第4章番外編
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元気づけ
アズカバンの脱獄囚であるシリウス・ブラックとユキが同棲を始めて2ヶ月経った。
シリウスはピーター・ペティグリューを探しに行けず、ユキの部屋に缶詰にされている状態に苛苛を募らせている。
変化の術を完璧に使いこなせるようになれば外に出ても良いと条件を出されているものの、魔法使いが簡単に会得できる技ではない。
「はあぁ」
眉を寄せて深いため息をつくシリウスを見てユキが思ったこと。それはエロ本を買おう!ということだった。
良くは分からないが学生時代、男子学生たちは男の事情とやらでエロ本をホグワーツに持ち込んでいたことをユキは知っていた。シリウスにも必要に違いない。そして12年間牢獄にいた人は世情にも疎かろう。ユキは勝手に見繕うことにした。
「なあ、ユキ、口寄せの術について分からないことがあるのだが」
『どこかしら?』
変化の術以外にも忍術の勉強も重ねているシリウス。彼の勤勉さは学生の時には気が付かなかったが、シリウスは学生の時優秀(らしい。興味がなかった)だった。
少しでも力になれればと教えていると、羽音が聞こえてきた。外に出て上を見上げればヨタヨタとフクロウが飛んでくるところ。荷物をユキに渡し、フクロウフーズを食べたフクロウは飛んでいく。
ずっしりと重いこれをよく持ってきてくれたと思いながら部屋に戻る。
「ユキは耳がいいな」
『獣並みよね』
私はニコニコしながらシリウスの前に座った。
「もしかしてそれは俺へのプレゼントか?」
茶目っ気たっぷりにウインクするシリウスに私もウインクを返す。
『そうよ』
「本当にそうだとは!ユキ、だが心苦しい。こうして世話になっている上に」
『いいのよ。あなたは良く耐えているわ。だから私も力になれることをしたくて。貰って』
ずいっと差し出したプレゼントを受け取ったシリウスは嬉しそうに顔を綻ばせ、豪快にビリビリと包みを破っていきピシリと表情を固まらせて目を大きく見開いた。
「おい……ユキ……」
『使って』
「せめて"読んで"と言ってくれ!」
バタンと立ち上がるシリウスの顔はほのかに上気していて初心っぽくて変な感じだ。ホグワーツ生6年生の時はあんなに色々な女生徒と浮名を流していたのに。牢獄生活12年で悟りでも開いたのだろうか。
『もしかして性欲までディメンターに吸い取られた?』
「取られていない!」
『それは良かった』
私は吃驚した。
急にシリウスの顔つきが変わったからだ。
艶のある顔でテーブルに手を付き、ぐっと私の方へ身を乗り出すシリウスは雄の顔。
「俺の性欲があって良かった……どういう意味だ?ユキ」
『男として機能していて何よりという意味よ』
「俺はてっきり俺に抱かれることが出来て良かったと聞こえたが」
『馬鹿なの!?』
パッと赤くなって私も立ち上がった。
「動揺しているということはチラとでも考えたんじゃないか?」
『考えていません!』
「どうだかな」
『エロ本没収するわよっ』
「ハハッ。自分で贈ったエロ本だぞ?」
『むむ』
「……礼を言うよ」
シリウスは小さく息を吐いて肩を竦めた。そこには先程の艶っぽさはなく、枯れた様子で体がいつもより小さく見えた。
『急にどうしたの?』
「すまない。虚しくなってな」
『ごめん……良かれと思ったんだけど』
「すまない。ユキの心遣いには感謝しているんだ。ただ、こんなもので心を慰めなくてはいけないことに虚しさを感じたんだ」
『シリウス……』
私は雑誌を手に取りページを捲った。魅惑的な笑みのお姉さんがこちらに視線を向けている。
『シリウスを元気づけるにはどうしたら良いだろうか?』
「その気持ちだけでありがたい」
『2次元がダメ?』
「何を呟いているんだ?」
『動かしたらどうだろうか』
「ろくな事考えてないな。思考を止めろ」
『試す価値あり』
「価値無しだ。おい、何を思いついた!?」
私はページをビリリとちぎってモデルのお姉さんの形に切り取り、筆を出して術式を書いていく。
『式神!シリウスの言うことを聞けっ』
ペロペロと紙のお姉さんは立ち上がり、シリウスの方へと動いていく。
『どう?』
「どうじゃねぇよっ!」
私はタイプの違う美女を切り抜き次々と術をかけていく。
『楽しんで』
「楽しまねぇッ。こいつらどうにかしろ!」
『あら。気に食わない?それならシリウスが暖炉に飛び込めといったら飛び込んで灰になるわ』
「罪悪感半端ないなッ」
『ご満足頂けないなら……うーん。これはどう?変化!』
私は目の前の雑誌表紙のスタイル抜群水着姿お姉さんに変化した。
ポン
白煙から現れた私はミルクティー色の髪のナイスバディー。
『とはいえ、お触り厳禁。見るだけよ』
ショックなことがあったようにヨロヨロとよろけたシリウスは椅子に座ってテーブルに両肘をついて頭を抱えた。そこにお姉さんの式神達がまとわりつく。
「お前って奴は」
『気遣いの出来る奴?』
「はああああ」
『盛大な溜息ね』
私は何が悪かったのか分からず肩を竦めた。他にもシリウスのストレス解消になることはないだろうか?
『ねえ、私に出来ることない?』
「気にするな。十分良くして貰っている」
『それでも何かしたいわ!』
「ユキ……ありがとうな。それじゃあお言葉に甘えて」
シリウスが考えたのはチキンの丸焼きを作って欲しいというもの。
『いつもと同じじゃない』
「俺はユキの料理が大好きだ」
『嬉しいことに言ってくれるわね。それじゃあ今日はパーティーにしましょう』
「パーティー!いいな!」
ホグズミード村に買い物に行き、丸々としている鶏を1羽、お酒も買ってきた。サラダを作り、オリーブの実に生ハム、カナッペ。シリウスも手伝ってくれて楽しくお喋りしながら料理をする。テーブルは美味しそうな料理で華やかになった。
『今日は英気を養う会』
「乾杯だ!」
『かんぱーい』
明るい顔のシリウスとグラスを合わせる。一時だけだとしても憂いを忘れてくれたら嬉しい。
お酒を飲んでご機嫌な私はソファーに座ってエロ本を読んでいた。だってシリウスが見ないなら勿体ないじゃないか。
『このマイクロビキニのお姉さん色っぽいな』
甘栗色の髪に灰色の瞳。豊満な胸と大きなお尻。見ているだけで柔らかそうなのが分かる。
私はニヤリと振り返ってダイニングテーブルでお酒を飲んでいるシリウスを見た。
『興味あるんでしょ。こっち来てよ』
「きょ、興味なんかない」
『でも、さっきからチラチラと視線を向けているの知っているのよ。さあ、こっちに来て』
きまり悪そうにやってきたシリウスは私の隣に座る。私はお気に入りのお姉さんの写真をシリウスに見せた。
『この人に変化して』
「うーん。頑張ろう」
じっくりとお姉さんを見た後、シリウスは印を結ぶ。
ポン
煙に包まれたシリウスの姿が徐々に現れ、私は爆発するような笑い声を上げる。
『アハハッ』
シリウスの変化は酷いものだった。髪の毛は甘栗色のロングヘアだったが、顔はシリウスそのまま。豊満な胸にゴツゴツの体。アソコが女性仕様だったので安心した。
『ふふっ。ビキニに着替えられたのは偉いわ』
「滅茶苦茶だがな」
『それでも進歩している』
「コツをもう1度教えてくれないか、師匠」
『対象物をよく観察することよ』
シリウスが色っぽく口角を上げたので心臓が跳ねる。熱い目にたじろいでいると顔に手が伸びてきて、シリウスは私の頬を両手で包んだ。
『シリウス!?』
「対象物を観察している」
『えっと、あの、恥ずかしいのだけど』
「じっとしていてくれ。目を閉じて」
私は言われるがまま目を瞑った。シリウスの為になるなら協力しよう。
閉じた瞼の上を撫でられるのは緊張した。思い切り押されたら目を潰されてしまうが、私はそうはしないとシリウスに心を許していた。シリウスは友達思いで信用できる男。
鼻の筋を通り、親指で唇の形を撫でられる。右耳に移り、ふっと吐息が吹きかけられた。
『シリウス!』
パッと目を開けてシリウスを睨むのだが、思ったよりも至近距離に顔があって私は慌てて体を引く。ふわりと香るお酒の匂いに私は眉を顰めた。
『酔っているのね』
「さあな」
『寝ましょう』
「さっきの続きをさせてくれ」
『ダメよ。寝ます。先にバスルーム使って』
私は杖を振ってテーブルの上の食器を片付けてキッチンに運んで洗う。
先ほどのシリウスから離れられてホッとしていた。あの色香は女殺しだと思う。
2段ベッドの上は私の場所。そこに先ほどのエロ本を持ち込んで読んでいるとバスルームからシリウスが出てきた。
「まだエロ本読んでいるのか?」
『とても……興味深いことが書いてある』
「あっ。馬鹿。生々しい記事を読むな」
ズンズン部屋を横切ってきたシリウスが梯子を2段昇り、私の手からエロ本を引ったくった。
『何するのよ!私は成人女性よ。取り上げられるいわれはありません』
「ユキにはまだ早い」
『子供扱いしないで。もう寝るわ』
「待て」
シリウスがカーテンを引こうとする私の手首を掴んだ。
『何よ』
「この式神どうにかしてくれ」
眉を下げるシリウスの後ろにはペラペラとビキニやヌードのお姉さんが立っていた。
『機嫌が悪いの。自分でどうにかして頂戴』
私は今度こそカーテンを閉めた。
シリウスが自分のベッドに入った気配がし、部屋が静かになって私は起き上がった。まだシャワーを浴びていないし、歯も磨いていない。そっとバスルームに移動してザアアとシャワーを浴びていた私は思った。シリウスを元気づけようと思ったのに不機嫌になって申し訳なかった。
本当にシリウスが喜んで、元気になれることって何なんだろう?残念ながら私の頭では思いつかない。
寝巻に着替えてベッドの2階に上る前にシリウスが寝ているベッド前に跪く。カーテンが閉まっているから様子は分からないが、静かだから寝ていることだろう。
『さっきはごめん』
私は小さな声で謝った。
『シリウスを元気づけようと思ったのに逆に嫌な思いをさせてしまった』
友として私はシリウスの力になりたい。
『今度埋め合わせをさせてね。やり方は……分からないけれど』
立ち上がり、梯子に足を掛けた時だった。ゴソリと音がしてカーテンが開いた。
『起きていたの?』
「埋め合わせしてくれるのか?」
『うん……』
「じゃあハグさせてくれ」
『そんなことで元気になるの?』
「あぁ」
『分かった』
私はシリウスのベッドに座った。大きな腕が体に回ってきて、ぎゅっと抱きしめられる。心を満たしたような息が吐かれて私は嬉しくなった。私なんかを抱きしめて何がいいのか分からないが、シリウスを元気づけられたらしい。
『一緒に頑張りましょう』
私もシリウスの背中に手を回す。そして、トントンと背中を叩いた。
『寝るわ』
「寝るのか?」
『えぇ』
「ダメか……」
『何が?』
「何でもないさ。ありがとな。寝ろ」
『うん。おやすみ』
カーテンを引いて横になったシリウスは、ユキが寝ている2階へと手を伸ばし、柔らかく微笑んだのだった。