第8章 動物たちの戦い
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4.ゴドリックの谷
生徒がみんなホグワーツ特急に乗って空っぽになったホグワーツ。後に残ったのはハリーの他にロン、ハーマイオニー、栞ちゃんの4人だけ。
彼らはこれからへの不安を抱えながら静かに動き出す時を待っていた。いつ出発してもいいように荷物だけは纏めておくようにと言ってある。
「ユキ先生は本当にスネイプのことを信じているんですか?」
仲良し4人組とともに昼食を大広間で取っている時にロンが顔を顰めながら聞いた。
ハリーとロンから投げかけられるもう何回目とも分からない質問に苦笑いしながら私は頷く。
『えぇ。信じている』
「ダンブルドア校長が死んだのはスネイプのせいだ」
『そうする必要があったのよ』
「その必要とは?どうして僕たちに教えてくれないんですか?」
エメラルドグリーンの強い眼差しにうっとなる。私はリリーと同じこの瞳に弱くてつい知っていることを喋ってしまいそうになるが、ニワトコの杖をダンブルドアが所有していたこととその秘密について話すのは私の仕事ではない。
ハリーはヴォルデモートに比翼する存在として、ヴォルデモートに認識されている。奴は最強の杖を持っていると自惚れ、予言を達成するためにハリーを殺そうとする。
私は予言を信じていないし、不死鳥の騎士団にも予言を信じている者は多くはない。だが、皆の意見が一致するところとして、予言が影響を及ぼすということは知っている。誰でも自分が死ぬと予言されればそれを回避するために手を打とうとするものだ。
セブの話によると、ヴォルの奴は今までクィリナスなど死喰い人にハリーの殺害を任せていたのだが、失敗が続き、ハリーを殺すのは自分であると結論付けた。
ということは、ヴォルデモートはハリーを直接狙ってくる。その時に、彼を守るダンブルドア側の人間がいなければハリーは1人で直接ヴォルデモートと戦うことになる。
不死鳥の騎士団は予言に拘りを持っておらず、ヴォルデモートを倒すのはハリーでなくてもいいと思っている。私もそうだ。だから、ヴォルデモートよりも自由度があると言ってよい。
どんな方法を使おうと、ヴォルデモートを倒しさえすればいいのだ。
話を元に戻すと、ニワトコの杖についての因果はジェームズから話すことになっている。ハリーの命に関わる話だから父親から話すべきであろう。と不死鳥の騎士団の会議で決まった。
そこでセブが裏切り者でないと分かってもらえるはずだ。
私は目の前のクリームパスタを皿ごと貰って(みんな1回はお皿によそっていたから食べてもいいだろう)パスタをクルクルフォークで回し取りながら口を開く。
『もうすぐジェームズがやってくる。彼から聞くといい』
「父さんがこれから来るんですか!?」
ハリーは顔を綻ばせて立ち上がった。
「ということは今日が隠れ家への移動の日なんですね」
『そうよ』
ハーマイオニーに頷く。
「そろそろ作戦を教えて頂けるんですか?」
栞ちゃんが聞いた。
不死鳥の騎士団で決められた作戦はギリギリまでこの4人に伝えないということになっていた。秘密を共有するのはいつも少人数の方がいい。
『話すわ』
私は空っぽになった皿にフォークを置いた。
『ジェームズたちが迎えに来たら私たちは禁じられた森に入って敷地外に出て、そこから箒に乗って森を移動し、一時的な隠れ家に姿くらましで移動する』
禁じられた森の中にも塀があり、ホグワーツの敷地と外を分けている。鬱蒼とした黒い森の中にある塀。禁じられた森は危険で塀は何百メートルにも及んでいる。禁じられた森にある塀にはいくつかの門があるのだが、その存在は殆ど知られていないだろう。
学生の頃から禁じられた森を探検していた私でさえ見つけられた門は3つだけ。それが多いのか少ないのかは分からない。門から門への距離も門にかけられている呪文もバラバラだった。その1つのツタが絡みついて何年も、何十年も下手したら何百年も開けられていなさそうな門から私たちは脱出する。
『移動先はゴドリックの谷にあるハリーの生家』
驚いて目を丸くするハリーは嬉しくて興奮している様子。その様子に私も自然と笑顔になりながら話を続ける。
『ハリーはジェームズ、ロンはアーサーさん、ハーマイオニーはマッド‐アイ、栞ちゃんはシリウスに姿くらまししてもらっての移動よ』
そう言うと、ハーマイオニーが眉を寄せた。
「姿くらまし……」
『不安そうね』
「気持ちが悪くなると聞きました」
『少しばかりね。でも、ホグワーツから出発するのは敵に知れている。迅速に移動しなければならない』
「だけど、えっと、僕たちの隠れ家が敵にバレる可能性は?見つかったら命がない」
『ロン、そこは安心してちょうだい。私と不死鳥の騎士団の面々で家に呪文をかけまくった。一時的に滞在するだけなら安心して過ごすことが出来る』
「一時的なんですか?」
『魔法はどんどん破られていくものよ』
「だけど、秘密の守り人さえいれば安心―――まさかスネイプにもその一時的な隠れ場所を教えませんよね?」
ロンがまさかと顔を引き攣らせた。
『秘密の守り人は私。そしてゴドリックの谷にある隠れ家についてセブに伝えてある。ヴォルデモートの奴も知っているわ』
「なんだって!?」
ロンが今度は悲鳴のような声で叫んだ。
「攻撃され放題じゃないか!」
『落ち着いて。さっきも言ったように安全なの。一時的ならば破られない呪文をかけている。そしてセブの話によると、ヴォルデモートは襲ってこないと言った』
「ニ重スパイとして、ヴォ、ヴォルデモートはスネイプ教授を信頼しているのですね?」
『ハーマイオニー、よく勇気を出してヴォルデモートの名前を言ったわ。えぇ。ヴォルの奴はセブを部下として信頼している』
「ま、まさか……今回一時的な隠れ家を作ったのはヴォルデモートにお父、スネイプ教授を信頼させるため……なんて言いませんよね?」
『言うわ』
「はあああ!?僕たちの命がかかっているんですよ!?」
ロンが驚愕して顎を落とした。
「最終的な隠れ場が安全である保障はあるのですか?ヴォルデモートにスネイプ教授を信頼させるためと言いますが、ハリーを……不吉な言い方をするけど、殺されてしまったら意味がないのではないですか?」
ハーマイオニーはいつも的確な質問をしてくれるのでこちら側も話しやすい。
『まず1つ目の質問の答え。最終的な隠れ家の安全性だけど、秘密の守り人を信頼できる人にしたから隠れ家の場所は割れない。加えて一時的な隠れ家と同じように厳重に防衛呪文をかけるわ』
そして2つ目。
『魔法省の役人がヴォルデモートの側に立ってしまってホグワーツ周辺で姿くらまし、ポートキーでの移動、フルーパウダーでの移動が出来なくなってしまったの』
私とシリウスの逆口寄せの術を用いれば一時的な隠れ家に子供たちを直接移動することも叶うのだが、怪獣の住まうあの場所に一瞬でも入れておくのは心配がある。現在、炎源郷は炎帝のせいで治安が悪くなってしまっていた。はあ……
『また、最終的な隠れ家の準備が整っていない。かといってホグワーツに留まり続けるのも考えものなの。魔法省は今、ダンブルドアが死んで大いに揺れている。今後安定するかもしれないけど……ホグワーツは闇の側に陥落するかもしれない。ここから出た方がいいとなった』
「ゴドリックの谷からの移動は安全に行えますよね?」
『そうなるようにマッド‐アイを中心として準備しているわ。あそこの地形も助けてくれる』
ゴドリックの谷の地形。谷は敵の居場所が分かりやすい。事前に私の影分身で死喰い人たちを排除しておき飛び立ちを安全にする。
広い空に出てしまえばこっちのもの。どこまでも続く空から小さな点を見つけるのは容易ではない。
『他に質問は?』
皆が黙って首を振っていると、観音開きの扉が開かれる。
「息子よ~~~~~~我が息子!会いたかった!!!」
騒々しいジェームズが大広間に入って来たことで空気がパッと明るくなった。後ろからは楽しそうな顔のシリウスと魔法の目をグルグルさせたマッド‐アイがやってくる。
ハリーはパッと顔を輝かせ、それにどこか安心したような顔で父親の元へ走って行った。ぐっと抱き合っている親子を見ていると、横から視線を感じる。
私をじっと見つめていた栞ちゃんは私と視線が合ってハッとして眉を悲しそうに下げて俯いてしまった。
ロンは父親と一緒に姿現し出来るし、最終的な隠れ家である隠れ穴はロンの家だから家族が精神面で支えてくれるだろう。だが、ハーマイオニーと栞ちゃんは違う。孤独を感じていると思う。
そうは言えども私は2人にかけてあげる言葉が見つからずに自分の至らなさに肩を落とした。
「準備は出来ているか?」
シリウスが何故かウキウキした様子で言った。
『何がそんなに楽しいわけ?』
「ちょっとした冒険のはじまりだ!」
『あなたって相変わらずね』
「シリウス!敵を侮るな!油断大敵だ!」
「うおっ。す、すみません、アラスター」
雷が落ちたようにマッド‐アイに怒られたシリウスは犬だったら尻尾が脚の間に入っていただろう。そんな様子が想像出来てクスクス笑ってしまう。それは他の皆も同じだったようで生徒たちにもシリウスは笑われていた。
「そんなに笑わないでくれ。ただ、移動は俺たちがいるから安全だと言いたかっただけなんだ」
『どう考えても危ないことをすることへのワクワク感しか伝わってこなかったわよ?』
ニヤリとするシリウスを見てマッド‐アイが眉を上げたのでシリウスは肩を上げて両手を広げ「仕方ないだろ 」とジェスチャーをした。
「子供たち、寮から荷物を取ってきなさい」
シリウスに言われ、生徒たちは私の影分身の手伝いを借り荷物を取ってくる。荷物は全てマッド‐アイの探知不可能拡大呪文のかけられた鞄に入れられて私たちは移動する。
「この人数で移動するんですか?」
ロンは不安そうな顔をしている。
『私の影分身が敵がいないか調べている。今のところ問題なしよ。それからホグワーツ敷地から出て行く門にはリーマスとアーサーさんがいる。姿くらましの瞬間は私とリーマスで周りが安全かどうか確認するわ』
「皆さん」
後ろを振り向けばミネルバが小走りに追いかけてくるところだった。
『ミネルバ、今から行きます』
「影分身を寄こしてくれてありがとう。一言言う時間があるかしら?」
ミネルバは影分身に「今からホグワーツを出る」と報告を受けて追いかけてきてくれたのだ。
1人1人生徒の顔を見たミネルバは1つ頷いて口を開く。
「私はあなたたちを誇りに思います。強力な悪に勇敢に立ち向かう姿を私だけでなく、ホグワーツ中が、イギリス中が、そして何よりゴドリック・グリフィンドールがお喜びになっているでしょう」
「グリフィンドールが……」
ハリーはその言葉に深く心を揺さぶられたようだった。誰もが自分の寮に誇りを持っていて、寮の理念に近づきたい自分でありたいと思っていると私は思う。
勇敢なるグリフィンドール
彼らは正真正銘のグリフィンドール生だ。
「あなたがたには十分に能力があります。自信を持って行動なさい」
「あの」
「何ですか?ロナルド・ウィーズリー」
「マクゴナガル教授は僕にも能力があるとお考えですか?」
おずおずと言うロンにミネルバは驚いたように眉を上げた。
「当然です」
「でも―――ハリーのように例のあの人と対峙したことはない、ハーマイオニーのように頭も良くないし、栞のように皆をまとめ、行動を起こさせる力もない……僕は……」
「人と比べるのはよくありません。あなたにはあなたの良い所が沢山あります」
「それは―――どこですか?僕はサッパリ分からない」
『ロンは良い目を持っているわ』
「目?」
私の言葉にロンはキョトンとした。
「確かにクィディッチではキーパーだけど……」
「ふふ。そうね。キーパーとしても優秀だわ。でも、私がいいたいのは調整する力よ」
訳が分からないと眉を寄せるロンに私は続ける。
『大家族で生まれたからか、ロンは人間関係に敏感ね。上手い具合に人と人との距離を調整する能力がある』
「へ?ハーマイオニーからはティースプーンひとさじもデリカシーを持ち合わせていないって言われますよ?」
『下級生も集まる牡鹿同盟の時には面倒見の良い兄のような一面を見せて、出来る生徒に出来ない生徒を教えてくれるよう頼んでいたわね。それに、あなたの冗談と気取らない性格は皆を和ませる。この3人は視界が狭くなって考え込みがちよ。ロンのような人がいて良かったわ』
「それじゃあ……ユキ先生は僕が役に立つとお思いですね?」
『勿論よ』
顔をパッと明るくしたロンはミネルバが頷いたのを見て、自信に満ちた顔になった。
『さっきも言ったけど、あなた方3人は深刻になり過ぎる時がある。ロンの意見に耳を傾けて』
「「「分かりました」」」
「もう行くぞ。リーマスたちを待たせたくない」
『えぇ、シリウス。行ってきます、ミネルバ』
「ホグワーツはあなたたちの帰りを待っています」
足早に進んでいくとハグリッドの小屋が見えてきた。
夏の野菜が畑に生えていて、それらはどれも大きく、成人男性の大きさくらいある。
ワンワンと声が聞こえてくる方を見ると、ファングが楽しそうに口を開けて、そこから涎を垂らしてこちらへと走って来た。
「ファング、ファング!」
「ハグリッド!」
「おぉ、ハリーか。みんな揃ってどこかへ行くんか?」
『ハリーたちを隠れ家へ護送するところよ』
「ずっとホグワーツにいるとおもっちょったが」
『禁じられた森へ入るの。付き合ってくれない?』
「もちろんだ!」
禁じられた森は真夏の昼でも暗い。
杖灯りの呪文で灯りを取りながら1時間歩いたところでホグワーツの敷地の終わりを示す塀が見えてきた。
森に入った直ぐから私たちの周りには影分身がいて、徐々にその数が増えてきている。順調にここまで来れた事を喜んでいると、影の中に2つの濃い影が見えてきた。
「エクスペクト パトローナス」
リーマスの声が聞こえたかと思うと、銀色の狼がこちらへと走って来た。リーマスが本物であると示す印だ。
「リーマス」
「無事だね?」
「あぁ。何もなかったよ」
ジェームズとリーマスが短いやり取りをして、私たちは門の前に到着した。
木の根とツタでがんじがらめだった門は黒い鉄で出来ており、呪文がかけられている。呪いは事前に私とマッド‐アイで解いていた。
『誰かが触った形跡はなかったわよね?』
「大丈夫。木の根、ツタの位置、確認してから刈りとった。全て写真通りだったよ」
アーサーさんがニッコリと笑って見せてくれたのはマグルのカメラで撮った写真だった。
「それぞれペアに」
マッド‐アイに促されて、ハーマイオニーはマッド‐アイの横に、シリウスは栞ちゃん、ロンはアーサーさん、ハリーはジェームズの隣に並んだ。
「バラバラに出た方がいい」
『そうね、リーマス。生徒は全員変化の術は使えるわね?私に変身して』
ポンっと軽快な音がして4人は黒装束の私に変身した。優秀、優秀。
「ハリー、先陣を切ろう」
「はい、父さん」
ギギギと扉が開かれ、私の影分身が出て行く。そして虫が鳴いているようなジジジという矢羽根の音がしてジェームズとハリーは門から出て行った。
続いてロンとアーサーさん、マッド‐アイとハーマイオニー、最後にシリウスと栞ちゃん。
最後に私が外に出て扉を閉め、箒に跨って移動する。
暗い森の中を慎重にたっぷり2時間移動して急な谷間に出た私はハリーの生家を思い描きながら姿くらましした。
バシンッ
私はぐるぐると回る色の渦の中にいた。
まるで煙突飛行ネットワークの中にいるようにあちこちに色々なものが見える。どこかの部屋、グリンゴッツ銀行、のどかな草原―――私はその中で杖を振った。
『アクシオ 百味ビーンズの耳糞味』
するとグーンと切り取られた絵のような風景が私に近づいてきて、私は色の渦の空間から外に出ることに成功した。
カラッとした夏らしい水色の空が建物と建物の間の頭上に額縁に入れられたように広がっている。私の周りには家と家の間に通っている4本の道があった。しかし、ここのどこを通っても不正解。
なんとも間抜けだが片膝をついて座り、頭を地面にくっつけて中へとずぶずぶ入って行く。次に出たのは――――
いくつもの罠を通り抜けて辿り着いたのはリリーたちの家。
私はフクロウの装飾がしてある錆びついた
ヴォルデモートはこのベルを鳴らしてポッター家の扉を開かせた。
私も同じ事をしている。老婆に化け、玄関扉をノックし、ある家族を襲撃した。両親がいて、ハリーと同じような赤子がいた。
どうしようもなく胸が砂を詰め込んだように重くなりながらベルをチリリンと鳴らすと今度は扉についているライオンのドアノックが「合言葉は?」と喋った。
『リリーが生む子供の後見人はリーマス』
「正解だ」
向こう側で微笑んでいそうなリーマスの声と共に扉が開かれる。中に入ると全員が無事に揃っていた。生徒たち4人、特にハリーは感慨深そうに自分の生家をぐるりと見ている。
『ハリー、懐かしい?』
「覚えていないです」
笑いながらハリーは肩を竦める。
「直ぐに思い出すさ!」
「滅茶苦茶だよ、父さん」
「ジェームズは常にこの家にいて君たちを守り、他1人、入れ替わりでここにいる不死鳥の騎士団の団員がここを守る」
みんなマッド‐アイの言葉に理解したと頷いた。
『食料は私が届けるわ』
ガンプの元素変容の法則により、無の状態から食べ物を出すことは出来ない。
「まずは俺がここに残る。宜しくな、みんな」
シリウスがニッとしながら言った。
私たちは大人だけで短い打ち合わせをして、残る者は残り、帰る者は帰って行った。
「ユキ、話があるんだ」
グリモールド・プレイス12番地に姿現しした私とリーマス。家に入るなりリーマスは深刻そうな声でそう言った。
『私も提案がある。ドーラも私の家に引き取ってはどうかということよ』
「いいのかい!?」
パッと顔を輝かせるリーマスに微笑みかける。
『ハリーたちをゴドリックの谷へ移動させる作戦で忙しかったから今までこうやって時間を取ることが出来なくてごめんなさい。もっと早くに相談するべきだった』
「いいんだ。ドーラは今家族と一緒にいて、あそこは安全だ。だが、これからはそうもいかないだろう」
『セブが言っていたわ。ベラトリックス・レストレンジが相当にドーラを恨んでいるそうね』
「僕のせいだ……」
『ドーラはリーマスと結婚出来て幸せだと思っているわ。後悔することなんて1つもない。さて、でも、ドーラの家族までは受け入れられない』
「あぁ。それは理解している」
『それでいいならドーラを家に移動させましょう。移動するなら早い方がいい』
日を選び、ドーラは私とリーマスに護衛されながら私とクィリナスの家に移動する。リリーとの再会を喜んだドーラは大声で喜びの声を上げた。
「ダンブルドア!」
目を大きく見開いて私を見るドーラに複雑な微笑を向ける。
『昏睡状態よ。助かるかどうかは分からない』
「あの遺体は?偽物だったってことですか?」
『クィリナスが土で作ったの。居合わせて幸運だったわ。死喰い人たちはダンブルドアが死んでいると信じている』
私はダンブルドアの乱れていない掛布団を整えた。
『今週が山場となるでしょう。気力が思い切り下がってきている。目を覚まさなければ命はないというのが私とヴェロニカ・ハッフルパフの意見よ』
「私も看病します」
『お願いね。ダンブルドアはホグワーツを愛し、生徒を大事に思っている。かつての教え子から元気をもらえば、きっと目を覚ますわ』
ヴェロニカに容体を聞き、ダンブーに出来るだけの魔力を注いだ私はリリーと話をしてから帰路へとついた。
段々と感じてきているのは自分の中に張っている糸がピンと張りつめてきていること。きっと皆そうだろうと思う。ヴォルデモートは次にどんな手を打ってくるのか。しかし、後手後手に回るのも良くないと思う。時には大胆に打って出ないと勝てないこともある。
セブはニ重スパイをしているが、だからといって闇の陣営の大事な情報をこちらに回すことはもうできないだろう。今までだってそうだった。セブは基本的にダンブルドアの下に身を置き、それを闇の陣営に渡すというのが基本的なスタンス。
ニ重スパイをしているのはレギュもだが、こちらは完全に単独で闇の陣営に乗り込み、不死鳥の騎士団とは一時的に縁を切った状態で分霊箱探しをしている。よって闇の陣営の情報をこちらに流すことは出来ない。そんなことをしてレギュの身に何かあっては困る。
重要な作戦を知らされるような死喰い人はごく一握り。純血一族であったり、または半純血且つセブのような優秀な魔法使いである必要がある。
『私たちの手先となれて、もし見つかって死なれても構わない人物がいればいいのだが』
そんな都合の良い人間はいないだろうか?会合に出席できる死喰い人を頭の中で思い浮かべる。
クラップ家かゴイル家がいいわね。
失礼を承知で言うが、ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルの父親は腕っぷしは強いが頭の方は鈍いとドラコが言っていた。
ドラコと言えば大丈夫だろうか?
そろそろ顔が見たくなってきた。しかしながら、マルフォイ邸は死喰い人の本拠地とされているため私がドラコに連絡する手段はない。
夏の夜
草木の香りを含んだ風
どこか私を不安にさせる
私が脚を向けたのはミネルバの部屋だった。
夜の10時の訪問は失礼になるだろうが、私は子供に戻ったようにミネルバに甘えたかった。控えめにノックをし、次に気づいて欲しいと強めにノックをする。
覗き窓が開く。
「何かあったのですか?」
『何も』
「何も?」
『ただ会いに来ただなんです』
「あらまあ」
ぷっと噴き出したミネルバは扉を開けてくれた。
「お入りなさい」
『お邪魔します』
「カモミールティーはいかが?」
『お砂糖たっぷりで頂きます』
「分かったわ。おかけなさい」
暖炉脇のソファーに座る。暖炉の上には敵鏡があり、中は白い靄が渦巻いている。マントルピースの上に並んでいる写真は何度見ても好き。ミネルバと夫の結婚式の写真だ。ウエディングドレス姿のミネルバは美しく、とても幸せそう。
『夫が死んだ時、寂しかった?』
「それは勿論。涙が枯れるまで泣いて、でもこのままではいけないと思い、仕事に打ち込みました」
ミネルバはホグワーツに来る前、魔法省に勤めていたことがある。
「ダンブルドア校長から教授職を打診された時は迷いました。子供との関わり方に不安を持っていたのです。ですが、ホグワーツに来て良かったですよ」
『子供たちの若者らしいパワーと向上心に元気をもらえます』
「それにユキと出会えたことも宝物です」
『私が結婚する時は、母親としてベールダウンをして下さるでしょう?』
「もちろんよ。ふふ。セブルスともうそんな話をしているの?」
『結婚式の話はしていないけど、プロポーズはしてくれるって』
「良かったわね」
『うん……でも、ミネルバ……私、とても不安……このままで私はいいのか……』
「このままでとは?」
私はティーカップをソーサーに置いて蜂蜜を薄めたような色の水面を見つめた。たぷたぷと揺れるそこには絶望を含んだ不安の表情をした私が映っている。
『……忍術は魔法のように美しい死を与えられない』
「否定しません。ユキの言いたいことは分かります」
『この度のホグワーツ襲撃、私は恐れられたでしょうか?恐れられただけならいい。残忍な奴だと、特に生徒は思ったでしょう』
「ユキは戦いとはこういうものだと生徒に見せたかった節もあるでしょう?後悔しているのですか?」
『後悔しています。私が倒した死喰い人の中には生徒のごく親しい親族も含まれていたそうです。正直……教員を続けるか迷うほどです』
「生徒たちに必要なのは必ず自分たちの前に立って守ってくれる強い教師です。精神的にも、魔法の腕でも。親族を殺された生徒たちは私たちを憎むでしょう。ですが、その生徒を含めて私たちはホグワーツを守らねばなりません」
『セブが校長に就任する予定の話はご存知ですね?』
「えぇ。これからホグワーツの生活は今まで以上に醜く酷いものになるでしょう。特にマグル出身の生徒は苦境に立たされます」
『殺される……なんてことも……?』
考えたくないが、可能性はない事はない。
「ヴォル……ヴォルデモートは、魔法省を乗っ取る気でいるでしょう。セブルスから話を聞いていますか?」
『いいえ。今のところは』
「魔法省時代の同僚からアンブリッジがマグル生まれの魔女、魔法使いを追放する又は最悪投獄するという法律が出来るかもしれないと聞いています」
『っ!』
私はセドリックが以前同じことを言っていたことを思いだした。
マグルを守ろうとする人たちは上からの圧力で意見を潰され、難癖をつけられて法廷に引っ張り出されて罰せられている。アーサーさんは純血一族ウィーズリー家出身ということで無事でいるが、純血だからこそ風当たりも強い。一部の者は“血を裏切る者”とアーサーさんを呼ぶ。
「生徒はユキの優しさを分かっています。安心なさい。そして今まで通り自分の心に従いなさい」
『怖いんです。セブの為なら私はなんだって出来るでしょう』
「人を愛するとはそういう事です」
『ミネルバ、私、大丈夫だろうか……セブを失わないだろうか?セブは大丈夫だと言うけれど、もしそうなら、私は……』
「滅多のことを思ってはいけません」
涙を零しそうになる私の隣に来たミネルバはハンカチを出し目の端を拭ってくれた。
「どうしていつも起こるか分からない未来の心配をするのですか?その癖は良くないと言ったはずですよ」
『でも……』
「でもは無しです。目の前のことに集中なさい。ダンブルドア校長のことも目の前のことが全てとお思いなさい。今はリリーの面倒を看て―――」
『実はニンファドーラ・トンクス、いまはルーピンですね。彼女も家に来ました』
「あら!あの家も賑やかになったわね」
『生まれてくる子たちが楽しみです』
「ふふ。そうね、訂正しましょう。楽しみなことについては未来を想像するのもいいでしょう」
『はい』
ふわりと微笑んだミネルバはおかわりのカモミールティーをポットから注いでくれる。
『母がいたらこんな感じだろうと思うのです』
「私もよ。子供がいたらユキのような子だと嬉しい」
カップから立ち上る湯気
夜空に光る星々
星空は場所によって変わるけれど
月だけは何処へ行っても姿を変えない
月を見上げて何を思う――――
――――あぁ美しい
――――なんと、なんと美しい