第4章番外編
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息抜き vol.1
「ああああああクソッ」
「五月蝿いです!」
水曜日の午後、授業のない時間を部屋でまったりと過ごしているとシリウスが大きな声を出しながら頭をぐしゃぐしゃにした。
本を読んでいたクィリナスは突然の大声に吃驚した顔をした後、思い切りシリウスを睨みつけている。
私も吃驚しながらシリウスを見る。
『どうしたっていうの?』
「どうしたもこうしたも、俺はいつまで部屋に缶詰になってなきゃならねぇんだ」
苛立たし気に言い、シリウスが床を蹴るようにして立ち上がる。
「ペティグリューを探しにいけない。手の届くところにいるのに。それに……ああ!もう!この閉じ込められた状況に限界が来たんだッ」
眉間に深い皺を浮かべ、顔を歪ませるシリウスをクィリナスが鼻で笑う。
「それなら早く変化の術を完璧に使いこなせるようになることですね」
とクィリナスは言い放つ。
ぐっと声を詰まらせるシリウス。
「……くそっ」
小さな声でシリウスは呟き、ソファーにどかりと座った。
『魔法使いに杖なしの術は難しいわ。そう簡単にはいかないわよ。でも、シリウス頑張っているじゃない。もう少しで出来るようになるわ』
言葉を選びながら慰める。
シリウスのストレスは今限界にまで達してしまっているのだろう。だからああして叫んでしまったのだ。
校内に憎きペティグリューがいるのに動けないもどかしさ。行動したいのに行動できないのは辛いものだ。
それに、ここに来てからずっと部屋から出ないでいたものね。何か息抜きが必要なのかもしれない。私はううんと考える。
「ユキ?」
シリウスと同じように眉間に皺を浮かべる私の顔をクィイナスが覗き込む。
クィリナス……クィリナスといえば……
あ!良いこと思いついた。
私が思い出したのは、昨年度私の影分身たちが石化され、私の体力魔力が少なくなってしまった時のこと。それでも授業に出たいと言う私をクィリナスは猫の姿に変身させ、授業に連れて行ってくれたのだった。
猫の姿で単独行動をするのは万が一を考えて危険なので出来ない。だが、短い時間だし、授業に参加するくらいなら良いだろう。シリウスの気晴らしになるかもしれない。
『ねえ、シリウス』
私は考えついた事をシリウスに提案してみる。
途端に輝き出すシリウスの目。
「ありがたい!」
『じゃあ、次の授業一緒に行こう。折しもハリーたちのクラスだしね』
「そりゃあいい。ハリーに会えるのか!」
ワクワクした様子に私は頬を緩める。しかし、その瞬間クィリナスが杖を抜いた。
「ダメです。ペトリフィカス・トタルス!」
「プロテゴッ!あ、あぶねー。何すんだよッ」
寸でのところでシリウスが私が渡していた私の杖でクィリナスの呪文を弾き飛ばす。
「ユキの腕の中に抱かれるのは私だけの特権です」
「この変態がッ」
ギロリとシリウスがクィリナスを睨みつける。
負けじとシリウスを睨み返すクィリナス。
そんな2人を前に私は溜息をつく他ない。
『もう。クィリナスったらいいじゃない。シリウスには息抜きが必要なの。このままでは精神的に良くないわ。お願いだから理解して』
不満げなクィリナスは
「では、腕に抱かれるのではなく、ユキの後をついていきなさい」
と言う。
「お前が指図する事じゃねぇだろ」
「指図する立場です。ユキを守るのは私の役目。ユキの胸にお前の体を摺り寄せるなど……学生時代に女の尻を追いかけていたお前が抱かれれば、ユキの胸の感触に発情するに決まっています」
言い切るクィリナスの後ろでピクリと口の端を痙攣させる私。
『へぇ胸の感触、発情、ね。クィリナスは猫になって私に抱かれていた時、そんな事を考えていたんだ』
ギギギと私の方を振り返るクィリナス。
私はクィリナスとの間合いを一気に詰め、膝十字固めをクィリナスにお見舞いしてやったのだった。
『では行ってきます』
「行ってらっしゃい……」
プロレス技を連続でかけられたクィリナスはボロボロになりながら私たちを送り出す。
私は杖を振ってシリウスをアビシニアンの姿に変えた。
『ついてきて、シリウス』
私とシリウスは部屋を出て吹きさらしの階段を下りていく。
中に入ると生徒たちの半分が既に教室に集まってきていた。
「ユキ先生、こんにちは」
シリウスの緑色の瞳がキラキラと輝く。ハリーが教室へ入ってきたからだ。
「わあ、今日はユキ先生の猫が一緒なんですね」
ハーマイオニーが猫シリウスの背中を撫でる。
『そうなの。寂しがっちゃって、連れてきちゃった』
「確か名前はタンポポでしたよね」
『そうよ、ロン』
「僕も触っていいですか?」
ハリーが尋ねる。
『もちろん』
ハリーが撫でると猫シリウスは機嫌良さそうに喉を鳴らした。
その間に残りの生徒も教室へと入ってくる。
「あ、猫だ!」
扉の方へ顔を向けるとドラコを先頭としたスリザリン生たちが教室へと入ってきた。
「どけ。グリフィンドール」
「きゃー可愛い猫」
ドラコがハリーたちを押しのけ、パンジーが歓声をあげる。
しかし、可愛い、と言われてもシリウスは仏頂面になった。更には口角を上げて歯を剥き出し、唸り声を上げている。
『引っ掻いたらダメよ。そんな事をしたら後でお仕置きですからね?』
「みゃ、みゃお……」
シリウスがドキッとした顔をしながら顔だけ振り返る。先ほどのクィリナスの事でも思い出しているのだろう。
『次はスリザリンの子達に撫でさせてあげてね』
押しのけられて不満そうな顔のハリーたちに言う。
「ユキ先生がそう言うなら。でも、また授業が終わったら撫でさせてね」
そう言ってハリーたちは席へと行き、シリウスは嫌そうな顔をしながらも大人しくスリザリン生に可愛がられたのだった。
授業が終わり、昼休みに入った。
私はシリウスを連れていつも鍛錬している丘の方へと歩いていく。
今日は晴天だ。かといって暑くもなく、吹いてくる風が気持ちいい。
『影分身の術』
私は影分身を出して昼食をもらってくるように命令する。
私が草で覆われた地面に座ると、シリウス猫は私の膝の上にピョンと飛び乗り丸くなった。
私はシリウス猫の背中を優しく撫でる。
『少しは息抜きになったかな?』
「みゃお」
そう鳴いてシリウスはゴロンと私の膝の上で回転し、お腹を見せた。
甘えた仕草が可愛くて、私はシリウスである事の忘れてシリウス猫のお腹を撫でる。気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてくる。
「お待たせ」
バスケットにお昼ご飯を詰め込んだ影分身が帰って来た。
私はバスケットを受け取り、影分身を消し、ナフキンを地面の上に広げる。
『さあ、食べましょう』
パストラミビーフ入りのサンドウィッチをナフキンの上に乗せると、シリウスは私の膝から下りて、サンドウィッチにかぶりつく。
青い空
白い雲
穏やかな時間
『近いうちに、今度はあなた本来の姿で、こうしてのんびりとピクニックがしたいわ』
微笑みかけると同意するように「みゃー」と鳴く。
私はサンドウィッチに視線を落とした。
『……あいつをアズカバンにぶち込めば、あなたが受けた苦しみも少しは薄れるでしょうに』
シリウスはなんと長い月日牢獄に入れられていたことか。忍耐強さに頭が下がる。
奪われた月日は戻らない――――
考えていると、シリウス猫は食べるのを止めてテコテコやって来て、私に体を摩りつける。まるで私を慰めているかのよう。
あなたの息抜きのつもりなのに気を使わせちゃったわね。
『シリウス……』
美しい緑色の瞳で私を見上げるシリウスに手を伸ばそうとした時、猫は遠くへと吹っ飛んでいった。
体が柔軟な猫だから上手く地面に着地できものの……
『動物虐待反対!』
私は丘を上ってくる鬼のような形相の自分の姿に叫ぶ。
「ちょっと油断をすればユキにセクハラまがいの行為を!許せません。駄犬のくせに!」
「みゃあご!!」
「うわっ」
タタタッと走って行って飛び上がり、クィリナスの体をよじ登り、彼の顔に猫パンチをお見舞いするシリウス猫。
「この馬鹿犬!どうしてくれようっ!」
「みぎゃーーー!」
始まってしまった喧嘩。
『はあぁ。やっぱり犬と猫は仲が悪いのね』
私は溜息を吐いてサンドウィッチにかぶりついたのだった。