第2章番外編
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忍にご注意を part.1
クリスマスが近づいてきて、私は皆に贈るクリスマスプレゼントを選んでいた。
『スネイプ教授にはローブ、生徒たちには煙玉で……』
クリスマスプレゼントを贈るリストを見ながら夕食
『こんばんは。ロン、少し聞きたいことがあるの。モリーさんのクリスマスプレゼントに何を贈るか迷っていて……モリーさんが好きなものを教えてくれる?』
「実は今その話をしていたところなんですよ」
「ロンのお母さんもハーマイオニーもロックハートにお熱なんだ」
「ハリーったらやめて」
パッと顔を赤くするハーマイオニーの膝にはロックハートの自伝が乗っていて、本の表紙のロックハートはキラキラのスマイルでハーマイオニーにウインクしていた。
『モリーさんもロックハートが好きなのね』
「あいつが出す本もグッズもぜーんぶ持っているよ」
『うーん。ロックハートに関するものだと持っているものと被っちゃうかしら……』
「構わないと思います。だって僕のママ、同じグッズを何個も持っているんだ。使う用と保存用ってね」
私はひな壇にある職員テーブルで仏頂面のスネイプ教授に構わずマシンガントークしているロックハートを見た。
「はぁ、ロックハート教授!食事している姿も素敵!」
「ロックハート教授の日常生活が見られるなんてホグワーツ生で良かったわ!」
後ろのハッフルパフのテーブルから女子生徒たちの声が聞こえてくる。なるほど。
『モリーさんへのプレゼントが決まったわ。ロン、相談に乗ってくれてありがとう』
はてなマークを浮かべるロンに手を振って私は夕食を取るために職員テーブルへと向かった。
パシャ
パシャ
うん。いい写真撮れていると思う!
私はロックハートの私室に侵入して写真を撮っていた。
元々は礼儀正しく撮影許可を得て写真を撮っていたのだが、カメラを向けると完璧なスマイルとポーズをとってくれるので写真はどれも似たようなものばかり。面白みに欠ける。
家族に渡すのと同じ手編みの毛糸のセーターを去年のクリスマスに贈ってくれたモリーさん。私はそれがとても嬉しかった。
だから私の贈るプレゼントで喜んでもらいたい思いがある。よって、ロックハートには申し訳ないが私は彼を盗撮することに。
普段散々迷惑を掛けられているのだから少しくらいプライベートを切り取らせてもらってもいいだろう。
そういうわけで私はロックハートの私室の天井にぶら下がっている。
鏡の前で自分のカッコいいポーズを探している写真、歯磨きしている写真、シャワー中の写真、ソファーでうたた寝している写真。これだけ撮れば十分だろう。私は満足しながらそっとロックハートの私室から出たのだが……
『げっ』
ロックハートの私室から出たところで廊下の角をスネイプ教授が曲がってきた。彼の視線の先は私が手に持っているカメラ。小さく口角を上げるスネイプ教授は楽しそうに目を細めている。
『お疲れ様です。さようならー』
ガシッ
通り過ぎざまに二の腕を掴まれて止められる。くぅ、見ないフリはしてくれなかったか。
「カメラを持ってコソコソとロックハートの私室から出てきたな。秘密の取材は上手くいったかね」
『ちゃんと許可は……得ています』
「ほう。ではロックハート教授にお聞きしてみよう」
『待って!』
「不都合が?」
『見逃して下さい』
「懺悔するなら聞いてやろう」
『懺悔だなんて大袈裟な。ちょっとした盗撮ですよ』
「悪びれもなく言うことかね?」
スネイプ教授が呆れた顔をした。
「何故そのようなことをしている」
『モリーさんへのクリスマスプレゼントです。ロックハートのファンだそうで』
「ロックハートの奴なら頼めば喜んで写真を撮ることを許可すると思うが?」
『つまらない写真しか撮れなかったんですよ。でも、私室に侵入したおかげで沢山の面白い写真が撮れました』
ホクホクとしながら『では』と帰ろうとしたが帯の後ろをぐっと掴まれてしまう。
『懺悔したんですからもういいでしょう?』
「見逃すとは言っていない。それに懺悔の意味をご存じですかな?辞書には罪を告白して悔い改めることとある」
『全く悔い改める気はないです』
「我輩も見逃すつもりはない」
『……分かりました。取引しましょう。今日撮った写真、スネイプ教授にも何枚かお渡ししますって何故頬を引っ張るんですか〜!!』
「我輩はあいつの信奉者などではないっ。気持ちの悪いことを言うな」
『売るという手もあります。高値がつくそうですよ?』
「呆れてものも言えんな」
『困ったなぁ。それじゃあ口封じするしかない』
「恐ろしい女だ」
杖フォルダーから杖を抜く。
『オブリビ「させるかッ」
バッシーンと杖腕を叩かれたので私の杖は床に転がった。
『魔法使いなんですから杖で対応すべきでは!?』
「そうさせて頂こう。杖を拾え。決闘だ」
『決闘クラブの時のように負けませんよ!』
スネイプ教授は杖を抜き、私は床の杖を拾って構えた。今度こそ膝を床についてもらいますよ、スネイプ教授!
決闘クラブの時のように呪文に制限はない。力負けしない為にもある程度強力な呪文を打とうと考えていると扉が開いて寝間着姿のロックハートが顔を出した。
「おやおやおや」
キラキラスマイルでロックハートがやってくる。
「夜の廊下で決闘ですか?スミレちゃん、理由は分かりませんが決闘クラブの時のようにスネイプ教授に無残にやられてしまったら大変ですよ。この暗い廊下……私が来て助かりましたね!」
私を無理矢理押し倒したお前の言う台詞ではない。
半眼になっているとロックハートの視線は私の持っているカメラを捉え、ニッコリした。
「もしや撮影の続きかな?あぁ、ユキ、ユキ、夜の私の姿も撮りたいだなんて悪い子ちゃんだ」
『えっと、これは、その』
まずいわ。このままロックハートの部屋に入ることになったら面倒くさいことになる。1度入るとこの部屋はロックハートの英雄譚が始まって数時間出ることが出来なくなってしまう。私はコミュニケーション能力が低くて帰るタイミングをいつも見失うのだ。
『あのー、私は……ええと』
「寝物語にヴァンパイアと戦った話をお聞かせしますよ」
「雪野教授はこれから我輩の部屋で罰則だ」
『え?』
「忘れたとは言わせぬが?」
頭の中で天秤にかける。ロックハートの英雄譚朝までコース又はスネイプ教授の助手をして朝まで実験コース。もちろん選ぶのはスネイプ教授だ。
『忘れておりませんっ』
フッと笑ったスネイプ教授はロックハートに目を向ける。
「これはマクゴナガル教授から渡すように言われた見回りのシフト表だ。では、失礼する」
「ちょっとお待ち頂きたい。ユキ、何に怖れているか分かっていますよ。でも、私がここにいるのですから正直に話すといい。カメラを持って、わけもなく、この廊下にいたなんてありえない。私に用があったのでしょう?」
「チッ。気づいたか」
小さく舌打ちしたスネイプ教授はロックハートの前に私を押し出した。振り向くと、スネイプ教授の目の中に売られた子牛のような悲しそうな顔をしている私の顔が映った。
一瞬、スネイプ教授は驚いた表情になったが、直ぐに不機嫌そうな顔に変わる。
「寝間着姿の写真を撮りたかったのだろう。さっさと撮れ」
『あ、はい!』
スネイプ教授の意図に気が付き顔を輝かせる。
『ロックハート教授、いきまーす』
パシャッ
準備も何も出来ていなかったがシャッターを押した。瞬間、私はスネイプ教授に手を引っ張られて廊下を歩き始めていた。
「スミレちゃん!ユキ!」
『おやすみなさい、ロックハート教授!』
私は難を逃れてロックハートの部屋から離れることが出来たのだった。
連れてこられたのは研究室。
大鍋からはゆらゆらと湯気が立ちのぼり、ガラス瓶の中ではホルマリン漬けの目玉がプカプカと浮いている。
『この部屋の方がロックハートのキラキラピカピカの私室より断然落ち着くわ』
「ナメクジや蜘蛛、気味の悪いものがこの部屋には溢れていると思うが?」
『毒にも薬にもなってくれる彼らが愛おしいですよ』
「おかしなやつだ。来たまえ、これを任せたい」
スネイプ教授の横に並ぶ。そこには箱いっぱいにトリカブトが入っていた。
「扱い方は言わずとも分かるな。完全に乾燥されているか確認してから粉末にしてくれ」
ふと隣に立つスネイプ教授を見て目を瞬く。前にも思ったことがあるが―――
「なにか質問が?」
『意外と整った顔していますよね』
「っ!」
『まつ毛が長くて男らしい鼻と知性的な唇。何より雰囲気が色っぽ痛い痛い痛い』
私は今、顔を鷲掴みにされて握りつぶされている。顔が壊れる。
「トリカブトを飲み込まぬように下らんことを喋る口を閉じておくことだ」
『はい、そうじばず』
褒めたのに何故不機嫌になるのだと不思議に思いながらテーブルにカメラを置く。
「……魔法界の写真に写ったことはあるかね?」
口を閉じろと言ったばかりなのに質問してくるとは不思議な人だと思いながら口を開く。
『はい。生徒たちと撮りました。動く写真って面白いですよね』
「君は写真の中でも煩そうだな」
『あら。ロックハートからは慎ましやかと評されていますよ』
「あいつの目は節穴だ。大食い、行儀が悪い、馬鹿力、生徒よりも罰則を受けた回数が」
『もうもう、その辺りで十分ですよっ。スネイプ教授は意地悪だ』
ぶーっと膨れてしまう。
「その変な顔を写真に収めてやろう。何かしらのコンテストで受賞できそうだ」
『意地悪コンテストがあったらスネイプ教授が優勝ですよ。こうしてやるっ。隙あり!』
テーブルの上からカメラを取り、パシャッとシャッターを切る。スネイプ教授が凶悪そうな顔をしているが私はご満悦だ。
『お宝写真になりそうです』
「そのカメラを寄こせ。コンフリンゴしてやる」
『爆破呪文!?ネガフィルムだけじゃなくてカメラごと爆破する気ですか!?』
「カメラが無くなれば悪さも出来んだろう」
『私しか見ませんから』
「コンフリ」
『あーー!ちょっと待って!この中にはロックハートの写真も入っているんですよ。止めて下さいっ』
「自分の愚かな行いを呪うのですな」
スネイプ教授の杖腕を掴み、馬鹿力で上に上げさせる。
「痛いぞ馬鹿雪野!」
『わ、分かりました。そしたら現像された写真が届いたら一緒に開封しましょう。スネイプ教授の写真は持って帰って頂いていいので……』
「……いい加減手を放したまえ」
『すみません』
痛かったらしく右手首を摩っているスネイプ教授を前に反省していると諦めたような息が吐き出された。
「……譲歩してやる」
『いいんですか?』
「届いた写真は1番に我輩に見せるように」
『はいっ。良かったー』
「ただし」
嫌な予感。
「人に迷惑をかけたのだ。今夜はたっぷりとお付き合い頂こう」
今夜は寝られない。
だが、そんな夜も楽しいのだとユキは思っていた。