第8章 動物たちの戦い

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14.森の守護者




時は少し遡る……。

マルフォイ邸の一室にはヴォルデモート、ルシウス・マルフォイ、そして長い髭を生やした白髪の老人がいた。ヴォルデモートの前に跪かされた老人はトトリという神秘部で働いている者であった。

「くく。随分と落ち着いて見えるがこれから自分がどうなるかと恐ろしくはないのか?」

そう言うヴォルデモートをトトリはハッキリと反抗の意志を示す瞳で見上げて首を振る。

「私の運命はここで尽きはしない」

「ほう」

面白そうに口の端を上げるヴォルデモートが杖を一振りするとトトリから悲鳴が上がった。しかし、トトリは怯えるどころか起き上がり、再びヴォルデモートを睨みつけた。

我が君をあのような目で見るとは……。

ルシウスは半分は尊敬、半分は愚か者を見るように見下してトトリを見ていた。この老人は命が惜しくはないのか?それとも用済みになったら殺されると分かっていて強がり、今から偽の予言をするつもりなのだろうか?

トトリがここに拉致された理由はハリー・ポッターを殺すのはいつが最適なのか予言させる為である。

ユキについての予言をしたのがこのトトリという老人で、その予言をルシウス・マルフォイはセブルスと共に聞き、ヴォルデモートに報告した。


……冥王星ノ加護ヲ受けし……運命ノ歯車ヲ狂わす、異界の魔女に祝福サレシモノ……必ずやタナトスの手から逃れん……

異界ノ魔女ニ……愛サレシモノ……人智を越えたチカラで……死を越える……


確かにシリウス・ブラックは吸い込まれたら二度と戻って来られないと言われている神秘部にあるアーチにかかったベールから戻ってきた。しかもポッター夫妻と共にだ。これはヴォルデモートにとって大きな衝撃であり、喜びであった。予言は現実であり、ユキを手に入れれば自分の不死が叶う。

「ハリー・ポッターを殺す時は何時が相応しいか」

ヴォルデモートは今までの失敗を思い起こしていた。
11歳だったハリーをクィレルが殺し損ねたこと、秘密の部屋事件、三大魔法学校対抗試合では完全な姿になったのに取り逃がした。そして先のゴドリックの谷からの脱出作戦での失敗……。

力において絶対的にまさっている自分がどうしてこうもことごとく失敗し続けるのであろうか。
運が悪いとしかいいようがない。もしくは何か見えない力が働いているしか思えない。

ヴォルデモートは目の前で両膝をつく老人に目をやった。
偽物の占い師が多い中、この者の占いの腕は確かだ。

「預言をしろ。俺様を満足させることが出来れば解放を考えてやろう」

「ふん。儂の腕をお前なんぞに使うものか」

バンッ

閃光が散り、ルシウスは思わず目を背けた。呪文を受けた預言者は体を痙攣させて悲鳴を上げながら床をのたうち回る。

何度も何度も打たれる呪文。

段々とトトリの意識は現実から離れて遠くへ行っていた。
クルーシオを唱えられて全身に焼けるような痛みがやってくる。

「お、おのれ……」

しかし赤い目をした男を前にトトリは怯まなかった。グラグラと頭を揺らしながらヴォルデモートの目をじっと睨み返す。


赤い、赤い瞳。


トトリの縁が白く濁っている瞳に映るのは血のように赤い、赤い瞳。

薪が爆ぜる音はトトリの耳には遠くなっていっていた。

「あ゛……ぐぅ」

「おい。我が君が聞いておられる。いい加減に「ルシウス」

ヴォルデモートはトトリから目を離さぬままルシウスの言葉を遮った。トトリの青い瞳の中にある赤い瞳が朧げに揺らめく。

優秀な預言者は低い呻き声と共に口を開いた。



……歯車の中に―――無理をして剣を入れてはならん……全ては運命の導くまま―――



「俺様とハリー・ポッターのことを言っているのだな?」



―――……一方が生きている限り、他方は生きられぬ。これは運命……



「知っている。その生き残る運命を手に入れるにはどのようにするのだ?」



多くが死ぬであろう―――しかし、冥王星に守護されし者が愛する者……甦らん……



「やはり、またしてもユキだ。鍵となるのはやはりあの女だ。トトリ、このニワトコの杖があの小僧を―――」

バタリ、と倒れたトトリは意識を失っていた。

「どういたしますか?リナベイト致しますか?」

「……いや、預言というものは一日にそう何度も出来るものではない」

預言には集中力と体力がいる。老人には無理だろうと判断したヴォルデモートは諦めて椅子に座り、火の入った暖炉を見つめた。

「歯車の中に無理に剣を入れるな。ルシウス、これをどう思う?」

「はい。わたくしめの解釈で恐縮ですが……ハリー・ポッターを殺す機会を無理に作ってはいけないのではないかと思います」

「相応しい時がくれば自ずと分かるということだろう……」

細長い指をテーブルの上で組んだヴォルデモートは倒れる老人に視線をやった。

「預言者を丁重に扱え」

「はい。地下牢に入れておきます」

「それから死喰い人に召集をかけろ。ハリー・ポッターを殺すのは機が熟してからだ。そう伝える」

「畏まりました」

新年度が始まる一週間前、マルフォイ邸ではこのようなやり取りが行われていたのであった。




***




ユキ先生!」

「お久しぶりです」

『久しぶり』

私を見つけた生徒がパッと顔を明るくして挨拶してくれた。

死喰い人がイギリス国中を跋扈ばっこし、吸魂鬼ディメンターが人々を恐怖に陥れる 。そんな日々が常となってしまっている今、ホグワーツへ子供を預けることに躊躇う保護者も多い。目に見えてプラットフォームにいる人は例年と比べて少ない。

私とシリウスは警護でロンドン駅9と4分の3番線に来ていた。あちこちで別れの挨拶をする中を縫って私とシリウスはこのプラットフォームにつながる柱の方へと歩いて行く。

『セブがヴォルデモートは時が満ちるまでハリーに手を出さないと決めたと言っていたけど心配よ。死喰い人全員に向けて宣言したから暫くはハリーの安全は確保されたものと思うけれど、油断大敵。私は……やはり隠れ穴に留まるべきだと思うのだけど』

「ハリーはそれを望んではいない」

『そうね。彼らはただ守られている存在では我慢できない。グリフィンドールっていうのはやっかいな気性をしているわ』

「我ら勇敢なるグリフィンドール生は危険など恐れない」

『我ら狡猾なるスリザリン生ならば機を見てヴォルデモートに一撃をくらわせ、倒すことが出来たわ』

そんな話をしている中も次々と柱から出てくる生徒と家族たち。


『危ないから立ち止まらずに進みなさい』

「荷物を汽車に入れて席を確保するように」


生徒たちに声をかけていると出てきたのは――――

「あ!ユキ先生とシリウス先生っ。こんにちは!」

?なのか??」

『こんにちは、ちゃん』

ポン

白い煙が上がって変身が解かれる。

荷物をいっぱいカートに乗せて柱から出てきたのは・プリンス。ニッコリと笑いながらちゃんがやってくるのを見ている隣の黒犬に尻尾が生えているならばブンブンと振られているだろう。そんな様子にクスクス笑っていると、ハーマイオニー、ロン、最後にハリーがやってきて次々と変化の術を解いた。

「任務完了!」

明るい声の知らない男は楽しそうな笑みを浮かべながら私たちの方へとやってくる。

「ジェームズ、順調だったか?」

「あぁ。問題なしだ。それにしても子供たちがやっている変化の術は便利だね。手を組んで、ポン。誰にでも変身できる。羨ましいよ」

早く男前の僕の姿に戻りたいと言うジェームズの横に並ぶのはリーマス。

「僕はまだホグワーツ特急でハリーたちをホグワーツに行かせてもいいものか心配があるよ」

『私もさっき言っていたところ。ホグワーツから出てゴドリックの谷、隠れ穴に向かうまでかなり大変だった。あれが無意味なくらい気楽な移動に正直拍子抜けね』

決してハリー・ポッターに手を出すな。ヴォルデモートはそう死喰い人の末端にいる者たちにまで命令を出した。状況は一変した。

ハリー・ポッターはイギリス魔法界の希望。
ダンブルドアがいない今、ヴォルデモートに唯一対抗できる存在だと見なされている。また、ハリーたちの隠れずに堂々といたいという意志を汲み取り、不死鳥の騎士団が判断したのはハリーを人目に晒すことだった。

正直、人目に晒してもどうにもならないのではと思ったが……。

私が思っていたよりもハリーは人々の希望だったようだ。特に反ヴォルデモートを強く想っている人々はハリーに声をかけたり、握手を求めようとする者、肩を叩く者、ハグをする者までもいるくらい。

『こんな不特定多数の人間にハリーを触れさせるだなんて良くない!!!グサッとやられたらどうするつもりよ!!!』

「僕の息子に縁起でもないことを言わないでくれ、ユキ。でも、そうだね。子供たち、早くコンパートメントを押さえてきなさい。バラバラで座りたくはないだろう?」

私とシリウスの影分身に護衛された子供たちが荷物を積みに行くのを見送りながらあたりをブンブンと見て警戒していると、シリウスが「落ち着けよ」と私の肩を叩く。

「レオンティウスもついている。怪しい奴がいれば直ぐに分かる」

『そうだけど……』

私は子供たちの脚元で忠実に任務を行っている獅子の姿を目で追った。

レオンティウスは炎源郷から連れて帰って来たシリウスの口寄せ動物の子供の獅子。彼は人の悪意を匂いとして感じる能力がある。ただ、問題があるとすれば主に似て少々調子に乗りやすいところがあるのだが、それは今は置いておこう。

プラットフォームはハリーがいるからだけでなく、死喰い人の襲撃が無いように魔法省の闇払いたちも多く来て警護を行っていた。あちこちで起こる事件で大忙しの闇払い局がこうして人員を割いてくれることを有難く思う。


「父さん!」

ハリーたちは無事にコンパートメントを確保することが出来たようで、ハリーが窓から身を乗り出して手を振っている。

「母さんとマリーを宜しくね」

「父さんに任せておいてくれていい。それより、父さんも母さんもハリーを心配しているんだよ。決して無茶をしないように」と言いながらジェームズがニヤついたのでハリーもニヤニヤしている。まったく、この親子は!

ハリーの肩越しにはロンとハーマイオニーがどこに座るか迷ってぎこちなく動いていて、ちゃんはそれを呆れて見ながら窓辺へとやってきた。

「ジェームズさんは隠れ穴に滞在するんでしたよね」

「そうだよ、

「あぁ、モリーさんのごはんが暫く食べられなくなるなんて切ないなぁ」

「ハハ。ったら口を開けば食べ物のことばかりだ」

ハリーが楽しそうに笑う。その顔は恋する少年。いや、もう青年のお年頃か。
隣のシリウスをチラリと見ると、こちらも優しい目をしてちゃんを見つめている。

「ハリー、勉強はしっかりするように。父さんはハリーと一緒に闇払いとして働けるのを夢見ているんだ」

「僕もだよ!父さん!」

「親子で同じ職場っていいね」

ちゃんが朗らかに笑う。

「ハリーたちの代から闇払いになるには忍術学のN.E.W.T.試験においてA(まあまあ)以上が必要になった。そこまで厳しくない条件ではあるが、不安があるならいつでも俺かユキに聞きに来てくれ」

「ありがとうございます、シリウスおじさん」

汽笛がなった。出発の時間は近い。

「俺たちも乗り込もう」

『そうね』

「二人ともホグワーツを頼むよ」

『任せてちょうだい、リーマス。ドーラのことも休みの時と同じように見に行って経過を報告するわ』

「ありがとう」

ジェームズとリーマスに別れを言って私は先頭車両の方へ、シリウスは後部車両の方へと向かって行くと、途中でドラコと涙のお別れをしているナルシッサ先輩と妻の肩を抱くルシウス先輩に出会った。

ユキ!」

『こんにちは』

「ドラコを頼むわね。あぁ、家の中がああなっていなければ本当は家に止めておきたかったのに」

「ナルシッサ、静かに。そう言うことを声高に言ってはいけない」

「ごめんなさい、ルシウス……」

「母上。心配なさらないで下さい、僕は大丈夫です。僕は母上の方こそ心配しています」

「優しい子ね。私たちのことは大丈夫よ。心配しないでホグワーツで安全な生活をしてちょうだい。決して余計なことに首を出さないように。今年度は……昨年度のように無理な任務を言い渡されることはないでしょうから……」

ナルシッサ先輩が頭の中に思い描いているのはカロー兄弟のことだろう。任務ならばあの残忍な純血主義者の兄妹が喜んで引き受けると思われる。

『ルシウス先輩、お気をつけて。ナルシッサ先輩、ドラコのことはお任せください』

そう言い、私は汽車へと乗り込む。程なくして列車は汽笛を合図にホグワーツへと出発して行った。



途中、吸魂鬼が遠くの空で飛び交うのを目にしたものの、列車は無事に到着し、生徒たちはホグワーツ城へと移動した。
新入生たちをボートに乗せて城へと連れて行った頃が懐かしい。霧の中に突如浮かびあがるホグワーツ城は神秘的で胸が震えただろうに。

校長が座る中央の椅子は空けられていて、生徒の席もスカスカとしている。いつもより少ない人数の新入生たちがミネルバに連れられて大広間に入って来たので私は思い切り手を叩いて拍手した。

私の拍手を皮切りに、わっという歓声が沸き起こる。在校生たちが新入生たちを迎えようと歓迎の意を示しているのだ。大きな拍手の渦が大広間中に沸き起こり、新入生たちははにかんだり、緊張していた表情を崩したり。

ボロボロの組み分け帽子は歌いだす。

4つの寮よ、団結せよ。
さすれば未来を切り開かん。
魔法を学ぶ学校に、相応しいのは子供たち。

4つの寮よ、団結せよ。
力を合わせて立ち向かえ。
勇猛果敢にグリフィンドール
狡猾に行け、スリザリン
友の輪を繋げハッフルパフ
知力を見せよ、レイブンクロー

4つの寮よ、団結せよ。

「ふん。あの帽子も直ぐに用済みになる」

シリウスの奥に座るアミカス・カローを睨みつけると男はせせら笑いを浮かべながら「我が君が大規模な学校改革を行う」と言った。

「煩いボロ帽子などお払い箱さ」

妹のアレクト・カローがこちらも醜い笑みを浮かべた。

『あなたたちもホグワーツ生だったのよね?組み分け帽子には世話になったはずよ……あら、やだ。もしかして馬鹿過ぎてどこの寮にも入れなかったとか?』

「「なんだと!!」」

シリウス越しに言ってやると床を蹴るようにしてカロー兄妹は立ち上がったので奴らはミネルバに睨みつけられている(何故か私まで叱責の目で見られてしまった)。無事に組み分けも終わり、新入生歓迎会が開かれる。

食事は屋敷しもべ妖精たちが腕によりをかけて作った宴の料理。

「そういえば今年の忍術学と闇の魔術に対する防衛術の合同授業はどうするんだろうな」

シリウスが隣のアレクト・カローと思い切り距離を取っているのでシリウスと私の椅子はぴったりくっついていた。

『毎年ダンブーが許可を出していたから……でも、やらないでしょう。アンブリッジの時もしなかった』

「俺はこいつらをボコボコに出来るの機会が出来そうだからやってもいいような気がするぞ」

振り返ったシリウスとアレクト・カローが睨み合った。

『合同授業のことで言えば去年は有意義な1年だったのに残念』

ところで、牡鹿同盟は今年度も続けるだろうか?続けて欲しい。
ダンブルドアが死んだ夜の戦いでは生徒たちも戦っていたが、あちこちで守りの護符が発動していた。

幸運の液体を配り損ねたのも残念……。もっと細かく計画しておかなければならないと改めて反省する。

思考の渦から私を浮上させたのは生徒たちの囁き声だった。


「スネイプってダンブルドア校長を殺したのに何でまだ教員席に座っていられるんだ?」

「魔法薬学の助教授?人殺しから教わるのか?」


注意して聞いてみれば私の良く聞こえる耳はあちこちからセブへの怖れ、悪口を聞き取った。セブもこの声に気づいてしまっているだろう。

胸を痛めながらそっとテーブルの下で手を伸ばし、セブの手に自分の手を重ねるとピクリと手を痙攣させた後、口元に作っただけの小さな笑みが返ってくる。

「生徒が何と言おうと痛くも痒くもない」

『嘘よ。意外と傷つきやすいって知っている』

「思い違いだ」

『スラグホーン教授にあからさまに避けられてしょげくれているのは誰?』

セブはムスッとしてローストポークをフォークで直角にブスリ刺した。お行儀が悪い。

ミネルバによって紹介されたカロー兄弟とセブへの拍手はパラパラとした数えるほどのものだった。当然である。ただ、セブの時だけ私は思いっきり拍手をした。


ユキ先生!」

新入生歓迎会が終わって私は質問攻め。どうしてダンブルドア校長を殺したセブに対してこのような態度を取っているのか生徒は不思議なのだろう。

私は聞かれる度に繰り返す。

『スネイプ教授を信じているの。何か訳があるのよ、きっと』

「何かって?」

『分からないけれど……』

恋人を訳もなく信じ続ける愚かな教師だと生徒たちは思っているだろう。それは仕方がない事だ。でも、私は表に出して私はセブの味方だと示したかった。

それにそうしないと表立って私の部屋に来られないしね。

コソコソと互いの部屋を行き来してもいつかは誰かに見つかってしまうだろう。逢引き目的もあるのだが、もちろん任務の報告の為もある。それにナギニの解毒薬の研究も大詰めだ。

私の自室に戻った私とセブはそれぞれのことをしていた。
セブは大鍋でナギニの解毒薬の研究をしていて、私はリビングで守りの護符作りをしている。


『うはっ。無理。無理。魔力持たない』

深夜を回った頃、私は机に突っ伏した。うえええぇ疲れた。

「大丈夫か?」

セブが実験室の扉から顔を出す。

『お腹減った』

「こちらもひと段落したところだ。何か持ってこよう」

『セブが作ってくれるの?』

キッチンに入ったセブはリンゴ三つを腕に抱えて私の前までやってきた。そうでした。この人、料理しない人でした。

『トリッキーに会いたい』

「屋敷しもべ妖精とはいえ我輩が目の前にいるのに心外だな」

セブが対面に座り、私は洗われてさえいないリンゴにかぶりつく。セブの屋敷しもべ妖精トリッキーがいればこのリンゴがアップルパイになっていたかもしれないのに……モグモグ、リンゴ美味しい。

『明日から授業ね。カロー兄弟はどういう授業をするかしら』

「妹のアレクト・カローのマグル学についてはある程度予想できる。純血が一番偉く、マグル生まれを蔑む。そういった授業をすることであろう」

『そうね。はぁ。問題は兄のアミカス・カローの方か』

「そうですな。闇の魔術に対する防衛術において奴は好き放題にするであろう。実戦だと言って生徒に危害を加えかねん」

『ハリーが心配』

「その周りもな」

『まさかクルーシオなんか使わないわよね?』

「さすがに……」

私たちは黙った。
残忍なアミカス・カローならやりかねない。

『校長代理を務めているミネルバがどこまで対抗できるかね』

「マクゴナガルに教師をクビにする資格はない。仮にアミカス・カローが虐待をおこなったとしてホグワーツ理事会にかけても無駄だ。首を誰かに挿げ替えても意味がない」

『……』

「碌でもないことを考えているな?」

『ちょっと良いアイデアが浮かんだだけよ。カロー兄弟をって私が変化の術で成り代わったらいいのじゃないかってね』

「やるなよ」

『生徒に余りにも酷いようだったら、やるわ』

セブが杖を振って芯だけ残ったリンゴ3個を片付けてくれる。
さて、もうひと頑張り。そのまえに―――

『セブ』

「なにかね」

『ぎゅーっ』

机を回ってセブに抱きつくと大きな腕で抱きしめてくれる。
これで気力回復!
私たちはそれぞれの仕事に戻ったのであった。




***




抜けるような水色の空の下、丘の上が忍術学の教室。

6年生以上にもなると振り落としがあり、1クラスに纏まることもあるのだが、忍術学は出来たての教科ということもありO.W.L.試験の採点は甘く、グリフィンドール&スリザリンとハッフルパフ&レイブンクローに分かれていた。

何故いつもグリフィンドール&スリザリンという最悪な組み合わせなのか……。
ドラコとハリーは睨み合い、ロンはクラップと、ゴイルはネビルと今にも喧嘩を起こしそうだ。

険悪な雰囲気はクラス中に広がっていて、グリフィンドール生とスリザリン生は互いに距離をとり、ピリピリとした空気が流れている。

『みんな集まって。せっかくの秋晴れが台無しじゃない。怖い顔をしないで教科書を開いて』

遠くでベルの音を聞きながら教科書を開くように指示を出す。
今日は今までの復習をすることになっている。

分身の術、変化の術、石の中心点を見つけて破壊する術、変わり身の術―――

私は頬を緩めた。去年と比べてドラコは元気そうにやっていて、周りの出来ない生徒に指導をしているようだ。

「ドラコって教え方上手」

うっとりとパンジー・パーキンソンが言うので私は自分の事のように誇らしく思いながらドラコの後ろに立った。

『弟子が優秀で嬉しいわ』

「うわあああああ!!」

『……驚き過ぎよ』

「師匠!気配を消して近づいて来ないで下さいっ」

『前言撤回。よく周りに注意を払いなさい。ところで、見ていたけど指導が上手ね』

「ありがとうございます」

得意げに胸を張るドラコの前で私はニッコリする。

『忍術学アシスタントを希望する者は多いわ。だから、精進しなさいね』

「?」

『その顔は何?』

「精進って何ですか?」

『何をって、あなたの就職希望は忍術学のアシスタントでしょう』

「私はドラコに永久就職よ」

パンジーが蕩けそうな顔でポカン顔のドラコの腕に巻きついた。

「…………ぇ?」

『ん?』

「え?」

『え、とは何かな?』

「いや、僕、いや、僕、いや、僕はああああああ忍術学のアシスタントになんかなりたくなあああああいいいい!!」

ドラコの絶叫が丘に響き、クラス中がドラコに注目した。

『は?』

「何が、は?ですか!僕は一言も忍術学のアシスタントになるなんか言ったことはないですよ!?」

『じゃあ、あとは何になれるの?』

「ぐぅ」

弟子は言葉を詰まらせて俯いた。
ドラコは去年殆ど勉強をしていなくて学年を上がる単位だってギリギリ。いくつか落としてしまっている授業もある。N.E.W.T.試験とは別に勉強のために下級生と一緒に授業を受ければいいのだが、それは彼のプライドが許さないらしい。

『忍術の仕事につきたい生徒には全員言っているけれど、新しい職場も開拓しつつある。真剣に考えてみてちょうだい』

「はい……あの」

『なあに?』

「もし忍術学のアシスタントになったら、今まで通りユキ先生の鍛錬を受けるということですよね?」

『そうね』

「……でも、……でも、外の忍術についての仕事だったらそれから解放される……!」

『?いいえ』

私とドラコは同時に首を傾げて見つめ合ったのだった。





夜、足音もなく突然ノックされた扉に私の心臓は跳ね上がった。こういうことをするのは一人しかいない。

『どなた?』

「アビシニアンです」

『クィリナス、いらっしゃい。中へ』

「いえ、禁じられた森へ一緒に行って下さいませんか?会わせたい人がいるのです」

『誰かしら?』

真っ黒な忍装束に着替えてクィリナスについていく。9月の夜風は冷たく、体感温度の狂っている私にはちょうど良い気温。クィリナスの杖灯りを先頭に秋の空気を胸いっぱいに吸い込みながら歩いていると、やってきたのは禁じられた森の入り口だった。

『っ!?』

スタン

突如目の前に現れた男に私は苦無に手を伸ばす。だが、しかし、これがクィリナスの言っていた人物なのだろうことは一目で分かり、私は武器を投げなかった。感嘆とした溜息が口から零れ落ちる。目の前にいたのは輝く白金の長髪に尖った耳の美しい男性だった。

『この方は……』

「えぇ。エルフ族の長です」

『それは……遠いところまでありがとうございます』

「いえ、ヴォルデモートとその組織の残虐な振る舞いは私たちにとっても大いなる脅威です」

麗しい声の男性はそう言って微笑んだ。

ヴィーラが男性を惑わすとしたらエルフの男性は女性を惑わすのではないだろうか?ぽうっとなってしまって思考が上手く纏まらなくなりそうだ。それでも遠くまで来てもらったのにと頭を振ってハッキリさせて、口を開く。

『私の部屋でお茶でも飲みながら話しませんか?』

「出来ればここでお願いしたい。人間の作った建物に入ると息苦しくなるのです」

『そうですか。では、ここでお話させて下さい。クィリナス、話はどのくらい纏まっているの?』

私たちはそれぞれ適当な場所に座って話し出した。
クィリナスが言うにはエルフ族は禁じられた森で陣を構えて外部からやってくる敵を迎え撃ってくれるということであり、森に入ることはケンタウロス達も承知しているということだった。

「森の生物たちとは仲良くやれると思いますよ」

品の良い笑みをエルフ族の長が浮かべた。

『まさかアクロマンチュラたちとも?』

「えぇ。先ほど挨拶をしてきました」

『何ですって?わあ……エルフ族は余程森に愛されているのですね』

「我々エルフ族は森の一部なのです」

『でも、食べ物は?木の実ばかり食べるのですか?』

「はい。でも御心配には及びません。我々は人間のように多くを食さなくても生きていけるのですよ」

『わかりました。必要なものは何でも揃えますので仰って下さい』

「えぇ。こちらのクィリナスは我々を良く理解してくれています。何かあれば彼を頼りたいと思っています」

頷き合うクィリナスとエルフ族の長の間には確かな信頼が見られて、改めて私はクィリナスに尊敬の目を向けた。プライドの高いと言われているエルフ族からこのように信頼されるのは相当な努力と交渉術が必要だっただろう。

「我々の敵は巨人や人狼だと聞いています。そうですね?」

『はい。そしてこちらに味方する予定の種族はヴァンパイアです。あとはケンタウロスも加わってくれたら良いのですが……』

「そうなるように私たちも努力しましょう」

『ありがとうございます。今度フィレンツェというケンタウロスをご紹介します。彼はホグワーツの教師をしていて、ヴォルデモートに立ち向かおうと仲間のケンタウロスたちに訴えているのです』

エルフは耳と目が良く、暗闇の中でも矢を放つことが出来る。矢の腕は百発百中で頼りになる仲間を得たことが嬉しい。

エルフ族の長はアヴァロン島に帰ったら仲間を連れて禁じられた森に移住してくれると約束してくれた。彼と別れ、私とクィリナスは城へと向かっていく。

『ありがとう、クィリナス。あなたが仲間で良かったわ』

「私も尽力出来て嬉しく思っています」

『もうちゃんには会ったの?』

「いえ。これからです」

『もうとっくに生徒が寮から出ていい時間は過ぎているって知っていた?』

「彼女に減点を言い渡しますか?」

『うーん。どうしようかな。質問に答えたら見逃してあげてもいい』

「お答えしましょう」

ちゃんのこと、本当にただの弟子だと思っているの?』

「相変わらずストレートに物事を聞いてきますね。でも、だとしたらどうします?私のような怪しい男が生徒に手を出そうとするのを見逃してはくれないでしょう?」

『見逃すだなんて。堂々としていればいいじゃない』

「……」

『どうしたの?』

「いえ……はあ。あなたにこのようなことを話すなんて複雑な心境ですね」

私は微笑を向け、クィリナスも私に微笑んだ。
過去のことは過去のことで、私たちの関係はある時を境に変わって、確固たるものとなり、それは永遠に続くであろう。

『私は恋愛について疎いの。だからこれは暗部の姉様たちの言葉だけど、後悔ないように想いを伝えなさいって言っていたわ。その言葉、私も今なら分かる。愛しているは言葉に出して、態度に出して、喧嘩は長引かせない。ねえ、クィリナス。ちゃんが好きなら待たせちゃ駄目よ?』

「……は私の何を知っているというのでしょう?きっとあの子は醜い私を知らないのです。力を求めてヴォルデモートを頭にくっつけた馬鹿な男をあの子は見ていない」

『それも伝えたら?案外、いつものテンションで関係ないわあああああ!とか言いそうじゃない?』

「ぷっ。またそうやって茶化して。でも、そうですね。後悔しないように想いを伝える……そうすべきですね」

『ふふ。かかったわね。やーっぱりクィリナスはちゃんが好きなんだ』

ニヤニヤっと笑うとクィリナスはバツの悪そうな顔をしてから唇を歪めた。そして暗い廊下の先を見つめてポツリと言葉を零す。

「えぇ。好きです。……を愛していると言っていい」

『その言葉、ちゃんが聞いたら喜ぶわ』

私の部屋の下の階段に着いた。

『セブに悟られないように。もし知れたらあの人大激怒するのが目に見えているもの。なーんであんなに怒るか分からないけれど……セブは何故かプリンスの双子に関しては過剰に反応するのよね』

ユキ、もしかしてを想像していないのですか?」

『もしかして?何を?』

一瞬、プリンスの双子の顔とセブの顔が脳裏にチラついたが馬鹿らしくて私は笑った。

『何のこと?』

「いえ。何も思わないならばそれでいいのです。明日、別件でルーピンと一緒に話しましょう。ルーピンが迎えにいきます」

『了解』

クィリナスは何の種類か分からない笑みを浮かべ、暗い廊下の中を歩いて行った。







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