第1章番外編
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僕の先生~Ver.ネビル
まだ入学してから間もないのに僕は失敗ばかりしていつも皆に笑われている。
ポケットに入っているものを思い出して暗い気持ちになる。
おばあちゃんから送られてきた思い出し玉。スリザリンの奴らにもからかわれてすっごく恥ずかしかった。
「右手を箒の上に突き出して!」
怒っているように聞こえるフーチ先生の大声が校庭に響く。
初めての飛行訓練。
僕なんかが上手く箒に乗れるはずなんかない。
8歳になるまで魔力が全く出てこなかった僕は極端に魔力が弱いスクイブに近い魔法使い。
風ではためく旗が目に入る。
魔力が弱すぎて飛んでいる間に墜落してしまったらどうしよう?
「「「「上がれ!」」」」
「あ、上がれ」
出した声は自分でも情けないほどの震え声。
僕の箒は当然ながらピクリとも動いていない。
チラッと横を見る。
ハリーが箒を手にして嬉しそうに顔を綻ばせていた。
さすがハリー。それに対して僕は……
僕が彼と同じグリフィンドールだなんて信じられない。
僕は物忘れがひどくて、怖がりで、ドジの意気地なし。
「笛を吹いたらですよ――1、2の――」
突然フーチ教授の声が聞こえてハッとする。
先生の話を聞いていなかった。
置いていかれたら大変だ!
僕は思い切り地面を蹴り上げた。
「わあぁっ!」
グラグラと箒が揺れてバランスが取れない。どんどん上昇して地面があっと言う間に遠くなっていく。
「こら、戻ってきなさい!」
下からフーチ教授の怒鳴り声。
僕だって下に戻りたい。でも、どうやって?
箒を下に向けたら凄いスピードで地面に突っ込んで行っちゃうかもしれない。
怖い
助けを求めたくても声が出ない。
体がガタガタ震えて箒から落ちてしまいそう。
箒を握る手の感覚が感じられなくて、僕は体を前のめりにして箒にしがみつく。
途端に箒がヒューーっと空に向かって斜め上に飛んでいく。
「っあ!!」
汗ばんでいた手が箒の上昇とともに滑って僕は空中に放り出された。
胃がひっくり返るような浮遊感。
あとはあっという間
ガーーン ドサドサッ ボキ
真下にあった木の枝にあちこちぶつかりながら僕は草地の上に落ちた。
遠くで誰かの叫び声が聞こえる。
「ネビル・ロングボトム!」
フーチ教授が駆け寄ってきて僕を覗き込む。
体中痛いけど、特に手が張り裂けるように痛い。
「手首が折れているわ。でも、あとは大丈夫そうね」
フーチ教授は少しホッとしたように言って僕の体を支えて立ち上がらせた。
校庭にいるみんなが僕を見ている。
スリザリン生のニヤニヤ笑いが目に入り、悔しさが込み上げてきて我慢していた涙が流れ出してきてしまう。
僕には何の取り柄もない
何をやっても失敗ばかり
マダム・ポンフリーから貰った苦い薬を飲み、ベッドに寝ながら考える。
みんな僕のことをグリフィンドールに相応しくないと思っているに決まってる。
自分でもどうして僕がグリフィンドールに選ばれたのか分からない。
きっと組分け帽子が間違ったんだ……
鼻の奥がツンとして再び泣きそうになっていたらバンッと扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「マ、マダム・ポンフリー、い、いらっしゃいますか?」
『クィレル教授、私は大丈夫ですから。離してくださいー!』
初めの声は吃っているから闇の魔術に対する防衛術のクィレル教授。
もうひとりの声は直ぐに分かる。忍術学のユキ・雪野先生!
おばあちゃんが体調を崩して入院してしまったから、入学式の買い物はユキ先生がついてきてくれた。
買い物途中でアイスを食べたり、お菓子屋さんに入ったり。とっても話しやすい先生。
それにこの前はスネイプ教授の魔法薬学で爆発した薬から僕を守ってくれた強くて優しい先生だ。
気になってカーテンを小さく開けて、隙間から覗いてみる。
「また、ユキ先生ですか!今度は何をしたんです?」
見えたのはクィレル教授とマダム・ポンフリーの間で居心地悪そうに小さくなっているユキ先生の姿。
「あ、暴れ柳に、お、襲われて、い、いたのです」
暴れ柳ってあの近づいたら襲ってくる凶暴な木のことだよね?
ユキ先生怪我とかしてないかな?
ここからだとよく見えない。
『いえ、暴れ柳の生態観察をしていただけですよ。ほら、擦り傷ひとつないでしょう?』
心配してたけど、ユキ先生からは余裕の答え。
怪我してないとアピールするように手を広げてニコっと笑っているユキ先生を見て安心する。それからマダム・ポンフリーに両頬をぐにっと引っ張られる先生の顔を見て、僕は笑いそうになってしまった。
「ユキ先生、危ないことはしないって約束忘れたのですか!?」
『おぼえてらふ』
「はぁぁ。禁じられた森でひと晩過ごしたり、箒に立って乗ってみたり、大イカに喧嘩売って湖に引きずり込まれたり、天文台から」
禁じられた森!?箒に立ち乗り!?
ロンの双子のお兄さんたちがユキ先生を師匠って呼んでる理由がわかった。
本当に面白い先生だなぁ。
マダム・ポンフリーに怒られて、クィレル教授に睨まれているユキ先生は悪戯を怒られている生徒みたいだ。
口を尖らせて言い訳しているユキ先生。
先生のこと笑っちゃいけないけど、僕はどうしても堪えられなくなって枕に顔をうずめて笑いを堪えた。
「さて、ユキ先生。せっかく来たのだからネビルの治療を手伝ってもらえる?」
突然聞こえた自分の名前にびっくりして、慌てて布団の中に潜り込む。
「痛ッ」
僕ってどうしていつもこうなんだろう?
思わず骨折していた手首でベッドに手をついてしまい、激痛が走る。
『ネビル、入るよ』
ユキ先生に泣き顔を見られたくなかったのに、涙を拭く前に先生はカーテンを開けてしまった。
「うぅ。痛いよ」
ユキ先生に泣き虫だって思われるの嫌だな。
僕は顔を見られたくなくて俯いた。
『Mr.ロングボトムはどうしたのですか?』
「箒から落ちて手首を折ったのです。2度目の薬まであと1時間。ユキ先生、痛みを和らげることはできるかしら?」
『はい』
ユキ先生の隣に来たマダム・ポンフリーがベッドサイドに置いてある砂時計を確認しながら言った。
痛みを和らげるって、もしかしてユキ先生も癒者なのかな?
不思議に思いながら顔をあげるとマダム・ポンフリーから僕の方に向いたユキ先生と目があった。
黒水晶のような瞳に僕の心臓がトクリと跳ねた。
ハリーがいつも言ってるけど、ユキ先生はとっても美人。
ふわりと笑ってベットサイドにある椅子に腰掛けるユキ先生との距離が近くてドキドキしてしまう。
『骨折したのはこっちの手だね』
「は、はい!」
思っていたより大きな声で返事をしてしまった。恥ずかしいな……
『箒から落ちるなんて怖い思いをしたわね』
折れた方の僕の手を優しく包んでくれるユキ先生。顔が赤くなるのを感じながら「ちょっとだけ」と答える。
『箒に乗るの怖くなっちゃった?』
「ううん……大丈夫」
『そっか。ネビルは強いね』
本当はとっても怖かったけど、弱虫だって思われたくなくてつい強がりを言ってしまった。
忍術で僕の考える事読めたりするのかな?
心配になっていると頭にポンとユキ先生の手が置かれた。
『ネビルは根気強く物事に取り組める子だから、今日は上手くいかなかったけど、次は箒に乗れるようになるよ』
「本当にそう思う?」
『えぇ。ネビルならできるわ』
ユキ先生はそう言って僕の頭を撫でながら優しく微笑んでくれた。
心がポカポカしてくる。
僕は不思議と次は箒に乗れるような気がしてきていた。
僕の頭に置いていた手を自分の口元に持っていって、ユキ先生は小さな声で長い呪文を唱え始めた。
折れた手首のあたりが温かくなり痛みが徐々に和らいでくる。
「わぁ。すごいや。痛くなくなってきた」
『良かった。でも、動かさないでね』
ちょっぴりズキズキするだけで痛みはほとんどない。
「忍術ってすごいな。僕もユキ先生みたいに色々な術を使えるようになれたらいいのに」
『ネビルならできるわよ』
ユキ先生はそう言ってくれるけど……
「僕なんかには無理だよ」
僕はハリーみたいな魔力はないし、ハーマイオニーにみたいに頭も良くない。
『どうして無理だと思うの?』
「だって、僕は魔力が人より弱いから。それに、頭もよくないし……」
『魔力が弱い?そんな事ないよ。ネビルからは魔力がしっかり感じられる。全然弱くなんかない』
「ホントに?」
頷くユキ先生が嘘をついているようには見えない。
じゃあ僕が失敗ばっかりするのはスリザリンのドラコ・マルフォイが言うように僕自身が馬鹿で間抜けだから、なのか……。
『何を落ち込んでいるか分からないけど、ネビルはまだ一年生。しかもまだ入学してから一ヶ月も経ってないんだよ?』
ユキ先生はそう言いながら椅子から立ち上がり、ポンとベッドに腰を下ろして僕と向き合った。
『焦る必要なんかない。もし、自分が人より劣っているなんて考えているならそれは間違い』
僕の心を読んだかのように話すユキ先生に目を瞬いていると、先生はニコッと笑って僕の頭をクシャクシャと撫でた。
『ネビルは物事を注意深く観察する良い目と、さっきも言ったけど出来ない事に根気強く取り組める力を持っている。ネビルには良いところが沢山あるんだよ。ゆっくりでいい。自分の好きなこと、得意なことを見つけていくといい』
ユキ先生の言葉で霧が晴れていくように気分が明るくなっていく。
僕にも良いところがある。
僕のことを認めてくれる人がいる。
『おっと』
「ユキ先生、大好き!」
嬉しくなってユキ先生に抱きつきながらそう言うと、先生も僕のことを抱きしめてくれた。
まだ自分が何が得意か分からない。
でも、何が好きかはわかるよ。
ユキ先生とユキ先生が教えてくれる忍術学。
僕、頑張るから見ててね、先生