第7章 果敢な牡鹿と支える牝鹿
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18.サバイバルレース
リリーの妊娠が分かった次の日、朝食に向かう途中、隣を歩くシリウスはルンルンだ。その手には手紙があって、きっとジェームズとリリーがハリーに宛てて書いたものだと思われる。
大広間に入ってシリウスはハリーのところへ。私は職員テーブルの自分の席に着く。既にセブは来ていて食事を取っていた。
『見て。シリウスがハリーにお兄さんになったよっていうリリーたちからの手紙を渡すわ』
「何が楽しいのか理解出来ん」
ワクワクした気持ちでハリーを見つめる私にセブが言う。
『人が幸せを感じる瞬間を見るってこちらまで幸せになるでしょ?』
「相手による」
そんな会話をしているとシリウスやいつもの3人に囲まれながらハリーが手紙を開く。大きく顎を落とす様子はジェームズがリリーの妊娠を知った時と同じで思わず笑ってしまう。
喜び溢れる様子で栞ちゃん、ロン、ハーマイオニーに報告して、興奮している姿に他人事なのに胸が熱くなった。
『リリー……絶対に守るわ』
「問題は馬鹿な夫だな。自惚れ屋のポッターは自分を無敵と信じて外をほっつき歩く」
『家族4人で幸せに暮らして欲しいの』
ポッター家の幸せを私は願った。
***
クリスマス休暇ももう目の前の12月のある日。幸い雪が止んでいる中、私とセブは森の方向へと歩いて行っていた。
禁じられた森ではなく、生徒が普通に立ち入りできる湖沿いの森。その入り口には白いテントが3張張ってあり、私たちはNO.2のテントの中に入る。
中に入ると温かい空気に満ちていた。救護用に張ったテントの中は広く、ベッドが10床並べてあり、奥にある薬棚は医務室にある薬棚と同じくらい豊富な種類の魔法薬で満たされている。
『では、スネイプ教授。よろしくお願い致します』
「雪野教授、お伺いしていなかったがこれに関して謝礼はあるのかね?」
『そうですね……時間外労働をお願いしているわけですから個人的にお礼をさせて頂きたいと思います。授業のお手伝いを致しましょう』
「手伝いは必要ない。別なものを所望する」
セブはチラとテントの入り口を確認してから口の端を上げて私の腰に手を回した。
『いけない先生ね』
「して、謝礼は?」
『寒い中引っ張り出してこき使おうとしているんですもの。それ相応のお礼をするわ』
「何でもいいということか?」
『そう言われると怖いわね』
私の耳に口を寄せたセブは「君の全てが知りたい」と不思議なことを言った。
『体のことで言ったら……あなたは私の全てを知っているわ。過去の話だったらお断りよ』
「過去のことをこの様に聞き出しはしない。体の方だ」
『私の全て?だから知らないところなんてないでしょうに……』
むしろ私より私の体を知っているように思う。
首を傾げていると腰に回されていた手がスルスルと下に下がってお尻に到達し、薄っぺらいお尻のほっぺを揉んだ。クスクス笑っている私の息が止まる。急にお尻の割れ目に入れられた手は無防備な部分を押した。
「ここはまだ知らない」
『ざ、雑誌にお尻はアブノーマル・プレイだって書いてあった!』
「だから何だ?」
『その様子だとご経験ありなようね。いいわ。私がセブに挿れてあげる。ひっ』
ぐりりと強くお尻の穴を押されてセブの胸にしがみつく。
真っ赤になっている私への刺激は続いていて、私はハアハア言いながらセブの胸元の服を握って体を捩っていた。
「逃げればいいものをお嫌いではないようだ」
『っ!』
セブの言う通りだ。腕から逃れるのは簡単だった。それなのにされるがままになって、まるで望んでいるような自分の態度に恥ずかしくなり、私は慌ててセブから距離を取る。
「準備の仕方が分からないようなら言いたまえ。教えてやる」
『っまだやるとは言っていないわ!』
カッと赤くなって言うとセブは楽し気に目を細めた。
「ほう。その様子だと準備の仕方が分かっているようだな。流石は勉強家の雪野教授だ」
『最っ低!絶対にしないんだから!』
私はクルリとセブに背を向けて、足音をドシドシ鳴らしテントから出て行った。
『セブがやったことないプレイってないんじゃないかしら……あ!赤ちゃんプレイがいいわ!今度セブに提案してみましょう』
これならセブもやったことないだろう。勿論、やる時はセブが赤ちゃんだ。
ニヤニヤしながらNO.1と書かれたテントに行くと気味悪そうにこちらを見る私の影分身と目が合った。
「その顔で生徒の前に立たないように。あと、着替えなさい」
影分身に言われて顔を引き締め、宙で1回転して黒いタートルネックと黒いズボンに着替える。黒のウエストポーチに入っているのは武器ではなく魔法薬や治療に使う道具。
人の気配にタタッと走ってテントの入り口の布を上げて出迎えればマダム・ポンフリーが入ってきた。
「テントの中は暖かいわ」
『お手伝いに来て下さりありがとうございます』
マダム・ポンフリーに頭を下げてNO.3のテントへ行けば私の影分身が準備を整えていた。これで救護所の方は準備オーケー。テントから出て森の入り口に行くと、城の方からシリウスを先頭に生徒たちが歩いてくるところ。
生徒たちは寒そうに体を摩っているけれど、直ぐに寒さなど感じなくなるでしょう。
「ユキ先生」
『お久しぶり!セドリック』
ハンサムなホグワーツ卒業生の元ハッフルパフ生、セドリック・ディゴリーが生徒たちに紛れてやってくる。彼にはいつも魔法省の情報を提供してもらっている。彼は今、魔法省の魔法ゲーム・スポーツ部で働いている。
今回セドリックがやってきたのは魔法ゲーム・スポーツ部の新しい企画の為。大きなハプニングがあったが、三大魔法学校対抗試合の最終課題、迷路に数々の罠を仕掛けるという課題はとても面白い課題であり、観客に見せられる形に変えて何かイベントが出来ないかと案が出ているらしい。
この不穏な時代だからこそ、夜明けを目指して頑張りたい。とセドリックは熱意を見せている。今回、忍術学で第3の課題と似たようなことをするので見学に来てはどうかと誘った次第だ。
私とシリウスは前へ。マダム・ポンフリーとセブも私たちの横に並び、私とシリウスは6、7年生の生徒たちにニッコリとした笑みを向けた。
『楽しいクリスマス休暇の前にひと汗かいてもらおうと思います!題して、忍術学・ドキドキサバイバルレース!拍手!』
イエエイ!と手を叩くとパラパラとした拍手が生徒から起こり、シリウスが指笛を吹き、セブとマダム・ポンフリーが忍術学教師2人のテンションにしらっとした顔をした。めげずに話を続ける。
『怪我をしたら、ジャジャーン!マダム・ポンフリーとスネイプ教授が救護所で皆さんを待っていてくれます。お世話になりますの意味を込めて拍手!』
怪我する前提で話をする私にどよどよ話しながら生徒たちは再び拍手をした。
『内容は授業で説明した通り。3人、もしくは2人でチームを組み、森を走り抜けてもらう。罠に嵌って身動きが取れなくなったり、誰か1人脱落したらチーム全員を失格とする。みんな杖は持っていないわね?折れたら困るから置いていって下さい』
「各所に雪野教授と俺の影分身がいる。緊急の時は花火弾を発射するように。失格者は湖沿いを歩いて帰ってくること。そこに担架も用意してある」
『私たちの想定ではゴールに辿り着けるのは3割と見込んでいる。さあ、みんな位置について』
3割の言葉に顔を引き攣らせながら運動着姿の生徒たちが2人、3人の塊になってスタート位置に向かっていく。何人かは杖を持っていたようで急いで私に預けに来た。
ドラコは今回はデリラとパンジーと組むようで、気軽な様子で生徒たちの1番後ろに立った。
ハリーと栞ちゃんはリラックスムード。クィリナスの弟子である蓮ちゃんは女友達2人と緊張した面持ちで足首を解している。
森に仕掛けられた数々の罠を潜り抜けてゴールを目指す。これは私が元いた世界、火の国・木ノ葉隠れの里で行われたある年の中忍試験を真似たもの。実技、知力、判断力、団結力が求められる。
みんな頑張って!
「3―――2―――1―――」
ピーーーー!!
シリウスのカウントに合わせて私が思いっきりホイッスルを吹く。
生徒が一斉に走り出した。そんな中、歩きもしない3人がいる。
「口寄せの術」
ドラコは親指を八重歯で切ってパンッと手を合わせた。ボフンと白い煙とともに現れたのは白い猫。
「スカイ、パンジーとデリラも一緒に乗せてくれ」
<にゃんばるううぅぅ>
シュルリと変身する成猫はマグルの車程の大きさになった。伏せのポーズをしてドラコとパンジー、デリラを背中に乗せる。
「ユキ先生、反則ではありませんよね?」
『勿論』
得意そうに口角を上げたドラコは大猫とともに森へと入って行った。
マダム・ポンフリーとセドリックはNO.1のテントへと入って行く。テント内に置いておいる水晶玉で所々の様子が見られるようになっている。
「俺もそろそろ行く」
『達成感に満ちた顔を見られるのは羨ましいわ』
「誰が1番に戻ってくるか楽しみだな」
『賭けは覚えているわね?』
「負けた方が勝った方に10ガリオン。酒代をありがとな、ユキ」
『いいえ、シリウス。あなたが10ガリオンの用意をしておくのね』
楽しそうなシリウスはゴール地点へと向かって行った。
「賭け事か?」
咎めるような目を作って見せるセブに肩を竦める。
『シリウスはハリーと栞ちゃんが1番に戻ってくると、私はドラコとパンジー、デリラだと予想して賭けたのよ』
「生徒で賭け事とは悪い教師だ」
『愛弟子だもの。依怙贔屓するわ』
私は検知不可能拡大呪文をかけたポシェットから水晶玉を取り出し、杖で叩いた。水晶玉の中で渦巻いていた白い
木の枝や地面には沢山の雪だるまがおり、雪玉をポンポンと生徒に向かって投げていた。但し、雪合戦のような可愛いものではなく、当たれば転倒を免れないような威力。
因みにこの雪だるまはフリットウィック教授作。魔法界1年目の時に遊ばせてもらったものをまた作ってもらった。
罠は雪だるまの他にも―――
「うわあああっ」
水晶玉の向こうで悲鳴が上がった。
レイブンクロー寮の7年生男子生徒が落とし穴に落ちたのだ。深い落とし穴を這いあがるには足に魔力を込めて登ってくる他ない。授業の復習も出来る素晴らしい企画。
穴に落ちた男子生徒と一緒にスリーマンセルを組んでいる生徒2人はやってくる雪だるまへの対応に必死で手助け出来そうににない。
そんな事態が所々で起こっていた。みんな転倒したり、転んだり、飛んでくる雪玉の勢いに負けて地面に伏せて身動きが取れない生徒もいる。
その頭上を悠々と大きな白猫が飛んでいく。涼しそうな顔のドラコとパンジー、デリラは術を飛ばして雪玉を撥ね退けながら雪だるまの罠を通過していった。
「どりゃああ」
「うおらああ」
「おりゃああ」
野太い女の子の声が聞こえてきたと思って水晶玉を覗き込むと蓮ちゃん含むレイブンクロー生3人がそれぞれ雪だるまを破壊しているところだった。
「……」
隣のセブが絶句している。
それはそうだろう。3人共普段はお嬢様の雰囲気が漂う女の子たちだ。
止めとばかりに雪だるまの顔面に拳を入れ、額の汗を手の甲で拭い、顔の泥を親指で拭う姿はワイルドでカッコいい。3人は次へと進んでいく。
『ハリーと栞ちゃんも通過したわ。後ろにロンとハーマイオニーもいる』
どんどんと雪だるまの罠を抜けていく生徒たち。落とし穴に落ちた者たちも、伏せていた者たちもどうにかここは脱落者なしで通過したようだ。
『ふふふ。でも、次は脱落者なしとはいかないでしょう』
「次の罠は?」
水晶玉を突くと景色が切り替わった。いるのは式神。三大魔法学校対抗試合の最終課題で私が仕掛けた罠で、ハリーが通過したもの。
式神たちは火を放ち、水を発し、風を起こし、土を投げ、雷を撃っている。式神程度の術だからまともに当たっても多少……多少怪我する程度だ……多少……。
ブンッ
式神の風に吹き飛ばされた女子生徒が木に激突した。どさりと落ちた彼女は受け身を取ったが足を痛めたらしく立ち上がれない。さっと同じグループの2人が傷ついた彼女を守った。その生徒たちは周りに警戒しながら短く言葉を交わし、決断する。
『棄権の判断をしたみたいね』
生徒たちには事前に地図を渡してある。また、棄権する場合は湖沿いを歩けば安全に帰ることが出来る。そこには担架がいくつも用意してあり、乗れば自動的に救護所となっているテントへ運んでくれるようになっている。
予想通り式神の罠では脱落者、怪我人が出てきた。
「そろそろテントに行く」
『宜しくお願いします』
次々とやってくる担架。
私は各テントに担架を振り分けていく。
「きゃあああ」
「うわっ!!!」
第3の罠……第4の罠……難易度と危険度が上がっていく罠に怪我人の数も増える。
最後の罠は大変だ。雪が足首まで積もっている広場に入った生徒たちは悲鳴を上げていた。そこにはハグリッドから借りた尻尾爆発スクリュートがお出迎え。
何匹もいる尻尾爆発スクリュートは広場を歩き回っていたが、生徒に気づいて一斉に突進していった。
<ドラコまもるううぅぅ>
「パンジーとデリラは守りを頼む」
「ドラコカッコいいいいい!!」
「でもユキ先生の方が数百倍カッコいいわ!」
「デリラったら変なとこで張り合止ってくるの止めてちょうだい」
「2人共来るぞ!」
皮をむいた奇形のロブスターかサソリのような姿をした尻尾爆発スクリュートは尻尾からパンと音を立てて火花を散らす。
他のグループも追いついてきたが、広場に入って二の足を踏んでいる。しかし、ハリーと栞ちゃん、それにハーマイオニーとロンは一緒に広場を進んでくる。彼らは4人で行動することを選んだらしい。まとまりは悪くなるが、戦力が増える賢い判断だと思う。
その後ろから出てきたのは蓮ちゃんたち3人組。
最終課題は1番危険なので私の影分身が5体控えている。
ハラハラしながら見ている私の目に入ってきたのはドラコたち。猫だけにスカイの身のこなしは素早く尻尾爆発スクリュートを上手く巻いている。時折向かってきそうな尻尾爆発スクリュートはドラコの雷遁によって退散させられていた。
「水遁・水流弾」
「火遁・火炎砲」
「うわぁ。ハーマイオニーと栞を見ていると尻尾爆発スクリュートが可哀そうになってくるぜ」
「強い女の子って最高に素敵だよ。いや、これは心から言っているんだけど」
ロンとハリーは尻尾爆発スクリュートを術で吹き飛ばしていくハーマイオニーと栞ちゃんをやや引き攣った顔で見ながらついていく。
そしてこちらは凄かった。
「どりゃああ」
「うおらああ」
「おりゃああ」
蓮ちゃんを含む3人のグループは拳で尻尾爆発スクリュートを倒していっていた。
これには流石の私も驚きだ。
ズンと拳を入れられた尻尾爆発スクリュートは急所を突かれた様子で呻き声を上げながらドタンと横に倒れていく。私の頭にセブが絶句している様子が浮かんだ。
上がる炎に水飛沫
土が飛び散り、雷が走り、風に乗せて体が舞う
悲鳴と救助を求める声
担架に乗せられる人を守りながら安全な場所に急ぐ
攻撃を撥ね返し、前へ、前へ
「おめでとう、1番乗りだ」
ゴール地点で最初にシリウスに迎えられたのは我が愛弟子ドラコとパンジー、デリラ。その少し後にハリーたち4人と蓮ちゃんたちレイブンクロー生3人も到着した。
ドラコたちはほぼ無傷だが、他はどこかしら怪我をしている。ただ、上位3グループの怪我など可愛いモノだろう。
私の影分身は全てゴールの方へと進み、最終課題の尻尾爆発スクリュートに挑む生徒たちを手厚く監視し出した。阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことで、戦わずして棄権を選ぶグループもいる。
本体の私はレース場をシリウスと影分身に任せてテントNO.3に向かう。救護所は忙しくなっていた。
「ユキ先生」
途中で声をかけてきたのは6年生のハッフルパフ生ハンナ・アボット。どうやら脱落して戻ってきた様子だが、目立った怪我はしていない。
「何かお手伝いは出来ませんか?」
『助かるわ、ハンナ。では、マダム・ポンフリーのテントに行って頂戴。あそこが1番忙しいし、勉強になるはずよ』
「はい」
NO.3のテントに入るとベッドは半分埋まっていた。影分身に症状を聞くと全員骨折ということだ。頭を打った者もいないということで今夜をこのテントで過ごすことはないだろう。
「中程度の火傷」
影分身とともにディーンが担架に乗って運ばれてきた。
『了解。引き受けたわ』
今回のレースで1番多い怪我だと予想していた火傷。私は呻くディーンに励ましの声をかけながら治療を始めたのだった。
全てのレースが終わり、無事な生徒と治療を終えた生徒は解散した。
テントの中には泊りで治療しなければならない生徒が寝ている。このレースのために医務室をいっぱいにするわけにはいかないからだ。
勿論、救護テントには私が夜通しいるし、温かく、治療器具も揃っていて医務室となんら変わりない。
私はセドリックと森の端で話していた。
「嫌な動きが魔法省の中でありますよ」
セドリックは辺りを見渡し、声を潜めてドローレス・アンブリッジがマグル出身の魔法使い、魔女を魔法省に登録しようとしていると言った。
『どういうこと?』
「噂で聞くところ、家系図に魔法使いのいない魔法使い、魔女は、本物の魔法使いから魔法を奪ったとして罪に問う、ということらしいです」
『さっぱり意味が分からないわ』
「僕もですよ。でも、近々そういうことが魔法省で行われることになるでしょう」
今すぐにでもハリーに吸魂鬼を差し向けた罪でアンブリッジをアズカバンに収容したいところだが、きっと魔法省にはアンブリッジのような考えの者が沢山いるのだろう。アンブリッジをアズカバンに入れたところでこの状況は変わらずと思った方がいい。
「ユキ先生もお気をつけください。今のうちに逃げ道を考えておかれたほうが宜しいかと思います。周りでは、家系図を無理矢理に編集してマグル生まれの魔法使いの友人を家系図に入れた人もいます」
『マグル出身の生徒が心配だわ。私もホグワーツで働けなくなると大変ね……』
「ユキ先生は今まで魔法省に逆らってきました。真っ先に狙われると思いますから気を付けて下さいね」
『ありがとう、セドリック。自分の事はどうにか出来ると思う』
セドリックは今日のレースがとても参考になったと言って帰って行く。ホグワーツで何かあったら知らせて欲しい、力になりたいとも言ってくれた。
先ほどは忙しそうだったマダム・ポンフリーのいるNO.1のテントにもう1度顔を出すと、生徒は穏やかに寝ており、安心した空気に包まれていた。
『お疲れ様です』
「ハンナ・アボットは本当に良く働いてくれました」
『手伝いをしてくれてありがとう』
「癒者の勉強が出来て良かったです」
引継ぎをし、マダム・ポンフリーとハンナは城へと帰って行った。NO.2のテントも静かで、6床埋まっているベッドでは生徒たちが寝ているか静かに休養を取っている。
『あら?』
セブの横には蓮ちゃんがいて何か話をしていた。私に気づいた2人が同時に振り返った瞬間心臓が跳ねる。髪の色も目の色も違うのに目鼻立ちがそっくりでまるで親子のように見えたからだ。
「ユキ?」
セブに名前を呼ばれて私はハッとして微笑んだ。
『お疲れ様です。様子はどうですか?』
「問題ない」
『何もないようだったら引継ぎをしてセブには帰って頂こうかと』
私の影分身もテントを手伝っていたので引継ぎはマダム・ポンフリーの時のように簡単だ。直ぐに終わったのだが、セブは帰る気配はなく、蓮ちゃんに視線を向けて「来なさい」と言い、薬棚へ歩いて行く。
『?』
後ろから見ていると、セブは魔法薬の使い方について蓮ちゃんに教えている様子だった。
近くのベッドで休んでいる生徒に聞いてみると、蓮ちゃんはゴールして真っ直ぐ救護テントに来て今まで手伝いをしてくれていたということだった。
「彼女はまるで雪の妖精……」
「いや、氷の姫君」
「しかもスタイルが良い」
「「同感」」
並びのベッド3人の男子生徒がうっとりとして呟く。説明の邪魔になったのだろう、振り向いたセブが男子生徒たちをひと睨みした。
NO.3のテントに戻ると賑やかだった。
ディーンの周りでグリフィンドールの男子生徒たちがワイワイとお喋りをしている。1番奥のベッドではベッドに寝ているラベンダーが意味深な眼差しをロンに向けていて、ラベンダーの周りの女子生徒は囁き合ってクスクスと笑い声を上げている。
レイブンクローの7年生は並んだベッドで私に向かってお腹が減ったと訴えてきていて、一番手前のハッフルパフ生はカップルでいちゃついていた。2人共ベッドに上がっているのでもやは男女のどちらが怪我人だか分からない。
何故私のテントだけ無法地帯なんだ!?!?
兎に角、空腹は可哀想だから影分身を出して厨房へ行くように命令しているとセブがテントに入ってきた。
「ここは談話室か遊び場か?」
カップルが絡むのをやめて(怪我人は女子生徒だった。あんなに積極的だったから彼女は退院でいいだろう)、グリフィンドール生はピタッと静かになった。クスクス笑いは止まったが、レイブンクロー生のお腹は静まり返った部屋に響いている。
「きちんと指導しろ」
『すみません……』
「蓮・プリンスが勉強のために夜もここで手伝いたいそうだ。フリットウィック教授にも聞かねばならぬが、君はどう思う?」
『私は歓迎よ』
「それなら我輩からフリットウィック教授に伝えておこう」
『ありがとう、セブ』
「今夜は城へは戻らぬであろう?何か必要なものがあれば持ってくるが」
『影分身もあるから大丈夫』
「そうか」
『今日は本当にありがとう。お疲れ様。ゆっくり休んでね』
「生徒を甘やかさぬよう」
セブは絡んでいたカップルとグリフィンドール生たちをギロリと見てテントから出て行った。
騒いだら減点すると言ってテントから出てスタート地点へ移動すると、シリウス、栞ちゃん、ハーマイオニーの姿があった。栞ちゃんたちはシリウスの手伝いをしてくれているらしい。
『シリウス』
「そっちはどうだ?」
『落ち着いたわ。片づけを任せてしまってごめんなさい』
「ユキの影分身もいたから早かったさ。尻尾爆発スクリュートはハグリッドが無事に引き取ってくれた。その他はこの2人が手伝ってくれたから楽だった」
『ありがとう、ハーマイオニー、栞ちゃん。手伝ってくれたからグリフィンドールに10点ずつあげます』
森は静けさを取り戻し、私とシリウスは今日のレースの出来について話し合った。
生徒たちは頑張っていた。特に見たかったのは傷ついた仲間をどう救助するかということだ。戦いの中、重症の患者を安全な場所まで引っ張って行く―――ホグワーツの戦いに向けて、または闇の陣営に襲われた時の良い訓練になったと思う。
生徒の方も今の時代を感じ取り、杖は使えないが実技の実力を試せるこのレースの重要性を感じ取ってくれているらしかった。
シリウスからはきっちり10ガリオンをもらいニヤニヤしながらNO.1からテントの見回りへ。
シリウスと栞ちゃん、ハーマイオニーはハリーたちがいると知ってNO.3テントへと向かっていった。煩くなる予感しかしない。
夕食をテントの中で食べる入院患者たち。
冬の陽の入りは早く既に外は真っ暗。
どうやらこのレースは生徒たちにとって大変刺激的だったらしく、お見舞いと称してやってくる生徒たちは救護所にお菓子を持ち込んで興奮したお喋りを始め出した。どのテントも騒がしい。
誰か重傷で安静に寝ていなければならない生徒がいればキツく注意するところなのだが、入院患者みんなが皆お喋りを楽しんでいた。
『ほら!もう遅いから入院している者以外帰りなさい!』
元気な生徒たちを追い出して蓮ちゃんに手伝ってもらいながら怪我の状態を診たり、薬の塗り直しを行う。
深夜になり、みんな寝静まった。
私がNO.3のテントで蓮ちゃんと並んで薬棚の前で医術書を読んでいると急にテントの入り口の布が持ち上がって心臓を跳ねさせながら立ち上がる。姿を現したのはセブで私は彼を軽く睨みつけた。
『また足に消音呪文をかけたわね』
「患者を起こさないようにだ」
私は如何にも真っ当な言い分に眉を上げて見せながら、杖を出して空中で円を描いてセブの為に椅子を1つ出し、丸テーブルの前に着地させる。
「夜食を持ってきた」
『あなたって最高に気遣いのできる人だわ。大好き』
「生徒の前だ」
いつもの少し不機嫌そうな地顔を崩さずにセブは杖を振って丸テーブルの上にトルティーヤラップサンドとスープを出した。あぁ、なんて美味しそう。
「あぁ、なんて美味しそう」
隣の蓮ちゃんが私が思っていたそっくりそのままを口にして目をキラキラさせて両手を胸の前で組んでいる。
気がつけば自分の手も胸の前で組まれていたことに気が付いた。
蓮ちゃんも私が自分と同じポーズをしていることに気が付いて、私たちはクスクスと笑ってしまう。
「冷めないうちに食べなさい」
『「いただきます」』
鶏むね肉と野菜たっぷりのラップサンドは夜のお腹に優しい。焦がし玉ねぎの入ったコンソメスープは疲れていた体に染み渡った。
セブが食べないと言ったので遠慮なく2人で等分して完食する。
『美味しかった。ありがとう』
「ありがとうございます、スネイプ教授」
セブはサッと杖を振って机を片付けてくれた。
「やっぱり先生たちお付き合いされているんですよね?」
期待を込めてこちらを見る蓮ちゃんに私はいつもの決まり文句を口にする。
『忍は個人情報を「そうだ」え?』
ブンと声の主を見れば鍼灸術についての本を読んでいる。あら?空耳?
しかし、私以外にも聞こえたらしく蓮ちゃんは座っていた椅子をガタンとセブの方に移動させ、期待に満ちた瞳を向けている。
「やっぱり!仲良しだから絶対そうだと思っていました。いつからですか?」
「癒者の勉強は進んでいるか?」
「はぐらかすんですか?」
「君がしつこいから答えたまでだ。これ以上を話すつもりはない」
「ならば、これ以上の質問もしつこくしていくまでです」
「君は案外、頑固で押しが強いところがある」
セブは本に恐ろしいものが書いてあったらしく眉を顰めた。
「癒者の研修先への希望はあるのか?」
癒者になるには研修癒者として経験を積まなければならない。だいたいは研修している病院に就職することが多い。
「迷っています。スラグホーン教授が声をかけて下さって、良い癒者の知り合いがいるからその人の元で勉強してはどうかと言って下さっているんです」
『それは良かったわね。私もスラグホーン教授のご紹介でヴェロニカ・ハッフルパフ医院長の元で勉強したわ。研修癒者にはならず、手伝いの段階だったけど……』
「ユキ、彼女がハッフルパフ女史の元で勉強するのは難しいか?」
『もうお歳だから見習いは取らないそうよ。でも、ケリドウェン病院の先生なら何科でも紹介してくれるでしょう。蓮ちゃん、どうかしら?あそこなら私の友人もいるわ』
「国外か……まずは言葉の壁ですね」
『習うより慣れよ。意外といける』
「うん……そうですよね。尻込んでいちゃいけない。国外の方があの人と生活しやすいって分かっているんです」
セブの機嫌が途端に悪くなった。
私はこの話題が発展しないように釘をさす。
『誰か起きたら困るわよ。この話は終わり』
「あ、はい。ごめんなさい」
『もう少しお勉強を続けましょう』
シンシンと降る雪は積もっていく
静かなテントを見回り
声をかけて貼り薬を変える
細く華奢な指がページをめくる
節くれだった長くすらりとした指がページをめくる
本を読んでいた私は視線を上げて、同じ姿勢で本を読む2人を見る。猫背で、眉間に小さく皺を寄せている。
『蓮ちゃん』
「はい」
本を集中して読んでいた蓮ちゃんはぼんやりとした視線を私に向けた。
『姿勢を正して、眉間に皺を寄せない。体が曲がるし、皺は刻まれてしまうわよ?』
「うっ。気を付けます」
隣のセブがばれないように姿勢を正したのが面白くて揶揄うように視線を向けると、セブは決まり悪そうにして足を組んだ。
『なんだか私、今とっても心地よいわ』
とてもリラックスして温かな気持ちになっている。
「私もです」
エヘヘと蓮ちゃんは笑い、蕩けるような顔をした。
「ずっとこうしていたい……栞も一緒だったらなおの事いいのに。温かい部屋で先生たちとこうして……なーんて私、変なこと言っていますね……」
喋っているうちに泣きそうになっている蓮ちゃんに目を瞬く。
彼女の家族の事を考えているのだろうか?マホウトコロからの転入生だった蓮ちゃんたち双子は何かわけがあるようで今はミネルバのお世話になっている。
椅子を寄せて蓮ちゃんの背中を撫でるとパッと私に抱きついてきた。小さく震える蓮ちゃんの顔は見えないが、泣いているらしく鼻をすする音が聞こえてくる。
『えっと、えっと、よしよし。気が済むまで泣いてちょうだい』
静かにすすり泣く蓮ちゃんは1度だけ「お母さん」と母親を恋しそうに呼んでいた。
その後、最後の見回りと再度の薬の貼り換えが終わり、蓮ちゃんは空きベッドで仮眠をし、セブは城へと帰って行った。
明け方には全員、骨もくっつき、火傷も治ったので朝食を取りに元気に城へと帰って行った。
『今日の授業では守りの護符を作ります』
ルーナの話から私は守りの護符を生徒たちに作ってもらうことに決めた。
とても高度な術式を書いて、大量の魔力を投入し作られる守りの護符を生徒たちが作れるか不安があるが、私が2枚、3枚と護符をホグワーツ生全員に渡すことは出来ない。
『守りの護符は1人3枚まで持つことが出来ます。私の実験だと、複数護符を持っていた場合、きちんと作動する護符だと、弱い魔法には守る力が弱い護符が、強い魔法には守る力が強い護符が対応すると分かっています』
何度も戦場で助けられた守りの護符。それでも私は何度も命の危機に瀕する怪我を負った。
3枚でも心もとないのが正直なところ。だがこれ以上はどうにもならない。己が強くなるしかない。それにフェリックス・フェリシス改良薬もある。
道具の力と、己の力と、運――――みんながどうか無事でありますように