第1章番外編
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薬学教授と忍術学教授 part.1
突然ホグワーツに現れた全身黒ずくめの女、ユキ・雪野。
忍者だという杖を使わずに魔法を使うその女はホグワーツの教授になった。
ハリー・ポッターが入学してくるこの微妙な時期に身元の知れぬ人間をホグワーツの教師にするなどダンブルドアの正気を疑う。
しかも校長は我輩に雪野の世話を押し付けた。
魔法界の案内、新生活の準備、おまけに教師が魔法を使えないのは困るからとホグワーツで学ぶ七年分の授業内容を雪野に教え込まなければならない。
不気味なほどに飲み込みの良い女だから教える苦労は大したことはないのだが……
穴があいているような漆黒の瞳
いつ見ても寸分変わらぬ微笑みが張り付いた顔
美しいが彼女は魂のない人形と同じ
正直、雪野と一緒にいると息が詰まりどっと疲れるのだ。
グラウンドへと向かいながら重い息を吐く。
今から彼女に教えるのは箒での飛行方法。グラウンドに着くと既に雪野が初めて会った時と同じ、全身真っ黒な服に身を包んで待っていた。
『こんにちは。スネイプ教授』
「箒の乗り方は渡した本で読んできたか?」
彼女の挨拶を無視して問うといつもの笑顔で『はい』と頷いた。
読んだのなら説明する必要はない。箒を渡し地面に置かせる。
「まずは箒に手をかざし、上がれ、と言う」
『上がれ』
雪野が言ったと同時に箒は宙に浮き、彼女の手の中におさまった。
「次は箒に跨り柄を両手で掴め」
嫌味なくらい簡単に箒を手にした雪野を内心苦々しく思いながら言い、我輩も自分の箒に跨る。
「地面を蹴れば箒は宙に浮く」
トンと地面を蹴ると『すごい』と感心したような雪野の声が下から聞こえてきた。しかし顔を見れば先ほどと全く同じ顔。
言葉と噛み合わない表情に自然と眉が寄る。
「では、やってみたまえ」
表情から感情が読み取れない。
何を考えているか分からないこの女を注意深く監視しなければならない。と考えていたとき、体がグラリと揺れた。
「っ!?」
ザンッと風を切る音
下から吹いてくる突風が我輩のマントを翻す。
風で揺れる箒の上でバランスをとり上を見上げた我輩は目を点にした。
遥か上空に雪野の姿が黒い点になって見えたからだ。
「よくもひと蹴りであんな高さまで……」
人間離れした脚力に呆れながら上昇していった我輩の顔が次第に引きつっていく。
見えてきたのは右手に羽ペンを持ち、左手にメモ帳を持つ雪野の姿。
強い風が吹いて箒から落ちれば即死だ。
あの女は一体何を考えているんだ?初めて箒を手にするホグワーツ一年生でも分かるような危険な行為。
『あぁ、スネイプ教授。箒というのは力加減が難しいですね』
突然声をかけて驚かせないように気をつけながら上昇していくとこちらの気など露ほども知らず雪野がメモ帳から目を上げて言った。
「雪野、今すぐ両手を―――」
『あ』
言いかけていた言葉を飲み込む。
横から吹き付けてきた突風で雪野の体がグラリと揺れたからだ。
手を伸ばしながら箒を前に進める。
「っ雪野!!」
伸ばした手が雪野の服に触れたが空を切った。
全身から血の気が引いていく。
しかし、乗り手を失った箒は落下してはいかなかった。
『驚きました』
「……」
目の前には箒の柄に足を絡ませて宙吊りになっている雪野の姿。
「両手を離すな馬鹿者がッ」
無事だった安堵から強く怒鳴りつけると雪野は慌てた動作で箒の柄を両手でギュッと握り締め、小さな声で謝った。
『あのー申し訳ないのですが体勢直すの手伝って頂けません?』
迷惑な上にめんどくさい女だ!
驚かされてイライラしながら雪野の腕を掴んで引っ張ってやる。
『っどわ!?』
彼女の体は思っていたよりも軽く雪野を力強く引っ張りすぎてしまった。
グンと我輩に引き寄せられた体が宙に浮く。
「掴まれ!!」
我輩に手を伸ばす雪野を引き寄せると胸の中におさまった。
安堵の息を吐いていると箒がグラリ。
『箒が』
「動くなっ。いいから体勢を立て直せ」
雪野の箒が落下していく。
落下していく箒に手を伸ばす雪野を叱りつけながらグラグラと揺れる箒のバランスを立て直す。
ようやく安定した体勢になった我輩の肩が小さく跳ねる。
「どうしてこうなった……?」
『さあ。私に言われましても』
小さな眉間に皺を寄せる雪野。
なぜか我々は箒の上に向き合って乗っている。
傍から見たらさぞや間抜けな状態だろう。
ハアァと本日何度目かのため息を吐いているとクスクスと小さな笑い声。
驚いて視線を下げると花が咲いたような笑顔があった。
『あぁ可笑しい。誰かがこの状態を見ていたら何だと思うでしょうかね?』
普段光のない瞳が悪戯っぽく輝く。
こんな表情もできるのか。
そう考えていると雪野は気まずそうにフッと我輩から目を逸らした。
『そんなに見ないでください』
小さな声で言って俯き頬を赤く染める雪野。
彼女は人形ではなかった。
何を当たり前のことを……そう思うのに我輩は表情が緩んでいくのを止められない。
顔を見られないように腕を雪野の背中に回し、自分のもとへ引き寄せる。
『ス、スネイプ教授!?』
「落下防止だ。大人しくしていたまえ」
動揺した声を出す雪野を胸に抱きながら我輩は地上へと降りていった。