より、ミゲル・パーカーはイギリス魔法薬学会では名前の知られた若手研究者だからだ。勝手に、セブルスとミゲルをライバル同士と呼ぶ者までいる。
あの馬鹿は何をあんなに楽しそうに笑っておるのだ?コロコロと鈴を転がすような声が通りにいる自分の耳にまで聞こえてくる。
つい先日、ユキはその血で男を惑わせてしまうと分かったばかり。それもあるが、それ以前に、自分と付き合っているから他の男と二人きりで会うのは控えていると言っていたのに。強制する気はないが、セブルスはユキにそうして欲しいと思っていた。
我輩は器が小さいか?嫉妬心を覚える自分が急に醜く思えてきて、嫌になり、でも、どう考えても気持ちを収めることは出来ず。セブルスは言葉をかけられない代わりに不機嫌に二人を睨みつけて、大股で通りを歩いて行ったのだった。
『!』
「どうしたの?」
『あっ……』
ユキの目に映ったのは不機嫌オーラを撒き散らしながら歩き去って行く黒い背中。これは見られたみたいね……。怒っていらっしゃる。
「ユキ?」
『ううん。なんでもないの』
せっかくの同級生との再会を楽しんで何が悪い?ユキは首を振って、話に戻り、美味しかったチーズケーキをもう1つ注文したのだった。
夕食中のざわついた大広間。セブルスは話しかけてきたユキに「食事中だ、黙れ」という冷たい一言を言い放ち、黙々と食事を終え、席を立った。不機嫌な様子の魔法薬学教授を刺激しては大変とサッと避けていく生徒たちは黒いその背中を追いかけるユキに早く何とかしてくれという目を向けている。
『セブ』
「……」
『セブ、セブ』
ぐんっ。マントの裾を踏まれたセブルスの首が締まった。
「貴様ッ……」
『無視するセブが悪いのよ?』
「何か用か?」
『今夜一緒に過ごさない?』
「今夜は片付けてしまいたい仕事がある」
『手伝えない?』
「君に出来ることはない」
『……仕事が終わるまで待っているわ。私、今夜はセブと一緒にいる時間が欲しい』
「随分としおらしいことを言うな。珍しい。まるで自分の中の罪悪感を消したいように思える」
猫なで声のセブルスを前にユキは頬をぷくりと膨らませた。
『意地悪ね』
スッとセブルスの目が細められる。
「カフェにいた時、我輩の存在に気づいていたのか……。堂々としたものだ」
『別に浮気をしていたわけではないわ。聞きたい話もあったし……』
「そうか。見たところ真面目な話のようではなさそうでしたがな」
『真面目な話もしていたわ』
「君の笑い声が通りに響き渡っていたが?」
『そんな馬鹿笑いしていないわよ!』
「フンっ」
『何よ何よさっきから―――あ』
「……なんだ、その目は」
『いや、その、ふふふ』
怪訝そうな顔をするセブルスを前にユキは顔がにやけてしまうのが止められない。これはもしかすると、もしかして、
『セブったら嫉妬してくれているのね』
「―っ!」
『図星?あ、セブ!』
バサリとマントを靡かせて地下へと続く階段を下りていくセブルスをユキはルンルンで追いかけていく。不安にさせちゃって申し訳ないけど、セブったら嫉妬する程に私のこと大好きなのね!
『セブ、セブ、セブーは私のことが好きー』
バタン
閉まった私室の扉。
バサリ
振り返ったセブルスの目は剣呑に輝いていた。
バンッ
『ひいいぃ』
ユキの顔の直ぐ横をピンク色の閃光が通過して、扉に当たって弾けた。
『私だったから避けられたのよ!?何すんのよ!』
「我輩は脅しで呪文を打ったわけではない」
次の呪文がセブルスの杖から発射させる。しかし、運動神経の良いユキはぴょーんと横に飛んで避け、そして次に自分に呪文が打たれたのと同時にセブルスとの距離を一気に詰め、彼の杖腕を押さえた。
『落ち着きましょう』
「反省の色を少しも見せないとは、どういう神経をしているのかね?」
『ミゲル・パーカーは私のことを何とも思っちゃいないわ。ただ懐かしい再会を喜んだだけよ』
「どうだかな」
『信じて!彼に本屋で偶然に会って、聞きたいこともあったからカフェに入った。それとも私は男という男とは誰でも二人きりになってはいけない?私を信用していないの?セブ』
「信用しているいないの話ではない。君が我輩を裏切ることはない。そう思っている。問題は君が他者から向けられる行為に鈍感だということだ」
『ただの同級生よ?』
「昔、君を好きだったな」
『ミゲルが?』
「気づいていなかったのかね?」
『全く』
「はあ」
『そんな呆れた溜息吐かないでよ。それに、昔はそうだったかもしれないけど、もう何年も前の話なわけだし……』
セブルスはその言葉に再び溜息を吐き出し、ユキの両肩を掴んだ。ぐいっと押され、背中が扉に押し付けられる。
『セブ?』
「昔から腹立たしいと思っていた」
『誰を?』
「君だ、ユキ」
『んっ』
セブルスは小さな口を塞ぎ、舌を腔内へと突っ込んだ。無遠慮で、荒々しい。舌がじゅううぅと吸われる。吸われた舌から伝わっていく快感は血管を通って全身へと回っていく。休む暇がない激しい口づけに、鼻で息を取り続けて息苦しくなってきたユキはセブルスの胸板を押した。だが、キスは気持ちが良くって、体に力が入らない。
『ふぅ、ん』
切なげに鼻から声を通らせるユキは涙を滲ませながら、もうやめて、とセブルスの胸を叩いた。
『ふあっ、はあっ―――っ!』
思い切り引っ張られた前合わせ。ユキの下着が露出する。
『せ、セブ』
「この顔、実に腹立たしい」
『わ、私?腹が立ってるってどうして??』
激しい口づけで胸を上下させながら呼吸しているユキの顎をくっと持ち上げ、顔を上げさせたセブルスは目の前の顔を睨みつける。口の端から自分たちの混ざりあった涎を滴らせ、涙を溜めて見上げられれば情欲しないわけにはいかない。この表情をさせられるのは自分だけだが、ユキの顔は美し過ぎた。
「……来い」
『え?えっ?』
セブルスは手を引っ張ってユキをベッドルームへと連れて行った。本当はユキに腹を立てるのは見当違いだと分かっていた。だが、この気持ちをどこにぶつけたらいい?
『きゃあっ』
抱きあげられたユキはセブルスによって乱暴にベッドに投げられた。まるでいつだったかの日のようだと思い出したユキは震える。跨ってくるセブルスを涙目で見上げ、顔をフルフルと横に振った。
『セブ』
「君は美しい」
『へ?』
乱暴な行為とはチグハグな褒め言葉の意味が分からない。怒っていたのではなかったのか?先ほどと同じく深い口づけにユキは目を白黒させる。訳が分からないから怖い。ユキはずり上げられたブラジャーにいよいよ恐怖を感じ、思い切りセブルスを撥ね退けた。
「……」
トスンとベッドに尻餅をつくセブルスの目は妖しく光っている。首元を緩め、獲物に狙いを定めて細くなる目。放つ妖艶な雰囲気にユキの喉がゴクリと鳴る。このまま流されるのも甘美だろう。だが、だけど、不安で震えるこの心。ユキの目から大粒の涙が零れ出た。
『ごめん……ごめんなさい……』
自分はどうすれば良かったのだろうか?ミゲルとの再会は懐かしく喜ばしいものだったが、彼氏がいる身なのだ、ふたりきりになるべきではなかった。どうして私ったらいつもセブに不愉快な思いをさせてしまうの?甘かった。反省すべきだ。ぐわーんと押し寄せてくる後悔の念でユキの頭はいっぱいになった。人の心を思いやれない情けなさに頭を抱える。
『許して……』
しくしくと零れてしまう涙。ユキが膝に額を乗せて泣いていると、体が包まれる。セブルスに抱きしめられたのだ。
「違う。違うんだ」
『違わない。私が悪いの』
「そうではない」
慌てたような声を不思議に思い顔を上げると、セブルスは泣きそうな顔をしていた。
『セブ?』
「我輩は―――すまない。君にそのような思いをさせるのは我輩の本心ではない」
『おかしいわね……私、あまり……喋っていないけど、私の心が分かるの……?』
「今回のことは君のせいではない。ユキは何も悪くなかった。悪いのは―――嫉妬に狂った醜い我輩の心だ」
『でも、私だってあなたが女性と二人きりでいるのを見たら嫉妬していたと思う。私が考えなしだったの』
「だからといって、束縛するようなことをしてはいけないんだ。そうであろう?行き過ぎた嫉妬と束縛は愛ではない」
『じゃあ、どうすればいいの?』
「相手を信じることはもちろん、話し合う事だろうな」
分かったと言うように口元に微笑を浮かべるユキにセブルスはおずおずと近づき、口づけた。自然と零れてしまう笑い声は先ほどの自分たちを思い出しているから。
『また“お仕置き”されるかもと怯えていたのよ?』
「期待の間違いではないかね?」
『セブ!』
「くくっ」
『もうっ。あ、ところで、分からないのだけど……』
「何かね?」
『私の顔が腹立たしいってどういう意味?』
セブルスはふっと笑ってユキの顔に手を添えた。
「この鼻」
『っ』
ぺしょっと潰された鼻
「この唇」
摘ままれてぐいっと引っ張られた唇
「この肌」
『ふにっ』
びよーんと伸ばされた頬。
『やめふぇよ』
「魅力的な顔だ。誰からも好かれる顔。笑顔も、泣き顔も、歪んだ顔も、全て我輩のみ見られれば良いのにと思う。周りを魅了する君の顔が腹立たしい」
『自分の彼女の評価が高すぎない?』
「そうは思わない。本音を言ってしまえば首輪をつけて部屋に閉じ込めて誰にも会わせたくないくらいだ」
『あらあら。変態さん』
にやりと口角を上げるセブルスはユキの耳元に口を寄せる。
「体験してみるかね、我輩に飼われる生活を」
『あっ……』
食まれた耳朶。べろりと大きな舌が耳全体を舐め上げた。トロリとした目でセブルスを見上げるユキは思う。変態はどっちよ、もう。早くなっていく自分の鼓動を聞きながらユキはセブルスの言葉に従う。
『セブ』
掠れる嬌声
嫉妬と独占欲
「ユキ、愛している。君の恋人は我輩だ。いいな?」
狂愛を孕んだ甘い声
余裕のない表情
ユキは喜びに打ち震えながらセブルスに抱かれて甘く激しい夜を過ごしたのだった。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
ミゲル・パーカー登場話→第3章6. 蝙蝠の日常
ライカンスローピーの話→第7章16.ケリドウェン病院 前編
【この作品はお題提供頂き作成しました】
お題内容:セブルス(大人)、嫉妬系