第7章 果敢な牡鹿と支える牝鹿
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30. 塔への落雷
6月も半ばに入り試験期間がやってきた。忍術学2回目である5年生のO.W.L.試験は今年も無事に終わることが出来てホッと一息。他の学年もみんな日頃の頑張りを結果として出してくれた。
試験が終わっても教員たちは休むことが出来ない。採点が待っている。シリウスと分担してやったが終わる頃には9時少し前。
私たちは押し付けられた見回りを散歩がてらに2人で行くことにした。
『忍術学は実技に座学。試験もだけど、普段の授業も危険なことをしている。シリウスが助教授になってくれて嬉しいわ。私1人ではとてもこなせなかった』
「俺も授業を通して忍術を学んでいる。良い仕事だ」
『そう言えば、ダンブルドアから他の魔術学校に派遣されるかもしれない話は聞いた?』
「あぁ。忍術学初のN.E.W.T.が無事に終わったら派遣されるかもと言われた」
『そんなに直ぐ!?そんな……シリウスがいなくなるなんて……』
「落ち込むほど名残惜しいと思ってもらえるのは嬉しいものだ」
『かなりあなたを頼っているのよ』
「そうか?」
『忍術の腕は言わずもがな。それに生徒の気持ちを汲む能力は私の何十倍もいいでしょう?数年後には助手を取ることになる。その指導も不安だわ』
「まあ……助手がユキの厳しさに逃げ出さないかは心配ではある」
『ドラコが助手にならないかしら。あの子なら実力と私への耐性がある』
「助手というなら栞が立候補しているのを忘れるなよ」
『正直なところ、栞ちゃんは教師に向いているかしら?私が言うのもなんだけど……私から見ると少しそそっかしいように見えるわ』
「確かにそそっかしくて感情に任せて動くところがある。否定しない。だが、才能はあると思う。実技も座学も申し分ないのは知っているだろう?」
『そうね』
「正義感が強く、公平であろうとする。友人思いだ。教師に向いていると俺は思う」
『海外に行くなら栞ちゃんを見習いにして連れて行ったらどう?私はドラコをホグワーツで育てる』
「おいおい。マルフォイの将来を勝手に決めてやるな」
『ドラコは今、忍術学以外の授業に全くやる気を見せていない。今回の試験はどれも良くないでしょう。弟子の将来を心配しているのよ』
「マルフォイ家のことだ。コネでどこにでも就職できるさ」
8階の廊下を歩いていると、ちょうど廊下の角を曲がって行ったハリーの姿が目に入る。
「ハリー」
シリウスの声にビクッと体を跳ねさせたハリーは声をかけてきたのが私たちだと確認して安堵した表情を見せている。
『もうすぐ夜間外出禁止時間になるわよ』
「ごめんなさい。直ぐに戻ります」
「またマルフォイが使っている必要の部屋を探しているのか?」
「はい、おじさん。マルフォイが新たに企んでいる何かも必要の部屋で行われているような気がするんです」
私達は必要の部屋に向かって歩き出す。
『私たちはドラコが使っている部屋を出現させることが出来ていない。確かに、安全な隠し場所ではあるけれど……』
必要の部屋前に着いた私たちは一斉に壁を見上げた。石の壁には扉が現れた。私達はまだ何も願っていないのに……。
私とシリウスはハリーの前に立ち、ハリーも後ろで警戒して杖を構えている。重そうな扉を開けて出てきた人物を見て私たちは息を吐きだした。
「あら、まあ。ヒック」
部屋から出てきたのはトレローニー教授でシェリー瓶を両手に持って目をトロンとさせている。ピカピカのビーズ飾りが何本か、眼鏡に絡まっている。トレローニー教授は大きくしゃっくりしながら髪を撫でつけ、私たちを見渡した。
「ごきげんよう」
『「「ごきげんよう」」』
「ここで何を?」
『私たちは見回りです』
「ご苦労様。えーっと」
トレローニー教授は扉の前で手を広げたが、こんなに大きな扉を隠せるはずもない。きまり悪そうに肩を竦めて笑った。
「トレローニー教授がこの部屋を知っているとは思いませんでした」
「あたくし―――あたくしも―――生徒が知っているとは存じませんでしたわ―――」
「この部屋で何をされていたのですか?」
少しでもドラコが使っている部屋の手がかりを得たいハリーが素早く聞いた。
「あたくし―――あの」
トレローニー教授は、身を護るかのようにショールを体に巻き付け、拡大された巨大な目でハリーをじっと見下ろした。
「あたくし―――あー……ちょっとした物を―――個人的な物をこの部屋に置いておこうと」
『お酒ですね』
「酷い、ヒック、言いがかりですわ、雪野教授」
私たちはじとっとトレローニー教授が持っているシェリー瓶を見下ろした。
「どうでしょう。この事を秘密にする代わりにトレローニー教授が出現させた部屋を私たちに見せては頂けませんか?」
「ブラック教授……それは……」
『別に先生の秘密の場所を荒そうってわけではありません。ただ、あったりなかったり部屋に興味があるだけです。もし入れて下さるならこの事は秘密にします』
「そうね……それなら。どうぞ。お入りなさいな」
『ちなみに、どうやってこの部屋を出現させたのですか?』
「物を隠せる場所があったらいいのにと思ったらこの部屋に辿り着きましたのよ」
『ありがとうございます。お気をつけてお部屋にお帰り下さい』
「おやすみなさい、皆さん、ヒック」
扉を開け、バタンと閉める。私たちは感嘆の声を出していた。そこは大聖堂ほどもある広い部屋だった。高窓から幾筋もの光が射し込み、高層の建物がある都市のような空間を照らしていた。
ホグワーツの住人が何世代にも渡って隠してきた物が、建物のように積み上げられてできた都市だ。壊れた家具が積まれ、グラグラしながら立っているその山の間が、通路や
『広いわね。幾万の物がある』
「手分けして見て回ろう」
「はい」
ハリーは右へ、シリウスは左へ、私は真ん中の道を歩き出した。
家具類に何万冊という本。明らかな禁書もある。羽ペン、噛みつきフリスビーなどの中にはまだ少し生気が残っている物もあり、山のような禁じられた品々の上を、なんとなくふわふわ漂っている。
帽子、宝石、マントなど。液体の入った瓶に錆びた剣も何振りかと、血染めの斧が1本。
足にコツンと何かが当たって床が擦れて金属音が鳴った。私が蹴ったのは黒ずんでいるものの気品を感じさせるティアラで、それに手を伸ばしかけた時だった。シリウスが私たちの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ハリー、ユキ、聞こえるか?」
『聞こえるわ!』
「聞こえます!」
「誰が1番良いお宝を見つけ出せるか勝負しよう」
『ハハハ。いいわね!』
「もちろん参加します」
私の宝物はこれに決まり。黒ずんでいるけど気品のあるティアラ。早々にお宝を決めてしまった私はふと目線を上げる。
数メートル先にあったのは顔のないマネキンに着せられているウエディングドレスだった。積んである家具の上にある。
真っ白な長袖のウエディングドレスはやや黄ばんでいたが、総レースが大変美しく、ベールは地面を数メートル引き擦っている。私は足元のティアラを見た。気品のあるドレスには気品のあるティアラが良く似合う。いや、このティアラとウエディングドレスはセットのように感じた。
杖を使って浮かせベールの上にティアラを着地させる。
「もういいか?」
「はい!」
『あ!うん。いいわ!』
私は適当にそのへんの本をひっつかんでシリウスとハリーに合流した。
楽しそうな2人は後ろ手に何かを持っている。
「ユキは随分地味なものを選んだな」
「知は宝よ」
今思いついたことを言った。
『2人が選んだものも見せて』
「良し。では俺からだ」
シリウスが出したのは豪華に装飾のされた卵だった。
『卵の小物入れ?』
「インペリアル・イースター・エッグの1つでラスプーチンの呪いがかけられたものだろう。ここに印がある」
『ラスプーチン?』
「ロシアの魔法使いで強力な魔力を持ち、伝説的な魔法具も作り上げた。噂ではラスプーチンが作った魔宮殿があるそうだ」
「その卵持っていて大丈夫なんですか?おかしな呪いがかかってそうだ」
「いいや。杖を向けたが温かい感情を感じた。だが、部屋に戻って慎重に見て見ることにしよう」
『部屋に戻って?』
「こんなにあるんだ。ちょっと失敬してもいいだろう?」
『んー……そうしましょう!』
「先生たち、悪いお手本ですね」
「ハリーも悪い大人になるといい。その方が魅力的だぞ」
『ほどほどにね』
「さて、ハリーが見つけたものを見せてくれ」
「僕はこれです」
ハリーが出したのはピンク色のドレスを着たウサギのぬいぐるみだった。
『可愛いわね』
「弟か妹に渡そうと思って」
「すっかりお兄さんだな」
『それにも魔法がかけられているの?』
「歩いていたらダンスをしながらついてきたんです。良い遊び相手になると思います」
「最後はユキだ」
『本当はティアラを持っていたのだけど、ウエディングドレスを着たマネキンの上に置いてきたの。とっても素敵なティアラだったのよ』
「この近くか?」
「見たいです」
私たちはウエディングドレスを着たマネキンまで移動した。頭には黒ずんだティアラ。
「良い品だな」
シリウスは低く呟いた。家具の山の間にあるマネキンに手は届かない。でも、遠目から見ただけで良いものだと分かったらしい。流石は貴族出身、物の価値が分かる男だ。
『ティアラは床に落ちていたの。でも、何となくだけど、このティアラとウエディングドレスはセットのような気がするわ』
美しいウエディングドレスの持ち主はきっと素敵な結婚生活を送っただろう。そう願いたい。
「そろそろ本題に移ろう。アクシオ、ドラコ・マルフォイが隠している物」
しかし、耳を澄ましても深閑としていた。何度か言い方を変えてそれぞれでアクシオしている時だった。ビューンと風を切る音がして私たちは顔を引き攣らせる。
飛んできたのは姿くらましキャビネット。大きなキャビネットはドシンと私たちの前に着地した。扉を開けて見ればそこにあったのは死んだ青い小鳥。
ボージン・アンド・バークスにあったものと対なのは間違いないだろう。
今、ドラコは何を企んでいるのだろうか?全く手がかりが掴めないことに焦っている。
マダム・ロスメルタには今のところ接触はない。不死鳥の騎士団にも伝えてあるし、授業以外は私の影分身がドラコを見張っている。下手な動きは出来ないはず。
私たちは必要の部屋を出た。ハリーを送った後、私はセブの部屋へと行くことにした。
『おやすみ、シリウス』
「おやすみ。また明日な」
セブも今頃は試験の採点で忙しくしているはずだ。何か手伝うことが出来たら嬉しい。
研究室の戸を叩けばセブの屋敷しもべ妖精であるトリッキーが顔を出した。
「いらっしゃいまし!ご主人様はお仕事をなさっております」
『プレゼントを持ってきたの』
何の本かは分からないけど。
部屋に入るとセブは羊皮紙の山に埋もれていた。
「ユキか」
『手伝いがいる?』
「いや。先に私室に行って休んでいてくれ。あと1時間ほどで終わるであろう。トリッキー、ユキを案内しろ」
トリッキーに私室に入れてもらった私はじゃあ遠慮なくとシャワーを浴びることにした。
セブの部屋に置いてある寝巻は彼の趣味で白いフリルのついたネグリジェ。肌が透けるか透けないかの薄さだから着るのが少し恥ずかしい。
ベッドに寝転がって必要の部屋から持ってきた本に杖を振る。何の魔法もかけられていないことを確認してページをめくると外国語が書いてあった。アルファベットを鏡に映したような文字はどこの国で使われているものだろう?
挿絵はおどろおどろしくて闇の魔術の本だと思われる。
誰かさんが好みそうだと思いながら眺めているとセブがベッドルームにやってきた。
『お疲れ様』
「それは?」
『セブにプレゼントよ』
「何の本だ?」
『さあ』
「どうやら想いのこもったプレゼントではなさそうだ」
『必要の部屋からとってきたの』
セブに本を渡す。初めは興味なさそうにペラペラとページをめくっていたセブだが、急に目を大きく見開いて固まった。そして、表紙を見、裏表紙を見、杖に本を振った。グニャグニャと文字が変わっていき外国の文字は英語に変わる。私もそうすれば良かった。
ベッドに寝転びながらセブが立って持っている表紙の題名を読めば、“新たな呪文 その法則”と書かれている。
『興味のあることが書いてあった?』
「……」
『セブー』
どっぷりと本の世界に入っているセブの腰を両足でバシッと挟むと、不機嫌そうな顔を向けられる。
「何か言ったか?」
『その本気に入った?』
「あぁ」
セブは本に視線を戻した。
『立っていないで座ったら?着替えてゆっくり読めばいいじゃない』
本を取り上げると恨めしそうにされたが、セブはサッサと着替えて布団に潜り込んできて私の手から本を取った。
『知っている本?』
「ラスプーチンの本だ」
『ラスプーチン!今日宝石で飾られた卵を見たわ』
「っどこにある!」
『シリウスの部屋』
「くっ。あいつが持っているのか」
セブは非常に口惜しそうな顔をした。
『ラスプーチンてそんなに凄いの?』
「歴史に名を残すような魔法使いだ。特に呪いに長けており、この本は呪文の作り方について記している。我輩は学生の頃にこの本の存在を知ったのだが、貴重な本でイギリスにはなかった。こうして手に出来るとは……感慨深い」
『恋人に感謝のチューは?』
セブは私の後頭部を鷲掴んで自分に引き寄せ、おでこに乱暴に口付けて本を読む作業に移った。
没頭して本を読んでいる様子は学生の頃も今も変わらない。
私は小さく欠伸して、先に寝させてもらうことにしたのだった。
***
――――我輩にはどうしてもあなたを殺すことが必要であるとは思えません
ダンブルドアはセブルスに己を殺して欲しいと再度頼んでいた
――――いいや。必要なことじゃ
1つ、ニワトコの杖を最強の杖ではなく、ただの杖にするため。死喰い人の前でダンブルドアがセブルスに負けるところを見せたい。
2つ、ダンブルドアが死ぬことで闇の陣営の油断を招くことが出来るだろう。魔法界はもはや、ダンブルドアの手に負えない状態になっている。近いうちに乗っ取られるであろうホグワーツ。その時、自分は生徒を置いて逃げるなど出来ない。死が決まっているならば適当なタイミングでこの世から去りたい。
3つ、運命で決まっているからだ。
――――何なりと。セブルス、君はそう言ってくれた
――――死を偽装すれば良いのではないですか?
――――下手な小細工で全てを台無しにしたくはないのじゃ
こんな任務などやりたくない。セブルスは1人解決の道を考えていた。
だが、道はなく。ダンブルドアの意志も揺るぎない。
何なりと
何度この言葉を恨んだことか。
***
黄昏の薄明りの中、私は正門でハリーとダンブーを見送っていた。これから2人はジェームズと合流して金色のロケットがあった洞窟に行く。ハリーにヴォルデモートのやり方を見せ、立ち向かう敵について知ってもらうためだとダンブーは言う。ジェームズは保護者としてついて行く。
『気を付けて』
「儂の留守は誰も知らぬ。じゃが、何かあったら城を頼む」
『分かりました』
バシンッと2人の姿は消え、私は私室に向けて歩いて行った。
「ヒック」
音が聞こえて目を向けた私は呆れてしまう。トレローニー教授が玄関ロビーに大の字になって寝転がっていた。その手にはシェリー瓶があり、中身は既に空っぽだ。トレローニー教授は占い学のもう1人の先生であるフィレンツェと合わなくてヤケ酒で紛らわしている。
『もうっ。そんなに飲んだら体に悪いですよ。それに―――っ』
カッと目を見開いたトレローニー教授が私の腕を掴む。白目を剥き、女性とは思えないような低い声で話し出す。
「―――稲妻に撃たれた塔。災難―――大惨事、刻々と近づいてくる―――すべきことをせよ。運命に身を任せよ―――」
ガクリと落ちた腕。
占いはあまり信じないが、それでもトランス状態の占い師に言われると少なからず動揺する。
『……大惨事が近づいている、のだろうか?警戒を強めるべきね』
流石に毎日のように影分身を最大限出して見張りをさせるのは体力的に無理がある。私は5体の影分身を出して見回りに行かせた。
『リナベイト』
失神回復の呪文を唱えて杖を振ると、目を開いたトレローニー教授はパチパチと瞬きをして周りを見渡した。酒のせいだかトランス状態に入ったせいだかは分からないが、自分が何故玄関ロビーにいるのか分からないらしい。
「あら。あたくし、どうしてここに?」
『私が来た時には倒れておられました。さあ、手を貸します。立ち上がって下さい』
「ダンブルドア校長先生はどこかしら?あたくし、やはりもう1度行ってあの馬教師について申し上げたいわ。先ほど話しきれないことがありましたの。あたくしの話を聞けば―――」
『ダンブルドア校長は今魔法省からの来客対応中です。ですから、今日会うのは無理でしょう』
トレローニー教授はイライラした顔でシェリー瓶を口に運んだが空だったので悪態をついた。
『部屋まで送りましょうか?』
「いいえ。大丈夫よ」
『あの』
「何かしら?ヒック」
『トレローニー教授は今さっきトランス状態になった時のことを覚えていらっしゃいますか?』
「あたくしがトランス状態になった?」
『はい』
私の言葉にパアアとトレローニー教授は顔を明るくし、誇らしげな顔になった。
「やはりあたくしは心眼を持っているのよ。あの駄馬さんにはない未来を見通す力があたくしにはあるのです」
『そう思います。それで……覚えていらっしゃいます?稲妻に撃たれた塔、大惨事が近づいていると仰っていたんです。具体的に何が起こるか見えていらっしゃいますか?』
「稲妻に撃たれた塔!崩壊よ。おおおお恐ろしい。幾人もの人間が死ぬでしょう」
『それはホグワーツで起こることですか?』
そう言うとトレローニー教授は思ってもみなかったことを言われたようで眼鏡で拡大された目を大きく見開いてケタケタと笑った。
「古の守りのあるホグワーツでそんなことは起こりませんわ」
『そうだといいのですが……』
「ヒック。なんだか寒くなってきたわ。部屋に帰って飲み直すことに致しましょう。おやすみなさい、ユキ先生」
『おやすみなさい』
誰もいない部屋。
今日は早めに寝ようかと寛いでいた私の頭に入って来た記憶。
開け放たれた門
下品な笑い声
なだれ込んでくる死喰い人
私は息を飲みこみながら忍装束に着替えて吹きさらしの廊下へ飛び出した。首に杖を当ててソノーラスを唱える。
<敵襲!!死喰い人がホグワーツに入りました。各寮監は生徒の安全を確保!敵は正門より侵入!!これは訓練ではありません!!>
シンとした廊下。しかし、数十秒後には10メートル先の部屋からシリウスが飛び出してきた。
「ユキ!」
『かなりの数の死喰い人がホグワーツに侵入してしまっている』
忍の地図を見ると大量の死喰い人が正門から敷地内になだれ込んでいるらしく、正門辺りが人の名前の文字で黒く塗りつぶされたようになっている。
『私は門を閉めに行くわ』
「俺も行こう。1人では危険だ。影分身、玄関ホールにいろ。正面玄関からなだれ込まれたら大変だ。生徒たちを頼むぞ。それから、口寄せの術」
ポンと軽快な音がして白い煙と共にシリウスの口寄せ動物が現れた。幼さを残す獅子はシリウスにじゃれつくように飛びつく。
〈シリウス!〉
「レオンティウス、すまないが遊んでいられないんだ。俺の影分身と共に玄関ホールへ行ってくれ」
〈分かった!〉
元気よく獅子は駆けて行く。
私は影分身を最大に出して半分をシリウスの影分身と一緒に、残りは私たちと一緒に行動させた。
隣でシリウスが両面鏡を使ってトンクスに連絡を取っている。
花の香りを含んだ穏やかな風は心地よいのにどこか不気味だった。
教員以外門を開けられないはずなのにどうして門が開いてしまったのか。
兎に角、門を閉めて侵入者が入り込むのを止めなければならない。
『散れ!』
なだらかな芝生の丘を駆け上っている私の耳に聞こえたのはどこからか聞こえてくる高笑い。それは城と繋がっている橋の方から聞こえてきていた。死喰い人たちは既に方々へ散らばって侵入しているのだ。
だんだんと見えてきたのは飛び交う光線だった。
暗くて戦っているのが誰かは分からないが、不死鳥の騎士団側の人間と死喰い人たちが戦っている様子。
私とシリウスはこちらへ走ってくる死喰い人に向けて忍術を放った。雷が飛んでいき死喰い人10人が一気に地面に倒れた。私の火遁は炎の壁を作って侵入者の侵攻を阻む。私の影分身たちは城へと向かおうとする死喰い人を倒していっていた。
「数が多い!」
『ホグワーツ城の中に相当数入ってしまっているかもしれない。シリウス、援護するから前へ進んで。門を閉めてちょうだい。不死鳥の騎士団員では門を施錠出来ない」
私が道を作り、シリウスが前へ前へと進む。
今は死喰い人を倒すことよりも、ぞくぞくと入ってくる侵入者をどうにかしなければならない。
狐火の術を門の方に放り投げて一帯を明るくすれば、そこにいたのはリーマス、トンクスの姿だった。2人は死喰い人が入ってこないように門の前に立って懸命に杖を振っている。だが、多勢に無勢過ぎていつ倒されてもおかしくないような状況。
『シリウス!一気に行こうッ』
「分かった!」
私たちは助走をつけて飛び、死喰い人の頭を踏み台にして飛び上がり、同時に忍術を放った。耳を劈く様な雷の音に地が震える。一瞬その場にいた全員の動きが止まった。私はその隙をついてリーマスたちの前に躍り出て、印を組む。
『火遁:大煉獄』
死喰い人たちの頭上と足元に現れた多数の魔法陣は赤く光り、火柱となった。叫び声とともに焼き殺されていく死喰い人たち。灰になった仲間を見て周りにいた者たちは動揺してたじろいだ。後ろに飛び、門の中へ。
ガシャン
扉は閉じられ、シリウスが施錠する。
我に返った門外の死喰い人がこちらに呪文を放ってきたが、門の中には届かなかった。やはり古からの呪文は効いているし、扉を開けようとしている死喰い人もいるが門に絡みついた鎖はピクリとも動かない。
後ろを振り向けばリーマス、トンクスは死喰い人たちと交戦していた。
シリウスと私も加わる。
1撃で相手を倒せるような強力な呪文が飛び交う私たちは気が付いた。死喰い人たちは城へと逃げて行っている。足止めを喰らわせられている場合ではない。
皆で魔法と忍術を使いながら逃げて行く死喰い人たちを追っていくと、やがて中庭へとやってきた。本棟と東棟のあるここは私とシリウスの私室がある場所に近い。
『幸運薬は飲んだ?』
全員が頷くのを見ながら私も幸運薬を取り出して飲み干した。
「何よりも生徒だ。各寮へ行くには玄関ホールが分かれ道になっている。だから―――」
リーマスが話している途中に突然、上空に緑色の光が上っていった。それは蛇の舌を出した緑色の髑髏、闇の印でギラギラと輝いている。死喰い人が侵入した時に残す……誰かを殺した時に残す印……。闇の印は城で1番高い天文台の塔の真上で光っていた。
「玄関ホールへ急ごう」
トンクスの声で私達は走り出した。
あちらこちらで絶叫が聞こえてきていた。私の影分身が死喰い人を倒しているようだが、数が多く手が回り切っていない。何体かは負けて消えてしまった影分身もあった。新たに出して、送り出す。
そうしているうちに玄関ホールへと私たちは雪崩れ込んだ。
目の前では戦いが繰り広げられていた。何故か生徒が多くいて、杖を振り、殴り、飛び蹴りしている。
階段の3階付近の踊り場にはフリットウィック教授がいてビュンビュンと杖を振って死喰い人をノックダウンさせていた。束になってかかってもあらゆる決闘トーナメントで優勝を勝ち取ってきた彼の敵ではない。
我がスリザリン寮へと続く階段は戦闘の中静けさを保っている様子だった。地下へと続く階段はぽっかりと開いた洞窟のようで、そこからは少しの音も聞こえてきていない。まるでその先は別の世界に繋がっているようであった。
ハッフルパフ寮へと下りる階段の入り口は二度見した。人を喰らう植物がうねうねと踊っており、近づけば餌食になるだろう。
「生徒は寮に戻りなさい!」
スプラウト教授の聞いたことのないような怒鳴り声。
グリフィンドールの寮監であるミネルバの姿はない。大丈夫だろうか?
「これでもか!」
ミネルバの声が開け放たれた玄関扉の向こうから聞こえてきた。ミネルバは玄関から城の中へ敵を入れまいと頑張っているらしかった。
「どうすれば勝てるの!?」
あたりは死喰い人だらけで排除するのは絶望的だと言うようにトンクスが叫んだ。
「奴らの目的はホグワーツなのだろうか?セブルスはどこだ!?話を聞かなければ」
『リーマス、私がセブのところへ行く。分かったら影分身を送るわ』
「ユキ、頼む」
「お気を付けて」
リーマスとトンクスは1人でレイブンクロー寮とグリフィンドール寮の入り口を守っているフリットウィック教授を援護しようと階段を駆け上って行った。
「俺はマクゴナガルの援護に向かう」
シリウスは外へ。
私は階段の下に隠れて忍の地図を開いたのだが、学内にある文字が多すぎて見つけるのが煩わしく、ポケットから両面鏡を出して杖で叩いた。
『トリッキー、聞こえる?』
数秒して鏡の中にはセブの屋敷しもべ妖精であるトリッキーの姿が現れた。まん丸い目をギョロギョロと動かしている。
『セブの居場所は?傍にいる?』
「ご、ご主人様はいらっしゃらないのでございます。どこにもいらっしゃらないのでございます」
『部屋を出て行ったのね。伝言はなかった?』
「ご主人様はトリッキーめに仰いました。ユキ様に“信じてくれ”と伝えるように言われましたです」
『いったい何が起ころうとしているの?トリッキー、他には?何も言ってなかったの??』
「何も仰っておりません。トリッキーはもう何もお話されることはありませんっ」
『あっ、ちょっと!』
鏡は普通の鏡に戻ってしまい、眉間に皺を寄せた私の顔が映し出される。
『セブがどこにいるか分からない……いったいどこ?』
忍の地図から名前を見つけ出そうとしていた私はここでハッとした。これが妲己に見せられたホグワーツの戦いだろうか?大勢の犠牲者を出した戦いは急にやってきた。
―――ダンブルドアが危ない―――そんな気がする―――
『勘はそう言っているけれど、ダンブルドアとハリー、ジェームズは城の外にいるはず……くそっ。考えていても仕方ない。兎に角、上へ』
死喰い人の印が上がった天文台へ行こう。
階段の下から出た私は階段を駆け上って行った。フリットウィック教授の横を通り過ぎ、リーマスが倒した死喰い人が動く階段から落ちるのを横目で見ながらトンクスが2人相手に決闘している死喰い人の1人に呪文をおみまいしておいた。
『ジェームズ!』
廊下で戦っているジェームズ。彼がここにいるということはダンブルドアとハリーが戻って来ているということ。彼らはどこに?
『ダンブルドアとハリーは??』
「帰ってきた時は一緒だったが戦闘が始まっていて、見失ったんだっ」
『これは例の戦いかもしれない。次がダンブルドアなら城の上にいるはずよ!一緒に天文台へ行きましょう』
バーーン
「ジェームズ・ポッター!見つけたぞ!」
鼻息荒い3人の死喰い人たちが目を爛爛と輝かせながらやってきて杖を振り、辺りが眩しくなった。
『ジェームズ!』
ジェームズの体から人型の護符が飛び出して半透明の水色の膜の中に呪文を吸い込んだ。
「ふう。危なかった。だけど、ちょっと油断しただけさ。君たち相手に負ける僕じゃない」
『加勢する』
「いや、ユキは先に行ってくれ。2人を頼む」
『っ―――うん。負けないでよ』
バーン
バーーーン
激しい戦闘の音を聞きながら廊下を走り、螺旋階段を駆け上って行くと途中でハリーに会えた。
私を見たハリーは真っ赤な顔をして何か伝えたそうに目を上に向けた。何だろうか?頭上からは緊迫した言い合いが聞こえている。
「この坊主にはやれそうにない―――」
ハリーにフィニート・インカンターテムをかけながら天文台に飛び出した私の目に映ったのはグレイバック、似た顔の男女が2人、金髪の野蛮な顔の男、ベラトリックス・レストレンジ。それにセブと真っ青な顔をしたドラコだった。
「セブルスっ……頼む!」
ダンブーが懇願する声が天文台に響き、声は暗い夜空へと吸い込まれて消えていく。頭上にあるのは闇の印。
セブが杖を振り上げる
私は走った
「アバダ ケダブラ」
『呪術―――ッ分解!』
ダンブーの前に出ようとした丁度その時、金髪の醜い顔の男が私に向かって緑色の閃光を放ってきたので私は対応せざるを得なかった。
『ダンブルドアアアアア!!』
セブの杖先から
届かない。
この距離では炎帝を出して追いかけてもダンブーには届かない。
……そもそも、ダンブーはセブに殺されているのよ?追いついたところで何も出来やしないのだ。
やる事をやらなければ。ハリーが心配だ。頭を切り替えなさい!
『口寄せの術。炎帝、来い』
<ケケケケケ賑やかだねぇ!!>
空に浮かんだ不気味な印を見て興奮した怪鳥が雷鳴のような鳴き声を大空に響かせた。
『上昇!』
私を背に受け止めた炎帝は上昇して天文台へと私を連れて行く。
戻ってきた時には残忍な顔の金髪の死喰い人が、最後に塔の屋上から扉の向こうに消えようとしている瞬間だった。
「テトリフィカス トタルス!石になれ!」
「アバダ―――」
ハリーの光線を避けた金髪の死喰い人の呪文は最後まで唱えられなかった。深々と喉元に苦無を突き刺した男は目を見開いて自分の喉元を見、血を吐き出しながら前向きに倒れていく。
『ハリー!無事ね?炎帝に乗って下へ―――ハリー!』
ハリーは私の声が聞こえていないようだった。怒りの形相で螺旋階段を段飛ばしで下りて行ってしまう。
セブたちが向かうのは正門だろう。炎帝に乗って先回りしたい。
だが迷ったが、セブたちを追うよりもハリーについていくことにした。下では激しい戦闘が行われている。逃げる者を追うよりも、ハリーを守る方がいいだろう。
階段を下りると、薄暗い廊下はもうもうと埃が立っていた。
天井の半分は落ち、戦いが繰り広げられている。
「終わった。行くぞ!」
セブの姿は廊下の向こう端から、角を曲がって消えようとしていた。セブとドラコは、無傷のままで戦いからの活路を見出したらしい。その後を追おうとするハリーに襲い掛かるのはグレイバック。
バーン
大きな音と共に黄色い閃光が向かって来、グレイバックは狼のように身を翻してそれを避けた。
『マッド‐アイ!』
「何を追っているか分からんが進め!」
「ユキ、ハリーを頼むぞ」
『分かりました。進むわよ、ハリー』
私たちは2つの死体が血の海の中に倒れているのを飛び越して廊下を走って行った。セブが曲がった角で立ち止まると、右手廊下で白髪が舞っているのが見えた。あっと思う間もなく蓮ちゃんの体に吸い込まれていった緑色の閃光は大きな半透明の人型に吸い込まれていった。
『集中しなさいッ』
死ぬかもしれなかった衝撃に立ちすくむ蓮ちゃんたちレイブンクローの仲良し3人組は廊下の向こうからやってくる死喰い人との交戦を再開させた。
私とハリーは左の廊下へ。
「いつまでも踊っていられないよ、お嬢ちゃん。クルーシオ 苦しめ!」
「火遁・火炎砲!」
「インペディメンタ!妨害せよ」
ラベンダー・ブラウンの後ろから呪いを放とうとしていた死喰い人にハリーが呪文を打つ。
ラベンダーの火炎砲は先ほど天文台にいた同じ顔の兄妹の男の方へと吸い込まれていく。キーっと豚のような悲鳴を上げた塔にいたその男はロンとミネルバの背後に逃げて行く。
ミネルバがここにいるということは、正面玄関が閉まって死喰い人の流入が止まったということだろう。2人はそれぞれ死喰い人と一騎打ちの最中だ。
「ネビル、気をしっかり持つのよ」
私の声に横を見れば私の影分身がネビルを担いで廊下の窓から消えていく。
「ユキ先生!スネイプ教授とマルフォイが向こうへ走って行きました」
『ジニー、ありがとう。行くわよ、ハリー』
「はい!っ!?」
ハリーが息を飲んだ音とキュッという音。
私の手の中の苦無は投げられずに済んだ。ハリーを狙っていた杖先は振られぬままで、杖の主は栞ちゃんによって蹴り飛ばされる。
「ありがとう!栞!」
「マルフォイを捕まえて!」
「必ず。栞、気を付けて!」
「あなたもね、ハリーっ」
ハンナ・アボットと戦っている死喰い人に苦無を投げて殺すと、ハンナとチョウの周りにいた死喰い人はビクッとした顔をし、そして横からやってきたシリウスの雷に飲み込まれ、苦悶の声を上げながらバタバタと逃げ出していく。栞ちゃんは新たな敵と対峙している。
曲がり角にあった血だまりでスニーカーを横滑りさせたハリーを引っ張りながら廊下を疾走していく。
『こっちよ!』
血染めの足跡を見つけた。
<急いで!ルーナ・ラブグッドが4階の廊下で倒れている>
<誰か中庭に!中庭に応援に行ってくれ!>
老婆の魔女が慌ただしく絵画の中を走って行き、ほとんど首無しニックが廊下の壁から飛び出した。屋敷しもべ妖精がバシンッという音と共に怪我人を担いで消える。
私とハリーは暗い校庭に出た。5つの影が芝生を横切って校門に向かっていくのを闇の中から見分けることが出来た。校門から出れば姿くらまし出来る。
冷たい夜気が肺の中に入ってくる。
セブたちを追いかけているものの、ダンブルドア殺害を責める為に追いかけているのではなかった。ドラコを保護したいがためだ。セブには事情があるだろうが、死喰い人の本拠地に行かなければならないし、彼には任務がある。捕縛も出来ない。
『ステューピファイ』
「ステューピファイ」
私たちが後ろから呪文を放っていることで、前を歩く5人は歩みを遅くせざるをえなくなり、誰が前を走っているか分かって来た。セブとドラコの他に塔にいた双子の兄妹であろう2人とベラトリックスだ。
バーン
遠くに見えるハグリッドの小屋が爆発し、あたり一面にオレンジ色の光が踊った。
「ファングが小屋の中にいるんだぞッ。この悪党め!」
ハグリッドは城から逃げてくる死喰い人への対応を止めようとしたが、私とハリーの存在を見て、背後からの敵を引き受けてくれた。
私とハリーは5人と向き合う。
「先に逃げろ」
セブが杖を出して振った。セブの目の前にいくつもの魔法陣が現れた。
「逃げろだって?カッコつけてんじゃないよ。こっちは5人、あっちはたった2人。しかも1人は小僧っ子じゃないか」
馬鹿にしたような口調で言うベラトリックスはニヤニヤ笑いでこちらへ来ようとしたが、セブが制止する。
「死にたくないなら我輩の言う通りにしたまえ。少なくとも、我輩は殺されない」
その時、背後が騒がしくなった。振り返らなかったが、声の様子では、私たちの味方が逃げる死喰い人に追い付いてきた様子だった。
『ハリー、前後左右に気を付けるのよ』
「はい、ユキ先生」
「ベラトリックス、行け」
「チッ。ドラコ、行くよ」
セブを残して去って行く背中。ベラトリックスを含むあの死喰い人3人は殺っておきたい。印を組もうと両手を合わせるが、目の前が光り、私はハリーの体を持ち抱えるようにして飛んだ。
焦げ臭いにおいが鼻をつく。私がいたところにもハリーがいたところにも狙いは外れているが、セブの魔法陣から出た熱線は地面を焦がした。当たれば重傷を負ったであろう。
『もう演技は結構よ。ここには私たち3人しかいない』
「現実が見えていないのかね?」
「ユキ先生、こいつはダンブルドアを殺したんですよ!」
ハリーが叫んだ。
『いいえ。そんなはずはない。もし、そうだったとしても、何か理由があるはず。そうでしょう?それとも、ごめんなさい―――ここでは言えないのね』
「一緒に来るかね?」
『え?』
柔らかい声にトクリと心臓が跳ねる。
「我が君のもとへ共に行こう。闇の帝王は君を歓迎してくれるだろう」
『全て演技だって知っている』
私は杖を出して振った。杖ではセブに勝てないことを知っているのに、本気で攻撃するつもりはなくて、でも、もの凄く私は悲しかった。
『何故今回の事を何も話してくれなかったの?ダンブルドアを殺すのは計画だったのよね?そうよね?ダンブルドアがあなたに頼んだのでは?』
バーン
バーーン
「君は変わった。哀れだ、雪野。ここに来たばかりの君は物事を冷静に見ることが出来た」
『どうして悩みを私に打ち明けてくれなかったの?』
バンッ
セブが私の呪文を弾き、こちらに呪文を打ってきて、それを首を横に倒して避ける。
『誓ったじゃない!喜びの時も、悲しみの時もと。なのに――――』
ドッカーンと背後で派手な爆発が起こった。それと同時にセブが作っていた魔法陣から熱線が飛んでくる。視界が真っ白になりながら私はどうにか影分身を出すことに成功し、影分身はハリーを引っ張って行った。
『ハリーを安全なところに』
「ユキ先生!」
『死喰い人が校門に向かって走ってくる。ここら一帯は戦場になるわ。気を引き締めて戦いなさい』
走って行くセブの背中を追いかける。
『火遁・大煉獄』
背中の後ろからやってくる死喰い人を焼き殺しながら全力で門へと向かうセブを追いかけていく。私の脚は早い。どうにか正門を出てすぐ、セブが姿くらましする前に掴まえることが出来た。
『セブ、待って』
「離せ」
大きく腕を振り払われて私はよろけた。
チラっと横目で皆が戦っている様子を確認したセブは私に眼差しを移す。
「我輩がダンブルドアを殺した」
『信じてる』
「ユキ……」
『さっきは余計なことをしたわね。ごめん』
私たちは杖を向け合って形だけの決闘を始めた。
「ホグワーツに戻って来られるかわからん」
『お願いだから慎重にね』
「我輩が人質に取られたとしても、闇の帝王のもとへ行ってはならんぞ」
『愛しているの』
「ユキ、頼む。約束してくれ」
『もう行って。死喰い人が追い付いてきた』
セブは横目で死喰い人が校門から今にも出てこようとするのを確認し、私に杖を振った。バーンという音と共に体に衝撃が来る。
姿くらましで消えていくセブ
私は浮遊感を感じながら瞳を閉じた
第7章 果敢な牡鹿と支える牝鹿 《おしまい》