第8章 動物たちの戦い
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20.素敵な冬の一日
カロー兄妹は城にいるものの停職は解けず、ホグワーツは平和が続いている。私、セブ、シリウスで手分けして行っているマグル学と闇の魔術に対する防衛術の授業も滞りなく行われていた。シリウスによって授業で紹介されたマグルの若者文化はホグワーツで流行っていて、アレクト・カローに洗脳されかけた生徒も今では心改めてみんなと仲良く生活している。
『思想っていうのはつくづく恐ろしいものね』
私の私室。ダイニングテーブルでホットワインを飲みながらセブと私はいつの間にかこんな話をしていた。
「狂った思想は自滅だけで済めばいいが、危険思想に染まった者は他者を貶め攻撃し、他人を不幸にする」
遠くを見つめるセブの横で私も過去に思いを馳せる。私はどうだったのだろう?危険思想に染まっていたわけではないが……任務に対して何も感情を抱いて来なかった。
――――この子だけは!
どうだったのだろう?あの日、あの時、襲撃した家の母親の望み通り赤子を生かすことが出来たのならば――――それは他の忍も一緒にいたから不可能な事であったが――――子供はどう育ったのだろう?
恨みの連鎖を断ち切るために赤子も殺された。でも、本当にその必要があった?無垢で小さな存在はその時点では誰に何の害もなさない守られるべき小さな存在だったのに。いや、分かっている、その赤子が成長して木ノ葉全体に復讐しないとも限らない……。
「ユキ?」
呼びかけられてハッとした。焦点のあった目にセブの心配そうな顔が映る。眉間に皺を寄せて考え込んでしまっていたことに気が付いて、私は息を吐き出して頭を振り、セブに大丈夫だと示すように微笑みかける。
『昔は少し道を外してしまったけれど、こうして今は正義のために戦っている。あなたは許されている』
「……君は?」
『……墓穴を掘ったみたいね。この話はおしまいよ』
目の前のホットワインを全て飲み干して、カンとマグカップをテーブルに置いた。チラチラと雪が窓の外で舞っている。今日からクリスマス休暇に入る。
『今年度は多くの生徒がホグワーツに残るようね』
「……あぁ。保護者は自宅に子供を連れて帰るよりも
セブは一瞬、話題が変わったのを不服そうにした仕草を見せたが、私の気持ちを汲んでくれて話題を変えるのに乗ってくれる。
『死喰い人はクリスマスパーティーをするの?』
「するわけがなかろう」
『ヴォルデモートに支配された世界がやってきたらハロウィンもクリスマスもなしになるのかしら?そんな世界って最悪よね。楽しい事なーんにもない世界。絶対にいや』
「ハロウィンもクリスマスもないがニューイヤーには会合がある」
『年始のご挨拶?』
「そうだ」
『例年のようにセブとカウントダウンが出来なくて残念よ。でも、その代わりにクリスマスはグズグズに煮たジャムのように甘い夜にしましょうか』
「それは今から楽しみだな」
『コスプレ、体位。セブのお好みを受け付けるわ』
「ユキ、ソファーに」
『もしかして想像してムラムラきちゃった?』
セブは返事をせずにトコトコとソファーへ歩いて行って座り、自分の隣の席を手でポンポンと叩いた。これから起こることを想像してはにかみながらセブの隣に行って彼に抱きつく。ギューッと抱きしめ合ってから見つめ合えば自然と引き寄せられていって、唇を重ねた。
薄い唇に舌を割り入れれば先ほどのホットワインの味がする。でも、それよりも、もっと美味しくて。滑らかで温かな舌をチュプ、チュプと絡ませれば、頭がジンジンと痺れだす。ゆっくりと倒れていく体。着物の裾をはだけさせて足を開き、セブを脚の間に入れる。
膝のあたりに添えられた手はゴツゴツと男らしく、ツーっと指が太腿を上がってくる。
「ユキ」
『あっ』
厭らしい触られ方。太腿の内側をサラリと撫でられて嬌声と共に体がピクリと跳ねる。
「君は美しい」
『あ、ん』
「……待てない。杖で解くぞ」
ツンと帯が杖で叩かれて帯紐が、帯が、シュルシュルと解かれていく。上体を起こして自ら着物を脱ぎ下着1枚身に着けている姿になった。紫色のブラとショーツ。美しい薔薇の装飾をセブは長い指でなぞるように触った。
「良く似合っている。いつも脱がせるのは惜しいと思うのだ」
『じゃあつけたままする?』
「残念ながら好みではない」
『ふうん』
セブの趣味はいまいち良く分からない。と思っていると浮遊感。セブは私を抱き上げて部屋を歩き出した。
「風邪を引いては困る。ベッドに行こう」
『そうね。お行儀よくベッドで致しましょう』
「君が一度でもベッドの上で行儀良かったことがあったかね?」
『無かったわね』
コロコロ笑いながらセブの首に腕を絡ませれば額に口づけをくれる。
『ホットワインのせいか体が火照っているの。少し激しくしてもいい?』
「君の求めるがままに」
丁寧に下ろされたベッドの上。私はセブが脱いだマントにくるまりながら愛しの恋人のストリップショーを逸る気持ちで堪能したのであった。
『もうすぐ行かなくちゃ』
行為の後、ベッドの中でグダグダしていた私はナイトテーブルの目覚ましを確認して伸びをした。
「我輩は片付けたい仕事がある」
『私の方はドラコが部屋に来るの』
「ドラコは調子が良さそうだな」
『えぇ。去年と違って元気そうにしているから嬉しいわ』
着物に着替えて髪を結い上げ、まだベッドに寝転んでいるセブの服を取ってあげる。
「クリスマスの予定は?スラグホーン教授主催のパーティーに出る予定かね?」
『いいえ。招待状を貰ったけれど任務が入るかもしれないと言って断ったの。クリスマスのイブと当日は出来ることならセブと過ごしたい』
また甘いキスをはじめる私たち。私は腰に手を添えられてベッドに倒されそうになったので、クスクス笑いながら抵抗した。
『ダメよ。ドラコが来るって言っているでしょう』
「ベッドから出たくない」
『困った人ね。お尻ペンペンするわよ?きゃあっ』
突然の浮遊感を感じて目を瞑る。
パシン
『ひゃあっ』
気が付けばセブの膝の上に横向きにうつ伏せになっていて、パシンッとお尻を叩かれた。
『こら!やめなさいっ』
「さっきはあれほど喜んでいたのにか?」
『―っ!馬鹿!はーなーしーてっ』
きゃあきゃあ言いながらもつれ合った私たちは、私がセブを押し倒す形で止まった。戯れ合って息を荒くしながら見つめ合う私たちの口からは笑い声が漏れている。
『セブのせいで髪を結い直さなくちゃいけない』
「たまには髪を下ろして過ごすのも悪くないと思うが」
『簪が無いと落ち着かないのよ。窮地に陥った時に何度も助けてもらった』
「その簪を外す日は来ると思うかね?」
『ヤマブキに嫉妬?』
「いや、違う。ユキにとってその簪は鎧のようなものかと思ってな」
『鎧……確かにそうね。心と体を守る鎧だわ。これを付けていると気を抜いてはいけないと身が引き締まるし、心強さもある。でも、セブの前だと取ることが出来る。それが嬉しい。あなたの前だと何も身に着けていない真っ新な状態でいられる』
軽く口づけをして私たちは体を離し、今度こそ身支度を整えてリビングへと入って行く。時計を見ればドラコがやってくる時間になっていた。ドラコはセブが嫌いなのでいつも嫌味を言ったり睨んだり。だから顔を合わせないようセブに早めに部屋から出て行ってもらおうと思っていたのに……流された私も悪いんだけどね。外からドラコの足音が聞こえてきたので扉を開ける。
「師匠」
『こんにちは、ドラコ』
「失礼します――あ」
階段を軽やかにあがってきたドラコが部屋に入った瞬間にセブの姿を見つけて嫌悪剥き出しの表情になった。
「……」
『相手は教師よ。挨拶ぐらいしなさい』
「……こんにちは、スネイプ教……スネイプ“助”教授」
今わざと間違えたわね!
教授と言いかけてわざとらしく間違えたと言葉を切ったドラコは“助教授”と強調してセブの名前を呼んだ。セブは大丈夫かしら?と思ったが(案外切れやすいところがあるので)大人の余裕をみせて「調子はどうかね?」とドラコに問うている。
『ドラコ、じとっと睨みつけていないで答えなさい。スネイプ先生の質問を無視するなんて失礼ですよ』
「……特に話すほどのことはありません」
「はあ。目上の者の前での態度を改めるべきですな。闇の帝王の前で委縮して震えるだけで話せないのは仕方がないとしても、こうして教師にくらいは正しい言葉遣いと態度で接するべきだ」
前言撤回。セブもたいがい大人げないわね。
私は呆れながらドラコをダイニングテーブルへと促した。
『セブ、お仕事があるんでしょう?夕食は忘れずに大広間に来るのよ』
セブは子ども扱いされてちょっとむくれながら部屋を出て行った。さて、とドラコを振り返る。
『そこ座って』
「はい。ですが、あのー……申し訳ないのですがこの後用事が入っていまして……」
『知っているわ』
「え?」
『この後パンジーにプロポーズするんでしょう?』
「なっ。知っていて呼び出したんですか!?というか、あああ!!嫌な予感がします!!」
ヒイィと顔を引き攣らせるドラコの前でニッコリしながら杖を振って紅茶を淹れる。
ドラコの様子がおかしいと気が付いたのが四日前。それから直ぐになにが原因か調べた私はどうやらドラコがパンジーにプロポーズをしようとしているのだと気が付いた。こんなに楽しい話題はない。さっそく、こうやってドラコを呼びだしたというわけだ。
『影から見ていていい?』
「いいわけないじゃないですか!」
『なんで?』
「出た。デリカシーゼロ人間」
『見られて困るものじゃあないでしょ?なんなら協力してあげるわよ』
「協力?結構です」
『プロポーズの瞬間にお花を振らせたり、花火を上げたりしたら良いと思わない?』
断りの言葉を口にしようとドラコだが、私の提案は意外と検討の余地ありだったらしく口を半開きにしたまま固まっている。
『ふふふ。私の魔法の腕は知っているでしょう?肝心な時に失敗するような女じゃないわよ』
「いや、でも急過ぎるし」
『ふふふふふ』
顎に手を当てて考え込んでいるドラコの前でニマニマする私。人のプロポーズを覗き見するだけでなく、幸せのお手伝いが出来るならばなお嬉しい。
一人ぶつぶつ言っているドラコを眺めながら待っていると、暫くして良し、と一つ頷き、彼は私を見た。
「ユキ師匠、プロポーズのお手伝いお願い致します」
『やった!ありがとう!』
「ただプライバシーをないがしろにされるだけならプロポーズの演出に携わって頂いた方がいいですからね」
弟子は両手を上げて喜びを表している私を半眼で見つめながら言った。
『どんなプロポーズが理想なの?』
「花束は用意してきてあります」
『場所は?』
「実は……まだ決めかねていて。休暇になって人がウロウロしていると思うので、人のいない良い雰囲気の場所でプロポーズしようと考えていました」
『ここだと決めたら私が人を追い払っておいてもいいわよ』
「ありがとうございます。どこがいいでしょう……えーと……」
『天文台は?あそこロマンチックじゃない?』
ドラコがサッと青ざめた。
『あ、ごめん。あそこダンブルドアが死んだ場所だった』
「本っ当に頼みますよ、師匠……」
『ごめんごめん。ええと、じゃあ――――
二人で候補を出し合っていく。中庭……は生徒を追い払うのが大変だから却下。湖の畔、温室、必要の部屋。色々と考えていた私の頭に浮かんできたある場所。
『暴れ柳の近くの丘はどうかしら?』
「あの何の変哲もない場所ですか?」
『夕日が綺麗に見える場所なのよ』
「ちょうど雪がやんできましたね」
ドラコの言葉に窓の外を見れば先ほどの雪を降らす雲はどこに行ったのだろう?というくらい青空が広がっていた。抜けるような青空。きっと外の空気は澄んでいて気持ちが良いだろう。ドラコもこの天気の変化に運命を感じたようであった。
「パンジーと合流したらその丘に向かうことにします。プロポーズのタイミングで使って欲しい魔法が……
丘にある岩の一つに私は影を潜めていた。夕方になり、空の色が青から茜色に混ざっている。薄い雲が七色に彩られ、風は殆どない。
『絶好のプロポーズ日和ね』
丘の周りには私の影分身を配置しているので人は来ない。
ドラコとパンジーは意外と早く丘へとやってきた。両面鏡を取り出し、杖を振って雪原を慎重にコロコロと移動させていく。ドラコは、流石は我が弟子、雪原を転がる鏡の存在に気が付いたようだが、パンジーの方はドラコの肩に自分の側頭をつけて幸せそうにしているので気づく気配はない。
ドラコとパンジーが立ち止まった。
「パンジー」
「何?」
しっかりとしたドラコの声と、うっとりとした蜜のような囁きのパンジー。ドラコが空中で杖を振ると現れたのは薔薇の花束。パンジーは息を飲みこんで手を口元に持っていき、頬を紅潮させ、目をキラキラさせている。
跪いたドラコは話し出す。
「この結婚は両親が決めたものだけど、僕は心から君と結婚したいと思っている。僕は、まだ実力の足りない学生だ。でも、君に何かあったら必ず守り抜けると言える自信がある。そのためにユキ先生の下で鍛えてきた。こんな時代だからこそ、愛している人の傍に一秒でも長くいたいんだ」
「ドラコ……」
「僕の妻になって欲しい。結婚してくれませんか?」
震える手が花束を受け取り、震える「はい」という声が耳に届いた。
覗き見たドラコとパンジーの顔は茜色の夕陽に照らされてそれはそれは幸せそうな顔。二人が放つ幸せの波動が私に届き、胸が熱くなってきて涙が滲む。私は鼻を啜りながら杖を振った。
ドラコとパンジーの足元の雪が舞い上がり、二人を包み込む。雪の色は淡くキラキラ光る銀色の光の粒となり空中を漂っている。
雪の丘に伸びる影。
重なったシルエット。
私はニコニコしながらそっとその場から立ち去ったのであった。
「ユキ先生!」
素敵なプロポーズを見せてもらい、胸を熱くさせながら吹きさらしの廊下を歩いていると中庭の椅子に一人座っていた栞ちゃんに声をかけられる。
『こんにちは』
「こんにちは!ユキ先生、少し顔が青いようですが……」
『さっきまで外でじっとしていたから体が冷えてしまったのね。でも、心はぽかぽかなのよ』
「何か良いことがあったのですか?」
『うん。ドラコがパンジーにプロポーズしているところを見ていたの。ちょっとしたお手伝いもさせてもらっていたのよ』
「プロポーズ!」
栞ちゃんはぽっかりと口を開けた可愛い顔になった。
『顔が青いと言えば栞ちゃんもだけど、大丈夫?』
「はい。私も体が冷えただけなんです」
『ずっとそこに座っていたの?』
「ちょっと考え事をしていまして――クシュン」
『大変。風邪を引いてしまうわ。私の部屋で温まって行く?』
「いいんですか!?」
パアァと表情を太陽のように明るくする栞ちゃんが可愛い。私は表情を崩しながら『勿論』と頷いた。吹きさらしの階段を上って私の部屋へ。
『あれ?』
冷え切っていると思っていた部屋の中は暖かく、暖炉にも火が入っていた。暖炉の前のソファーにはゆったりと脚を組んで本を読んでいる人が一人。
『セブ、自室にいると思っていたわ』
「仕事をここに持ってきたのだ」
新しいセブの自室は遥か昔、拷問室に使われていた部屋だった。噂では死人も出たそうな。室温は問題ないのに体が冷えてしまうような寒い部屋。そんな部屋をセブは嫌っていて、その代わりに私の部屋で過ごすことが多くなっている。
『私は大歓迎よ。栞ちゃんとお茶をするけど、いい?』
「構わない」
ダイニングテーブルは本と羊皮紙の束でいっぱいだったため、セブをそこへと追いやって、私と栞ちゃんはソファーでお茶をすることにした。今日のおやつにはエッグタルトがある。
蜂蜜入りのカモミールティーを飲みながらエッグタルトを齧っていれば少しずつ私たちの顔にも赤みが差してくる。
「このエッグタルト美味しいですね」
『ありがとう。手作りなの』
「凄い!」
『栞ちゃんは料理は好き?』
「どちらかというと食べる方が好きですね。あはは」
『ところで、どうして寒い中庭なんかで長時間座っていたの?』
「それは……」
『あ、言いたくないならいいのよ』
「いえいえ。あのう、それじゃあ、少しだけ相談に乗って頂けますか?」
『私で良ければ』
「実は、友達と喧嘩をしていしまって……」
『喧嘩ってもしかしていつものメンバー?』
『……はい。いつものメンバー同士です』
「詳しく聞いても?」
「はい」
きっかけはスラグホーン教授主催のクリスマスパーティーの招待状だった。招待状が届いたのはハリーとハーマイオニー、それに栞ちゃん。いつものメンバーの中で自分だけに招待状が届かなかったロンは不機嫌に。ハーマイオニーがロンをパーティーのパートナーに誘うも逆効果。喧嘩になってしまう。
「ハーマイオニーは泣きながら部屋に戻って行って、私とハリーだけが談話室に残されたんです」
ロンとハーマイオニーは両想いなのにどうしてうまくいかないのだろうと考えていた栞ちゃんだったが、ハリーは別のことを考えていた。
――――クリスマスパーティー、僕のパートナーになってくれない?
「ロン達の事を考えていたからか、突然のことだったからか分からないんですけど、ハリーにイエスと言えなかったんです。はあ……ハリーに申し訳ない事しちゃった……」
『ノーと言っていないのなら自分から誘い直せば?』
「それが……なんていうか、その、今回パートナーになったら、私、ハリーに気を持たせることになるんじゃないかと思って」
『ハリーは栞ちゃんが好き。知っていたわ』
「……」
『でも、栞ちゃんはそうじゃない?前にハリーのことも気になっているような言い方をしていなかった?』
「私、自分の気持ちが良く分からないんです」
そう言って、栞ちゃんは肩を落とした。
『シリウスの存在?』
「ユキ先生、ストレートに聞きますね」
『言葉を濁すのが苦手なのよ。それで、ハリーに返事が出来ずにいるのね』
「はい……私、ハリーの気持ちに応えられない。でも、嫌われたくもなくて……最低ですよね」
『パーティーのパートナーを断られたからってハリーが栞ちゃんを嫌いになる?そんなことあるはずないわ。だってハリーはジェームズの息子なのよ。明日になったら立ち直って今まで通り接してくれるわ』
「そうでしょうか」
『多分……』
「今は恋愛に
『それはちょっと違うと思うわよ。いつ死ぬか分からないなら悔いのないように生きるべきだと思う』
「それ、妹の蓮も言っていました。ユキ先生は蓮とC.C.の関係をご存じなんですよね?」
「関係をご存じとはどういう意味かね、Ms. 栞・プリンス」
「ひ、あ、いたんだった!」
栞ちゃんはセブの存在を忘れていたらしい、顔を引き攣らせて固まった。ギ、ギ、ギ、と顔をセブの方へ動かした栞ちゃんは無理矢理に笑みを作って見せる。
「こ、これは蓮の個人情報なので話すことは出来ませんっ」
「教員として生徒が危険な部外者と何かしらの、関係……接点を持つことは見逃せない」
『さっき冷え冷えの外から帰ってきた私たちより顔色悪くなっているけど大丈夫?』
青白い顔をしているセブは持っている羊皮紙を手の中でぐしゃっとさせてフルフルとしている。怒っているような、そして同時に何かを恐れているような顔だ。言葉を出せないでいるセブの代わりに聞いてあげましょう。
『もしかして、あのニ人付き合ったの?』
「ッ!」
「さ、ささささささ、さあ、それは聞いていません」
『吃音。目を逸らす。心拍数が上昇した時の反応が見られる。なるほど。へえ。クィリナスと蓮ちゃんって付き合ったんだって、どこ行くのセブ?』
「クィリナス・クィレル―――あいつッ」
『待ちなさい。どこにいるか分からない人間をどうやって探しに行くつもりなのよ。さあ、ここに座って』
ガタンと立ち上がって扉へと向かおうとするセブを追いかけていき、腕を引っ張ってセブを栞ちゃんの隣に座らせる。途端、セブは栞ちゃんを圧をかけて見下ろした。
『こら。睨みつけるんじゃありません』
「今すぐ蓮・プリンスをここに連れてこい」
『やめなさいって。話が脱線しちゃったけど、今は栞ちゃんの悩みの話をしていたのよ。話を戻しましょう。悔いのないように生きよ、って話。セブも私の意見に同意してくれるでしょう?』
「後悔先に立たずという言葉もある。よく考えず行動し、立ち直れない程傷つき、後の人生を後悔と共に歩むことになりたいか?第一次魔法戦争の時、勢いに任せて多くの者が結婚したが、後にどうなったかは想像は容易いだろう」
『うーん。それもそうね。傷ついて欲しくはない』
「栞・プリンス、そそっかしい君の頭にしっかりと刻み込んでおきたまえ。“慎重”という言葉を。良いな?」
「はい……スネイプ先生」
『自分の心と向き合って、そうしたら答えは自然と出てくるわ』
「ありがとうございます、ユキ先生も」
『そろそろ夕食の時間になるわ。元気を出して、寮へお帰りなさい』
「はい。失礼致します」
「っ。待ちたまえ。話はまだ終わって――――チッ……」
ペコリと頭を下げた栞ちゃんはセブにこれ以上蓮ちゃんのことを追及されないようにと急いで部屋から出て行った。
「逃げられたか」
『蓮ちゃんのことは本人に聞くといいわ。それよりハリーたちのことよ。ハリーたち四人が深刻な喧嘩をするのは良くないわ』
「栞・プリンスたちはホグワーツにあるかもしれぬ分霊箱探しをしているのだろうか?」
『こそこそ夜のホグワーツを歩き回っているわよ』
「生徒の夜歩きを黙認しているのかね?」
『叱って改める彼らではないわ』
「甘い事だな」
『牡鹿同盟では厳しく鍛えているけどね』
「生徒たちの杖の腕は上がっているな」
セブは闇の魔術に対する防衛術の授業を思い出している様子で言った。
生徒たちは確実に魔法の腕を上げてきている。忍術学、闇の魔術に対する防衛術の上級生の授業や牡鹿同盟では対戦形式で授業を進めている。
『早く仲直りできればいいわね』
「くだらないと鼻で笑っていられない結果を招くかもしれないからな」
『さて、私たちも夕食に行きましょうか』
「仕事を中断してしまっている」
『夕食を大広間に食べに行くのも教員の仕事よ。さあ、行きましょう』
「……」
めんどくさそうな様子のセブに呆れてしまう。
『蓮・プリンスに聞きたいことがあるんじゃないの?』
すくっと立ち上がったセブ。
「あの娘……」
『そんな怖い顔していたら話しかける前に逃げられるわよー』
ズンズンと廊下を進んで行くセブを追いかけていく。中庭に面した暗い吹きさらしの廊下を私の狐火で照らして歩いて行き、玄関ロビーへと入る。玄関ロビーはいつものように人でごったがえしていた。本当に、今年はホグワーツに残った生徒が多い。
人が多いのに、セブと一緒にいると生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。みんなダンブルドアを殺したと噂されるセブが恐ろしいのだ。私は、地味にセブが傷ついているのを知っている。
しかし、今は傷つく暇もないらしい。鋭い眼光で生徒たちを見渡して縮み上がらせている。
『生徒が怯えているわ。やめて』
セブの腕を引っ張って行って大広間へと入ると、中は活気に満ち溢れていた。特にスリザリンテーブルは元気が良い。職員テーブルに向かうのにスリザリンテーブルの後ろを通っていると生徒たちの声が耳に入ってくる。
「パンジー、プロポーズされたんですって!」
「本当!?」
スリザリンテーブルはドラコがパンジーにプロポーズした話でもちきりだった。きっと他の寮でも噂されているだろう。ホグワーツは噂が回るのが早い。しかし、噂されている本人たちを見るとスリザリンテーブルで平気な顔をしていた。
あの小生意気な顔。好きだわ。
パンジーに世話を焼かれ、自分がホグワーツ中の噂の的になって満足している様子のドラコをクスリと笑う。弟子が元気そうで非常に嬉しい。
一方の前を歩いている黒い背中はと言うとレイブンクローテーブルに目当ての人物を見つけた様子だ。生徒の中にキンとした沈黙を落としながら蓮ちゃんのもとへ。恐怖の魔法薬学助教授、降臨。
「Ms. 蓮・プリンス」
「はい、スネイプ先生」
セブを見上げる琥珀色の瞳は強い意志で光っていた。どうやらセブに話しかけられるのを想定済みだったらしい。
「なんでしょうか」
「夕食が終わったら我輩の部屋に来なさい」
「理由をお伺いしても?」
「理由は分かっているはずだ」
「そうですね……はい。お伺い致します」
『ちょっと待って。話をするのは私の部屋にしない?あの拷問室で話していると気が滅入るわ』
「ユキ、君がいると話を濁される。我輩はMs.蓮・プリンスと2人で話すことを希望している」
『私も蓮ちゃんの事、ずっと心配してきたの。ちゃんと話を聞きたい』
「私、ユキ先生にも一緒にいて頂きたいです」
「ユキ、話を脱線させたり、適当に話を切り上げたりしないと約束できるか?大人しくしているなら、同席を許そう」
『約束する』
「よかろう……」
『では、夕食後に私の部屋でね。エッグタルトがまだ残っているから、お腹に少し余裕を持っていらっしゃいね』
「ありがとうございます」
蓮ちゃんと分かれて職員テーブルに行くと、シリウスが目を蕩けさせてグリフィンドールテーブルに視線を向けていた。視線の先を良く辿ってみる。
『もしかして見ているのは栞・プリンス?』
そう言うと、シリウスはハッとした顔で我に返り、体に着いた水を振り払う犬のように頭を振った。
「違う。ただボーっとしていただけだ」
『ふうん』
「しかし――――見ていたわけではないが――――今気が付いたんだ――――どうして栞は一人で夕食を食べているんだ?ハリーたちいつものメンバーは?」
『喧嘩をしてしまったそうなの』
「喧嘩?」
ハリーたちの喧嘩の理由を話して聞かせると、シリウスはハアと溜息。
「長引かないといいが」
『私もそう思っていたの。団結力こそ我らの力よ』
そう言いながら生ハムサラダを自分とセブに取り分ける……ん?
『シリウス?』
ハッとしたシリウスが私の方を向く。
「なんだ?」
『また上の空でグリフィンドールテーブルを見ていたわ。さっきから何を見ているの?』
「あ、いや、その」
『怪しいからやめなさいよ』
「そうだな……うん。気を付ける」
しゅんと垂れた耳がシリウスの頭に見えるような気がしてクスリと笑う私はもう一度、シリウスが視線を向けていた先を見て見た。
やっぱり、栞ちゃんを見ていたのかしら?
愛弟子に向けるには甘すぎる視線に私は内心首を傾げていたのだった。
夕食後の私の部屋。セブの淹れてくれた紅茶を楽しんでいるとトトトと軽快に階段を上ってくる音が聞こえてくる。扉を開けて見れば外気の冷たさに鼻のてっぺんを赤くした蓮ちゃんがいた。
「失礼します」
『いらっしゃい。中に入って暖炉の前へ。寒かったでしょう。暖まって』
「ありがとうございます」
セブと私はニ人掛けのソファーに、蓮ちゃんには一人掛けのソファーに座ってもらい、セブがお茶を、私はエッグタルトを出す。話す前に喉を潤している蓮ちゃんの前では既に不機嫌さを頂点にしているセブがジリジリした様子で待っていた。
コトリ、とカップがソーサーに置かれて、蓮ちゃんが顔を私たちに向ける。
「私たち、お付き合いを――ひっ」
ピリッとした怒気を感じて横を見るとセブが蓮ちゃんを何か強力な闇の魔術にかけますという顔をしていた。蓮ちゃんは当然と言えば当然だろう、言葉が紡げなくなって固まってしまった。あぁ、そうか。セブは私と同じように杖を使わずに金縛りの術をかけたんだわ、きっと。
「続きを言え、蓮・プリンス」
「いや、その」
蛇に睨まれた蛙とはこのこと。おどおどとした様子の蓮ちゃんは助けを求めるような目で私を見た。答えによっては大変なことになるわよ?慎重に言葉を選ぶように蓮ちゃんに目で訴える。
蓮・プリンスは母親であるユキの心を読み取って、そして、続いて父親であるセブルスに視線を移した。うっ、お父さん本気で怒ってる!もしも自分とクィリナスが付き合っていて、更に既に体の関係も結んでしまったと知れば大激怒するのは確実。自分が怒られるのはまだいい。だが、もし任務から戻って来たクィリナスとセブルスが鉢合わせしたら――――考えるだけでも恐ろしい。
お父さんにクィリナスとのことを言うのは早いわね。蓮は頭の中でそう呟いて、セブルスに嘘を言うことに決めた。
「付き合いたいって言っているんですけどね……まだ想い届かずです……」
「本当か?」
真実を見極めようとするセブルスの目にたじろぎながら蓮は「本当です」と震える声で答えた。じっと蓮を見つめるセブルス――――
「っ!?」
『セブ!!』
私はセブと蓮ちゃんの様子を見て、そしてハッとして、思い切りセブを叱りつけた。
『今、蓮ちゃんに開心術をかけようとした!?』
「えええええぇぇぇぇ」
引いたような声を出す蓮ちゃんと私に邪魔をされて不服そうなセブ。まったく!生徒相手に何をやっているんだこの教師は!
「邪魔をするな、ユキ」
『生徒のプライバシーを覗き見しようだなんて最低よ!』
「くっ……」
『あなたったら変よ?自覚ある?』
「……」
セブは何故だか分からないがプリンスの双子相手にだとちょっとおかしくなる。私に怒られてもなお記憶を見られなかったことに対して口惜しそうにしているセブ。どうしちゃったのかしら、この人は。
首を傾げているとセブは「本当に、誓って、クィレルと交際していないのだな?」と念押し。
「誓います。父親の杖にかけて誓います」
「勝手に父親の杖をかけるな……ハア。その言葉に偽りがないのならもういい。Ms. 蓮・プリンス。今一度忠告しておこう。クィレルとは縁を切れ。それが君の為だ」
蓮ちゃんはいつものように反論せずに神妙な顔つきで「はい」と答え、その様子を見て漸く満足した様子のセブは紅茶に口をつける。その時、ふと蓮ちゃんと目が合った。悪戯っぽく輝く琥珀色の瞳。あらあら。この瞳の色の意味は何かしら?私はセブに見つからないように顔に広がってしまいそうになる笑みを押し止めたのだった。
コンコンコンコン
『お姉さんが来たみたいよ』
「栞が?」
扉を開けば蓮ちゃんの姉である栞・プリンスが不安そうな顔で立っていた。
『こんばんは』
「こんばんは、ユキ先生。こちらに蓮は来ていますか?」
『えぇ』
扉から部屋の中を覗き込んだ栞ちゃんは窺うように私を見た。きっと蓮ちゃんとセブが喧嘩していないか見に来てくれたのだろう。
『心配事はもう終わったわよ。二人は付き合っていないってことで丸く収まっています』
こそっと言うと、ホッとしたように息を吐き出して栞ちゃんはにっこり。
「良かった。心配していたんです」
『中に入って。さっき食べたからエッグタルトは食べ飽きてしまった?』
「いいえ!ユキ先生のエッグタルト、凄く美味しかったからもう一つ頂けたらとても嬉しいです」
『それじゃあセブの隣へ』
私が座っていたニ人掛けソファー、セブの隣に栞ちゃんには座ってもらい、私はダイニングテーブルから椅子を持ってきた。セブが栞ちゃんの分の紅茶をテーブルに着地させる。
「雪が降ってきたのかね?」
「はい。降りだしてきました――あ。ありがとうございます」
セブが杖を振り、栞ちゃんの体についていた雪が消える。
『今年もホワイトクリスマスになるわね』
「クリスマスといえば七面鳥の丸焼き。ミートパイにローストビーフ」
「スペシャルサラダにアクアパッツァ。どれも美味しかったなあ。私たちのお母さん、とーっても料理上手なんです」
『家族でクリスマスの食卓を囲むって素敵ね』
「うちは大家族なんです。賑やかに食事の争奪戦」
「三つ子の弟たちが特に食事のルールを守らなくって。よく父に叱られていました」
クスクスと笑う栞ちゃんと蓮ちゃん。
「前にも兄弟が多いと話していたな」
興味なしかと思っていたが話をしっかり聞いていたらしいセブが質問する。すると、双子はニヤリと笑って栞ちゃんは両手をパーにして突き出し、蓮ちゃんは右手の4本指を突き出す。
『14人!?』
「ぶふっ」
セブが紅茶を噴き、むせた。
「ゴホゴホ」
『セブ、大丈夫?』
「ゴホッ。あぁ、大丈夫だ……しかしながら……それは本当かね?」
嘘をついてどうするんだ?と思う私の前ではプリンスの双子がニッコリ笑って頷いていて、それを見てセブは顔を引き攣らせていた。何故だ?
『14人も子供がいたらクィディッチの試合が出来るわね』
「そう言えば君も以前そう言っていたな……」
隣でセブが呟いている。
『賑やかな家庭に憧れるわ。ねえ、もっとご家族の事教えて?』
「弟のゾイ以外はみんな多生児なんです。上から私たち双子、次が男女の四つ子、その下が男の三つ子、そしてゾイ、その下がまた男女の四つ子です」
と栞ちゃんが指を折りながら教えてくれる。
「みんなそれぞれ個性的で面白いですよ。笑い声の絶えない家庭です。父と母は毎日忙しいですが、出来るだけ家族団欒の時間を作ろうとしてくれるんです」と蓮ちゃん。
「ふふふ。私たち、両親によく似てるって言われるんです。私たちの鼻と唇は父似、でも全体的には母に似ています」
「このうねる髪の毛は扱いにくいわ。髪質もお母さんに似たら良かったのに」
蓮ちゃんが美しい白髪を摘まみ上げて溜息を吐いた。
「君たちのご両親は……良いご両親のようだな?」
セブが何故か慎重に聞いた。
「「はい!」」
元気な返事。
「良いご両親ならば、そのご両親を心配させないように日々の生活を送りたまえ」
『二人ともとっても良い生徒よ。勇敢で友達想い。ご両親も誇りに思っているでしょう』
「そう思われますか……?」
おずおずと聞く栞ちゃんに微笑んで『もちろん』と頷けば、双子はパアアと顔を明るくさせて笑った。
『紅茶のおかわりは?』
空になっていた蓮ちゃんのティーカップを見て新しいお茶を作ろうとすれば、セブにやんわりと手で制される。
「我輩がしよう」
『私はお茶を淹れるのが下手なの』
双子に肩を竦めて見せる。
「スネイプ先生とユキ先生みたいな、うちの両親みたいな夫婦に憧れるな」
「相手はよく選ぶことですな」
セブが蓮ちゃんに釘を刺す。
『教師じゃなくてまるで父親みたいよ?』
「だからなんだ?」
『え?』
まるで父親と言う言葉を受け入れるようなセブの態度に驚く私をよそに、セブは淹れたての紅茶を啜っている。とうとうプリンスの双子を贔屓し過ぎて父性まで芽生えてきたらしい。本当に、どうしてしまったのだ、この人は。相当にセブはプリンスの双子がお気に入りらしい。
薄っすらと口に弧を描いて紅茶を飲むセブとプリンスの双子たちを見比べる。何となく、三人の顔が似ているように見えてくるから面白い。
もし、セブがプリンスの双子の父親だったら、母親は私?
馬鹿ね、私ったら。
でも、14人の子供たちがいて、セブが夫。一つ屋根の下で賑やかに暮らしている……それってとっても素敵じゃない?休日には子供たちのクィディッチの試合を観戦するのだろうか?きっと個性的な子供たちは可愛いことだろう。
暖かな暖炉の前。ユキは未来の家族と共に幸せなひと時を楽しんだのであった――――