第8章 動物たちの戦い
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15.吸血鬼の悪夢
私は訪問者を引率しながら不機嫌になりながら芝生の丘を下っていた。
放課後、シリウスが授業準備をしている忍術学研究室に入っていくのは私、リーマスと……なぜかいらっしゃるジェームズ。
「よお!」
嬉しそうなシリウスの横で私はジェームズ(ポリジュースで変身済み)を睨みつける。
「そーんな顔しないでくれよ、ユキ」
『するわよ!ヴォルデモートはハリーには手を出さないと宣言したわ。でも、あなたは違う。死喰い人たちの中でのあなたの価値は高まった。誰もがジェームズを殺してヴォルデモートに差し出そうと躍起になっている』
「確かに。周りが五月蠅くなったのは感じているよ。だから、こうしてリーマスの手も借りて慎重にやっている」
キリッとした顔をしたジェームズを殴らなかった自分を褒めたい。私は代わりに大きな溜息を吐き出した。
『リリーに危害が及ぶようなことだけは避けるのよ。あの家の守りは固いけれど、ヴォルデモート程の魔法使いになれば結界を破られる危険性もある』
なんて何度言ってもこの人たちの行動は変わらないだろう。だが、何度でも言うが……無駄なのは分かっている……話題を変えよう。
『この前私も様子を見に行ったばかりだけど、リリーとマリーは元気にしてる?』
「元気だよ。マリーはとても可愛い。リリーそっくりのエメラルドグリーンの瞳で僕を見上げて笑ってくれるんだ。リリーの方も元気さ。ケリドウェンの病院長と彼女の屋敷しもべ妖精、それにドーラがいてくれるから心強い」
「あぁ、ドーラに会いたい」
シュンとしてリーマスが言った。
「あそこにはダンブルドアがいる。俺たちといえども訪問者を増やすのは良くないからな」
シリウスがリーマスに気遣わし気な瞳を向け、リーマスは分かっていると言うように頷いた。
「ドーラもリーマスに会いたがっていたよ。子供を産んだら直ぐ不死鳥の騎士団の仕事に復帰するとも言っていた」
「何だって!?」
ジェームズの言葉に驚いたのはリーマスだけではない私たちも。まさか子供を産んで直ぐに前線復帰したいと言うとは予想していなかった。
『妲己の予言のこともあるわ。ドーラを復帰させるのは心配』
「僕もだよ。あぁ、なんてドーラに言うべきだろうか」
リーマスは首を振って頭を抱えた。
「ドーラはリーマスが心配なんだよ。一人で戦わせたくない。一緒にいたいと言っていた。その意志は強くて……はぁ。リーマスのその気持ち、相当に分かるんだ。実はリリーも不死鳥の騎士団の仕事に戻りたいと言っている」
『リリーまで!?』
「僕と一緒にハリーを守りたいと強く言っていた。僕は……彼女の思いを尊重したいと思っている」
「いい覚悟だ、ジェームズ」
どんっとシリウスがジェームズの背中を叩いた。
「僕はジェームズのように覚悟が決められない。何かあったらという思いが拭いきれない。きっとジェームズはこう思っているのだろう?リリーを信じている。何かあったら自分がリリーを守ると」
「リーマス、人それぞれなんだ。ジェームズの考えと比べる必要はない」
「そうだね、シリウス。無事にドーラが出産して会えるようになったら二人で話し合うことにする」
『それがいいわね』
さて、とリーマスが表情を変えて私を見た。
「僕はユキと任務だ」
「俺はジェームズとハリーに会いに行く」
『お願いだから目立たないように行動してね』
ルンルンと鼻歌でも歌いそうなジェームズはシリウスが隅に置いていたグリフィンドール生のローブとネクタイを締めていて、クスクスとリーマスが笑っている。
そんなジェームズに怒るのを忘れて笑ってしまいながらリーマスと共に忍術学の研究室を出て、ドアを隔てて繋がっている教室から更に外へ出て行くと、ちょうど吹きさらしの廊下の左側からセブがやってくるところだった。
「セブルス」
「任務か?」
セブが愛想悪くリーマスを一瞥して私に聞いた。
『そうよ。クィリナスとも合流する』
「朗報だよ。ヴァンパイアのリーダーが同盟を結ぶための最終調整をしてくれる。その事前話し合いが今日だ」
『そうなの!?やったわね!』
手を打って喜んでいる私はセブを見たが、彼は眉一つ動かさずに目を数度瞬いただけだった。相変わらず忍の私にすら読めない顔である。
『もう少し喜んだら?こちらの戦力が増えるのよ』
「何故ユキが必要なのか。ヴァンパイアへの交渉はルーピン、お前とクィレルの仕事であろう」
『確かにそうね。リーマス、私の手助けが必要なの?』
そうだとしたら交渉事が苦手な私は力になれると思えないのだがと思っていると、「指名があったんだよ」とリーマスが言った。
『指名?』
「あぁ。サングィニというヴァンパイアを知っているかい?」
私とセブの顔が凍り付いた。
サングィニは去年のスラグホーン教授のクリスマス・パーティーで出会った吸血鬼。私は彼の毒をもらうのを条件に自分の血を吸わせることにしたのだ。セブに見られながら押し付けられた暴力的な官能を思い出し、私は恐ろしさから身震いする。
「ユキを行かせるわけにはいかない」
「何があったか分からないけれど、ユキが交渉のテーブルにつくことが必須条件なんだ」
「あの男は危険だ」
『セブ、大丈夫よ。ただ話し合いに行くだけだもの。サングィニは顔の知っている私がいた方が話しやすいと思っているだけよ』
「顔の知っているというならば我輩が行っても問題なかろう。ルーピン、交渉場所はどこだ?」
「ホグズミード村のホッグズ・ヘッドだけど……ええと、本当に何があったんだい?」
『「……」』
「あー……触れてはいけないようだね。うん。でも、分かった。一緒に行っても問題ないだろう」
私たちは黙ってホグズミード村へと歩き、ホッグズ・ヘッドへとやってきた。
相変わらず埃っぽいこの店は暗く、ジメジメっとしていて陰気臭い。店主のアバーフォースは何も言わずに首を傾けて地下への階段を示した。
前後でギシギシと軋む階段を一人音を立てずに下りて行くとそこには扉がある。リーマスはノックして「僕だ」と短く言った。
「合言葉はソルティードック」
「キューバリブレ。入って下さい」
扉が開いて中に招き入れられるとそこには変化したクィリナスと久しぶりのサングィニの姿があった。ニッタリと笑ったサングィニの目の色は怪しく、気のせいか私の首元を見ている気がする。
『どうも』
「再びお会いできましたね、ユキ。また君を味わえるのが嬉しい」
『な、なんですって!?』
サッとセブが私の前に出た。
「どういうことだ?」
セブはサングィニではなくクィリナスに聞く。
「ユキ、申し訳ありません。交渉材料として、ユキの血を吸わせることが必要だったのです」
大変申し訳ないというクィリナスだが、これは決定事項だと言うように交渉の余地を与えない話し方をしている。愕然としているとリーマスが割って入ってくれた。
「まずはどうしてユキの血じゃないといけないのか説明してもらおうか」
セブの背中から顔を覗かせた私は後悔した。ゾクリとする笑い方をするサングィニは吐息の混じる声で「今までで味わったことのない至極の味だったからだ」と目を細める。
「それに力が
『た、確かに私は純粋に人とは言えないかも知れませんが……』
「ほう?」
私はアニメ―ガスになるとドラゴン大の黒い狐に変身できること、半獣の姿に変身できることを話した。
『もしかしたらその辺りで人と血液が違っているのかもしれませんね』
「素晴らしい」
立ち上がり、一歩私の方にサングィニが近づいた瞬間、セブが私を隠し直し、リーマスも前に出た。
「純粋に人ではないというならば、僕の血でもいいでしょう。僕は人狼です。ユキの代わりに僕の血を吸うと良い」
『リーマスっ』
「ふんっ。誰が好き好んで男の血など吸うものか」
「皆さん、まずはテーブルに着きましょう。腰を落ち着けて話し合った方がいい。飲み物は何がいいですか?」
『クィリナス、そうね。私の影分身に持ってこさせるわ』
それぞれにお酒を頼み、私はヤケ酒に慣れない高アルコールを喉に流し込んだ。一瞬、頭がクラリとしたが、正気ではやっていけそうもない交渉になりそうだ。
交渉?
違う。結果は既に決まっている。
クィリナスが血を差し出せと言っている以上、私はサングィニに血を吸わせるしかないのだと思う。これがクィリナスが最大限に譲歩した吸血鬼からの協力を得られる条件だろうから。
最大限?
ふと思う。本当にサングィニだけで済むのだろうか?私はゾッとして自分自身を抱きしめた。
『私の血をサングィニ、あなたに吸わせるだけでヴァンパイア全てが味方になってくれるとは思えないのですが?』
そう言うと、サングィニは不気味な微笑を浮かべて一口血色のワインを口に含んだ。
「私だけ美味しい思いをするわけにはいきませんよ。ヴァンパイアを取りまとめる者たちがいましてね、その者たちにも血を提供して頂きたいのです」
「っいい加減に!」
『セブ、落ち着いて。それは……何人くらいです?体から血をすっからかんに抜かれてしまっては大変です』
「五人。たったそれだけだ」
『五人か……ヴァンパイアを仲間に引き入れることが出来るならば安いものね』
「ユキ!」
「セブルスが怒るのも当然だよ。たとえ血を抜かれるにしても一人でさせるわけにはいかない。僕も分担させてもらう」
「人狼、お前の血など必要ないと言っているだろう」
「それはどうでしょう?吸血鬼のレディは喜ぶかと思いますよ。人狼の血は吸血鬼にとってパワーがあると聞いています」
クィリナスの言うことは確からしく、サングィニは考えるようにクルクルとワイングラスを回した。
そして暫く考えたのち、「いいだろう」とクィリナスに視線を向ける。
「ヴァンパイアの幹部のうち三人は女性だ。その三人にはリーマス・ルーピンの血を吸わせることにする。私を含めた他三人はユキにお願いしよう」
「勝手に……勝手に話を進めてくれるな」
『セブ……』
私は震える手をセブの手に重ねた。セブの手も震えている。泣き出しそうになりながらセブの手を握りしめる。
『やらなくては』
「クィレル、どうにかしろ。他に方法はないのか?」
「どうにかここまで譲歩してもらったのです。ユキには悪いですが、血を吸わせるだけで吸血鬼が味方に付くのですよ?巨人と人狼、それに
力説するクィリナスの横で動きを止めていたリーマスが動いて私の方を見た。
「ユキ……すまない」
ずっと交渉を行ってきたクィリナスと今はマッド‐アイと共に不死鳥の騎士団のリーダーの役割をしているリーマス。二人がこう言うのだからこの状況を受け止めるしかないだろう。私は覚悟を決めてセブを見上げた。
『隣にいてくれるでしょう?』
セブも避けられないと分かったのだろう。辛そうに、見ていて胸が裂けそうなほど苦しそうに瞳を閉じた。
***
サングィニの案内で深い森の中に私たちは来ていた。
森は不気味に暗く、どんよりとした雲が空を覆っている。私は少しでも気持ちが明るくなるようにと出来るだけ多くの狐火を出して辺りを照らしていた。セブ、クィリナス、リーマスも杖灯りを煌々と照らしている。
姿現しが出来ないようにされていて、私たちは歩いていた。
馬車が1台通れるくらいの坂道を上がっていて、右側の
漸く上まで上り切って見上げる城はおどろおどろしく、怖気づいて帰ってしまいたい気持ちにさせられるが、ここで不安がってはセブを心配させるだけだ。拳をギュッと握りしめてこれから起こる恐怖を頭から消し去った。
「中へ」
ギイイと木の大扉が開き、ヴァンパイアの根城へと招き入れられる。玄関ホールにはところどころ火のついたシャンデリアがぶら下がっており、その周りを幾千もの蝙蝠が飛び回っている。
赤い絨毯は真っすぐに正面の大階段へと続いており、大広間の壁際には絵が飾ってあり、どれも夜の景色が描かれていて太陽の下で寛いでいるような穏やかな絵は一つも見当たらなかった。
「ようこそお出で下さいました」
蝙蝠が目の前に集まってきたと思ったらそれは人になり、初老の男性が現れ胸に手をあてて私たちに恭しくお辞儀をした。
「リーマス・ルーピンは彼についていってくれ」
『待って!サングィニ、別々の部屋でするんですか?』
「そんな顔をする必要はない。君たちはお客様だ。節度も持って接する。決して干乾びたミイラにする気はない」
『それはそうでしょうけど……』
「ユキ、僕は心配ないよ」
ニコリと笑っているがリーマスの顔色は青白い。
ヴァンパイアが興奮してやり過ぎてしまったらどうしよう。不安を感じクィリナスを見ると彼は小さく頷いた。
「分かりました。私がルーピンについていましょう。これがユキの望みですね?」
『ありがとう、クィリナス』
「スネイプ、ユキを頼みます。ですが、決して自分の感情に任せて中断させないで下さい」
「お前に言われなくとも分かっている」
「では、こちらへ」
リーマスとクィリナスは初老の男性に導かれて階段を上がって行き、私たちもサングィニを先頭に階段を上り、リーマスたちとは逆方向、左手に曲がる。ずーっと暗い廊下を歩いていく。ヴァンパイアにも歴史があるのだろう、戦の絵画が飾られており夜の闇の中を
サングィニによって四度ノックされて開けられた部屋は予想よりも広かった。窓はなく、天井にあるシャンデリアからは赤味を帯びた光が揺らめく。部屋の調度品は完璧な美しさのもので、壁紙は美しい蔦の模様だ。しかし、それらを堪能する余裕はなかった。私の目はあるものに釘付けになっていた。部屋の右手奥には大きな大きなベッドがあった。
「ようこそ、レディ」
私の前に並んでいる三人の男性は紳士的に見えるがどこか怖い。情けないことに震えてしまっていると一人の吸血鬼が進み出て私の手を取り、甲に口づけを落とした。ゾクッとした寒気に後ずさるとトンと背中が支えられる。セブが私の肩をしっかりと支えてくれた。
しっかりしなくちゃ。今からこんなことでどうするのよ。
吸血鬼の幹部だと紹介された男性たちは礼儀正しそうに見える。きっとケリドウェン魔法疾患傷害で採血した時のように椅子に座っていれば済むか、最悪でもサングィニの時のようにして終わるはず。右奥のベッドは……使われないように祈るしかない。
しかし、私の祈りは早々に打ち砕かれた。
何処からかやって来たメイドが「こちらでお着替えを」と私に声をかける。
『着替え?』
「今の服装では血を吸いにくい」
『変化しますから問題ないですよ』
健康的なスポーツウエアにでも着替えたらいいと思っていたが、幹部の一人がゆるゆると首を振った。
「私たちの厚意を無駄にしないで下さい。私たちはこの日を楽しみにしていたのです。それなりのおもてなしをさせて下さい」
「着替えをし、ベッドへ」
「私たちは血を味わい、あなたは官能を味わう」
ギラギラした瞳に震えながらセブを見上げるとセブは憤然とした様子で幹部たちを睨みつけているところだった。
「契約はユキの血を吸わせるだけだったはずだ。まるで娼婦のように扱うのはやめて頂きたい」
「サングィニ、こちらの方は?」
「Ms.雪野の恋人です」
「それはそれは。甘美な夜になりそうだ」
クツクツと笑った幹部の一人が指をパチンと鳴らすと天井からザアアアと蝙蝠が湧いてきてセブを羽交い絞めにした。
『セブ!』
「っ大丈夫だ」
『何をするんですか!?』
「彼は狂宴に参加する気はなさそうだ。ならば大人しくして居てもらう他はない」
『わ、私は……私はっ―――』
「ご安心を、もちろん血を吸う以外の行為はしない」
「ただし、着替えてベッドには寝て頂こう。それが我々の食事の仕方だ」
「従えぬと言うならこの取引は―――」
『ま、待って』
クィリナスとリーマスが頑張って交渉してきてくれたこの同盟締結までは目前、必ず結ばなければならない。私の血など、未来の戦いで流れるかもしれない多くの血を考えると少ない犠牲だ。
ホッグズ・ヘッドでこの話を聞かされてから覚悟は決まっていたから“しない”の選択肢は私の頭の中になかった。だが、相当に怖い。忍の私が呆れるわ……。本当は、嫌だ嫌だと泣き喚いて拒否したい。
それでもやらなければと勇気を奮い起こし、サングィニに頷いた。
『やります。でも、お願いが』
「何かな?」
『セブを解放して。それから―――彼には傍にいて欲しい。ダメですか?』
今度は幹部の方に向き直って聞くと、彼らはヒソヒソと話し合った後、薄らと笑みを浮かべて「いいだろう」と言った。
蝙蝠が羽ばたいていなくなり、セブの拘束が解ける。
セブは普段でさえ顔色が悪いのに更にその顔色を悪くしながら私の左手を取った。
「ユキ」
『着替えてくる。支えていてくれるでしょう?』
「もちろんだ」
触れるように薄い唇にキスをして私はメイドについて行って隣の部屋に入って行った。
指示に従ってブラジャーを脱ぎ、上質な絹で作られているビスチェの白いロングドレスに着替える。血を吸いやすいようにするためだろうか両脚には腰から20センチ下のところから大きなスリットが入っている。
ドアを出て直ぐにはセブが待っていてくれていて、私の手をしっかりと握り、ニ人でベッドへと歩いて行く。
「怖いか?」
『かなり』
「我輩にしっかりしがみついているがいい。直ぐに済む」
『明日の朝のことを考えるわ。陽の当たる私の部屋で温かいスープとパンとパスタと果物にピザ……もう黙るわ』
セブに横抱きにされた私は大きなベッドの中心に寝かされた。セブは私の左側に胡坐をかくように座っていて、私の左手を両手で握りしめてくれている。
一人目。スカーフタイを緩めながらやってきた幹部の一人が私の体を跨いだ。
緊張で大きく胸を上下させながら視線だけセブに向けると優しく顔を撫でられ、私は微笑んだ。
『首はやめて。肩でお願いします』
「分かった。では―――」
がぶりと肩に噛みつかれた瞬間、全身に電流が走ったように痙攣した。
『いやあああああっっっっ』
サングィニの時の比ではなかった。強い官能が子宮を押し潰してイってしまう。自分の反応に動揺とショックを受ける私は思い切り肩口に噛みつく吸血鬼を押しのけた。
「っ」
『ご、ごめんなさい』
肩口を押さえながらハッと我に返る。機嫌を損ねてしまっただろうか?しかし、男はニヤリと口角を上げて口元を手の甲で拭った。
「お気に召したようだ」
『あ、あ、わ、私は……せぶ、せぶ、違うの』
「分かっている。ユキ、大丈夫だ。分かっている」
這うようにしてセブの腰に抱きつく。
「レディ、まだ私は満たされていない」
『ご、ごめんなさい。そう、ですよね……。でも、どうか。肩はやめてくれませんか?』
「肩も、だろう?」
『肩も。お願いします』
「ではどこに?例えば胸元なら甘美だろう」
体をビクリと跳ねさせてセブをギュッと抱きしめる。
胸なんかに吸い付かれたら失神してしまうかもしれない。もう、吸血鬼の方を見ることが出来なかった。セブを見上げてイヤイヤと首を振る。
『セ、セブ、セブが決めて』
セブは私の肩口の傷を杖で叩き塞ぎ、そして汗ばむ私の額の汗を自分の袖口でそっと拭い、吸血鬼の幹部に視線を向けて「脚に頼む」と言った。
「太腿にだ。これは譲らない。脛など味気ないからな」
「ユキ、いいな?」
『うん。だ、大丈夫』
温かい息が太腿にかかる。
ピタリと歯が肌に当たった。
舌が円を描くように肌を舐め、ちゅっとリップ音を鳴らして吸われる。
「ユキ、直ぐに終わる。辛抱してくれ」
『セブ、本当にごめん。ん、あ、あ、ああああッ』
ビクンと体を跳ねあがらせた私はイかなかったまでも強い快感で身を捩った。ヴァンパイアの力は強く、私の体を思い切り押さえつけている。
『いやああっ、あ、あ、あん、セブ、やだっ、やだ、ああっ』
好きな人にこんな姿を見せたくない。
けれど抗えない快感に嬌声を上げてしまって罪深い気持ちになり、消えてしまいたかった。ボロボロと生理的な涙を流してセブにしがみついていたのだが、その手は乱暴に払われた。
『せ、せぶ、しぇぶ』
まさか軽蔑されて突き放されたのではと恐ろしい思いになった私が顔を上げると、大きな両手で顔が包まれる。そして強く強く唇が押し付けられた。
『んっ』
セブの口づけは荒々しく、直ぐに私の呼吸は荒くなる。口の中を蹂躙するセブの舌に私の意識はあっという間に移っていき、体はセブを求めだした。
頭がグラグラする。
顔に添えられていたセブの手は下がっていって胸に移動し、グニグニと私の胸を揉む。
「良い子だ、ユキ」
『あん、あっ、ダメ、もう』
「素直になっていい」
『でも』
「いいんだ。我輩を見ていろ。怒っているか?君を軽蔑しているように見えるかね?」
今度は吸血鬼に対して感じたのとは違う感じでゾクッとした。セブの顔は色っぽく、ギラギラとした性欲で私を求めている。
私はセブの後頭部に手を回して自分の顔へと引き寄せた。
じゅ、じゅる
滑らかな舌が絡み合い、舌が思い切り強く吸われて私は快感に震え、下半身を濡らした。
『あ、あ、あ』
私の喘ぎ声がセブの口の中でくぐもって、部屋に響いている。
血を吸われている太腿からやってくる快感も全てセブに与えられている快感と錯覚しかけていた。
いつの間にかセブの右腕が私を腕枕していた。
ダラダラと口から零れる涎はもはや私のものかセブのものか分からない。
唇が離れ、恍惚とした顔でセブを見つめると、いつもの意地悪な顔をされて私の胸を揉んでいた手は動きを変える。
『あぁ、セブ。落ちるところまで落ちそうよ』
「構わない。君を嫌いになることなどない」
甘美に狂乱し、私は泣き、喘ぐ
長い夜は、漸く終わった
ピチチと可愛らしい鳥の鳴き声に目を開ければそこはホグワーツの私の自室だった。夜は終わり、朝が来ていた。
あれは現実だったのだろうか?記憶がぼんやりしている。自力で帰ってきた記憶はない。
重だるさを感じながら腕を上げた私は自分が寝巻の浴衣を着ていることに気が付いた。袖を捲っても何一つ跡はついていない。太腿はどうだろうか?
上体を起こして布団をめくった私はクラリと強い眩暈を感じてベッドに手をついた。
「大丈夫か?」
『セブ』
扉を開いて入って来たセブの手にはトレーがあり、朝食が乗っている。
「もう少し横になっていた方がいい。昨日はかなりの血をとられた」
『あれはやはり現実だったの?痕がないからもしや夢だったのかもと期待したのだけど……』
「君は良く頑張った」
トレーをナイトテーブルに置いたセブが私を抱きしめてくれる。
「オブリビエイトするか?」
『迷うところだけど、いいえ。記憶は出来るだけ自分の手元に置いておきたい』
「わかった」
『その美味しそうな朝食はセブが作ってくれたの?』
ツナと卵のサンドウィッチが1つずつ、コーンポタージュにフルーツサラダ、紅茶。急に空腹を感じてお腹がギュルルとなってしまう。
「紅茶を淹れたのは我輩だが、あとはトリッキーだ」
セブの屋敷しもべ妖精は料理が上手だ。
「連れてきて隣の部屋にいる。食べたいものがあれば他にも作らせる」
『ありがとう』
「朝食の前に増血薬だ」
美味しくない増血薬を飲んでから美味しい朝食を食べ始める。半分くらい食べたところで私はセブに質問した。
『リーマスは大丈夫だった?』
「生きている」
『家に帰れたかしら?』
「それは知らん」
『薄情な人ね。でも、クィリナスがついているから大丈夫だと思う。クィリナスは面倒見が良くて何でも気が付く人だから。クィリナスは何か言っていた?』
「交渉は纏まったと言っていた」
『良かった』
ホッと息を吐き出す。
『ヴァンパイアの戦力がホグワーツについたのは大きいわね』
「ユキの頑張りのおかげだ」
セブが私の頬に軽いキスをした。
『ねえ、そこに座っていないでベッドに入って隣に来てくれない?』
食事の乗ったベッドテーブルがふわふわと飛んでいき、セブが隣へとやってきた。
『セブ』
「何かね?」
『昨日は幻滅したでしょう?』
「いや。あれは仕方のない事だ。気に病む必要はない。それに、君があれだけ昨晩乱れたのは我輩の手の中にいたからだ」
『うん……セブがいてくれて良かった』
「もうこの話は終いにしよう。もう少し寝るといい」
『セブは一緒に寝ないの?自分の部屋に帰っちゃう?』
「いや、実験室を借りる」
『ナギニの毒を解毒する薬よね?』
「たぶん今ある試験薬の中に完成品があるであろう」
『私も一緒にしたい』
「では、二人でひと眠りしてからにしよう」
私たちは抱きしめ合いながらスヤスヤと眠ったのであった。
「出来たな」
『えぇ』
漸く私たちはナギニの毒の解毒薬の開発に成功した。
もしセブがナギニに噛まれた時はこの解毒薬を飲み、軟膏で傷口を塞ぎ、増血薬と気血を補う薬を服用する手筈になっている。
『完成はしたけれど、一番は噛まれない事よ。もし、ヴォルデモートに殺されそうになったら逃げて欲しい』
「ニワトコの杖を闇の帝王に渡した今、我輩を殺す理由はないはずだ」
『そうね。そうだと思いたい』
既に妲己に見せられた未来は変えることが出来たはず。
どうかこれらの薬が使われることがありませんように。